■2015-01-

■休みの日の特許事務所


今日は土曜日でしたが、昼頃に会社(特許事務所)に行きました。 私より先に来て仕事をしている者が1名、後から来て夜9時を過ぎても残っている者が1名いました。

私の勤務している会社は完全歩合制なので、休日でも仕事をすればそのまま給与に反映されます。 休日に仕事するかどうかは個人の自由です(期限に追われている場合は別です)。 だいたいいるのは技術者ですが、たまに事務の人もいたりします。 土日のどっちかは誰かが働いてるって感じだと思います。

私は今日は仕事ではないのですが、2/25に講演するセミナーの資料を作るために会社に行きました。 自宅でやってもよかったのですが、休みの日の会社って集中しやすいので。 今日までで半分くらいは作り終わりました。 あと、ついでに判決いくつか読んだのでこのあとアップします。 セミナーもブログも会社の業務命令ではないですが(推奨はされています)、面白そうなのでやっています。


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■マキサカルシトール製法特許の均等侵害が認められた事例


<判決紹介>
平成25年(ワ)第4040号 特許権侵害行為差止請求事件


コメント
新薬vsジェネリックの侵害訴訟。 製法特許ってだけでもハードル高めなのに、さらに均等侵害が認められたっていうレアな事例です。 クレームの出発物質はシス体で、被告製法はトランス体でしたが、均等(均等の5要件を満たす)と判断されました。 あと、進歩性や記載要件も争点になっていますが、被告の主張は認められませんでした。 ☆☆☆☆

・中外製薬のニュースリリース
オキサロール®軟膏に関する特許権侵害訴訟における第一審勝訴のお知らせ


抜粋
・平成25()4040号 特許権侵害行為差止請求事件
・平成261224日判決言渡、東京地方裁判所民事第29
・原告: 中外製薬株式会社
・被告: DKSHジャパン株式会社、岩城製薬株式会社、高田製薬株式会社、株式会社ポーラファルマ
・特許: 特許3310301
・訂正請求項13:
A-1
 下記構造を有する化合物の製造方法であって:
20150122_1.jpg
A-2
’ (式中,n1であり;
A-3
’ R1およびR2はメチルであり;
A-4
’ WおよびXは各々独立に水素またはメチルであり;
A-5
’ YOであり;
A-6
’ そしてZは,式:
20150122_2.jpg
のステロイド環構造,または式:
20150122_3.jpg
のビタミンD構造であり,Zの構造の各々は,1以上の保護または未保護の置換基および/または1以上の保護基を所望により有していてもよく,Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)
B-1
 (a)下記構造:
20150122_4.jpg
(式中,WXYおよびZは上記定義の通りである)
を有する化合物を
B-2
 塩基の存在下で下記構造:
20150122_5.jpg
(式中,nR1およびR2は上記定義の通りであり,そしてEは脱離基である)
を有する化合物と反応させて,
B-3
 下記構造:
20150122_6.jpg
を有するエポキシド化合物を製造すること;
C
 (b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;および
D
 (c)かくして製造された化合物を回収すること;
E
 を含む方法。


・概要
4 当裁判所の判断
1
争点1(均等の第1要件)について
(1)  被告方法が訂正発明の構成要件A’,B-2Dを充足すること,また,被告方法における出発物質A及び中間体Cが,シス体のビタミンD構造の化合物ではなく,その幾何異性体であるトランス体のビタミンD構造の化合物であるという点で,被告方法が訂正発明の構成要件B-1B-3Cを文言上充足しないことは,いずれも争いがない。
特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。 )と異なる部分が存する場合であっても,①同部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件),②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって(第2要件),③上記のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件),④対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件),かつ,⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(第5要件)は,対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属する(最高裁平成10224日第三小法廷判決・民集521113[ボールスプライン事件]参照)。
・・・。

そして,訂正明細書(甲15)には,訂正発明の解決すべき課題,訂正発明の目的,訂正発明の効果につき明確な記載はなく,「下記構造……を有する化合物の製造方法は新規であり……多様な生理学的活性を有することができるビタミンD誘導体の合成に有用である。」(訂正明細書25頁)と記載されているにすぎないが,訂正明細書の「発明の背景」の記載(訂正明細書1516頁)や実施例の記載(訂正明細書4957頁)を総合すると,訂正発明は,従来技術に比して,マキサカルシトールを含む訂正発明の目的物質を製造する工程を短縮できるという効果を奏するものと認められる(なお,・・・)。

ここで,訂正発明が工程を短縮できるという効果を奏するために採用した課題解決手段を基礎付ける重要な部分(訂正発明の本質的部分)は,ビタミンD構造又はステロイド環構造を有する目的物質を得るために,かかる構造を有する出発物質に対して,構成要件B-2の試薬(本件試薬を含む。)を塩基の存在下で反応させてエポキシド化合物を製造し(第1段階の反応),同エポキシド化合物を還元剤で処理する(エポキシ環を開環する)(第2段階の反応)という2段階の反応を利用することにより,所望の側鎖(マキサカルシトールの側鎖)を導入するところにあると認めるのが相当である。

(3) 
被告らは,出発物質がビタミンD構造の場合,シス体を用いることと構成要件B-2の試薬(本件試薬を含む。)を用いることの組合せが訂正発明の特徴であり,出発物質がシス体であることも,訂正発明の本質的部分である旨主張する。
そこで,シス体とトランス体の意義についてみると,以下のとおりである。
ビタミンD類の基本的な骨格として,側鎖を除いた,
20150122_7.jpg
という構造を共に有している。
この基本骨格には上部の二環から繋がる3つの二重結合があり,これを通常「トリエン」と呼ぶ。この「トリエン」は,二重結合部分では結合を軸として回転することができない。そのため,ビタミンD類には,このトリエン構造に由来する幾何異性体が下図に示すように2つ存在する。
20150122_8_1.jpg
この左側のトリエンの並び方のものを「シス体」(5Z)といい,右側の並び方のものを「トランス体」(5E)という。

ビタミンD構造の出発物質がシス体であっても,トランス体であっても,第1段階の反応で,出発物質の22位のOH基に塩基の存在下で本件試薬と反応させてエポキシド化合物を合成する下図のような反応
20150122_9.jpg
に変わりはなく,第2段階の反応で,エポキシ環を開環してマキサカルシトールの側鎖を導入する下図のような反応
20150122_10.jpg
にも変わりはない。

被告方法は,ビタミンD構造の出発物質に本件試薬を使用し,第1段階の反応と第2段階の反応という2段階の反応を利用している点において,訂正発明と課題解決手段の重要部分を共通にするものであり,出発物質及び中間体がシス体であるかトランス体であるかは,課題解決手段において重要な意味を持つものではない。
(4) 
以上によれば,目的物質がビタミンD構造の場合において,出発物質及び中間体がシス体であるかトランス体であるかは,訂正発明の本質的部分でないというべきである。
したがって,被告方法は,均等の第1要件を充足する。

2
争点2(均等の第2要件)について
・・・。
(3) 
被告らは,出発物質がトランス体である被告方法では,トランス体の物質Dをシス体に転換する工程 III が不可欠であり,その分だけ,シス体から出発する訂正発明の場合より工程数が多く,また,その結果,収率が低下することが不可避であるので,被告方法は,製造工程の短縮という訂正発明の効果を奏しない,と主張する。
しかし,被告方法の工程 III においてトランス体をシス体に転換する工程を加味しても,最終的な工程数は従来方法よりも改善されていると認められるから,被告方法が訂正発明と同一の作用効果を奏しないとはいえない。
・・・。
(4) 
以上によれば,被告方法は,訂正発明と同一の作用効果を奏する。
したがって,被告方法は,均等の第2要件を充足する。

争点3(均等の第3要件)について
(1)  所望のビタミンD誘導体を製造するに際し,トランス体の化合物を出発物質として,適宜側鎖を導入し,シス体のビタミンD誘導体を得る方法は,本件優先日当時,既に当業者の知るところであった(甲14,乙12)。 そうすると,訂正発明を知る当業者は,被告方法実施時点において,訂正発明におけるビタミンD構造の出発物質をシス体からトランス体に置き換え,最終的にトランス体の物質Dをシス体に転換するという被告方法を容易に想到することができたものと認められる。
・・・。
したがって,被告方法は,均等の第3要件を充足する。

4
争点4(均等の第4要件)について
・・・。
(6) 
以上によれば,被告方法は,被告ら主張の公知技術から容易に推考できたものとはいえない。
したがって,被告方法は,均等の第4要件を充足する。

5
争点5(均等の第5要件)について
(1)  被告らは,訂正発明のうち,出発物質がビタミンD構造の場合は,出発物質がシス体に意識的に限定されたものとみるべきである旨主張する。
(2) 
訂正明細書(甲15)の特許請求の範囲の請求項13において,構成要件AのビタミンD構造を図示した箇所や,他の請求項においてビタミンD構造を図示した箇所には,シス体のビタミンD構造が図示されている(訂正明細書112頁)。
また,訂正明細書の発明の詳細な説明には,ビタミンD構造,訂正発明の出発物質,中間体又は目的物質を説明した箇所で,シス体のビタミンD構造が図示されている(訂正明細書171921222427323438434548頁)。
しかし,訂正明細書には,「シス体」,「トランス体」,「5E」,「5Z」といった,シス体とトランス体の区別を明示する用語は使用されておらず,トランス体を用いる先行技術との相違によって,本件特許が登録されるに至ったような事情も見当たらない。
そうすると,訂正発明において,出発物質及び中間体がビタミンD構造の場合に,シス体に意識的に限定したとか,トランス体を意識的に除外したとまでは認められない。
・・・。

(3) 
被告らは,明細書に他の構成の候補が開示され,出願人においてその構成を記載することが容易にできたにもかかわらず,あえて特許請求の範囲に特定の構成のみを記載した場合には,当該他の構成に均等論を適用することは,均等論の第5要件を欠くこととなり,許されないと解するべきであるところ(知財高裁平成24926日判決・判時2172106[医療用可視画像の生成方法事件]),①・・・,②目的物質であるマキサカルシトールは,シス体として医薬品の製造承認を受け,構造式においてもシス体であることが明記されている(乙5),③訂正発明の中間体のエポキシアルキシ部分の水素原子は立体異性の配置をとるところ,構成要件B-3はそれを表示するために,化学結合を波線で「 H」と記載し,Hの付け根の立体構造がR体とS体の立体異性体の双方を含むことを明示している,④訂正明細書には,SO2により保護されたビタミンD構造の例として左右2つの図が図示されており(訂正明細書28頁),これは単結合で回転した同一の化合物であるが,にもかかわらず右の図を記載したのは,SO2を脱離した後に生成するトランス体を意識したものである,等の点を指摘して,本件特許の出願人であるコロンビア大学及び原告(以下「出願人ら」という。)において,出発物質をシス体に意識的に限定したものである旨主張する。
・・・。

次に,上記②の点についてみると,目的物質がシス体であるからといって,出発物質もシス体でなければならないわけではなく,出願人らが出発物質を意識的に限定した根拠となるものではない。トランス体の出発物質からシス体の目的物質を得る方法は公知であったが(乙12,乙32,乙42),訂正明細書にそのような他の構成の候補が開示されていたわけではないから,出願人らにおいて出発物質にトランス体を記載しなかったからといって,出発物質をシス体に意識的に限定したとまではいえない。
対象製品等に係る構成が,特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたというには,出願人又は特許権者が,出願手続等において,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に含まれないことを自認し,あるいは補正や訂正により当該構成を特許請求の範囲から除外するなど,対象製品等に係る構成を明確に認識し,これを特許請求の範囲から除外したと外形的に評価し得る行動がとられていることを要すると解すべきであり,特許出願当時の公知技術等に照らし,対象製品等に係る構成を容易に想到し得たにもかかわらず,そのような構成を特許請求の範囲に含めなかったというだけでは,対象製品等に係る構成を特許請求の範囲から意識的に除外したということはできないというべきである(知財高裁平成17年 第10047号同18925日判決[椅子式エアーマッサージ機事件]参照)。

上記③の点についてみると,R-S体の立体異性(鏡像異性)とシス体-トランス体の立体異性(幾何異性)とは性質が異なるものであるから,訂正明細書においてR体とS体の区別を前提とする記載があるからといって,出発物質をシス体に意識的に限定した根拠となるものではない。
上記④の点についてみると,被告らの指摘する図がトランス体を意識した記載であると認めるに足りる証拠はなく,SO2の付加により保護されたビタミンD構造について2種類の図(トランス体とシス体ではなく,同一の構造を回転させた図)を記載したからといって,出発物質をシス体に意識的に限定した根拠となるものではない。
(4) 
以上によれば,本件において,出発物質をトランス体とする被告方法が本件特許の出願手続等において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情はない。
したがって,被告方法は,均等の第5要件を充足する。


■直接的に明記されてなくても医薬用途発明が開示されていると判断された事例


<判決紹介>
平成26年(行ケ)第10024号 審決取消請求事件


コメント1
医薬用途発明の引例適格と、引例の組合わせの動機付けが争点になった事例。
前回は動機付け無しと判断された事例を紹介しましたが、今回はありと判断された事例です。 拒絶審決維持。 ☆☆


■抜粋
・平成26(行ケ)10024号 審決取消請求事件
・平成261224日判決言渡、知的財産高等裁判所第4
原告: ユーローセルティーク エス. エイ.
被告: 特許庁長官
本願: 特願2006-501821
請求項1:
単純疱疹感染又は帯状疱疹感染によって引き起こされる皮膚障害,水疱及び痒みの治療用医薬製剤であって,
該製剤が,薬学的に許容されるリポソームと併せて薬学的に有効な量のヨウ素またはヨウ素を元素の形で含有する少なくとも一つのヨウ素複合体を含有する,前記医薬製剤。
本願と引例1の一致点:
「単純疱疹感染によって引き起こされる症状の治療用医薬製剤であって,該製剤が薬学的に有効な量のヨウ素を含有するヨウ素複合体を含有する医薬製剤」である点。
本願と引例1の相違点:
本願発明では製剤がヨウ素複合体と併せて薬学的に許容されるリポソームの含有されるものであるのに対し,引用発明では製剤がリポソームの含有されない10%水性溶液またはゲルである点(相違点1),及び,本願発明では治療対象の症状が皮膚障害,水疱及び痒みとされるのに対し,引用発明ではそれらの症状のうち皮膚障害が示されていない点(相違点2)。


コメント2
(1)医薬用途発明の引例適格について
引例1には「水疱及び痒み」の治療が直接的に明記されていなかったが、引例1には、

「①外性器HSV感染症の患者に対するポビドンヨードの具体的な適用方法」
「②その適用効果の調査が48時間間隔で行われ,訪問調査のたびに「痒み,苦痛,排尿困難」の重症度を0から3+の尺度で段階づけて調査したこと」
「③試験を中止した1人を除く,対象患者9人全員について,訪問調査のたびに全ての症候の段階的な軽減が見られ,「無症候」となり,外性器HSV感染症の治癒が完了し,また,対象患者2人に見られた子宮頸部の壊死及び潰瘍障害が劇的に改善したこと」

が記載されていたことなどから、裁判所は、

「・・・。これらの記載によれば,本願の優先権主張日当時,有痛性の「小水疱」あるいは「水疱」は,HSV感染によって引き起こされる典型的な症状であり,また,その前駆症状として痒みを伴うことがあることは,技術常識であったことが認められる。
上記技術常識に鑑みると,引用例1に接した当業者は,引用例1の上記記載(前記ア②及び③)から,HSV感染によって引き起こされる典型的な症状である有痛性の「小水疱」あるいは「水疱」及び「痒み」についても,対象患者にポビドンヨードを有効成分とする製剤を適用したことにより,「無症候」となり,外性器HSV感染症の治癒が完了したものと理解するものと認められる。
そうすると,引用例1には,「ヘルペスウイルスの陰部疱疹感染によって引き起こされる,水疱及び痒みの治療用医薬製剤」が開示されているものと認められる。」

として、医薬用途発明が開示されていると判断した。

また原告は、引例1

「これらの10人の患者は,外性器のHSV感染症に対するポビドンヨードの効果を評価するための予備試験群である。…このような小さい標本から有効な結論を引き出すことはまったくできない。」

との記載から、医薬用途発明が開示されていないと主張したが、その箇所に続き、

「これらの知見は,有望であり,ウイルス培養対照を用いたより大きい集団でのさらなる試験を明らかに正当化する。公知の副作用または理論的な副作用がないこと,この製剤の広範な利用可能性,自宅での自己治療の容易さ,および潜在的な二次皮膚病原体に対するポビドンヨードの同時有効性はすべて,その使用に対する追加の利点であり,臨床試験に広げれば,この療法の有効性が確認されるはずである。」

との記載があることなどから、裁判所は、

「予備試験の結果を臨床試験の結果と同等の評価をすることができないというにとどまり,予備試験に現れたポビドンヨード10%溶液及びポビドンヨードのゲルの適用による外性器HSV感染症の症状に対する治療効果を何ら否定するものではないというべきである。

として、医薬用途発明が開示されていると判断した。


(2)引例1、2の組合わせの動機付けについて
引例1にはリポソーム含有の記載が無く、引例2にはその記載がある。 原告は、引例12の目的ないし解決課題が異なるから、組み合わせる動機付けがないと主張したが、

「引用例1の目的ないし解決課題は,ポビドンヨードの溶液ないしゲルを用いたHSV感染症の治療であって,当該症状の治癒の過程で新たに生じ得る「望ましくない組織(瘢痕組織)」の形成やその回避を目的ないし解決課題とするものではないのに対し,引用例2の目的ないし解決課題は,「望ましくない組織(瘢痕組織)の形成の回避」であり,引用例1のと引用例2では,目的ないし解決課題が異なるから,引用発明に引用例2に記載された発明を組み合わせる動機付けは存在しない」

裁判所は、

「・・・。これによれば,引用例2から,抗感染剤および抗炎症剤(特にポビドンヨードなどの防腐剤)用の担体としてリポソームを使用することにより,その有効成分の遅延放出が可能になり,かつ細胞表面との相互作用により所望の作用位置において長期的かつ局所的な活性が提供されること,リポソームを担体として使用した「リポソームPVPヨード」は,水性PVPヨードと比較して,長期細胞毒性実験における許容度が高いことを理解できる。 一方で,引用例1には,引用例1の予備試験では,対象患者に「就寝時」に,ゲルを膣に挿入器具で挿入するとともに,外部病変部に綿棒3本を使用するように指示され,「毎朝」,ポビドンヨード溶液で灌水するとともに,外部病変部に綿棒を再び使用するように指示されていること(前記1(1)ウ),治癒の完了までに,再発の場合には28日間を要し,初感染の場合には714日間を要したことが記載されていること(同エ)に照らすと,引用発明の医薬製剤においても,有効成分であるポビドンヨードの遅延放出が可能になり,かつ細胞表面との相互作用により所望の作用位置において長期的かつ局所的な活性が提供されることが望ましいことは,当業者にとって自明であるといえる。

と判断し、さらに、

「そうすると,引用例1及び引用例2に接した当業者においては,引用発明である医薬製剤に含有される薬理学的に有効な量のヨウ素を含有するヨウ素複合体について,有効成分の長期的かつ局所的な活性を得るために,引用例2に記載されたリポソーム粒状担体と組み合わせて含有する製剤とすることの動機付けがあるものと認められるから,相違点1に係る本願発明の構成を容易に想到することができたものと認められる。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
原告は,この点に関し,上記のとおり,引用例1と引用例2では,目的ないし解決課題が異なることを挙げて,引用発明に引用例2を組み合わせる動機付けがない旨主張する。
しかしながら,原告が主張するように引用例1の目的がポビドンヨードの溶液ないしゲルを用いたHSV感染症の治療にあり,引用例2の目的が「望ましくない組織(瘢痕組織)の形成の回避」にあり,両者が直接目的とするところが異なるとしても,そのことは引用発明に引用例2に記載されたリポソーム粒状担体の構成を組み合わせる動機付けを否定する根拠にはならないというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。」

として動機付けがあると判断した。


■Phase 2の投与時間を延長することに動機付けがないと判断された事例


<判決紹介>
平成26年(行ケ)第10045号 審決取消請求事件


コメント
引例1Phase 2)の投与時間を延長することに動機付けがないと判断された事例。 引例は強め。

本願は、ゾレドロン酸4mgの静脈投与時間が15分。
引例1は、ゾレドロン酸4mgの静脈投与時間が5分。
引例2ゾレドロン酸0.02/0.04mgの静脈投与時間が20分。
引例3には、ビスホスホネートはゆっくり点滴することで有害事象が回避されることが記載されている。

裁判所は、
  (1)
引例1Phase 2、引例2Phase 1であること、
  (2)
引例12を考慮すれば、ゾレドロン酸
4mg5分は安全性が確保できるものであると理解できること、
  (3)
引例3の記載は参照文献269を引用していることから、参照文献269の第一世代ビスホスホネートに関する記載であることは明らかであり、第三世代ビスホスホネートであるゾレドロン酸に直ちに当てはまるものではないこと、
などを考慮した上で、引例1の投与時間を延長することには動機付けがないとして、進歩性なしの拒絶審決を取り消した。 ☆☆☆


抜粋
・平成26(行ケ)10045号 審決取消請求事件
平成261224日判決言渡、知的財産高等裁判所第4
原告: ノバルティスアーゲー
被告: 特許庁長官
出願: 特願2001-585739
請求項1:
2-(
イミダゾル-1-イル)-1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(ゾレドロン酸)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む処置剤であって,ビスホスホネート処置を必要とする患者に4mgのゾレドロン酸を15分間かけて静脈内投与することを特徴とする処置剤。


・概要
2 事案の概要
本件審決の理由の要旨
本願発明と引用発明との対比
本件審決が認定した本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 一致点
  2-(
イミダゾル-1-イル)-1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(ゾレドロン酸)又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む処置剤であって,ビスホスホネート処置を必要とする患者に4mgのゾレドロン酸を分単位の一定時間をかけて静脈内投与することを特徴とする処置剤。
イ 相違点
 
分単位の一定時間が,引用発明では「5分間」であるのに対し,本願発明では「15分間」である点。

4 当裁判所の判断
・・・。
(1)
臨床試験について
  前記2(1)及び(2)によれば,引用例2は,腫瘍誘発性高カルシウム血症の患者及び溶骨性骨転移患者に対するゾレドロン酸の第Ⅰ相臨床試験の結果を報告する文献であり,引用例1は,これに引き続いて行われた,多発性骨髄腫の患者及び乳癌患者に対するゾレドロン酸の第Ⅱ相臨床試験の結果を報告する文献である。そして,証拠(甲29)によれば,これに引き続いて,乳癌又は多発性骨髄腫の溶骨性病巣を有する患者の骨格転移の治療におけるゾレドロン酸の第Ⅲ相臨床試験が行われ,その結果が,本願の出願後に発表されていることが認められる。
  平成4629日付けの各都道府県衛生主管部局長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知(薬新薬第43号)の「新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」(甲22)によれば,次のことが認められる。 医療用医薬品である新医薬品の承認申請の目的で実施される臨床試験は,通常,第Ⅰ相,第Ⅱ相及び第Ⅲ相と順に進めて行くものである。 第Ⅰ相試験は,治験薬を初めてヒトに適用する試験で,原則として少数の健康男性志願者において,治験薬について臨床安全用量の範囲ないし最大安全量を推定することを目的とし,併せて吸収・排泄等の薬物動態学的検討を行い,第Ⅱ相試験に進み得るか否かの判断資料を得るための試験である。
第Ⅱ相試験は,適切な疾病状態にある限られた数の患者において,治験薬の有効性と安全性とを検討し,適応疾患や,用法・用量の妥当性など,第Ⅲ相試験に進むための情報を収集することを目的とする試験である。 第Ⅲ相試験は,比較臨床試験及び一般臨床試験により,更に多くの臨床試験成績を収集し,対象とする適応症に対する治験薬の有効性及び安全性を精密かつ客観的に明らかにし,治験薬の適応症に対する臨床上の有用性の評価と位置付けを行うことを目的とする試験である。 ただし,第Ⅰ相試験は,例えば一部の抗悪性腫瘍薬などのように,治験薬が健康人に対して明らかに毒性を発現する可能性がある場合や,薬理学的性質のために健康人に対しては使用禁忌である場合など,医薬の特性に合わせて,健康志願者ではなく,患者を対象として行われることもある(甲22)。本件のゾレドロン酸についても、前記2(2)のとおり,腫瘍誘発性高カルシウム血症の患者及び溶骨性骨転移患者を対象として,第Ⅰ相試験が行われている。
以上のような,臨床試験の段階的性格や第Ⅰ相試験,第Ⅱ相試験,第Ⅲ相試験の位置付けに鑑みると,第Ⅰ相試験,第Ⅱ相試験において,当該用法用量で安全性が確認された場合でも,次の第Ⅲ相試験において,更に多くの臨床試験成績を収集し,対象とする適応症に対する治験薬の有効性及び安全性を精密かつ客観的に明らかにし,治験薬の適応症に対する臨床上の有用性の評価と位置付けを行うことが予定されているから,その結果によっては,当該用法用量が安全とはいえなくなり,より安全な用法容量に変更する可能性が存在することは否定できないというべきである。
そして,医薬品の副作用の中でも腎毒性は代表的なものであり(乙3),注射形態のビスホスホネート製剤には腎機能悪化のリスクが知られており(乙4),本件においても,ゾレドロン酸の静脈投与について,第Ⅰ相試験(引用例2)において腎臓に対する安全性を確認した上で,第Ⅱ相試験(引用例1)を経て,さらには次の段階の臨床試験に進んでいるのであるから,腎臓に対する安全性を考慮して,用法用量を変更する可能性があることは,当業者として当然理解していたことと考えられる。

(2)
引用例1及び引用例2の記載について
前記2(1)及び(2)のとおり,ゾレドロン酸は,強力な破骨細胞の機能抑制作用を有する第三世代のビスホスホネートであって,引用例2記載の第Ⅰ相臨床試験において,それまで臨床試験された他のビスホスホネートよりも即効性があり持続性の血清カルシウム低下効果を示し,正常カルシウム血漿の溶骨性骨転移患者合計58名に対する0.1mg0.2mg0.4mg0.8mg1.5mg2mg4mg又は8mg5分間静脈点滴のいずれにおいても腎毒性の兆候は見られず,また,患者の30%に見られた唯一の副作用の体温上昇もゾレドロン酸との関連は定かではなく,短時間静脈点滴での安全性が示唆された。
それに続く引用例1記載の第Ⅱ相臨床試験でも,乳癌又は多発性骨髄腫患者合計280名に対する0.4mg2.0mg又は4.0mg5分間点滴のいずれにおいても,パミドロン酸90mg2時間点滴と同程度の安全性を示し,4.0mgゾレドロン酸の5分間点滴は,90mgパミドロン酸と同程度の溶骨性骨合併症の予防効果を奏した。
以上の引用例1及び2に開示されたゾレドロン酸の第Ⅰ相及び第Ⅱ相臨床試験の結果によれば,ゾレドロン酸は,4mgという低用量で従来用いられていたパミドロン酸90mgに匹敵する薬効を奏し,5分間の短時間の静脈点滴で安全性が確保できるものであると理解できる。そうすると,このような臨床試験の結果からは,前記(1)記載の臨床試験の段階的正確を考慮し,第Ⅲ相試験で,当該用法用量による安全性について違った結果が生じて用法用量をより安全性の高いものに変更する可能性があることを考慮しても,第Ⅰ相及び第Ⅱ相臨床試験の段階では,安全性に疑問を呈するような結果は全く出ていないのであるから,患者の利便性や負担軽減の観点からも,引用例1及び2の記載からは,4mgのゾレドロン酸を5分間かけて点滴するとの引用発明の投与時間を更に延長する動機付けを見出すことは困難であるというべきである。

(3)
引用例3の記載について
ア 前記2(3)のとおり,引用例3には,参照文献269(甲24)を引用した上で,ビスホスホネートは血中で固相を形成し腎臓で保持されるために,短時間での点滴は腎不全を招くので,ビスホスホネートの全ての大量の静脈内投与には注意を払わなければいけないこと,及び多量の液体でゆっくりと点滴することにより有害な事象が回避されることが記載されている。 そして,参照文献269(甲24)には,前記2(4)のとおり,エオドロネート(EHDP)の投与及びクロドロネート(C2MDP)の投与により腎障害が現れたため,1日投与量が1gを越えない量でゆっくり投与し,腎機能をモニターすべきことが記載されているから,引用例3の上記記載は,エチドロネート及びクロドロネートを念頭に置いたものであることは明らかである。
・・・。

  前記イの乙57の記載によれば,エチドロネート及びクロドロネートは,初期の臨床試験に用いられていた第一世代のビスホスホネートであり,至適投与方法が確立されていなかった初期の頃に,エチドロネートの短時間投与で腎障害による死亡例が報告されたことが発端となって,その後開発された種々のビスホスホネートに関しても緩徐な投与が推奨されることとなったものであるが,エチドロネートの100倍ないし1000倍の骨吸収抑制作用の薬効を有するパミドロン酸,インカドロン酸及びアレンドロン酸といった第二世代,第三世代のビスホスホネートは使用量が少量で足りることもあり,患者の利便性との兼ね合いで急速投与が検討され,パミドロン酸は11.5mg/分,インカドロン酸及びアレンドロン酸は10mg/30分の急速投与で安全性が確認されただけでなく,これら3つの製剤については逆に腎機能障害の改善効果の報告もあることが認められる。
このような本願優先日当時の第二世代及び第三世代のビスホスホネートの開発の経緯及び急速投与の実績からすれば,当業者としても,引用例3に記載された第一世代のビスホスホネートの急速投与による腎臓への有害事象に関する知見は,第三世代のビスホスホネートであるゾレドロン酸に直ちに当てはまるものではないと理解されるものと認められる。 そうすると,前記2(1)及び(2)のとおり,ゾレドロン酸はパミドロン酸よりも100ないし850倍も活性が高いビスホスホネートであって,インカドロン酸及びアレンドロン酸よりもさらに骨吸収抑制作用が高く少量投与で足りることも考慮すれば,患者の利便性や負担軽減の観点からも,引用例1及び2において安全性が確認されたゾレドロン酸4mg5分間投与という投与時間を,更に延長する動機付けがあると認めることは困難である。

(4) 小括
以上のとおり,ゾレドロン酸の急速投与については,腎臓に対する安全性が課題の一つとされ,引用例2の第Ⅰ相臨床試験でも,その点の確認が行われ,第Ⅱ相試験(引用例1)を経た上で,さらにはそれに引き続く第Ⅲ相臨床試験において,腎臓に対する安全性の関係で異なる結果が生じることも可能性としては存在したが,引用例1及び2の第Ⅰ相臨床試験,第Ⅱ相臨床試験では,4mg5分間投与で腎臓に対する安全性に疑問を呈する結果は確認されていないこと,引用例3の記載も本願優先日当時,第三世代のビスホスホネートであるゾレドロン酸に直ちに当てはまるものではないと理解されることからすると,引用例1及び2において安全性が一応確認されたゾレドロン酸4mgの5分間投与という投与時間を更に延長し,これを15分間とする動機付けがあると認めることはできない。
したがって,本願発明は,引用発明に基づき,引用例2及び3を適用して容易に発明することができたとは認められないから,原告主張の取消事由1は理由がある。

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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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