■2012-07-

■新規数値限定は新規事項か: 熱損失係数が1.0~2.5kcal/m2・h・℃の高断熱・高気密住宅、平成21年(行ケ)第10175号審決取消請求事件


平成22128日判決言渡
原告: エナーテック株式会社
被告: Y
特許: 特許3552217
請求項1: 熱損失係数が1.02.5kcal/m2h・℃の高断熱・高気密住宅における布基礎部を,断熱材によって外気温の影響を遮断し十分な気密を確保した上で,該布基礎部内の地表面上に防湿シート,断熱材,蓄熱層であるコンクリート層を積層し,蓄熱層には深夜電力を通電して該蓄熱層に蓄熱する発熱体が埋設された暖房装置を形成し,蓄熱層からの放熱によって住宅内を暖める蓄熱式床下暖房システムにおいて,布基礎部と土台と…蓄熱式床下暖房システム。

コメント: 出願当初明細書に記載されていない数値限定(熱損失係数が1.02.5kcal/m2h・℃)を請求項1に追加したが、新規事項の追加にはならないと判断された事例。
明細書には、「熱損失係数」も「
1.0~2.5kcal/m
2h・℃」も記載されていない。 無効審決取消。 ☆☆☆☆

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裁判所: 「補正が,特許法17条の2第3項所定の出願当初明細書等に記載した「事項の範囲内」であるか否かを判断するに際しても,補正により特許請求の範囲に付加された文言と出願当初明細書等の記載とを形式的に対比するのではなく,補正により付加された事項が,発明の課題解決に寄与する技術的な意義を有する事項に該当するか否かを吟味して,新たな技術的事項を導入したものと解されない場合であるかを判断すべきことになる。

…形式的には,数値を含む事項によって限定されてはいるものの,熱損失係数の計算精度は高いものとはいえないと指摘されていること等に照らすならば,同構成は,補正前と同様に,本件発明の解決課題及び解決機序に関係する技術的事項を含むとはいいがたく,むしろ,本件発明における課題解決の対象を漠然と提示したものと理解するのが合理的である。

…本件補正は,本件発明の解決課題及び解決手段に寄与する技術的事項には当たらない事項について,その範囲を明らかにするために補足した程度にすぎない場合というべきであるから,結局のところ,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入していない場合とみるべきであり,本件補正は不適法とはいえない。

() 仮に,「熱損失係数が1.0~2.5kcal/m2h・℃」が,本件発明に関する技術的意義を有するといえるとしても,本件補正は,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入した場合であるとはいえない。

…本件出願当初明細書には「熱損失係数が1.0~2.5kcal/m2h・℃」における数値が明示されているわけではないが,本件発明の課題解決の対象である「高断熱・高気密住宅」をある程度明りょうにしたにすぎないという意味を超えて,当該数値に本件発明の解決課題及び解決手段との関係で格別な意味を見いだせない本件においては,その付加された事項の内容は,本件出願当初明細書において既に開示されていると同視して差し支えないといえる。」
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■欧州医薬: 遺伝子治療薬Glyberaの販売承認をCHMPが推奨(欧州初遺伝子治療薬)


医薬ニュースを提供していただいたので紹介します。

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西洋で初めて、遺伝子治療が承認されようとしています。
これまでは、中国のGendicine(p53 Adenovirus)のみが承認されていましたが、ヨーロッパでは初めての遺伝子治療薬が承認されようとしているとのことです。

Glyberaという治療薬をオランダの会社uniQureが開発しました。
Glyberaは、リポタンパク質リパーゼ遺伝子(lipoprotein lipase gene)をコードするアデノ随伴ウイルス(Adeno-associated virus)です。

この遺伝子変異患者はヨーロッパで数百人程度だそうです。 (提供:宍戸知行弁理士)
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▼New York Times (July 20, 2012)
http://www.nytimes.com/2012/07/21/health/european-agency-recommends-approval-of-a-gene-therapy.html?_r=1&hpw

▼European Medicines Agency (July 20, 2012)
http://www.ema.europa.eu/ema/index.jsp?curl=pages/news_and
_events/news/2012/07/news_detail_001574.jsp&mid=WC0b01ac058004d5c1


■大腸がん患者のがん細胞全ゲノムシークエンス


医薬ニュースを提供していただいたので紹介します。

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下記URLの記事によると、大腸がん患者のがん細胞全ゲノムをシークエンスして、変異や増幅が見られる遺伝子を同定したそうです。 その情報を元にすると、これまで大腸がんの適用でなかった他の治療薬が、大腸がんに使える可能性があることが分かったそうです。 例えば、乳癌に適用だったHerceptinなんかが使えるかも知れないそうです。
 (提供:宍戸知行弁理士)
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▼Nature
http://www.nature.com/nature/journal/v487/n7407/full/nature11252.html

▼New York Times (July 18, 2012)
http://www.nytimes.com/2012/07/19/health/research/vast-gene-study-raises-hopes-for-colon-cancer-drugs.html?_r=1&hpw


■相同性(又は同一性)特許は増加中


下記表の条件で、IPDL(特許電子図書館)で検索してみました。中の数字はヒット件数です。

遺伝子、RNA、蛋白質、抗体、ペプチドなどの分野の特許出願では、請求項に
「配列番号1で示されるアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、X活性を有するY蛋白質を含有する、Z治療薬。」
のような文章を記載することがあると思いますが、このような相同性(又は同一性)で特定された特許は徐々に増えているようです。

20120720_homo.jpg

といっても、全体の登録件数も増えていますが。

20120720_regist.jpg

■薬理データといえるか: hVEGF拮抗剤、平成23年(行ケ)第10179号審決取消請求事件


<判決紹介>

平成24628日判決言渡 知的財産高等裁判所
原告: ジェネンテック,インコーポレイテッド
被告: 特許庁長官
本願: 平成8年特許願第529682
請求項1: 加齢性黄斑変性の治療のための医薬の調製におけるhVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤の使用。

コメント: ルセンティス(ラニビズマブ)をカバーする、アミノ酸配列限定のない広めの特許出願。 本願実施例に記載されている内容が、治療作用を裏付ける薬理データと同視できる程度の内容といえるかどうか、が争点となった。 裁判所の判断はNO → 実施可能要件及びサポート要件違反。 拒絶審決維持。 ☆☆

なお、本願の審査段階の拒絶理由通知で引用された引用文献1及び2はけっこう強力。原告は意見書において「…新生血管形成の発達に有意に影響するたった一つの因子がどれであるかは当業者であっても理解しかねる技術常識でありました。」という点を説明したが、進歩性と記載要件がトレードオフの関係になっている。

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原告: 「血管内皮細胞の移動(遊走)はhVEGFによる走行性活性,血管内皮細胞の増殖はhVEGFによるマイトジェン活性(細胞増殖活性),血管内皮細胞による血管新生はhVEGFによる血管新生活性にそれぞれよるものであるから,hVEGFによる走行性活性,マイトジェン活性,及び/または血管新生活性をhVEGF拮抗剤で阻害すれば,内皮細胞による脈絡膜新血管新生が阻害され,加齢性黄斑変性を治療できることは,本願明細書の上記記載から当業者には十分に理解できる。
…治療作用を裏付ける薬理データと同視できる程度の記載としては,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,マイトジェン活性,及び/または血管新生活性を阻害できたという実験データで十分である。」

被告: 「血管内皮細胞の増殖や血管新生に関する試験結果から,機能や効果について評価するに当たっては,以下の点を考慮すべきである。すなわち,
①ある血管内皮細胞における機能や作用に関する結果が,由来を異にする血管内皮細胞においても同様のものとなるとは必ずしもいえないこと,
in vivo の方法は生体内での出来事に近い現象がみられるという利点がある一方,血管内皮細胞以外の細胞の影響を考慮しなければならないこと,
③血管新生に関与する細胞増殖因子としては複数のものがあるとともに,その中には,in vitroin vivo とで血管新生に関して反対の作用を示すものがあるため,血管新生に関与する細胞増殖因子であれば脈絡膜における血管新生が促進されるわけではないことを考慮すべきである。
以下,このような観点を踏まえて反論する。」

裁判所: 「上記の記載に照らすならば,脈絡膜での血管新生がVEGFにより促進されるとの事項は,本願の優先権主張日当時に知られていたとはいえず,また,同事項が技術常識として確立していたともいえない。すなわち,甲9では,VEGFが血管新生を促進する因子であることは示されているものの,血管新生にVEGFのみが関与している点は明らかでなく,結局,どの増殖因子が原因であるかは不明であることから,甲9から,hVEGF拮抗剤でVEGFの作用を抑制しさえすれば,脈絡膜における血管新生が抑制できることを合理的に理解することはできない。
…本願明細書には,脈絡膜の血管新生によって特徴付けられる加齢性黄斑変性の重篤性の緩和においてVEGF拮抗剤が特に有用であると思われるとの記載がある。しかし,同記載は,本件特許の出願時に知られていた血管新生を促進する3種の因子の1つであるVEGFの拮抗剤を,加齢性黄斑変性の治療に利用する可能性があるということを超えては,意味を有しない。前記のとおり,本願明細書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識を総合しても,脈絡膜における血管新生にVEGFが関与していることが何らの説明もされていない以上,同記載部分をもって,VEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性の治療に有効であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載であると解することはできない。
…したがって,「発明の詳細な説明」において,本願明細書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識を総合することにより,hVEGF拮抗剤が,VEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性の治療に有効であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分な情報が記載されたものと解することはできない。
…したがって,本願明細書に,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,増殖活性,及び/または血管新生活性を阻害できたとことに関する実施例が記載されていても,同実施例から,hVEGF拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用が裏付けられたとはいえず,原告の主張は採用できない。」
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プロフィール

徳重大輔


Author: 徳重大輔

バイオ、医薬、特許関連のブログです。
業界動向や知財判決などの情報をアップしていきます。

SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書はバイオ医薬(特に抗体医薬)、調査は無効資料調査が特に得意です。

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