■欧州特許庁の維持年金は高いが、10ヶ国にバリデーションするならそうでもないという話


欧州特許庁への特許出願では日米とは異なり、特許が登録になる前から維持年金費用が発生します。
欧州特許庁へ支払う費用は下記の通りです。(分割出願にも親出願の出願日を基準として維持年金が発生します。)

 3年度:470 EUR
 4年度:585 EUR
 5年度:820 EUR
 6年度:1050 EUR
 7年度:1165 EUR
 8年度:1280 EUR
 9年度:1395 EUR
 10年度以降各年:1575 EUR

これが結構高いので、早く特許にして維持年金費用を節約するという進め方があります。
審査を早める方法としては、欧州移行時に規則161及び162(補正の機会)の通知を放棄する方法や、PACE(早期審査)を請求する方法などがあります。
規則161及び162の通知の放棄は移行時に書面にチェックを入れるだけなので追加費用はかかりません(SKの場合は)。
PACE
は特許庁費用がかからず、手続き的にも簡単なので代理人手数料は比較的安いです。

ただ、早く特許にしたとしてもバリデーション(各国で有効にする手続き)後に各国で年金がかかるので、結局どうなのっていう疑問があります。

ドイツ、イギリス、フランス3カ国(合計)や、それより少ない国数にバリデーションする場合は、欧州特許庁の方が高いようですので、維持年金的には早く特許にすると節約になるようです。
20年など極端に遅くに登録になる場合は除きます。)

では10ヶ国だとどうでしょうか。

ざっと計算したところ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、トルコ、ポーランド、ベルギー、スイス、オランダ(合計)の5年度年金は848 EUR7年度年金は1473 EUR10年度年金は2526 EURでした。

この感じだと、10ヶ国出す場合は早く審査を進めても維持年金のメリットはほぼなさそうです。

あと、分割出願についても、10ヶ国で考えた場合、維持年金的には早く分割したり早く審査を進めるメリットはなさそうです。



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■デラウェア地裁のスターク判事、メルクのC型肝炎治療薬特許(597特許)を無効と判断


メルクC型肝炎治療薬特許侵害訴訟の件で、
デラウェア地裁のレオナルド スターク判事が、ギリアド254000万ドルの損害賠償を要求した陪審評決の判断を覆したそうです。

Gilead wins reversal of $2.54 billion hepatitis C drug patent verdict
https://www.reuters.com/article/us-gilead-sciences-lawsuit/gilead-wins-reversal-of-2-54-billion-hepatitis-c-drug-patent-verdict-idUSKCN1G10MH

Idenix
(メルクが買収)は2013年にUS7608597597特許)に基づいて、ギリアドのSovaldiHarvoniに対して特許侵害訴訟を提起しており、201612月に陪審評決はIdenix254000万ドルを受け取る権利があると判断していました。

今回レオナルド スターク判事は、Enablementを欠くため597特許は無効と判断しました。
597
特許のクレーム1は下記のとおりです。

1. A method for the treatment of a hepatitis C virus infection, comprising administering an effective amount of a purine or pyrimidine
β-D-2-methyl-ribofuranosyl nucleoside or a phosphate thereof, or a pharmaceutically acceptable salt or ester thereof.

クレームにはStructural Limitations(β-D-2'-methyl-ribofuranosyl nucleoside)とFunctional Limitationseffective amount)があると解釈できること、Structural Limitationsは数十億の化合物を含むこと、inoperable embodimentsが多数存在することなどが指摘されたようです。


■求人応募時にクレーム作成のレポート提出

 
パテントサロンに京都大学 iPS細胞研究所 知財グループの求人がでていました。

http://www.patentsalon.com/jobs/offer/kyoto-u_cira/index.html

たまにバイオや医薬系企業の求人があるので珍しいことではないのですが、よくよく見てみると、応募時にクレーム作成のレポートを提出することになっていて珍しいなと思いました。
しかも発明の内容が過去のニュースリリースです。これです。

http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/140805-085017.html

これは面白いですね。SKでもどうでしょうか(笑)
と思ったらニュースリリースがない。。。

知財部でも特許事務所でも、中途採用だったら採用前にどんなクレームを作る人なのかを知っておきたいですよね。
過去に書いた特許公報を教えてもらうっていうのがよくあるパターンでしょうか。ただ、公報の内容はクライアントからもらった原稿や出願方針にもよるのと、その人が原稿作成にどの程度関わったかがわからないところがちょっと弱いかもですね。
応募後に会社(または事務所)で書いてもらうっていうパターンもあるらしいです。

試しにクレーム案を考えてブログ記事にしようかなーとも思ったのですが、それはまずそうなので思いとどまりました。
そこで、逆に拒絶理由を考えてみました。こんな感じです。

「iPS細胞に分化抵抗性iPS細胞があることは文献Xに記載されている。また、正常細胞と非正常細胞の遺伝子発現を比較して、非正常化のメカニズムを明らかにする技術は文献Yに記載されている。そうすると、分化抵抗性iPS細胞に関しても、文献Yを考慮して、遺伝子発現の比較をしてみることは容易に想到できる。」

ちょっとふわっとした内容になっていますが、クレームがあればもうちょっと具体化した内容になるかなと思います。あと効果はクレーム次第なところがあるので一旦無視しています。文献は探していません。



■レミケード米国特許、CAFCが無効と判断

 
CAFC(
米国連邦巡回区控訴裁判所J&Jの関節リウマチ薬「レミケード」の米国特許を無効とする判断を下したそうです。

・連邦高裁も特許無効の判断 J&J控訴棄却、「レミケード」打撃
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/180125/mcb1801250500009-n1.htm

Johnson & Johnson Loses Remicade Patent in Appeal Ruling
https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-01-23/johnson-johnson-loses-appeal-on-validity-of-remicade-patent


レミケードのバイオシミラーとして、ファイザーのInflectra等がすでに米国で販売されているそうです。
対象特許はUS6284471で、自明型二重特許(obviousness-type double patenting)により無効と判断されたようです。


■2017年を振り返って。 判決・仕事・講演・趣味など。

tokei_20171231.jpg


2017
年ももう終わりですね。
今年もブログを見てくださった皆様ありがとうございました。
今回は、2017年を振り返ってみたいと思います。
まずは2017年の注目判決から。


2017年の注目判決
結構インパクトのある判決がでました↓。特に最高裁の方。あんなに明確に書いてあっても均等侵害になっちゃうんですね。

3
24日:均等侵害が認められた「マキサカルシトール製法特許事件(最高裁)」
1
20日:延長された特許権の効力が後発品に及ばなかった「オキサリプラチン製剤特許事件(知財高裁大合議)」


今年は無効審判の審決も結構分析しました。以下のブログ記事とか。あとは講演で発表しました。

抗原も配列も限定のない改変抗体特許への無効審判で特許が維持された審決例
ハーセプチン用法特許の無効審判事例 ~後出しデータの参酌の可否~
用法用量特許の実施可能要件が明細書に記載のないコンピュータシミュレーションにより認められた審決例



2017年の注目バイオトピック
バイオ関係だとこういうのがありました。いろいろありましたね。

・抗PD-1抗体の特許侵害訴訟の和解(小野薬品+BMSとメルク)
・抗PCSK抗体の米国特許侵害訴訟(アムジェンとサノフィ)
CRISPR-Cas9のインターフェアレンス(ブロード研究所とカリフォルニア大)
・パテントダンス(アムジェンとサンド)
・スピンラザの日本承認(バイオジェン)
CAR-T細胞療法のFDA承認(ノバルティスのキムリア、ギリアドのイエスカルタ)
・抗がん剤のバイオシミラーの日本承認等(サンドのリツキサンBSの承認。日本化薬のハーセプチンBSの承認申請と中外製薬の訴訟提起。)



事務所のお仕事(SK特許業務法人)
今年も適度に仕事をしました。
内容としては、バイオ・医薬系の明細書作成、拒絶応答、内外・外内、調査、コメント・鑑定・審判・訴訟、セカンドオピニオン、特許情報収集・整理・分析など。
楽しい仕事ばかりでありがたいことです。
以下、備忘録です。

・明細書作成 ← 実施形態をどこまで書くかはなかなか判断が難しい。補正の根拠などのために書いておきたいけど、改良発明の不利益になるんじゃないかとか、均等で不利になるんじゃないかとか。
・拒絶応答 ← どこで検討やめるかも悩みどころ。みんなどうしてるのかな。
・内外・外内 ← 今年は外内ほとんどやってないので、来年はもう少しやろうかなぁ。
・調査 ← 安定。今年は新しい検索システムを試してみた。機能が豊富でいいんだけどちょっと高い。
・コメント・鑑定・審判・訴訟 ← 審査基準、判決、審決等のどの部分が後々使えるか、参考になるかわからない。全暗記はしなくていいので、たしかあそこにあったような・・・って感じで後から探せるようにしておくことが大事かな。
・セカンドオピニオン ← たまにあった。
・特許情報収集・整理・分析 ← こういう仕事もいい。勉強になるし。



講演など
講演や執筆もしました。

4
月:核酸医薬の論文が掲載された書籍(共著)が発刊。
6
月:医薬バイオEXPOでバイオ医薬特許の講演。
8
月:じほうさんからPharm Tech Japanの取材を受ける
9
月:製薬会社の団体からの依頼でバイオ医薬品の特許調査の講演。

来年は雑誌の連載記事を執筆する予定です。



その他
AIの話題も多い年でした。

特許業界で今のAIができること

ニュースまとめサイトつくってみました。

知財ニュース.com
医薬ニュース.com



趣味
バスケが楽しい1年でした。今年の目標にしていた3ポイントの確率向上に成功したのでよい年でした。やりすぎに注意。
海外ドラマも楽しい1年でした。1位はSUITS2位はワンス・アポン・ア・タイム、3位は12モンキーズかな。



抱負
来年はもうちょっと仕事と勉強をがんばろうかなぁと思います。
あと、たまには実家のある鹿児島に帰ろうと思います。

ではみなさん良いお年を。




tag : 2017年

■(アイセントレス錠の特許侵害訴訟)薬理データがないため実施可能要件/サポート要件違反で無効と判断された事例


判決紹介
・平成27()23087 特許権侵害差止等請求事件
・平成29126日判決言渡
・東京地方裁判所民事第40 佐藤達文 廣瀬孝 勝又来未子
・原告:塩野義製薬株式会社
・被告:MSD株式会社
・特許5207392
・発明の名称:抗ウイルス剤


コメント
特許5207392の特許権を有する原告(塩野義)が、被告(MSD)の「アイセントレス®400mg(ラルテグラビルカリウム)」が本件特許発明の技術的範囲に属するとして、譲渡等の差止め、廃棄を求めるとともに、損害賠償又は不当利得返還を請求した事案です。

ラルテグラビルカリウムの構造は下記の通りです。

ISENTRESS_20171228.jpg



本件特許の請求項1は下記のとおりです。

「【請求項1】
式(
I):
claim1-1_20171228.jpg 
(式中,
RA
は式:
claim1-2_20171228.jpg 
(式中,Z1及びZ3はそれぞれ独立して単結合又は炭素数16の直鎖状若しくは分枝状のアルキレン;Z2は単結合,-S--SO--NHSO2--O-又は-NHCO-;R1は置換されていてもよいフェニル,置換されていてもよい58員の芳香族複素環式基,置換されていてもよい炭素数36のシクロアルキル又は置換されていてもよいヘテロサイクル(「置換されていてもよい」の各置換基は,それぞれ独立して,アルキル,ハロアルキル,ハロゲンおよびアルコキシから選択される))で示される基;
Y
はヒドロキシ;
Z
は酸素原子;
RC
及びRDは一緒になって隣接する炭素原子と共に5員又は6員のヘテロ原子を含んでいてもよい環を形成し,該環はベンゼン環との縮合環であってもよい;RC及びRDが形成する環は,式:-Z1-Z2-Z3-R1(式中,Z1Z2Z3及びR1は前記と同意義である)で示される基で置換されていてもよく;
さらに,RC及びRDが形成する環は,式:-Z1-Z2-Z3-R1(式中,Z1Z2Z3及びR1は前記と同意義である)で示される基で置換されている以外の位置で,アルキル,アルコキシ,アルコキシアルキル,ヒドロキシアルキル及びアルケニルからなる群から選択される置換基により置換されていてもよい。)
で示される化合物,その製薬上許容される塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する,インテグラーゼ阻害剤である医薬組成物。」




裁判所は、以下の通り、本件特許発明
は実施可能要件、サポート要件を満たさず、訂正発明も実施可能要件、サポート要件を満たさないと判断し、原告の請求を棄却しました。



----------------------------------------------------------------------------------------------
第4 当裁判所の判断
・・・
争点(1)()(実施可能要件違反)について
 
事案に鑑み,争点(1)()について判断する。

(1)
医薬の発明における実施可能要件
 
特許法3641号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ,この規定にいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明にかかる物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が当該発明に係る物を生産し,使用することができる程度のものでなければならない。

 
そして,医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができないから,医薬の用途発明において実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明は,その医薬を製造することができるだけでなく,出願時の技術常識に照らして,医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要がある

(2)
本件の検討
 
本件についてこれをみるに,本件発明1では,式(I)のRA-NHCO-(アミド結合)を有する構成(構成要件B)を有するものであるところ,そのようなRAを有する化合物で本件明細書に記載されているものは,「化合物C-71」(本件明細書214頁)のみである。そして,本件発明1はインテグラーゼ阻害剤(構成要件H)としてインテグラーゼ阻害活性を有するものとされているところ,「化合物C-71」がインテグラーゼ阻害活性を有することを示す具体的な薬理データ等は本件明細書に存在しないことについては,当事者間に争いがない。

(※BIOPATENTBLOG追記:
C-71_20171228.jpg 

 
したがって,本件明細書の記載は,医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されたものではなく,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないというべきであり,以下に判示するとおり,本件出願(平成14年(2002年)88日。なお,特許法412項は同法36条を引用していない。)当時の技術常識及び本件明細書の記載を参酌しても,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業者が理解し得たということもできない。

(3)
原告の主張に対する判断
   
原告は,本件特許化合物として本件明細書に記載されているのが「化合物C-71」のみであり,その薬理データ等が記載されていないとしても,本件優先日当時の技術常識及び本件明細書の記載を参酌すれば,当業者は,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有すると理解できたと主張する。
ア当業者による理解について
・・・

  本件特許化合物以外の本件発明化合物の薬理データについて
次に,原告は,本件明細書には本件特許化合物の薬理データの記載はないものの,本件特許化合物以外の本件発明化合物の薬理データは豊富に記載されており,特に「化合物C-71」の化学構造の一部が異なるにすぎない「
化合物C-26」(本件明細書200頁)のデータが存在することを指摘する

(※BIOPATENTBLOG追記:
C-26_20171228.jpg 

しかし,一般に,化合物の化学構造の類似性が非常に高い化合物であっても,特定の性質や物性が全く類似していない場合があり,この点はインテグラーゼ阻害剤の技術分野においても同様と解されるのであって(甲10,乙171ないし3,乙181ないし3参照),このことは本件出願当時の当業者にとっても技術常識であったというべきである。
 
この点,原告は,「化合物C-71」と「化合物C-26」の構造は非常に類似しており,両者の差異は,「化合物C-71」のRAがアミド型置換基であるのに対し,「化合物C-26」のRAが非置換の窒素原子を含む芳香族複素環である点のみである上,「化合物C-71」のアミドと「化合物C-26」の芳香族複素環(具体的には,134-オキサジアゾール)は,いずれも配位子として機能することが知られ,また,アミドと134-オキサジアゾールは,バイオアイソスターとして相互に置換可能であることも本件優先日当時の技術常識であったのであるから,当業者であれば,「化合物C-71」は「化合物C-26」と同様のインテグラーゼ阻害活性を有すると理解すると主張する。

しかし,「化合物C-71」のアミドと「化合物C-26」の芳香族複素環がいずれも配位子として機能することが知られ,また,一般的にアミドと134-オキサジアゾールは,バイオアイソスターとして相互に置換可能であるとしても,インテグラーゼ阻害剤において,RAのアミドと134-オキサジアゾールが配位子として機能し,それらが相互に置換可能であることが本件出願当時の技術常識であったと認めるに足りる証拠はない。かえって,前記のとおり,インテグラーゼ阻害活性を有する化合物の化学構造の類似性が非常に高い場合であっても,特定の性質や物性が全く類似していないことがあることや,本件出願当時は,末端に環構造を有する置換基の役割やインテグラーゼ阻害活性を示す置換基についての一般的な化学構造に関する技術常識が存在したとは認められないこと,本件特許化合物が有するアミド中の-NH-の部分は,水素結合可能な基であることなどを考慮すると,「化合物C-71」が「化合物C-26」と同様のインテグラーゼ阻害活性を有すると当業者が理解するためには,「化合物C-71」の薬理データが必要であるというべきである。

  出願審査段階における薬理試験結果について
 
原告は,本件特許化合物に含まれる4個の化合物については本件特許の出願審査の段階において薬理試験結果が提出され(甲12),また,12個の化合物については実際にインテグラーゼ阻害作用が確認されているとして(甲13),本件発明1が実施可能要件を有することは裏付けられていると主張する。
 
しかし,一般に明細書に薬理試験結果等が記載されており,その補充等のために出願後に意見書や薬理試験結果等を提出することが許される場合はあるとしても,当該明細書に薬理試験結果等の客観的な裏付けとなる記載が全くないような場合にまで,出願後に提出した薬理試験結果等を考慮することは,特許発明の内容を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反するものであり,許されないというべきである(知的財産高等裁判所平成27年(行ケ)第10052号・同28331日判決参照)。
 
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

・・・

争点(1)()(サポート要件違反)について
 
上記2で説示したところに照らせば,本件明細書の発明の詳細な説明に本件発明1が記載されているとはいえず,本件発明1に係る特許は特許法3661号の規定に違反してされたものというべきである。
 
したがって,本件発明1に係る特許は特許法12314号に基づき特許無効審判により無効にされるべきものである。

争点(1)()(本件訂正による無効理由の解消の有無)について
・・・
(3)
これに対し,原告は,本件訂正発明化合物1に必須の化学構造は,本件明細書に薬理データが記載された27個の化合物と極めて類似した構造を有しているから,当業者は本件訂正発明化合物1がインテグラーゼ阻害活性を示すことを容易に理解できるなどと主張する。
しかし,前記2(3)イに説示したとおり,一般に,化合物の化学構造の類似性が非常に高い化合物であっても,特定の性質や物性が全く類似していない場合があり,この点はインテグラーゼ阻害剤の技術分野においても同様と解されるのであって,このことは本件出願当時の当業者にとっても技術常識であったというべきである。
 
原告はこの点,原告の上記主張はドラッグデザインに基づくものであるなどとも指摘するところ(甲76参照),確かに,何らかの生物活性を有する複数の化合物が存在する場合,そのような活性を備える化合物における,部分的な保存された構造を見出そうとする手法は,医薬品の開発の方向性を定める一つの手法とはいえるものの,化合物に共通する部分構造以外の構造に,生物活性に必要な構造が存在する可能性もあるし,逆に,生物活性を喪失させるような構造も化合物に存在することがあり得るのであって,生物活性を有すると目される複数の化合物に共通して見られる部分構造がある化合物において単に存在することをもって,直ちに当該化合物も必然的にその生物活性を有するということはできないというべきである。
 
なお,原告は,本件訂正発明化合物1がインテグラーゼ阻害活性を示すとする薬理データ(甲121333)を引用するが,上記2(3)ウに説示したとおり,本件の判断を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

結論
 
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
----------------------------------------------------------------------------------------------


■抗原も配列も限定のない改変抗体特許への無効審判で特許が維持された審決例

 
<審決紹介>
・無効2016-800136
・審決日:20171122
・合議体:審判長 特許庁審判官 關政立、審判官 渡邉潤也、審判官 田村聖子
・請求人:アレクシオン ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
被請求人:中外製薬 株式会社
・特許4954326
・発明の名称:複数分子の抗原に繰り返し結合する抗原結合分子


コメント
今回紹介するのは、中外製薬(株)が臨床試験(フェイズ3)中のSA237をカバーする特許に対する無効審判です。  SA237は、アクテムラ(トシリズマブ)のCDRのチロシンをヒスチジンに改変したIL-6R抗体です。

請求項1は下記の通りで、結構広いです。下線は補正箇所です。

「【請求項1
少なくとも可変領域の1つのアミノ酸がヒスチジンで置換され又は少なくとも可変領域に1つのヒスチジンが挿入されていることを特徴とする、抗原に対するpH5.8でのKDpH7.4でのKDの比であるKDpH5.8/KDpH7.4)の値が2以上10000以下の抗体であって血漿中半減期が長くなった抗体を含む医薬組成物。」

争点は、
実施可能要件、サポート要件、拡大先願、進歩性欠如、明確性です。今回は実施可能要件の一部の論点のみご紹介します。
実施可能要件は、下記の通り、審査時にも
拒絶理由通知書の中で指摘されていました。


拒絶理由通知書-----------------------------------------------------------------------
「請求項1に記載される発明は、医薬組成物に用いられる抗体のヒスチジンで置換されるアミノ酸残基の位置を何ら特定するものではないが、本願明細書に具体的に記載されている血漿中半減期が長くなった抗体は、抗原の結合に影響しないアミノ酸残基を選択した中でも、特定のH鎖及びL鎖のごく限られたアミノ酸残基の位置をヒスチジンで置換した抗体のみであり、また、一般に抗体の可変領域のアミノ酸配列を置換すると抗体の抗原に対する特異性や親和性が失われ抗体の機能を果たさなくなる蓋然性が極めて高いことは当業者の技術常識であるから、請求項1に記載される発明の任意のアミノ酸残基の位置がヒスチジンで置換された抗体は、血漿中半減期が短い抗原への特異性及び/又は親和性が低いもの数多く含まれており、その中から血漿中半減期が長い抗原に対して特異性及び親和性の高い医薬組成物として利用できる抗体を選択するためには当業者に過度の負担を強いるものである
 したがって、本願明細書の記載は、請求項1に係る発明を、当業者が実施することができる程度に記載されているとはいえない。
--------------------------------------------------------------------------------------------


これに対し、被請求人の中外製薬は、上記のように補正し(下線部)、下記のように意見書で反論していました。


意見書-----------------------------------------------------------------------------------
3. 理由2について
 審査官殿は、平成231031日付拒絶理由通知において、下記のように認定されています。

(省略)

 拒絶理由通知においては、上記のように「本願明細書に具体的に記載されている血漿中半減期が長くなった抗体は、抗原の結合に影響しないアミノ酸残基を選択した中でも、特定のH鎖及びL鎖のごく限られたアミノ酸残基の位置をヒスチジンで置換した抗体のみであり」と認定されておりますが、本願明細書においては、例えば、再公表公報の段落0071から0079において可変領域の複数の個所にわたってヒスチジン残基が導入され得る個所を具体的に開示しているとともに、これらの変異を有する抗体が所望の結合活性を奏することは実施例で具体的に立証されています。また、定常領域の変異によって所望の性質を付与することは再公表公報の段落0084に開示されているとともに、定常領域においてアミノ酸が置換された複数の改変体(配列番号:30で表されるM58、配列番号:31で表されるM71および配列番号:32で表されるM73)が、pH依存的な抗原結合活性を発揮することは実施例12において実証されています。しかしながら、出願人は本願の審査の促進のため、アミノ酸が置換される部位が可変領域とする補正を行いました。当該補正によって、前記の認定を根拠とする拒絶理由は解消したものと出願人は思料します。

 また、拒絶理由通知においては、上記のように「請求項1に記載される発明の任意のアミノ酸残基の位置がヒスチジンで置換された抗体は、血漿中半減期が短い抗原への特異性及び/又は親和性が低いもの数多く含まれており」と認定されておりますが、本願明細書においては、例えば、再公表公報の段落0081において「抗原結合分子は、対象とする抗原への特異的な結合活性を有する物質であれば特に限定されないが、抗原結合分子の好ましい例として、抗体の抗原結合領域を有している物質を挙げることができる。」と定義されているように、抗原への結合活性を有するものに限定されており、抗原への結合活性を有しないものは除外されているため、「抗原への特異性及び/又は親和性が低いものが数多く含まれている」との認定は当たらないものと出願人は思料します。
--------------------------------------------------------------------------------------------


審査官はこの後、特許査定を通知しました。
意見書で引用されている段落0071から0079にはヒスチジン残基が導入され得る
個所の例が記載されていますが、ざっと読んだ感じでは、その個所が(実施例の抗体以外の)一般的な抗体に適用できることの論理的な説明はなさそうです。段落0084、段落0081も一行記載的に書かれているだけで、論理的な説明はなさそうです。
そうするとなかなか厳しい印象を受けますが、審査官は拒絶解消と判断しました。
なお、実施例を見てみると、
IL-6R抗体だけでなく、抗IL-6体(実施例16)、抗IL-31R抗体(実施例17)ついても変異実験を行っていました。


次に審決ですが、上記に似た議論がされています。


審決-----------------------------------------------------------------------------------
第5  当合議体の判断
・・・
e) また、請求人は、ヒスチジン変異の導入の対象となる抗体のレパートリーが非常に大多数であり、更に、対象となる抗体の可変領域中のヒスチジン変異が導入される位置やその組み合わせが膨大な数であるから、本件特許発明1に係る所定のpH依存的結合特性と血漿中半減期の延長を示す抗体を取得するには過度な実験を要する(審判請求書第12頁第13行~第1323行及び第14頁第23行~第25頁第14行)旨主張する。

 しかしながら、本件特許発明1は医薬組成物に係るものであるから、本件特許発明1に係るヒスチジン変異の導入の
対象は医薬組成物に用いられる抗体に限られており、請求人が主張するような非常に大多数の抗体ではない。
 また、上記c及びdで説示したとおり、発明の詳細な説明には、ヒスチジンscanningによりヒスチジン変異が導入された抗体ライブラリーの中から変異前と比較してKDpH5.8/KDpH7.4)の値が大きくなった抗体を選択する方法や、立体構造モデルを用いてヒスチジンの導入により抗原とのpH依存的結合を導入できると考えられるアミノ酸残基を選択する方法を用いて、所定のpH依存的結合特性を有する抗体を取得できることが記載されており、実際にそれらの方法を用いて、ヒスチジンの置換の位置の決定や、pH依存的結合特性を有し、血漿中半減期が延長された抗体の選択(スクリーニング)を行えたことも記載されている(特に、本件摘示12131520)から、たとえヒスチジン導入の対象となる抗体の可変領域中のアミノ酸残基の位置やその組合せが多数であるとしても、当業者は発明の詳細な説明に記載された上記の方法、すなわち、ヒスチジンscanning等の方法によって可変領域にヒスチジンが導入された抗体の中から、所定のpH依存的結合特性を満たすものについて、血漿中半減期が長くなったものを選択する作業を
繰り返して行えば、本件特許発明1に係る抗体を取得できるのであるから、本件特許発明1が実施可能要件違反となるものではない。なお、本件特許の出願日後に公知となった例ではあるが、前記甲35には、可変領域のCDRにヒスチジン置換を導入することにより、pH依存的結合特性を獲得した変異体を実際に取得できたことが記載されており(上記甲3-ア~甲5-エ)、これは上記判断と整合するものである。
 よって、当該抗体の取得に過度な実験を要するという請求人の主張は採用できない。」
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「対象は医薬組成物に限られており・・・」のところの「医薬組成物に用いられる抗体」が非常に大多数とはいえない理由が明確じゃない気がしますが、後半の言い回しは拒絶応答のときの参考になりそうです。


なお、サポート要件は以下のように判断されました。


審決-----------------------------------------------------------------------------------
(イ) サポート要件について
 特許請求の範囲の記載が、いわゆるサポート要件を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
 
a
 上記(ア)aで説示したとおり、本件特許発明1は、上記第2において認定した請求項1に記載のとおりの「抗体を含む医薬組成物」であって、当該「抗体」は、可変領域へのヒスチジン変異の導入により、所定のpH依存的結合特性を獲得することを通じて、血漿中半減期が長くなったという特性を備えるに至った抗体である。
 一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記12)ア(イ)で示したとおり、抗体医薬の技術分野において、投与量の低減及び持続性の延長のために、1の抗体で複数の抗原を中和し、in vivoで通常の抗体よりも効果を発揮する新規な抗体を提供することを課題とする発明が記載されており、上記(ア)で述べたところから明らかなとおり、かかる課題が抗体の可変領域へのヒスチジン変異の導入による所定のpH依存的結合特性の付与と、これを介した血漿中半減期の延長により解決できることも明らかにされている。
 してみると、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、当該発明の課題を解決できると当業者が認識し得るものといえる。
 よって、本件特許発明1は、サポート要件を満たすものである。」
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というわけで、特許は維持されました。

この特許は分割出願があり、特許
5824095、特許5503698についても無効審判が請求された後、維持されています。
各請求項1は下記の通りです。


・特許
5824095
【請求項1
少なくとも可変領域の1つのアミノ酸がヒスチジンで置換され又は少なくとも可変領域に1つのヒスチジンが挿入されていることを特徴とする、抗原に対するpH5.8でのKDpH7.4でのKDの比であるKDpH5.8/KDpH7.4)の値が2以上、10000以下の抗体であって、血漿中抗原消失能が増加した抗体を含む医薬組成物。

・特許
5503698
【請求項1】
少なくとも1つのアミノ酸がヒスチジンで置換され又は少なくとも1つのヒスチジンが挿入されていることを特徴とする、抗原に対するpH5.8でのKDpH7.4でのKDの比であるKDpH5.8/KDpH7.4)の値が2以上、10000以下の抗体であって、細胞外で結合した抗原を細胞内で解離する抗体を含む医薬組成物。



■デジタルメディスン「エビリファイ マイサイト」の米国承認と特許


極小センサーが内蔵された医薬品(錠剤)が米国で承認されました。服薬データが自動で記録され、それをスマホで確認できるようです。映画の世界みたいですね。

製品は大塚製薬のエビリファイ マイサイトです。エビリファイは統合失調症や双極性障害(躁鬱病)などの治療薬で、その錠剤に約3mmのセンサーが埋め込まれています。
大塚製薬のニュースリリースはこちらです。

・世界初のデジタルメディスン「エビリファイ マイサイト(Abilify MyCite」米国承認
http://www.otsuka.co.jp/company/release/detail.php?id=3319

エビリファイ マイサイトについて
「エビリファイ マイサイト」に使用される錠剤は、エビリファイの錠剤に摂取可能な極小センサーを組み込んで製造したものです。このセンサーは胃液に接するとシグナルを発し、患者さんの身体に貼り付けたシグナル検出器「マイサイト パッチ」が服薬の日時を記録します。その後センサーは体内で消化・吸収されることなく、安全に体外に排泄されます。「マイサイト パッチ」は患者さんの活動量などのデータも記録し、専用の「マイサイト アプリ」にデータを送信します。患者さんは「マイサイト アプリ」で服薬状況や活動量を確認することができ、気分や睡眠の状況を入力することも可能です。また、患者さんが同意をすれば、家族、医療従事者、介護者もデータを確認することができます。




日経ビジネスの記事も紹介しておきます。イラストがあるのでわかりやすいです。

・医療費削減に効く「飲むセンサー」大塚製薬の世界初“IoT薬”が米国で承認
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/112000826/?ST=pc

Abilify MyCite 



ざっと調べてみたところ、特許はプロテウス社が持っているみたいです。

・米国特許(出願US20100185055A1/登録US8858432B2
https://www.google.ch/patents/US20100185055
https://www.google.ch/patents/US8858432?hl=ja

・対応日本特許(JP5706504J-PlatPatのリンクはこちら

JP5706504
の請求項1は下記の通りです。広いですね。
請求項1は拒絶理由が出ておらず、補正無しで特許になっています。

「【請求項1
 
摂取可能な事象マーカであって、
  2
つの電極を含み、体液と接触したときに電池電圧を供給する電池セクションと、
  
識別コードを生成するIC回路と
 
を含み、
 
前記IC回路は、
   
前記識別コードを表すコード化された信号を生成する制御論理と、
   
インピーダンス検出回路であって、前記2つの電極間のインピーダンスを検出し、そして、インピーダンスの低下を検出したときに前記IC回路を活性化するインピーダンス検出回路と
 
を含む、摂取可能な事象マーカ。」



記事を読んでいて、パッチを体に貼り付けておくのが面倒そうだなぁと思い、もしかしてそれを課題にした改良出願してるかなと思ったら、それっぽい改良出願がありました。さすがです。

・パッチなしの改良特許(JP6144678J-PlatPatのリンクはこちら

この特許の課題と請求項1は下記の通りです(下線部は補正箇所)。

「【発明が解決しようとする課題】
0004
  IEM
デバイスの摂取を検出するパッチの着用に関連するさまざまな問題に対処するためには、パッチを撤廃し、モバイルデバイス(可搬装置)と直接通信を行う必要性がある。モバイルデバイスは、患者がパッチを着用する必要なく、控えめで人目に付かない方式のIEM通信を提供する。

【請求項1
 
摂取可能事象マーカによって生成される電気信号を検出する可搬装置であって、
 
摂取可能事象マーカによって生成される電気信号を検出装置から受信する検出サブシステムと、
 
前記電気信号を復号するために前記検出サブシステムに接続される処理サブシステムと、
 
復号された前記電気信号を無線ノードに送信するように構成される無線サブシステムと、
 
ハウジングと
  を備え、
  前記検出装置は前記ハウジングと一体化されていること
 
を特徴とする可搬装置。」



エビリファイは統合失調症や双極性障害(躁鬱病)などを適応症とした薬ですが、センサー内蔵の錠剤は他の適応症の薬でも開発されているのでしょうか。
調べてないのでわかりませんが、飲み忘れを予防する観点からは、認知症薬がよさそうに思います。

認知症薬(錠剤)は、に日本ではアリセプト、メマリー、レミニールがあります。アリセプトは特許切れで後発品もたくさん出ています。
センサー内蔵の錠剤を開発・発売できれば、他の薬と差別化できて売上を伸ばせるかもしれませんね。




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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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