■2013-03-

■アルカリ性化ニコチン製剤の口腔投与の進歩性/動機付けなし阻害要因あり/平成24年(行ケ)第10205号審決取消請求事件


平成25228日判決言渡

原告: マクニール・アクチェボラーグ

被告: 特許庁長官

特許出願:  特願2003-556064

請求項1: ニコチン遊離塩基を含む液体医薬製剤であって,スプレーにより口腔に投与するためのものであり,そして緩衝および/またはpH調節によってアルカリ性化されていることを特徴とする液体医薬製剤。

コメント: 引例を組合わせる動機付けなし、阻害要因あり、よって進歩性ありと判断された例。 拒絶審決取消。 ☆

本願と引例1-3は、ニコチンを含有する薬剤に関する。

本願は、「スプレーで口腔に投与」と「アルカリ性化」に特徴がある。

引例1は、「エアゾール又はスプレーで、使用者の好みに応じて口腔粘膜のみならず鼻腔粘膜に投与」することに特徴がある。

引用例2及び3には、「口腔粘膜からのニコチン吸収がアルカリ環境で促進されること」が記載されている。

 

裁判所の判断は以下の通り。 

 

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裁判所:

(上記()及び()によれば,引用例2及び3には,口腔粘膜からのニコチン吸収がアルカリ環境で促進されることが開示されているということができる。

しかしながら,引用発明1は,使用者の好みに応じて,口腔粘膜のみならず鼻腔粘膜や気道などからもニコチンが吸入されることを念頭においた薬剤であるから,口腔粘膜からの吸収を特に促進する必要性を認めることはできないし,引用例1には,口腔粘膜からの吸収を特に促進させる点に関する記載や示唆も存在しない

したがって,引用発明1に,引用発明2及び3を組み合わせることについて,動機付けを認めることはできない。」

 

(以上によると,本願優先日当時,鼻腔や肺に投与されるニコチン溶液は通常pH5ないし6程度の酸性であって,ニコチンが遊離塩基になりやすいアルカリ性では,生理的に悪影響があることが周知であったということができる。

したがって,引用発明1の薬剤をアルカリ性化することには,阻害事由が認められる。」

 

「しかしながら,引用例2は,ニコチン薬用ドロップ,錠剤,カプセル,ガム等を使用することにより,ニコチンを経粘膜投与する発明に係る文献であるから,引用発明2のニコチン摂取の方法は,本願発明及び引用発明1の吸入方法とは大きく異なるものである。前記のとおり,アルカリ性化されたニコチンが与える生理的悪影響は,苦くて舌を焼くような味,粘液膜上での刺激性の感覚,ひりひりする刺激をもたらすものであるから,ドロップ等により服用する際における味付け程度で解消するものということはできない。

また,引用例3に,スプレーによるニコチン投与の問題点が具体的に記載されていないとしても,前記のとおり,アルカリ性化したニコチンの問題点が周知であった以上,阻害事由を認めることができることは明らかである。」

「(3)  小括
よって,本願発明は,引用発明1に,引用発明2及び3を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。」

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裁判所は「口腔粘膜からの吸収を特に促進する必要性を認めることはできない」といっているが、この点は結構微妙な気がする。 なお、一致点・相違点の認定についても判断している。


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裁判所:

(2)  本件審決の一致点及び相違点の認定の当否
  「口腔に投与するためのもの」を含めて一致点を認定した点について
(
前記1(3)及び(4)によれば,本願発明の「口腔に投与するためのもの」とは,口腔粘膜を経由するニコチンの取り込みを意図しているものと解される。
他方,前記(1)()及び()によれば,引用発明1は,吸入の仕方に応じて,口腔粘膜,鼻腔粘膜,肺気道上皮等からのニコチン摂取を前提とするものである。引用例1には,これらの吸入によるニコチン摂取の態様について,それぞれ独立した技術的事項として記載されているから,口腔粘膜を経由したニコチン摂取は引用発明1の用途の1つとして引用例1に開示されているものということができる。
(
本願発明の「口腔に投与するためのもの」,すなわち,口腔粘膜を経由したニコチン摂取という用途は,引用発明1の用途の1つと重複する以上,本願発明と引用発明1との一致点として上記用途を認定したことが誤りであるということはできない。
(
この点について,原告は,引用発明1の薬剤は,スプレーにより口腔や鼻腔に導入されるものではあるが,本質的には,口腔粘膜のみならず鼻腔粘膜や肺に投与することを意図したものであって,本願発明における「口腔に投与するためのもの」とは,その技術的意義が異なるものであると主張する。
しかしながら,一致点の認定は,本願発明との対比において行われるものである以上,引用発明1に本願発明が想定しない「口腔に投与するためのもの」以外のニコチン摂取態様が含まれるからといって,本願発明と引用発明1とに共通する「口腔に投与するためのもの」という用途について一致点として認定することが妨げられるものではない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。」

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■用語(セルを開口させずに)の解釈において効果が考慮された例/平成22年(ネ)第10072号特許権侵害差止等請求控訴事件


平成23年9月13日判決言渡
控訴人(原告): フジボウ愛媛株式会社
被控訴人(被告): 株式会社FILWEL
特許: 特許第3697963号
請求項1: 
A  ベース層と該ベース層の上に積層した軟質プラスチックフォームで作られたシート状の表面層とからなる研磨布において,
B  前記表面層を,セルを開口させずに層内に内包するように表面が平坦な非発泡のスキン層で覆われている独立気泡フォームで形成し,
C  当該スキン層の表面が,研磨液を介してワークの加工面と擦り合う研磨面としてなる
D  ことを特徴とする研磨布。

コメント: クレーム中の用語(セルを開口させずに)の解釈において、効果に関与しているかどうかが考慮された例。 控訴棄却。構成要件非充足。 ☆☆☆

第4  当裁判所の判断

  構成要件充足の有無について

当裁判所も,被告製品は,少なくとも本件特許発明の構成要件Bを充足しないものと判断する。その理由は,次のとおり付加するほかは,原判決24頁3行目以下の「1  争点1(被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか)について」のとおりである。

(1)  構成要件Bの「セルを開口させずに」について

控訴人は,特許請求の範囲の解釈においては明細書の記載を参酌すべきであり,本件明細書の記載からすると,従来品と異なる本件特許発明の本質的部分は,層内に多数あるセルを表面にむき出しにすることなく,表面層でセルを覆っている点にあるから,本件特許発明の「開口させずに」とは,研磨布の表面に多数のクレータ状空洞部分が露出していないことを意味し,湿式研磨布に生成される通気・通水可能な微細な連通孔は「開口」に該当しないと解すべきである旨主張する。


しかしながら,原判決が31頁8行目から32頁18行目まで((イ)の項)及び34頁2行目から35頁14行目まで((オ)の項)で判示するとおり,本件明細書には,本件特許発明の効果として,「層内に内包した発泡セルはクッションの役目を果たす。」(段落【0018】,下線部付加。)と記載されており,クッション性は,発泡セルを取り囲む軟質プラスチックではなく,発泡セル自体にあると理解されるところ,通気・通水可能な微細な連通孔があり,そこから発泡セル内に空気や水が浸入すると,「発泡セル」自体がクッションの役目を果たさないことになるから,本件明細書に記載された効果を奏しない。同様に,本件明細書には,本件特許発明の効果として,「研磨液は,ワークと研磨布のスキン層表面との間を流れた後にそのまま系外へ流出するので,研磨に伴って生じたスラッジなどの異物も研磨布に付着,滞留することなく研磨液に随伴して素早く系外に排出される」(段落【0019】)と記載されており,スラッジなどの異物はセル内に浸入せずに系外へ排出されることが想定されているものと理解されるところ,通気・通水可能な微細な連通孔があると,そこからスラッジなどの異物が浸入する可能性があり,スラッジなどの異物が素早く系外に排出されるという本件明細書に記載された効果を奏しないことになる。


以上のとおり,原判決が,本件特許発明の「開口させずに」とは,研磨布の表面層にその層内に内包されたセルに通じる穴が開いていないという意味であり,湿式研磨布に生成される通気・通水可能な微細な連通孔が「開口」に該当することは否定できないと判断したのは,本件明細書の記載を参酌した上でのものであり,そこに誤りはない。その他,控訴人の主張するところによっても,上記判断が左右されるものではない

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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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