■動機付け

■<ゾニサミドの維持審決取消訴訟> 既存薬と共通のメカニズムを有することが知られていても、作用が同程度である証拠がないため、動機付けられないと判断された事例


<判決紹介>
・平成30年(行ケ)第10098 審決取消請求事件
・平成31325日判決言渡
・知的財産高等裁判所第1 高部眞規子 杉浦正樹 片瀬亮
・原告:テバ・ホールディングス合同会社
・被告:大日本住友製薬株式会社
・特許3364481
・発明の名称:神経変性疾患治療薬


■コメント
少し前の判決の紹介です。
最近ブログを更新できてなかったのですが、台風で時間ができたので判決紹介記事を書きました。
本日から3つ判決をアップしていきます。

本件は、特許無効審判の維持審決の取消訴訟です。
後発品メーカー vs 新薬メーカーです。
先発品はトレリーフ(ゾニサミド)で、後発品は現時点でありません。


経緯は以下のとおりです。

・平成101221日:特許出願
・平成141025日:特許登録
・平成29830日:無効審判請求
・平成30613日:維持審決
・平成30720日:取消訴訟提起
・平成31325日:判決 いまココ


無効審判は過去のブログ記事で紹介しています。

・トレリーフ(ゾニサミド)用途特許に対する無効審判、結果は特許維持

https//biopatentblog.blog.fc2.com/blog-entry-211.html


本件特許の請求項1は以下のとおりです。

「【請求項1
ゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩を有効成分とする神経変性疾患治療薬。」


本件発明と甲1一致点・相違点は以下のとおりです。

「ア  引用発明
ゾニサミドを有効成分とする抗てんかん薬であって,ゾニサミドの投与量が20mg/kg,50mg/kgであり,雄のwistarラットの線条体のドパミンの細胞外濃度が上昇する作用を示す,抗てんかん薬。

  本件発明1と引用発明との一致点及び相違点
(ア)  一致点
ゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩を有効成分とする医薬。
(イ)  相違点
医薬について,本件発明1では「神経変性疾患」を治療対象とするのに対して,引用発明では「てんかん」を治療対象としている点。」


裁判所の判断は以下のとおりです。ゾニサミドの治療対象をパーキンソン病等の神経変性疾患とすることの動機付けがないとして、進歩性ありと判断しました。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
当裁判所の判断
・・・

2  本件発明1と引用発明との対比
本件発明1と引用発明との一致点及び相違点が前記第232)イのとおりであることは,当事者間に争いがない。
なお,引用例には,ゾニサミドが抗てんかん薬であることが開示されており(前記(1)ア),本件発明1と引用発明との一致点及び相違点が上記のとおりであることによれば,本件発明1と対比すべき引用発明は,「ゾニサミドを有効成分とする抗てんかん薬」と認定するのが相当である。
3)引用発明において,相違点に係る本件発明1の構成を採用する動機付けの有無
  引用例における示唆
前記(1)によれば,引用例は,抗てんかん薬であるゾニサミドについて,ドパミン作動系に対する作用機序を解明することを目的として((1)ア),健常動物を用いた実験を行い((1)イ),線条体におけるドパミン,ドパミン前駆体,ドパミン代謝物の挙動を測定することにより((1)ウ~オ),ゾニサミドによるドパミン合成促進を検討するとともに,ゾニサミドのMAO活性阻害作用によるドパミン分解阻害を検討し,ゾニサミドの用量と薬理作用,副作用との関係を考察するもの((1)カ),ということができる。
そうすると,引用例は,ゾニサミド2050mg/kgを短期投与すると,線条体ドパミン量が増加すること,MAO-B活性の阻害によりドパミン分解が阻害されることを示唆するものではあるが((1)カ),その示唆は,あくまでも,健常動物を用いた実験に基づくものということができる。

  3文献
(ア)  3文献に開示された事項
3文献は,抗てんかん薬であるカルバマゼピン及びゾニサミドの作用機序解明を目的として,両剤のmonoamineMA)遊離,代謝,再取り込みに対する効果について,雄性Wistar系ラットを用いて検討したものである。(要約)そして,甲3文献には,治療用量(20及び50mg/kg/day)のゾニサミドの投与により線条体ドパミン濃度は有意に増加するが,過剰用量(100mg/kg/day)のゾニサミドの投与により線条体ドパミンが減少したことが実験結果とともに示されている。(図1-a,図6
また,甲3文献には,ゾニサミドが,モノアミン酸化酵素(MAO-A)とモノアミン酸化酵素(MAO-B)の両方の酵素活性を阻害し,MAO-Aに比べるとMAO-Bの阻害は強いものの,MAO活性の阻害は軽度であることが実験結果とともに示されている。(349頁右欄2行~8行,図9
そして,甲3文献には,実験結果から,ゾニサミドのMAO-Bに対するIC50660μMであり,このMAO-B阻害作用により,細胞外DOPAC濃度の低下は説明し得るが,これが細胞外DA濃度増加の主要機序とは考え難く,過剰用量の投与によるMAの細胞外濃度減少にも直接的な関与は少ないなどと考察された上で,治療濃度のゾニサミドによるMA系機能増強作用が抗てんかん作用の一部を説明し得るものと考えられるなどと要約されている。(要約,考察(350頁右欄下から5行~351頁左欄3行))。

(イ)  3文献における示唆
前記(ア)によれば,甲3文献は,ゾニサミド20又は50mg/kg/日を投与すると,線条体ドパミン量が増加すること,ゾニサミドのMAO-Bに対するIC50660μMであることを示すものであるが,これらの実験結果は,あくまでも,健常動物を用いた実験に基づくものということができる。

  技術常識
(ア)  健常動物と疾患モデル動物の相違
29(亀井千晃ほか「新薬開発における動物実験の問題点」岡実動研報第41417頁(昭和61年))には,薬理実験を行う際の問題点について「薬物は疾患時に用いるのに,動物実験を行う場合には正常動物を用いているというギャップがある。これらの欠点を補う為,最近では数多くの疾患モデル動物が作成され,薬物の評価判定に用いられている。」と記載されている(17頁)。甲30(「医薬品の開発」鹿取信ほか編「標準薬理学第5版」3537頁(株式会社医学書院,平成9年発行))には,「医薬品は病気のヒトに用いられるのに,薬効管理,安全性試験は,主に正常な動物が用いられるという点が問題である。最近は…いろいろな方法でヒトの病気に近い状態を起こした疾患モデル動物が用いられている。」と記載されている(37頁)。

そして,甲8(久野貞子「Parkinson病の治療,現状と新しい流れ」神経精神薬理Vol.14No.12773781頁(星和書店,平成4年発行))には,「Parkinson病患者では大部分(80%以上)の黒質線条体ドーパミン神経は消失しているが…」と記載され(776頁),健常動物とパーキンソン病疾患モデル動物とでは,黒質線条体内のドパミン神経の量に大幅な相違があることが示されている。また,甲31G.GERHARDTほか「Dopaminergic Neuroto xicity of 1-Methyl-4- Phenyl-1,2,3,6-TetrahydropyridineMPTP in the Mouse An in vivo Electrochemical StudyTHE JOURNAL OF PHARMACOLOGY AND EXPERIMENTAL THERAPEUTICS Vol.235, No.1259265頁(昭和60年))には,健常マウスとパーキンソン病疾患モデルマウスとの間では,KCl(塩化カリウム)によるドパミン量の増加量に大きな相違があることが示されている(図5)。さらに,甲32David S. Rothblatほか「Regional Differences in Striatal Dopamine Uptake and Release Associated with Recovery from MPTP-Induced Parkinsonism An In Vivo Electrochemical StudyJournal of Neurochemistry Vol.72, No.2724733頁(平成11年))には,健常ネコでは,KClによるドパミン増加量は大きかったのに対し,パーキンソン病疾患モデルネコでは,増加がほとんど生じなかったことが示されている(表3)。

加えて,甲7Stacey A. Jones-Humbleほか「THE NOVEL ANTICONVULSANT LAMOTRIGINE PREVENTS DOPAMINE DEPLETION IN C57 BLACK MICE IN THE MPTP ANIMAL MODEL OF PARKINSONS DISEASELife Sciences Vol.54,No.4,245252頁(平成6年))では,パーキンソン病疾患モデル動物を用いた実験結果を基にして,ラモトリジンの臨床的有用性をパーキンソン病の治療にも広げられる可能性があることを示唆するとの結論を得るに至っている(245251頁)。
一方で,健常動物における線条体ドパミン量の挙動が,パーキンソン病疾患モデル動物における線条体ドパミン量の挙動と相関することを示す証拠は見当たらない。そうすると,当業者は,本件優先日当時,健常動物で得られた線条体ドパミン量の挙動は,パーキンソン病疾患モデル動物における線条体ドパミン量の挙動を必ずしも示すものではないとの技術常識を有していたというべきである。

(イ)  線条体ドパミン量の増加とパーキンソン病治療薬の関係
パーキンソン病の病因
当業者は,本件優先日当時,パーキンソン病の病因の一つが線条体ドパミンの枯渇であるとの技術常識を有していたと認められる(甲4(水柿道直「パーキンソン病と薬剤」社団法人日本薬剤師会編「病気と薬剤改訂第4版」(株式会社薬事日報社,平成8年発行))の306頁,甲5(「特集・パーキンソン病の治療」医薬ジャーナルVol.31No.12(医薬ジャーナル社,平成7年発行))の30頁,甲6(田中千賀子ほか編「NEW薬理学改訂第3版」(株式会社南江堂,平成9年発行))の289頁)。

線条体ドパミン量を増加させる薬物(ハロペリドール)
ハロペリドールは,線条体ドパミン量を増加させる薬物と認められる(甲23Bita Moghaddamほか「Acute Effects of Typical and Atypical Antipsychotic Drugs on the Release of Dopamine from Prefrontal Cortex, Nucleus Accumbens, and Striatum of the Rat An In Vivo Microdialysis StudyJournal of Neurochemistry Vol.54,No.517551760頁(平成2年))の図1)。
しかし,ハロペリドールは,薬物性パーキンソニズムを引き起こし,パーキンソン病患者への使用は禁忌とされていたものである(乙3(「薬の副作用事典」(株式会社産業調査会事典出版センター,平成2年発行))の11841185頁)。そして,本件優先日当時,ハロペリドールとゾニサミドが異なる作用機序で線条体ドパミン量を増加させること,更に線条体ドパミン量を増加させる作業機序によってはパーキンソン病の治療効果に差異が生じることを当業者が認識していたことを示す具体的な証拠はない。
そうすると,当業者は,本件優先日当時,具体的な作用機序の差異を意識することなく,線条体ドパミン量を増加させる薬物には,パーキンソン病患者への使用が禁忌とされるものがあることを認識していたというべきである。

線条体ドパミン量を増加させる抗てんかん薬(カルバマゼピン)
3文献には,抗てんかん薬であるカルバマゼピンには線条体ドパミン量の増加作用がある旨記載されている(図1-a,図6)。
しかし,本件優先日後の平成13年時点においても,パーキンソン病に対するゾニサミドの有効な作用が抗痙攣作用のメカニズムと関連しているのではないかと推告されている抗痙攣薬は他にない。」とされており(甲13Miho Murataほか「Zonisamide has beneficial effects on Parkinsons disease patientsNeuroscience Research 41(平成13年))の399頁),本件優先日当時,カルバマゼピンがパーキンソン病に対して治療効果を奏するか否かは不明であると理解されていたものと認められる。
そうすると,当業者は,本件優先日当時,線条体ドパミン量を増加させる抗てんかん薬とパーキンソン病治療薬の関係は不明であると認識していたというべきである。

ゾニサミドが有する線条体ドパミン量の増加作用
引用例及び甲3文献における前記示唆から,本件優先日当時,抗てんかん薬であるゾニサミドの投与が,健常動物以外であっても,線条体ドパミン量を僅かでも増加させる可能性があることまでは否定できない。また,当業者は,本件優先日当時,パーキンソン病の病因の一つが線条体ドパミンの枯渇であるとの技術常識を有していたものである。
しかし,当業者は,本件優先日当時,具体的な作用機序の差異を意識することなく,線条体ドパミン量を増加させる薬物には,パーキンソン病患者への使用が禁忌とされるものがあること,線条体ドパミン量を増加させる抗てんかん薬とパーキンソン病治療薬との関係は不明であること,を認識していたというべきである。
そうすると,当業者は,本件優先日当時,健常動物以外において線条体ドパミン量を増加させる可能性を否定できない抗てんかん薬であるゾニサミドであっても,線条体ドパミン量の増加作用の観点からは,パーキンソン病に対して治療効果を奏する可能性は低いとの技術常識を有していたというべきである。

(ウ)  MAO-B活性の阻害とパーキンソン病治療薬の関係
パーキンソン病の病因
当業者は,本件優先日当時,パーキンソン病治療薬の薬理作用の一つとしてドパミンを分解するMAO-B活性を阻害するものが存在するとの技術常識を有していたと認められる(甲6295頁,甲8の表1)。
b  MAO-B
活性を阻害する抗てんかん薬(ラモトリジン)
7には,抗てんかん薬であるラモトリジン(LTG)がMAO-B活性を阻害する作用がある旨記載されている(245250頁)。さらに,甲7によれば,本件優先日当時,ラモトリジンのパーキンソン病疾患モデル動物に対する投与試験の結果を検討することで,ラモトリジンをパーキンソン病の治療薬として使用できる可能性が示唆されていたということができる(250251頁)。
しかし,上記示唆は,「LTGで得られる保護がすべてMAO-Bに対する作用によるものとは考えられない。」,「新規抗てんかん薬であるLTGは,C57BLマウスにおけるMPTP誘発性ドパミン枯渇に対して保護作用をもつ。さらに,LTGがドパミンの取り込みやMAOを阻害するであろう濃度よりも低い濃度で脳内に存在するような用量でも,LTGには神経保護効果が認められる。」という検討の上で導かれたものである(甲7250251頁)。したがって,上記示唆は,ラモトリジンがMAO-B阻害作用を有することのみから,パーキンソン病の治療薬として使用できる可能性があると指摘するものではないというべきである。そうすると,当業者は,本件優先日当時,抗てんかん薬であって,MAO-B阻害作用を有するラモトリジンであっても,MAO-B阻害作用を有することから,直ちにパーキンソン病に対して治療効果を奏するものではないことを認識していたというべきである。

c  MAO-B
活性を阻害するパーキンソン病治療薬(セレギリン)
本件優先日当時,セレギリン(商品名デプレニル)がパーキンソン病治療薬として知られており(甲8の表1),セレギリンがMAO-B活性を阻害することも知られていたものである(甲44Richard E. Heikkilaほか「PREVENTION OF MPTP-INDUCED NEUROTOXICITY BY AGN-1133 AND AGN-1135, SELECTIVE INHIBITORS OF MONOAMINE OXIDASE-BEuropean Journal of Pharmacology 116313317頁(昭和60年))の表1)。
そして,セレギリンのMAO-Bに対するIC50値は11nMである(甲44の表1)。そうすると,当業者は,MAO-B阻害作用を有する薬物を投与するパーキンソン病治療においては,セレギリンと同程度,すなわち,IC50値が11nM以下にMAO-B活性を阻害する程度の薬理作用を有する薬物が必要であると認識していたものである。
しかし,ゾニサミドのMAO-Bに対するIC50値は660μMである(甲3350頁)。また,引用例の「考察」の欄には,ゾニサミドの「MAO活性阻害は,DAの細胞外濃度と細胞内濃度の上昇にあたって,重要な機序ではないことが示された。」と記載されている。さらに,甲3文献には,ゾニサミドのMAO-B阻害作用について「細胞外DA濃度増加の主要機序とは考え難」くと記載されている(351頁)。
そうすると,当業者は,本件優先日当時,ゾニサミドのMAO-B阻害作用がセレルギンよりも顕著に弱く,また,それがパーキンソン病の治療に有用なドパミン量の増加に果たす程度も低いことを認識していたというべきである。
したがって,当業者は,ゾニサミドが,MAO-B阻害作用の観点から,他のパーキンソン病治療薬と同程度の薬理効果を奏する可能性が低いことを認識していたというべきである。

ゾニサミドが有するMAO-B阻害作用
引用例及び甲3文献における前記示唆から,本件優先日当時,抗てんかん薬であるゾニサミドの投与が,健常動物以外であっても,MAO-B阻害作用を僅かでも有する可能性があることまでは否定できない。また,当業者は,本件優先日当時,パーキンソン病の治療薬の薬理作用の一つとしてドパミンを分解するMAO-B活性を阻害するものが存在するとの技術常識を有していたものである。
しかし,当業者は,本件優先日当時,抗てんかん薬であって,MAO-B阻害作用を有するラモトリジンであっても,MAO-B阻害作用を有することから,直ちにパーキンソン病に対して治療効果を奏するものではないこと,当業者は,ゾニサミドが,MAO-B阻害作用の観点から,他のパーキンソン病治療薬と同程度の効果を奏する可能性が低いこと,を認識していたというべきである。
そうすると,当業者は,本件優先日当時,健常動物以外において,MAO-B阻害作用を有する可能性を否定できない抗てんかん薬であるゾニサミドであっても,MAO-B阻害作用の観点からは,パーキンソン病に対して治療効果を奏する可能性は低いとの技術常識を有していたというべきである。

  引用発明において,相違点に係る本件発明1の構成を採用する動機付け
(ア)  引用例及び甲3文献は,いずれも,ゾニサミドが,健常動物において,線条体ドパミン量の増加作用を有すること,MAO-B阻害作用を有することを示唆するにとどまるものである。
そして,前記ウ(ア)のとおり,本件優先日当時の当業者は,健常動物で得られた線条体ドパミン量の挙動が,パーキンソン病疾患モデル動物における線条体ドパミン量の挙動を必ずしも示すものではないとの技術常識を有していたものである。
そうすると,当業者は,引用例及び甲3文献から上記示唆を受けても,そもそもパーキンソン病疾患を有する患者において,ゾニサミドが線条体ドパミン量を増加させたり,ゾニサミドがMAO-B活性を阻害したりするとは理解しないから,ゾニサミドがパーキンソン病の治療薬になる可能性を認識し得ないというべきである。

(イ)  また,引用例及び甲3文献における前記示唆から,健常動物以外であっても,ゾニサミドの投与が線条体ドパミン量の増加作用及びMAO-B阻害作用を僅かでも有する可能性があることまでは否定できない。
しかし,前記ウ(イ)及び(ウ)のとおり,本件優先日当時の当業者は,抗てんかん薬であるゾニサミドについて,線条体ドパミン量の増加作用の観点からも,MAO-B阻害作用の観点からも,パーキンソン病に対して治療効果を奏する可能性は低いとの技術常識を有していたというべきである。
そうすると,このような技術常識を有する当業者は,引用例及び甲3文献から,ゾニサミドがパーキンソン病の治療薬になると合理的に期待し得ないというべきである。

(ウ)  よって,当業者は,引用発明において,相違点に係る本件発明1の構成を採用することを動機付けられることはないというべきである。

  原告の主張について
(ア)  原告は,パーキンソン病の分野において,健常動物での試験結果が,患者や適切な疾患モデル動物での試験結果と異なるとしても,健常動物に対して薬物を投与して何らかの薬理作用が確認されたのであれば,その薬理作用から治療可能な疾患への治療薬としての評価を行おうとの動機付けが生じる旨主張する。
しかし,前記ウ(ア)のとおり,当業者は,本件優先日当時,健常動物で得られた線条体ドパミン量の挙動は,パーキンソン病疾患モデル動物における線条体ドパミン量の挙動を必ずしも示すものではないとの技術常識を有していたというべきである。
また,ゾニサミドの投与による線条体ドパミン量の挙動を健常動物に対する実験により確認した引用例1及び甲3文献は,抗てんかん薬であるゾニサミドの作用機序解明を目的とするものである。引用例1及び甲3文献は,ゾニサミドの薬理作用を解明することで,てんかん以外の疾患についても,ゾニサミドが治療薬として用いることができるか否かについて評価を行おうとするものではなく,これに関する示唆もない。
したがって,当業者は,引用例1及び甲3文献から,ゾニサミドの健常動物に対するドパミン増加作用やMAO-B阻害作用を理解したとしても,そのことのみでは,パーキンソン病に対するゾニサミドの評価を行おうとの動機付けは生じないというべきである。

(イ)  原告は,線条体ドパミン量を増加させる薬物であれば,その程度を問わず,パーキンソン病の症状を改善できる,MAO-B阻害作用を有する薬物であれば,その程度を問わず,パーキンソン病の症状を改善できるという,技術常識B及びCが確立していた旨主張する。
しかし,パーキンソン病の治療において,線条体ドパミン量をどの程度増加させればその症状を改善できるか,また,MAO-B活性をどの程度阻害させればその症状を改善できるかについて,これを裏付けるような証拠はない。46及び8には,線条体ドパミン量の増加作用及びMAO-B阻害作用とパーキンソン病の治療との関係について,一般的な記載があるにとどまり,これらの記載から,当業者が,少しでもこれらの作用を有する薬物であれば,パーキンソン病に対する治療効果が奏せられると理解できるものではない。

そして,ゾニサミドが,既存のパーキンソン病治療薬であるレボドパと同程度の線条体ドパミン量の増加作用を有することを認めるに足りる証拠はなく,本件優先日当時,ゾニサミドが,既存のパーキンソン病治療薬であるセレルギンと比較してMAO-B阻害作用が顕著に劣ることは明らかであったものである。
したがって,原告主張に係る技術常識B及びCは認めることができず,また,当業者は,既存のパーキンソン病治療薬であるレボドパやセレルギンと同様の機序から,ゾニサミドがパーキンソン病の症状を改善できると考え,これをパーキンソン病治療薬として使用することを動機付けられるものとはいえない。

(ウ)  原告は,甲13に基づき,当業者に及ばない村田博士であっても,引用例の記載から,ゾニサミドをパーキンソン病治療薬に提供することを動機付けられている旨主張する。
しかし,村田博士ら作成に係る報告書(甲13)は,ゾニサミドがパーキンソン病に対して有効な作用を示したことを前提に,引用例記載の実験結果を引用して,その作用機序を考察しているにすぎない。同報告書は,村田博士が,引用例の記載から,ゾニサミドをパーキンソン病治療薬に提供することを動機付けられたことを示すものではないことは明らかであり,原告の前記主張は失当というほかない。

(エ)  原告は,本件明細書の実施例は,各種てんかん薬のMAO-B阻害作用の相違を考慮してしないから実験系に不備があり,同実施例の実験結果に基づいて,ゾニサミドがその他のてんかん薬と比較して顕著な効果を有するとはいえない旨主張する。
しかし,そもそも,ゾニサミドの治療対象をパーキンソン病等の神経変性疾患とすることを動機付けられないのであるから,ゾニサミドのパーキンソン病治療に対する効果について,その他のてんかん薬と比較して顕著なものを求める原告の主張は失当である。

そして,MPTP投与によるドパミン枯渇マウスがパーキンソン病の疾患モデル動物として適当であることは当事者間に争いがないところ,本件明細書の試験例2には,かかるマウスに対し,ゾニサミドを投与すれば,溶媒を投与する場合と比較して,線条体のドパミン含有量の減少を抑制できたことが示されている。したがって,本件明細書には,ゾニサミドがパーキンソン病の治療薬としての用途を有することが示されているというべきである。

(オ)  原告は,被告は審判段階で技術常識Bや技術常識Cを否定していなかったから,これを争うことは許されないなどと主張し,また,被告がドパミン増加作用を有するハロペリドールがパーキンソン病の患者に対して禁忌であったことを主張することは,審理範囲を逸脱するなどと主張する。
しかし,被告は,審判段階で技術常識B及びCを認めていたものではない(甲58)。また,審決が判断した本件発明の進歩性について,引用発明から本件発明1に至る動機付けがないことを基礎付ける事実を新たに主張することは,審決取消訴訟の審理範囲を逸脱するものとはいえない。原告の上記主張は採用し得ない。

  小括
以上によれば,引用発明において,相違点に係る本件発明1の構成を採用することの阻害要因について検討するまでもなく,本件発明1は,引用発明並びに甲3文献に記載された事項及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない,というべきである。
よって,取消事由1は理由がない。
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最後の方に「溶媒を投与する場合と比較して」と記載されていますが、この判決の流れを考えると、こっちの比較は溶媒でいいのでしょうか。
実施可能要件/サポート要件違反も検討の余地があるかもしれませんね。(試験例2のデータは検討していません。)


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■直接的に明記されてなくても医薬用途発明が開示されていると判断された事例


<判決紹介>
平成26年(行ケ)第10024号 審決取消請求事件


コメント1
医薬用途発明の引例適格と、引例の組合わせの動機付けが争点になった事例。
前回は動機付け無しと判断された事例を紹介しましたが、今回はありと判断された事例です。 拒絶審決維持。 ☆☆


■抜粋
・平成26(行ケ)10024号 審決取消請求事件
・平成261224日判決言渡、知的財産高等裁判所第4
原告: ユーローセルティーク エス. エイ.
被告: 特許庁長官
本願: 特願2006-501821
請求項1:
単純疱疹感染又は帯状疱疹感染によって引き起こされる皮膚障害,水疱及び痒みの治療用医薬製剤であって,
該製剤が,薬学的に許容されるリポソームと併せて薬学的に有効な量のヨウ素またはヨウ素を元素の形で含有する少なくとも一つのヨウ素複合体を含有する,前記医薬製剤。
本願と引例1の一致点:
「単純疱疹感染によって引き起こされる症状の治療用医薬製剤であって,該製剤が薬学的に有効な量のヨウ素を含有するヨウ素複合体を含有する医薬製剤」である点。
本願と引例1の相違点:
本願発明では製剤がヨウ素複合体と併せて薬学的に許容されるリポソームの含有されるものであるのに対し,引用発明では製剤がリポソームの含有されない10%水性溶液またはゲルである点(相違点1),及び,本願発明では治療対象の症状が皮膚障害,水疱及び痒みとされるのに対し,引用発明ではそれらの症状のうち皮膚障害が示されていない点(相違点2)。


コメント2
(1)医薬用途発明の引例適格について
引例1には「水疱及び痒み」の治療が直接的に明記されていなかったが、引例1には、

「①外性器HSV感染症の患者に対するポビドンヨードの具体的な適用方法」
「②その適用効果の調査が48時間間隔で行われ,訪問調査のたびに「痒み,苦痛,排尿困難」の重症度を0から3+の尺度で段階づけて調査したこと」
「③試験を中止した1人を除く,対象患者9人全員について,訪問調査のたびに全ての症候の段階的な軽減が見られ,「無症候」となり,外性器HSV感染症の治癒が完了し,また,対象患者2人に見られた子宮頸部の壊死及び潰瘍障害が劇的に改善したこと」

が記載されていたことなどから、裁判所は、

「・・・。これらの記載によれば,本願の優先権主張日当時,有痛性の「小水疱」あるいは「水疱」は,HSV感染によって引き起こされる典型的な症状であり,また,その前駆症状として痒みを伴うことがあることは,技術常識であったことが認められる。
上記技術常識に鑑みると,引用例1に接した当業者は,引用例1の上記記載(前記ア②及び③)から,HSV感染によって引き起こされる典型的な症状である有痛性の「小水疱」あるいは「水疱」及び「痒み」についても,対象患者にポビドンヨードを有効成分とする製剤を適用したことにより,「無症候」となり,外性器HSV感染症の治癒が完了したものと理解するものと認められる。
そうすると,引用例1には,「ヘルペスウイルスの陰部疱疹感染によって引き起こされる,水疱及び痒みの治療用医薬製剤」が開示されているものと認められる。」

として、医薬用途発明が開示されていると判断した。

また原告は、引例1

「これらの10人の患者は,外性器のHSV感染症に対するポビドンヨードの効果を評価するための予備試験群である。…このような小さい標本から有効な結論を引き出すことはまったくできない。」

との記載から、医薬用途発明が開示されていないと主張したが、その箇所に続き、

「これらの知見は,有望であり,ウイルス培養対照を用いたより大きい集団でのさらなる試験を明らかに正当化する。公知の副作用または理論的な副作用がないこと,この製剤の広範な利用可能性,自宅での自己治療の容易さ,および潜在的な二次皮膚病原体に対するポビドンヨードの同時有効性はすべて,その使用に対する追加の利点であり,臨床試験に広げれば,この療法の有効性が確認されるはずである。」

との記載があることなどから、裁判所は、

「予備試験の結果を臨床試験の結果と同等の評価をすることができないというにとどまり,予備試験に現れたポビドンヨード10%溶液及びポビドンヨードのゲルの適用による外性器HSV感染症の症状に対する治療効果を何ら否定するものではないというべきである。

として、医薬用途発明が開示されていると判断した。


(2)引例1、2の組合わせの動機付けについて
引例1にはリポソーム含有の記載が無く、引例2にはその記載がある。 原告は、引例12の目的ないし解決課題が異なるから、組み合わせる動機付けがないと主張したが、

「引用例1の目的ないし解決課題は,ポビドンヨードの溶液ないしゲルを用いたHSV感染症の治療であって,当該症状の治癒の過程で新たに生じ得る「望ましくない組織(瘢痕組織)」の形成やその回避を目的ないし解決課題とするものではないのに対し,引用例2の目的ないし解決課題は,「望ましくない組織(瘢痕組織)の形成の回避」であり,引用例1のと引用例2では,目的ないし解決課題が異なるから,引用発明に引用例2に記載された発明を組み合わせる動機付けは存在しない」

裁判所は、

「・・・。これによれば,引用例2から,抗感染剤および抗炎症剤(特にポビドンヨードなどの防腐剤)用の担体としてリポソームを使用することにより,その有効成分の遅延放出が可能になり,かつ細胞表面との相互作用により所望の作用位置において長期的かつ局所的な活性が提供されること,リポソームを担体として使用した「リポソームPVPヨード」は,水性PVPヨードと比較して,長期細胞毒性実験における許容度が高いことを理解できる。 一方で,引用例1には,引用例1の予備試験では,対象患者に「就寝時」に,ゲルを膣に挿入器具で挿入するとともに,外部病変部に綿棒3本を使用するように指示され,「毎朝」,ポビドンヨード溶液で灌水するとともに,外部病変部に綿棒を再び使用するように指示されていること(前記1(1)ウ),治癒の完了までに,再発の場合には28日間を要し,初感染の場合には714日間を要したことが記載されていること(同エ)に照らすと,引用発明の医薬製剤においても,有効成分であるポビドンヨードの遅延放出が可能になり,かつ細胞表面との相互作用により所望の作用位置において長期的かつ局所的な活性が提供されることが望ましいことは,当業者にとって自明であるといえる。

と判断し、さらに、

「そうすると,引用例1及び引用例2に接した当業者においては,引用発明である医薬製剤に含有される薬理学的に有効な量のヨウ素を含有するヨウ素複合体について,有効成分の長期的かつ局所的な活性を得るために,引用例2に記載されたリポソーム粒状担体と組み合わせて含有する製剤とすることの動機付けがあるものと認められるから,相違点1に係る本願発明の構成を容易に想到することができたものと認められる。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
原告は,この点に関し,上記のとおり,引用例1と引用例2では,目的ないし解決課題が異なることを挙げて,引用発明に引用例2を組み合わせる動機付けがない旨主張する。
しかしながら,原告が主張するように引用例1の目的がポビドンヨードの溶液ないしゲルを用いたHSV感染症の治療にあり,引用例2の目的が「望ましくない組織(瘢痕組織)の形成の回避」にあり,両者が直接目的とするところが異なるとしても,そのことは引用発明に引用例2に記載されたリポソーム粒状担体の構成を組み合わせる動機付けを否定する根拠にはならないというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。」

として動機付けがあると判断した。


■Phase 2の投与時間を延長することに動機付けがないと判断された事例


<判決紹介>
平成26年(行ケ)第10045号 審決取消請求事件


コメント
引例1Phase 2)の投与時間を延長することに動機付けがないと判断された事例。 引例は強め。

本願は、ゾレドロン酸4mgの静脈投与時間が15分。
引例1は、ゾレドロン酸4mgの静脈投与時間が5分。
引例2ゾレドロン酸0.02/0.04mgの静脈投与時間が20分。
引例3には、ビスホスホネートはゆっくり点滴することで有害事象が回避されることが記載されている。

裁判所は、
  (1)
引例1Phase 2、引例2Phase 1であること、
  (2)
引例12を考慮すれば、ゾレドロン酸
4mg5分は安全性が確保できるものであると理解できること、
  (3)
引例3の記載は参照文献269を引用していることから、参照文献269の第一世代ビスホスホネートに関する記載であることは明らかであり、第三世代ビスホスホネートであるゾレドロン酸に直ちに当てはまるものではないこと、
などを考慮した上で、引例1の投与時間を延長することには動機付けがないとして、進歩性なしの拒絶審決を取り消した。 ☆☆☆


抜粋
・平成26(行ケ)10045号 審決取消請求事件
平成261224日判決言渡、知的財産高等裁判所第4
原告: ノバルティスアーゲー
被告: 特許庁長官
出願: 特願2001-585739
請求項1:
2-(
イミダゾル-1-イル)-1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(ゾレドロン酸)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む処置剤であって,ビスホスホネート処置を必要とする患者に4mgのゾレドロン酸を15分間かけて静脈内投与することを特徴とする処置剤。


・概要
2 事案の概要
本件審決の理由の要旨
本願発明と引用発明との対比
本件審決が認定した本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 一致点
  2-(
イミダゾル-1-イル)-1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(ゾレドロン酸)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む処置剤であって,ビスホスホネート処置を必要とする患者に4mgのゾレドロン酸を分単位の一定時間をかけて静脈内投与することを特徴とする処置剤。
イ 相違点
 
分単位の一定時間が,引用発明では「5分間」であるのに対し,本願発明では「15分間」である点。

4 当裁判所の判断
・・・。
(1)
臨床試験について
  前記2(1)及び(2)によれば,引用例2は,腫瘍誘発性高カルシウム血症の患者及び溶骨性骨転移患者に対するゾレドロン酸の第Ⅰ相臨床試験の結果を報告する文献であり,引用例1は,これに引き続いて行われた,多発性骨髄腫の患者及び乳癌患者に対するゾレドロン酸の第Ⅱ相臨床試験の結果を報告する文献である。そして,証拠(甲29)によれば,これに引き続いて,乳癌又は多発性骨髄腫の溶骨性病巣を有する患者の骨格転移の治療におけるゾレドロン酸の第Ⅲ相臨床試験が行われ,その結果が,本願の出願後に発表されていることが認められる。
  平成4629日付けの各都道府県衛生主管部局長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知(薬新薬第43号)の「新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」(甲22)によれば,次のことが認められる。 医療用医薬品である新医薬品の承認申請の目的で実施される臨床試験は,通常,第Ⅰ相,第Ⅱ相及び第Ⅲ相と順に進めて行くものである。 第Ⅰ相試験は,治験薬を初めてヒトに適用する試験で,原則として少数の健康男性志願者において,治験薬について臨床安全用量の範囲ないし最大安全量を推定することを目的とし,併せて吸収・排泄等の薬物動態学的検討を行い,第Ⅱ相試験に進み得るか否かの判断資料を得るための試験である。
第Ⅱ相試験は,適切な疾病状態にある限られた数の患者において,治験薬の有効性と安全性とを検討し,適応疾患や,用法・用量の妥当性など,第Ⅲ相試験に進むための情報を収集することを目的とする試験である。 第Ⅲ相試験は,比較臨床試験及び一般臨床試験により,更に多くの臨床試験成績を収集し,対象とする適応症に対する治験薬の有効性及び安全性を精密かつ客観的に明らかにし,治験薬の適応症に対する臨床上の有用性の評価と位置付けを行うことを目的とする試験である。 ただし,第Ⅰ相試験は,例えば一部の抗悪性腫瘍薬などのように,治験薬が健康人に対して明らかに毒性を発現する可能性がある場合や,薬理学的性質のために健康人に対しては使用禁忌である場合など,医薬の特性に合わせて,健康志願者ではなく,患者を対象として行われることもある(甲22)。本件のゾレドロン酸についても、前記2(2)のとおり,腫瘍誘発性高カルシウム血症の患者及び溶骨性骨転移患者を対象として,第Ⅰ相試験が行われている。
以上のような,臨床試験の段階的性格や第Ⅰ相試験,第Ⅱ相試験,第Ⅲ相試験の位置付けに鑑みると,第Ⅰ相試験,第Ⅱ相試験において,当該用法用量で安全性が確認された場合でも,次の第Ⅲ相試験において,更に多くの臨床試験成績を収集し,対象とする適応症に対する治験薬の有効性及び安全性を精密かつ客観的に明らかにし,治験薬の適応症に対する臨床上の有用性の評価と位置付けを行うことが予定されているから,その結果によっては,当該用法用量が安全とはいえなくなり,より安全な用法容量に変更する可能性が存在することは否定できないというべきである。
そして,医薬品の副作用の中でも腎毒性は代表的なものであり(乙3),注射形態のビスホスホネート製剤には腎機能悪化のリスクが知られており(乙4),本件においても,ゾレドロン酸の静脈投与について,第Ⅰ相試験(引用例2)において腎臓に対する安全性を確認した上で,第Ⅱ相試験(引用例1)を経て,さらには次の段階の臨床試験に進んでいるのであるから,腎臓に対する安全性を考慮して,用法用量を変更する可能性があることは,当業者として当然理解していたことと考えられる。

(2)
引用例1及び引用例2の記載について
前記2(1)及び(2)のとおり,ゾレドロン酸は,強力な破骨細胞の機能抑制作用を有する第三世代のビスホスホネートであって,引用例2記載の第Ⅰ相臨床試験において,それまで臨床試験された他のビスホスホネートよりも即効性があり持続性の血清カルシウム低下効果を示し,正常カルシウム血漿の溶骨性骨転移患者合計58名に対する0.1mg0.2mg0.4mg0.8mg1.5mg2mg4mg又は8mg5分間静脈点滴のいずれにおいても腎毒性の兆候は見られず,また,患者の30%に見られた唯一の副作用の体温上昇もゾレドロン酸との関連は定かではなく,短時間静脈点滴での安全性が示唆された。
それに続く引用例1記載の第Ⅱ相臨床試験でも,乳癌又は多発性骨髄腫患者合計280名に対する0.4mg2.0mg又は4.0mg5分間点滴のいずれにおいても,パミドロン酸90mg2時間点滴と同程度の安全性を示し,4.0mgゾレドロン酸の5分間点滴は,90mgパミドロン酸と同程度の溶骨性骨合併症の予防効果を奏した。
以上の引用例1及び2に開示されたゾレドロン酸の第Ⅰ相及び第Ⅱ相臨床試験の結果によれば,ゾレドロン酸は,4mgという低用量で従来用いられていたパミドロン酸90mgに匹敵する薬効を奏し,5分間の短時間の静脈点滴で安全性が確保できるものであると理解できる。そうすると,このような臨床試験の結果からは,前記(1)記載の臨床試験の段階的正確を考慮し,第Ⅲ相試験で,当該用法用量による安全性について違った結果が生じて用法用量をより安全性の高いものに変更する可能性があることを考慮しても,第Ⅰ相及び第Ⅱ相臨床試験の段階では,安全性に疑問を呈するような結果は全く出ていないのであるから,患者の利便性や負担軽減の観点からも,引用例1及び2の記載からは,4mgのゾレドロン酸を5分間かけて点滴するとの引用発明の投与時間を更に延長する動機付けを見出すことは困難であるというべきである。

(3)
引用例3の記載について
ア 前記2(3)のとおり,引用例3には,参照文献269(甲24)を引用した上で,ビスホスホネートは血中で固相を形成し腎臓で保持されるために,短時間での点滴は腎不全を招くので,ビスホスホネートの全ての大量の静脈内投与には注意を払わなければいけないこと,及び多量の液体でゆっくりと点滴することにより有害な事象が回避されることが記載されている。 そして,参照文献269(甲24)には,前記2(4)のとおり,エオドロネート(EHDP)の投与及びクロドロネート(C2MDP)の投与により腎障害が現れたため,1日投与量が1gを越えない量でゆっくり投与し,腎機能をモニターすべきことが記載されているから,引用例3の上記記載は,エチドロネート及びクロドロネートを念頭に置いたものであることは明らかである。
・・・。

  前記イの乙57の記載によれば,エチドロネート及びクロドロネートは,初期の臨床試験に用いられていた第一世代のビスホスホネートであり,至適投与方法が確立されていなかった初期の頃に,エチドロネートの短時間投与で腎障害による死亡例が報告されたことが発端となって,その後開発された種々のビスホスホネートに関しても緩徐な投与が推奨されることとなったものであるが,エチドロネートの100倍ないし1000倍の骨吸収抑制作用の薬効を有するパミドロン酸,インカドロン酸及びアレンドロン酸といった第二世代,第三世代のビスホスホネートは使用量が少量で足りることもあり,患者の利便性との兼ね合いで急速投与が検討され,パミドロン酸は11.5mg/分,インカドロン酸及びアレンドロン酸は10mg/30分の急速投与で安全性が確認されただけでなく,これら3つの製剤については逆に腎機能障害の改善効果の報告もあることが認められる。
このような本願優先日当時の第二世代及び第三世代のビスホスホネートの開発の経緯及び急速投与の実績からすれば,当業者としても,引用例3に記載された第一世代のビスホスホネートの急速投与による腎臓への有害事象に関する知見は,第三世代のビスホスホネートであるゾレドロン酸に直ちに当てはまるものではないと理解されるものと認められる。 そうすると,前記2(1)及び(2)のとおり,ゾレドロン酸はパミドロン酸よりも100ないし850倍も活性が高いビスホスホネートであって,インカドロン酸及びアレンドロン酸よりもさらに骨吸収抑制作用が高く少量投与で足りることも考慮すれば,患者の利便性や負担軽減の観点からも,引用例1及び2において安全性が確認されたゾレドロン酸4mg5分間投与という投与時間を,更に延長する動機付けがあると認めることは困難である。

(4) 小括
以上のとおり,ゾレドロン酸の急速投与については,腎臓に対する安全性が課題の一つとされ,引用例2の第Ⅰ相臨床試験でも,その点の確認が行われ,第Ⅱ相試験(引用例1)を経た上で,さらにはそれに引き続く第Ⅲ相臨床試験において,腎臓に対する安全性の関係で異なる結果が生じることも可能性としては存在したが,引用例1及び2の第Ⅰ相臨床試験,第Ⅱ相臨床試験では,4mg5分間投与で腎臓に対する安全性に疑問を呈する結果は確認されていないこと,引用例3の記載も本願優先日当時,第三世代のビスホスホネートであるゾレドロン酸に直ちに当てはまるものではないと理解されることからすると,引用例1及び2において安全性が一応確認されたゾレドロン酸4mgの5分間投与という投与時間を更に延長し,これを15分間とする動機付けがあると認めることはできない。
したがって,本願発明は,引用発明に基づき,引用例2及び3を適用して容易に発明することができたとは認められないから,原告主張の取消事由1は理由がある。

■主引例に副引例を組み合わせるには動機付けが大事/大豆イソフラボン/平成24年(行ケ)第10284号審決取消請求事件


平成25327日判決言渡
原告: 有限会社大長企画
被告: 特許庁長官
特許出願: 特願2002-303877
請求項1: A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル
B
.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体
C
.クルクミン
ABおよびCの成分を含むことを特徴とする強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤。

コメント: 引例を組み合わせる動機付けが示されていないため、拒絶審決の判断は誤りという判断がされた事例。
本願明細書をざっと見たところ、比較例はなさそうである。 このような場合、「組合わせに動機付けがない」という主張をしてもなんだかんだで進歩性が認められないということはあると思うが、本事例では上手く拒絶審決を覆している。
なお、主引例の効果(用途)と、本願発明の効果は異なっており、このことが裁判所の判断に影響している。 もし審決が、効果が同じ(又は関連している)ものを主引例としていたらどうなっていただろうか。 ☆☆☆

4当裁判所の判断
…。
(2)
判断
ア  上記1(1)イ 認定の事実によれば,引用例1記載の発明は,美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の生体活動の改善や,人体機能の発現に関与する物質群の補給システムを中心とした生体活動の更なる改善手段(生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用も含む。)を提供することを課題とし(【0005】,【0006】,【0010】),体内から体外に向かって形成された水の流れを媒体とした人体機能の発現に関与する物質の能動的な移送を真の目的とする津液作用と,酸素,栄養などのエネルギーを中心とする補給の活性化作用である補血及び活血作用が,同時に促進されることが,人体にとって極めて有用であることから,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分から選ばれる1種ないし2種以上と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスから選ばれる1種ないし2種以上とを組み合わせて使用することにより,上記課題を解決するものであること(【0002】ないし【0004】,【0007】)が認められる。
また,引用例1には,実施例においてシムノールサルフェート,ダイズイン等を含む健康食品で,環境ホルモンの排出が促進されたことが記載される(【0029】,【0033】)が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果を示唆する記載はない。

一方,上記(1)ウ,エ 認定の事実によれば,引用例2ないし4には,大豆イソフラボン等が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患等に効果があり,甲6には,コクダイズが運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に効果があり得ることが開示されているといえる。しかし,引用例2は,COX-2NFκB,ならびにCOX-2およびNFκBの両者の生合成阻害剤であるフラボン化合物を開示するもの,引用例3は,ダイズ,および,その他,クローバーなどの植物の成分であるイソフラボノイドを単離したものを,アルツハイマー型痴呆,および加齢に伴うその他の認識機能低下を治療および予防するために使用することを特徴とする発明を開示するもの,引用例4は,イソフラボン,リグナン,サポニン,カテキン,および/またはフェノール酸を,栄養補給剤としてまたはより伝統的なタイプの食物中の成分として各自が摂取する便利な方法を提供する発明を開示するもの,甲6は,コクダイズの成分,薬効等を開示するものであって,いずれも引用例1記載の上記課題と共通する課題,とりわけ,生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用について記載しているとは認められない。
そうすると,引用例1に接した当業者は,引用発明に含まれるダイズインが,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用を有することを予期し,そのような生理的作用を向上させるべく,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスを組み合わせて使用することに想到するとは考えられるが,ダイズインが,環境ホルモン排出促進と関連性のない生理的作用を有することにまで,容易に想到するとは認められない。そして,当業者にとって,引用例2ないし4及び甲6に記載されるアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果が,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用であると認めるに足りる証拠はないから,当業者が,引用例1の記載から,ダイズインが,上記の各効果をも有することに容易に想到すると認めることはできない。

イ  これに対し,被告は,ダイズインのアグリコンであるダイゼイン等の大豆イソフラボンがアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患の処置に有効であることが公知であり,ダイズインを有効成分とする大豆には,脳梗塞後の運動障害,運動麻痺,及び筋肉の引きつりに効果があり,また視力を良くする効果もあることが周知であることから,ダイズインを含む引用発明の組成物の具体的用途として,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得る旨主張する。

しかし,上記のとおり,引用発明は,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスとを組み合わせて使用することにより,課題を解決しようとするものであるから,引用例1に接した当業者が,引用発明の1成分にすぎないダイズインにことさら着目することの動機づけを得るとはいえない。そうすると,たとえ,引用例2ないし4及び甲6により,大豆イソフラボンないし大豆が被告主張の効果を有することが周知ないし公知といえるとしても,当業者において,引用発明から出発して,当該周知ないし公知の知見を考慮する動機づけがあるとはいえず,相違点2に係る本願発明の構成(「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」)に想到することが容易であるとはいえない(まして,本願発明は,引用発明の組成物に加えてクルクミンを含むものであるところ,そのような3成分を含む組成物について,強筋肉剤等の用途が容易想到であることの理由も明らかでない。)。


ウ  したがって,引用例1には,引用例2ないし4及び周知の事項を組み合わせて,相違点2に係る本願発明の構成とすべき動機づけが示されていないとして,相違点2に関する上記審決の判断は誤りである旨の原告の主張は理由がある。

結論
以上のとおり,原告主張の取消事由2には理由があり,その余の争点について判断するまでもなく,審決には取り消すべき違法がある。
よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 芝田俊文 裁判官 岡本岳 裁判官 武宮英


■公知技術が多いなら動機付けが重要/包装用アルミニウム箔/平成22年(行ケ)第10273号審決取消請求事件


平成23年3月8日判決言渡
原告: 日本製箔株式会社
被告: 特許庁長官
特許出願: 特願2003-372727号
請求項1: 少なくとも下記手段及び装置を具えた外観検査装置を用いて,アルミニウム箔製包装体を製造する際に用いるアルミニウム箔であって,該アルミニウム箔は,その本体表面に,文字や図柄などの表示が印刷されてなり,該表示は,樹脂ワニスに顔料を添加してなる印刷インキを用いて印刷することによって形成されたものであり,該顔料は,顔料本体表面が合成樹脂膜によって被覆されていることを特徴とする赤外線透過性に優れた表示を印刷してなる包装用アルミニウム箔。

コメント: 副引例のような公知技術は多く存在し、且つ動機付けがないので、副引例の構成を選択することは容易に想到できるものではないという主旨の判断がされた例。 拒絶審決取消。 ☆☆

裁判所:

「そもそも,「塗料」又は「インク」に関する公知技術は,世上数限りなく存在するのであり,その中から特定の技術思想を発明として選択し,他の発明と組み合わせて進歩性を否定するには,その組合せについての示唆ないし動機付けが明らかとされなければならないところ,審決では,当業者が,引用発明1に対してどのような技術的観点から被覆顔料を使用する引用発明2の構成が適用できるのか,その動機付けが示されていない(当該技術が,当業者にとっての慣用技術等にすぎないような場合は,必ずしも動機付け等が示されることは要しないが,引用発明2の構成を慣用技術と認めることはできないし,被告もその主張をしていない。)。
(4) 
この点について,被告は,引用例2の段落【0006】の記載を根拠に,色相,着色力及び分散性に優れているのが好ましいことは, インキや塗料の顔料について一般的にいえることであり,引用発明1のインクについてもあてはまることであるから,引用発明1のインクとして引用発明2の油 性塗料を適用してみようという程度のことは,当業者が容易に考えつくことであると主張する。
確かに,インクや塗料において,色相,着色力及び分散性に優れているのが一般的に好ましいと解されるところ,それに応じて,色相,着色力,分散性などのいずれかに優れていることをその特性として開示するインクや塗料も,多数存在すると認められるのであり,その中から,上記の一般論のみを根拠として引用発明2を選択することは,当業者が容易に想到できるものではない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。」

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