■延長登録

■「延長された特許権の効力」の知財高裁大合議判決

 
<判決紹介>
・平成28(ネ)10046号 特許権侵害差止請求控訴事件
・平成29120日判決言渡
・知的財産高等裁判所特別部 設樂隆一 清水節 髙部眞規子 鶴岡稔彦 寺田利彦
・控訴人:デビオファーム・インターナショナル・エス・アー
・被控訴人:東和薬品株式会社
・特許3547755


コメント:
新薬 vs ジェネリックの侵害訴訟。
延長された特許権の効力」についての知財高裁大合議判決です。

ヤクルト社(専用実施権者)は先発品のエルプラット点滴静注液50,100,200mg(一般名:オキサリプラチン)を販売しています。
東和薬品は後発品のオキサリプラチン点滴静注50,100,200mg「トーワ」を販売しています。

デビオファーム社は先発品をカバーする製剤特許3547755を有しています。
この製剤特許は、延長登録出願により、最長で2020/1/29まで存続期間が延長されています。
クレーム1は下記の通りです。

「【請求項1
濃度が1ないし5mg/ml
B  pH
4.5ないし6
オキサリプラティヌムの水溶液からなり
医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,
該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,
腸管外経路投与用の
オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。」



一審(東京地裁)でデビオファーム社は、上記の延長された特許権の効力が東和薬品の後発品に及ぶと主張し、後発品の生産等の差止め及び廃棄を求めていました。それに対して、一審判決は、延長された特許権の効力は後発品に及ばないと判断していました。
一審判決は下記ページで紹介しています。

2016/4/20 平成27()12414号 特許権侵害差止請求事件

本件は、デビオファーム社が一審判決を不服として控訴した事案です。



本件で、知財高裁大合議は、後発品が、
本件処分の対象となった物と実質同一なものに含まれるということはできないと判断し、延長された特許権の効力は後発品に及ばないと判断しました。 控訴棄却。

さらに、そもそも後発品は本件特許発明の技術的範囲に属さないとも判断しました。技術的範囲に属さないということは、それだけ本件特許発明と後発品は別物であったということでも
あり、「実質同一か否か」の観点に関しては、今後、技術的範囲に属する場合の侵害訴訟が提起された場合には、もう一歩踏み込んだ判断が必要になると思います。
後発品メーカーの戦略として、製剤特許を取得しておいて、実質同一ではない根拠を作っておくっていうのも一考だと思います。



裁判所の判断は下記の通り。

「第4 当裁判所の判断
 当裁判所も,存続期間が延長された本件特許権の効力は,一審被告による一審被告各製品の生産等には及ばず,本件請求は理由がないものと判断する。
 その理由は,以下のとおりである。
1
68条の2に基づく延長された特許権の効力の及ぶ範囲について
・・・。

イ 上記アによれば,相手方が製造等する製品(以下「対象製品」という。)が,具体的な政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」において異なる部分が存在する場合には,対象製品は,存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属するということはできない。しかしながら,政令処分で定められた上記審査事項を形式的に比較して全て一致しなければ特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば,政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復するという延長登録の制度趣旨に反するのみならず,衡平の理念にもとる結果になる。このような観点からすれば,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力は,政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず,これと医薬品として実質同一なものにも及ぶというべきであり,第三者はこれを予期すべきである(なお,法68条の2は,「物についての当該特許発明の実施以外の行為には,及ばない。」と規定しているけれども,同条における「物」についての「当該特許発明の実施」としては,「物」についての当該特許発明の文言どおりの実施と,これと実質同一の範囲での当該特許発明の実施のいずれをも含むものと解すべきである。)。
 したがって,政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても,当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ,存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属するものと解するのが相当である。

ウ そして,医薬品の成分を対象とする物の特許発明において,政令処分で定められた「成分」に関する差異,「分量」の数量的差異又は「用法,用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり,他の差異が存在しない場合に限定してみれば,僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは,特許発明の内容(当該特許発明が,医薬品の有効成分のみを特徴とする発明であるのか,医薬品の有効成分の存在を前提として,その安定性ないし剤型等に関する発明であるのか,あるいは,その技術的特徴及び作用効果はどのような内容であるのかなどを含む。以下同じ。)に基づき,その内容との関連で,政令処分において定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して,当業者の技術常識を踏まえて判断すべきである。

 上記の限定した場合において,対象製品が政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と医薬品として実質同一なものに含まれる類型を挙げれば,次のとおりである。

 すなわち,
①医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において,有効成分ではない「成分」に関して,対象製品が,政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合,

②公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において,対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合で,特許発明の内容に照らして,両者の間で,その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき,

③政令処分で特定された「分量」ないし「用法,用量」に関し,数量的に意味のない程度の差異しかない場合,

④政令処分で特定された「分量」は異なるけれども,「用法,用量」も併せてみれば,同一であると認められる場合(本件処分12,本件処分5ないし7がこれに該当する。)

は,これらの差異は上記にいう僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異に当たり,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれるというべきである(なお,上記①,③及び④は,両者の間で,特許発明の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認される類型である。)。

 これに対し,前記の限定した場合を除く医薬品に関する「用法,用量,効能及び効果」における差異がある場合は,この限りでない。なぜなら,例えば,スプレー剤と注射剤のように,剤型が異なるために「用法,用量」に数量的差異以外の差異が生じる場合は,その具体的な差異の内容に応じて多角的な観点からの考察が必要であり,また,対象とする疾病が異なるために「効能,効果」が異なる場合は,疾病の類似性など医学的な観点からの考察が重要であると解されるからである。



エ 最高裁平成10224日第三小法廷判決・民集521113頁(ボールスプライン事件最判)は,・・・
 以上によれば,法68条の2の実質同一の範囲を定める場合には,前記の五つの要件を適用ないし類推適用することはできない。

オ ただし,一般的な禁反言(エストッペル)の考え方に基づけば,延長登録出願の手続において,延長登録された特許権の効力範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がある場合には,法68条の2の実質同一が認められることはないと解される。
・・・。



2
本件についての検討
 以上に基づいて,延長登録された本件特許権の効力が一審被告各製品の生産等に及ぶか否かについて判断する。
・・・

 延長登録された本件特許権の効力は,本件各処分の「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」についての「当該特許発明の実施」の範囲で及ぶところ,本件各処分の「成分」は,文言解釈上,いずれもオキサリプラチンと注射用水のみを含み,それ以外の成分を含まないものである。
 これに対し,一審被告各製品の「成分」は,いずれもオキサリプラチンと注射用水以外に,添加物としてオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを含むものであり,その使用目的が安定剤であることは,前記第22(4)イのとおりである。

 そうすると,本件各処分の対象となった物と一審被告各製品とは,少なくとも,その「成分」において文言解釈上異なるものというほかなく,この点の差異が,僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異であるとして,法68条の2の実質同一といえるのか否かを判断すべきことになる。
 この点,一審原告は,一審被告各製品がいずれもオキサリプラチンを唯一の有効成分としているから,本件各処分の対象となった物に当たる旨主張する。しかし,政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合,当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった物を特定するための事項としての「成分」が有効成分に限られないことは,前示のとおりであって,採用できないというべきである。

(2)
一審被告各製品が本件各処分の対象となった物と実質同一なものに含まれるか否かについて
 一審被告各製品と本件各処分における「成分」における上記差異が,僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異であり,実質同一の範囲内の差異か否かについては,本件発明の内容に基づき,その内容との関連で,本件各処分において定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して,当業者の技術常識を踏まえて,これを認定判断する必要がある
・・・。

 これによれば,本件発明においては,オキサリプラティヌム水溶液において,有効成分の濃度とpHを限定された範囲内に特定することと併せて,何らの添加剤も含まないことも,その技術的特徴の一つであるものと認められる。

 以上によれば,本件各処分と一審被告各製品とにおける「成分」に関する前記差異,すなわち,本件各処分の対象となった物がオキサリプラティヌムと注射用水のみからなる水溶液であるのに対し,一審被告各製品がこれにオキサリプラティヌムと等量の濃グリセリンを加えたものであるとの差異は,本件発明の上記の技術的特徴に照らし,僅かな差異であるとか,全体的にみて形式的な差異であるということはできず,したがって,一審被告各製品は,本件各処分の対象となった物と実質同一なものに含まれるということはできない。

ウ よって,一審被告各製品は,作用効果の同一性などその余の点について検討するまでもなく,本件各処分の対象となった「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」についての本件発明の実施と実質同一なものとして,延長登録された本件特許権の効力範囲に属するということはできない。



(3)
技術的範囲の属否について
一審被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するかについても判断する。
 本件発明の特許請求の範囲の記載の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」との構成要件Cは,オキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であるのか,オキサリプラティヌムと水からなる水溶液であれば足り,他の添加剤等の成分が含まれる場合も包含されるのかについて,特許請求の範囲の記載自体からは,いずれの解釈も可能である。そこで,構成要件Cについては,本件明細書の記載及び出願の経過を参酌して判断する。
・・・。

 以上によれば,本件発明の特許請求の範囲の記載の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」(構成要件C)との文言は,本件発明がオキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であって,他の添加剤等の成分を含まないことを意味するものと解さざるを得ない
 これに対し,一審被告各製品は,オキサリプラチンと注射用水のほか,有効成分以外の成分として,オキサリプラチンと等量の濃グリセリンを含有するものであるから,一審被告各製品は,その余の構成について検討するまでもなく,本件発明の技術的範囲に属さないものといわざるを得ない(なお,(1)及び(2)のとおり,本件においては,法68条の2の延長登録された特許権の効力範囲について
の判断が先行したが,これは本事案の経緯とその内容に鑑み,そのようになったにすぎず,通常は,まず,相手方の製品が特許発明の技術的範囲に属するかどうかを先に判断することも検討されるべきである。)。

(4) 
小括
 以上のとおりであるから,一審被告各製品に対し,延長登録された本件特許権の効力は及ばない。



3 当審における一審原告の追加的主張について,必要な限度で判断する。
(1) 一審原告は,延長登録された特許権の効力範囲における実質同一物等に当たるかどうかは,特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨に基づいて検討すべきものである以上,問題とすべきは,「先発医薬品が処分を受けるために特許発明の実施ができなかったことにより得られた成果に全面的に依拠して,安全性の確保等法令で定めた試験等を自ら行うことなく,承認を得ているかどうか」であり,技術的範囲の通常の理解に照らして検討するのは誤りである,そして,一審被告各製品のように,添加剤を異にする後発医薬品であっても,先発医薬品が処分を受けるために特許発明の実施ができなかったことにより得られた安全性の確認等の成果に全面的に依拠して,自らは安全性の確保等に関して法令で定めた試験等を行うことなく,承認を得て製造,販売しているものであれば,当然に実質同一物等に該当すると解釈すべきである旨主張する(その論拠として,後発医薬品としての一審被告各製品の位置付けや,後発医薬品において使用される添加剤に関し厳格な規制が存することなどを挙げる。)。 

 しかしながら,一審原告の主張は,要するに,医薬品の承認制度の面から,後発医薬品として承認されたものは全て実質同一物等に当たる(先発医薬品に係る特許発明の効力が及ぶ)と断じるに等しく,法68条の2の制度趣旨や解釈論を無視するものであって,採用することはできない。・・・。 

 しかるに,一審原告の主張は,当該特許発明の内容に関わらず,いわば医薬品としての有効成分や治療効果のみに着目して延長された特許権の効力範囲を論ずるものであり,これは前記のとおりの法68条の2の制度趣旨や解釈論に反することが明らかであって,採用することはできないというべきである。」


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■先発品が含有していない添加物である濃グリセリンを含有する後発品に対して、延長された製剤特許権の効力は及ばないと判断された事例


<判決紹介>

・平成27年(ワ)第12414号 特許権侵害差止請求事件
・平成28330日判決言渡
・東京地方裁判所民事第29部 嶋末和秀、鈴木千帆、笹本哲朗
・原告:デビオファーム・インターナショナル・エス・アー
・被告:東和薬品株式会社
・特許3547755


コメント:
新薬 vs ジェネリックの侵害訴訟。
東和薬品は
前回前々回に続き3連勝です。
今回はお待ちかねの延長された特許権の効力が判断されました。

ヤクルト社の先発品はエルプラット点滴静注液50,100,200mg(一般名:オキサリプラチン)。
東和薬品の後発品はオキサリプラチン点滴静注50,100,200mg「トーワ」。
(被告以外の会社も後発品を販売中。)

東和薬品の後発品は、先発品が含有していない濃グリセリン50,100,200mg)を含有しており、その場合でも延長された特許権の効力が及ぶかどうかが争点となりました。


本件特許のクレーム1は下記の通り。

「【請求項1
A
濃度が1ないし5mg/ml
B pH
4.5ないし6
C
オキサリプラティヌムの水溶液からなり,
D
医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,
E
該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,
F
腸管外経路投与用の
G
オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。」



当事者の主張は下記の通り。

「第3 争点に関する当事者の主張
・・・
2
争点2(被告各製品は本件各処分の対象となった物又はその均等物ない し実質的に同一と評価される物か)について
【原告の主張】
1) 被告各製品が本件各処分の対象となった物に当たることについて
ア 本件各処分は,オキサリプラチンを有効成分として承認申請がされ,その結果として得られた製造販売承認であるところ,被告各製品は,いずれもオキサリプラチンを唯一の有効成分としているから,本件各処分の対象となった物に当たる。
イ 被告各製品の「用途」が本件各処分の対象となった物の「用途」と同一のものとなっていることは,被告も認めているところであるから,本件各延長登録に係る本件特許権の効力は,被告各製品に及ぶ。
2) 被告各製品が少なくとも本件各延長登録の理由となった本件各処分の対象となった物の均等物に当たることについて
仮に,上記(1)アの主張が認められないとしても,被告各製品に含まれる濃グリセリンはあくまで添加物であるうえ,被告各製品は,本件各処分の対象となった物(エルプラット50,エルプラット100又はエルプラット200)と生物学的同等性を有することを前提に,本件各処分で用いられた臨床成績をそのまま利用して承認を得たものであるから,被告各製品は,少なくとも本件各処分の対象となった物の均等物に当たる。

【被告の主張】
1) 被告各製品が本件各処分の対象となった物に当たらないことについて被告各製品には濃グリセリンが含まれているところ,本件各処分の対象となった物(エルプラット50,エルプラット100又はエルプラット200)は,「成分」として「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないものとされている(甲111ないし113)。
したがって,被告各製品は,本件各処分の対象となった物とは,「成分」において異なる以上(なお,「成分」が薬効を発揮する成分〔有効成分〕に限定されるものではないことは,いうまでもない。),本件各処分の対象となった物に当たらないことは,明らかである。
2) 被告各製品が本件各処分の対象となった物の均等物や実質的に同一と評価される物にも当たらないことについて
そもそも,本件明細書の記載によれば,本件発明は,オキサリプラチンと水のみからなる製剤であることをその本質的部分とするというべきところ(甲2243行~33行〕参照),被告各製品は,濃グリセリンを含むのであるから,本件発明とは,その本質的部分において相違している。また,被告各製品が濃グリセリンを含むのは,注射用水にオキサリプラチンのみを溶解させた水溶液の場合,オキサリプラチンの分解により類縁物質や2量体が生成することがあることから,それらの分解を抑制するために,炭素数3個のポリオール(グリセリン)を添加することが有用であることを見出したことによる。被告は,それらの知見に基づいて特許出願をし,特許第5314790号を得た(乙4)。被告各製品は,同特許に係る発明の実施品であり,被告各製品が「成分」として濃グリセリンを含むのは,本件発明とは異なる目的のためである。被告各製品は,濃グリセリンを含むことにより,本件発明が有しない効果を奏するものであって,本件発明の均等物でないばかりか,本件各処分の対象となった物の均等物や実質的に同一と評価される物にも当たらない。」



裁判所の判断は下記の通り。

「第4 当裁判所の判断
本件事案に鑑み,争点2から判断する。
1
争点2(被告各製品は本件各処分の対象となった物又はその均等物ないし実質的に同一と評価される物か)について
1) 本件各処分の対象となった物について
ア 特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨
・・・
イ 特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力
・・・

もっとも,特許権者が研究開発に要した費用を回収することができるようにするとともに,研究開発のためのインセンティブを高めるという目的で,特許期間の延長を認めることとした特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨に鑑みると,侵害訴訟における対象物件が政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」の範囲をわずかでも外れれば,存続期間が延長された特許権の効力がもはや及ばないと解するべきではなく,当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」と相違する点がある対象物件であっても,当該対象物件についての製造販売等の準備が開始された時点(当該対象物件の製造販売等に政令処分が必要な場合は,当該政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点と解される。)において,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして,その相違が周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないと認められるなど,当該対象物件が当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」の均等物ないし実質的に同一と評価される物(以下「実質同一物」ということがある。)についての実施行為にまで及ぶと解するのが合理的であり,特許権の本来の存続期間の満了を待って特許発明を実施しようとしていた第三者は,そのことを予期すべきであるといえる。なお,上記のように解すると,政令処分を受けることによって禁止が解除される特許発明の実施の範囲よりも,存続期間が延長された特許権の効力が及ぶ特許発明の実施の範囲が広いことになるが,上述した意味での均等物や実質同一物についての実施行為の範囲にとどまる限り,第三者の利益が不当に害されることはないというべきである。

ウ 政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合について
・・・
したがって,医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)及び分量」によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当である。ただし,延長登録制度の立法趣旨に照らして,「当該用途に使用される物」の均等物や「当該用途に使用される物」の実質同一物が含まれることは,前示のとおりである(なお,平成26年知財高判は,「分量」については,「延長された特許権の効力を制限する要素となると解することはできない」旨判示しているが,その趣旨は,「分量」は,「成分」とともに,「物」を特定するための事項ではあるものの,「分量」のみが異なっている場合には,「用法,用量」などとあいまって,政令処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で均等物ないし実質同一物として,延長された特許権の効力が及ぶことが通常であることを注意的に述べたものと理解するのが相当と思われる。)。

エ 本件各処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」について
・・・
・・・エルプラット・・・いずれも「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないものとされている・・・。
そうすると,「物」に係るものとしての「分量」及び「用途」に係るものとしての「効能,効果,用法,用量」の点をひとまず措くとすれば,本件各処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」とは,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まない製剤(ただし,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがある。)であると認められる。

2) 被告各製品は本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」といえるかについて
前記前提事実,上記(1)エの認定事実,及び弁論の全趣旨によれば,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の「成分」は,いずれも「オキサリプラチン」と「注射用水」のみ(ただし,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがある。)であるのに対し,被告各製品の「成分」は,いずれも「オキサリプラチン」と「水」以外に,添加物として「濃グリセリン」を含むものであり,その使用目的は,「安定剤」であることが認められる(被告製品3における添加物(濃グリセリン)」の使用目的は,被告製品1及び同2と同じであると推認される。)。
そうすると,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」と被告各製品とは,その「成分」において異なるものというほかはない。したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」とはいえない
・・・

3)被告各製品は本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するといえるかについて
ア考え方
上記(2)のとおり,被告各製品が本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」とはいえないとしても,前記(1)イで説示したところによれば,被告各製品と本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」との相違が,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,本件発明の種類や対象に照らして,周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではない場合には,その「当該用途に使用される物」の均等物,あるいはその「当該用途に使用される物」の実質同一物と認めるのが相当である。

医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る特許発明において,「当該用途に使用される物」との均等物,あるいは「当該用途に使用される物」の実質同一物かどうかを判断するに当たっては,例えば,次のように考えることができる。当該特許発明が新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など,医薬品の有効成分(薬効を発揮する成分)のみを特徴的部分とする発明である場合には,延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で,有効成分以外の成分のみが異なるだけで,生物学的同等性が認められる物については,当該成分の相違は,当該特許発明との関係で,周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等に当たり,新たな効果を奏しないことが多いから,「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たるとみるべきときが少なくないと考えられる。他方,当該特許発明が製剤に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明である場合には,延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で,有効成分以外の成分が異なっていれば,生物学的同等性が認められる物であっても,当該成分の相違は,当該特許発明との関係で,単なる周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等に当たるといえず,新たな効果を奏することがあるから,「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たらないとみるべきときが一定程度存在するものと考えられる

イ 本件発明の種類及び対象
そこで,本件発明の種類や対象について検討するに,本件明細書には,従来技術,発明の目的及び課題の解決に関し,次の記載がある。
・・・
また,原告は,特許庁審査官から,平成15711日付け拒絶理由通知書(乙121)を受け,これに対し,本件意見書を提出したが,同意見書(2頁)には次の記載がある。
[2]本願発明の説明
本願発明の目的は,本願明細書(3)頁20行~(4)頁24行に記載のとおり,(1)オキサリプラティヌム水溶液を安定な製剤で得ること,かつ(2)該製剤のpH4.56であることであり,さらに(3)該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まないことである。・・・」

本件明細書及び本件意見書の上記記載に加え,前記前提事実,証拠(甲2,乙579121ないし12313)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関するものであって,医薬品の成分全体に関する発明であるところ,オキサリプラティヌム(オキサリプラチン)は,本件特許の優先日前の公知物質であって,これを有効成分として制癌剤に用いることも,同優先日前に公知であったことが認められるから,本件発明は,新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など,医薬品の有効成分のみを特徴的部分とする発明ではなく,製剤に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であると認められる。

  検討
上記のとおり,本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する発明であり,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であって,原告は,その実施として,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないとするエルプラット点滴静注液(製剤)について本件各処分を受けたものである。これに対し,前記前提事実,上記(1)エ及び(2)の各認定事実,証拠(乙4)並びに弁論の全趣旨によれば,被告各製品は,「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」のほか,有効成分以外の成分として,「オキサリプラチン」と等量の「濃グリセリン」を含有するもので,オキサリプラチンを水に溶解したもの(以下,「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」以外の成分の有無を問わず,「オキサリプラチン水溶液」という。)にグリセリンを加えたのは,オキサリプラチン水溶液の保存中に,オキサリプラチンの分解が徐々に進行し,類縁物質であるジアクオDACHプラチンやその二量体であるジアクオDACHプラチン二量体を主とした種々の不純物が生成するため,オキサリプラチンの自然分解自体を抑制するということを目的としたものであることが認められる。これを,本件発明との関係でみると,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,オキサリプラチン水溶液にオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを加えることが,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たると認めるに足りる証拠はなく,むしろ,オキサリプラチン水溶液に添加したグリセリンによりオキサリプラチンの自然分解を抑制するという点で新たな効果を奏しているとみることができる(なお,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」については,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがあることは,前示のとおりである。また,オキサリプラチン水溶液に添加されたシュウ酸がオキサリプラチンの自然分解を抑制することは知られているが,シュウ酸は人体に有害な物質である。)。

そうすると,被告各製品は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする本件発明との関係では,本件各処分の対象となった物とは有効成分以外の成分が異なる物であり,当該成分の相違は,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,本件発明との関係では,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たるとはいえず,新たな効果を奏するものというべきである。
したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するということはできない。

この点,原告は,被告各製品に含まれる「濃グリセリン」があくまで「添加物」であるとか,被告各製品は,本件各処分の対象となった物(エルプラット50,エルプラット100及びエルプラット200)と生物学的同等性を有することを前提に,本件各処分で用いられた臨床成績をそのまま利用して承認を得たものであるなどと主張する。しかし,被告各製品が,エルプラット点滴静注液と有効成分である「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有するとされており,「濃グリセリン」それ自体が「添加物」であるとしても,上記のとおり,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する本件発明が,医薬品の有効成分のみを特徴的部分とする発明ではなく,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であって,そのような本件発明との関係では,上述した有効成分以外の成分の相違は,単なる周知技術・慣用技術の付加等には当たらず,新たな効果を奏するものというべきであることからすれば,有効成分である「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有するとされていることをもって,直ちに均等物ないし実質同一物と認めることはできないのであって,原告の上記主張は,採用することができない

4)小括
以上によれば,被告各製品は,本件各処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」ではなく,その均等物ないし実質同一物に該当するものということもできない。したがって,存続期間が延長された本件特許権の効力は,被告による被告各製品の生産等には及ばないものというべきである。

2
 結論
以上の次第で,本件各請求は,その余の争点につき検討するまでもなく,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。」



というわけで、東和薬品の後発品に対して延長された製剤特許権の効力は及ばないと判断され、請求棄却。 ☆☆☆☆


■関連記事
・オキサリプラチン特許侵害訴訟。クレームの緩衝剤は添加したものに限られないし、先行文献の追試は正確に再現されていないから採用できないと判断された事例。



■ジェネンテックの「用法・用量」に関する延長登録出願の最高裁判決


<判決紹介>

「用法・用量」に関する延長登録出願の最高裁判決が出ました。特許庁の上告は棄却さました。☆

平成26(行ヒ)356号 審決取消請求事件、平成271117日 最高裁判所第三小法廷

原審:知財高裁大合議判決(平成25(行ケ)10195号 審決取消請求事件、平成26530日 知的財産高等裁判所特別部)

審査基準は改定されるようです。

特許権の存続期間の延長登録出願に関する審査基準及び審査の取扱いについて


■ジェネンテックの延長登録出願に関する知財高裁大合議判決


<判決紹介>

■コメント:
遅ればせながら、知財高裁大合議判決。 クレームに「用法、用量」の記載が無くても、「用法、用量」の一部変更承認に基づいて特許権の延長登録が可能であるという主旨の判断がなされた。 拒絶審決取消。 ☆☆☆☆


■平成25(行ケ)10195-8号 審決取消請求事件
■平成26530日判決言渡、知的財産高等裁判所特別部
■原告: ジェネンテック,インコーポレイテッド
■被告: 特許庁長官
■特許: 特許3398382
■請求項1:
VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニストを治療有効量含有する,癌を治療するための組成物。


■第2 前提となる事実
1
特許庁における手続の経緯等
・・・。

(2
) 平成2496日付け手続補正後における延長登録の理由となる処分(以下「本件処分」という場合がある。)の内容及び本件出願の理由は,以下のとおりである(甲23)。
 
ア 延長登録の理由となる処分
 
薬事法149項に規定する医薬品に係る同項の承認
 
イ 処分を特定する番号
 
承認番号 21900AMX00910000
 
ウ 処分の対象となったもの
 
販売名 アバスチン点滴静注用100mg/4mL
 
一般名 ベバシズマブ(遺伝子組換え)
 
(以下,上記販売名及び一般名で特定される医薬品を「本件医薬品」という。)
 
エ 処分の対象となったものについて特定された用途
 
「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用における,成人への,ベバシズマブとして17.5mg/kg(体重)での,投与間隔3週間以上の点滴静脈内注射」
 
オ 処分を受けた日
 
平成21918
 
カ 政令で定める処分を受けた物が特許請求の範囲に記載されていること
 
請求項1に記載の抗hVEGF抗体が処分を受けたベバシズマブ(遺伝子組換え)である。

(3
) 本件医薬品については,本件処分に先立って,平成19418日付けで以下の医薬品製造販売承認(以下「本件先行処分」という。)がされている。本件処分は,本件先行処分の製造販売承認事項一部変更承認であり,主な変更事項は,「用法及び用量」に新たな用法・用量を追加した点にある。(甲13ないし16
 
ア 処分の根拠
 
薬事法141
 
イ 承認番号
  21900AMX00910000

 
ウ 効能又は効果
 
「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」
 
エ 用法及び用量
 
他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人には,ベバシズマブとして15mg/kg(体重)又は10mg/kg(体重)を点滴静脈内投与する。投与間隔は2週間以上とする。

・・・。

4 当裁判所の判断
 
当裁判所は,審決には,以下のとおりの誤りがあると判断する。
・・・。
1
特許法67条の311号該当性判断の誤り(取消事由1)について
・・・。

(4
) 特許法67条の311号所定の要件充足性の判断について
 
前記のとおり,特許法67条の311号は,特許権の存続期間の延長登録出願を拒絶する要件として,「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき。」と規定している。この要件のうち,前記①の「政令で定める処分を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと」との第1要件の有無を判断するに当たっては,医薬品の審査事項である「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」の各要素を形式的に適用して判断するのではなく,存続期間の延長登録制度を設けた特許法の趣旨に照らして実質的に判断することが必要である。
 
上記の観点から,医薬品の成分を対象とする特許(製法特許,プロダクトバイプロセスクレームに係る特許等を除く。以下同じ。)について検討すると,品目を構成する要素のうち,「名称」は医薬品としての客観的な同一性を左右するものではないから,禁止が解除されたかどうかの判断要素とは解されない。また,「副作用その他の品質」,「有効性及び安全性に関する事項」は,通常,医薬品としての実質的な同一性に直接関わる事項とはいえないから,禁止が解除されたかどうかの判断要素とするまでの必要はないと解される。
 
以上によると,医薬品の成分を対象とする特許については,薬事法141項又は9項に基づく承認を受けることによって禁止が解除される「特許発明の実施」の範囲は,上記審査事項のうち「名称」,「副作用その他の品質」や「有効性及び安全性に関する事項」を除いた事項(成分,分量,用法,用量,効能,効果)によって特定される医薬品の製造販売等の行為であると解するのが相当である。

(5
) 本件事案について
 
本件特許発明は,医薬品の成分を対象とする発明であるが,その医薬品に関連する製造販売等の行為について本件先行処分がされている。そこで,本件先行処分により禁止が解除されたと判断される範囲と本件処分により禁止が解除されたと判断される範囲との関係について,上記(4)の観点を踏まえて検討する。
 
前記のとおり,本件先行処分は,薬事法141項に基づいて,平成19418日付けでされた,販売名を「アバスチン点滴静注用100mg/4mL」,有効成分を「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」,効能又は効果を「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」,用法及び用量を「他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人には,ベバシズマブとして15mg/kg(体重)又は10mg/kg(体重)を点滴静脈内投与する。投与間隔は2週間以上とする。」とする医薬品の製造販売承認である。そして,同処分に基づいて延長期間を423日とする特許権の存続期間の延長登録がされた(甲1314,乙1)。本件処分は,本件先行処分において承認された用法及び用量に,「他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人にはベバシズマブとして17.5mg/kg(体重)を点滴静脈内注射する。投与間隔は3週間以上とする。」を追加することを主な変更内容とする,同条9項に基づく,医薬品製造販売承認事項一部変更承認である。
 
本件先行処分では,「他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人にはベバシズマブとして17.5mg/kg(体重)を点滴静脈内注射する。投与間隔は3週間以上とする。」との用法・用量によって特定される使用方法による本件医薬品の使用行為,及び上記使用方法で使用されることを前提とした本件医薬品の製造販売等の行為の禁止は解除されておらず,本件処分によってこれが解除されたのであるから,本件処分については,延長登録出願を拒絶するための前記の選択的要件のうち,「政令で定める処分を受けたことによっては,禁止が解除されたとはいえないこと」との要件(前記第1要件)を充足していないことは,明らかである。
 
また,本件処分により禁止が解除された,上記用法・用量によって特定される使用方法による本件医薬品の使用行為,及び上記使用方法で使用されることを前提とした本件医薬品の製造販売等の行為が本件特許発明の実施行為に該当することは,当事者間に争いはなく,本件処分については,延長登録出願を拒絶するための前記の選択的要件のうち,「『政令で定める処分を受けたことによって禁止が解除された行為』が『その特許発明の実施に該当する行為』には含まれないこと」との要件(前記第2要件)を充足していないことも,明らかである。
  
以上のとおりであり,本件においては,「本件処分を受けたことによって本件特許発明の実施行為の禁止が解除されたとはいえない」とはいえず,特許法67条の311号の定める,拒絶要件があるとはいえない。

・・・。

2
特許法68条の2に基づく延長された特許権の効力の及ぶ範囲について
  
本件出願が特許法67条の311号に該当するとした審決の判断には誤りがあり,その余の点を判断するまでもなく,審決は違法であることになる。また,同法68条の2に基づく延長された特許権の効力の及ぶ範囲については,本来,特許権侵害訴訟において判断されるべき論点であるが,念のため,以下のとおり検討を加える。
・・・。

(
) 以上のとおり,特許権の延長登録制度及び特許権侵害訴訟の趣旨に照らすならば,医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)」によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当である(もとより,その均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは,延長登録制度の立法趣旨に照らして,当然であるといえる。)。

  
エ 上記のように解した場合,政令で定める処分を受けることによって禁止が解除される特許発明の実施の範囲と,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力が及ぶ特許発明の実施の範囲とは,常に一致するわけではない。しかし,先行処分を理由として存続期間が延長された特許権の効力がどの範囲まで及ぶかという点は,特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったか否かとの点と,直接的に関係するものでない以上,それぞれの範囲が一致しないことに,不合理な点はないというべきである。なお,政令で定める処分を受けることによって禁止が解除された特許発明の実施が,先行処分に基づき存続期間が延長された当該特許権の効力が及ぶ特許発明の実施の範囲に含まれるような場合は,重複して延長の効果が生じ得ることとなる。後行処分による延長期間が先行処分による延長期間より長い場合には,これに対応する期間,当該特許権の存続期間が延長されるが,当該期間については,当該特許発明の実施が禁止されていた部分があることに照らすと,上記のように解することに何ら不合理な点はない。

■アリセプト期間延長 平成21年(行ケ)第10423号,第10424号,第10425号,第10426号,第10427号,第10428号,第10429号 審決取消請求事件


■コメント: アリセプト®(塩酸ドネペジル)の期間延長に関する判決。 延長登録の理由となった処分の対象となった物について特定された用途について、「軽度及び中等度のアルツハイマー型痴呆における痴呆症状の進行抑制」とした延長登録が平成131219日になされている(21112日の期間延長)。 そのような中、処分の対象となった物について特定された用途について、「アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制(但し,軽度及び中程度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制を除く。)」とした延長登録が認められるかが問われた。 

争点は、「軽度及び中等度のアルツハイマー型痴呆における痴呆症状の進行抑制」と、「アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制(ただし,軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制を除く。)」(実質的には、「高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」)とが実質的に同一であるか否かであり、結論は否。被告の勝利。☆☆

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徳重大輔


Author: 徳重大輔

バイオ、医薬、特許関連のブログです。
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SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書はバイオ医薬(特に抗体医薬)、調査は無効資料調査が特に得意です。

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