■2014-04-

■「含み」の程度について効果が考慮された事例 (ポリイミドフィルム)


<判決紹介>

コメント:
請求項1の「含み」の程度について、効果が考慮された(構成要件充足)。 また、メーカーへの譲渡(優先日前)が、相互に守秘義務を負っていたことを認めるに足りる証拠がないとして、公然実施に該当すると判断された(無効)。 請求棄却。 ☆


平成24()11800号 特許権侵害差止請求事件
平成26327日判決言渡、東京地方裁判所
原告: 東レ・デュポン株式会社
被告: 宇部興産株式会社
特許: 特許4777471
請求項1
  1A1 
パラフェニレンジアミン、44-ジアミノジフェニルエーテルおよび34-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1以上の芳香族ジアミン成分と、
  1A2 
ピロメリット酸二無水物および33-44-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる群から選ばれる1以上の酸無水物成分と
  1A3 
を使用して製造されるポリイミドフィルムであって、
  1B   
該ポリイミドフィルムが、粒子径が0.072.0μmである微細シリカを含み、
  1C1 
島津製作所製TMA-50を使用し、測定温度範囲:50200℃、昇温速度:10/minの条件で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数α MD 10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲にあり、
  1C2 
前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数α TD 3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲にあり、
  1D   
前記微細シリカがフィルムに均一に分散されているポリイミドフィルム。


裁判所の判断:
「第当裁判所の判断
・・・。
  
  構成要件1Bの充足性について
  (
証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「ポリアミック酸溶液は,フィルムの易滑性を得るため必要に応じて,酸化チタン,微細シリカ…などの化学的に不活性な有機フィラーや無機フィラーを,含有することができる。この中では特に粒子径0.072.0μmである微細シリカをフィルム樹脂重量当たり0.030.30重量%の割合でフィルムに均一に分散されることによって微細な突起を形成させるのが好ましい。粒子径0.072.0μmの範囲であれば該ポリイミドフィルムの自動工学検査システムでの検査が問題なく適応できるので好ましい。」(段落【0025】)と記載されていることが認められる。また,証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1の実施例として,摩擦係数が0.35ないし0.95のポリイミドフィルムが挙げられていること(段落【0061】【0063】ないし【0065】)が認められる。これらを総合すれば,構成要件1Bは,ポリイミドフィルムが,粒子径が0.072.0μmである微細シリカを易滑性が得られる程度に含むことを意味し,少なくとも摩擦係数が0.35ないし0.95
ポリイミドフィルムを含むことを意味すると解される。
 
被告製品は,粒子径がそれぞれ0.01μm前後と0.12μm前後である微細シリカを複数含むところ,証拠(甲28)によれば,被告製品は,摩擦係数が0.52であって,易滑性を有し,この易滑性は,粒子径が0.12μm前後の微細シリカによって得られていることが認められる。そうであるから,被告製品は,粒子径が0.072.0μmの微細シリカを易滑性が得られる程度に含むのであって,構成要件1Bの「粒子径が0.072.0μmである微細シリカを含」むものに当たる。

・・・

 
  先行発明の公然実施について
(
被告は,別表記載のとおり,平成1445日から平成16312日までの間に,複数の銅張積層体メーカーに対し,先行発明の技術的範囲に属する28本の先行製品のうち,α MD 10.114.4ppm/℃であり,α TD 3.57.0ppm/℃である19本の全部又は一部を譲渡した。そして,被告や上記銅張積層体メーカーが当該譲渡について相互に守秘義務を負っていたことを認めるに足りる証拠はない。
  (
原告は,前記譲渡がCOF用のポリイミドフィルムを共同開発するためであって,相互に守秘義務を負っていたと主張する。
しかしながら,証拠(乙47)によれば,前記銅張積層体メーカーの1社である東レ株式会社が平成151月に発行された業界誌に投稿した論文には,α TD をα MD より低くしたポリイミドフィルムがCOF用に適している旨の記載があることが認められ,この事実に照らすと,被告や前記銅張積層体メーカーが相互に守秘義務を負っていたとは考え難い。
原告の前記主張は,採用することができない。
  (
そうであるから,被告は,本件特許権の優先日に係る特許出願前に,先行発明のうちα TD 3.5ppm/℃以上のものを公然と実施したものである。
 
  したがって,本件発明1は,本件特許権の優先日に係る特許出願前に公然実施をされた発明であり,本件発明1に係る特許は,特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。」


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■「甘味を呈さない量」が不明確と判断された事例(渋味のマスキング方法)


<判決紹介>

コメント:
「甘味を呈さない量」が不明確と判断された事例。 この事例はちょっと特殊条件下ではあるものの、こういう数値を使わずに量を限定する場合って医薬分野でもたまにあるように思います。 特に外内で。 有効審決取消。 ☆☆☆☆


平成25(行ケ)10172号 審決取消請求事件
平成26326日判決言渡、知的財産高等裁判所
原告: 株式会社JKスクラロースジャパン
被告: 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
特許: 特許第3938968
請求項1
 茶,紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料に,スクラロースを,該飲料の0.00120.003重量%用いることを特徴とする渋味のマスキング方法。
請求項1(訂正):
 茶,紅茶及びコーヒーから選択される渋味を呈する飲料に,スクラロースを,該飲料の0.00120.003重量%の範囲であって,甘味を呈さない量用いることを特徴とする渋味のマスキング方法。


裁判所の判断:
「第当裁判所の判断
・・・。
  2 
取消事由2(明確性要件についての判断の誤り)について
    (1)
審決は,「本件訂正特許明細書には甘味閾値の定義はされていないが,甘味閾値は,乙第15号証の記載(閾値の測定),乙第16号証の記載(アスパルテームの甘味閾値の測定),甲第10号証の記載(スクラロースの甘味の閾値測定)並びに乙第14号証の測定データ(スクラロースの甘味閾値が極限法で測定されている),被請求人の主張(口頭審理調書,平成25321日付け上申書第512行参照)によれば,極限法により求められるものであり,濃度の薄い方から濃い方に試験し(上昇系列),次に濃度の濃い方から薄い方に試験し(下降系列),平均値を用いて測定するのが一般的であると認められることから,本件訂正特許明細書に具体的測定方法が定義されていなくとも,本件出願当時の技術常識を勘案すると不明確であるとまで断言することはできない。」と判断した。これに対し,原告は,甘味閾値の測定方法として,極限法以外にも恒常刺激法,調整法などの方法があるから,極限法が一般的であるとはいえず,また,極限法という同じ測定方法を用いても甘味閾値は変動するものであるから,訂正発明は,不明確であり,審決の判断は誤りである旨主張する。
・・・。

 
そうすると,当業者は,同一の測定方法を用いた極限法によるスクラロース水溶液の甘味閾値であっても,2つの文献で約1.6倍異なる数値が記載されている上,訂正発明における各種飲料における甘味閾値の測定は,スクラロース水溶液に比べてより困難であるから,測定方法が異なれば,甘味閾値はより大きく変動する蓋然性が高いとの認識のもとに訂正明細書の記載を読むと解するのが相当である。
 
したがって,甘味閾値の測定方法が訂正明細書に記載されていなくとも,極限法で測定したと当業者が認識するほど,極限法が甘味の閾値の測定方法として一般的であるとまではいえず,また,極限法は人の感覚による官能検査であるから,測定方法等により閾値が異なる蓋然性が高いことを考慮するならば,特許請求の範囲に記載されたスクラロース量の範囲である0.00120.003重量%は,上下限値が2.5倍であって,甘味閾値の変動範囲(ばらつき)は無視できないほど大きく,「甘味の閾値以下の量」すなわち「甘味を呈さない量」とは,0.00120.003重量%との関係でどの範囲の量を意味するのか不明確であると認められるから,結局,「甘味を呈さない量」とは,特許法3662号の明確性の要件を満たさないものといえる。

    (2)
被告は,「甘味閾値は,一般的で確立した試験方法である極限法によって測定できるものであり,他にもよく知られた試験方法が存在するからといって甘味閾値が不明確になるものではない。極限法でも恒常刺激法でも,試験の原理上,同等の結果が得られることは明白である。測定には,常に誤差が伴い,各条件に応じて適した測定方法が異なるという常識があるが,だからといってこれによって測定される物理量の値が不明確などということもない。したがって,訂正発明は,不明確ではない。」旨主張する。
 
そこで検討するに,被告による試験結果である甲25には,訂正明細書の実施例4を追試した際のコーヒーにおけるスクラロースの甘味閾値は0.00169%と記載されており,この値は,訂正発明の「0.00120.003重量%」の範囲内の数値であるが,渋味のマスキング効果を確認したスクラロースの添加量は0.0016%であり,甘味の閾値と非常に接近している。
 
そうすると,上記のように「0.00120.003重量%」の範囲に甘味閾値が存在する場合には,特に正確に甘味閾値を測定する必要があり,誰が測定しても「甘味を呈さない量」であるか否かが正確に判別できるものでなければならない。
 
しかし,甘味閾値の測定は人の感覚による官能検査である以上,被告が主張するように,測定方法等が異なっても同等の結果が得られることは明白であるとする客観的根拠は存在せず,測定方法の違い等の種々の要因により,甘味閾値は異なる蓋然性が高く,被験者の人数や習熟度等に注意を払ったとしても,当業者が測定した場合に,「甘味を呈さない量」であるか否かの判断が常に同じとなるとはいえない。  
 
したがって,被告の主張は採用できない。

    (3) 
小括
 
以上によれば,「『甘味を呈さない量』が訂正明細書に定義されていないことによっては,訂正発明は不明確であるとまで言うことができない。」との審決の判断には誤りがある。」


tag : 明確性

■明細書作成と先行技術調査


特許出願の明細書には、始めの方に「背景技術」の欄があり、通常はそこに今知っている先行技術文献の情報を記載します。 そして、「課題」の欄以降で先行技術の課題・欠点を説明し、それを本願は解決できるんだ(差別化できているんだ)という話に持っていきます。

クレームは、通常は今知っている先行技術文献に対して新規性のあるクレームにします。 チャレンジで新規性がないクレームにすることもあります。

ここで、知っている先行技術が少ないと、いくら知っている先行技術と差別化できていたとしても、審査官が新たな(出願人が知らなかった)先行技術文献を探してきたときに、対応に困ります。 そのため、出願時にはある程度先行技術を知った状態で明細書を作成した方が良い結果が得られる傾向があります。

こういうときに役に立つのが、先行技術調査です。特に、過去に類似の特許出願をしたことがないときには、先行技術調査の重要性が増します。先行技術調査は、無料のデータベース(IPDL等)である程度できますし、特許分類(IPC等)を使わなくても結構できます。

・IPDLガイドブック
http://www.inpit.go.jp/content/100164452.pdf
http://www.inpit.go.jp/content/100164936.pdf

・先行技術調査の解説
http://www.inpit.go.jp/content/100030474.pdf

もうちょっと本気でやるなら、有料データベースや特許分類を検討すると良いでしょう。

・有料データベース
http://goo.gl/8vvwD3

・特許分類
http://www.inpit.go.jp/content/100545488.pdf

あと、先行技術調査をすることによって、調査した業界の技術内容や特許実務の傾向が何となくわかってくるので、明細書の作成方針を立てるのにも役立ちます。


■審査官の気持ちになって明細書を作る


自分が審査官だったらどんな拒絶理由を打つかって考えながら明細書を作ると、よい明細書が作れます。  さらに、一晩寝かせるともっとよい明細書が作れます。


tag : 明細書

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プロフィール

徳重大輔


Author: 徳重大輔

バイオ、医薬、特許関連のブログです。
業界動向や知財判決などの情報をアップしていきます。

SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書はバイオ医薬(特に抗体医薬)、調査は無効資料調査が特に得意です。

お問い合わせはbiopatentblog@gmail.com(@は半角)へお願いします。

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