■2015-11-

■後出し文献で示された相乗効果を参酌してもよいかが判断された事例


<判決紹介>
・平成24()36311号 特許権侵害差止請求事件
・平成271030日判決言渡、東京地方裁判所民事第40
・原告: メリアル エス アー エス
・被告: フジタ製薬株式会社


コメント
特許3702965(優先日1996/3/29)の特許権者である原告が、被告の「マイフリーガードα犬用」及び「マイフリーガードα猫用」が特許権侵害に当たるとして、製造等の差し止め及び廃棄を求めた訴訟。

一般的に、特許発明の進歩性の判断で効果を評価するにあたり、
後出しデータを参酌しても良いかという論点があります。
この点について検討するときに参考になる事例です。


原告は、本件特許発明の有する相乗効果を確認するものとして甲3及び25を提出しました。

被告は、以下のように主張しました。

(2) また,本件各特許発明にいう相乗効果は,原告が新たに証拠として提出した実験でのみ説明されているのであって,本件明細書の発明の詳細な説明には,原告が主張するような相乗効果は記載されていないから,新たに提出した証拠は参酌することができない
 さらには,相乗効果を確認する追加データとして原告により提出された,アラン・マルチオンド作成の1999年(平成11年)930日付け「米国特許出願第08/86369237CFR 1.132の宣誓供述書」(甲3。以下「甲3文献」という。)及びヤング・ベテリナリー・リサーチサービス作成の「イヌについた,ネコノミ(Ctenocephalides felis, Bouche)の産卵された卵,羽化中及び既に寄生している成虫に対する,フィプロニルと(S)-メトプレンの併用滴下製剤の効力」と題する文献(甲25。以下「甲25文献」という。)の試験には信頼性がない。まず甲25文献の表3は大きな誤差を含む結果であるし,表3と表4のメトプレン試験区の結果には不自然な点があるということができる。」

裁判所は、以下のように判断しました。

「イ 相乗効果の認定についてなお,本件特許の出願後に提示された,甲3文献,甲25文献に記載される効果を,進歩性の判断にあたり,参酌できるかどうかについて,以下検討する。
特許法292項の要件充足性を判断するに当たり,明細書に,「発明の効果」について何らの記載がないにもかかわらず,出願人において,出願後に実験結果等を提出して主張又は立証することは,先願主義を採用し,発明の開示の代償として特許権(独占権)を付与するという特許制度の趣旨に反することになるので,特段の事情のない限りは,許されないというべきである。また,出願に係る発明の効果は,現行特許法上,明細書の記載要件とはされていないものの,出願に係る発明が従来技術と比較して,進歩性を有するか否かを判断する上で,重要な考慮要素とされるのが通例である。出願に係る発明が進歩性を有するか否かは,解決課題及び解決手段が提示されているかという観点から,出願に係る発明が,公知技術を基礎として,容易に到達することができない技術内容を含んだ発明であるか否かによって判断されるところ,上記の解決課題及び解決手段が提示されているか否かは,「発明の効果」がどのようなものであるかと不即不離の関係があるといえる。そのような点を考慮すると,明細書において明らかにしていなかった「発明の効果」について,進歩性の判断において,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは,出願人と第三者との公平を害する結果を招来するので,特段の事情のない限り許されないというべきである。他方,進歩性の判断において,「発明の効果」を出願の後に補充した実験結果等を考慮することが許されないのは,上記の特許制度の趣旨,出願人と第三者との公平等の要請に基づくものであるから,明細書に,「発明の効果」に関し,何らの記載がない場合はさておき,当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には,記載の範囲を超えない限り,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるというべきであり,許されるか否かは,前記公平の観点に立って判断すべきである。

 この観点からすると,甲3文献及び甲25文献の各実験結果は,いずれもフィプロニルとメトプレンの併用は,それぞれを単独で使用した場合と比して,薬剤投与をした2か月後に至っても,新たにノミが感染しそのノミが生む卵の孵化及び成虫化の抑制に対し,相乗効果を有することを示している(甲3文献の6項,同8項,表8ないし10。甲25文献の「3.結果」,表12,図12)。そして,本件明細書には,化合物(A)としてフィプロニル,化合物(B)としてメトプレンを(実施例4),及び,化合物(A)としてフィプロニル,化合物(B)としてピリプロキシフェンを(実施例1ないし3),それぞれ含む組成物を製造したことが実施例をもって具体的に開示されており,フィプロニルとピリプロキシフェンを動物の皮膚に局所塗布した場合については,2か月にわたりノミが検出されず,また,収集した卵に生存能力がなかったことが示されている(摘記事項ヌ)。ピリプロキシフェンとメトプレンはいずれも幼虫ホルモン類似化合物であり(摘記事項カ),本件明細書に好ましい化合物(B)の例として挙げられているものであって(摘記事項キ),同様の作用が期待できるから,フィプロニルとメトプレンを併用した場合についても,フィプロニルとピリプロキシフェンの併用と同様の効果が奏されることが窺える。そうすると,甲3文献及び甲25文献に示される,フィプロニルとメトプレンの併用による相乗効果については,本件明細書の記載から推論できるものであると認められるから,これらを参酌することは許容されると解すべきである

 一方,乙1公報についてみると,試験例をもって具体的に開示されているのは,フィプロニルと,1-26-ジフルオロベンゾイル)-3-[2-フルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]ウレアとの組み合わせについて,薬剤を環境に配置した場合のゴキブリ及びハエについての防除効果を試験したところ,同薬量でほぼ2倍の防除効果が奏されたとの結果であり(段落【0015】,【0017】),これは相加効果にすぎないものであって,本件各特許発明における,ノミ類及びダニ類から哺乳類を長期間保護するための相乗効果については何ら示されていないし,その示唆があるともいえない。そうすると,本件各特許発明は,公知文献の記載からは予測し得ない格別顕著な効果である相乗効果を奏するものと認められる。」


なお、東京地裁は構成要件充足、無効理由なしで侵害と判断しました。 ☆☆


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■ジェネンテックの「用法・用量」に関する延長登録出願の最高裁判決


<判決紹介>

「用法・用量」に関する延長登録出願の最高裁判決が出ました。特許庁の上告は棄却さました。☆

平成26(行ヒ)356号 審決取消請求事件、平成271117日 最高裁判所第三小法廷

原審:知財高裁大合議判決(平成25(行ケ)10195号 審決取消請求事件、平成26530日 知的財産高等裁判所特別部)

審査基準は改定されるようです。

特許権の存続期間の延長登録出願に関する審査基準及び審査の取扱いについて


■「知財管理」11月号に抗体特許の論文が掲載されました。


知財管理 201511月号に論文が掲載されました!

11
月号の目次はこちらです↓。15821592頁に載りました。

http://www.jipa.or.jp/kikansi/chizaikanri/mokuji/mokuji1511.html

論文タイトルは、

抗体医薬特許における,非配列限定型/配列限定型特許の出願・審査傾向の分析と考察

です。
ちょっとタイトル堅いですね。

抄録は、

http://goo.gl/x5SPlH

です。

抗体医薬特許の分野では、「アミノ酸配列の限定のない抗体医薬特許をとるためにはどうしたらよいのか。何に気をつけるべきなのか。」という大きな疑問があります。
本論文では、この疑問の答えを探る観点から過去の出願・審査を調査し、その結果について考察をしています。 もともと個人的な勉強のために調査、分析をざっくりしていたのですが、今回論文を書くに当たってまじめにやってみました。

この分野では多くの方々が気になっていることかと思いますので、結構インパクトはあるんじゃないかなぁと思います。

詳細についてはぜひ本誌をお読みいただければ幸いです。
(知財管理誌は書店に置いていませんので、会員でない方は国会図書館等でご覧ください。)

このような機会を与えてくださった関係者の皆さまありがとうございました。


■噂のノンアル特許、東京地裁はオールフリーまたはダブルゼロに基づき進歩性欠如の無効理由ありと判断


<判決紹介>
・平成27()1025号 特許権侵害差止請求事件
・平成271029日判決言渡、東京地方裁判所民事第46
・原告: サントリーホールディングス株式会社
・被告: アサヒビール株式会社



コメント
特許5382754の特許権者であるサントリーが、アサヒビールによる「ドライゼロ」の製造等が特許権侵害に当たるとして、製造等の差し止め及び廃棄を求めた訴訟。

クレーム1は下記の通りで、成分組成等に特徴があります。

【請求項1
エキス分の総量が0.5重量%以上2.0重量%以下であるノンアルコールのビールテイスト飲料であって,pH3.0以上4.5以下で あり,糖質の含量が0.5g/100ml以下である,前記飲料。

アサヒビールは被告製品(ドライゼロ)が本件発明の技術的範囲に属することを争っていません。本件の争点は、本件特許が無効にされるべきものとして特許権を行使することができないか否かにあります。

アサヒビールは(1)(8)の争点(無効理由)を主張しましたが、裁判所はそのうちの争点(4)及び(5)の進歩性のみを判断しました。
引用発明は以下の通り。

 争点(4)の引用発明: サントリー オールフリー(公然実施発明1
 争点(5)の引用発明: アサヒ ダブルゼロ(公然実施発明2

なお、本件特許は早期審査で特許になったものであり、審査段階では新規性・進歩性の拒絶理由は通知されていません。



▼争点(4)について
裁判所は、本件特許発明とオールフリーの一致点・相違点について、下記のように判断しました。

エキス分の総量につき,本件発明が0.5重量%以上2.0重量%以下であるのに対し,公然実施発明10.39重量%である点で相違し,その余の点で一致する。

原告は、

本件発明はエキス分の総量,pH及び糖質の含量の各数値範囲と飲み応え感及び適度な酸味付与という効果の関連性を見いだしたことを技術思想とするものであり,公然実施発明1はこのような技術思想を開示するものではないから,オールフリーの多数の分析項目の中からエキス分の総量,pH及び糖質の含量のみを抜き出して公然実施発明1を特定することは許されず,エキス分の総量,pH及び糖質の含量をひとまとまりの構成として相違点を認定すべきである。

との主張をしていましたが、裁判所は、

本件発明は,特許請求の範囲の記載上,エキス分の総量,pH及び糖質の含量につき数値範囲を限定しているが,各数値がそれぞれ当該範囲内にあれば足りるのであり,これらが相互に特定の相関関係を有することは規定されていない。また,本件明細書の発明の詳細な説明の欄をみても,例えば,エキス分の総量が0.5重量%であるときはpHをどの範囲とし,これが2.0重量%であるときはpHをどの範囲とするのが望ましいなどといった記載は見当たらず,要は,エキス分の総量,pH及び糖質の含量がそれぞれ数値範囲内にあれば足りるとされている。

など、いくつかの理由により、原告の主張は採用できないと判断しました。
そして相違点については、

()公然実施発明1は,本件特許の優先日当時,我が国におけるノンアルコールのビールテイスト飲料の中で販売金額が最も大きかったが,その一方で,消費者から,コク(飲み応え)がない,物足りない,味が薄いといった評価を受けていた。(乙103436
(
)ノンアルコールのビールテイスト飲料については,本件特許の優先日以前から,濃厚感,旨味感,モルト感,ボリューム感やコク感を欠くという問題点が指摘されており,これらを解消して飲み応えを向上させるため,穀物の摩砕物にプロテアーゼ処理を施して得られる風味付与剤,麦芽溶液を抽出して得られる香味改善剤又は香料組成物,植物性タンパク分解物や麦芽抽出物,麦芽エキス,清酒由来のエキスを用いる風味向上剤,茶葉の水又はエタノール抽出物といった添加物を用いる技術が周知となっていた。(乙141625~27
・・・公然実施発明1に接した当業者において飲み応えが乏しいとの問題があると認識することが明らかであり,これを改善するための手段として,エキス分の添加という方法を採用することは容易であったと認められる。そして,その添加によりエキス分の総量は当然に増加するところ,公然実施発明1の0.39重量%を0.5重量%以上とすることが困難であるとはうかがわれない。そうすると,相違点に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべきである。

として、容易に想到し得ると判断しました。
原告は、顕著な効果として、

本件発明の技術的意義は,pH調整による技術的意義としての高さと絶対量としての飲み応え感の高さとはトレードオフの関係にあるという新規な発見の中で,双方を両立させた範囲としてエキス分の総量を0.52.0重量%とした点にあり,低糖質(0.5g/100ml以下)であっても所定のpH範囲であればこの技術的意義を維持できることが特徴である。本件発明の効果は,このような技術的意義に裏打ちされたものであり,公然実施発明1からは全く予測できない顕著なものであった。

と主張していましたが、裁判所は、

エキス分の増加により飲み応えが向上することが周知であることは前記ア()()のとおりであるから,本件発明が公然実施発明1から予測し得る範囲を超えた顕著な効果を奏するということはできない。

として、顕著な効果はないと判断しました。
最終的に裁判所は、本件特許は公然実施発明1(オールフリー)に基づき進歩性欠如の無効理由があると判断しました。



ちなみに、被告から強烈な主張がされています。↓

本件明細書の発明品2(エキス分の総量は0.1重量%)と発明品3(同0.5重量%)を比較すると飲み応えに差異がなく(【表1】),かえって,エキス分の総量を0.5%以上とすると飲み応え及び酸味が劣ることが示されており(【表2】~【表5】),エキス分の総量を0.5重量%以上とすることに技術的意義はない。また,本件明細書には,本件発明のエキス分の総量である「0.5重量%以上2.0重量%以下」と比較して,より好ましい範囲のエキス分の総量として0.5重量%以下であることが記載されているところ(段落【0019】),本件発明は,公然実施発明1を回避するために,上記のエキス分の総量のより好ましい範囲(0.5重量%未満)を除外したものであるから,従来技術である公然実施発明1と比べて何らの技術的貢献をもたらすものではない。

本件特許明細書を見てみましたが、その通りでした。
これは特許を維持するのは難しいですね。

なお、エキス分の総量なんて製品(オールフリー)から分析できるものなのって思いましたが、
告によると、

ビールの分析方法については,ビール等の間接税課税物件等の試験方法を定めた「国税庁所定分析法」とビール酒造組合国際技術委員会が定めた「BCOJビール分析法」があるところ,いずれの分析方法においてもエキス分が分析項目として挙げられており,ビールに関してエキス分を測定することは当業者では当然の事項となっている。・・・現に,本件特許の優先日前に頒布された「BierederWelt(世界のビール)」と題する文献及び特開2011-229538号公報(乙29)には,アルコールの有無にかかわらず,エキス分が測定されることが開示されている。

とのことでできるみたいです。本件特許明細書にもBCOJビール分析法で測定したエキス値であることが明記されています。



▼争点(5)について
裁判所は、本件特許発明とダブルゼロの一致点・相違点について、下記のように判断しました。

糖質の含量につき,本件発明が0.5g/100ml以下であるのに対し,公然実施発明20.9g/100mlである点で相違し,その余の点で一致する。

というわけで、今度は糖質の量が異なります。
裁判所は、容易想到性に関して以下のように判断しました。

ア 証拠(乙10~12)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許の優先日当時,健康志向の高まりを受けて,ノンアルコールのビールテイスト飲料の分野では「糖質ゼロ」との表示のある商品が消費者から支持されていたこと,栄養表示基準(平成15年4月24日厚生労働省告示第176号)においては,糖質を100ml当たり0.5g未満とすれば糖質を含まない旨の表示をすることができることが認められる。

イ上記事実関係によれば,公然実施発明2に接した当業者においては,糖質の含量を100ml当たり0.5g未満に減少させることに強い動機付けがあったことが明らかであり,また,糖質の含量を減少させることは容易であるということができる。そうすると,相違点に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべきである。

原告の主張した顕著な効果に対しては、以下のように判断しました。

②について,公然実施発明2のエキス分の総量,pH及び糖質の含量は本件明細書中の発明品4とほぼ同じであるところ(【表1】),発明品4と本件発明の実施例である発明品3(同)を比べると,飲み応えの平均値をみても(発明品3は3.3,発明品4は4.0),pHの調整による飲み応えの変化をみても(発明品3は対照品3に対し1.0の改善,発明品4は対照品4に対し1.0の改善),発明品3の効果が顕著に優れているとは認められない。

最終的に裁判所は、本件特許は公然実施発明2(ダブルゼロ)に基づき進歩性欠如の無効理由があると判断しました。



▼結論
裁判所の結論は以下の通り。進歩性欠如の無効理由ありで、請求棄却。☆

以上の次第で,原告は被告に対して本件特許権を行使することができないから(特許法104条の31項),その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。



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プロフィール

徳重大輔


Author: 徳重大輔

バイオ、医薬、特許関連のブログです。
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SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書はバイオ医薬(特に抗体医薬)、調査は無効資料調査が特に得意です。

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