■STAP細胞の特許出願の今(2017年9月)


STAP細胞の特許出願(
特表2015-516812)に拒絶理由通知書がでて、その後補正がされたそうです。

・日本の「STAP特許出願」拒絶理由にハーバード大が想定外の応答
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20170914-00075755/


というわけで、審査書類を見てみました。
まず、補正前の請求項1は下記のとおりです。(請求項74まであります。)

「【請求項1
細胞をストレスに供する工程を含む、多能性細胞を生成する方法。」



補正後の独立請求項は下記のとおりです。(下線は補正箇所です。)

「【請求項1
細胞を
pHストレスに供する工程を含む、Oct4を発現する細胞を含有する細胞塊を生成する方法であって、該低pHが、5.45.8pHであり、且つ、pHの調整がATPを用いて行われることを特徴とする、方法
【請求項20
細胞を、
pH5.45.8の低pHストレスに供する工程を含む、該細胞においてOct4遺伝子の発現を誘導する方法であって、ここで、pHの調整が、ATPを用いて行われることを特徴とする、方法。
【請求項21
細胞を、
pH5.45.8の低pHストレスに供する工程を含む、Oct4遺伝子を発現する細胞の製造方法であって、ここで、pHの調整が、ATPを用いて行われることを特徴とする、方法。



拒絶理由通知書では、新規性、進歩性、実施可能要件、サポート要件、明確性、産業上の利用可能性に関する拒絶理由が通知されました。
実施可能要件に関しては、審査官は以下のコメントをしています。

「・・・これを本願の発明の詳細な説明についてみると、その実施例において示された内容は上記両Nature論文と同内容のものと認められるところ、上述の論文取り下げ及び再現実験の結果という事情に鑑みれば、現時点においては、当該論文において確認された現象は、その信憑性については疑義があり、また、再現不可能なものというほかない。」
「仮に、発明の詳細な説明の記述に包含される条件のうち限られた特定の条件において、細胞をストレスに供することによって細胞を脱分化させて多能性細胞を生成することが可能であったとしても、本願発明の属する技術分野において通常の知識を有する研究者、すなわち当業者でさえ、その再現のためには試行錯誤、複雑高度な実験等を要し、細胞を脱分化させて多能性細胞を生成するに至っていないのであるから・・・」


つまり、再現できないし、仮にできたとしても、過度な試行錯誤を要するからNGっていっています。
まぁこれまでの経緯を考えるとそうなりますよね。

これに対して、出願人は上述の補正をしました。即ち、「STAP細胞」は「Oct4を発現する細胞」に補正され、「低pH」、「5.45.8pH」、「調整がATPを用いて行われること」の限定が加わりました。

ざっと読んだ感じでは、拒絶理由通知書ではOct4発現細胞についてまでは否定されていないようです。
たしか、小保方さんもOct4を発現する細胞を作ったと『あの日』の中で述べていたと思います。

明細書内にATPpHを調整したっていう直接的な記載がないのは気になりますが、ぐぐった感じではSTAP細胞の実験においてATPpH調整のために使っていたのは事実のようです。

・・・とはいいつつも、これで特許になりそうかというとそうもいかないだろうなという印象です。



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■バイオ医薬品の特許調査セミナーを開催しました!

 
昨日は、とある製薬会社の団体様からのご依頼で、バイオ医薬品の特許調査セミナーの講演をしてきました。
講演タイトル・目次は下記のとおりです。講演時間は2時間40分(休憩15分含む)で、参加者は60数名で、会場はいっぱいでした。

前半の「2. クリアランス調査」では、調査の考え方・進め方を単純に解説するだけでなく、仮想事例を私の方で作った上で、実際に検索した結果を紹介しながら、具体的にどのように検索式を作るとよいかということも解説しました。さらに、バイオ医薬品の調査に特有の留意点がいくつかあるので、それらを解説しました。

後半の「3. 無効資料調査」では、先日のバイオ医薬EXPOのときと同様に、バイオ医薬特許の異議申立・無効審判事例を紹介しました。ただ今回は検索事例をつけたり、調査の観点から何ができるかという点をより詳しく解説しました。

せっかく会場まで足を運んで頂きましたので、参加者の皆様が参考になったと思える点を何かご提供できていればなと思っています。

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■タイトル
バイオ医薬品の特許調査手法と無効審判・異議申立への応用

■目次
. 基本事項のおさらい
 1.1  バイオ医薬品とは
 1.2  特許調査の種類

. クリアランス調査
 2.1  クリアランス調査の基本
   2.1.1  クリアランス調査とは
   2.1.2  クレームが大事
   2.1.3  バイオ医薬特許のクレームの例
   2.1.4  抗体医薬特許に特有のクレーム限定の例
   2.1.5  核酸医薬特許に特有のクレーム限定の例
 2.2  PD-1抗体の調査事例
 2.3  バイオ医薬品のクリアランス調査の留意点

. 無効資料調査
 3.1  無効資料調査の基本
  3.1.1  無効資料調査とは
  3.1.2  実施例・実験結果が大事
  3.1.3  鑑定的な観点で読む・探す
 3.2  無効資料調査の異議申立・無効審判への応用
  3.2.1  異議申立・無効審判の流れ
  3.2.2  近年のバイオ医薬特許の異議申立・無効審判事例と検索例
   3.2.2.1  アクテムラ製剤特許の無効審判事例
        ~ポリクロとモノクロを組み合わせるのは難しい~
   3.2.2.2  オプジーボ用途特許の異議申立事例の無効審判事例
        ~多数列挙中の一行記載の弱さ~
   3.2.2.3  ハーセプチン用法用量特許の無効審判事例
        ~シミュレーションが薬理データの代わりになる?~
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■ハーセプチン用法特許の無効審判事例 ~後出しデータの参酌の可否~

 
<審決紹介>
・無効2016-800021
・審決日:20161227
・合議体:審判長 特許庁審判官 内藤伸一、審判官 渡邉潤也、審判官 齋藤恵
・請求人:セルトリオン・インコーポレイテッド
・被請求人:ジェネンテック,インコーポレイテッド
・特許5623681
・発明の名称:抗-ErbB2抗体による治療


■コメント
前回のブログでハーセプチンの用法用量をカバーする特許の無効審判をご紹介しましたが、今回はハーセプチンの用法をカバーする別の特許に対する無効審判をご紹介します。

時期は今回の審決日が20161227日なので、少し前の事例になります(前回紹介した無効審判の審決日は201775日です)。請求人、被請求人は同じです。

争点は、新規性、進歩性、原文新規事項です。
下の画像で進歩性について簡単に解説しています。
先日のバイオ医薬EXPOのときに資料を作っていたのでアップしてみました。

本件特許の実施例には効果が未来形で書かれていたのですが、後出しの実験データ(乙15)が考慮され、本件特許発明の効果は予測し得たとはいえない(進歩性あり)と判断され、特許は維持されました。
その後、5
10日に審決取消訴訟が提起されています。



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・・・記載要件違反も主張しておくとよかったかもしれないですね。



■用法用量特許の実施可能要件が明細書に記載のないコンピュータシミュレーションにより認められた審決例

 
<審決紹介>
・無効2016-800071
・審決日:201775
・合議体:審判長 特許庁審判官 福井美穂、審判官 大久保元浩、審判官 關政立
・請求人:セルトリオン・インコーポレイテッド
・参加人:ファイザー・ホールディングズ合同会社
・被請求人:ジェネンテック,インコーポレイテッド
・特許5818545
・発明の名称:抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ


■コメント
今回紹介するのは、ハーセプチンの用法用量をカバーする特許に対する無効審判です。
争点は、進歩性と実施可能要件です。

本件特許の請求項1は下記の通りです。主な特徴は青色の部分です。

「【請求項1】
iErbB2抗体huMab4D5-8を含有し、8mg/kgの初期投与量と6mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに3週間の間隔をおいて静脈投与することにより、HER2の過剰発現によって特徴付けられる乳癌を治療するための医薬組成物が入っている容器、及び(ii)前記容器に付随するパッケージ挿入物を具備するパッケージ。」

※以下、請求項1の投与方法を8/6/3投与と略します。


▼進歩性について
請求人のセルトリオン社は、無効理由を主張するに当たり、甲123を提出しました。
1WO99/31140)には、ハーセプチンを4mg/kg投与後、次週から毎週2mg/kgの条件で投与した結果、治療効果があったことが記載されています。
本件特許が8/6/3投与なのに対し、甲14/2/1投与です。
その他の甲文献に8/6/3投与の直接的な記載はないようです。

一方で、本件特許明細書には8/6/3投与の実験
データの記載はありません。未来形/現在形の記載はあります。4/2/1投与の実験データ(後述の表2及び図3含む)はあります。

これに対して、審判官は以下の判断をしました。

「 甲1-2発明では、MAb4D5-8を、4mg/kgの初期投与量と2mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに1週間の間隔をおいて投与する用法・用量、即ち4/2/1投与計画、が用いられるところ、当該4/2/1投与計画に代えて8/6/3投与計画を用いることについては、甲第1号証中には記載も示唆もされていない。また、抗体の投与量に関し、甲第1号証には、病気の種類及び重症度に応じ約1μg/kgないし15mg/kg(例えば0.1-20mg/kg)の抗体が一又は複数の別個の投与又は連続注入で最初に投与され得ることや、典型的な一日の投与量が約1μg/kgから100mg/kgあるいはそれ以上の範囲であることや、数日間又はそれ以上の繰り返し投与の場合、状態によっては病気の徴候の望ましい抑制が生じるまで処置を維持され得る旨の記載がみられるものの(1f)、かかる記載を含む甲第1号証の全体をみても、甲1-2発明の4/2/1投与計画に代えて、初期投与量/維持投与量/投与間隔の組合せ方において全く異なる8/6/3投与計画を採用することを具体的に想起させる記載を、甲第1号証中に見出すことはできない。

 また、甲第1号証は、甲1-2発明の4/2/1投与計画を現実に長期間、例えば本件特許明細書の実施例2及びその結果を示す図3において示される36週間程度、にわたり採用し実行することで、投与されたMAb4D5-8がヒト患者内で経時的にどのような血中動態変化を示すのか、について、例えば本件特許明細書の表2及び図3で挙げられているような具体的な血中動態プロファイル情報を示すものですらない。

 してみると、そのような現実のMAb4D5-8の経時的血中動態プロファイルデータを有さない、甲第1号証に記載された4/2/1投与計画に係る試験結果のみに基づいて、甲1-2発明のように投与間隔を1週間としなくとも、初期投与量を8mg/kg、維持投与量を6mgとすることで、より少ない投与頻度(投与間隔:3週間)でも、36週間程度の長期の投与期間にわたりMAb4D5-8の有効血中濃度が維持されて治療効果が持続的にもたらされ、かつ重篤な副作用も生じない、ということを推測することは、当業者といえども容易になし得なかったというほかはない。


(ii-2) また、以下のア~オに述べるとおり、甲第2~6号証のいずれを併せ参酌しても、MAb4D5-8を、甲1-2発明の4/2/1投与計画に代えて8/6/3投与計画を用いて投与すること、並びに、そのようにしても、4/2/1投与計画より投与頻度が少ないにもかかわらず投与期間にわたりMAb4D5-8の血中有効濃度が維持されて治療効果が持続的にもたらされ、かつ重篤な副作用は生じないであろう、ということを当業者が推測するに足る根拠となる記載乃至示唆を見出すことはできない。


2等に対する判断や、請求人の主張に対する判断も示されましたが、ここでは省略します。
結果、進歩性はあると判断されました


▼実施可能要件について
請求人のセルトリオン社は、8/6/3投与の薬理試験結果が明細書に記載されていないことに基づいて、実施可能要件違反の無効理由を主張しました。

これに対して、被請求人のジェネンテック社は、優先日前に決定されたハーセプチンの半減期が不正確であったこと、4/2/1投与の実験データ(表2及び図3)をもとにシミュレーションを行うことで8/6/3投与でも治療結果(目標トラフ濃度の維持)が得られることは当業者は理解できること、について反論しました。

請求人の主張に対して、審判官は以下の判断をしました。

「(i)主張1)、2)は、要するに、以下の<1>、<2:
1>特許明細書等には、8/6/3投与計画を実際に行った薬理試験結果が記載されていない[11-3)~1-4];
2>本件特許特許出願の前後にわたり、MAb4D5-8の半減期は5.8日~約1週間程度と考えられており(甲第14号証によれば、特許明細書等の図3と同じデータに基づいてでさえ6.0日程度とみられていた)、このような短い半減期と認識されていたMAb4D5-88/6/3投与計画という3週間の投与期間を採用した場合には(その半減期の短さ故に)治療期間にわたり目標トラフ濃度を維持し得るとは考えられなかった[11-1)~1-2)、22-1)~2-4];
という点に基づくものと解される。
 
ii)しかしながら、上の4-2-1.4-2-2.で既に検討したとおり、8/6/3投与計画を実際に行った薬理試験結果がなくとも、表2及び図3のデータに基づいて、MAb4D5-82-コンパートメントモデルにフィットする血中動態を示すこと、及び、そのことに基づいて8/6/3投与計画を実行した場合のMAb4D5-8の経時血中動態のシミュレーションを行うことで、治療期間にわたり目標トラフ濃度が維持できることは、当業者であれば理解し得たといえる。
 よって、8/6/3投与計画を実行した現実の薬理試験結果の提供がないからといって、本件発明について特許明細書の発明の詳細な説明がいわゆる実施可能要件を満たしていない、ということにはならないから、上の<1>に基づく請求人の主張はいずれも採用できない。
 
 また、請求人が引用する甲第2号証や甲第10111316号証における、半減期が1週間程度である旨の見解は、いずれも、治療期間が8週間程度の短期間に限った場合、或いは、MAb4D5-8の血中動態が1-コンパートメントモデルに従うものであることを前提とした推測の域を出るものではない。例えば、甲第15号証では、8週以降の32週までにわたるようなより長期の治療期間においてはもっと長時間の半減期が考えられ、この点1-コンパートメントモデルを前提とした場合には説明できないことも併せて示唆されているのである。
 これらの記載を併せみれば、本件特許出願の出願日までにおいて、MAb4D5-8の半減期が1週間程度であることは、被請求人を含め、当業者にとり技術常識として定着していたとはいえず、むしろ、被請求人が述べるとおり、本件特許出願時においては、MAb4D5-8のような抗体の「in vivo特性に関する知識は、特にその薬物動態及び薬力学特性に関して、時間の経過により変化し」、また、「抗ErbB2抗体huMab4D5-8の薬物動態を予測するための技術知識は十分でなかった」(答弁書第7/42頁第56行、910行)、とみるのが相当である。
 そして、この認識は、MAb4D5-8の薬物動態の詳細な解析のため、表2のピーク/トラフ血清濃度の経時変化データ、及び図336週という比較的長期の治療期間にわたるトラフ血清濃度の経時変化データをあわせ、周知の薬物動態モデル(1-コンパートメントモデル/2-コンパートメントモデル)へのフィッティング解析にかけたところ、MAb4D5-8の血中動態は1-コンパートメントモデルでなくむしろ2-コンパートメントモデルに良くフィットし、かかるフィッティング解析結果に基づいたシミュレーションを行えば、8/6/3投与計画を実行した場合でも上記長期の治療期間にわたり目標トラフ血清濃度は十分に維持されると推測できることが見い出された、という、上述の乙第9号証等に基づく被請求人の見解、並びにそれらを踏まえた上の4-2-1.4-2-2.の検討結果とも、何ら矛盾するものではない。
 したがって、上記<2>の点を踏まえた請求人の主張もまた、本件特許出願時の技術背景等を適切に把握した上でのものとはいえず、いずれも採用できない。」


ということで、実施可能要件を満たしていると判断されました

実験データが無くてもシミュレーションで推測
できればOKっていうのはすごい判断だなという印象です。しかも、明細書にシミュレーションで推測できるっていう記載はないようです。はたして知財高裁はこの判断を支持するのでしょうか。

・・・あとは、甲1等の実験データをもとにいろんな条件でシミュレーションして、8/6/3投与による治療効果が予測されるっていう結果を導いて進歩性を否定するっていうのはどうかなって思ったり。




■Pharm Tech Japanの取材を受けました!


医薬品の製剤と製造の専門誌「Pharm Tech Japan」の取材を受けました。

Pharm Tech Japan
http://www.jiho.co.jp/tabid/164/Default.aspx

Pharm Tech Japan
の「創薬創剤人」という連載に載るそうです。いつもは医薬品の製剤や製造に関わる方に取材しているそうですが、今回は趣向を変えて特許関係者のコメントがほしいとのことでした。
Pharm Tech Japan
といえば、ほとんどの製薬会社が購読している有名な雑誌ですので驚きました。

取材の内容は、人にフォーカスした感じで、経歴、仕事の種類・概要、仕事感、やりがいなどの話がメインだったように思います。あとは、セミナーやったり、論文書いたり、サイト運営なんかもやってるので、その辺のことも質問をいただきました。

取材の内容を見開き2ページにまとめて掲載していただけるそうです。楽しみです。


tag : 医薬 取材

■測定方法を適切に再現できないから実施可能要件/明確性要件違反と判断された事例

 
<判決紹介>
平成28(行ケ)10205 特許取消決定取消請求事件
・平成29614日判決言渡
・知的財産高等裁判所第1部 清水節 中島基至 岡田慎吾
・原告:キッコーマン株式会社、日本デルモンテ株式会社
・被告:特許庁長官
・特許5694588
・発明の名称:加工飲食品及び容器詰飲料


■コメント
異議申立の取消決定に対する取消訴訟です。異議申立人は川田真衣(個人)です。

クレームに「不溶性固形分の割合」の数値限定がありましたが、その測定方法を当業者が適切に再現できないことを理由に、実施可能要件及び明確性要件を満たさないと判断されました。

請求項1は以下の通りです。

「【請求項1
 野菜または果実を破砕して得られた不溶性固形分を含む加工飲食品であって,
 6.5メッシュの篩を通過し,かつ16メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合10重量%以上であり,
 16メッシュの篩を通過し,かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合5重量%以上25重量%以下である
 ことを特徴とする加工飲食品。」


取消決定の理由は以下の通り。

  (1)  実施可能要件(特許法3641号)について
 
本件明細書の段落【0038】の「サンプルを上述のように水で3倍希釈してもなお粘度を有している場合は,たとえメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩上に残存する場合があり,その場合は適宜水洗しメッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分を正しく測定する必要がある。」との記載によれば,不溶性固形分の測定に当たり,「なお粘度を有している」か否かの判断基準が必要となる。また,「適宜水洗」する程度についても,何らかの手順等の特定が必要となる。
 
しかしながら,本件明細書においては,何をもって粘度を有していると判断し,水洗が必要であるとするのか,その基準が開示されていない
 
本件発明(本件特許の請求項19に係る発明)が対象とする加工飲食品は,その組成からみて多少の粘度を有していることは明らかであるところ,「なお粘度を有している」ことについての基準が開示されていなければ,その後の水洗の要否を当業者は判断することはできない。そして,水洗が必要であると判断した場合であっても,水洗の手順によって測定結果が大きく変化することは当業者において容易に想像し得るところ,水洗をどのような手順で行うか(例えば,どの程度の水量で,どの程度の水の勢いで水洗するか等)についても何ら開示はされていない
 
よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明の「不溶性固形分の割合」の測定方法を当業者が適切に再現することができない。  
 
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められず,特許法3641号に規定する要件を満たしていない。 

  (2) 
明確性要件(特許法3662号)について
 
本件特許の請求項1に記載された「不溶性固形分の割合」は,上記(1)のとおり,その測定方法が当業者に適切に再現することができないものとなっているため,結局,「不溶性固形分の割合」としてどのようなものが特定されているのか明らかでなく,特定しようとする発明を不明確にしている。請求項1を引用する請求項29についても,同様である。
 
よって,本件特許の請求項19の記載は,特許法3662号に規定する要件を満たしていない。」



裁判所の判断は以下の通り。

(2)  検討
 
明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることを要する(特許法3641号)。本件発明は,「加工飲食品」という物の発明であるところ,物の発明における発明の「実施」とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法231号),物の発明について実施をすることができるとは,その物を生産することができ,かつ,その物を使用することができることであると解される。
 
したがって,本件において,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,本件発明に係る加工飲食品を生産し,使用することができるのであれば,特許法3641号に規定する要件を満たすということができるところ,本件発明に係る加工飲食品は,不溶性固形分の割合が本件条件(6.5メッシュの篩を通過し,かつ16メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が10重量%以上であり,16メッシュの篩を通過し,かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下である)を満たす加工飲食品であるから,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,このような加工飲食品を生産することができるか否かが問題となる。
・・・

 しかしながら,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に塊となって残存している場合に追加的に水洗をすると(段落【0038】),本件明細書の段落【0036】に記載された本件測定方法(測定対象サンプル100グラムを水200グラムで希釈し,各メッシュサイズの篩に均等に広げて,10分間放置するという測定手順のもの)とは全く異なる手順が追加されることになるのであるから,このような水洗を追加的に行った場合の測定結果は,本件測定方法による測定結果と有意に異なるものになることは容易に推認される。このように,本件明細書に記載された各測定方法によって測定結果が異なることなどに照らすと,少なくとも,水洗を要する「なお粘度を有する場合」であって,「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に塊となって残存している場合」であるか否か,すなわち,仮に,篩上に何らかの固形分が残存する場合に,その固形物にメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が含まれているのか,メッシュ目開きよりも大きな不溶性固形分であるのかについて,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて判別することができる必要があるといえる(本件条件を満たす本件発明に係る加工飲食品を生産することができるといえるためには,各篩のメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分により形成される塊が篩上に残存する場合であるか否かを判別することができることを要する。)。

 
しかしながら,本件測定方法によって不溶性固形分を測定した際に,篩上に残存しているものについて,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が含まれているのか否かを判別する方法は,本件明細書には開示されておらず,また,当業者であっても,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に照らし,特定の方法によって判別することが理解できるともいえない(篩上に残存しているものが,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分を含むものであるのか否かについて,一般的な判別方法があるわけではなく,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,測定に使用される篩は,目開きが16メッシュ(1.00㎜)又は35メッシュ(0.425㎜)のものと認められるから,篩上に残った微小な不溶性固形分について,単に目視しただけでは明らかではないといわざるを得ない。)。
 
そうすると,当業者であっても,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて,その後の水洗の要否を判断することができないことになる。
 
したがって,本件発明の態様として想定される,「測定したいサンプル100グラムを水200グラムで希釈」しても「なお粘度を有している場合」(段落【0038】)も含めて,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて,本件条件を満たす本件発明に係る加工飲食品を生産することができると認めることはできない。
 
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明は,本件発明を当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているものと認めることはできない。

(3) 
原告らの主張について
・・・
  原告らは,本件明細書の段落【0038】の「なお粘度を有している場合」との記載は,例外的に本来であれば通過しなければならないような大きさの不溶性固形分が篩に残る場合,例えば,不溶性固形分がメッシュよりも明らかに大きな塊となっている場合を想定し,本件測定方法を実施する上での注意的な事項として付記的に記載したものであり,ほとんどの場合,本件明細書全体から判断し,追加的に粘度の判定及び水洗を実施せずに,段落【0036】に記載された本件測定方法によって不溶性固形分の測定を行えばよいと判断できる旨主張する。

 しかしながら,仮に,原告らの主張するように,「なお粘度を有している場合」(段落【0038】)が例外的な場合であったとしても,本件発明の対象である加工飲食品には限定がなく,本件明細書上,上記のような粘度を有する場合が想定されるのであるから,水洗をすることによって各篩上の不溶性固形分の重量を正しく測定することが必要となるのであり,そうである以上,水洗の要否を判断するために,サンプルが「なお粘度を有している場合」であって,「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に残存する場合」に該当するか否かを判別することを要する(もっとも,本件明細書には,その判別方法が開示されておらず,当業者であっても,その後の水洗の要否を判断することができないのは前記認定のとおりであり,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。)。
 
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

  原告らは,「なお粘度を有している場合」(段落【0038】)について,本件測定方法によれば,不溶性固形分の割合が本件条件を満たさないものとなること(ケース13)が想定され,本件発明の範囲外となるから,本件明細書の段落【0038】の記載は,そもそも本件発明の実施に無関係であり支障はないとも主張する。
 
しかしながら,本件測定方法によっても,サンプルが「なお粘度を有している場合」であって,「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に残存する場合」には,適宜,水洗を行い,更に不溶性固形分の重量を実際に測定することで,本件発明に係る加工飲食品が製造されたか否かを確認することになり,その結果,本件条件を満たし,本件発明の技術的範囲を充足することもあり得るのであるから,原告らの想定する事例について,直ちに,本件発明の技術的範囲外のものということはできない(なお,仮に,本件明細書の段落【0038】の記載が本件発明の実施に無関係のものと考えるのであれば,少なくとも訂正請求の手続において削除すべきものと解される。)。
・・・

結論
 
以上のとおり,原告ら主張の取消事由1は理由がなく,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告らの請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。」



結構前ですが、平均粒子径が不明確って判断された事例もありました(
平成20()10013号 特許権侵害差止等請求控訴事件)。


■第1回 バイオ医薬EXPOのセミナー資料完成!


先日ブログでご紹介した通り、629()にバイオ医薬EXPOでセミナーを行うのですが、その講演資料が完成しましたので、事務局へ納品しました。
講演タイトル、目次は以下のとおりです。

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■タイトル
バイオ医薬品の特許出願動向と最新の特許訴訟・無効審判・異議申立事例

■目次
1.
バイオ医薬品とは

2.
特許出願の基本
  2.1  出願書類
  2.2 
出願から特許取得までの流れ
  2.3 
特許をとるために必要な主な要件
  2.4 
オプジーボ(抗PD-1抗体)特許の特許公報
  2.5 
バイオ医薬特許のクレームの例
  2.6 
抗体特許に特有のクレーム限定の例
  2.7 
核酸医薬特許のクレームの例

3.
抗体医薬関連特許の出願分析
  3.1  RANKL抗体の出願分析
  3.2 
抗グリピカン3抗体の出願分析
  3.3 
IL-6R抗体
の出願分析

4.
バイオ医薬品特許の訴訟事例
  4.1  オプジーボ/キイトルーダ(抗PD-1抗体)の事例
  4.2 
レパーサ/プラルエント(抗PCSK抗体)の事例
  4.3 
ヒュミラ(抗TNF-α抗体)の事例
  4.4 
ニューポジェン/ザルシオ(G-CSF)の事例
  4.5  CRISPR-Cas9
(ゲノム編集技術)の事例

5.
バイオ医薬品特許の異議申立・無効審判の事例
  5.1  異議申立・無効審判の流れ
  5.2  2015
年以降のバイオ医薬特許の異議申立・無効審判の事例
    5.2.1 
アクテムラ製剤特許の無効審判事例 ~ポリクロとモノクロを組み合わせるのは難しい~
    5.2.2 
アクテムラ併用特許の無効審判事例 ~併用の効果が単剤より高いのは予想外?~
    5.2.3 
レパーサ競合品特許の無効審判事例 ~競合抗体クレームの有効性~
    5.2.4 
オプジーボ用途特許の異議申立事例 ~多数列挙中の一行記載の弱さ~
    5.2.5 
ハーセプチン用法特許の無効審判事例 ~後出しデータの参酌の可否~
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講演の持ち時間が50分なのですが、PPTスライドが89枚あります。
89
枚は本来多すぎると思いますが、全てのスライドについて詳細に解説する予定はなく、解説しきれない部分は興味があれば各自後で読んでいただくことを想定しています。

今回は訴訟・異議・無効審判を中心にしたいとおもっているので、目次の前半部分はささっと終わらせて、後半部分(主に5)に時間をかけたいと思っています。

目次の5.2.15.2.5の無効審判と異議申立の事例については、新しい事例なので解説したセミナーはほとんどないんじゃないかなと思います。
無効審判と異議申立の結果については、いずれも特許権者に有利な結果になっています。今後、審決取消訴訟が提起される(又は無効審判が請求される)可能性が高いと思いますので、そんな進行中のものについてコメントはしにくいのですが、せっかくの機会なので、自分が請求人(又は申立人)側だったらどんな主張ができるかについても少しコメントする予定です。


セミナーの申込み方法などの情報は、下記ページに記載しています。

(629) 「第1回 バイオ医薬EXPO」でバイオ医薬特許の講演をします。



■(6月29日) 「第1回 バイオ医薬EXPO」でバイオ医薬特許の講演をします。


6月29日(木)に、「第1回 バイオ医薬EXPO」で講演させていただくことになりました。
バイオ医薬EXPOのサイトは「http://www.biopharma-expo.jp/」です。

講演タイトルなどは下記の通りです。

■タイトル
バイオ医薬品の特許出願動向と最新の特許訴訟・無効審判・異議申立事例

■講演者
SK特許業務法人 徳重大輔

■講演内容
最近話題のバイオ医薬品をいくつか取り上げ、製品毎にどのような特許出願がされているかを解説する。さらに、ここ1~2年のバイオ医薬品の特許訴訟、無効審判、異議申立の事例を解説する。取り上げるバイオ医薬品としては、抗体医薬(抗PD-1抗体など)が半分以上で、残りは核酸医薬、iPS細胞などを予定している。

■日時等
・日時:2017年6月29日(木) 14:00-15:00
・会場:東京ビッグサイト
・受講料金:3000円

■サイト
バイオ医薬EXPOのセミナー一覧 
PDFデータ
申込みのページ


過去にバイオ医薬品特許のセミナーをしたことがあるのですが、そのときは明細書作成とか、OA応答とかの権利化実務に直結した内容でした。ただ、これだとバイオ医薬EXPOの趣旨とは合いにくいかなと思い、今回は特許の訴訟・無効審判・異議申立関係の内容をメインにしました。
資料はほぼ全てこれから作る予定です。訴訟や異議の件数の話ではなく、具体的な事例を挙げて、無効理由・論理構成などの具体的な内容に踏み込んだ話にしようと思っています。あと2ヶ月以上あるので、何とか時間を空けて資料を作ろうと思います。

バイオ医薬EXPOは、インターフェックスジャパン(http://www.interphex.jp/)やBIO tech 2017(http://www.bio-t.jp/)などの展示会と同日に開催されます。展示会への参加は無料です。セミナーは有料と無料があるようです。
各セミナー・基調講演への講師紹介割引もありますので、ご興味のある方はご連絡ください。

皆様のご参加を心よりお待ちしております。


▼関連ページ
(2月25日) バイオ医薬品特許のセミナーを開催します。


プロフィール

徳重大輔


Author: 徳重大輔

バイオ、医薬、特許関連のブログです。
業界動向や知財判決などの情報をアップしていきます。
SK特許業務法人に勤務しています。
お問い合わせはこちらのメールアドレスへお願いします。

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