■2016-04-

■先発品が含有していない添加物である濃グリセリンを含有する後発品に対して、延長された製剤特許権の効力は及ばないと判断された事例


<判決紹介>

・平成27年(ワ)第12414号 特許権侵害差止請求事件
・平成28330日判決言渡
・東京地方裁判所民事第29部 嶋末和秀、鈴木千帆、笹本哲朗
・原告:デビオファーム・インターナショナル・エス・アー
・被告:東和薬品株式会社
・特許3547755


コメント:
新薬 vs ジェネリックの侵害訴訟。
東和薬品は
前回前々回に続き3連勝です。
今回はお待ちかねの延長された特許権の効力が判断されました。

ヤクルト社の先発品はエルプラット点滴静注液50,100,200mg(一般名:オキサリプラチン)。
東和薬品の後発品はオキサリプラチン点滴静注50,100,200mg「トーワ」。
(被告以外の会社も後発品を販売中。)

東和薬品の後発品は、先発品が含有していない濃グリセリン50,100,200mg)を含有しており、その場合でも延長された特許権の効力が及ぶかどうかが争点となりました。


本件特許のクレーム1は下記の通り。

「【請求項1
A
濃度が1ないし5mg/ml
B pH
4.5ないし6
C
オキサリプラティヌムの水溶液からなり,
D
医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,
E
該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,
F
腸管外経路投与用の
G
オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。」



当事者の主張は下記の通り。

「第3 争点に関する当事者の主張
・・・
2
争点2(被告各製品は本件各処分の対象となった物又はその均等物ない し実質的に同一と評価される物か)について
【原告の主張】
1) 被告各製品が本件各処分の対象となった物に当たることについて
ア 本件各処分は,オキサリプラチンを有効成分として承認申請がされ,その結果として得られた製造販売承認であるところ,被告各製品は,いずれもオキサリプラチンを唯一の有効成分としているから,本件各処分の対象となった物に当たる。
イ 被告各製品の「用途」が本件各処分の対象となった物の「用途」と同一のものとなっていることは,被告も認めているところであるから,本件各延長登録に係る本件特許権の効力は,被告各製品に及ぶ。
2) 被告各製品が少なくとも本件各延長登録の理由となった本件各処分の対象となった物の均等物に当たることについて
仮に,上記(1)アの主張が認められないとしても,被告各製品に含まれる濃グリセリンはあくまで添加物であるうえ,被告各製品は,本件各処分の対象となった物(エルプラット50,エルプラット100又はエルプラット200)と生物学的同等性を有することを前提に,本件各処分で用いられた臨床成績をそのまま利用して承認を得たものであるから,被告各製品は,少なくとも本件各処分の対象となった物の均等物に当たる。

【被告の主張】
1) 被告各製品が本件各処分の対象となった物に当たらないことについて被告各製品には濃グリセリンが含まれているところ,本件各処分の対象となった物(エルプラット50,エルプラット100又はエルプラット200)は,「成分」として「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないものとされている(甲111ないし113)。
したがって,被告各製品は,本件各処分の対象となった物とは,「成分」において異なる以上(なお,「成分」が薬効を発揮する成分〔有効成分〕に限定されるものではないことは,いうまでもない。),本件各処分の対象となった物に当たらないことは,明らかである。
2) 被告各製品が本件各処分の対象となった物の均等物や実質的に同一と評価される物にも当たらないことについて
そもそも,本件明細書の記載によれば,本件発明は,オキサリプラチンと水のみからなる製剤であることをその本質的部分とするというべきところ(甲2243行~33行〕参照),被告各製品は,濃グリセリンを含むのであるから,本件発明とは,その本質的部分において相違している。また,被告各製品が濃グリセリンを含むのは,注射用水にオキサリプラチンのみを溶解させた水溶液の場合,オキサリプラチンの分解により類縁物質や2量体が生成することがあることから,それらの分解を抑制するために,炭素数3個のポリオール(グリセリン)を添加することが有用であることを見出したことによる。被告は,それらの知見に基づいて特許出願をし,特許第5314790号を得た(乙4)。被告各製品は,同特許に係る発明の実施品であり,被告各製品が「成分」として濃グリセリンを含むのは,本件発明とは異なる目的のためである。被告各製品は,濃グリセリンを含むことにより,本件発明が有しない効果を奏するものであって,本件発明の均等物でないばかりか,本件各処分の対象となった物の均等物や実質的に同一と評価される物にも当たらない。」



裁判所の判断は下記の通り。

「第4 当裁判所の判断
本件事案に鑑み,争点2から判断する。
1
争点2(被告各製品は本件各処分の対象となった物又はその均等物ないし実質的に同一と評価される物か)について
1) 本件各処分の対象となった物について
ア 特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨
・・・
イ 特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力
・・・

もっとも,特許権者が研究開発に要した費用を回収することができるようにするとともに,研究開発のためのインセンティブを高めるという目的で,特許期間の延長を認めることとした特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨に鑑みると,侵害訴訟における対象物件が政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」の範囲をわずかでも外れれば,存続期間が延長された特許権の効力がもはや及ばないと解するべきではなく,当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」と相違する点がある対象物件であっても,当該対象物件についての製造販売等の準備が開始された時点(当該対象物件の製造販売等に政令処分が必要な場合は,当該政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点と解される。)において,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして,その相違が周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないと認められるなど,当該対象物件が当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」の均等物ないし実質的に同一と評価される物(以下「実質同一物」ということがある。)についての実施行為にまで及ぶと解するのが合理的であり,特許権の本来の存続期間の満了を待って特許発明を実施しようとしていた第三者は,そのことを予期すべきであるといえる。なお,上記のように解すると,政令処分を受けることによって禁止が解除される特許発明の実施の範囲よりも,存続期間が延長された特許権の効力が及ぶ特許発明の実施の範囲が広いことになるが,上述した意味での均等物や実質同一物についての実施行為の範囲にとどまる限り,第三者の利益が不当に害されることはないというべきである。

ウ 政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合について
・・・
したがって,医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)及び分量」によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当である。ただし,延長登録制度の立法趣旨に照らして,「当該用途に使用される物」の均等物や「当該用途に使用される物」の実質同一物が含まれることは,前示のとおりである(なお,平成26年知財高判は,「分量」については,「延長された特許権の効力を制限する要素となると解することはできない」旨判示しているが,その趣旨は,「分量」は,「成分」とともに,「物」を特定するための事項ではあるものの,「分量」のみが異なっている場合には,「用法,用量」などとあいまって,政令処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で均等物ないし実質同一物として,延長された特許権の効力が及ぶことが通常であることを注意的に述べたものと理解するのが相当と思われる。)。

エ 本件各処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」について
・・・
・・・エルプラット・・・いずれも「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないものとされている・・・。
そうすると,「物」に係るものとしての「分量」及び「用途」に係るものとしての「効能,効果,用法,用量」の点をひとまず措くとすれば,本件各処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」とは,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まない製剤(ただし,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがある。)であると認められる。

2) 被告各製品は本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」といえるかについて
前記前提事実,上記(1)エの認定事実,及び弁論の全趣旨によれば,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の「成分」は,いずれも「オキサリプラチン」と「注射用水」のみ(ただし,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがある。)であるのに対し,被告各製品の「成分」は,いずれも「オキサリプラチン」と「水」以外に,添加物として「濃グリセリン」を含むものであり,その使用目的は,「安定剤」であることが認められる(被告製品3における添加物(濃グリセリン)」の使用目的は,被告製品1及び同2と同じであると推認される。)。
そうすると,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」と被告各製品とは,その「成分」において異なるものというほかはない。したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」とはいえない
・・・

3)被告各製品は本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するといえるかについて
ア考え方
上記(2)のとおり,被告各製品が本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」とはいえないとしても,前記(1)イで説示したところによれば,被告各製品と本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」との相違が,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,本件発明の種類や対象に照らして,周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではない場合には,その「当該用途に使用される物」の均等物,あるいはその「当該用途に使用される物」の実質同一物と認めるのが相当である。

医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る特許発明において,「当該用途に使用される物」との均等物,あるいは「当該用途に使用される物」の実質同一物かどうかを判断するに当たっては,例えば,次のように考えることができる。当該特許発明が新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など,医薬品の有効成分(薬効を発揮する成分)のみを特徴的部分とする発明である場合には,延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で,有効成分以外の成分のみが異なるだけで,生物学的同等性が認められる物については,当該成分の相違は,当該特許発明との関係で,周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等に当たり,新たな効果を奏しないことが多いから,「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たるとみるべきときが少なくないと考えられる。他方,当該特許発明が製剤に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明である場合には,延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で,有効成分以外の成分が異なっていれば,生物学的同等性が認められる物であっても,当該成分の相違は,当該特許発明との関係で,単なる周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等に当たるといえず,新たな効果を奏することがあるから,「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たらないとみるべきときが一定程度存在するものと考えられる

イ 本件発明の種類及び対象
そこで,本件発明の種類や対象について検討するに,本件明細書には,従来技術,発明の目的及び課題の解決に関し,次の記載がある。
・・・
また,原告は,特許庁審査官から,平成15711日付け拒絶理由通知書(乙121)を受け,これに対し,本件意見書を提出したが,同意見書(2頁)には次の記載がある。
[2]本願発明の説明
本願発明の目的は,本願明細書(3)頁20行~(4)頁24行に記載のとおり,(1)オキサリプラティヌム水溶液を安定な製剤で得ること,かつ(2)該製剤のpH4.56であることであり,さらに(3)該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まないことである。・・・」

本件明細書及び本件意見書の上記記載に加え,前記前提事実,証拠(甲2,乙579121ないし12313)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関するものであって,医薬品の成分全体に関する発明であるところ,オキサリプラティヌム(オキサリプラチン)は,本件特許の優先日前の公知物質であって,これを有効成分として制癌剤に用いることも,同優先日前に公知であったことが認められるから,本件発明は,新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など,医薬品の有効成分のみを特徴的部分とする発明ではなく,製剤に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であると認められる。

  検討
上記のとおり,本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する発明であり,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であって,原告は,その実施として,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないとするエルプラット点滴静注液(製剤)について本件各処分を受けたものである。これに対し,前記前提事実,上記(1)エ及び(2)の各認定事実,証拠(乙4)並びに弁論の全趣旨によれば,被告各製品は,「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」のほか,有効成分以外の成分として,「オキサリプラチン」と等量の「濃グリセリン」を含有するもので,オキサリプラチンを水に溶解したもの(以下,「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」以外の成分の有無を問わず,「オキサリプラチン水溶液」という。)にグリセリンを加えたのは,オキサリプラチン水溶液の保存中に,オキサリプラチンの分解が徐々に進行し,類縁物質であるジアクオDACHプラチンやその二量体であるジアクオDACHプラチン二量体を主とした種々の不純物が生成するため,オキサリプラチンの自然分解自体を抑制するということを目的としたものであることが認められる。これを,本件発明との関係でみると,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,オキサリプラチン水溶液にオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを加えることが,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たると認めるに足りる証拠はなく,むしろ,オキサリプラチン水溶液に添加したグリセリンによりオキサリプラチンの自然分解を抑制するという点で新たな効果を奏しているとみることができる(なお,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」については,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがあることは,前示のとおりである。また,オキサリプラチン水溶液に添加されたシュウ酸がオキサリプラチンの自然分解を抑制することは知られているが,シュウ酸は人体に有害な物質である。)。

そうすると,被告各製品は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする本件発明との関係では,本件各処分の対象となった物とは有効成分以外の成分が異なる物であり,当該成分の相違は,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,本件発明との関係では,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たるとはいえず,新たな効果を奏するものというべきである。
したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するということはできない。

この点,原告は,被告各製品に含まれる「濃グリセリン」があくまで「添加物」であるとか,被告各製品は,本件各処分の対象となった物(エルプラット50,エルプラット100及びエルプラット200)と生物学的同等性を有することを前提に,本件各処分で用いられた臨床成績をそのまま利用して承認を得たものであるなどと主張する。しかし,被告各製品が,エルプラット点滴静注液と有効成分である「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有するとされており,「濃グリセリン」それ自体が「添加物」であるとしても,上記のとおり,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する本件発明が,医薬品の有効成分のみを特徴的部分とする発明ではなく,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であって,そのような本件発明との関係では,上述した有効成分以外の成分の相違は,単なる周知技術・慣用技術の付加等には当たらず,新たな効果を奏するものというべきであることからすれば,有効成分である「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有するとされていることをもって,直ちに均等物ないし実質同一物と認めることはできないのであって,原告の上記主張は,採用することができない

4)小括
以上によれば,被告各製品は,本件各処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」ではなく,その均等物ないし実質同一物に該当するものということもできない。したがって,存続期間が延長された本件特許権の効力は,被告による被告各製品の生産等には及ばないものというべきである。

2
 結論
以上の次第で,本件各請求は,その余の争点につき検討するまでもなく,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。」



というわけで、東和薬品の後発品に対して延長された製剤特許権の効力は及ばないと判断され、請求棄却。 ☆☆☆☆


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・オキサリプラチン特許侵害訴訟。クレームの緩衝剤は添加したものに限られないし、先行文献の追試は正確に再現されていないから採用できないと判断された事例。



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■モメタゾン水性懸濁液特許の維持審決、顕著な効果の判断に誤りがあるとして取消し


<判決紹介>
・平成27(行ケ)10054号 審決取消請求事件
・平成28330日判決言渡
・知的財産高等裁判所第2部 清水節、片岡早苗、新谷貴昭
・原告:東和薬品株式会社
・被告:メルク・シャープ・アンド・ドーム・コーポレーション
・特許3480736


■コメント
ジェネリック vs 新薬の特許維持審決取消訴訟。
東和薬品は前回に続き2連勝です。

先発品はナゾネックス点鼻液50μg56/112噴霧用(モメタゾンフランカルボン酸エステル水和物)で、後発品はなし。
2014
3月に無効審判請求 → 20152月に維持審決 → 取消訴訟を提起していました。
今回判断されたのは、本件特許発明に顕著な効果があるといえるかどうか。

本件特許の請求項1は下記の通り。

「【請求項1
モメタゾンフロエート水性懸濁液を含有する薬剤であって,11鼻腔内に投与される,アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療のための薬剤。」



審決は本件発明の構成については容易想到であると判断していましたが、その効果が顕著で当業者が予測困難なものであったとして、本件発明の進歩性を肯定していました。

審決が認定した甲1発明(Wang文献)、一致点、相違点、顕著な効果は下記の通り。

・甲1発明の認定
コルチコステロイドの1種であるモメタゾンフロエートを含有し,鼻腔内吸入により投与される,アレルギー性鼻炎のための候補薬。

・一致点
モメタゾンフロエートを含有し、アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎を対象とする点。

・相違点
相違点1:本件発明1は「水性懸濁液」であるのに対し、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
相違点2:本件発明1は「11回投与」されるのに対し、甲1発明では投与回数が特定されていない点。
相違点3:本件発明1は「治療のための薬剤」であるのに対し、甲1発明は「候補薬」である点。

・効果の顕著性
「本件発明の効果は、本件特許明細書の記載から、「アレルギー性鼻炎に対して、11のモメタゾンフロエート投与で、効果的に処置でき(本件効果1)、かつ、モメタゾンフロエートの血流中への全身的な吸収が実質的に存在しないことにより、所望しない全身性副作用を防げること(本件効果2)」であると認められる。」

なお、甲2(特表平05-506667)には、「フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液を製造した。」などの記載があります。



これに対して、原告は以下の主張をしました。

3 原告の主張
1
取消事由1(本件効果1についての判断誤り)
・・・

2
取消事由2(本件効果2についての判断誤り)
(1)
本件効果2についての認定の誤り
・・・
(2)
本件効果2についての評価の誤り
  審決には,技術水準を看過して本件効果2の予測可能性を判断した誤りがある。
 
審決が認めているように,全身性副作用を小さくするという意味において,本件効果2と甲1に記載された効果とは同質であるから,当業者が本件効果2としての全身性副作用を予測できたか否かについての判断は,本件効果2の「程度」が当業者の予測を超えるほどの格別顕著なものであるか否かという観点からなされなければならない。
 
そして,「程度」とは,物事の高低,強弱,優劣などがどのくらいかという度合をいうものであり,あくまでも相対的な概念であるから,その評価には,少なくとも,いずれかの量的尺度における何らかの比較対象が必要であり,そのような対象を置くことなしに判断することは不可能である。したがって,本件効果2の程度を判断するためには,モメタゾンフロエート以前の従来のアレルギー性鼻炎の治療のための抗炎症コルチコステロイドの鼻腔内投与において,全身性副作用がどの程度であったか,あるいは,モメタゾンフロエートの鼻腔内投与についてどの程度の副作用が従来予測されていたかという点を斟酌することが必要である。
 
しかしながら,甲1には,「モメタゾンフロエート(SCH32088)は,局所的抗炎症活性を有しその一方で視床下部-下垂体-副腎(HPA)機能を抑制する潜在能力は最小限にしか示さない,合成のコルチコステロイドである。」(473頁左欄38行)という,HPA機能の抑制が最小限である旨の記載があるし,モメタゾンフロエートが鼻腔内吸入でアレルギー性鼻炎を治療するための有望な新薬候補であるとの明示的記載もなされており,これらの記載は,モメタゾンフロエートの鼻腔投与について,目的とする治療効果が期待でき,かつ,全身性副作用がないことも期待できるものであることを示すものであるから,皮膚に投与した場合に限定して解釈される理由はない。
 
仮に,甲1の記載が「皮膚に適用した際の全身性副作用が最小限であること」と理解されるのであれば,甲1には,アレルギー性鼻炎に対して有効な量のモメタゾンフロエートを鼻腔内に投与した場合における全身性副作用の程度に関する具体的な記載は存在しないということになるから,本件効果2の程度の評価に必要な量的尺度における比較対象としては,甲1の記載に依拠することはできないはずであり,従来のアレルギー性鼻炎の治療のための抗炎症コルチコステロイドの鼻腔内投与において,全身性副作用はどの程度であったかという比較を可能にする具体的な基準が,別途必要であり,そのような基準を本件優先日前の技術水準に求めることが不可欠である。
 
それにもかかわらず,審決は,甲25における技術水準の記載を一切考慮していない。そして,審決の他の箇所においても,技術水準を示す何らの証拠も参酌することなく,本件効果2について,当業者の予測可能性を否定した。
 
審決は,鼻腔粘膜に適用された際の全身性副作用の大きさの予測困難性を指摘するだけであるが,それだけでは,本件効果2の程度が,甲1発明等に示された技術水準からみて,当業者の予測を超えるほどの格別顕著なものであるか否かとの結論を導き出すことはできない。

・・・
 
一方,モメタゾンフロエートは,局所的な皮膚への使用に対して認可されていた抗炎症性コルチコステロイドであり,視床下部-下垂体-副腎(HPA)機能を抑制する潜在能力を最小限にしか示さないことが知られていたから,特にモメタゾンフロエートに限って,鼻腔内投与で全身性副作用の起こることが予測されていたという事情もない。
 
したがって,これらに示された技術水準と比較する限り,本件効果2は,「所望しない全身性副作用を防げること」という点において,技術水準と差異はないから,当業者の予測可能な範囲を超えるほどの格別顕著な効果というにはほど遠く,当業者が予測し得る範囲のものである。また,「モメタゾンフロエートの血流中への全身的な吸収が実質的に存在しない」という点についても,同様である。よって,本件効果2が当業者の予測可能な範囲を超えるほどの格別顕著な効果であるということはできず,審決の判断は誤りである。

・・・
 
また,本件発明に係る薬剤の具体的組成は,甲2の実施例15に記載された組成そのものであるから,本件効果2は,甲2発明が既に有していた効果そのものであって,本件発明により初めて達成された効果ではなく,甲2発明が有していた効果を追認したものにすぎない。したがって,本件効果2は,当業者の予測可能な範囲を超えるほどの格別顕著な効果ということはできない。」



裁判所の判断は以下の通り。

当裁判所の判断
・・・
取消事由1及び2について
 
本件発明の構成が,公知技術である引用発明に他の公知技術や周知技術等を適用することにより容易に想到できるものであるとしても,本件発明の有する効果が,当該引用発明等の有する効果と比較して,当業者が技術常識に基づいて従来の技術水準を参酌した上で予測することができる範囲を超えた顕著なものである場合は,本件発明がその限度で従来の公知技術から想到できない有利な効果を開示したものであるから,当業者がそのような本件発明を想到することは困難であるといえる。したがって,引用発明と比較した本件発明の有利な効果が,当業者の技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものと認められる場合は,本件発明の容易想到性が否定され,その結果,進歩性が肯定されるべきである。
 
そして,当業者が予測できない顕著な効果といえるためには,従来の公知技術や周知技術に基づいて相違点に係る構成を想到した場合に,本件発明の有する効果が,予測される効果よりも格別優れたものであるか,あるいは,予測することが困難な新規な効果である必要があるから,本件発明の有する効果と,公知技術を開示する甲1発明,甲2発明に加え,周知技術を開示する甲3発明~甲5発明の有する効果についても検討する。この場合,本件発明における有利な効果として認められるためには,当該効果が明細書に記載されているか,あるいは,当業者が,明細書の記載に当業者が技術常識を当てはめれば読み取ることができるものであることが必要である。なぜなら,特許発明は,従来技術を踏まえて解決すべき課題とその解決手段を明細書に記載し,これを一般に開示することにより,特許権としての排他的独占権を取得するものである以上,明細書に開示も示唆もされず一般に公開されないような新たな効果や異質な効果が後日に示され,仮に,従来技術に対して有利な効果であるとしても,これを斟酌すべきものではないからである。このような観点から,以下,検討を進める。

(1)
本件発明について
・・・
  以上のとおり,本件明細書には,モメタゾンフロエート水性懸濁液が,バイオアベイラビリティの点で経口溶液よりも優れていることは記載されているものの,水性懸濁液では鼻腔スプレーでの投与と経口投与との差はなく,また,溶液では鼻腔スプレーでの投与と経口投与との差は示されず,さらに,治療効果や副作用については,他の部位への投与や他の投与方法の記載はなく,他の部位への投与や他の投与方法と比して,どの程度優れているかについて,明示的な記載はない。
・・・

  以上によれば,甲1発明の効果として,次のことが記載されているといえる。
 
すなわち,モメタゾンフロエートが,皮膚に対して局所的抗炎症活性を有することを前提に,喘息及びアレルギー性鼻炎の経口吸入及び鼻腔内吸入の治療効果が見込まれることが記載されており,経口吸入のみならず,鼻腔内吸入の方法を用い,アレルギー性鼻炎に対し,プラセボと対比して,一定の抗炎症活性を有するという治療効果を読み取ることができるが,その治療効果の程度は不明である。
・・・

ア  
アレルギー性鼻炎に対する治療効果
 
上記のとおり,本件明細書には,本件発明に関し,水性懸濁液の投与とこれ以外の他の形態(例えば,溶液)で投与した場合との対比や,11回の鼻腔内投与とこの投与回数及び形態を変えた場合との対比はなされておらず,単にプラセボとの対比による効果の有無しか記載がない。そして,本件優先日当時の技術常識を踏まえると,水に難溶性の薬物の水性懸濁液は,他の溶媒を用いた溶液よりも,粘膜から吸収されにくいということはできるが,それだけでは,治療効果の具体的な違いは把握できないし,また,他の形態で投与した場合や異なる投与回数の場合の治療効果がどの程度であったかを読み取ることも,困難である。
 
他方,甲1発明及び甲2発明においても,アレルギー性鼻炎に対する一定の治療効果が期待されることは上記のとおりである。
 
そうすると,本件明細書の記載からは,甲1発明や甲2発明よりも,本件発明1が,治療効果の点で優れているかどうかを理解することは困難といわざるを得ない。

  全身的な吸収及び代謝
 
本件明細書には,本件発明に関し,経口溶液と比して,鼻腔スプレー懸濁液の方が,モメタゾンフロエートの全身的な吸収が低く,モメタゾンフロエート自体が血漿中で定量限界以下しか存在しないという効果があることが記載されているが,経口懸濁液と同程度の効果があることの記載しかない。そして,技術常識を踏まえても,他の形態で投与した場合(例えば,溶液の形態での鼻腔内投与)や異なる投与回数の場合の全身的な吸収及び代謝がどの程度であったかを推認することは困難である。
 
他方,甲1発明において,腹腔内投与及び経口投与後のモメタゾンフロエートの血漿中の量は高くなく,比較的短期間で消失することは理解できるが,鼻腔内投与の場合における全身的な吸収及び代謝の程度は全く不明といわざるを得ない。甲2発明は,水性懸濁液を鼻腔内に使用した発明であるが,本件優先日において,少なくとも,鼻腔内投与の場合にモメタゾンフロエートの全身的な吸収や代謝後の残存が常に高いという技術常識はない。
 
そうすると,本件明細書の記載からは,1発明や甲2発明よりも,本件発明1が,全身的な吸収及び代謝の点で優れているかどうかを理解することはできないといわざるを得ない

  全身性副作用
 
本件明細書には,本件発明に関し,プラセボとの対比において,HPA機能抑制に起因する全身性副作用がないことが記載されているだけで,他の形態(例えば,溶液)で投与した場合との対比や,投与回数を変えた場合との対比はなされていない。そして,当事者の技術常識を踏まえても,他の形態で投与した場合や異なる投与回数の場合の副作用がどの程度であったかを読み取ることは困難である。
 
他方,前記(2)及び(3)のとおり,甲1発明及び甲2発明において,モメタゾンフロエートは,経口吸入及び鼻腔内吸入をしても,実用可能な程度の副作用しかないといえるし,本件優先日において,少なくとも,モメタゾンフロエートの全身的な吸収が必ず高いという技術常識はない。
 
そうすると,本件明細書の記載からは,1発明や甲2発明よりも,本件発明が,全身性副作用の点で優れているかどうかを理解することはできないといわざるを得ない

  以上によれば,本件発明には,薬としての一定の治療効果を有し,実用可能な程度の副作用しかないことは認められるとしても,本件発明の当該効果が,甲1発明及び甲2発明の効果とは相違する効果であるということはできないし,また,本件明細書上,それらの効果とどの程度異なるのかを読み取ることができない以上,これをもって,当業者が引用発明から予測する範囲を超えた顕著な効果ということもできない。よって,この点に関する審決の判断には誤りがある。

  審決は,甲1及び甲2には,11回の投与の記載がなく,治療効果の程度についての記載もなく,本件発明の治療効果を予測できないと判断した。しかしながら,甲1発明及び甲2発明において,一定の治療効果が認められながらその程度についての記載がない以上,当該効果が本件発明の効果よりも明らかに劣るものと認められない限り,本件発明の効果が顕著なものであるとはいえないはずである。審決は,甲1及び甲2の治療効果の程度についての認定をせずに,本件発明の効果がこれを格別上回ると判断したものであって,論理的に誤りがあるといわざるを得ない

 
また,審決は,皮膚に適用した場合の全身性副作用について開示する甲1から,鼻腔粘膜に投与された際の全身性副作用の大きさを予測できないと判断したが,本件発明の効果と甲1発明の効果を同質であると認めた以上,甲1発明において,鼻腔粘膜に投与した際の全身性副作用の方が,皮膚に投与した際と比して常に優れたものといえない限り,本件発明の効果が顕著なものとはいえないはずであり,この点についても,審決に論理的な誤りがあるといわざるを得ない。

 
さらに,審決は,本件発明について,甲1発明で示された最小限の全身性副作用よりも低いレベルの全身性副作用しかないから,顕著な効果があると判断したが,この審決の判断には,前記(1)イのとおり,モメタゾンフロエートの全身性吸収及び代謝後の残存量の問題と全身性副作用の有無の問題を同一視した点において誤りがある。その上,皮膚へ投与する甲1発明と鼻腔に投与する本件発明において,投与される組織の相違による吸収性の違いがあるからといって,甲1発明の全身性副作用が実用化できない程度に強いとは当然にはいえないはずであり,この点について効果の顕著性を認めた審決の判断にも,論理的な誤りがある。しかも,水性懸濁液のモメタゾンフロエートの全身性吸収の低さ及び代謝後の残存量の少なさは,本件発明と同様,水性懸濁液の鼻腔内投与を行う甲2発明が有するはずであり,甲2発明の副作用の程度が開示されていないとはいえ,審決が,甲1発明と甲2発明を組み合わせて薬として実用化可能な本件発明の構成を想到できたとする以上,この組合せと比して本件発明の効果が顕著なものであるか否かについて検討する必要がある。しかしながら,審決では,甲1発明との対比しかなされておらず,検討が不十分であったといわざるを得ない
・・・

結語
 
以上のとおり,審決の顕著な効果の判断の誤りがある。
 
なお,当裁判所は,本件訴訟において,相違点に係る構成の容易想到性について,審理,判断するものではないところ,本件特許のような,十分な治療効果を有しながら副作用がわずか(又は生じない)とされる実用可能な「薬剤」の特許発明に関しては,その特許無効審判においても,治療効果の維持と副作用の減少(又は不発生)の両立という観点から審理,判断されることが望ましく,例えば,複数ある相違点のうち個々の相違点に限っては想到できるとしても,これらを総合した全体の構成が当該薬剤としての効果等を維持できるものであるか否かが重要であるから,本件審判手続においても,これらの点を念頭に置き,本件訴訟で主張,立証されたものを含め,相違点に係る構成について改めて慎重に審理,判断すべきものといえる。

結論
 
以上によれば,原告の請求は理由がある。
 
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。」


ということで維持審決取消し。
  


■タダラフィル用量特許の維持審決、進歩性判断に誤りがあるとして取消し

 
<判決紹介>
・平成27(行ケ)10113
  審決取消請求事件
・平成28324日判決言渡
・知的財産高等裁判所第3部 鶴岡稔彦、大西勝滋、神谷厚毅
・原告東和薬品株式会社
・被告イコス・コーポレイション
・特許4975214(単位製剤)


■コメント
新薬 vs ジェネリックの特許維持審決取消訴訟。

先発品はシアリス錠(タダラフィル)で、後発品はなし。
2013
12月に無効審判請求 → 20154月に維持審決 → 同6月に取消訴訟を提起していました。
今回判断されたのは、甲10等に基づいて進歩性があるかどうか。

本件特許の請求項1は下記の通り。

「【請求項1
1
日あたり20mgの総用量を上限として,以下の構造式:
【化1
20160402_biopatentblog.png 
を有する化合物を単位製剤あたり1乃至20mg含み,ヒトにおける勃起不全の処置に使用される内服用単位製剤。」



審決が認定した甲10発明、一致点、相違点は下記の通り。

「ア 甲10発明
1
日あたり0.5800mgのタダラフィルを単位製剤あたり0.2400mg含み,ヒトにおける勃起不全の処置に使用される内服用単位製剤

イ 本件発明1と甲10発明との一致点
「タダラフィルを含み,ヒトにおける勃起不全の処置に使用される内服用単位製剤。」の発明である点。

ウ 本件発明1と甲10発明との相違点
(
) 相違点1本件発明1は,「1日あたり20mgの総用量を上限」とするのに対し,甲10発明は,「1日あたり0.5800mg」である点。
(
) 相違点2本件発明1は,「単位製剤あたり1乃至20mg含」むのに対し,甲10発明は,「0.2400mg含」む点。」



審決の理由の要旨はおおよそ下記の通り。

・優先権主張の効果が認められ,進歩性判断の基準日は1999年(平成11年)426日(判決注・430日の明らかな誤記であると認める。)となる。
・本件発明1は甲10等に基づいて,当業者が相違点1に係る構成を容易に着想できたとはいえないし,本件発明1は,甲10記載の発明から予測できない効果も奏しているから,相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲10ないし14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
・実施可能要件、サポート要件を充足する。
・請求項113の記載は明確である。



裁判所の判断は下記の通り。

4 当裁判所の判断
事案に鑑み取消事由3から判断する。
1
取消事由3(甲10発明に基づく本件発明1の容易想到性の判断の誤り)について
・・・

(
3) 相違点1の容易想到性について
原告は,相違点1に関し,甲10において開示された「0.5800mg」の範囲内で,甲10の実施例の「50mg」や,同効薬であるシルデナフィルの最も少ない量である「10mg」の用量を参考にして,副作用を考慮し,下限値である「0.5mg」程度といった十分な低用量から始めて,徐々に用量を上げて,薬効と副作用の観点から上限値を定めることは,当業者がごく一般的な臨床試験プロセスの中で容易になし得ることにすぎない旨主張するので,以下検討する。

ア ヒトにおける薬物の用法・用量の決定手法に関する技術常識について
(
) 24(「新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」平成4629日薬新薬第43号各都道府県衛生主管部長宛厚生省薬務局新医薬品課長通知)の記載
24には以下の記載がある。
a
「臨床試験の目的は,治療薬の疾患又は症候に対する治療的ないし予防的効果や,さらにその使用に際しての危険性や副作用をヒトについて検討し,最終的には治療効果と副作用の相対的評価などに基づいて,臨床における有用性を評価することにある。」(124行) b 「ごく初期の臨床試験の目的は,薬効又は副作用の面から投与量を徐々に上げながら決定して行くことである。」(81112行) c 「最小有効量のみならず,有効で安全な最大値をできるだけ検討し,有効量と安全量の範囲を明らかにしておくことが望ましい。」(1045行)
d
3)用法・用量
 
非臨床試験での全成績を詳細に検討,整理記録し,同効薬,類似構造薬に関する従来の知識,経験をも加味し,ヒトに対し
て十分に安全と見込まれる用量を推定して,初回投与量とする。次に段階的に用量を増し,推定臨床単回投与量を上回るまで単回投与し,用量増加に関連した薬理作用,薬物動態,副作用を調べ,可能ならば有効性の初期徴候を集める。これらの成績に基づいて反復投与量,投与期間を決定する。反復投与試験は,血中濃度が測定可能な治験薬については,血中濃度が定常状態に達するまで行う。血中濃度が測定し得ない治験薬については,臨床における将来の使用状況を推定し,薬効や副作用の出現に注意しながら適切な期間行われるべきである。いわゆる有害反応発現までの用量の範囲を求めることは行い難い状況にあることが少なくないが,その場合には,それまでに得られている非臨床試験成績との関連において,ヒトでの忍容性についての十分な根拠を綿密に検討しておくべきである。」(14頁下から5行~158行)

(
) 64(伊賀立二監修「薬剤予測学入門」,株式会社薬業時報社,平成5831日発行)
a
医薬品の用法・用量の科学的設定は,可能であるだろう。 …既にいくつかの同効薬(たとえば,効果発現のレセプター,酵素,イオンチャンネルが共通であることがわかっているもの)があって,別の新たな同効薬(俗にいう「ゾロ新」)の開発をめざす場合を想定して構築されたものである。すなわち…既存の医薬品に関しての前臨床試験の薬効・薬理データ(また場合によっては,一般薬理試験,毒性試験データも利用)と用法・用量設定のための臨床試験データの関係を遡及的に解析することにより,何らかの法則性を見出し,同効薬と考えられる未知の薬物の用法・用量を新たに設定するというものである。」(165頁の標題,16513行~1662行)

b
薬剤予測学において 薬物作用(薬効・薬理作用,副作用・
毒性作用)の評価の位置づけは,研究者の念頭に常に置かれていなければならない。

20160402_2_biopatentblog.png
6-10 最小の副作用の下で最大の薬効・薬理作用を得るための投与設計。
点線は薬効・薬理作用,実線は副作用・毒性作用を示す。最小の副作用で最大の薬理効果を得るためには,たとえば矢印の投与量,血中濃度が至適値ということになる。

これらの薬物作用の客観的指標と血中薬物濃度との関係から,最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果を得るための投与設計(用法・用量)が与えられるのである(図6-10)。」(359頁の標題,360頁の図6-10及び1719行)

(
) 前記()及び()によれば,本件優先日当時,研究開発された薬物の臨床における有用性を評価するために,ヒトへ薬物を投与する臨床試験を行うところ,その際の薬物の用法・用量については,非臨床試験での全成績を詳細に検討し,同効薬,類似構造薬に関する従来の知識,経験をも加味し,ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して初回投与量とし,次に段階的に用量を増し,推定臨床単回投与量を上回るまで単回投与して,用量増加に関連した薬理作用,薬物動態,副作用を調べ,これらの成績に基づいて,反復投与量,投与期間を決定し,最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような用法・用量の検討を行うことが,技術常識となっていたと認められる。

イ シルデナフィルの薬効,用量,副作用について
(ア) 本件優先日当時,シルデナフィルは,・・・

ウ 相違点1の容易想到性について
(ア) 甲10には,タダラフィルは,PDE5阻害剤であって,ヒトの勃起機能不全の処置に有用であること(前記(2)ア(ア)ないし(カ),(ケ),(コ)),その用量について,平均的な成人患者(70kg)に対して1日当たり,概ね0.5~800mgの範囲であり,個々の錠剤又はカプセル剤は,1日当たり単回又は数回,単回投与又は反復投与のため,好適な医薬上容認できる賦形剤又は担体中に0.2~400mgの有効成分を含有するものであることが記載され(前記(2)ア(オ)),さらに,具体的に,タダラフィルを50mg含む錠剤及びカプセルの組成例(前記(2)ア(キ),(ク))が記載されている。 
また,「実際には,医師は,個々の患者に最も適している実際の投与計画を決定するが,それは特定の患者の年齢,体重および応答によって変化する。上記の投与量は,平均的な場合の例であり,より高い又は低い用量範囲が有益であるような個々の事例が存在するかもしれないが,いずれも本発明の範囲内である。」(前記(2)ア(オ))と,実際の患者に投与する場合には,医者が最も好適と考えられる投与計画を決定することも記載されている。 
さらに,タダラフィルを用いたインビトロ試験において,PDE5阻害作用につき,IC50が2nMであったことが記載されている(前記(2)ア(コ))。

(イ) 前記(ア)の記載に接した当業者であれば,甲10発明に係るタダラフィルにつき,平均的な成人患者(70kg)に対して1日当たり,概ね0.5~800mgの範囲において,ヒトの勃起機能不全の処置に有用であり,具体的には50mgのタダラフィルを含む錠剤ないしはカプセルが一例として考えられること,もっとも,実際の患者に投与する場合には,好適と考えられる投与計画を決定する必要があることを理解すると認められるところ,タダラフィルと同様にPDE5阻害作用を有するシルデナフィルにおいて,ヒトに投与した際,PDE5を阻害することによる副作用が生じることが本件優先日当時の技術常識であったことから(前記イ(ウ)),甲10のタダラフィルを実際に患者に投与するに当たっても,同様の副作用が生じるおそれがあることは容易に認識できたものといえる。そして,薬効を維持しつつ副作用を低減させることは医薬品における当然の課題であるから,これらの課題を踏まえて上記の用量の範囲内において投与計画を決定する必要があることを認識するものと認められる。そうすると,そのような当業者において,前記アの技術常識を踏まえ,甲10に記載された用量の下限値である0.5mgから段階的に量を増やしながら臨床試験を行って,最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような投与計画の検討を行うことは,当業者が格別の創意工夫を要することなく,通常行う事項であると認められる。

加えて,前記()のとおり,10のタダラフィルに関するインビトロ試験の結果によれば,タダラフィルのPDE5阻害作用はシルデナフィル(前記イ())に比べ強いことが示されているのであるから,タダラフィルが,インビトロ試験と同様にインビボ試験である臨床試験においても,強いPDE5阻害作用を発揮する可能性を考慮に入れて,タダラフィルの用量としてシルデナフィルの用量である10mg50mg(前記イ())及びそれよりも若干低い用量を検討することも,当業者において容易に行い得ることである。
以上によれば,甲10発明について,適切な臨床における有用性を評価するために臨床試験を行い,最小の副作用の下で最大の薬効・薬理効果が得られるような範囲として,相違点1に係る範囲を設定することは,当業者が容易に想到することができたものと認められる。

エ 被告の主張について
(ア)被告は,・・・
しかしながら,ヒトに対する適切な用法・用量を決定することに関し,臨床試験においては,前記ア()のとおり,非臨床試験での全成績を詳細に検討し,同薬効,類似構造薬に関する従来の知識,経験をも加味して決定されるものとされている以上,タダラフィルと同様にPDE5阻害作用を有するシルデナフィルの用量や,タダラフィルのインビトロ試験データを参考にすることも,当業者が当然行うことと認められる。この点につき,タダラフィルの用量の検討に当たり,シルデナフィルは参考にできないほど薬物動態が異なるという知見が存在することをうかがわせる証拠もない。そして,医薬品の開発は,インビトロ試験で有用な薬理効果が確認された化合物について,動物試験,さらにはヒトに対する臨床試験を行い(甲24参照),最適な用量が決定されるものであるが,この過程を経ること自体は,ヒトに医薬品を投与する際の適切な用量を決定するに当たって通常想定されることであって,当業者が容易になし得ることであるから,これらを行う必要があったことを根拠として,医薬品の用量・用法に関する発明につき容易想到性を否定することはできない。このように,前記ウの容易想到性の判断は,甲10に示されたインビトロ試験データから直ちに相違点1の構成を予測できることをいうものではないから,被告の主張は当を得たものとはいえない。

(
) 被告は,・・・
しかしながら,甲10発明に係るタダラフィルの適切な用量を決定するに当たり,甲10において開示された「毎日0.5800mgの範囲」の記載や,実施例の「50mg」の製剤例を参考にすること自体は何ら不合理なことではない。そして,インビトロ試験の値からインビボ試験の値を予測する方法や,IC50値やEC50値などのインビトロ試験の値と上記の用量範囲との関連性の記載がなくとも,実施例の50mg1つの参考値として視野に入れつつ,甲10発明の用量の下限値である0.5mgから段階的に量を増やしていくことにより,相違点1に係る構成に到達することが当業者は容易になし得たことは前記ウのとおりである。
したがって,被告の上記主張は採用することはできない。
・・・

(
4) 顕著な効果の判断について
被告は,・・・
ア 薬効について
本件特許明細書の表6(別紙1参照)には,偽薬,タダラフィルを単位用量2mg5mg10mg25mg50mg100mgで投与した際の,IIEF勃起機能ドメインのベースラインからの変化の数値(平均±SD(標準偏差))として,それぞれ,0.8±5.33.9±6.16.6±7.17.9±6.79.4±7.09.8±5.58.4±6.1であることが記載されている。また,甲36には,単位用量20mgを投与した際に8.6であったことが示されている。 しかしながら,甲10には,甲10発明に係るタダラフィルが,PDE5阻害剤であって,勃起機能不全の処置に有用であることが記載されているところ,本件特許明細書及び甲36に示された上記の内容は,平均値のみで比較した場合,偽薬から2mgでは3.12mgから5mgでは2.75mgから10mgでは1.310mgから20mgでは0.720mgから25mgでは0.825mgから50mgでは0.4のそれぞれ増加が示されているのであって,概ね用量が50mgまでの範囲内においては,用量が増加するにつれて薬効が強くなるが,それより用量が増加すると薬効の増加の程度は小さくなるという一般的な知見(甲64,図6-10)に沿う内容を示すものにとどまるし,本件発明1の構成(上限20mgとする構成)を採用したことにより,当該範囲において,薬効の点で格別に顕著な効果を奏することを示すものでもない。

イ 副作用について
() 視覚異常について
・・・
(
) 顔面紅潮について
・・・
(
) 硝酸塩等との併用について
・・・
(
) その余の副作用について
・・・
また,頭痛,消化不良,背部痛,筋肉痛,結膜炎及び眼瞼浮腫については,それらの副作用が発生し始める単位用量の値はそれぞれ異なるが,2mgから100mgへと単位用量が増加するにつれて発生率が上昇していく傾向が示されており,これは用量が増加するにつれ,副作用が発生する頻度が高まるという副作用の発生傾向に関する一般的な知見(甲64,図6-10)と同様の結果が示されているものであり,上記表7の記載から,これと異なり,本件発明1の構成の範囲において,上記各副作用の低減に格段の効果が存するものとは認められない。なお,・・・
そうすると,本件特許明細書に記載された,頭痛,消化不良,背部痛,筋肉痛,鼻炎,結膜炎及び眼瞼浮腫の副作用の発生率に関しても,本件発明1の構成を採用したことにより,これらの低減につき格別に顕著な効果があるとは認められない。
・・・

ウ 本件審決の判断について
なお,本件審決は,副作用が少ないという点のみならず,本件発明1において「ヒトにおける勃起不全の処置に使用」した際に有効であることが確認されていることが甲10発明から予測できない効果である旨判断している。
しかしながら,前記(3)()の技術常識の存在に照らせば,本件発明1において「ヒトにおける勃起不全の処置に使用」した際に有効であることが確認されたことを予測できない効果であるということはできない。

エ 小括
以上によれば,本件発明1につき,甲10発明から予測できない効果を奏しているとした本件審決の判断には誤りがある。
・・・

2 結論
以上によれば,原告主張の取消事由3は理由があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものである。
よって,主文のとおり判決する。」



なお、審決は相違点1について以下のように判断していました。

「これに対し、甲第10号証には臨床試験を行った結果は何も記載されておらず、甲10発明の「0.5~800mg」という範囲に関する一般的な説明(例えば上限値や下限値の導出過程)もなく、PDE5に関するインビトロ試験データ(EC50値等、甲10-10)が記載されているだけにすぎないから、結局、甲第10号証には、タダラフィルをヒトに投与した場合に有効である可能性があることが示されている程度にすぎないし、副作用については示唆すらないと認められる。
 そうすると、甲第10号証は、タダラフィルをヒトに投与した場合の用量に応じた有効性について何ら予測性を与える情報を提示していないものであり、ましてや、副作用が少なく、かつ、有効な用量範囲が存在することは、甲第10号証から当業者が予測できるものではない。
・・・

そうすると、甲11号証乃至甲第14号証は、いずれもPDE5の選択的な阻害剤による勃起不全の治療に関するものである点で甲第10号証と技術分野が一致しているものの、シルデナフィルに関するものであってタダラフィルに関して何も記載されていないのであるから、仮に、甲10発明と甲11号証乃至甲第14号証に記載された発明を組み合わせる動機付けがあるとしても、タダラフィルの1日あたりの総用量を「1日あたり20mgの総用量を上限」とすることを容易に着想することができたとは言えない。

しかも、「ヒトにおける勃起不全の処置に使用」した際の有効性に関し、甲10発明は、「1日あたりの総用量」が「1日あたり20mgの総用量を上限」である範囲(を含む「0.5800mg」という範囲のいずれ)において必ずしも有効であるとはいえないのに対し、本件発明1は、「ヒトにおける勃起不全の処置に使用」した際に有効であることが確認されている上に、副作用も少ないという効果を奏する(本件特許明細書の段落【0094】)のであるから、本件発明1は、甲10発明から予測できない効果も奏していると認められる。
そうすると、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第10乃至14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。」



比べるとなかなか面白いですね。
裁判所にはできれば優先権主張の方も判断してほしかったですが。
   ☆☆☆



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プロフィール

徳重大輔


Author: 徳重大輔

バイオ、医薬、特許関連のブログです。
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SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書はバイオ医薬(特に抗体医薬)、調査は無効資料調査が特に得意です。

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