■引例

■引用発明の認定に誤りがあるとして、進歩性なしの異議の決定が取り消された事例


<判決紹介>
・平成29(行ケ)10117  特許取消決定取消請求事件
・平成30116日判決言渡
・知的財産高等裁判所第3 鶴岡稔彦 寺田利彦 間明宏充
・原告:アルフレッサファーマ株式会社
・被告:特許庁長官
・特許5845033
・発明の名称:マイコプラズマ・ニューモニエ検出用イムノクロマトグラフィー試験デバイスおよびキット


コメント
イムノクロマトグラフィー試験デバイスに関する特許に対する取消決定の取消訴訟をご紹介します。
これまでの経緯は以下の通りです。

2015/11/27:特許登録(アルフレッサファーマ)
2016/07/13:異議申立(個人×4
2017/04/18:取消決定(進歩性なし)
2017/05/26:訴訟提起
2018/11/06:判決 ← いまココ


本件特許の請求項1は以下の通りです。

「【請求項1
A A-1 イムノクロマトグラフィー試験デバイス及び検出キットにおける抗体として,
A-2 マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体を含む,
A-3 検体からマイコプラズマ・ニューモニエ感染検出用のイムノクロマトグラフィー試験デバイスであって,
B 第一のモノクローナル抗体および第一のモノクローナル抗体とは異なる第二のモノクローナル抗体,ならびに
C 膜担体を備え,
D 該第一のモノクローナル抗体が,該膜担体に固定されて検出部位を構成し,
E 該第二のモノクローナル抗体が,(E-1)標識物質で標識されており,かつ
E-2 該検出部位とは離れた位置に,該膜担体中を移動可能に配置され,
F F-1 該検体であって,濃縮処理物を除く該検体中に(F-2)マイコプラズマ・ニューモニエ抗原が存在する場合に,該マイコプラズマ・ニューモニエ抗原と該標識物質で標識された該第二のモノクローナル抗体とを標識担持部材において結合させて,複合体を形成させる手段と,
G 該複合体を,該膜担体を介して展開させ,該検出部位において固定された該第一のモノクローナル抗体と結合させ,集積させることで発色させる手段と,を有する,
H マイコプラズマ・ニューモニエ感染検出用のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。」


裁判所は、引用発明の認定に誤りがあるとして、進歩性なしの異議の決定を取り消しました。
裁判所の判断は以下の通りです。


判決---------------------------------------------------------------------------------------------
第4
  当裁判所の判断 
・・・ 
3  取消事由1(引用発明の認定及び一致点と相違点の認定の誤り)について
1)原告の主張は,要するに,本件特許発明は,P1タンパク質に対する特異的なモノクローナル抗体に着目することで,イムノクロマトグラフィー法によって,初めて臨床検体からのマイコプラズマ・ニューモニエ抗原の特異的な検出を実現した発明であるところ,引用例1は,そもそも,P1タンパク質とは全く異なるタンパク質(CARDS)とそのポリクローナル抗体に着目した発明の特許公報である上に,引用例1においては,CARDSに特異的なポリクローナル抗体を用いた場合ですら,臨床検体からのマイコプラズマ・ニューモニエの検出には成功しておらず,かつ,そもそもP1タンパク質に特異的な抗体については,臨床検体はもちろん,精製rP1タンパク質を用いた検出実験すら行われていないにもかかわらず,本件取消決定は,P1タンパク質とCARDSタンパク質の差異や,臨床検体と非臨床検体との差異,さらにはモノクローナル抗体とポリクローナル抗体との差異をいずれも看過したまま,引用発明1を,P1タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を用いて,患者サンプル(臨床検体)からマイコプラズマ・ニューモニエを検出することができる発明であると認定した,というものである。

2 よってまず,引用例1から本件取消決定が認定した引用発明1を認定することができるかどうかについて検討する。
特許法2913号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明(本件特許発明)を容易に発明することができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。また,本件特許発明は物の発明であるから,進歩性を検討するに当たって,刊行物に記載された物の発明との対比を行うことになるが,ここで,刊行物に物の発明が記載されているといえるためには,刊行物の記載及び本件特許の出願時(以下「本件出願時」という。)の技術常識に基づいて,当業者がその物を作れることが必要である。

 
かかる観点から本件について検討すると,引用例1の記載及び本件出願時の技術常識を考慮しても,引用発明1のデバイスを当業者が作れるように記載されているとはいえない。理由は以下のとおりである。ア本件取消決定は,引用発明1P1タンパク質に対するモノクローナル抗体を用いて,患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出を行うラテラルフローデバイスに関する発明として認定しているところ,ラテラルフローデバイスは,イムノクロマトグラフィー法に基づく検出デバイスであり,イムノクロマトグラフィー法による抗原検出においては,抗体と抗原がサンドイッチ複合体を形成する必要があると認められ(甲810,弁論の全趣旨),また,モノクローナル抗体の場合には,抗原を挟み込む二つの抗体が同じものでは不都合であり,少なくとも,二つの異なる抗体を用いることが必要であると認められる(この点は特に当事者に争いがない。)。

その一方で,異なる二つのモノクローナル抗体でありさえすれば,抗体と抗原がサンドイッチ複合体を形成するとの本件出願時の技術常識も見当たらず,また,サンドイッチ複合体を形成しさえすれば,必ず患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出できると直ちにいうこともできない。
たとえば,引用例2199頁図1には,捕獲抗体として特異性の異なる二つのポリクローナル抗体を用い,ペルオキシダーゼ標識モノクローナル抗体(検出抗体)を変えてマイコプラズマ・ニューモニエ抗原の捕獲アッセイを行った試験の結果を表す二つのグラフが示されている。捕獲抗体が抗Mp-IgG(右)の場合,試験されたペルオキシダーゼ標識抗体では,いずれも,標識抗体100ng450nmにおける吸光度が2を超え,標識抗体1μgにおいて,450nmにおける吸光度が3を超えている。これに対し,捕獲抗体が抗P1-IgG(左)の場合には,標識抗体がP1.25又はM74では,1μg450nmにおける吸光度が3を超えていても,標識抗体がM57では,1μgでも吸光度が1に満たない。このように,同じ捕獲抗体を用いた場合であっても,検出抗体によって検出感度が異なり,サンドイッチ複合体の形成に基づく検出は,抗体の組合せによって,検出感度が大きく異なる場合があると理解されるから,モノクローナル抗体を用いてサンドイッチ複合体の形成に基づく検出を行う場合には,適切な抗体を組み合わせて用いる必要があると認められる。

本件取消決定が認定した引用発明1のラテラルフローデバイスも,サンドイッチ複合体の形成に基づく抗原の検出デバイスであるから,P1タンパク質に対するモノクローナル抗体を用いて,患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出するラテラルフローデバイスを作るためには,第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体として適切な組合せのモノクローナル抗体を用いる必要があると認められる。

そこで,第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体の組合せに関して引用例1の記載を検討するに,引用例1には,ラテラルフローデバイスに用いる二つの抗体について,具体的なモノクローナル抗体の組合せを示す記載は見当たらない。また,本件出願時において,ラテラルフローデバイス等のサンドイッチ複合体を形成できる具体的なモノクローナル抗体の組合せが周知であったことを示す証拠もない(引用例2199頁図1の左側のグラフに示されている実験において,P1.25M74は,それぞれ,抗P1-IgG又は抗Mp-IgGを捕獲抗体とした場合に,抗原を検出可能としていることから,当該捕獲抗体と抗原とからなるサンドイッチ複合体を形成するものと考えられるが,引用例2に記載されていることをもって,直ちにこれらの抗体が周知であるということはできないし,そもそも,当該捕獲抗体はいずれもポリクローナル抗体であるから,異なる二つのモノクローナル抗体の組合せが明らかにされているとはいえない。ほかにサンドイッチ複合体を形成できる具体的なモノクローナル抗体の組合せを明らかにする証拠はない。)。

次に,引用例1に記載された具体的なイムノクロマトグラフィー(ICT)デバイスについての唯一の実施例である実施例4は,抗rCARDS抗体を用いたもので,P1タンパク質に対する抗体を用いたものではない。また,引用例1におけるP1タンパク質に対する抗体に関する具体的な記載は,実施例3のみであるが,実施例3における抗原の検出は,サンドイッチ複合体の形成とは異なる,市販の二次抗体である抗ウサギ又は抗マウス抗体を用いた方法によるものである。したがって,これらの実施例の記載から,サンドイッチ複合体を形成可能なモノクローナル抗体を知ることはできない。
さらに,引用例1には,P1タンパク質に対するモノクローナル抗体として,マウスのモノクローナル抗真正P1タンパク質抗体H136E7(【0012】)とrP1に対するモノクローナル抗体(【0096】)に関する記載があるが,P1タンパク質に対する具体的なモノクローナルは,H136E7が記載されているにとどまり,rP1に対するモノクローナル抗体については,その当該モノクローナル抗体を生産する細胞株も,モノクローナル抗体のアミノ酸配列等の情報も,H136E7とのサンドイッチ複合体の形成の有無に関する手掛かりとなる情報も記載されていない。このような引用例1の記載に基づいて,ラテラルフローデバイスを作るためには,モノクローナル抗体として一つはH136E7を用いるとしても,もう一つ,H136E7とサンドイッチ複合体を形成可能な別のモノクローナル抗体を用いる必要があるが,引用例1には,そのようなモノクローナル抗体の構造について手掛かりとなる記載がなく,何らかの方法でモノクローナル抗体を入手し,それらのモノクローナル抗体が,H136E7とサンドイッチ複合体を形成可能であるかを調べ,試行錯誤によって,H136E7と組み合わせて患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出するラテラルフローデバイスを構成できるモノクローナル抗体を見つけ出す必要がある。

以上を踏まえれば,たとえ様々なモノクローナル抗体を得る技術自体は周知技術であるとしても,本件取消決定が認定した引用発明1のラテラルフローデバイスは,引用例1の記載及び本件出願時の技術常識から,直ちに作ることができるものとはいえない。
したがって,引用例1に引用発明が記載されている(あるいは,記載されているに等しい)ということはできない。

  患者サンプル(臨床検体)からの検出という点についても検討する。患者サンプルからの患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出については,引用例1の実施例7に記載があるが,この方法は,CARDSを検出抗原とした抗原捕捉EIAに基づくものであって,P1タンパク質をサンドイッチ複合体の形成に基づいて検出する引用発明1のデバイスとは,抗原も検出手法も異なる。それだけではなく,以下のように,検体から感染が検出されているかどうかも定かではない。
すなわち,引用例1の実施例7では,患者からの検体で試験したところ,M・ニューモニエ感染の9検体内の1検体と,非M・ニューモニエ感染の18検体が,それぞれバックグラウンドを超えるEIAシグナルを示したとの記載がある。ここで,引用例1には,抗原捕捉EIAとのみ記載されており,具体的な検出系については記載されていないが,仮に,通常のサンドイッチ複合体の形成に基づく検出系であるとすると,抗原の存在によりシグナルが増大するので,実施例7の試験結果は,感染・非感染と,シグナルの増大とが正しく対応していないことになる。

この点に関し,被告は,競合法であれば,サンプル中の抗原が多くなるとシグナルが小さくなる検出法であるから,非M・ニューモニエ感染の18検体では抗原が存在しないためシグナルが大きくなり,M・ニューモニエ感染の9検体では抗原が多いためシグナルが小さくなることが予測されるところ,実施例7の記載は,これとほぼ一致しており,したがって,実施例7は,感染・非感染を検出できたことを示すものとして解釈すべきである旨を主張している。

しかし,仮に,実施例7の試験が競合法によるものであるとすると,競合法は,標識抗体を用いるサンドイッチ法などの標識抗体を用いる検出方法とは異なり,標識抗原を用いる必要があるが,引用例1には,標識抗原を製造したことや,標識抗原を入手したことについての記載が全くない。そして,そもそも,引用例1には,実施例7がどのような検出系により検出を行ったのかについても記載されていない。したがって,試験結果との整合性のみから,競合法に基づくと断定することはできない。
以上の点からみて,引用例1の実施例7の記載は,患者サンプル(臨床検体)からのマイコプラズマ・ニューモニエの検出が可能であったことを示すものとはいえない。
かかる観点からも,引用例1に引用発明が記載されている(あるいは,記載されているに等しい)ということはできない。

3)小括
以上によれば,本件取消決定は,進歩性についての判断を行うに際し,引用発明の認定を誤った結果,第1の抗体及び第2の抗体としてモノクローナル抗体を用いる点と,患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出を行う点についての相違点を看過し,なおかつ,これらの相違点に関する
結論
よって,本件取消決定を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
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■(ロスバスタチンCa物質特許の知財高裁大合議判決)甲2の置換基が2000万通り以上の選択肢の1つで、且つ積極的あるいは優先的に選択すべき事情がないので引用発明と認定できないと判断された事例

  
<判決紹介>
・平成28年(行ケ)第10182号審決取消請求事件
 同第10184号審決取消請求事件
・平成30413日判決言渡
・知的財産高等裁判所特別部 清水節 髙部眞規子 森義之 鶴岡稔彦 森岡礼子
・第1事件原告:日本ケミファ株式会社
・第2事件原告:X
・第12事件被告:塩野義製薬株式会社
・第12事件被告補助参加人:アストラゼネカ ユーケイ リミテッド
・特許2648897
・発明の名称:ピリミジン誘導体


コメント
少し前になりますが、知財高裁大合議判決の紹介です。
ロスバスタチンカルシウムの物質特許
特許2648897)に対する無効審判の特許維持審決の取消訴訟です。
争点は、訴えの利益、進歩性、サポート要件。
本件特許の請求項1は下記の通りです。


「【請求項1
式(I):
【化1
ka1_20180718.jpg 
(式中,
R1
は低級アルキル;
R2
はハロゲンにより置換されたフェニル;
R3
は低級アルキル;
R4
は水素またはヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
X
はアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の有無を,それぞれ表す。)
で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物。」


進歩性に関する裁判所の判断は以下の通りです。
裁判所は、(1)甲2の置換基が2000万通り以上の選択肢の1つで、且つ積極的あるいは優先的に選択すべき事情がないので引用発明と認定できない、従って(2)甲1と甲2を組み合わせることで相違点の構成とすることはできない(容易に発明することがきたとは認められない)、という主旨の判断をしました。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
当裁判所の判断
・・・
取消事由1について
1)進歩性の判断について
特許法291項は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明について特許を受けることができる。」と定め,同項3号として,「特許出願前に日本国内又は外国において」「頒布された刊行物に記載された発明」を挙げている。同条2項は,特許出願前に当業者が同条1項各号に定める発明に基づいて容易に発明をすることができたときは,その発明については,特許を受けることができない旨を規定し,いわゆる進歩性を有していない発明は特許を受けることができないことを定めている。

上記進歩性に係る要件が認められるかどうかは,特許請求の範囲に基づいて特許出願に係る発明(以下「本願発明」という。)を認定した上で,同条1項各号所定の発明と対比し,一致する点及び相違する点を認定し,相違する点が存する場合には,当業者が,出願時(又は優先権主張日。以下「3取消事由1について」において同じ。)の技術水準に基づいて,当該相違点に対応する本願発明を容易に想到することができたかどうかを判断することとなる。

このような進歩性の判断に際し,本願発明と対比すべき同条1項各号所定の発明(以下「主引用発明」といい,後記「副引用発明」と併せて「引用発明」という。)は,通常,本願発明と技術分野が関連し,当該技術分野における当業者が検討対象とする範囲内のものから選択されるところ,同条13号の「刊行物に記載された発明」については,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。そして,当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には,当業者は,特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り,当該刊行物の記載から当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできない。

したがって,引用発明として主張された発明が「刊行物に記載された発明」であって,当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には,特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず,これを引用発明と認定することはできないと認めるのが相当である。

この理は,本願発明と主引用発明との間の相違点に対応する他の同条13号所定の「刊行物に記載された発明」(以下「副引用発明」という。)があり,主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する場合において,刊行物から副引用発明を認定するときも,同様である。したがって,副引用発明が「刊行物に記載された発明」であって,当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には,特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず,これを副引用発明と認定することはできないと認めるのが相当である。そして,上記のとおり,主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する場合には,主引用発明又は副引用発明の内容中の示唆,技術分野の関連性,課題や作用・機能の共通性等を総合的に考慮して,主引用発明に副引用発明を適用して本願発明に至る動機付けがあるかどうかを判断するとともに,適用を阻害する要因の有無,予測できない顕著な効果の有無等を併せ考慮して判断することとなる。特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては,上記については,特許の無効を主張する者(特許拒絶査定不服審判の審決に対する取消訴訟及び特許異議の申立てに係る取消決定に対する取消訴訟においては,特許庁長官)が,上記については,特許権者(特許拒絶査定不服審判の審決に対する取消訴訟においては,特許出願人)が,それぞれそれらがあることを基礎付ける事実を主張,立証する必要があるものということができる。
・・・

 1発明の認定
前記アによると,甲1発明は,審決の認定のとおり,「
kou1_20180718.jpg 
M=Na)の化合物」
であると認められる。この点について,当事者間に争いはない。
・・・
また,本件発明1と前記(2)イ認定の甲1発明とを対比すると,審決の認定のとおり,次の【一致点】記載の点で一致し,この点において,当事者間に争いはなく,近似する構成を有するものであるから,甲1発明は,本件発明の構成と比較し得るものであるといえる。
【一致点】
「式(I
itti_20180718.jpg  
(式中,
R1
は低級アルキル;
R2
はハロゲンにより置換されたフェニル;
R3
は低級アルキル;
破線は2重結合の有無を,それぞれ表す。)
で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物」である点
そうすると,甲1発明は,本件発明の進歩性を検討するに当たっての基礎となる,公知の技術的思想といえる。
以上によると,甲1発明は,本件発明についての特許法292項の進歩性の判断における主引用発明とすることが不相当であるとは解されない。これに反する被告らの主張を採用することはできない。

4)対比
そこで,本件発明1と前記(2)イ認定の甲1発明とを対比すると,前記(3)のとおり,審決認定の【一致点】の点で一致し,次の【相違点】の点で相違する。この点において,当事者間に争いはない。
【相違点】
1-
X
が,本件発明1では,アルキルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
1-
R4
が,本件発明1では,水素又はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点

5)本件発明1と甲1発明の相違点の判断
 相違点(1-)の判断
(ア)原告らは,相違点(1-)につき,甲1発明に甲2発明を組み合わせること,具体的には,甲1発明の化合物のピリミジン環の2位のジメチルアミノ基(-NCH32)の二つのメチル基(-CH3)のうちの一方を甲2発明であるアルキルスルホニル基(-SO2R’R’はアルキル基))に置き換えること,すなわち,甲1発明の化合物のピリミジン環の2位の「ジメチルアミノ基」を「-NCH3)(SO2R’)」に置き換えることにより,本件発明1に係る構成を容易に想到することができる旨主張している。
そこで,甲2発明について検討する。

(イ)a2(特開平1-261377公報)には,次の記載がある。
a)特許請求の範囲
1. 一般式
kou2_20180718.jpg  
・・・
前記aによると,甲2には,一般式()で示される化合物が記載されており,前記化合物は,ピリミジン環を有し,そのピリミジン環の246位に置換基を有するものであって,HMG-CoA還元酵素(3-ヒドロキシ-3-メチル-グルタリル補酵素A還元酵素)において良好な阻害作用を示すものであることが認められる。
(ウ)a前記(イ)のとおり,甲2の一般式(I)で示される化合物は,甲1の一般式Iで示される化合物と同様,HMG-CoA還元酵素阻害剤を提供しようとするものであり,ピリミジン環を有し,そのピリミジン環の246位に置換基を有する化合物である点で共通し,甲1発明の化合物は,甲2の一般式(I)で示される化合物に包含される。
2には,甲2の一般式(I)で示される化合物のうちの「殊に好ましい化合物」のピリミジン環の2位の置換基R3の選択肢として「-NR4R5」が記載されるとともに,R4及びR5の選択肢として「メチル基」及び「アルキルスルホニル基」が記載されている。
しかし,2に記載された「殊に好ましい化合物」におけるR3の選択肢は,極めて多数であり,その数が,少なくとも2000万通り以上あることにつき,原告らは特に争っていないところ,R3として,「-NR4R5」であってR4及びR5を「メチル」及び「アルキルスルホニル」とすることは,2000万通り以上の選択肢のうちの一つになる。
また,甲2には,「殊に好ましい化合物」だけではなく,「殊に極めて好ましい化合物」が記載されているところ,そのR3の選択肢として「-NR4R5」は記載されていない。

さらに,甲2には,甲2の一般式(I)のXAが甲1発明と同じ構造を有する化合物の実施例として,実施例8R3はメチル),実施例15R3はフェニル)及び実施例23R3はフェニル)が記載されているところ,R3として「-NR4R5」を選択したものは記載されていない。
そうすると,甲2にアルキルスルホニル基が記載されているとしても,甲2の記載からは,当業者が,甲2の一般式(I)のR3として「-NR4R5」を積極的あるいは優先的に選択すべき事情を見いだすことはできず,「-NR4R5」を選択した上で,更にR4及びR5として「メチル」及び「アルキルスルホニル」を選択すべき事情を見いだすことは困難である。

したがって,2から,ピリミジン環の2位の基を「-NCH3)(SO2R’)」とするという技術的思想を抽出し得ると評価することはできないのであって,甲2には,相違点(1-)に係る構成が記載されているとはいえず,甲1発明に甲2発明を組み合わせることにより,本件発明の相違点(1-)に係る構成とすることはできない。

原告らは,甲2には,一般式()の化合物全体の製造方法及びHMG-CoA還元酵素阻害活性について記載されているから,「R3」として「NR4R5」を選択した一般式()の化合物について技術的裏付けがあると理解できるのであって,「甲2では,「R3」として「NR4R5」を選択した化合物については,その製造方法もHMG-CoA還元酵素阻害活性の薬理試験も記載されていない」旨の審決の認定は誤りである旨主張する。
前記aのとおり,甲2の一般式(I)で示される化合物は,HMG-CoA還元酵素阻害剤を提供しようとするものであり,前記(イ)ag)のとおり,甲2には,甲2の一般式(I)で示される化合物に包含される甲2の実施例123の化合物が,メビノリンと比較して高いHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する旨が記載されている。また,甲16には甲2の一般式()の範囲内の特定の化合物についてHMG-CoA還元酵素阻害活性を有することが記載されており,証拠(甲167375)及び弁論の全趣旨によると,当業者は,2の実施例の一部分が変わっただけの特定の化合物についてHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する蓋然性が高いと理解することがあるものと認められる。
しかし,甲2の実施例123や上記認定の特定の化合物には,スルホンアミド構造を有する化合物は含まれていない。証拠(乙65)及び弁論の全趣旨によると,化学物質がわずかな構造変化で作用の変化を来す可能性があることは,技術常識であるから,甲2の一般式(I)で示される極めて多数の化合物全部について,実施例123や上記認定の特定の化合物と同程度又はそれを上回るHMG-CoA還元酵素阻害活性を有すると期待できるわけではなく,HMG-CoA還元酵素阻害活性が失われることも考えられる。
したがって,甲2から,甲2の一般式(I)で示される極めて多数の化合物全部について,技術的裏付けがあると理解できるとはいえないのであって,原告らの上記主張は,前記aの判断を左右するものではない。
・・・

e)したがって,仮に,甲2に相違点(1-)に係る構成が記載されていると評価できたとしても,甲1発明の化合物のピリミジン環の2位のジメチルアミノ基を「-NCH3)(SO2R’)」に置き換えることの動機付けがあったとはいえないのであって,甲1発明において相違点(1-)に係る構成を採用することの動機付けがあったとはいえない。

(オ)なお,原告らは,審決は,サポート要件の判断では,「コレステロールの生成を抑制する」医薬品となり得る程度に「優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性」を有する化合物又はその化合物を有効成分として含むHMG-CoA還元酵素阻害剤を提供することという課題を設定して判断している一方で,進歩性の動機付けの判断は,課題の基準である「コレステロールの生成を抑制する」医薬品となり得る程度を超える「甲1発明化合物のHMG-CoA還元酵素阻害活性が現状維持されること」という基準を設定し,判断しているから,このようなダブルスタンダードでサポート要件と動機付けを判断することは妥当ではないと主張する。
上記主張のうち,審決のサポート要件についての上記判断が正しいことは,後記4のとおりである。これに対し,進歩性については,既に判示したとおり,甲2に相違点(1-)に係る構成が記載されておらず,また,仮に甲2に相違点(1-)に係る構成が記載されていると評価できたとしても,相違点(1-)の構成を採用する動機付けがあったとはいえないことから,容易に発明をすることができたとはいえないと判断されるのであって,原告らが主張するような基準を設定して判断しているものではないから,原告らが主張するような矛盾が生ずることはない。(カ)以上のとおり,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することができたとはいえない。

 小括
そうすると,相違点(1-)について検討するまでもなく,当業者が,甲1発明に甲2発明を組み合わせることにより,本件発明1を容易に発明をすることができたとは認められない。
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サポート要件に関する裁判所の判断は以下の通りです。
課題の認定が争点になりました。
原告は進歩性の考え方に基づいて主張しましたが、裁判所は、サポート要件を充足するかの判断の枠組みに、進歩性の判断を取り込むべきではない、と判断しました。また裁判所は、サポート要件の判断は、特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載につき、出願時の技術常識に基づき行われるべきものであり、その判断が、特許権者の審判段階の主張により左右されるとは解されない、とも判断しました。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
取消事由2について
1)判断基準
特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであると解される(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10042号同年1111日特別部判決参照)。

2)本件発明の課題
 前記21)ウ及びエのとおり,本件明細書の【0003】には,「コレステロールの生成を抑制することがアテローム性動脈硬化の予防および治療に重要であり,このことを考慮して有用な医薬品の開発が望まれている」こと,【0004】には,発明者らが,そのような事情を考慮して,「下記一般式(I):
sapo_20180718.jpg  
(式中,・・・)で示される化合物が優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有することを見出して」本件発明を完成したことが記載されている。この一般式(I)で示される化合物は,本件発明125及び911の化合物を包含するものであり,本件発明1の化合物を有効成分として含むHMG-CoA還元酵素阻害剤が本件発明12であるから,本件発明125及び911の課題は,優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物を提供すること,本件発明12の課題は,そのような化合物を含むHMG-CoA還元酵素阻害剤を提供することといえる。

 前記21)イのとおり,本件明細書の【0002】には,HMG-CoA還元酵素阻害剤として,カビの代謝産物又はその部分修飾物であるメビノリン等の第1世代のHMG-CoA還元酵素阻害剤が存在したが,プラバスタチン等の合成HMG-CoA還元酵素阻害剤が開発され,第2世代として期待されていることが記載されている。
しかし,本件明細書の発明の詳細な説明には,これら既に開発されているHMG-CoA還元酵素阻害剤の問題点等が記載されているわけではなく,前記21)ウのとおり,【0003】に「コレステロールの生成を抑制することがアテローム性動脈硬化の予防および治療に重要であり,このことを考慮して有用な医薬品の開発が望まれている。」と記載されているにとどまる。
証拠(甲36)及び弁論の全趣旨によると,医薬品の分野においては,新たな有効成分の薬理活性が既に上市された有効成分と同程度のものであっても,その新たな有効成分は,代替的な解決手段を提供するという点で技術的な価値を有するものと認められる。
以上を考え合わせると,本件発明の課題が,上記の既に開発されているHMG-CoA還元酵素阻害剤を超えるHMG-CoA還元酵素阻害剤を提供することにあるとまではいうことはできない。

 したがって,本件発明の課題は,コレステロールの生成を抑制する医薬品となり得る程度に優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物,及びその化合物を有効成分として含むHMG-CoA還元酵素阻害剤を提供することであるというべきである。

3)解決手段
・・・
上記測定結果が1回の測定結果であるからといって,上記判断が左右されることはないし,その他上記判断の信頼性を疑わせる事情を認めるに足りる証拠はない。
そして,本件発明1は,式(I)において,R1は低級アルキル,R2はハロゲンにより置換されたフェニル,R3は低級アルキルを,また,Xはアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基を選択した場合の化合物も包含するものであるが,これらの置換基は,「(+-7-[4-4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-3R5S-ジヒドロキシ-E-6-ヘプテン酸」及びその「ヘミカルシウム塩」が有する基(R1がメチル,R2がフッ素により置換されたフェニル,R3がイソプロピル,Xがメチルスルホニル基により置換されたイミノ基)と化学構造が類似したものであるから,本件発明1に包含されるその余の化合物も,化合物(Ia-1)や,「(+-7-[4-4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-3R5S-ジヒドロキシ-E-6-ヘプテン酸」及びその「ヘミカルシウム塩」と同様にメビノリンナトリウムよりも高いHMG-CoA還元酵素阻害活性を有すると理解するといえ,これに反する証拠はない。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1の化合物が,コレステロールの生成を抑制する医薬品となり得る程度に優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有すること,すなわち,本件発明の課題を解決できることを当業者が理解することができる程度に記載されているということができる。

イ また,本件発明25及び911の化合物は,本件発明1に包含されるものであり,本件発明12HMG-CoA還元酵素阻害剤は,本件発明1の化合物を有効成分として含むHMG-CoA還元酵素阻害剤であるから,これらも同様に,本件明細書の発明の詳細な説明に,本件発明の課題を解決できることを当業者が理解することができる程度に記載されているということができる。

4)原告らの主張について
ア(ア)原告らは,本件出願の10年以上前からHMG-CoA還元酵素阻害剤であるコンパクチンが公知であり,本件出願当時,既に複数のHMG-CoA還元酵素阻害剤が医薬品として上市されており,メビノリンナトリウムより強いHMG-CoA還元酵素阻害活性を示す化合物も公知であったから,「コレステロールの生合成を抑制する医薬品となり得る程度」という程度では,技術常識に比較してレベルが低く不適切である旨主張する。
しかし,前記(2)のとおりであって,本件発明の課題が,既に開発されているHMG-CoA還元酵素阻害剤を超えるHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物又は薬剤を提供することであるということはできない。
したがって,原告らの上記主張は,前提において誤りがあり,採用することはできない。

(イ)原告らは,本件発明1は甲2の一般式(I)の範囲に包含されるから,進歩性が認められるためには,甲2の一般式(I)の他の化合物に比較し顕著な効果を有する必要があるところ,選択発明としての進歩性が担保できない「コレステロールの生合成を抑制する医薬品となり得る程度」という程度では,本件出願当時の技術常識に比較してレベルが著しく低く不適切である旨主張する。
しかし,サポート要件は,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになるので,これを防止するために,特許請求の範囲の記載の要件として規定されている(平成6年法律第116号による改正前の特許法3651号)のに対し,進歩性は,当業者が特許出願時に公知の技術から容易に発明をすることができた発明に対して独占的,排他的な権利を発生させないようにするために,そのような発明を特許付与の対象から排除するものであり,特許の要件として規定されている(特許法292項)。そうすると,サポート要件を充足するか否かという判断は,上記の観点から行われるべきであり,その枠組みに進歩性の判断を取り込むべきではない。
したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。

(ウ)原告らは,本件特許出願人が本件出願時に本件発明1及び甲1発明の化合物が甲2の一般式()の範囲内に属することを認識していた以上,「コレステロールの生合成を抑制する医薬品となり得る程度」に優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物又はその化合物を有効成分として含むHMG-CoA還元酵素阻害剤を提供することを本件発明の課題としたはずがない旨主張する。
しかし,サポート要件の判断は,特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載につき,出願時の技術常識に基づき行われるべきものであり,その判断が,出願人の出願当時の主観により左右されるとは解されない。
したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。

イ(ア)原告らは,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明が顕著なHMG-CoA還元酵素阻害活性を有することは示されていないので,当業者は「本件発明の課題」を解決できるとは認識できない旨主張する。
しかし,前記(2)のとおり,本件発明の課題は,コレステロールの生合成を抑制する医薬品となり得る程度に優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する化合物,及びその化合物を有効成分として含むHMG-CoA還元酵素阻害剤を提供することであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明は,この課題を解決できることを当業者が理解することができる程度に記載されているということができる。本件発明が「顕著な」HMG-CoA還元酵素阻害活性を有する必要があることを前提とする原告らの上記主張は,前提を欠くものであって,採用することはできない。

(イ)原告らは,本件発明の化合物は,甲2の一般式()の選択発明であるから,構造を特定しただけでは新たな技術を開示したことにはならず,顕著な活性が開示されなければ,新たな技術を開示したことにはならない旨主張する。
しかし,サポート要件を充足するか否かという判断の枠組みに進歩性の判断を取り込むべきであるとは解されないことは,前記ア(イ)のとおりである。
したがって,原告らの上記主張は,前提において誤りがあり,採用することはできない。

(ウ)原告らは,本件特許権者が,本件審判において,本件発明1が,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された化合物(Ia-1)のデータによりサポートされないことを自認していたから,当業者は,本件発明1がその課題を解決できるとは認識できない旨主張する。
しかし,サポート要件の判断は,特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載につき,出願時の技術常識に基づき行われるべきものであり,その判断が,特許権者の審判段階の主張により左右されるとは解されない。
したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
・・・

5)まとめ
以上のとおりであって,本件発明125及び912は,平成6年法律第116号附則62項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法3651号に適合するものでないとはいえない。
したがって,原告ら主張の取消事由2は理由がない。

結論
よって,原告ら主張の取消事由は,いずれも理由がない。
以上の次第で,原告らの請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
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■優先日後発行の2nd Editionの書籍は新規性欠如の引例にならないと判断された事例


<判決紹介>

■コメント
1st Edition
の書籍が優先日前に発行されていたとしても、優先日後に発行された2nd Editionの書籍は新規性欠如の引例にならないと判断された事例。 ☆


■判決抜粋
平成25年()第14214号 損害賠償請求事件、東京地方裁判所民事第46

2
争点に関する当事者の主張
...

(被告らの主張)
本件特許には以下のとおり無効理由があるから,原告は本件特許権を行使できない。
...

イ 新規性欠如
書籍「Tuning Fork Therapy Level Three Manual」(Second Edition 2007)(乙3241。以下「乙32文献」という。)には,本件発明と同じ構成が開示されているところ,上記書籍の初版にも同様の記載がある。
上記書籍の初版は遅くとも平成121231日までに頒布されていたから,本件発明は,優先日前に外国において頒布された刊行物に記載された発明であって,新規性を欠く(特許法2913号)。

...


3 当裁判所の判断
3
本件特許の無効理由の有無(争点3)について
...

(2)
新規性欠如
被告らは,平成12年に頒布された「Tuning Fork Therapy Level Three Manual」の初版に,その第2版(Second Edition)である乙32文献と同じ内容の記載があることを前提に,本件発明が新規性を欠くと主張する。しかし,書籍が改訂された場合には記載内容が一部改められるのが通常であり,上記初版の記載内容と乙32文献の記載内容が同じであったことを認めるに足りる証拠はない。したがって,被告らの主張は前提を欠くというほかない。


■優先日前の意に反する公知はNG/平成7年(行ケ) 第148号審決取消請求事件


平成90313
原告: セントレ・ デエチューデ・プール・ランダストリエ・ファーマセテイク
被告: 大原薬品工業株式会社 等
特許: 特許1072819
請求項1: 
次式..
......別紙A
 (式中Xは酸素原子または硫黄原子を表し、Rはフェニル基;ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、フェニル基、カルボキシル基、ヒドロキシメチル基及びメチレンジオキシ基からなる群から選ばれた少なくとも1つの置換基で置換されたフェニル基;ハロゲン原子で置換されたスチリル基;ハロゲン原子で置換されたチエニル基;ベンズヒドリル基を表わし、R1は―CH2―,―CH2CH2―,<33152-001>を表す。)で表されるピリジン誘導体またはこれらの治療用に投与し得る第四アンモニウム誘導体若しくはこれらの治療用に投与し得る酸付加塩からなる血液泥化によって誘発される疾病用治療剤

コメント: 「優先日」よりも前に意に反して公開された場合には、30(新規性喪失の例外)の適用を受けられないという判決。 無効審決維持。☆

理由
第1 請求原因(特許庁における手続の経緯)、2(本件発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
第2 そこで、原告主張の審決取決事由の当否を検討する。
1 本件発明がその特許を受ける権利を有する原告の意に反して引用例に発表されたこと、及び、本件発明が同発表の6月以内である1976年 1月2日フランス国においてした特許出願に基づく優先権を主張して特許出願されたことは当事者間に争いがない。したがって、優先権の基礎となる同日が、本 件発明が原告の意に反して特許法29条1項3号に該当するに至った日から6月以内であることは明らかである。
・・・。

ところで、特許法30条2項の規定の適用については、優先権主張を伴う特許出願をどのように取り扱うか明文の規定は存しないが、パリ条約4 条のBは、第一国出願の日と第二国出願の日との間に行われた当該発明の公表等の行為により第二国出願が不利益を受けないことを定めたものであって、第一国 出願より前に行われた行為により不利益を受けないことを定めたものではないこと、特許法30条2項の規定は、新規性喪失の例外規定であって、優先権主張を 伴う特許出願について、同項に規定する「特許出願」は第一国出願の出願日を意味すると解すると、新規性喪失の例外期間を1年6月まで拡大することにより、 この規定の趣旨に反して特許を受ける権利を有する者に不当な利益を得せしめる結果となること等に照らすと、日本国を第二国出願とする優先権主張を伴う特許 出願については、同項に規定する「特許出願」の日は、日本国においてなされた特許出願の日を意味すると解するのが相当であって、パリ条約4条を根拠として これと異なる解釈をする余地はないというべきである。成立に争いのない甲第9号証(【I】作成の鑑定書)に記載された上記判断と異なる意見は、当裁判所の 採用するところではない。

 原告は、特許法104条所定の「特許出願」の日は、その出願が優先権主張を伴うときは優先権主張日であるとする判例を引用して特許法30 条2項に規定する「特許出願」についても同様に解釈すべきである旨主張するが、特許法104条と同法30条2項とは、その規定の趣旨を異にするから、後者 についても前者と同一の解釈をすべき合理的理由はない。

 したがって、「本件発明の日本における特許出願は、優先権の基礎となる1976年1月2日にしたものとして、特許法30条2項の規定の適用を受けることができる」という原告の主張は、失当である。
3 以上のとおりであるから、審決の認定判断は正当として肯認しうるものであって、本件発明の特許は特許法29条1項3号に違背してなされたものであるから同法123条1項1号の規定により無効とすべきものであるとした審決に、原告主張のような違法は存しない。

第3 よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための期間の附加について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、94条後段、158条を適用して、主文のとおり判決する。
(東京高等裁判所 裁判官 竹田稔 春日民雄 持本健司)

■引例実施例が2回投与だとしても、引例には単回投与が開示されている/平成23年(行ケ)第10352号審決取消請求事件


平成24828日判決言渡
原告: ファイザー・プロダクツ・インク
被告: 特許庁長官
本願: 特願2003-509957
請求項1: マイコプラズマ・ハイオニューモニエ(Mycoplasma hyopneumoniae)の感染に起因する,ヒト以外の動物における疾患または障害を治療または予防する方法であって,310日齢の動物に不活化されたマイコプラズマ・ハイオニューモニエ ワクチンの有効量を単回投与することを含む,前記方法。

コメント: 原告は「引例は単回投与について開示するものではない」と主張したが、認められなかった例。 裁判所の判断は下記の通り。 拒絶審決維持。 進歩性無し。 ☆

-----------------------------------------------------------------
裁判所: 「(2) 判断
  上記(1)ア 認定の事実によれば,引用例には,「少なくとも請求の範囲第1項に記載のバクテリンの1回用量をブタに投与してマイコプラズマ・ハイオニューモニエ感染に対してブタを免疫することを含む免疫方法」,「この発明は,マイコプラズマ・ハイオニューモニエによる感染に対してブタを免疫する方法であって,マイコプラズマ・ハイオニューモニエ感染に対してブタを免疫するために,バクテリンの少なくとも1回用量をブタに投与することを含む免疫方法をも提供する」と記載されている。上記記載の通常の意味からすれば,引用例記載の発明は,マイコプラズマ・ハイオニューモニエによる感染に対してブタを免疫する方法を提供するものであって,その方法として,バクテリンを単回投与する免疫方法を含むものと理解される。
一方,引用例には,「このバクテリンは,好ましくは2回ブタに投与される。その1回はブタの誕生後約1週間,もう1回は約3週間である」との記載があり,単回投与の実施例の記載はなく,実施例である例4には,1週齢と3週齢との2回,不括化ワクチンをブタに投与する免疫方法のみが開示されているが,好ましい実施例として2回投与の免疫方法が記載されているからといって,それだけで,当該免疫方法のみが引用例に開示されているということはできない
したがって,引用例に,少なくとも,バクテリンの1回用量をブタに投与する免疫方法が記載されている旨を認定した審決に誤りはないというべきである。」
-----------------------------------------------------------------

なお、本願明細書をざっと見たところ、プラセボとの比較はあるが、「単回投与」に対する直接的な比較例はない。

また、甲17には「ヒトが免疫を得るためには複数回の摂取が必要である」との記載があり、原告は「複数回のワクチン投与が必要であることが、技術常識であったと言える」と主張したが、その点については下記のように判断された。

-----------------------------------------------------------------
裁判所: 「() 上記①の主張について
  上記(1)イ,ウ によれば,甲17には,ヒトが,免疫を得るためには複数回の接種を行う必要があること,甲18には,ヒト,ブタなどの脊椎動物の免疫系は,微生物等の非自己抗原を精密かつ特異的に識別し排除すべく進化したことが,それぞれ示されているといえる。一方,上記(1)エ,オ によれば,本願の優先日当時においても,ブタやヒトについて,単回投与で有効なワクチンもあるとの知見も示されているといえる。
そうすると,免疫を付与し維持するために追加接種が有効であるという一般論としての技術常識が存在するとしても,それが,引用例の記載の「1回用量をブタに投与」を除外して,実施例に記載された2回投与の発明しか把握できないほどの絶対的な知見とは認められない。特に,甲8・乙1は,引用例公開前に発行された論文であるから(上記(1)エ ),引用例において,1回用量を投与することを実質的に除外したとか,形式的に記載したのみであるということはできない。」
-----------------------------------------------------------------

自分に都合の良い文献を使って特許性を主張した場合、都合の悪い文献を使って反論されることがある。


■テアニン含有組成物: 平成21年(行ケ)第10144号審決取消請求事件


平成22年3月30日 知的財産高等裁判所
原告 太陽化学株式会社
被告 特許庁長官
請求項1 テアニンを含有することを特徴とする,α波の出現時間の累計を平常時に比べ10パーセント以上増加させるための,α波出現増強剤。 

コメント: ①引例発明の認定、及び組合わせ容易性が争点。 引例1と2には、いずれもストレスの程度の軽減に関連する技術が開示されている。 裁判所は、審決がした引用発明の認定に誤りがあると判断し、引例1に2を適用する示唆があるという被告の主張を認めなかった例。 拒絶審決取消。 ☆

引例1の記載: テアニンを有効成分とする抗ストレス剤。 ストレス負荷のある状態からストレスを取り除いた。
引例2の記載: リラックスの程度が高まるにつれてα波が増加する特段のストレス負荷のない状態からリラックス(ストレスを解消してリラックス)させた。

原告:  「ストレス状態」、「平常時」、「リラックス状態」の3つの精神状態が存在する。 → 引例1は「ストレス状態→平常時」であり、引例2は「平常時→リラックス状態」である。 → 引例1と2を組み合わせて本願発明に至る示唆がない。
被告: ストレスの程度は連続的に存在しており、「平常時」という独立した状態は存在しない。 ストレスの程度やリラックスの程度によっては、中間的な状態があり、それは「ストレス状態」と「リラックス状態」が混在したような状態である(乙3)。 …引用例1の記載に接した本願出願当時の当業者は,テアニンを摂取することにより,その抗ストレス作用によりストレス状態を軽減し,リラックス状態あるいはそれに近い状態に移行ないしは維持されることを当然に期待し得る。 → 引例1に引例2を適用する示唆がある。
裁判所: 乙3からは、ストレス状態、リラックス状態、その中間状態という3つの状態が存在することが認められ、この知見によっては、ストレスの予防・軽減が直ちにリラックス状態に導くものとすることはできない。 → 引用例1には、ストレスを解消・軽減してリラックス状態に至るとの示唆があるとの被告の主張は採用することができない。

その他(裁判所): 「(引用例2発明の認定の誤り) 引用例2の「ストレスを予防又は軽減」との記述は、その技術的な裏付けがなく、単に、リラックス状態への移行を述べたにすぎないと理解するのが合理的であり、また、実施例を含めた引用例2全体の記載からみても、引用例2に、ストレスを予防、軽減する技術が開示されていると判断することはできない。 …審決は、引用例1発明及び引用例2発明の「ストレス」の意義についての誤った理解を前提として、両者の解決課題が共通であり、引用例1発明には引用例2発明を適用する示唆があると判断した点において、審決の上記認定の誤りは、結論に影響を及ぼす誤りであるというべきである。」

②自律神経に作用するか(引例1)、中枢神経に作用するか(引例2)、という作用機序の違いが、引例1と2を組み合わせることの阻害要因として認められた例。


■寄託されているヒトのBリンパ芽腫細胞系: 平成22年(行ケ)第10029号審決取消請求事件


コメント: 引例の細胞が「刊行物に記載されているに等しい事項」といえるかどうかにおいて、引例の細胞が「本願優先日前に引用例1及び2の著者から分譲され得る状態にあったか否か」の認定判断が争点になった事例。

出願人は「宣誓供述書」を提出した上で、引例の著者(本願発明者)が分譲する意志を持っていなかったことを主張している。本願優先日前、引例の著者は「第三者から分譲を要求されても,同要求に応じる意思はなかったものと認められ」、その結果、引例の細胞は第三者が入手不可能であると判示された。 ☆☆

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プロフィール

徳重大輔


Author: 徳重大輔

バイオ、医薬、特許関連のブログです。
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SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書はバイオ医薬(特に抗体医薬)、調査は無効資料調査が特に得意です。

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