■2013-10-

■顕著な効果の主張が認められなかった事例(アテローム性動脈硬化症の治療剤)


<判決紹介>

本願発明と引例発明の実験条件がそろっていないので、本願効果の顕著性を立証することができていない、と判断された事例。 拒絶審決維持。 ☆☆


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■平成24(行ケ)10415号 審決取消請求事件
■平成25103日判決言渡、知的財産高等裁判所
■原告: 壽製薬株式会社
■被告: 特許庁長官
■特許出願: 特願2003-185171
■補正後の請求項1: 下記化学式(56で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩と,コレステロール生合成阻害剤及び/又はフィブラート系コレステロール低下剤とを組合せてなる血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤であって,上記コレステロール生合成阻害剤はプラバスタチン,ロバスタチン,フルバスタチン,シムバスタチン,イタバスタチン,アトルバスタチン,セリバスタチン,ロスバスタチン,ピタバスタチン,及びカルバスタチンからなる群より選ばれた少なくとも1種のコレステロール生合成阻害剤であり,上記フィブラート系コレステロール低下剤はクロフィブラート,ベザフィブラート,シンフィブラート,フェノフィブラート,ゲムフィブロジル,及びAHL-157からなる群より選ばれた少なくとも1種のコレステロール生合成阻害剤である血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤。 【化1】…(56
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審決:
「3
本件審決の理由の要旨
…。
イ 本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点
(
) 一致点
 
「β-ラクタムコレステロール吸収阻害剤と,コレステロール生合成阻害剤とを組合せてなる血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤であって,上記コレステロール生合成阻害剤はロバスタチンである血清コレステロール低下剤或はアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤」である点。
(
) 相違点
 
本件補正発明のβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤は「化学式(56)で表される化合物又はその薬学的に許容しうる塩」(以下「化合物56」という。)であるのに対し,引用発明のβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤は「(3R-4S-14-ビス-4-メトキシフェニル)-3-3-フェニルプロピル)-2-アゼチジノン」(以下「コンパウンドA」という。)である点。」

原告:
(1) 取消事由1(本件補正発明の容易想到性に係る判断の誤り)
ア 相違点の判断の誤りについて
 
本件審決は,引用例1及び2に記載されたβ-ラクタム化合物は,C-配糖体であるか否か等の構造上の違いはあるものの,それらに共通するβ-ラクタム構造に基づき,ともに小腸上皮でコレステロール吸収阻害作用を発揮するものであることは当業者に明らかであると認められるから,より薬理活性の高い薬剤の提供という,当業者に周知の課題を解決する目的で,引用発明のコンパウンドAに代えて,引用例2記載の高コレステロール低下作用に優れる化合物56を採用することは,当業者にとって容易である旨判断した。
 
しかしながら,本件審決の判断は,以下のとおり誤りである。 …。

イ 顕著な作用効果の判断の誤りについて
…。」

裁判所:
「第4 当裁判所の判断
1
取消事由1(本件補正発明の容易想到性に係る判断の誤り)について
…。

(4)
顕著な作用効果の判断の誤りの有無
ア 原告は,本願明細書に本件補正発明の実施例として記載された薬理実験における化合物56とアトルバスタチン又はフェノフィブラートとの併用投与による相乗効果の数値と引用例1に記載された薬理実験におけるコンパウンドAとロバスタチンとの併用投与(引用発明の構成のもの)による相乗効果の数値とを対比した上で,本件補正発明の奏する効果は,引用例1及び2に記載された発明から当業者が本願出願時の技術常識に基づいて予測できる程度を越えた顕著なものであるから,本件補正発明の奏する効果が顕著なものであるとはいえないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。

ところで,発明が引用発明から容易想到であったか否かを判断するに当たっては,当該発明と引用発明とを対比して,当該発明と引用発明との構成上の相違点を確定した上で,当業者が,引用発明に他の公知発明又は周知技術とを組み合わせることによって,引用発明において相違点に係る当該発明の構成を採用することを想到することが容易であったか否かによって判断するのを原則とするが,例外的に,相違点に係る構成自体の容易想到性が認められる場合であっても,当該発明が奏する作用効果が当該発明の構成そのものから当業者が予測し難い顕著なものであるときは,その作用効果が顕著である点において当該発明は特許法の目的である産業の発展に寄与(同法1条)するものとして進歩性を認めるべきであるから,当該発明が引用発明から容易想到であったとはいえないものと解するのが相当である。
引用例1及び2に基づいて本件補正発明の構成を容易に想到し得たことは前記(3)ウ認定のとおりであるから,以下においては,上記の観点から,本件補正発明が予測し難い顕著な作用効果を奏するものと認められるかどうかについて判断する。

イ そこで検討するに,前記(1)()によれば,本願明細書には,本件補正発明の実施例として,コレステロール負荷ラットを用いた,化合物56とコレステロール生合成阻害剤であるアトルバスタチン又はフィブラート系コレステロール低下剤であるフェノフィブラートとの組合せによる血中コレステロール低下作用の薬理実験の結果が記載され,その実験結果を記載した別紙1の表1には,それぞれを単独投与した場合,化合物56とアトルバスタチンを併用投与した場合及び化合物56とフェノフィブラートを併用投与した場合における血清コレステロール低下率が記載されている。  一方,前記(3)()fのとおり,引用例1には,ハムスター,ウサギ,アカゲザル及び犬を用いた,コンパウンドAとコレステロール生合成阻害剤であるロバスタチンとの組合せによる血中コレステロール低下作用の薬理実験の結果が記載され,その実験結果を記載した別紙2の表1ないし4には,それぞれを単独投与した場合と併用投与した場合における血清コレステロール濃度が記載されている。

しかるところ,本件補正発明と引用発明とは,β-ラクタムコレステロール吸収阻害剤と,コレステロール生合成阻害剤とを組み合わせてなる血清コレステロール低下剤あるいはアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤である点で一致し,その相違点は,コレステロール生合成阻害剤と併用するβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤が,化合物56であるのか,コンパウンドAを用いるかにあるから,引用例1及び2の記載を前提に,本件補正発明が奏する作用効果が本件補正発明の構成そのものから当業者が予測し難い顕著なものと認められるかどうかを判断するに当たっては,本件補正発明の範囲に含まれる化合物56とロバスタチンとを組み合わせてなる血清コレステロール低下剤あるいはアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤が当業者が予測し難い顕著な作用効果を奏するかどうかを検討する必要がある。

前記(3)()及び()認定のとおり,引用例1には,β-ラクタムコレステロール吸収阻害剤とコレステロール生合成阻害剤とを併用することにより,相乗効果が発揮することが示されていること,引用例2には,化合物56を含むβ-ラクタム化合物-C配糖体が,引用例1で用いたC配糖体部分を構成に有しないβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤を改良したものであることが示されていることからすると,引用例1及び2に接した当業者は,コンパウンドAとロバスタチンとを組み合わせてなる引用発明において,コンパウンドAを化合物56に置き換えた場合に,引用例1記載のコレステロール低下作用の相乗効果がある程度改善されることを予測し得るものと認められる。
 
一方,本願明細書には,化合物56とロバスタチンとを組み合わせてなる血清コレステロール低下剤あるいはアテローム性動脈硬化症の予防又は治療剤の薬理実験の結果の記載がないことに照らせば,本願明細書の記載に基づいて,上記組合せからなる本願補正発明の奏する作用効果が当業者が予測し難い顕著なものであることを認めることはできない。
すなわち,実験動物における薬理作用を比較検討するに当たっては,実験条件をそろえることが必須であるところ,本願明細書記載の実験と引用例1記載の実験とでは,被験動物の種類が異なり,投与量等の条件も異なる上,被験動物の種類により薬剤に対する応答が異なることは技術常識であるから,本願明細書記載の実験結果と引用例1記載の実験結果とを比較することにより,本願補正発明の効果の顕著性を立証することはできない。

また,コレステロール生合成吸収阻害剤であるアトルバスタチンとロバスタチンとは異なる物質であり,両者がβ-ラクタムコレステロール吸収阻害剤との併用において同等であると認めるに足りる証拠はないから,この点において,本願明細書記載の実験結果と引用例1記載の実験結果とを比較することにより,本願補正発明の奏する作用効果が当業者が予測し難い顕著なものであることを立証することはできない。

以上によれば,上記の各実験結果によって本件補正発明の奏する作用効果が当業者が予測し難い顕著なものであると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると,これと同旨の本件審決の判断は結論において誤りはなく,原告の上記主張は理由がない。他に原告は本件補正発明の奏する作用効果の顕著性に関し縷々主張するが,上記判断に影響を及ぼすものではない。 」
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■顕著な効果の主張が認められなかった事例(電磁波遮蔽積層体)


<判決紹介>

顕著な効果の主張が認めらなかった事例。 裁判所は、「発明の効果の程度が厳密に予測できなければ直ちに進歩性を有すると認定されるわけではない。」、「作用の程度を厳密に予測することは困難であるとしても,一定程度の予測性はあるといえる。」と述べている。
また、原告が提出した実験成績証明書に対して、「特定条件における特性の測定結果」であるため、本願補正発明6の技術的範囲全体において奏する顕著な効果であると認めることはできないと判断した。 拒絶審決維持。 ☆☆


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■平成21(行ケ)10362号 審決取消請求事件
■平成221012日、知的財産高等裁判所
■原告: 旭硝子株式会社
■被告: 特許庁長官
■特許出願: 特願2005-513310
■補正後の請求項6: 透明な基材上に電磁波遮蔽膜が36層積層された電磁波遮蔽積層体であって,
前記電磁波遮蔽膜が,前記基材側から順に,屈折率が2.0以上である物質からなる第1の高屈折率層,
酸化亜鉛を主成分とする第1の酸化物層,
銀を主成分とする導電層
および屈折率が2.0以上である物質からなる第2の高屈折率層を有し,
前記導電層は前記第1の酸化物層に直接接し,
前記電磁波遮蔽膜間で直接接する前記第1の高屈折率層と前記第2の高屈折率層が一括して成膜された1つの層からなり,
前記第1および第2の高屈折率層がそれぞれ酸化ニオブを主成分とする幾何学的膜厚が2050nmの層であることを特徴とする電磁波遮蔽積層体
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原告:
「ア 取消事由1(本願補正発明6の技術的意義の看過)
…。 以上説明したように,1つの層を別の層に置換した後の積層体の特性を予測することは困難である。
かかる予測困難性を克服して,本願補正発明6の顕著な効果を予測させる記載は,引用例1ないし3には存在しない。」

裁判所:
「第4 当裁判所の判断
…。 ア 取消事由1(本願補正発明6の技術的意義の看過)について
…。

しかし,本願明細書の実施例及び本件各実験証明書記載の本願補正発明6に対応する各実験例は,本願補正発明6の構成を充足する実験例であるとはいえ,それぞれ製造条件・実験条件により測定結果が異なり,さらには同じ条件で製造した積層体においても,測定結果が異なる場合のあることが認められる(例えば 甲37実験証明書の実験例B① ②)。
したがって,本件各実験証明書記載の各実験例は,選択された特定の条件下での特性を示しているにすぎず,このような特定条件における特性の測定結果の対比をもって,直ちに,引用発明に対する本願補正発明6の技術的範囲全体において奏する顕著な効果であると認めることはできないというべきである。

(
) 次に,原告は,前記第31(4) () のとおり,積層体全体の特性には,積層された複数の層の相互作用が関係するから,1つの層を別の層に置換した場合の,置換後の積層体全体の特性を予測することは困難であると主張する。
しかし,進歩性の判断における効果の参酌は,引用発明と比較した有利な効果が,技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものである場合に,進歩性が否定されないこともあるということにとどまり,発明の効果の程度が厳密に予測できなければ直ちに進歩性を有すると認定されるわけではない。したがって,この点に関する原告の主張はその前提において失当である。
また,積層体全体の特性には,積層された複数の層の相互作用が関係するとしても,積層体の特性が,積層体を構成する個別の層の特性に依存することも事実であると認められ,後述するように,層の相互作用についても一定程度の予測性があるといえるから,そのことだけで,本願補正発明6の効果が予測された範囲を超えた顕著なものであるとはいえない。したがって,この点においても,原告の主張は失当である。

(
) そこで,本願補正発明6に技術水準から予測される範囲を超えた顕著な作用効果があるか否かについて,検討する。
…。 したがって 原告の主張する本願補正発明6の相互作用aないしcはその作用の程度を厳密に予測することは困難であるとしても,一定程度の予測性はあるといえるから,本願補正発明6が当時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果を奏するとは認められず,この点に関する原告の主張は失当である。
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プロフィール

徳重大輔


Author: 徳重大輔

バイオ、医薬、特許関連のブログです。
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SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書はバイオ医薬(特に抗体医薬)、調査は無効資料調査が特に得意です。

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