■2013-05-

■併用投与の特許、添付文書を考慮しても非侵害/アクトス/平成23年(ワ)第19435号, 同第19436号各特許権侵害差止等請求事件


<判決紹介>

平成25228日判決言渡、東京地方裁判所
原告: 武田薬品株式会社
被告: 日新製薬株式会社
特許: 特許3148973、特許3973280
請求項1 (本件1特許):
(1)ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と,(2)アカルボース,ボグリボースおよびミグリトールから選ばれるα-グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。
請求項1 (本件第2特許):
ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と,ビグアナイド剤とを組み合わせてなる,糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。

コメント: 医薬の併用投与(1+2剤)の特許において、被告製品(1+添付文書2剤の表記)が直接侵害、又は間接侵害に該当するかどうかが争われた事例。 裁判所の判断は非侵害。
裁判所は「本件各併用薬との併用投与を推奨するような記載や被告ら各製剤が本件各併用薬との組合せのためのものであるとの趣旨の記載はないから」と述べており、添付文書の記載内容の趣旨も考慮している。
なお、平成23()7576号等各特許権侵害差止等請求事件では、「組み合わせてなる」「医薬」の技術的範囲に、単なる併用投与(使用)は含まれないという判断がさている。 ☆☆☆☆

3 当裁判所の判断
1 争点1(被告らが被告ら各製剤を製造販売等することが本件各特許権を侵害するか否か)について
(1)
争点1-1(被告らが医療関係者や患者の行為を利用,支配して本件各発明を実施しているといえるか否か)について
被告らは,被告ら各製剤を製造販売しているが,さらに進んで,これと本件各併用薬とを組み合わせてなる医薬を生産等したことを認めるに足りる証拠はない。
原告は,被告らが,自由意思によらずに本件各発明を実施する医師,薬剤師,患者の行為を道具として利用し,これを支配することによって,本件各発明の実施を招来せしめているのであり,被告らは,被告ら各製剤を製造販売することにより,医師,薬剤師,患者をして本件各発明を実施していると規範的に評価することができると主張する。
しかしながら,医師がピオグリタゾン製剤や本件各併用薬などの薬剤をどのように使用するかについては,その裁量によって決するものであり,また,薬剤師がピオグリタゾン製剤や本件各併用薬などの薬剤をどのように調剤するかについては,医師の処方せんによらなければならないものであるし,さらに,患者が被告ら各製剤と本件各併用薬とを服用するのは,医師や薬剤師の指示や指導に従って行うに過ぎないから,これらをもって,被告らが医師,薬剤師,患者の行為を道具として利用したとか,これを支配したということはできない。
原告の上記主張は,到底採用することができない。

(2) 
争点1-2(被告らが医療関係者を教唆して本件各発明を実施しているといえるか否か)について
教唆をする者は,自らが発明を実施するわけではないし,前記(1)に判示したところに照らせば,被告らが,医師や薬剤師等の医療関係者を教唆したということもできない。

(3) 
したがって,被告らが被告ら各製剤を製造販売等することは,本件各特許権を侵害しない。

争点2(被告らが被告ら各製剤を製造販売等することが特許法1012号に掲げる行為に該当するか否か)について
(1)
特許法1012号における「発明による課題の解決に不可欠なもの」とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素(発明特定事項)とは異なる概念で,発明の構成要素以外にも,物の生産に用いられる道具,原料なども含まれ得るが,発明の構成要素であっても,その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものは,これに当たらない。
すなわち,それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるようなもの,言い換えれば,従来技術の問題点を解決するための方法として,当該発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらすものが,これに該当すると解するのが相当である。そうであるから,特許請求の範囲に記載された部材,成分等であっても,課題解決のために当該発明が新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するものに当たらないものは,「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当しない。

(2)
証拠(甲5712)によれば,本件各明細書の発明の詳細な説明には,次の記載があることが認められる。

…。

(3)
以上の本件各明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,2型糖尿病に対しては,個々の患者のそのときの症状に最も適した薬剤を選択する必要があるが,個々の薬剤の単独使用においては,症状により十分な効果が得られなかったり,投与量の増大や長期化により副作用が発現する等の問題があり,臨床の場でその選択が困難であったこと,本件各発明は,これを解決するために,インスリン感受性増強剤であり副作用のほとんどないピオグリタゾンと消化酵素を阻害して澱粉や蔗糖の消化を遅延させる作用を有するα-グルコシダーゼ阻害剤(アカルボース,ボグリボース,ミグリトール),嫌気性解糖促進作用等を有するビグアナイド剤(フェンホルミン,メトホルミン,ブホルミン),膵β細胞からのインスリン分泌を促進するSU剤であるグリメピリドのいずれかとを組み合わせ,これにより,薬物の長期投与においても副作用が少なく,かつ多くの2型糖尿病患者に効果的な糖尿病の予防や治療を可能にしたことが認められる。これによると,本件各発明が,個々の薬剤の単独使用における従来技術の問題点を解決するための方法として新たに開示したのは,ピオグリタゾンと本件各併用薬との特定の組合せであると認められる(ピオグリタゾンや本件各併用薬は,それ自体,本件各発明の国内優先権主張日より前から既に存在して2型糖尿病に用いられていたのであり,本件各発明がピオグリタゾンや本件各併用薬自体の構成や成分等を新たに開示したということができないのは当然である。)。
そうすると,ピオグリタゾン製剤である被告ら各製剤は,それ自体では,従来技術の問題点を解決するための方法として,本件各発明が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらすものに当たるということはできないから,本件各発明の課題の解決に不可欠なものであるとは認められない。

(4)
原告は,ピオグリタゾンが公知であったとしても,これが「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当することを否定すべき理由はないし,ピオグリタゾンは,これを用いることによって本件各発明の課題を解決することができる重要な成分であり,ピオグリタゾンがなければ本件各併用薬との組合せという従来技術には見られない特徴的技術手段をもたらすことはできず,これを他の有効成分に置き換えることもできないから,当該手段を特徴付けている特有の成分に当たると主張する。
しかしながら,本件各発明は,ピオグリタゾンと本件各併用薬という,いずれも既存の物質を組み合わせた新たな糖尿病予防・治療薬の発明であり,このような既存の部材の新たな組合せに係る発明において,当該発明に係る組合せではなく,単剤としてや,既存の組合せに用いる場合にまで,既存の部材が「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当すると解するとすれば,当該発明に係る特許権の及ぶ範囲を不当に拡張する結果をもたらすとの非難を免れない。このような組合せに係る特許製品の発明においては,既存の部材自体は,その発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものに過ぎず,既存の部材が当該発明のためのものとして製造販売等がされているなど,特段の事情がない限り,既存の部材は,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当しないと解するのが相当である。

被告ら各製剤の添付文書には,前記前提事実のとおり,【効能・効果】,【用法・用量】欄に,食事療法と運動療法,又は,食事療法と運動療法に加え,本件各併用薬等を使用する治療で十分な効果が得られずインスリン抵抗性が推定される2型糖尿病に対して被告ら各製剤が効能,効果を有することやそれらの場合における被告ら各製剤の用量や投与回数及び時期等についての記載があるほか,薬剤の併用投与の場合の注意事項等についての記載はあるが,本件各併用薬との併用投与を推奨するような記載や被告ら各製剤が本件各併用薬との組合せのためのものであるとの趣旨の記載はないから,添付文書の記載内容をもって,被告ら各製剤が本件各発明のためのものとして製造販売等されているということはできず,その他,特段の事情があることを認めるに足りる証拠はない。
原告の上記主張は,採用することができない。

(5)
また,原告は,本件各発明により,ピオグリタゾンを他の糖尿病治療薬と組み合わせるまでは発揮されなかったところの従来技術(ピオグリタゾン単剤)に見られない物質属性を新たに見出したものであると主張する。
しかしながら,ピオグリタゾン自体は,本件各発明が解決しようとする課題とは無関係に従来から必要とされていたものであり,これが本件各発明のためのものとして製造販売等がされているなど,特段の事情があることは認められないから,被告ら各製剤は,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」であるということはできない。
原告の上記主張も,これを採用することはできない。    

(6)
したがって,被告らが被告ら各製剤を製造販売等することは,特許法1012号に掲げる行為に該当しない。

以上によれば,原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく,全て理由がない。

よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 髙野輝久 裁判官 三井大有 裁判官 志賀勝


添付文書には以下の記載がある。

【効能・効果】
2
型糖尿病
ただし,下記のいずれかの治療で十分な効果が得られずインスリン抵抗性が推定される場合に限る。
1.
①食事療法,運動療法のみ
②食事療法,運動療法に加えてスルホニルウレア剤を使用
③食事療法,運動療法に加えてα-グルコシダーゼ阻害剤を使用
④食事療法,運動療法に加えてビグアナイド系薬剤を使用
2.
食事療法,運動療法に加えてインスリン製剤を使用

【用法・用量】
1.
食事療法,運動療法のみの場合及び食事療法,運動療法に加えてスルホニルウレア剤又はα-グルコシダーゼ阻害剤若しくはビグアナイド系薬剤を使用する場合
通常,成人にはピオグリタゾンとして1530mg11回朝食前又は朝食後に経口投与する。なお,性別,年齢,症状により適宜増減するが,45mgを上限とする。
2.
食事療法,運動療法に加えてインスリン製剤を使用する場合
通常,成人にはピオグリタゾンとして15mg11回朝食前又は朝食後に経口投与する。なお,性別,年齢,症状により適宜増減するが,30mgを上限とする。

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■組み合わせてなる医薬の技術的範囲/アクトス/平成23年(ワ)第7576号, 同第7578号各特許権侵害差止等請求事件


<判決紹介>

平成
24927日判決言渡、大阪地方裁判所
原告: 武田薬品株式会社
被告: 沢井製薬株式会社
特許: 特許3148973、特許3973280
請求項1 (本件特許A):
(1)
ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と,(2)アカルボース,ボグリボースおよびミグリトールから選ばれるα-グルコシダーゼ阻害剤とを組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。
請求項1 (本件特許B):
ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩と,ビグアナイド剤とを組み合わせてなる,糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。

コメント: 「組み合わせてなる」「医薬」の技術的範囲に、単なる併用投与(使用)は含まれないという判断がされた事例。 非侵害。 ☆☆

当裁判所の判断
被告ら各製品は,本件各特許発明における「物の生産に用いる物」には当たらないから,被告らの行為について本件各特許権に対する法1012号の間接侵害が成立することはない。同様の理由により,被告らの行為について本件各特許権に対する直接侵害が成立することもない。
また,本件各特許発明は,いずれも特許無効審判により無効とされるべきものである。
以下,詳述する。

争点1-1(被告ら各製品は,「特許が物の発明についてされている場合において,その物の生産に用いる物」に当たるか)について
以下のとおり,被告ら各製品は,「特許が物の発明についてされている場合において,その物の生産に用いる物」には当たらない。

1) 「物の生産」の意義等
  「物の発明」と「方法の発明」の区別
法文上,「物の発明」,「方法の発明」及び「物を生産する方法の発明」は明確に区別されており,特許権の効力の及ぶ範囲についても明確に異なるものとされている。
そして,当該発明がいずれの発明に該当するかは,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて判定すべきものである(最高裁平成11716日第二小法廷判決・民集536957頁参照)。

  231号及び1012号における「物の生産」の意義
(
1条によれば,「(法)は,発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もつて産業の発達に寄与することを目的とする」旨規定されている。
特許権者は,業として特許発明の実施をする権利を専用する(法68条)ところ,その権利範囲を不相当に拡大した場合には,産業活動に萎縮的効果を及ぼすなど競争を過度に制限し,かえって産業の発達に寄与するという法の目的を阻害することにもなりかねないから,そのような事態を招くことがないようにしなければならない。
また,特許権の侵害に対しては,差止め及び損害賠償等の民事上の責任を追及されるばかりか,刑事上の責任を追及されるおそれもある(法196条,201条)。
したがって,特許権侵害が成立する範囲の外延を不明確なものとするような解釈は避ける必要がある。

(
「物の生産」の通常の語義等も併せ考慮すれば,「物の生産」とは,特許範囲に属する技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為を意味し,具体的には,「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為をいうものと解すべきである。
一方,「物の生産」というために,加工,修理,組立て等の行為態様に 
限定はないものの,供給を受けた物を素材として,これに何らかの手を加えることが必要であり,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は「物の生産」に含まれないものと解される。

(
101条は,特許権の効力の不当な拡張とならない範囲で,その実効性を確保するという観点から,それが生産,譲渡されるなどする場合には当該特許発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高い物の生産,譲渡等に限定して,特許権侵害の成立範囲を拡張する趣旨の規定であると解される。
加えて,法101条の間接侵害についても刑罰の対象とされていること(法196条の2201条)なども考慮すると,間接侵害の成否を判断するに当たっても,前記()と同様に,特許権の効力を過度に拡張したり,適法な経済活動に萎縮的効果を及ぼしたりすることがないように,その成立範囲の外延を不明確にするような解釈は避ける必要がある。
1012号は,「物の生産」に用いる物の生産等について間接侵害の成立を認めるものであるが,ここでいう「物の生産」が法23項の規定する発明の「実施」としての「物の生産」をいうことは,明らかなものというべきである。
そうすると,法1012号の「物の生産」についても,前記()と同様に,「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為をいうものであり,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は含まれないものと解される。このことは,法1012号において「物の生産に用いる物」と規定され,「その物の生産又は使用に用いる物」とは規定されていないことからも,明らかであるといわなければならない。

2) 本件へのあてはめ
  本件各特許は「特許が物の発明についてされている場合」に当たること
前提事実のとおり,本件各特許発明の【特許請求の範囲】は,いずれも「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と,本件併用医薬品とを「組み合わせてなる糖尿病または糖尿病性合併症の予防・治療用医薬。」というものである。
したがって,本件各特許発明は,当該医薬品に関する発明,すなわち「物の発明」であると認めることができ,このこと自体は当事者間でも争いがない。
なお,「組み合せる。」とは,一般に,「2つ以上のものを取り合わせてひとまとまりにする。」ことをいい,「なる」とは,「無かったものが新たに形ができて現れる。」「別の物・状態にかわる。」ことをいうものと解される。
したがって,「組み合わせてなる」「医薬」とは,一般に,「2つ以上の有効成分を取り合わせて,ひとまとまりにすることにより新しく作られた医薬品」をいうものと解釈することができる。


  本件各特許発明における「物の生産」
(ア) はじめに
前記(1)イのとおり,法1012号の「物の生産」は,「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為をいう。すなわち,加工,修理,組立て等の行為態様に限定はないものの,供給を受けた物を素材として,これに何らかの手を加えることが必要であって,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は含まれない。
被告ら各製品が,それ自体として完成された医薬品であり,これに何らかの手が加えられることは全く予定されておらず,他の医薬品と併用されるか否かはともかく,糖尿病又は糖尿病性合併症の予防・治療用医薬としての用途に従って,そのまま使用(処方,服用)されるものであることについては,当事者間で争いがない。 
したがって,被告ら各製品を用いて,「物の生産」がされることはない。
換言すれば,被告ら各製品は,単に「使用」(処方,服用)されるものにすぎず,「物の生産に用いられるもの」には当たらない。

(イ) 医師による,医薬品の併用処方が「物の生産」となるか否か
原告は,本件各特許について,「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と本件併用医薬品とを併用すること(併用療法)に関する特許を受けたものであり,医師が「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と本件併用医薬品の併用療法について処方する行為は,本件各特許発明における「物の生産」に当たる旨主張する。
前記(1)アのとおり,「物の発明」,「方法の発明」及び「物を生産する方法の発明」は,明確に区別されるものであり,特許権の効力の及ぶ範囲も明確に異なるものであり,「物の発明」と「方法の発明」又は「物を生産する方法の発明」を同視することはできない。
前記アのとおり,「組み合わせてなる」「医薬」とは,「2つ以上の有効成分を取り合わせてひとまとまりにすることにより,新しく作られた医薬品」をいうものと解されるところ,併用されることにより医薬品として,ひとまとまりの「物」が新しく作出されるなどとはいえない。
複数の医薬を単に併用(使用)することを内容(技術的範囲)とする発明は,「物の発明」ではなく,「方法の発明」そのものであるといわざるを得ないところ,上記原告の主張は,前記アのとおり,「物の発明」である本件各特許発明について,複数の医薬を単に併用(使用)することを内容(技術的範囲)とする「方法の発明」であると主張するものにほかならず,採用することができない。


また,法291項柱書は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明について特許を受けることができる。」と規定しているところ,医療行為に関する発明は,「産業上利用することができる発明」には当たらない。医師が薬剤を選択し,処方する行為も医療行為(医師法22条)であるから,これ自体を特許の対象とすることはできないものと解される。
693項は,「二以上の医薬(人の病気の診断,治療,処置又は予防のため使用する物をいう。以下この項において同じ。)を混合することにより製造されるべき医薬の発明又は二以上の医薬を混合して医薬を製造する方法の発明に係る特許権の効力は,医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する行為及び医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する医薬には,及ばない。」旨規定するが,これも同様の趣旨に基づく規定であると解される。
このように,本件各特許発明が「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と本件併用医薬品とを併用すること(併用療法)を技術的範囲とするものであれば,医療行為の内容それ自体を特許の対象とするものというほかなく,法291項柱書及び693項により,本来,特許を受けることができないものを技術的範囲とするものということになる。
したがって,医師が「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と本件併用医薬品の併用療法について処方する行為が,本件各特許発明における「物の生産」に当たるとはいえない。


(ウ) 薬剤師による,医薬品のとりまとめが「物の生産」となるか否か
原告は,薬剤師が,被告ら各製品と本件併用医薬品とを併せとりまとめる行為が本件各特許発明における「物の生産」に当たるとも主張する。
しかしながら,薬剤師は,医師の処方箋に従って,患者に対し,完成された個別の医薬品である被告ら各製品,本件併用医薬品等を単に交付するにすぎないのであって,その際,複数の医薬品を「併せとりまとめる」行為(一つの袋に入れるなどする行為)があったとしても,この行  62
為をもって,医薬品を「組み合わせ(た)」ということは困難であるというほかない。
すなわち,前記アのとおり,「組み合わせてなる」「医薬」とは,「2つ以上の有効成分を取り合わせて,ひとまとまりにすることにより新しく作られた医薬品」をいうものと解されるところ,上記薬剤師の行為により医薬品としてひとまとまりの「物」が新たに作出されるとはいえない。
そもそも,前記(1)イのとおり,法1012号の「物の生産」とは,供給を受けた物を素材として,これに何らかの手を加えることが必要であるところ,薬剤師は,被告ら各製品及び本件併用医薬品について,何らの手を加えることもない。
これらのことからすれば,上記薬剤師の行為が,本件各特許発明における「物の生産」に当たるとはいえない。

(エ) 患者による,医薬品の併用服用が「物の生産」となるか否か
原告は,患者が,被告ら各製品と本件併用剤を服用することにより,その体内で本件各特許発明における「物」すなわち「組み合わせてなる」「医薬」の生産がされる旨主張する。
しかしながら,前記アのとおり,「組み合わせてなる」「医薬」とは,「2つ以上の有効成分を取り合わせて,ひとまとまりにすることにより新しく作られた医薬品」をいうものと解されるところ,患者が被告ら各製品と本件併用医薬品を服用するというだけで,その体内において,具体的,有形的な存在として,ひとまとまりの医薬品が新しく産生されているとはいえない。
そもそも,前記(1)イのとおり,法1012号の「物の生産」には,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は含まれないところ,患者が被告ら各製品と本件併用医薬品とを服用する行為は,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為である。 
これらのことからすれば,上記患者の行為が,本件各特許発明における「物の生産」に当たるとはいえない。

  本件各明細書の【発明の詳細な説明】の記載について
なお,本件各明細書(両事件甲24)の【発明の詳細な説明】には,いずれも,以下の記載がある。
「本発明の,インスリン感受性増強剤とα-グルコシダーゼ阻害剤,アルドース還元酵素阻害剤,ビグアナイド剤,スタチン系化合物,スクアレン合成阻害剤,フィブラート系化合物,LDL 異化促進剤およびアンジオテンシン変換酵素阻害剤の少なくとも一種とを組み合わせてなる医薬;および一般式(II)で示される化合物またはその薬理学的に許容しうる塩とインスリン分泌促進剤および/またはインスリン製剤とを組み合わせ(て)なる医薬は,これらの有効成分を別々にあるいは同時に,生理学的に許容されうる担体,賦形剤,結合剤,希釈剤などと混合し,医薬組成物として経口または非経口的に投与することができる。このとき有効成分を別々に製剤化した場合,別々に製剤化したものを使用時に希釈剤などを用いて混合して投与することができるが,別々に製剤化したものを,別々に,同時に,または時間差をおいて同一対象に投与してもよい。」(段落【0035】)
この記載によれば,本件各特許の対象である「組み合わせてなる」「医薬」の生産には,①  各有効成分を別々に又は同時に,生理学的に許容されうる担体,賦形剤,結合剤などと混合し,医薬組成物とすること(医薬組成物類型),②  各有効成分を別々に製剤化した場合において,別々に製剤化したものを使用時に希釈剤などを用いて混合すること(混合類型)だけでなく,  各有効成分を別々に製剤化した場合において,別々に製剤化したものを同一対象に投与するために併せまとめること(併せとりまとめ類型)も含まれるものとも解され,原告はこれを根拠に,③の類型も本件各特許発明の技術的範囲に含まれると主張する。
しかしながら,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した【特許請求の範囲】の記載に基づいて定めなければならず(特許法701項),願書に添付した明細書の記載及び図面,とりわけ【発明の詳細な説明】の記載を斟酌することにより,【特許請求の範囲】に記載されていないものについて特許発明の技術的範囲に含めるような拡大解釈をすることは許されない。
前記イで検討したところによれば,本件各特許発明における【特許請求の範囲】に記載された技術的範囲に上記①及び②は含まれるものの,上記③は含まれないと考える。
したがって,上記③についても,本件各特許発明の技術的範囲に含まれるとする原告の主張は採用することができない。

  顕著な効果について
原告は,本件各特許発明について,複数の医薬を併用することにより顕著な効果を奏することを見出した点に特徴があり,このような発明についても保護を図る必要が極めて高いなどと主張する。
しかしながら,仮に,そうした保護の必要性があることを前提としたとしても,そのことから複数の医薬を併用することについて「組み合わせてなる」「医薬」に関する発明の技術的範囲に含まれるものであるという解釈とは結びつかないのであって,上記原告の主張は失当である。

3) 小括
以上によれば,被告ら各製品を用いて本件各特許発明における「物の生産」がされることはないから,被告ら各製品は,本件各特許発明における「物の生産に用いられるもの」には当たらない。

…。

  結論
 
以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,本件請求には全部理由がない。よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所 第26民事部  裁判長裁判官山田陽三 裁判官西田昌吾 裁判官松川充康は差し支えのため,署名押印することができない。裁判長裁判官山田陽三


■主引例に副引例を組み合わせるには動機付けが大事/大豆イソフラボン/平成24年(行ケ)第10284号審決取消請求事件


平成25327日判決言渡
原告: 有限会社大長企画
被告: 特許庁長官
特許出願: 特願2002-303877
請求項1: A.シムノールまたはシムノール硫酸エステル
B
.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体
C
.クルクミン
ABおよびCの成分を含むことを特徴とする強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤。

コメント: 引例を組み合わせる動機付けが示されていないため、拒絶審決の判断は誤りという判断がされた事例。
本願明細書をざっと見たところ、比較例はなさそうである。 このような場合、「組合わせに動機付けがない」という主張をしてもなんだかんだで進歩性が認められないということはあると思うが、本事例では上手く拒絶審決を覆している。
なお、主引例の効果(用途)と、本願発明の効果は異なっており、このことが裁判所の判断に影響している。 もし審決が、効果が同じ(又は関連している)ものを主引例としていたらどうなっていただろうか。 ☆☆☆

4当裁判所の判断
…。
(2)
判断
ア  上記1(1)イ 認定の事実によれば,引用例1記載の発明は,美肌作用やアトピー性皮膚炎,湿疹,皮膚真菌症,色素沈着症,尋常性乾癬,老人性乾皮症,老人性角化腫,火傷などの皮膚疾患の改善作用,発毛促進作用,発汗促進作用,消化液分泌促進作用,利尿作用,便通促進作用等の生体活動の改善や,人体機能の発現に関与する物質群の補給システムを中心とした生体活動の更なる改善手段(生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用も含む。)を提供することを課題とし(【0005】,【0006】,【0010】),体内から体外に向かって形成された水の流れを媒体とした人体機能の発現に関与する物質の能動的な移送を真の目的とする津液作用と,酸素,栄養などのエネルギーを中心とする補給の活性化作用である補血及び活血作用が,同時に促進されることが,人体にとって極めて有用であることから,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分から選ばれる1種ないし2種以上と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスから選ばれる1種ないし2種以上とを組み合わせて使用することにより,上記課題を解決するものであること(【0002】ないし【0004】,【0007】)が認められる。
また,引用例1には,実施例においてシムノールサルフェート,ダイズイン等を含む健康食品で,環境ホルモンの排出が促進されたことが記載される(【0029】,【0033】)が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果を示唆する記載はない。

一方,上記(1)ウ,エ 認定の事実によれば,引用例2ないし4には,大豆イソフラボン等が,アルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患等に効果があり,甲6には,コクダイズが運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に効果があり得ることが開示されているといえる。しかし,引用例2は,COX-2NFκB,ならびにCOX-2およびNFκBの両者の生合成阻害剤であるフラボン化合物を開示するもの,引用例3は,ダイズ,および,その他,クローバーなどの植物の成分であるイソフラボノイドを単離したものを,アルツハイマー型痴呆,および加齢に伴うその他の認識機能低下を治療および予防するために使用することを特徴とする発明を開示するもの,引用例4は,イソフラボン,リグナン,サポニン,カテキン,および/またはフェノール酸を,栄養補給剤としてまたはより伝統的なタイプの食物中の成分として各自が摂取する便利な方法を提供する発明を開示するもの,甲6は,コクダイズの成分,薬効等を開示するものであって,いずれも引用例1記載の上記課題と共通する課題,とりわけ,生体に有害な環境ホルモンなどの体外への排出を高める作用について記載しているとは認められない。
そうすると,引用例1に接した当業者は,引用発明に含まれるダイズインが,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用を有することを予期し,そのような生理的作用を向上させるべく,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスを組み合わせて使用することに想到するとは考えられるが,ダイズインが,環境ホルモン排出促進と関連性のない生理的作用を有することにまで,容易に想到するとは認められない。そして,当業者にとって,引用例2ないし4及び甲6に記載されるアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息,心臓疾患,運動障害,運動麻痺及び筋肉の引きつり等に対する効果が,環境ホルモン排出促進ないしこれと関連性のある生理的作用であると認めるに足りる証拠はないから,当業者が,引用例1の記載から,ダイズインが,上記の各効果をも有することに容易に想到すると認めることはできない。

イ  これに対し,被告は,ダイズインのアグリコンであるダイゼイン等の大豆イソフラボンがアルツハイマー病,加齢による認識記憶喪失,痴呆,喘息及び心臓疾患の処置に有効であることが公知であり,ダイズインを有効成分とする大豆には,脳梗塞後の運動障害,運動麻痺,及び筋肉の引きつりに効果があり,また視力を良くする効果もあることが周知であることから,ダイズインを含む引用発明の組成物の具体的用途として,「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」といったものをさらに特定することは,当業者が格別の創意なくなし得る旨主張する。

しかし,上記のとおり,引用発明は,津液作用を有する生薬のエッセンス及びその活性成分と補血・活血作用を有する生薬のエッセンスとを組み合わせて使用することにより,課題を解決しようとするものであるから,引用例1に接した当業者が,引用発明の1成分にすぎないダイズインにことさら着目することの動機づけを得るとはいえない。そうすると,たとえ,引用例2ないし4及び甲6により,大豆イソフラボンないし大豆が被告主張の効果を有することが周知ないし公知といえるとしても,当業者において,引用発明から出発して,当該周知ないし公知の知見を考慮する動機づけがあるとはいえず,相違点2に係る本願発明の構成(「強筋肉剤,抗脳梗塞後遺症剤,抗運動麻痺剤,抗喘息剤,抗視力減退剤,抗機能性心臓障害剤,または,抗痴呆症剤」)に想到することが容易であるとはいえない(まして,本願発明は,引用発明の組成物に加えてクルクミンを含むものであるところ,そのような3成分を含む組成物について,強筋肉剤等の用途が容易想到であることの理由も明らかでない。)。


ウ  したがって,引用例1には,引用例2ないし4及び周知の事項を組み合わせて,相違点2に係る本願発明の構成とすべき動機づけが示されていないとして,相違点2に関する上記審決の判断は誤りである旨の原告の主張は理由がある。

結論
以上のとおり,原告主張の取消事由2には理由があり,その余の争点について判断するまでもなく,審決には取り消すべき違法がある。
よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 芝田俊文 裁判官 岡本岳 裁判官 武宮英


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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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