■均等

■最高裁 マキサカルシトール製法特許の「均等侵害」認め、中外製薬が勝訴


<判決紹介>

マキサカルシトール製法特許の均等侵害の最高裁判決がでました。 DKSHジャパンらの上告は棄却されました。 最高裁では均等の第5要件(特段の事情)のみ判断されました。


中外製薬のニュースリリースはこちらです。
オキサロール®軟膏の特許権侵害訴訟における最高裁判所判決勝訴のお知らせ
http://tyn-imarket.com/pdf/2017/3/24/140120170324426840.pdf


判決はこちらです。
・平成28年(受)第1242号 特許権侵害行為差止請求事件
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/634/086634_hanrei.pdf


原審の知財高裁大合議はこちらで紹介していました。
・マキサカルシトール製法特許侵害訴訟、知財高裁大合議も均等と判断
http://biopatentblog.blog.fc2.com/blog-entry-159.html


知財高裁も最高裁も、特段の事情がないと判断しました。
最高裁と知財高裁の判断の一部を以下に記載します。


最高裁-----------------------------------------------------------------------------------
5(1) 特許制度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与することを目的とするものである(特許法1条参照)。そして,特許法701項は,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないと規定する。しかるところ,特許権侵害訴訟における相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部をこれと実質的に同一なものとして容易に想到することができる他の技術等に置き換えることによって,特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば,上記のような特許法の目的に反し,衡平の理念にもとる結果となることなどに照らすと,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,所定の要件を満たすときには,対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するというべきである。そして,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するときは,上記のような均等の主張は許されないものと解されるが,その理由は,特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないというところにある(平成10年判決参照)

しかるに,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかったというだけでは,特許出願に係る明細書の開示を受ける第三者に対し,対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものであることの信頼を生じさせるものとはいえず,当該出願人において,対象製品等が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとったものとはいい難い。また,上記のように容易に想到することができた構成を特許請求の範囲に記載しなかったというだけで,特許権侵害訴訟において,対象製品等と特許請求の範囲に記載された構成との均等を理由に対象製品等が特許発明の技術的範囲に属する旨の主張をすることが一律に許されなくなるとすると,先願主義の下で早期の特許出願を迫られる出願人において,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲の記載を特許出願時に強いられることと等しくなる一方,明細書の開示を受ける第三者においては,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものを上記のような時間的制約を受けずに検討することができるため,特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができることとなり,相当とはいえない。

そうすると,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても,それだけでは,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえないというべきである。

(2)
もっとも,上記(1)の場合であっても,出願人が,特許出願時に,その特許に係る特許発明について,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,特許請求の範囲に記載された構成を対象製品等に係る構成と置き換えることができるものであることを明細書等に記載するなど,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,明細書の開示を受ける第三者も,その表示に基づき,対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものとして理解するといえるから,当該出願人において,対象製品等が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとったものということができる。また,以上のようなときに上記特段の事情が存するものとすることは,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与するという特許法の目的にかない,出願人と第三者の利害を適切に調整するものであって,相当なものというべきである。

したがって,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。

そして,前記事実関係等に照らすと,被上告人が,本件特許の特許出願時に,本件特許請求の範囲に記載された構成中の上告人らの製造方法と異なる部分につき,客観的,外形的にみて,上告人らの製造方法に係る構成が本件特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて本件特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたという事情があるとはうかがわれない。」
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知財高裁大合議--------------------------------------------------------------------------
「ア 5要件の判断基準について
特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,第三者はこれを予期すべきものであるから,対象製品等が,特許発明とその本質的部分,目的及び作用効果で同一であり,かつ,特許発明から当業者が容易に想到することができるものである場合には,原則として,対象製品等は特許発明と均等であるといえる。しかし,特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側において一旦特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないから,このような特段の事情がある場合には,例外的に,均等が否定されることとなる(前記ボールスプライン事件最判参照)

(
) この点,特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできない。
・・・
(
) もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。
・・・
(
) 控訴人らは,化学分野の発明では,特許請求の範囲が客観的かつ明瞭な表現で規定されており,第三者にはその範囲以外に権利が拡張されることはないとの信頼が生じるから,当該信頼は保護されるべきであると主張する。しかし,前記のとおり,均等による権利は,特許請求の範囲の文言上規定された範囲以外であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することができる技術に及び,第三者はこれを予期すべきであり,禁反言の法理に照らし均等の主張が許されないのは,上記特段の事情がある場合に限られるのであって,化学分野の発明であることや,特許請求の範囲が文言上明確であることは,それ自体では「特段の事情」として均等の成立を否定する理由とはなり得ないから,控訴人らの主張は理由がない。

(
) 控訴人らは,前記第31(4)控訴人らの主張イ()ないし()のとおりの事情を主張し,訂正発明の出願人は,特許請求の範囲を記載するに際し,トランス体のビタミンD構造を対象としないことを明瞭かつ客観的に意識して出発物質を決定し,積極的にトランス体のビタミンD構造を除外するという意識的な選択をしたものであり,したがって,本件においては,ボールスプライン事件最判がいう「特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情」があり,また,同判決が均等論を認める根拠として示す「あらゆる侵害態様を予測して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難」という,特許権者を特に保護すべき事情は存在しないなどと主張する。
しかし,以下のとおり,訂正明細書中には,訂正発明の出発物質をトランス体のビタミンD構造とした発明を記載しているとみることができる記載はなく(訂正明細書中に,トランス体のビタミンD構造を出発物質とする発明の開示がされていないことは,争いがない。),その他,出願人が,本件特許の出願時に,トランス体のビタミンD構造を,訂正発明の出発物質として,シス体のビタミンD構造に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認めるに足りる証拠はないから,控訴人らの主張は理由がないというべきである。

a
控訴人らは,二種類の幾何異性体の存在やトランス体のビタミンD構造を出発物質とする合成ルートは周知であったから,出願人が過誤でトランス体のビタミンD構造を出発物質とする合成ルートの存在に気が付かなかったということはないなどと主張する。しかし,訂正発明の出願人が,一般的にシス体の幾何異性体としてトランス体が存在することやトランス体のビタミンD構造を出発物質としてビタミンD誘導体の合成を行う方法があることを知っていたとしても,そのことだけをもって,出願人が,出願時に,訂正発明の出発物質に代替するものとしてトランス体のビタミンD構造を出発物質とすることを認識していたものと客観的,外形的にみて認められるということはできない。したがって,控訴人らの主張は理由がない。」
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■マキサカルシトール製法特許侵害訴訟、知財高裁大合議も均等と判断


<判決紹介>
・平成27()10014号 特許権侵害行為差止請求控訴事件
・平成28325日判決言渡、知的財産高等裁判所特別部
・控訴人(被告)DKSHジャパン株式会社,株式会社ポーラファルマ,岩城製薬株式会社,高田製薬株式会社
・被控訴人(原告):中外製薬株式会社
・特許3310301


■コメント
新薬 vs ジェネリックの侵害訴訟。
マキサカルシトール製法特許の均等侵害事件の知財高裁大合議判決。

クレーム製法の出発物質はシス体で、被告製法はトランス体の場合に、均等といえるかが争点。原審では均等と判断されていました(下記リンク参照)。

20150122_8_1.jpg

2015/1/22 マキサカルシトール製法特許の均等侵害が認められた事例

で、今回ですが、大合議も均等であると判断しました。


以下、判決文から抜粋です。

「第4  当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人方法は,訂正発明と均等であり,また,訂正発明についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
訂正発明との均等の成否について
(1
均等の5要件及び立証責任について
特許権者は,業として特許発明の実施をする権利を専有し(特許法68条本文),特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定められ(同法701項),特許出願人は,特許請求の範囲には,特許を受けようとする発明を特定するために必要と認めるすべての事項を記載しなければならないのであるから(同法365項),特許請求の範囲の記載は,第三者に対し,特許の独占的,排他的な権利の範囲を公示する機能を有するものである。したがって,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲に記載された構成の文言解釈により確定されるのが原則である。

しかしながら,特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,
①同部分が特許発明の本質的部分ではなく,
②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,
③上記のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,
④対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,
⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,同対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(以下,上記①ないし⑤の要件を,順次「第1要件」ないし「第5要件」という。)。

なぜなら,①特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり,相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって,特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば,社会一般の発明への意欲を減殺することとなり,発明の保護,奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるのであって,
②このような点を考慮すると,特許発明の実質的価値は第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び,第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当であり,
③他方,特許発明の特許出願時において公知であった技術及び当業者がこれから同出願時に容易に推考することができた技術については,そもそも何人も特許を受けることができなかったはずのものであるから,特許発明の技術的範囲に属するものということができず,
④また,特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側において一旦特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないからである(ボールスプライン事件最判)。」


(3均等の第1要件(非本質的部分)について
  本質的部分の認定について
特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にある。したがって,特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段(特許法364項,特許法施行規則24条の2参照)とその効果(目的及び構成とその効果。平成6年法律第116号による改正前の特許法364項参照)を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり,そして,①従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には,特許請求の範囲の記載の一部について,これを上位概念化したものとして認定され(後記ウ及びエのとおり,訂正発明はそのような例である。),②従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には,特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されると解される。
ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが,出願時(又は優先権主張日。以下本項(3)において同じ)の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には,明細書に記載されていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。そのような場合には,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載のみから認定される場合に比べ,より特許請求の範囲の記載に近接したものとなり,均等が認められる範囲がより狭いものとなると解される。
また,第1要件の判断,すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には,特許請求の範囲に記載された各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分けた上で,本質的部分に当たる構成要件については一切均等を認めないと解するのではなく,上記のとおり確定される特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,これを備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならない。
・・・。

  訂正発明の本質的部分
訂正発明の上記課題及び解決手段とその効果に照らすと,訂正発明の本質的部分(特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)は,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物を,末端に脱離基を有する構成要件B-2のエポキシ炭化水素化合物と反応させることにより,一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖を導入することができるということを見出し,このような一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造又はステロイド環構造という中間体を経由し,その後,この側鎖のエポキシ基を開環するという新たな経路により,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物にマキサカルシトールの側鎖を導入することを可能とした点にあると認められる。
一方,出発物質の20位アルコール化合物の炭素骨格(Z)がシス体又はトランス体のビタミンD構造のいずれであっても,出発物質を,末端に脱離基を有するエポキシ炭化水素化合物と反応させることにより,出発物質にエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入された中間体が合成され,その後,この側鎖のエポキシ基を開環することにより,マキサカルシトールの側鎖を導入することができるということに変わりはない。この点は,中間体の炭素骨格(Z)がシス体又はトランス体のビタミンD構造のいずれである場合であっても同様である。したがって,出発物質又は中間体の炭素骨格(Z)のビタミンD構造がシス体であることは,訂正発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分とはいえず,その本質的部分には含まれない。
・・・。

(
控訴人らは,化合物の製造方法の技術分野においては,全工程の有機的結合そのものが課題解決のための技術的思想であり,出発物質をシス体とする製造方法とトランス体とする製造方法とは当業者に別個のものとして理解されているのであって,製法の重要な構成要素である出発物質,中間体の違いや,シス体とトランス体との安定性,精製容易性や総工程数の違いを無視して,製法の一部のみを取り出して,本質的部分とするのは誤りである旨を主張する。
しかし,前記のとおり,特許発明の本質的部分は,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することにより認定されるべきであり,化合物の製造方法であるからといって,常に全工程の有機的結合のすべてが本質的部分となるものとはいえない。したがって,出発物質,中間体に,側鎖導入のための反応に影響を及ぼさないわずかな違いがあることをもって,直ちに本質的部分が異なるとはいえない。
また,シス体を出発物質及び中間体とするか,トランス体を出発物質及び中間体とするかどうかで,一般的には別個の製造方法として理解されており,また,両者には,安定性,精製容易性や総工程数の違いがあるとしても,訂正発明の本質的部分とは,前記エで認定したとおりの従来技術に開示されていなかった新規な製造方法により,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物にマキサカルシトールの側鎖を導入することを可能としたという点にあり,当該新規な側鎖の導入方法は,出発物質又は中間体がシス体であるかトランス体であるかによって異なるものではなく,シス体又はトランス体の安定性,精製容易性や工程数の違いも,訂正発明の本質的部分に関わる部分ではない。訂正発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外の作用効果の点で相違する部分があることは,訂正発明の本質的部分を共通に備えていることを否定する理由とはならない
したがって,控訴人らの主張は理由がない。」


(7均等の第5要件(特段の事情)について
  5要件の判断基準について
特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,第三者はこれを予期すべきものであるから,対象製品等が,特許発明とその本質的部分,目的及び作用効果で同一であり,かつ,特許発明から当業者が容易に想到することができるものである場合には,原則として,対象製品等は特許発明と均等であるといえる。しかし,特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側において一旦特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないから,このような特段の事情がある場合には,例外的に,均等が否定されることとなる(前記ボールスプライン事件最判参照)。

(
この点,特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできない。
なぜなら,①上記のとおり,特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載された構成以外の構成であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,その理は,出願時に容易に想到することのできる技術であっても何ら変わりがないところ,出願時に容易に想到することができたことのみを理由として,一律に均等の主張を許さないこととすれば,特許発明の実質的価値の及ぶ範囲を,上記と異なるものとすることとなる。また,②出願人は,その発明を明細書に記載してこれを一般に開示した上で,特許請求の範囲において,その排他的独占権の範囲を明示すべきものであることからすると,特許請求の範囲については,本来,特許法365項,同条61号のサポート要件及び同項2号の明確性要件等の要請を充たしながら,明細書に開示された発明の範囲内で,過不足なくこれを記載すべきである。しかし,先願主義の下においては,出願人は,限られた時間内に特許請求の範囲と明細書とを作成し,これを出願しなければならないことを考慮すれば,出願人に対して,限られた時間内に,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲とこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷であると解される場合がある。これに対し,特許出願に係る明細書による発明の開示を受けた第三者は,当該特許の有効期間中に,特許発明の本質的部分を備えながら,その一部が特許請求の範囲の文言解釈に含まれないものを,特許請求の範囲と明細書等の記載から容易に想到することができることが少なくはないという状況がある。均等の法理は,特許発明の非本質的部分の置き換えによって特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れるものとすると,社会一般の発明への意欲が減殺され,発明の保護,奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するのみならず,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるために認められるものであって,上記に述べた状況等に照らすと,出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外とすることは相当ではない。

(
もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。
なぜなら,上記のような場合には,特許権者の側において,特許請求の範囲を記載する際に,当該他の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したもの,すなわち,当該他の構成が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと理解することができ,そのような理解をする第三者の信頼は保護されるべきであるから,特許権者が後にこれに反して当該他の構成による対象製品等について均等の主張をすることは,禁反言の法理に照らして許されないからである。

  控訴人らの主張について
(
控訴人らは,化学分野の発明では,特許請求の範囲が客観的かつ明瞭な表現で規定されており,第三者にはその範囲以外に権利が拡張されることはないとの信頼が生じるから,当該信頼は保護されるべきであると主張する。しかし,前記のとおり,均等による権利は,特許請求の範囲の文言上規定された範囲以外であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することができる技術に及び,第三者はこれを予期すべきであり,禁反言の法理に照らし均等の主張が許されないのは,上記特段の事情がある場合に限られるのであって,化学分野の発明であることや,特許請求の範囲が文言上明確であることは,それ自体では「特段の事情」として均等の成立を否定する理由とはなり得ないから,控訴人らの主張は理由がない。

(
控訴人らは,前記第31(4)控訴人らの主張イ()ないし()のとおりの事情を主張し,訂正発明の出願人は,特許請求の範囲を記載するに際し,トランス体のビタミンD構造を対象としないことを明瞭かつ客観的に意識して出発物質を決定し,積極的にトランス体のビタミンD構造を除外するという意識的な選択をしたものであり,したがって,本件においては,ボールスプライン事件最判がいう「特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情」があり,また,同判決が均等論を認める根拠として示す「あらゆる侵害態様を予測して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難」という,特許権者を特に保護すべき事情は存在しないなどと主張する。
しかし,以下のとおり,訂正明細書中には,訂正発明の出発物質をトランス体のビタミンD構造とした発明を記載しているとみることができる記載はなく(訂正明細書中に,トランス体のビタミンD構造を出発物質とする発明の開示がされていないことは,争いがない。),その他,出願人が,本件特許の出願時に,トランス体のビタミンD構造を,訂正発明の出発物質として,シス体のビタミンD構造に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認めるに足りる証拠はないから,控訴人らの主張は理由がないというべきである。
a控訴人らは,二種類の幾何異性体の存在やトランス体のビタミンD構造を出発物質とする合成ルートは周知であったから,出願人が過誤でトランス体のビタミンD構造を出発物質とする合成ルートの存在に気が付かなかったということはないなどと主張する。しかし,訂正発明の出願人が,一般的にシス体の幾何異性体としてトランス体が存在することやトランス体のビタミンD構造を出発物質としてビタミンD誘導体の合成を行う方法があることを知っていたとしても,そのことだけをもって,出願人が,出願時に,訂正発明の出発物質に代替するものとしてトランス体のビタミンD構造を出発物質とすることを認識していたものと客観的,外形的にみて認められるということはできない。したがって,控訴人らの主張は理由がない。
・・・。

d
  控訴人らは,訂正明細書の41欄には,出発物質として,シス体のビタミンD構造のほかに,トランス体のビタミンD構造を記載した二つの国際公開公報が記載されているのに,訂正明細書の37欄では,二種類存する基本骨格からシス体を「特に」限定し,特許請求の範囲でもシス体のみが記載されているのであるから,訂正明細書上トランス体のビタミンD構造は意識的に除外されていると主張する。
訂正明細書の41欄には,訂正発明における中間体に当たる化合物の製造の際に出発化合物として使用することができる公知化合物の例示として,「日本特許公開公報昭和61-267550号(19861127日発行)および国際特許公開公報WO90-09991199097日)およびWO90/09992199097日)に記載された所望により水酸基が保護されている910-セコ-571019-プレグナトリエン-1α,3β,20β-トリオール」との記載がある(前記(3)()c)。しかし,「910-セコ-571019-プレグナトリエン-1α20β-トリオール」との記載は,ビタミンD構造をシス体ともトランス体とも限定しない一般的な表記であり,上記41欄の記載は,トランス体のビタミンD構造を出発物質とする発明を記載しているものではない。そして,引用された個々の公報の中においては,それぞれの公報記載の発明に係る製造方法の過程においてビタミンD構造のシス体の構造式又はトランス体の構造式が記載されているものの,訂正明細書においては,これらの文献は「910-セコ-571019-プレグナトリエン-1α,3β,20β-トリオール」を記載したものとして引用されているのみである。
また,控訴人らが指摘する訂正明細書の37欄は,特許請求の範囲の記載と同じ内容を特定して記載しているものであり,出発物質等の「Z」としてトランス体のビタミンD構造を明示しているものではない。
そして,訂正明細書には,他に,トランス体をシス体へと転換する工程の記載など,トランス体のビタミンD構造についての言及は一切なく,トランス体を出発物質とする製造方法に係る発明についての記載はない。
そうすると,上記各訂正明細書の記載をもって,訂正明細書中に,訂正発明の出発物質をトランス体のビタミンD構造とする発明が記載されているとみることはできないし,これをもって,出願人が,出願時に,トランス体のビタミンD構造を訂正発明の出発物質に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認めるには足りず,トランス体のビタミンD構造が特許請求の範囲から意識的に除外されていたものとは認められない。したがって,控訴人らの主張は理由がない。」


■マキサカルシトール製法特許の均等侵害が認められた事例


<判決紹介>
平成25年(ワ)第4040号 特許権侵害行為差止請求事件


コメント
新薬vsジェネリックの侵害訴訟。 製法特許ってだけでもハードル高めなのに、さらに均等侵害が認められたっていうレアな事例です。 クレームの出発物質はシス体で、被告製法はトランス体でしたが、均等(均等の5要件を満たす)と判断されました。 あと、進歩性や記載要件も争点になっていますが、被告の主張は認められませんでした。 ☆☆☆☆

・中外製薬のニュースリリース
オキサロール®軟膏に関する特許権侵害訴訟における第一審勝訴のお知らせ


抜粋
・平成25()4040号 特許権侵害行為差止請求事件
・平成261224日判決言渡、東京地方裁判所民事第29
・原告: 中外製薬株式会社
・被告: DKSHジャパン株式会社、岩城製薬株式会社、高田製薬株式会社、株式会社ポーラファルマ
・特許: 特許3310301
・訂正請求項13:
A-1
 下記構造を有する化合物の製造方法であって:
20150122_1.jpg
A-2
’ (式中,n1であり;
A-3
’ R1およびR2はメチルであり;
A-4
’ WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;
A-5
’ YOであり;
A-6
’ そしてZは,式:
20150122_2.jpg
のステロイド環構造,または式:
20150122_3.jpg
のビタミンD構造であり,Zの構造の各々は,1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく,Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)
B-1
 (a)下記構造:
20150122_4.jpg
(式中,WXYおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を
B-2
 塩基の存在下で下記構造:
20150122_5.jpg
(式中,nR1およびR2は上記定義の通りであり,そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて,
B-3
 下記構造:
20150122_6.jpg
を有するエポキシド化合物を製造すること;
C
 (b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
D
 (c)かくして製造された化合物を回収すること;
E
 を含む方法。


・概要
4 当裁判所の判断
1
争点1(均等の第1要件)について
(1)  被告方法が訂正発明の構成要件A’,B-2Dを充足すること,また,被告方法における出発物質A及び中間体Cが,シス体のビタミンD構造の化合物ではなく,その幾何異性体であるトランス体のビタミンD構造の化合物であるという点で,被告方法が訂正発明の構成要件B-1B-3Cを文言上充足しないことは,いずれも争いがない。
特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。 )と異なる部分が存する場合であっても,①同部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件),②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって(第2要件),③上記のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件),④対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件),かつ,⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(第5要件)は,対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属する(最高裁平成10224日第三小法廷判決・民集521113[ボールスプライン事件]参照)。
・・・。

そして,訂正明細書(甲15)には,訂正発明の解決すべき課題,訂正発明の目的,訂正発明の効果につき明確な記載はなく,「下記構造……を有する化合物の製造方法は新規であり……多様な生理学的活性を有することができるビタミンD誘導体の合成に有用である。」(訂正明細書25頁)と記載されているにすぎないが,訂正明細書の「発明の背景」の記載(訂正明細書1516頁)や実施例の記載(訂正明細書4957頁)を総合すると,訂正発明は,従来技術に比して,マキサカルシトールを含む訂正発明の目的物質を製造する工程を短縮できるという効果を奏するものと認められる(なお,・・・)。

ここで,訂正発明が工程を短縮できるという効果を奏するために採用した課題解決手段を基礎付ける重要な部分(訂正発明の本質的部分)は,ビタミンD構造又はステロイド環構造を有する目的物質を得るために,かかる構造を有する出発物質に対して,構成要件B-2の試薬(本件試薬を含む。)を塩基の存在下で反応させてエポキシド化合物を製造し(第1段階の反応),同エポキシド化合物を還元剤で処理する(エポキシ環を開環する)(第2段階の反応)という2段階の反応を利用することにより,所望の側鎖(マキサカルシトールの側鎖)を導入するところにあると認めるのが相当である。

(3) 
被告らは,出発物質がビタミンD構造の場合,シス体を用いることと構成要件B-2の試薬(本件試薬を含む。)を用いることの組合せが訂正発明の特徴であり,出発物質がシス体であることも,訂正発明の本質的部分である旨主張する。
そこで,シス体とトランス体の意義についてみると,以下のとおりである。
ビタミンD類の基本的な骨格として,側鎖を除いた,
20150122_7.jpg
という構造を共に有している。
この基本骨格には上部の二環から繋がる3つの二重結合があり,これを通常「トリエン」と呼ぶ。この「トリエン」は,二重結合部分では結合を軸として回転することができない。そのため,ビタミンD類には,このトリエン構造に由来する幾何異性体が下図に示すように2つ存在する。
20150122_8_1.jpg
この左側のトリエンの並び方のものを「シス体」(5Z)といい,右側の並び方のものを「トランス体」(5E)という。

ビタミンD構造の出発物質がシス体であっても,トランス体であっても,第1段階の反応で,出発物質の22位のOH基に塩基の存在下で本件試薬と反応させてエポキシド化合物を合成する下図のような反応
20150122_9.jpg
に変わりはなく,第2段階の反応で,エポキシ環を開環してマキサカルシトールの側鎖を導入する下図のような反応
20150122_10.jpg
にも変わりはない。

被告方法は,ビタミンD構造の出発物質に本件試薬を使用し,第1段階の反応と第2段階の反応という2段階の反応を利用している点において,訂正発明と課題解決手段の重要部分を共通にするものであり,出発物質及び中間体がシス体であるかトランス体であるかは,課題解決手段において重要な意味を持つものではない。
(4) 
以上によれば,目的物質がビタミンD構造の場合において,出発物質及び中間体がシス体であるかトランス体であるかは,訂正発明の本質的部分でないというべきである。
したがって,被告方法は,均等の第1要件を充足する。

2
争点2(均等の第2要件)について
・・・。
(3) 
被告らは,出発物質がトランス体である被告方法では,トランス体の物質Dをシス体に転換する工程 III が不可欠であり,その分だけ,シス体から出発する訂正発明の場合より工程数が多く,また,その結果,収率が低下することが不可避であるので,被告方法は,製造工程の短縮という訂正発明の効果を奏しない,と主張する。
しかし,被告方法の工程 III においてトランス体をシス体に転換する工程を加味しても,最終的な工程数は従来方法よりも改善されていると認められるから,被告方法が訂正発明と同一の作用効果を奏しないとはいえない。
・・・。
(4) 
以上によれば,被告方法は,訂正発明と同一の作用効果を奏する。
したがって,被告方法は,均等の第2要件を充足する。

争点3(均等の第3要件)について
(1)  所望のビタミンD誘導体を製造するに際し,トランス体の化合物を出発物質として,適宜側鎖を導入し,シス体のビタミンD誘導体を得る方法は,本件優先日当時,既に当業者の知るところであった(甲14,乙12)。 そうすると,訂正発明を知る当業者は,被告方法実施時点において,訂正発明におけるビタミンD構造の出発物質をシス体からトランス体に置き換え,最終的にトランス体の物質Dをシス体に転換するという被告方法を容易に想到することができたものと認められる。
・・・。
したがって,被告方法は,均等の第3要件を充足する。

4
争点4(均等の第4要件)について
・・・。
(6) 
以上によれば,被告方法は,被告ら主張の公知技術から容易に推考できたものとはいえない。
したがって,被告方法は,均等の第4要件を充足する。

5
争点5(均等の第5要件)について
(1)  被告らは,訂正発明のうち,出発物質がビタミンD構造の場合は,出発物質がシス体に意識的に限定されたものとみるべきである旨主張する。
(2) 
訂正明細書(甲15)の特許請求の範囲の請求項13において,構成要件AのビタミンD構造を図示した箇所や,他の請求項においてビタミンD構造を図示した箇所には,シス体のビタミンD構造が図示されている(訂正明細書112頁)。
また,訂正明細書の発明の詳細な説明には,ビタミンD構造,訂正発明の出発物質,中間体又は目的物質を説明した箇所で,シス体のビタミンD構造が図示されている(訂正明細書171921222427323438434548頁)。
しかし,訂正明細書には,「シス体」,「トランス体」,「5E」,「5Z」といった,シス体とトランス体の区別を明示する用語は使用されておらず,トランス体を用いる先行技術との相違によって,本件特許が登録されるに至ったような事情も見当たらない。
そうすると,訂正発明において,出発物質及び中間体がビタミンD構造の場合に,シス体に意識的に限定したとか,トランス体を意識的に除外したとまでは認められない。
・・・。

(3) 
被告らは,明細書に他の構成の候補が開示され,出願人においてその構成を記載することが容易にできたにもかかわらず,あえて特許請求の範囲に特定の構成のみを記載した場合には,当該他の構成に均等論を適用することは,均等論の第5要件を欠くこととなり,許されないと解するべきであるところ(知財高裁平成24926日判決・判時2172106[医療用可視画像の生成方法事件]),①・・・,②目的物質であるマキサカルシトールは,シス体として医薬品の製造承認を受け,構造式においてもシス体であることが明記されている(乙5),③訂正発明の中間体のエポキシアルキシ部分の水素原子は立体異性の配置をとるところ,構成要件B-3はそれを表示するために,化学結合を波線で「 H」と記載し,Hの付け根の立体構造がR体とS体の立体異性体の双方を含むことを明示している,④訂正明細書には,SO2により保護されたビタミンD構造の例として左右2つの図が図示されており(訂正明細書28頁),これは単結合で回転した同一の化合物であるが,にもかかわらず右の図を記載したのは,SO2を脱離した後に生成するトランス体を意識したものである,等の点を指摘して,本件特許の出願人であるコロンビア大学及び原告(以下「出願人ら」という。)において,出発物質をシス体に意識的に限定したものである旨主張する。
・・・。

次に,上記②の点についてみると,目的物質がシス体であるからといって,出発物質もシス体でなければならないわけではなく,出願人らが出発物質を意識的に限定した根拠となるものではない。トランス体の出発物質からシス体の目的物質を得る方法は公知であったが(乙12,乙32,乙42),訂正明細書にそのような他の構成の候補が開示されていたわけではないから,出願人らにおいて出発物質にトランス体を記載しなかったからといって,出発物質をシス体に意識的に限定したとまではいえない。
対象製品等に係る構成が,特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたというには,出願人又は特許権者が,出願手続等において,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に含まれないことを自認し,あるいは補正や訂正により当該構成を特許請求の範囲から除外するなど,対象製品等に係る構成を明確に認識し,これを特許請求の範囲から除外したと外形的に評価し得る行動がとられていることを要すると解すべきであり,特許出願当時の公知技術等に照らし,対象製品等に係る構成を容易に想到し得たにもかかわらず,そのような構成を特許請求の範囲に含めなかったというだけでは,対象製品等に係る構成を特許請求の範囲から意識的に除外したということはできないというべきである(知財高裁平成17年 第10047号同18925日判決[椅子式エアーマッサージ機事件]参照)。

上記③の点についてみると,R-S体の立体異性(鏡像異性)とシス体-トランス体の立体異性(幾何異性)とは性質が異なるものであるから,訂正明細書においてR体とS体の区別を前提とする記載があるからといって,出発物質をシス体に意識的に限定した根拠となるものではない。
上記④の点についてみると,被告らの指摘する図がトランス体を意識した記載であると認めるに足りる証拠はなく,SO2の付加により保護されたビタミンD構造について2種類の図(トランス体とシス体ではなく,同一の構造を回転させた図)を記載したからといって,出発物質をシス体に意識的に限定した根拠となるものではない。
(4) 
以上によれば,本件において,出発物質をトランス体とする被告方法が本件特許の出願手続等において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情はない。
したがって,被告方法は,均等の第5要件を充足する。


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プロフィール

徳重大輔


Author: 徳重大輔

バイオ、医薬、特許関連のブログです。
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SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書はバイオ医薬(特に抗体医薬)、調査は無効資料調査が特に得意です。

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