■特許業界で今のAIができること

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最近、特許業界でAI(人工知能)がよく話題になっています。
先日の特許情報フェアでもAI関連のセミナーやブースがかなり増えていたように思います。
一昨日はこんなニュースも報道されていました。

・「AIで弁理士が失業」に異議 「そんなに単純な仕事じゃない」 日本弁理士会の梶副会長
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171116-00000074-zdn_n-sci

特許業界で「失業」は増えるのでしょうか。
普通に考えるとAIで特許実務が効率化して、1人が裁ける仕事量が増えて、その分人はいらなくなるかと。そうすると程度問題はありますがAIの影響で失業や業界人口減ってことはあり得るんだと思います。
記事中の92.1%っていう数字は何年後の話をしているかによるのかなと思います。

現時点ではAIができることは限られているので、特許調査への利用を足がかりにちょっとずつって感じなんだろうと思います。
AI
を特許調査に利用したシステムとしてはこういうものがあります。


FRONTEOKIBIT Patent Explorer
特許情報フェアのブースでプレゼンを聞きました。
http://www.fronteo.com/corporate/news/uploadfile/docs/20171020.pdf

> KIBIT Patent Explorerは見つけたい文書(発明提案書、無効化したい特許資料等)の内容を“教師データ”として人工知能KIBITに学ばせ、少量の教師データをもとに膨大なデータを解析し、短時間でスコアリング(点数付け)による文書の抽出ができます。

概念検索みたいな感じで、検索式を作らなくてもAIが関連特許をピックアップしてくれて、さらに段落ごとの関連性評価も表示してくれるようです。

検索式を自分で作りなれている人には参考程度の利用に限られるかもしれませんが、そうじゃない人には結構役に立つかもしれません。とはいっても、普通の検索システムに比べて費用がかなり高いのでなかなか導入できるものではないのと、おそらく精度もこれからって感じなんだと思います。

ブースのプレゼンでは、結局のところ、KIBITがした関連性の評価がどの程度の精度なのかがわかりませんでした。
KIBIT
がピックアップした特許文献の中に拒絶理由通知書で引用されなかったが弁理士が引例になってもおかしくないと判断したものが含まれていました、と言っていましたが、そんなことは概念検索でも普通にありえそうなので、なんとも判断できないなと思いました。
拒絶理由通知書の引例よりも強い引例が見つかりましたって言われたら、ぜひ詳細を聞いてみたいと思いますが。
もしくは、調査担当者が検索式を作って調べた結果と、KIBITで一般の人が調べた結果を比べて、同じような結果がでた(検索時間はKIBITの方が短い)、みたいな事例をいくつかだしていくとよいのかもしれません。さらに、AIを使わない概念検索を比較例にしてもいいかもしれません。(そこまでの精度があればですが。)


■アイピーファインのDeskbee
こちらも特許情報フェアでプレゼンを聞きました。

http://www.ipfine.com/deskbee/

こちらは事前に準備した多数の特許文献データをシステムに読ませると、AIが関連性評価をしてくれるというもののようです。
このときに、ユーザーが評価した結果(特許Aは関連、特許Bはノイズみたいな)を教師データとしてAIに学習させることがきるそうです。この点はDeskbeeの強みのようです。KIBITのプレゼンではありませんでした。
Deskbee
は、侵害予防調査でSDIで上がってきた特許を評価するのに使えるそうです。確かに、事前に評価結果を準備することを考えると、この特定用途が向いているように思います。ちなみに、KIBITのプレゼンは先行技術調査・無効資料調査を対象としていました。
人工知能はGoogle社が提供するTensorFlowを使っているとのこと。


AI
調査システムは今導入するにはハードルが高すぎますが、将来、費用が下がって、精度がよいことがわかれば使ってみたいですね。
特許業界でAIができることはもっとあると思いますので、どんどん開発してもらいたいと思います。
失業問題の方はベーシックインカムで。




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■弁理士を主人公とした漫画「閃きの番人」

 
弁理士会のホームページに弁理士を主人公とした漫画「閃きの番人」がアップされていました。
弁理士及び弁理士の業務内容を社会人だけでなく学生も含めて幅広く知ってもらうべく、弁理士を主人公とした漫画「閃きの番人」を弁理士会ホームページ上で公開したそうです。

・閃きの番人
http://www.jpaa.or.jp/comic/
http://www.jpaa.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/10/comic_keeper-of-inspiration_file001.pdf

弁理士業務を漫画にするのってなかなか難しいと思いますが、読みやすくて絵もきれいでクオリティ高いですね。普通にドラマ化とかできそうな(一般の人は新規性・進歩性の概念を理解するのに苦労しそうですが)。
出願・権利化じゃなく、無効審判と侵害訴訟を題材としているのも漫画向きなんだと思います。
1
話が始まったばかりで、続きが楽しみです。

あと、8ページの最後の「そこはちょっと誤解があるんだよなぁ・・・」の後に続くアナザーストーリーを妄想してみました。

ジョージ
 「じつは口頭審理の後に上申書で反論したんだよ 

眞理
 「なぜそんなまわりくどいことをしたんですか (´□`;)

ジョージ
 「口頭審理で反論すると競合他社(傍聴人)に筒抜けだろ。上申書にすれば他社が気づくのに時間がかかるのだ 

眞理
 「え!そんな手があるんですか!?

ジョージ
 「いやいや、冗談。リスク高いでしょ。じつはアメリカの特許権者から口頭審理までに指示が来なくてね。自信ありげに振る舞うので精一杯だったよ 


■侵害訴訟で合剤特許の進歩性が否定された事例(マキサカルシトール+ベタメタゾン軟膏)


<判決紹介>
・平成28()14131 特許権侵害行為差止請求事件
・平成29928日判決言渡
・東京地方裁判所民事第47 沖中康人 矢口俊哉 島田美喜子
・原告:レオ ファーマ アクティーゼルスカブ
・被告:中外製薬株式会社、マルホ株式会社
・特許5886999
・発明の名称:医薬組成物


■コメント
特許5886999の特許権を有する原告(レオ社)が、被告(中外製薬、マルホ)の「マーデュオックス軟膏」の製造・販売が特許権侵害に当たるとして、製造等の差し止め及び廃棄を求めた事案です。

本件特許の請求項11112は下記のとおりです。

「【請求項1
ヒトまたは他の哺乳動物において乾癬を処置するための皮膚用の非水性医薬組成物であって,マキサカルシトールからなる第1の薬理学的活性成分A,およびベタメタゾンまたは薬学的に受容可能なそのエステルからなる第2の薬理学的活性成分B,ならびに少なくとも1つの薬学的に受容可能なキャリア,溶媒または希釈剤を含む,医薬組成物。
【請求項11
ヒトの乾癬を処置するための,請求項110のいずれか1項に記載の組成物
【請求項12(訂正)】
医学的有効量で1日1回局所適用される,請求項11に記載の組成物」


被告は、新規事項の追加(無効理由1)と、進歩性欠如(無効理由2)に基づき、本件特許に無効理由があることを主張しました。
これに対して、裁判所は下記の通り、進歩性欠如の無効理由があると判断しました。


----
判決抜粋------------------------------------------------------------------------------
争点に対する判断
無効理由2(特許法292項違反)の有無について
事案に鑑み,無効理由2の有無から判断する。
・・・
(2) 
本件発明12と乙15発明の対比
上記各記載によれば,15には,「ヒトにおいて乾癬を処置するために皮膚に塗布するための混合物であって,1α,24-dihydroxycholecalciferol(タカルシトール),及びBMV(ベタメタゾン吉草酸エステル),並びにワセリンとを含有する非水性混合物であり,皮膚に12回塗布するもの」が記載されていると認められる。
そして,本件発明12と上記の乙15発明とを対比すると,両発明は,「ヒトの乾癬を処置するための皮膚用の医薬組成物であって,ビタミンD3の類似体からなる第1の薬理学的活性成分A,及びベタメタゾンまたは薬学的に受容可能なそのエステルからなる第2の薬理学的活性成分B,並びに少なくとも1つの薬学的に受容可能なキャリア,溶媒または希釈剤を含む,非水性医薬組成物であり,医学的有効量で局所適用されるもの」で一致し,前記第21(7)記載の相違点1及び3において相違すると認められる(なお,相違点1及び3の存在については,当事者間に争いがない。)。

(※BIOPATENTBLOG追記
  相違点1
本件発明12はビタミンD3類似体である第1の薬理学的活性成分Aとし5てマキサカルシトールを含有しているのに対して,乙15発明は1α,24-hydroxycholecalciferol(タカルシトールと同義)を含有している点。
  相違点3
本件発明12は医学的有効量で11回局所適用されるものであるのに対し,乙15発明は医学的有効量で12回局所適用されるものである点。)

・・・

(3) 
相違点1に係る容易想到性について
(16の記載事項
・・・
(
17の記載事項
・・・
(
構成の容易想到性
前記のとおり,乙15発明は,「ヒトにおいて乾癬を処置するために皮膚に塗布するための混合物であって,1α,24-dihydroxycholecalciferol(タカルシトール),およびBMV(ベタメタゾン吉草酸エステル),ならびにワセリンとを含有する非水性混合物であり,皮膚に12回塗布するもの」というものである。
そして,乙16及び17に開示されているように,本件優先日において,乾癬治療剤としてのマキサカルシトールの軟膏が既に知られていたのであるから,当業者であれば,乾癬を処置するための混合物である乙15発明において,ビタミンD3の類似体からなるタカルシトールに代えて,同じくビタミンD3の類似体からなるマキサカルシトールを使用する程度のことは,容易に想到できることというべきである。
・・・

また,原告は,「乙15D3BMV混合物は,マキサカルシトールを含んでいなかったばかりか,乙15にマキサカルシトールについての言及は何らなく,乙15に接した当業者が,マキサカルシトールとベタメタゾンの双方を含む医薬組成物の発明に想到する動機づけは認められない」と主張する。しかしながら,上記のとおり,16及び17には「乾癬治療剤としてのビタミンD3の類似体であるマキサカルシトールの軟膏」が開示されているのであるから,そうであれば,乙15に接した当業者が,乙15発明におけるタカルシトールに代えて,同じくビタミンD3の類似体からなるマキサカルシトールを使用する動機付けはあるというべきであるから,原告の上記主張も採用できない。
・・・

  相違点1に係る顕著な作用効果について
原告は,本件発明12は,ビタミンD(マキサカルシトール)からなる第1の薬理学的活性成分Aと,ベタメタゾンからなる第2の薬理学的活性成分Bの組合せにより,当業者の予期せぬ格別顕著な乾癬治療効果を有するものであると主張するので,この点について検討する。
(
本件明細書における治療効果の記載
・・・

(
顕著な効果の開示の有無について
しかしながら,これらに記載されている効果は,以下に個別に検討するとおり,当業者が予測し得ない格別顕著な効果とは認められない。
治療効果について
本件明細書には,「1つのみの活性化合物で治療した患者よりもより早い治癒開始およびより有効な斑治癒が得られる」ことが記載されている(【0028】)ところ,「より早い治癒開始」については,乙15には,「TV-02軟膏とステロイド軟膏との等量混合による治療は・・・TV-02軟膏単独塗布の遅効性も混合することによって改善することができた。」10434435頁)との記載があるので,実質的に開示されている。

また,「有効な斑治癒」については,本件明細書の実施例では,基剤にベタメタゾン及びカルシポトリオールを配合した混合物に対し,混合物における各活性成分の濃度と同じ濃度で,ベタメタゾン又はカルシポトリオールのいずれか一方のみを配合したものを調製して,比較を行っている。これに対し,乙15では,本件明細書と同じ方法で比較をしているのは,表3中の「BMVPetrol」と表示されているもので,D3BMV混合物に対して,BMV軟膏とワセリンを混合したもの(ベタメタゾンの濃度は0.06%。混合物中の濃度と同じである。)との比較を行っている(症例2023)。これらの症例を見ると,症例22及び23では,D3BMV混合物の治療効果が3(著明改善)であるのに対し,BMVP5etrolの治療効果は2(中等度改善)にとどまっている。症例21では,D3BMV混合物もBMVPetrolのいずれも,治療効果は3であるが,前者は期間14日に対し,後者は期間21日での評価である。乙15には,これらの考察として,「BMV・ワセリン塗布部での皮疹の改善程度がTV-02BMV塗布部より若干低い傾向がうかがわれた」と10の記載がある(433)。よって,15には,D3+BMV混合物の治療効果が,ベタメタゾン単独適用(BMVPetrol)よりも高いことが示されているということができる(なお,症例2426は,本件明細書の実施例とは比較の方法が異なる。)。

ところで,乙15では,D3BMV混合物適用とTV-02軟膏の単独適用との比較はなされていない。しかしながら,「TV-02軟膏はステロイド軟膏に較べると効果発現までに少し長い時間がかかるが,しかし,少なくとも4週間塗布の場合その皮疹の改善程度はステロイド軟膏のそれと比較して差はみられなかった。」といった記載がある(434頁)。この記載から,TV-02軟膏の乾癬治療効果は,BMV軟膏とせいぜい同程度と解されるところ,上記のとおり,D3BMV混合物の治療効果はBMV軟膏(ステロイド軟膏)よりも高いといえるから,TV-02軟膏よりも治療効果が高いことが予測可能である。
したがって,乙15に開示されている治療効果は,本件明細書に開示された本件発明12における有効な斑治癒の効果と実質的に変わらないというべきである。

なお,原告は,本件発明12の治療効果に関して,10及び甲11を提出するが,これらが頒布されたのは本件優先日以降であるから,本件明細書に開示された範囲を超えてこれらに基づく効果を本件発明12の進歩性の判断において参酌することは許されない。

副作用について
本件明細書には,「カルシポトリオールなどのビタミンD類似体の皮膚刺激副作用がベタメタゾンなどのステロイドの乾癬皮膚への同時適用によって緩和されることが示され,・・・2成分または多成分治療計画では達成できない効果である。」ことが記載されている(【0028】)。このような併用による,ビタミンD類似体(乙15の場合,タカルシトール)の皮膚刺激の緩和については,乙15には記載されていないが,本件明細書において「2成分投与計画についてある程度の相乗効果(より少ない皮膚刺激)が報告されている場合もある」(【0028】)とされていることからみると,予測し得ない効果とはいえない。
また,本件明細書には,「乾癬などの皮膚障害の満足な薬物療法を本発明の組成物を使用してより短期間で達成することができ,それ故,ステロイドによる副作用(皮膚萎縮およびリバウンドなど)も低減する。」ことが記載されている(【0029】)。これは,優れた治療効果の発揮によって治療期間が短くなり,使用されるステロイドの総量が減れば,副作用も低減するということを記載しているのであって,当然な内容というべきである。乙15にも,「濃度が半分になることからステロイド外用による副作用の軽減にも役立つ」と記載され,ステロイドの使用量が減ることによって,副作用を低減できることが示唆されている。

適用遵守等について
本件明細書には,「1つの製剤を必要とする場合は処置指示はより単純になるので,患者の適用遵守が改善され,さらにより多数の乾癬患者の有効な治療が可能になる。」,「・・・患者の安全性が改善される。」ことが記載されている(【0029】)。これらの効果は,乙15には記載されていないが,D3BMV混合物に対して,当然に期待されることというべきである。

  小括
以上のとおり,相違点1に係る構成は当業者にとって容易に想到できるものというべきである。

(4) 
相違点3に係る容易想到性について
・・・
(
前記のとおり,乙15発明は,「ヒトにおいて乾癬を処置するために皮膚に塗布するための混合物であって,1α,24-dihydroxycholecalciferol(タカルシトール),およびBMV(ベタメタゾン吉草酸エステル),ならびにワセリンとを含有する非水性混合物であり,皮膚に12回塗布するもの」というものである。そして,乙24及び25に開示されているように,本件優先日において,タカルシトール軟膏が11回の用法で乾癬処置に使用されることも既に知られていたのであるし,そもそも塗布方式(11回か,2回か)の検討は,治療効果の向上や,副作用の低減等の観点から,当業者が適宜行うことにすぎないことであるから,当業者であれば,乙15発明において,塗布の回数を11回とする程度のことは,容易に想到できることというべきである。

(
これに対し,原告は,乙15は,D3BMV混合物を12回適用した結果,タカルシトール又はベタメタゾン単剤を12回適用した結果と比較して,何ら優れた乾癬治療効果が見られなかったことを示しているから,この知見に触れた当業者が,適用回数をあえて11回に減らして,ビタミンD及びベタメタゾンを含む乾癬治療用の製剤を得る動機づけは全く存しない旨主張する。

しかし,前記のとおり,乙15には,12回塗布の場合において,D3BMV混合物が乾癬治療効果を有し,TV-02軟膏やBMV軟膏の単独適用に対してD3BMV混合物適用がメリットを有することが開示されているから,原告の上記主張は前提を欠き採用できない。なお,乙15の塗布試験において採用されているのは,確かに,12回塗布であるが,そこで使用されているTV-02軟膏は,タカルシトールが2μg/g濃度,4μg/g濃度のものであるところ,4μg/g濃度のタカルシトール軟膏は,乙24及び乙25にも開示があり,そこでは乾癬治療のため,これらを11回塗布することも記載されているから,乙15に開示されているのが12回塗布であったとしても,当業者は,少なくとも4μg/g濃度のTV-02軟膏については11回塗布とすることも考慮し,その場合についても,BMV軟膏を加えることによって,乙15に記載されたような効果の改善を予測するものというべきである。

  相違点3に係る顕著な作用効果について
・・・
したがって,少なくとも,原告が主張するような効果,すなわち,混合物を適用する場合,1日の適用回数を減らしても優れた効果が得られることを,本件明細書の記載から読み取ることはできないから,そのような効果を本件発明12の進歩性の判断において考慮することはできない(まして,原告が指摘する甲11に示されるようなサイトカイン分泌の相乗的抑制効果については,かかるメカニズムは本件明細書には一切記載されていないから,そのような効果を本件発明12の進歩性の判断において参酌することは許されない。)。
・・・

結論
よって,その余の点について検討するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
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■STAP細胞の特許出願の今(2017年9月)


STAP細胞の特許出願(
特表2015-516812)に拒絶理由通知書がでて、その後補正がされたそうです。

・日本の「STAP特許出願」拒絶理由にハーバード大が想定外の応答
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20170914-00075755/


というわけで、審査書類を見てみました。
まず、補正前の請求項1は下記のとおりです。(請求項74まであります。)

「【請求項1
細胞をストレスに供する工程を含む、多能性細胞を生成する方法。」



補正後の独立請求項は下記のとおりです。(下線は補正箇所です。)

「【請求項1
細胞を
pHストレスに供する工程を含む、Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊を生成する方法であって、該低pHが、5.45.8pHであり、且つ、pHの調整がATPを用いて行われることを特徴とする、方法
【請求項20
細胞を、
pH5.45.8の低pHストレスに供する工程を含む、該細胞においてOct4遺伝子の発現を誘導する方法であって、ここで、pHの調整が、ATPを用いて行われることを特徴とする、方法。
【請求項21
細胞を、
pH5.45.8の低pHストレスに供する工程を含む、Oct4遺伝子を発現する細胞の製造方法であって、ここで、pHの調整が、ATPを用いて行われることを特徴とする、方法。



拒絶理由通知書では、新規性、進歩性、実施可能要件、サポート要件、明確性、産業上の利用可能性に関する拒絶理由が通知されました。
実施可能要件に関しては、審査官は以下のコメントをしています。

「・・・これを本願の発明の詳細な説明についてみると、その実施例において示された内容は上記両Nature論文と同内容のものと認められるところ、上述の論文取り下げ及び再現実験の結果という事情に鑑みれば、現時点においては、当該論文において確認された現象は、その信憑性については疑義があり、また、再現不可能なものというほかない。」
「仮に、発明の詳細な説明の記述に包含される条件のうち限られた特定の条件において、細胞をストレスに供することによって細胞を脱分化させて多能性細胞を生成することが可能であったとしても、本願発明の属する技術分野において通常の知識を有する研究者、すなわち当業者でさえ、その再現のためには試行錯誤、複雑高度な実験等を要し、細胞を脱分化させて多能性細胞を生成するに至っていないのであるから・・・」


つまり、再現できないし、仮にできたとしても、過度な試行錯誤を要するからNGっていっています。
まぁこれまでの経緯を考えるとそうなりますよね。

これに対して、出願人は上述の補正をしました。即ち、「STAP細胞」は「Oct4を発現する細胞」に補正され、「低pH」、「5.45.8pH」、「調整がATPを用いて行われること」の限定が加わりました。

ざっと読んだ感じでは、拒絶理由通知書ではOct4発現細胞についてまでは否定されていないようです。
たしか、小保方さんもOct4を発現する細胞を作ったと『あの日』の中で述べていたと思います。

明細書内にATPpHを調整したっていう直接的な記載がないのは気になりますが、ぐぐった感じではSTAP細胞の実験においてATPpH調整のために使っていたのは事実のようです。

・・・とはいいつつも、これで特許になりそうかというとそうもいかないだろうなという印象です。



■バイオ医薬品の特許調査セミナーを開催しました!

 
昨日は、とある製薬会社の団体様からのご依頼で、バイオ医薬品の特許調査セミナーの講演をしてきました。
講演タイトル・目次は下記のとおりです。講演時間は2時間40分(休憩15分含む)で、参加者は60数名で、会場はいっぱいでした。

前半の「2. クリアランス調査」では、調査の考え方・進め方を単純に解説するだけでなく、仮想事例を私の方で作った上で、実際に検索した結果を紹介しながら、具体的にどのように検索式を作るとよいかということも解説しました。さらに、バイオ医薬品の調査に特有の留意点がいくつかあるので、それらを解説しました。

後半の「3. 無効資料調査」では、先日のバイオ医薬EXPOのときと同様に、バイオ医薬特許の異議申立・無効審判事例を紹介しました。ただ今回は検索事例をつけたり、調査の観点から何ができるかという点をより詳しく解説しました。

せっかく会場まで足を運んで頂きましたので、参加者の皆様が参考になったと思える点を何かご提供できていればなと思っています。

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■タイトル
バイオ医薬品の特許調査手法と無効審判・異議申立への応用

■目次
. 基本事項のおさらい
 1.1  バイオ医薬品とは
 1.2  特許調査の種類

. クリアランス調査
 2.1  クリアランス調査の基本
   2.1.1  クリアランス調査とは
   2.1.2  クレームが大事
   2.1.3  バイオ医薬特許のクレームの例
   2.1.4  抗体医薬特許に特有のクレーム限定の例
   2.1.5  核酸医薬特許に特有のクレーム限定の例
 2.2  PD-1抗体の調査事例
 2.3  バイオ医薬品のクリアランス調査の留意点

. 無効資料調査
 3.1  無効資料調査の基本
  3.1.1  無効資料調査とは
  3.1.2  実施例・実験結果が大事
  3.1.3  鑑定的な観点で読む・探す
 3.2  無効資料調査の異議申立・無効審判への応用
  3.2.1  異議申立・無効審判の流れ
  3.2.2  近年のバイオ医薬特許の異議申立・無効審判事例と検索例
   3.2.2.1  アクテムラ製剤特許の無効審判事例
        ~ポリクロとモノクロを組み合わせるのは難しい~
   3.2.2.2  オプジーボ用途特許の異議申立事例の無効審判事例
        ~多数列挙中の一行記載の弱さ~
   3.2.2.3  ハーセプチン用法用量特許の無効審判事例
        ~シミュレーションが薬理データの代わりになる?~
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■ハーセプチン用法特許の無効審判事例 ~後出しデータの参酌の可否~

 
<審決紹介>
・無効2016-800021
・審決日:20161227
・合議体:審判長 特許庁審判官 内藤伸一、審判官 渡邉潤也、審判官 齋藤恵
・請求人:セルトリオン・インコーポレイテッド
・被請求人:ジェネンテック,インコーポレイテッド
・特許5623681
・発明の名称:抗-ErbB2抗体による治療


■コメント
前回のブログでハーセプチンの用法用量をカバーする特許の無効審判をご紹介しましたが、今回はハーセプチンの用法をカバーする別の特許に対する無効審判をご紹介します。

時期は今回の審決日が20161227日なので、少し前の事例になります(前回紹介した無効審判の審決日は201775日です)。請求人、被請求人は同じです。

争点は、新規性、進歩性、原文新規事項です。
下の画像で進歩性について簡単に解説しています。
先日のバイオ医薬EXPOのときに資料を作っていたのでアップしてみました。

本件特許の実施例には効果が未来形で書かれていたのですが、後出しの実験データ(乙15)が考慮され、本件特許発明の効果は予測し得たとはいえない(進歩性あり)と判断され、特許は維持されました。
その後、5
10日に審決取消訴訟が提起されています。



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・・・記載要件違反も主張しておくとよかったかもしれないですね。



■用法用量特許の実施可能要件が明細書に記載のないコンピュータシミュレーションにより認められた審決例

 
<審決紹介>
・無効2016-800071
・審決日:201775
・合議体:審判長 特許庁審判官 福井美穂、審判官 大久保元浩、審判官 關政立
・請求人:セルトリオン・インコーポレイテッド
・参加人:ファイザー・ホールディングズ合同会社
・被請求人:ジェネンテック,インコーポレイテッド
・特許5818545
・発明の名称:抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ


■コメント
今回紹介するのは、ハーセプチンの用法用量をカバーする特許に対する無効審判です。
争点は、進歩性と実施可能要件です。

本件特許の請求項1は下記の通りです。主な特徴は青色の部分です。

「【請求項1】
iErbB2抗体huMab4D5-8を含有し、8mg/kgの初期投与量と6mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに3週間の間隔をおいて静脈投与することにより、HER2の過剰発現によって特徴付けられる乳癌を治療するための医薬組成物が入っている容器、及び(ii)前記容器に付随するパッケージ挿入物を具備するパッケージ。」

※以下、請求項1の投与方法を8/6/3投与と略します。


▼進歩性について
請求人のセルトリオン社は、無効理由を主張するに当たり、甲123を提出しました。
1WO99/31140)には、ハーセプチンを4mg/kg投与後、次週から毎週2mg/kgの条件で投与した結果、治療効果があったことが記載されています。
本件特許が8/6/3投与なのに対し、甲14/2/1投与です。
その他の甲文献に8/6/3投与の直接的な記載はないようです。

一方で、本件特許明細書には8/6/3投与の実験
データの記載はありません。未来形/現在形の記載はあります。4/2/1投与の実験データ(後述の表2及び図3含む)はあります。

これに対して、審判官は以下の判断をしました。

「 甲1-2発明では、MAb4D5-8を、4mg/kgの初期投与量と2mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに1週間の間隔をおいて投与する用法・用量、即ち4/2/1投与計画、が用いられるところ、当該4/2/1投与計画に代えて8/6/3投与計画を用いることについては、甲第1号証中には記載も示唆もされていない。また、抗体の投与量に関し、甲第1号証には、病気の種類及び重症度に応じ約1μg/kgないし15mg/kg(例えば0.1-20mg/kg)の抗体が一又は複数の別個の投与又は連続注入で最初に投与され得ることや、典型的な一日の投与量が約1μg/kgから100mg/kgあるいはそれ以上の範囲であることや、数日間又はそれ以上の繰り返し投与の場合、状態によっては病気の徴候の望ましい抑制が生じるまで処置を維持され得る旨の記載がみられるものの(1f)、かかる記載を含む甲第1号証の全体をみても、甲1-2発明の4/2/1投与計画に代えて、初期投与量/維持投与量/投与間隔の組合せ方において全く異なる8/6/3投与計画を採用することを具体的に想起させる記載を、甲第1号証中に見出すことはできない。

 また、甲第1号証は、甲1-2発明の4/2/1投与計画を現実に長期間、例えば本件特許明細書の実施例2及びその結果を示す図3において示される36週間程度、にわたり採用し実行することで、投与されたMAb4D5-8がヒト患者内で経時的にどのような血中動態変化を示すのか、について、例えば本件特許明細書の表2及び図3で挙げられているような具体的な血中動態プロファイル情報を示すものですらない。

 してみると、そのような現実のMAb4D5-8の経時的血中動態プロファイルデータを有さない、甲第1号証に記載された4/2/1投与計画に係る試験結果のみに基づいて、甲1-2発明のように投与間隔を1週間としなくとも、初期投与量を8mg/kg、維持投与量を6mgとすることで、より少ない投与頻度(投与間隔:3週間)でも、36週間程度の長期の投与期間にわたりMAb4D5-8の有効血中濃度が維持されて治療効果が持続的にもたらされ、かつ重篤な副作用も生じない、ということを推測することは、当業者といえども容易になし得なかったというほかはない。


(ii-2) また、以下のア~オに述べるとおり、甲第2~6号証のいずれを併せ参酌しても、MAb4D5-8を、甲1-2発明の4/2/1投与計画に代えて8/6/3投与計画を用いて投与すること、並びに、そのようにしても、4/2/1投与計画より投与頻度が少ないにもかかわらず投与期間にわたりMAb4D5-8の血中有効濃度が維持されて治療効果が持続的にもたらされ、かつ重篤な副作用は生じないであろう、ということを当業者が推測するに足る根拠となる記載乃至示唆を見出すことはできない。


2等に対する判断や、請求人の主張に対する判断も示されましたが、ここでは省略します。
結果、進歩性はあると判断されました


▼実施可能要件について
請求人のセルトリオン社は、8/6/3投与の薬理試験結果が明細書に記載されていないことに基づいて、実施可能要件違反の無効理由を主張しました。

これに対して、被請求人のジェネンテック社は、優先日前に決定されたハーセプチンの半減期が不正確であったこと、4/2/1投与の実験データ(表2及び図3)をもとにシミュレーションを行うことで8/6/3投与でも治療結果(目標トラフ濃度の維持)が得られることは当業者は理解できること、について反論しました。

請求人の主張に対して、審判官は以下の判断をしました。

「(i)主張1)、2)は、要するに、以下の<1>、<2:
1>特許明細書等には、8/6/3投与計画を実際に行った薬理試験結果が記載されていない[11-3)~1-4];
2>本件特許特許出願の前後にわたり、MAb4D5-8の半減期は5.8日~約1週間程度と考えられており(甲第14号証によれば、特許明細書等の図3と同じデータに基づいてでさえ6.0日程度とみられていた)、このような短い半減期と認識されていたMAb4D5-88/6/3投与計画という3週間の投与期間を採用した場合には(その半減期の短さ故に)治療期間にわたり目標トラフ濃度を維持し得るとは考えられなかった[11-1)~1-2)、22-1)~2-4];
という点に基づくものと解される。
 
ii)しかしながら、上の4-2-1.4-2-2.で既に検討したとおり、8/6/3投与計画を実際に行った薬理試験結果がなくとも、表2及び図3のデータに基づいて、MAb4D5-82-コンパートメントモデルにフィットする血中動態を示すこと、及び、そのことに基づいて8/6/3投与計画を実行した場合のMAb4D5-8の経時血中動態のシミュレーションを行うことで、治療期間にわたり目標トラフ濃度が維持できることは、当業者であれば理解し得たといえる。
 よって、8/6/3投与計画を実行した現実の薬理試験結果の提供がないからといって、本件発明について特許明細書の発明の詳細な説明がいわゆる実施可能要件を満たしていない、ということにはならないから、上の<1>に基づく請求人の主張はいずれも採用できない。
 
 また、請求人が引用する甲第2号証や甲第10111316号証における、半減期が1週間程度である旨の見解は、いずれも、治療期間が8週間程度の短期間に限った場合、或いは、MAb4D5-8の血中動態が1-コンパートメントモデルに従うものであることを前提とした推測の域を出るものではない。例えば、甲第15号証では、8週以降の32週までにわたるようなより長期の治療期間においてはもっと長時間の半減期が考えられ、この点1-コンパートメントモデルを前提とした場合には説明できないことも併せて示唆されているのである。
 これらの記載を併せみれば、本件特許出願の出願日までにおいて、MAb4D5-8の半減期が1週間程度であることは、被請求人を含め、当業者にとり技術常識として定着していたとはいえず、むしろ、被請求人が述べるとおり、本件特許出願時においては、MAb4D5-8のような抗体の「in vivo特性に関する知識は、特にその薬物動態及び薬力学特性に関して、時間の経過により変化し」、また、「抗ErbB2抗体huMab4D5-8の薬物動態を予測するための技術知識は十分でなかった」(答弁書第7/42頁第56行、910行)、とみるのが相当である。
 そして、この認識は、MAb4D5-8の薬物動態の詳細な解析のため、表2のピーク/トラフ血清濃度の経時変化データ、及び図336週という比較的長期の治療期間にわたるトラフ血清濃度の経時変化データをあわせ、周知の薬物動態モデル(1-コンパートメントモデル/2-コンパートメントモデル)へのフィッティング解析にかけたところ、MAb4D5-8の血中動態は1-コンパートメントモデルでなくむしろ2-コンパートメントモデルに良くフィットし、かかるフィッティング解析結果に基づいたシミュレーションを行えば、8/6/3投与計画を実行した場合でも上記長期の治療期間にわたり目標トラフ血清濃度は十分に維持されると推測できることが見い出された、という、上述の乙第9号証等に基づく被請求人の見解、並びにそれらを踏まえた上の4-2-1.4-2-2.の検討結果とも、何ら矛盾するものではない。
 したがって、上記<2>の点を踏まえた請求人の主張もまた、本件特許出願時の技術背景等を適切に把握した上でのものとはいえず、いずれも採用できない。」


ということで、実施可能要件を満たしていると判断されました

実験データが無くてもシミュレーションで推測
できればOKっていうのはすごい判断だなという印象です。しかも、明細書にシミュレーションで推測できるっていう記載はないようです。はたして知財高裁はこの判断を支持するのでしょうか。

・・・あとは、甲1等の実験データをもとにいろんな条件でシミュレーションして、8/6/3投与による治療効果が予測されるっていう結果を導いて進歩性を否定するっていうのはどうかなって思ったり。




■Pharm Tech Japanの取材を受けました!


医薬品の製剤と製造の専門誌「Pharm Tech Japan」の取材を受けました。

Pharm Tech Japan
http://www.jiho.co.jp/tabid/164/Default.aspx

Pharm Tech Japan
の「創薬創剤人」という連載に載るそうです。いつもは医薬品の製剤や製造に関わる方に取材しているそうですが、今回は趣向を変えて特許関係者のコメントがほしいとのことでした。
Pharm Tech Japan
といえば、ほとんどの製薬会社が購読している有名な雑誌ですので驚きました。

取材の内容は、人にフォーカスした感じで、経歴、仕事の種類・概要、仕事感、やりがいなどの話がメインだったように思います。あとは、セミナーやったり、論文書いたり、サイト運営なんかもやってるので、その辺のことも質問をいただきました。

取材の内容を見開き2ページにまとめて掲載していただけるそうです。楽しみです。


tag : 医薬 取材

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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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