■製剤特許

■アムロジピン+酸化鉄+被覆層を有しない製剤特許の進歩性が維持された事例


<判決紹介>
・平成29(行ケ)10160  審決取消請求事件
・平成301011日判決言渡
・知的財産高等裁判所第3 鶴岡稔彦 高橋彩 間明宏充
・原告:エルメッドエーザイ株式会社
・被告:大日本住友製薬株式会社
・特許5689192
・発明の名称:光安定性の向上した組成物


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ジェネリック vs 新薬の審決取消訴訟を紹介します。
本件特許は、ベシル酸アムロジピンの製剤特許です。

エルメッドエーザイが請求した無効審判において、維持審決(2017620日)が出ていました。
これに対してエルメッドエーザイが訴訟を提起していましたが、今回、裁判所は請求を棄却しました。


本件特許の請求項1は以下の通りです。

「【請求項1】 (aベシル酸アムロジピン,(b酸化鉄,(c)炭酸カルシウム及び結晶セルロースからなる群より選ばれる少なくとも一つの賦形剤,並びに(d)デンプンを含有し,デンプンの含有量が30重量%以下であり,かつ被覆層を有しない経口固形組成物(但し,マンニトールを含まない組成物である)。」


エルメッドエーザイの後発品である
アムロジピンOD錠2.5/5/10mg「EMEC」は、上記(a)~(d)を含有し、被服層を有せず、マンニトールを含まないようです。


取消事由1(甲1に基づく進歩性)に関する裁判所の判断は以下の通りです。阻害要因が考慮されたのが大きいですね。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
当裁判所の判断
・・・
取消事由1(甲1記載の発明に基づく容易想到性判断の誤り)について
・・・
3 本件訂正発明1の容易想到性について
ア本件訂正発明1と甲1発明との対比
1発明の錠剤は,経口投与されるものであるから,経口固形組成物に該当する。
したがって,本件訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおりと認めるのが相当である。
<一致点>
ベシル酸アムロジピンと結晶セルロースを含有する経口固形組成物であって,マンニトールを含有しない点。
<相違点1
本件訂正発明1は,酸化鉄を含有するのに対し,甲1発明は,酸化鉄を含有しない点。
<相違点2
本件訂正発明1は,デンプンを含有するのに対し,甲1発明は,デンプンを含有せず,カルボキシメチルスターチナトリウムを含有する点。
<相違点3
本件訂正発明1は,デンプンの含有量が30重量%以下であるのに対し,甲1発明は,そのような限定を有していない点。
<相違点4
本件訂正発明1は,被覆層を有しない経口固形組成物であるのに対し,甲1発明は,被覆層(フィルムコート部分)を有する点。

相違点1について
医薬品において,着色剤は,視覚的に医薬品の外観を変化させて,識別性を高めることなどを主目的として使用される添加物であるところ,酸化鉄は,医薬品の着色剤としてもよく知られた物質であるから,これを着色剤として医薬品に含有させることは,本件特許の出願日当時の周知慣用技術であったと認めるのが相当である(甲2の段落【0007】,甲48,乙6の表2)。
したがって,医薬品である甲1発明に係る組成物に酸化鉄を含有させること自体は,当業者が容易に想到できるものというべきである。

相違点2及び3について
(ア) デンプン及びカルボキシメチルスターチナトリウムが,いずれも医薬品において,賦形剤,結合剤及び崩壊剤などとして一般的に用いられる添加物であることは,本件特許の出願日当時の技術常識であったと認めるのが相当である(甲468,乙13)。
(イ) また,「新・薬剤学総論(改訂第3版)」(1987(昭和62)年4月発行。甲4)には,デンプンを錠剤,丸剤などにおける結合剤として用いる場合の常用濃度は410%であること,崩壊剤として用いる場合は製剤の1030%とすることが記載されており,「Remington's Pharmaceutical Sciences 18」(1990(平成2)年発行。甲8)には,デンプンを崩壊剤として用いる場合,その添加量は5%が推奨され,より早い崩壊が望まれる場合には15%に増量してもよいこと記載がされている。
そうすると,医薬品である経口固形組成物にデンプンを30重量%以下の含有量で配合することは,本件特許の出願日当時の技術常識であったと認められる。
(ウ) 以上によれば,医薬品である甲1発明に係る組成物につき,カルボキシメチルスターチナトリウムに代えて,デンプンを30重量%以下の含有量で配合することは,当業者が容易に想到できるものというべきである。

相違点4について
(ア) 2に記載されているとおり,酸化鉄は,光に対して不安定な薬物の安定性を高める成分であることが知られているとしても,甲1発明につき,相違点4に係る構成を備えるものとすることは,当業者が容易に想到できたものとはいえない。その理由は次のとおりである。
(イ) 1には,ベシル酸アムロジピンの固体状態における安定性に関し,「室内散光下の保存において,含量の低下はほとんど認められなかったものの,光曝表面は黄色に着色し,わずかに分解物が生成した。」との記載とともに,固体状態における安定性と題する表において,室内散光(500ルクス)の条件下で無色透明のガラスシャーレに6か月間保存したところ,残存率は98.3101.0%,光曝表面がわずかに黄色化し,わずかに分解物Iのスポットが認められたことが記載されている(甲111及び12頁)。
これに対し,甲1では割愛されている20038月付けのノルバスク錠に係る医薬品インタビューフォームの15頁には,製剤の安定性に関し,光に対する苛酷試験につき,室内散光(500ルクス)の条件下で無色透明のガラスシャーレに6か月間保存したところ,外観に変化はなく,含量は2.5mg錠では98.599.9%,5mg錠では97.6~101.5%,分解物のスポットは認められなかったと記載されている(甲33)。一方,当該医薬品インタビューフォームの16頁には,製剤の分割後の安定性に関し,白色蛍光灯(1000ルクス・24時間/日)の条件下で無色透明のガラスシャーレに60日保存したところ,分割面がわずかに淡黄色に着色し,含量は103.5103.9%,分解物のスポットは認められなかったと記載されている(甲133)。

(ウ) 錠剤のフィルムコーティングに関し,「製剤学(改訂第3版)」(1997(平成9)年41日発行。乙15)には,錠剤のコーティングの目的は,①外観の改善と商品価値の向上,②苦みや悪臭などのマスキング,③主薬の安定化,④腸溶化や徐放化による薬剤の吸収部位の調節,⑤薬剤からの消化管粘膜の保護,⑥薬効の発現の調節などにあるとの記載がある。
また,「経口投与製剤の処方設計」(平成10415日発行。乙14)には,光によって外観変化,含量低下,類縁物質の増加が認められる場合には,フィルムコーティングあるいは遮光包装が考えられるが,開封後の保証まで考慮すると製剤処方で耐候性の機能を付与することが望ましいとの記載がある。
上記各事項が市販の書籍に記載されていることや当該各書籍の発行時期に鑑みれば,これらの事項は本件特許の出願日当時における当業者の技術常識であったと認められる。

(エ) そうすると,甲1及び甲33(刊行物に接した当業者が把握する事項を認定する際には,当該刊行物全体の記載内容を参酌すべきである。)の記載に接した当業者は,上記(1)ウのアムロジピンに関する周知事項及び上記(ウ)の技術常識に鑑みれば,アムロジピン原体は,光により着色し,外観変化と分解物の生成を生じ得るものであるところ,甲1記載のノルバスク錠では,フィルムコーティングを施すことで,光に起因する着色による外観変化と分解物生成を防止していることが理解できる。また,ノルバスク錠の分割後の安定性に関し,分割面がわずかに淡黄色に着色したとの記載は,フィルムコーティング錠を分割すると,分割面にはフィルムコーティングが存在しないため,その部分のみが着色してしまうことを示すものと理解するというべきである。
さらに,上記(1)ウにおいて認定したとおり,アムロジピンが苦みを有する成分であることは,本件特許の出願日当時における周知の事項であったから,上記(ウ)の技術常識を踏まえると,甲1記載のノルバスク錠が備えるフィルムコーティングは,苦みをマスキングする役割も果たしていることが理解できる。
加えて,フィルムコーティングを除去すると,薬剤の溶出挙動が変化する可能性があることは明らかである(なお,特開2003-104888号公報(甲24)の段落【0004】には,「ジヒドロピリジン誘導体は,光に対する安定性が低く,水性溶媒への溶解度が非常に低いために経口投与の場合には消化管液中で薬物が製剤から溶出するような工夫が必要である。」との記載がある。)。

(オ) 原告が主張するとおり,医薬品の服用性,取扱いやすさや,生産性,コストといった観点からより良い剤形を模索することは,当業者であれば当然に検討すべき技術的事項であって(甲91719,乙14),実際にも,本件特許の出願日当時において,我が国で少なくとも22品目について口腔内崩壊錠の医薬品が販売されていたとの事情が認められる(甲84)。
しかし,上記(イ)~(エ)において検討したところによれば,甲1発明のベシル酸アムロジピンを含有するフィルムコート錠を,敢えてフィルムコートを有しない経口固形組成物に変更することには,光による変色・分解物の発生のおそれ,苦み,薬剤の溶出挙動の変化等の観点から阻害要因があるというべきである。

原告の主張について
原告は,甲1には,ベシル酸アムロジピンが光に不安定である旨が明記されている上に,アムロジピンの光に対する不安定性についての課題は,本件特許の出願日当時の周知事項であったから,甲1に接した当業者は,アムロジピンの光に対する安定化という課題を当然に把握,認識でき,甲1発明〔原告〕に2記載の光に対する解決手段として酸化鉄を用いる発明を組み合わせる動機付けがあるのは明らかであると主張する。
1の記載から,ベシル酸アムロジピンの原体は,光によって変色したり,分解物が生成したりするものであることが理解できるのは,原告が主張するとおりである。しかし,甲1発明では,フィルムコーティング錠とすることで,光による変色と分解物の生成とを抑制していると理解できることは,上記エ(エ)において説示したとおりである。そして,1発明のフィルムコーティングは,変色及び分解物生成の抑制のほか,苦みのマスキングにも資するものであると理解されることから,甲1発明につき,フィルムコーティングを除去した構成に変更することには阻害要因があることも,上記エにおいて説示したとおりである。
したがって,甲2に,光に不安定な薬物の安定化の手段として,酸化鉄を包含する着色剤を混合するとの発明が記載されていると認められるものの,当該事実は上記エの判断を左右するものとはいえない。

小括
以上によれば,本件訂正発明1は,甲1及び甲2に記載された発明並びに本件特許の出願日当時の技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
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取消事由2(甲15に基づく進歩性)に関する裁判所の判断は下記の通りです。
15にベシル酸アムロジピンの一行記載がありましたが、列挙された多数の化合物の中から特にベシル酸アムロジピンを選択する動機付けがないと判断されました。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
  取消事由2(甲15記載の発明に基づく容易想到性判断の誤り)について
・・・
(3)
本件訂正発明1の容易想到性について
本件訂正発明1と甲15発明との対比
甲15発明におけるトウモロコシデンプンはデンプンの一種であり,D-マンニトールはマンニトールに該当する。また,甲15発明の錠剤は,経口固形組成物に該当するが,フィルムコーティングなどの被覆層を備えたものではない。
したがって,本件訂正発明1(賦形剤として結晶セルロースを選択した場合。)と甲15発明との一致点及び相違点は,次のとおりと認めるのが相当である。
<
一致点>
活性成分と,酸化鉄,結晶セルロース,デンプンを含有し,デンプンの含有量が30重量%以下であり,かつ,被覆層を有しない経口固形組成物。
<
相違点7>
本件訂正発明1は,活性成分としてベシル酸アムロジピンを含有するのに対し,甲15発明は,ベシル酸アムロジピンを含有せず,塩酸マニジピンを含有する点。
<
相違点8>
甲15発明は,活性成分,乳糖,トウモロコシデンプン,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース及び酸化鉄を含み,マンニトールを含まない整粒物Aと,活性成分を含まず,マンニトール,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及び酸化鉄を含む整粒物Bとを含有し,経口固形組成物としては,マンニトールを含むのに対し,本件訂正発明1は,複数の整粒物で構成するものとされておらず,経口固形組成物としては,マンニトールを含有せず,乳糖,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースについての限定がない点。

相違点7について
(
) 甲15は,活性成分,糖アルコール等及びセルロース類を含有する群1と,糖アルコール等及びセルロース類を含有する群2とを組み合わせ,更に群1及び群2の一方又は両方に溶出補助剤を含有する,速やかな崩壊性,溶出調節性及び製造性等に優れる速崩壊性固形製剤を主題とする特許公報である。
(
) そして,甲15において,ベシル酸アムロジピンは,段落【0005】の「本発明で用いられる活性成分としては,
・・・
血圧降下剤についての記載である「血圧降下剤としては,例えば塩酸デラプリル,カプトプリル,ペリンドプリ
ルエルブミンなどのアンジオテンシン変換酵素阻害薬,塩酸ヒドララジンなどの血管拡張薬,塩酸ラベタロールなどのα,β遮断薬,塩酸ニカルジピン,ニルバジピン,ニフェジピン,塩酸ベニジピン,塩酸ジルチアゼム,ニソルジピン,ニトレンジピン,塩酸バルニジピン,塩酸エホニジピン,ベシル酸アムロジピン,フェロジピン,シルニジピン,アラニジピン,塩酸マニジピンなどのCa拮抗薬,ロサルタン,エプロサルタン,カンデサルタン,バルサルタン,テルミサルタン,イルベサルタン,オルメサルタン,タソサルタン,カンデサルタンシレキセチルなどのアンジオテンシンII受容体拮抗薬,メチルドパなどの交感神経中枢抑制薬などが挙げられる。」との記載の中に挙げられている。しかし,これは,当該段落に列挙されている適応症も薬効も異なる100を超える多種多様な活性成分の一つとして紹介されているものにすぎず,甲15のその他の記載を参酌しても,これらの多数の活性成分の中から特にベシル酸アムロジピンに着目する動機付けとなり得る事情は見受けられない。

(
) また,甲15の段落【0008】及び【0009】によれば,酸化鉄は,発明の効果に関係がない任意成分の例として挙げられた賦形剤,酸味料,着色剤等の10種類の添加剤のうち,着色剤として例示された5種類の物質のうちの一つにすぎない。
(
) そうすると,甲15に接した当業者において,甲15発明の組成物につき,多種多様な組合せがあり得る任意の添加剤としての酸化鉄は変更しない一方で,活性成分として,甲15の段落【0005】に挙げられた多数の化合物の中から,特にベシル酸アムロジピンを選択するとの動機付けがあるとは認め難い。
() 以上によれば,甲15発明の塩酸マニジピンをベシル酸アムロジピンに変更することが,当業者において容易に想到できたとまでいうことはできない。

  相違点8について
上記(1)のとおり,甲15記載の発明は,活性成分と糖及び/又は糖アルコールとセルロース類を含有する群1と,糖及び/又は糖アルコールとセルロース類を含有する群2とを含有させ,群1及び群2の一方又は両方に溶出補助剤を含有させることにより,低い乾式の圧縮圧でも実用上問題ない硬度を有し,かつ速やかな崩壊性,溶出調節性及び製造性に優れる等の医薬として優れた性質を有する速崩壊性固形製剤を提供するものであるところ,甲15発明における整粒物Bは,糖及び/又は糖アルコールとセルロース類を含有する群2に対応する。
そして,甲15の【請求項12】には,「糖アルコールがD-マンニトール,エリスリトール,キシリトール,マルチトールおよびソルビトールから選ばれる」と記載されているところ,この記載に接した当業者は,糖アルコールとして,マンニトールだけでなく,エリスリトール,キシリトール,マルチトール及びソルビトールが同様に使用可能であると理解できるから,甲15発明における整粒物Bについて,D-マンニトールをエリスリトール,キシリトール,マルチトール又はソルビトールのいずれかに置き換えることは,当業者が容易になし得るものというべきである。
しかし,甲15記載の発明においては,群1と群2とを含有させ,群1及び群2の一方又は両方に溶出補助剤を含有させることが,十分な硬度を有し,崩壊性,溶出調節性,製造性に優れる医薬を得るという課題を解決するための手段とされている。そうすると,甲15発明から,活性成分を含む整粒物Aと,活性成分を含まない整粒物Bとを含有させるとともに,その一方又は両方に溶出補助剤を含有させるとの構成を捨象することは,課題解決のために必要不可欠な構成を失わせることになる。
したがって,甲15発明から当該構成を捨象して本件発明1の経口医薬組成物とすることには阻害要因があるというべきである。
以上によれば,当業者が,相違点8に係る構成を容易に想到できたということはできない。
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また、分割要件、サポート要件、先願要件(取消事由345)についても判断されています。
特に、請求項1の「但し,マンニトールを含まない」に着目して検討されていますので、除くクレームを考える上での参考になります。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
取消事由3(分割要件適合性についての判断の誤り)について
1 原告は,本件当初明細書の実施例及び比較例の全てにマンニトールが等しく添加されている上に,被告が,本件原出願の審査過程において,進歩性欠如の拒絶理由に対して行った効果の顕著性に関する主張に鑑みれば,本件原出願に係る発明には,当該発明を構成する組成物の成分からマンニトールを積極的に除外しようという技術思想が含まれていなかったことが明らかであると主張する。

2 そこで検討するに,本件当初明細書の実施例及び比較例では,いずれもマンニトールを含む組成物のみが用いられていることは当事者間に争いがない。しかし,本件当初明細書において,マンニトールは任意成分である賦形剤として記載されており,ソルビトール,マルチトール,還元澱粉糖化物,キシリトール,還元パラチノース及びエリスリトールなどの代替し得る成分も併せて記載されていることからすると(甲26の段落【0021】及び【0022】),本件当初明細書の記載において,マンニトールを含有しない組成物が排除されているとはいえない。
また,原告は,本件原出願の審査過程における,効果の顕著性に関する被告の主張を問題とするが,分割出願に係る発明が原出願の当初の明細書等に記載された事項の範囲内であるか否かは,当該明細書及び出願時の技術常識等に基づいて客観的に判断するのが相当であるから,原告の主張はその前提において失当である。
仮に,この点を措くとしても,本件原出願の審査過程において被告が提出した平成20619日付けの意見書(甲31)には,「変色と酸化体生成量」と題する表において,保存条件10日の下で,
①マンニトールを賦形剤とし,酸化鉄を含有する場合,変色に関し,光照射面が「ほとんど変化なし(微黄色)」,酸化体生成量は0.85%,
②乳糖を賦形剤とし,酸化鉄を含有する場合,変色に関し,光照射面が「明らかな変化(黄色)」,酸化体生成量は0.76%,
③マンニトールを賦形剤とし,酸化鉄を含有しない場合,変色に関し,光照射面が「著しい変化(微黄色)」,酸化体生成量は1.07%,
との実験結果が記載されている(6頁。なお,甲26の比較例1,乙19参照。)。これは,賦形剤としてマンニトールを用いる場合と,乳糖を用いる場合とでは,酸化体の生成はいずれも抑制されるものの,着色防止については賦形剤としてマンニトールを用いる場合の方が優れた結果であったことを示すものといえるが,本件原出願に係る発明の課題である光による不安定化(変色,分解)の防止という観点からいえば,酸化鉄と乳糖の組合せも,少なくとも分解の防止という点では所期の成果を挙げているとみることも十分に可能である。そうすると,当該意見書に,「ベシル酸アムロジピンの場合,…酸化鉄+乳糖では着色を抑制できなかった。」(3頁)とか,「変色については,乳糖処方では外観上明らかな変化が見られ,医薬品の品質保持としては不十分な結果であった。」(7頁)との記載がされていることを考慮しても,当該意見書の全体の記載をみれば,マンニトールを含有しない組成物を完全に排除しているとまではいい難い。
したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
3 以上によれば,原告主張の取消事由3は理由がない。

5
取消事由4(サポート要件適合性についての判断の誤り)について
1 原告は,本件明細書の記載に接した当業者が,マンニトールが添加されていない場合においても,アムロジピンに酸化鉄を配合することで,光安定化したアムロジピン含有経口固形組成物が得られることを認識できるとは到底いえないから,本件特許はサポート要件に適合しないと主張する。

2 そこで検討するに,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。

3 本件についてみると,本件訂正発明の課題は,アムロジピン又はその塩の光による変色及び分解を簡便に防止し,光安定化した経口固形組成物を提供することである(本件明細書の段落【0007】)ところ,上記第22のとおり,本件訂正発明はマンニトールを含有しない組成物に限定されている。確かに,マンニトールは,本件明細書において,服用性の観点から口腔内崩壊型製剤に添加することが好ましいとされた水溶性賦形剤である,水溶性糖アルコール,糖類,甘味を有するアミノ酸類(【0022】)のうちの,水溶性糖アルコールの一つとして,ソルビトール,マルチトール,還元澱粉糖化物,キシリトール,還元パラチノース及びエリスリトールなどとともに挙げられたもので,その中でも,特に好ましいものとされている(【0023】)。その一方で,本件明細書には,課題を解決するための手段として,アムロジピン又はその塩に酸化鉄を配合することにより,被覆層を必要とすることなく非常に簡便に光安定化された経口医薬組成物が得られる旨が記載されているところ(【0012】),光安定化効果に対するマンニトールの作用については何ら記載がなく,かえって,マンニトールは実質的に本件訂正発明の効果に影響を与えない添加剤として位置付けられている(【0027】)。また,ベシル酸アムロジピンに酸化鉄を配合することによる薬物の光安定化効果に,マンニトールが何らかの影響を与えるとの技術常識を認めるに足りる的確な証拠もない。
そうすると,本件明細書に接した当業者は,本件明細書の実施例の全てにおいて,マンニトールを含む組成物のみが示されているとしても(【0033】表1),それは服用性向上のために含有されているものにすぎず,ベシル酸アムロジピンに酸化鉄を配合した組成物であれば,マンニトールを含まない組成物であっても光安定化効果が発揮されると理解すると認めるのが相当である。また,炭酸カルシウム,結晶セルロース及びデンプンについても,本件明細書には任意成分である賦形剤として記載されているところ(【0024】,【0027】),当該各物質が,ベシル酸アムロジピンと酸化鉄とを含有する組成物における光安定化効果に対し,何らかの影響を与えるものであるとの技術常識が存在することを認めるに足りる証拠も見当たらない。したがって,ベシル酸アムロジピン及び酸化鉄とともに,炭酸カルシウム,結晶セルロース及びデンプンを含む本件訂正発明も,当業者が発明の課題を解決できると認識可能な範囲内のものであるといえるから,上記原告の主張は採用することができない。

4 また,原告は,取消事由3と同様に,本件原出願の審査過程における被告の主張を問題とするが,本件出願と本件原出願とは別個のものであるから,本件原出願の審査過程における被告の主張が本件特許のサポート要件適合性を左右するとはいえない。
5)以上によれば,原告主張の取消事由4は理由がない。

6
取消事由5(先願要件適合性についての判断の誤り)について
1 原告は,本件原出願の請求項1に係る発明におけるマンニトールを,結晶セルロース等及び所定量のデンプンに置換することは,不活性な添加剤を単に置換するもので,単なる周知慣用技術の転換にすぎない上に,本件訂正発明と本件原出願に係る発明の効果は同一であるから,両発明は同一のものであって,本件出願は,本件原出願の請求項1に係る発明との関係で,先願要件に適合しないと主張する。

2 そこで検討するに,本件原出願の特許請求の範囲の請求項1の記載については当事者間に争いがない。
そして,本件訂正発明1と本件原出願の請求項1に係る発明とは,次の点において相違すると認められる。
<相違点A
本件訂正発明1は,マンニトールを含有しないのに対し,本件原出願に係る発明は,マンニトールを含有する点
<相違点B
本件訂正発明1は,炭酸カルシウム及び結晶セルロースからなる群より選ばれる少なくとも一つの賦形剤と,デンプンとを含有し,デンプンの含有量が30重量%以下であるのに対し,本件原出願に係る発明は,そのような限定がない点
<相違点C
本件訂正発明1は,酸化鉄の含有量の制限がないのに対し,本件原出願に係る発明は,ベシル酸アムロジピン1質量部に対して酸化鉄を0.058質量部含有する医薬組成物を除いている点。
したがって,本件原出願の請求項1に係る発明と本件訂正発明とが同一であるとはいえない。

3)原告の主張について
原告は,本件原出願の請求項1に係る発明におけるマンニトールを,結晶セルロース等及び所定量のデンプンに置換することは,不活性な添加剤を単に置換するもので,単なる周知慣用技術の転換にすぎないと主張する。
しかし,マンニトール,炭酸カルシウム,結晶セルロース及びデンプンが医薬品の賦形剤として周知慣用されているものであるとしても,上記各物質の具体的な構造,特性及び用途等は異なっているから(例えば,甲4では,結晶セルロース及びデンプンは,結合剤及び崩壊剤,炭酸カルシウムは崩壊剤として挙げられている。),添加剤として使用される際にも,所望の目的に合致するようにされるものというべきである。
そして,本件原出願の請求項1に係る発明及び本件訂正発明に係る経口固体組成物において,マンニトールと,結晶セルロース,炭酸カルシウム及びデンプンとが,その特性や含有目的と無関係に等しく置換可能であると認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。
そうすると,個々の各成分が賦形剤として周知慣用されているからといって,本件原出願の請求項1に係る発明におけるマンニトールを,炭酸カルシウム及び結晶セルロースからなる群より選ばれる少なくとも一つの賦形剤,並びに所定量のデンプンに置換することが,周知慣用技術の転換にすぎないとまでいうことはできない。
したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。
4 以上によれば,原告主張の取消事由5は理由がない。

6  結論
よって,審決に取り消すべき違法があると認めることはできないから,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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