■2016-03-

■siRNA、miRNA関連特許の登録件数増加中


siRNAmiRNA関連特許の登録件数の推移をざっと調べてみました。

20160331_kakusan.png

siRNAmiRNA関連の日本と米国特許の登録件数(該当年に登録された件数)の推移です。
「登録:20002015年」×「タイトル・クレーム・要約」×「キーワード」で検索しました。


ざっくりと検索したので漏れがありますが、最近は増加傾向にあるようです。
この分野の研究成果が蓄積してきたことにより、(将来の製品化を見据えて)特許を取得する意義が高まってきているのか、それとも、単にペンディングになってた案件の審査が進み出しただけなのか・・・。
あとこの分野では、核酸医薬の開発に関するガイドラインの策定に向けた研究が進んでいるそうで、GL整備による開発促進が期待されています。



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■核酸医薬特許に関する審査ハンドブックまとめ


【Q
特許庁のウェブサイトに特許・実用新案審査ハンドブックというものがありました。
 結構な量ですが、核酸医薬の特許について解説している箇所はありますか?

【A】
あります。 審査ハンドブックは、審査業務の手続的事項や留意事項がまとめられたものです。 また、附属書に、審査基準の考え方を理解する上で有用な事例、裁判例、特定技術分野(核酸や抗体等)への適用例が記載されています。
核酸医薬の特許について解説している箇所を下記リンク先にまとめましたのでどうぞ。

・核酸医薬特許に関する審査ハンドブックまとめ


■マキサカルシトール製法特許侵害訴訟、知財高裁大合議も均等と判断


<判決紹介>
・平成27()10014号 特許権侵害行為差止請求控訴事件
・平成28325日判決言渡、知的財産高等裁判所特別部
・控訴人(被告)DKSHジャパン株式会社,株式会社ポーラファルマ,岩城製薬株式会社,高田製薬株式会社
・被控訴人(原告):中外製薬株式会社
・特許3310301


■コメント
新薬 vs ジェネリックの侵害訴訟。
マキサカルシトール製法特許の均等侵害事件の知財高裁大合議判決。

クレーム製法の出発物質はシス体で、被告製法はトランス体の場合に、均等といえるかが争点。原審では均等と判断されていました(下記リンク参照)。

20150122_8_1.jpg

2015/1/22 マキサカルシトール製法特許の均等侵害が認められた事例

で、今回ですが、大合議も均等であると判断しました。


以下、判決文から抜粋です。

「第4  当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人方法は,訂正発明と均等であり,また,訂正発明についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
訂正発明との均等の成否について
(1
均等の5要件及び立証責任について
特許権者は,業として特許発明の実施をする権利を専有し(特許法68条本文),特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定められ(同法701項),特許出願人は,特許請求の範囲には,特許を受けようとする発明を特定するために必要と認めるすべての事項を記載しなければならないのであるから(同法365項),特許請求の範囲の記載は,第三者に対し,特許の独占的,排他的な権利の範囲を公示する機能を有するものである。したがって,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲に記載された構成の文言解釈により確定されるのが原則である。

しかしながら,特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても,
①同部分が特許発明の本質的部分ではなく,
②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,
③上記のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,
④対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,
⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,同対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(以下,上記①ないし⑤の要件を,順次「第1要件」ないし「第5要件」という。)。

なぜなら,①特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり,相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって,特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば,社会一般の発明への意欲を減殺することとなり,発明の保護,奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるのであって,
②このような点を考慮すると,特許発明の実質的価値は第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び,第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当であり,
③他方,特許発明の特許出願時において公知であった技術及び当業者がこれから同出願時に容易に推考することができた技術については,そもそも何人も特許を受けることができなかったはずのものであるから,特許発明の技術的範囲に属するものということができず,
④また,特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側において一旦特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないからである(ボールスプライン事件最判)。」


(3均等の第1要件(非本質的部分)について
  本質的部分の認定について
特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にある。したがって,特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段(特許法364項,特許法施行規則24条の2参照)とその効果(目的及び構成とその効果。平成6年法律第116号による改正前の特許法364項参照)を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり,そして,①従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には,特許請求の範囲の記載の一部について,これを上位概念化したものとして認定され(後記ウ及びエのとおり,訂正発明はそのような例である。),②従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には,特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されると解される。
ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが,出願時(又は優先権主張日。以下本項(3)において同じ)の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には,明細書に記載されていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。そのような場合には,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載のみから認定される場合に比べ,より特許請求の範囲の記載に近接したものとなり,均等が認められる範囲がより狭いものとなると解される。
また,第1要件の判断,すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には,特許請求の範囲に記載された各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分けた上で,本質的部分に当たる構成要件については一切均等を認めないと解するのではなく,上記のとおり確定される特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,これを備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならない。
・・・。

  訂正発明の本質的部分
訂正発明の上記課題及び解決手段とその効果に照らすと,訂正発明の本質的部分(特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)は,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物を,末端に脱離基を有する構成要件B-2のエポキシ炭化水素化合物と反応させることにより,一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖を導入することができるということを見出し,このような一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造又はステロイド環構造という中間体を経由し,その後,この側鎖のエポキシ基を開環するという新たな経路により,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物にマキサカルシトールの側鎖を導入することを可能とした点にあると認められる。
一方,出発物質の20位アルコール化合物の炭素骨格(Z)がシス体又はトランス体のビタミンD構造のいずれであっても,出発物質を,末端に脱離基を有するエポキシ炭化水素化合物と反応させることにより,出発物質にエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入された中間体が合成され,その後,この側鎖のエポキシ基を開環することにより,マキサカルシトールの側鎖を導入することができるということに変わりはない。この点は,中間体の炭素骨格(Z)がシス体又はトランス体のビタミンD構造のいずれである場合であっても同様である。したがって,出発物質又は中間体の炭素骨格(Z)のビタミンD構造がシス体であることは,訂正発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分とはいえず,その本質的部分には含まれない。
・・・。

(
控訴人らは,化合物の製造方法の技術分野においては,全工程の有機的結合そのものが課題解決のための技術的思想であり,出発物質をシス体とする製造方法とトランス体とする製造方法とは当業者に別個のものとして理解されているのであって,製法の重要な構成要素である出発物質,中間体の違いや,シス体とトランス体との安定性,精製容易性や総工程数の違いを無視して,製法の一部のみを取り出して,本質的部分とするのは誤りである旨を主張する。
しかし,前記のとおり,特許発明の本質的部分は,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することにより認定されるべきであり,化合物の製造方法であるからといって,常に全工程の有機的結合のすべてが本質的部分となるものとはいえない。したがって,出発物質,中間体に,側鎖導入のための反応に影響を及ぼさないわずかな違いがあることをもって,直ちに本質的部分が異なるとはいえない。
また,シス体を出発物質及び中間体とするか,トランス体を出発物質及び中間体とするかどうかで,一般的には別個の製造方法として理解されており,また,両者には,安定性,精製容易性や総工程数の違いがあるとしても,訂正発明の本質的部分とは,前記エで認定したとおりの従来技術に開示されていなかった新規な製造方法により,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物にマキサカルシトールの側鎖を導入することを可能としたという点にあり,当該新規な側鎖の導入方法は,出発物質又は中間体がシス体であるかトランス体であるかによって異なるものではなく,シス体又はトランス体の安定性,精製容易性や工程数の違いも,訂正発明の本質的部分に関わる部分ではない。訂正発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外の作用効果の点で相違する部分があることは,訂正発明の本質的部分を共通に備えていることを否定する理由とはならない
したがって,控訴人らの主張は理由がない。」


(7均等の第5要件(特段の事情)について
  5要件の判断基準について
特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,第三者はこれを予期すべきものであるから,対象製品等が,特許発明とその本質的部分,目的及び作用効果で同一であり,かつ,特許発明から当業者が容易に想到することができるものである場合には,原則として,対象製品等は特許発明と均等であるといえる。しかし,特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側において一旦特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないから,このような特段の事情がある場合には,例外的に,均等が否定されることとなる(前記ボールスプライン事件最判参照)。

(
この点,特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできない。
なぜなら,①上記のとおり,特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載された構成以外の構成であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,その理は,出願時に容易に想到することのできる技術であっても何ら変わりがないところ,出願時に容易に想到することができたことのみを理由として,一律に均等の主張を許さないこととすれば,特許発明の実質的価値の及ぶ範囲を,上記と異なるものとすることとなる。また,②出願人は,その発明を明細書に記載してこれを一般に開示した上で,特許請求の範囲において,その排他的独占権の範囲を明示すべきものであることからすると,特許請求の範囲については,本来,特許法365項,同条61号のサポート要件及び同項2号の明確性要件等の要請を充たしながら,明細書に開示された発明の範囲内で,過不足なくこれを記載すべきである。しかし,先願主義の下においては,出願人は,限られた時間内に特許請求の範囲と明細書とを作成し,これを出願しなければならないことを考慮すれば,出願人に対して,限られた時間内に,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲とこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷であると解される場合がある。これに対し,特許出願に係る明細書による発明の開示を受けた第三者は,当該特許の有効期間中に,特許発明の本質的部分を備えながら,その一部が特許請求の範囲の文言解釈に含まれないものを,特許請求の範囲と明細書等の記載から容易に想到することができることが少なくはないという状況がある。均等の法理は,特許発明の非本質的部分の置き換えによって特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れるものとすると,社会一般の発明への意欲が減殺され,発明の保護,奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するのみならず,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるために認められるものであって,上記に述べた状況等に照らすと,出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外とすることは相当ではない。

(
もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。
なぜなら,上記のような場合には,特許権者の側において,特許請求の範囲を記載する際に,当該他の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したもの,すなわち,当該他の構成が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと理解することができ,そのような理解をする第三者の信頼は保護されるべきであるから,特許権者が後にこれに反して当該他の構成による対象製品等について均等の主張をすることは,禁反言の法理に照らして許されないからである。

  控訴人らの主張について
(
控訴人らは,化学分野の発明では,特許請求の範囲が客観的かつ明瞭な表現で規定されており,第三者にはその範囲以外に権利が拡張されることはないとの信頼が生じるから,当該信頼は保護されるべきであると主張する。しかし,前記のとおり,均等による権利は,特許請求の範囲の文言上規定された範囲以外であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することができる技術に及び,第三者はこれを予期すべきであり,禁反言の法理に照らし均等の主張が許されないのは,上記特段の事情がある場合に限られるのであって,化学分野の発明であることや,特許請求の範囲が文言上明確であることは,それ自体では「特段の事情」として均等の成立を否定する理由とはなり得ないから,控訴人らの主張は理由がない。

(
控訴人らは,前記第31(4)控訴人らの主張イ()ないし()のとおりの事情を主張し,訂正発明の出願人は,特許請求の範囲を記載するに際し,トランス体のビタミンD構造を対象としないことを明瞭かつ客観的に意識して出発物質を決定し,積極的にトランス体のビタミンD構造を除外するという意識的な選択をしたものであり,したがって,本件においては,ボールスプライン事件最判がいう「特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情」があり,また,同判決が均等論を認める根拠として示す「あらゆる侵害態様を予測して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難」という,特許権者を特に保護すべき事情は存在しないなどと主張する。
しかし,以下のとおり,訂正明細書中には,訂正発明の出発物質をトランス体のビタミンD構造とした発明を記載しているとみることができる記載はなく(訂正明細書中に,トランス体のビタミンD構造を出発物質とする発明の開示がされていないことは,争いがない。),その他,出願人が,本件特許の出願時に,トランス体のビタミンD構造を,訂正発明の出発物質として,シス体のビタミンD構造に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認めるに足りる証拠はないから,控訴人らの主張は理由がないというべきである。
a控訴人らは,二種類の幾何異性体の存在やトランス体のビタミンD構造を出発物質とする合成ルートは周知であったから,出願人が過誤でトランス体のビタミンD構造を出発物質とする合成ルートの存在に気が付かなかったということはないなどと主張する。しかし,訂正発明の出願人が,一般的にシス体の幾何異性体としてトランス体が存在することやトランス体のビタミンD構造を出発物質としてビタミンD誘導体の合成を行う方法があることを知っていたとしても,そのことだけをもって,出願人が,出願時に,訂正発明の出発物質に代替するものとしてトランス体のビタミンD構造を出発物質とすることを認識していたものと客観的,外形的にみて認められるということはできない。したがって,控訴人らの主張は理由がない。
・・・。

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  控訴人らは,訂正明細書の41欄には,出発物質として,シス体のビタミンD構造のほかに,トランス体のビタミンD構造を記載した二つの国際公開公報が記載されているのに,訂正明細書の37欄では,二種類存する基本骨格からシス体を「特に」限定し,特許請求の範囲でもシス体のみが記載されているのであるから,訂正明細書上トランス体のビタミンD構造は意識的に除外されていると主張する。
訂正明細書の41欄には,訂正発明における中間体に当たる化合物の製造の際に出発化合物として使用することができる公知化合物の例示として,「日本特許公開公報昭和61-267550号(19861127日発行)および国際特許公開公報WO90-09991199097日)およびWO90/09992199097日)に記載された所望により水酸基が保護されている910-セコ-571019-プレグナトリエン-1α,3β,20β-トリオール」との記載がある(前記(3)()c)。しかし,「910-セコ-571019-プレグナトリエン-1α20β-トリオール」との記載は,ビタミンD構造をシス体ともトランス体とも限定しない一般的な表記であり,上記41欄の記載は,トランス体のビタミンD構造を出発物質とする発明を記載しているものではない。そして,引用された個々の公報の中においては,それぞれの公報記載の発明に係る製造方法の過程においてビタミンD構造のシス体の構造式又はトランス体の構造式が記載されているものの,訂正明細書においては,これらの文献は「910-セコ-571019-プレグナトリエン-1α,3β,20β-トリオール」を記載したものとして引用されているのみである。
また,控訴人らが指摘する訂正明細書の37欄は,特許請求の範囲の記載と同じ内容を特定して記載しているものであり,出発物質等の「Z」としてトランス体のビタミンD構造を明示しているものではない。
そして,訂正明細書には,他に,トランス体をシス体へと転換する工程の記載など,トランス体のビタミンD構造についての言及は一切なく,トランス体を出発物質とする製造方法に係る発明についての記載はない。
そうすると,上記各訂正明細書の記載をもって,訂正明細書中に,訂正発明の出発物質をトランス体のビタミンD構造とする発明が記載されているとみることはできないし,これをもって,出願人が,出願時に,トランス体のビタミンD構造を訂正発明の出発物質に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認めるには足りず,トランス体のビタミンD構造が特許請求の範囲から意識的に除外されていたものとは認められない。したがって,控訴人らの主張は理由がない。」


■オキサリプラチン特許侵害訴訟。クレームの緩衝剤は添加したものに限られないし、先行文献の追試は正確に再現されていないから採用できないと判断された事例。


<判決紹介>
・平成27()12416号 特許権侵害差止請求事件
・平成2833日判決言渡、東京地方裁判所民事第46
・原告:デビオファーム・インターナショナル・エス・アー
・被告:日本化薬株式会社


■コメント
新薬 vs ジェネリックの侵害訴訟。
特許4430229の特許権を有する原告が、被告のオキサリプラチン製剤が特許権侵害に当たるとして、製造等の差し止め及び廃棄を求めた事案。

先発品はエルプラット点滴静注液50mg等(一般名: オキサリプラチン)。
後発品はオキサリプラチン点滴静注液50mg「NK」等。
(被告以外の会社も後発品を販売中。)

クレーム1は以下の通りであり、緩衝剤としてのシュウ酸の含有量に特徴がある。

「【請求項1
 
オキサリプラチン、有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって、製薬上許容可能な担体が水であり、緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり、
緩衝剤の量が、以下の:
 
a5x10-5M 1x10-2M
 
b5x10-5M 5x10-3M
 
c5x10-5M 2x10-3M
 
d1x10-4M 2x10-3M 、または
 
e1x10-4M 5x10-4M
の範囲のモル濃度である、組成物。」

訂正クレーム1は下記の通り。

「【請求項1
  
オキサリプラチン、有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって、製薬上許容可能な担体が水であり、緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり、
1)緩衝剤の量が、以下の:
  
a5x10-51x10-2
  
b5x10-55x10-3
  
c5x10-52x10-3
  
d1x10-42x10-3、または
  
e1x10-45x10-4M
の範囲のモル濃度である、
pHが3~4.5の範囲の組成物、あるいは
2)緩衝剤の量が、5×10-5M~1×10-4Mの範囲のモル濃度である、組成物。」

判決の前提事実によると、被告の行為等は以下の通り。

・被告は,平成261212日以降,被告製品の製造及び販売をしている。
・被告製品は,医薬品として製造販売の承認を受け販売されているオキサリプラチン製剤であるところ,通常の市場流通下において2年間安定であることが確認されている(甲56)。
・被告製品は,いずれもオキサリプラチン及び水を包含し,別紙被告製品目録記載1の製品につき5.4×10-55.5×10-5M,同2の製品につき5.5×10-5M,同3の製品につき5.4×10-5Mの範囲のモル濃度であるシュウ酸が検出されているが,これらのシュウ酸はいずれも添加されたものではない。また,被告製品のpHの値は,34.5の範囲にある。

大きな争点は2つ。構成要件充足性と新規性。



被告製品はシュウ酸を添加することなく製造されていたため、それでも、構成要件を充足すると言えるかどうかが争点となった。

原告は、

「オキサリプラチンを水に溶解した際に自然に解離して生成されるシュウ酸であっても,添加したシュウ酸であっても,不純物の生成を防止する等の効果は変わらないい(本件明細書の段落【0023】,【0064】の【表8】,【0065】の【表9】,【0074】の【表14】,【0076】の【表15】)。すなわち,オキサリプラチン水溶液については,ジアクオDACHプラチンに関する化学平衡のみならず,少なくともジアクオDACHプラチン二量体に関する化学平衡も存在しており,ジアクオDACHプラチンとともに解離して生成されるシュウ酸はジアクオDACHプラチン二量体の分解を抑制する効果を有し,ジアクオDACHプラチン二量体とともに解離して生成されるシュウ酸はジアクオDACHプラチンの分解を抑制する効果を有するから,解離したシュウ酸であっても添加したシュウ酸とその効果は変わらない。また,本件明細書には,緩衝剤が所定のモル濃度で存在するのが便利である旨の記載があり(同【0023】),オキサリプラチン水溶液中に存在する緩衝剤のモル濃度が重要であることが示されている。

・・・
これらのことからすれば,「緩衝剤」であるシュウ酸は,溶液中に存在すれば足り,自然に生成されたものであっても,添加したものであってもいずれでもよいと解される。そして,被告製品は,いずれも構成要件Gに規定されているモル濃度の範囲内にあるシュウ酸を含んでいるから,「(有効安定化量の)緩衝剤」を充足する。」

と主張した。
被告は、

「オキサリプラチンを水に溶解すると,以下の図のとおり,その一部がジアクオDACHプラチンとシュウ酸に解離して,化学平衡の状態となる。この解離したシュウ酸は,オキサリプラチンの分解によって生じる不純物であって,同じく不純物であるジアクオDACHプラチンの生成を防止する効果を有しない。・・・他方で,平衡状態のオキサリプラチン水溶液にシュウ酸を添加すると,化学平衡状態にあるシュウ酸濃度の上昇を減殺するために,オキサリプラチン生成側(下記図の左側)に平衡状態が移動し(化学平衡状態にある反応系において,その状態変数を変化させると,その変化を相殺する方向へ平衡が移動すること。ルシャトリエの法則),添加したシュウ酸の量に応じて不純物であるジアクオDACHプラチンの含有量が低下する(同【0041】)。そして,「緩衝剤」とはオキサリプラチン溶液を安定化し,ジアクオDACHプラチン等の不純物の生成を防止するものをいうから(同【0022】),不純物であるジアクオDACHプラチンの生成を防止しない上記の解離したシュウ酸は「緩衝剤」には当たらないというべきである。

20160310_biopatentblog.jpg

本件明細書の実施例において,個別に計量して添加したシュウ酸等の量のみを緩衝剤の量としていること(本件明細書の段落【0035】,【0042,0044,0047】等)からしても,「緩衝剤」であるシュウ酸とは添加したシュウ酸をいうと解される。
・・・そして、被告製品は,いずれもシュウ酸を添加していないから,「(有効安定化量の)緩衝剤」を充足しない。」

と主張した。
裁判所は、以下のように判断した。

11 争点(1)(緩衝剤の充足性)について
・・・そうすると,本件明細書の記載からは,本件発明が,従来既知のオキサリプラチン組成物(凍結乾燥粉末形態のものや乙1発明のように水溶液となっているもの)の欠点を克服し,改良することを目的とし,その解決手段としてシュウ酸等を緩衝剤として包含するという構成を採用したと認められるのであり,更にこの緩衝剤を添加したものに限定するという構成を採用したとみることはできない。

(3) 
以上によれば,構成要件Gに規定されたモル濃度の範囲内にある量のシュウ酸を含んでいれば構成要件BF及びGを充足すると解すべきところ,被告製品は前提事実(3)イのとおりこれを含有する。したがって,被告製品は本件発明の技術的範囲に属すると判断するのが相当である。

・・・そして,オキサリプラチンを水に溶解するとその一部がジアクオDACHプラチンとシュウ酸に解離して化学平衡の状態になり,不純物であるジアクオDACHプラチンの更なる生成が妨げられるというのであるから(乙8),水溶液中の解離したシュウ酸は「緩衝剤」に当たると解される。

・・・本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば「緩衝剤」は添加したシュウ酸に限定されないとかいすべきことは前記(1)及び(2)のとおりである。本件明細書中の実施例に関する記載は,特許請求の範囲にいう「緩衝剤」の意義を解釈するに当たっての考慮要素の一つであるが(特許法702項),以上に説示したところに照らせば,本件において実施例の記載をもって「緩衝剤」の意義を被告主張のように解することは困難である。」



緩衝剤としてのシュウ酸が添加したものに限られないのであれば、それって従来品と変わらないんじゃないの? 新規性ないんじゃないの? という疑問が生じてくる。
被告は、先行文献に記載されているオキサリプラチン水溶液の再現を試み、そのシュウ酸濃度がクレーム1の範囲内であることを主張した。

これに対して、裁判所は以下のように判断した。

3 争点(2)ア(乙1発明又は乙6発明に基づく新規性欠如)について
前記1で説示したとおり,「緩衝剤」であるシュウ酸は添加したものに限定されないところ,被告は,そうであるとすれば,本件発明は乙1発明又は乙6発明と実質的に同一であるから新規性を欠くと主張するものである。

(1)
  乙1発明に基づく新規性欠如
・・・
ウ 本件発明と上記イの乙1発明を対比すると,緩衝剤の量につき,本件発明が構成要件Gに規定するモル濃度の範囲としているのに対し,乙1発明がこれを特定していない点で相違する。したがって,本件発明が乙1発明との関係で新規性を欠くとは認められない。

エ これに対し,被告は,①乙11公報の追試結果(乙514)によれば,乙1発明におけるシュウ酸のモル濃度は6.07×10-57.54×10-5Mの範囲に,②乙11公報の実施例におけるシュウ酸のモル濃度を試算すると,5.35×10-55.61×10-5Mの範囲にあり,いずれも構成要件Gが規定するモル濃度の範囲内であるから,上記ウの点は相違点とはならない旨主張する。

そこで判断するに,①については,乙1発明においてはその特許請求の範囲の記載からしてpHの値がオキサリプラチン水溶液の安定性,すなわち不純物(これにはシュウ酸も含まれる。)の量に影響する重要な要素の一つであると考えられるところ(前記ア()()()()),乙11公報の実施例におけるpHの値は5.295.65の範囲にあるのに対し(乙12公報の8頁の表),上記追試においては5.86.1(乙5)又は5.76.6(乙14の範囲にある。このことからすれば,被告のいう追試は,11公報を正確に再現したものとみることはできないから,これらが正確な追試であることを前提とする被告の上記主張①は採用することができない。

②については,被告は,乙11公報の実施例における「不純物」(乙12公報の8頁の表)の数値を基に,オキサリプラチンの分解により発生する不純物がシュウ酸及びジアクオDACHプラチン又はジアクオDACHプラチン二量体のみであると仮定して,シュウ酸のモル濃度を試算している。しかし,乙11公報には上記「不純物」について「クロマト」グラムのピークの分析は,不純物の含量と百分率の測定を可能にし,そのうち主要なものは蓚酸であると同定した。」(前記ア(カ)との説明があるのみで,その具体的な内容について言及がないから,上記「不純物」をシュウ酸とジアクオDACHプラチン又はジアクオDACHプラチン二量体のみとする仮定は正確でないというべきである。したがって,被告の上記主張②も採用することができない。

(2)
 乙6発明に基づく新規性欠如
・・・
イ 本件発明と上記の乙6発明を対比すると,緩衝剤の量につき,本件発明が構成要件Gに規定するモル濃度の範囲としているのに対し,乙6発明がこれを特定していない点で相違する。したがって,本件発明が乙6発明との関係で新規性を欠くとは認められない。

ウ これに対し,被告は,乙6文献の追試結果(乙7)によれば,乙6発明におけるシュウ酸のモル濃度は7.49×10-5Mであり,構成要件Gが規定するモル濃度の範囲内であるから,上記アの点は相違点とはならない旨主張する。

そこで判断するに,上記追試では,7.5mg/mlの濃度のオキサリプラチン水溶液を分析対象とし,その水溶液中のシュウ酸のモル濃度を測定している。しかし,乙6文献においては溶解度が7.9mg/mlのオキサリプラチンが開示されているのみであり(乙6文献の9163行),オキサリプラチン水溶液の濃度が開示されているわけではないから,上記の追試が乙6文献を正確に再現したものみることはできない。したがって,この点についても被告の主張を採用することができない。」



結論として、(1)被告製品は技術的範囲に含まれる、(2)無効理由があるとは認められない、と裁判所は判断した。
主文は以下の通り。

「主文
1 被告は,別紙被告製品目録記載1,2及び3のオキサリプラチン製剤の生産,譲渡又は譲渡の申出をしてはならない。
2 被告は,前項記載の各オキサリプラチン製剤を廃棄せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。」


■iPS細胞の開発から10年


京都大学 山中伸弥教授のグループによりiPS細胞(人工多能性幹細胞)の開発が発表されてからもうすぐ10が経つそうです。
下記は10
年前の2006年に公開された論文です。
マウス由来のiPS細胞を作製したことが記載されています。

Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16904174


最近では、2014年に滲出型加齢黄斑変性の患者を対象に世界初の臨床手術が行われ、1年後も患者の状態は良好であったという報告がされています。

・理研
 2015102日)
http://www.riken.jp/pr/topics/2015/20151002_1/


2014年にはSTAP細胞の報道があり、2016年に小保方氏の手記も発売されました。
 私も読ませていただきましたが、すごく興味深い内容でした。

amazon
  あの日

http://goo.gl/xSdl3c


さて、特許業界はどうでしょうか。 
iPS細胞関連の特許出願はちょうど10年前から増加しています。
下記は2015年に私がセミナーで講演したときのスライド75-77です。 iPS細胞関連特許の出願推移が載っています(グラフ右側で件数が減少しているのは公開前のためです)。

・バイオ医薬品の特許明細書作成・OA応答の留意点 -抗体医薬品特許を中心に-
https://db.tt/5lN9brXs



tag : iPS細胞

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プロフィール

徳重大輔


Author: 徳重大輔

バイオ、医薬、特許関連のブログです。
業界動向や知財判決などの情報をアップしていきます。

SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書はバイオ医薬(特に抗体医薬)、調査は無効資料調査が特に得意です。

お問い合わせはbiopatentblog@gmail.com(@は半角)へお願いします。

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