■2017-01-

■「延長された特許権の効力」の知財高裁大合議判決

 
<判決紹介>
・平成28(ネ)10046号 特許権侵害差止請求控訴事件
・平成29120日判決言渡
・知的財産高等裁判所特別部 設樂隆一 清水節 髙部眞規子 鶴岡稔彦 寺田利彦
・控訴人:デビオファーム・インターナショナル・エス・アー
・被控訴人:東和薬品株式会社
・特許3547755


コメント:
新薬 vs ジェネリックの侵害訴訟。
延長された特許権の効力」についての知財高裁大合議判決です。

ヤクルト社(専用実施権者)は先発品のエルプラット点滴静注液50,100,200mg(一般名:オキサリプラチン)を販売しています。
東和薬品は後発品のオキサリプラチン点滴静注50,100,200mg「トーワ」を販売しています。

デビオファーム社は先発品をカバーする製剤特許3547755を有しています。
この製剤特許は、延長登録出願により、最長で2020/1/29まで存続期間が延長されています。
クレーム1は下記の通りです。

「【請求項1
濃度が1ないし5mg/ml
B  pH
4.5ないし6
オキサリプラティヌムの水溶液からなり
医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,
該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,
腸管外経路投与用の
オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。」



一審(東京地裁)でデビオファーム社は、上記の延長された特許権の効力が東和薬品の後発品に及ぶと主張し、後発品の生産等の差止め及び廃棄を求めていました。それに対して、一審判決は、延長された特許権の効力は後発品に及ばないと判断していました。
一審判決は下記ページで紹介しています。

2016/4/20 平成27()12414号 特許権侵害差止請求事件

本件は、デビオファーム社が一審判決を不服として控訴した事案です。



本件で、知財高裁大合議は、後発品が、
本件処分の対象となった物と実質同一なものに含まれるということはできないと判断し、延長された特許権の効力は後発品に及ばないと判断しました。 控訴棄却。

さらに、そもそも後発品は本件特許発明の技術的範囲に属さないとも判断しました。技術的範囲に属さないということは、それだけ本件特許発明と後発品は別物であったということでも
あり、「実質同一か否か」の観点に関しては、今後、技術的範囲に属する場合の侵害訴訟が提起された場合には、もう一歩踏み込んだ判断が必要になると思います。
後発品メーカーの戦略として、製剤特許を取得しておいて、実質同一ではない根拠を作っておくっていうのも一考だと思います。



裁判所の判断は下記の通り。

「第4 当裁判所の判断
 当裁判所も,存続期間が延長された本件特許権の効力は,一審被告による一審被告各製品の生産等には及ばず,本件請求は理由がないものと判断する。
 その理由は,以下のとおりである。
1
68条の2に基づく延長された特許権の効力の及ぶ範囲について
・・・。

イ 上記アによれば,相手方が製造等する製品(以下「対象製品」という。)が,具体的な政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」において異なる部分が存在する場合には,対象製品は,存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属するということはできない。しかしながら,政令処分で定められた上記審査事項を形式的に比較して全て一致しなければ特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば,政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復するという延長登録の制度趣旨に反するのみならず,衡平の理念にもとる結果になる。このような観点からすれば,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力は,政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず,これと医薬品として実質同一なものにも及ぶというべきであり,第三者はこれを予期すべきである(なお,法68条の2は,「物についての当該特許発明の実施以外の行為には,及ばない。」と規定しているけれども,同条における「物」についての「当該特許発明の実施」としては,「物」についての当該特許発明の文言どおりの実施と,これと実質同一の範囲での当該特許発明の実施のいずれをも含むものと解すべきである。)。
 したがって,政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても,当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ,存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属するものと解するのが相当である。

ウ そして,医薬品の成分を対象とする物の特許発明において,政令処分で定められた「成分」に関する差異,「分量」の数量的差異又は「用法,用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり,他の差異が存在しない場合に限定してみれば,僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは,特許発明の内容(当該特許発明が,医薬品の有効成分のみを特徴とする発明であるのか,医薬品の有効成分の存在を前提として,その安定性ないし剤型等に関する発明であるのか,あるいは,その技術的特徴及び作用効果はどのような内容であるのかなどを含む。以下同じ。)に基づき,その内容との関連で,政令処分において定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して,当業者の技術常識を踏まえて判断すべきである。

 上記の限定した場合において,対象製品が政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と医薬品として実質同一なものに含まれる類型を挙げれば,次のとおりである。

 すなわち,
①医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において,有効成分ではない「成分」に関して,対象製品が,政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合,

②公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において,対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合で,特許発明の内容に照らして,両者の間で,その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき,

③政令処分で特定された「分量」ないし「用法,用量」に関し,数量的に意味のない程度の差異しかない場合,

④政令処分で特定された「分量」は異なるけれども,「用法,用量」も併せてみれば,同一であると認められる場合(本件処分12,本件処分5ないし7がこれに該当する。)

は,これらの差異は上記にいう僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異に当たり,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれるというべきである(なお,上記①,③及び④は,両者の間で,特許発明の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認される類型である。)。

 これに対し,前記の限定した場合を除く医薬品に関する「用法,用量,効能及び効果」における差異がある場合は,この限りでない。なぜなら,例えば,スプレー剤と注射剤のように,剤型が異なるために「用法,用量」に数量的差異以外の差異が生じる場合は,その具体的な差異の内容に応じて多角的な観点からの考察が必要であり,また,対象とする疾病が異なるために「効能,効果」が異なる場合は,疾病の類似性など医学的な観点からの考察が重要であると解されるからである。



エ 最高裁平成10224日第三小法廷判決・民集521113頁(ボールスプライン事件最判)は,・・・
 以上によれば,法68条の2の実質同一の範囲を定める場合には,前記の五つの要件を適用ないし類推適用することはできない。

オ ただし,一般的な禁反言(エストッペル)の考え方に基づけば,延長登録出願の手続において,延長登録された特許権の効力範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がある場合には,法68条の2の実質同一が認められることはないと解される。
・・・。



2
本件についての検討
 以上に基づいて,延長登録された本件特許権の効力が一審被告各製品の生産等に及ぶか否かについて判断する。
・・・

 延長登録された本件特許権の効力は,本件各処分の「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」についての「当該特許発明の実施」の範囲で及ぶところ,本件各処分の「成分」は,文言解釈上,いずれもオキサリプラチンと注射用水のみを含み,それ以外の成分を含まないものである。
 これに対し,一審被告各製品の「成分」は,いずれもオキサリプラチンと注射用水以外に,添加物としてオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを含むものであり,その使用目的が安定剤であることは,前記第22(4)イのとおりである。

 そうすると,本件各処分の対象となった物と一審被告各製品とは,少なくとも,その「成分」において文言解釈上異なるものというほかなく,この点の差異が,僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異であるとして,法68条の2の実質同一といえるのか否かを判断すべきことになる。
 この点,一審原告は,一審被告各製品がいずれもオキサリプラチンを唯一の有効成分としているから,本件各処分の対象となった物に当たる旨主張する。しかし,政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合,当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった物を特定するための事項としての「成分」が有効成分に限られないことは,前示のとおりであって,採用できないというべきである。

(2)
一審被告各製品が本件各処分の対象となった物と実質同一なものに含まれるか否かについて
 一審被告各製品と本件各処分における「成分」における上記差異が,僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異であり,実質同一の範囲内の差異か否かについては,本件発明の内容に基づき,その内容との関連で,本件各処分において定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して,当業者の技術常識を踏まえて,これを認定判断する必要がある
・・・。

 これによれば,本件発明においては,オキサリプラティヌム水溶液において,有効成分の濃度とpHを限定された範囲内に特定することと併せて,何らの添加剤も含まないことも,その技術的特徴の一つであるものと認められる。

 以上によれば,本件各処分と一審被告各製品とにおける「成分」に関する前記差異,すなわち,本件各処分の対象となった物がオキサリプラティヌムと注射用水のみからなる水溶液であるのに対し,一審被告各製品がこれにオキサリプラティヌムと等量の濃グリセリンを加えたものであるとの差異は,本件発明の上記の技術的特徴に照らし,僅かな差異であるとか,全体的にみて形式的な差異であるということはできず,したがって,一審被告各製品は,本件各処分の対象となった物と実質同一なものに含まれるということはできない。

ウ よって,一審被告各製品は,作用効果の同一性などその余の点について検討するまでもなく,本件各処分の対象となった「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」についての本件発明の実施と実質同一なものとして,延長登録された本件特許権の効力範囲に属するということはできない。



(3)
技術的範囲の属否について
一審被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するかについても判断する。
 本件発明の特許請求の範囲の記載の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」との構成要件Cは,オキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であるのか,オキサリプラティヌムと水からなる水溶液であれば足り,他の添加剤等の成分が含まれる場合も包含されるのかについて,特許請求の範囲の記載自体からは,いずれの解釈も可能である。そこで,構成要件Cについては,本件明細書の記載及び出願の経過を参酌して判断する。
・・・。

 以上によれば,本件発明の特許請求の範囲の記載の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」(構成要件C)との文言は,本件発明がオキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であって,他の添加剤等の成分を含まないことを意味するものと解さざるを得ない
 これに対し,一審被告各製品は,オキサリプラチンと注射用水のほか,有効成分以外の成分として,オキサリプラチンと等量の濃グリセリンを含有するものであるから,一審被告各製品は,その余の構成について検討するまでもなく,本件発明の技術的範囲に属さないものといわざるを得ない(なお,(1)及び(2)のとおり,本件においては,法68条の2の延長登録された特許権の効力範囲について
の判断が先行したが,これは本事案の経緯とその内容に鑑み,そのようになったにすぎず,通常は,まず,相手方の製品が特許発明の技術的範囲に属するかどうかを先に判断することも検討されるべきである。)。

(4) 
小括
 以上のとおりであるから,一審被告各製品に対し,延長登録された本件特許権の効力は及ばない。



3 当審における一審原告の追加的主張について,必要な限度で判断する。
(1) 一審原告は,延長登録された特許権の効力範囲における実質同一物等に当たるかどうかは,特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨に基づいて検討すべきものである以上,問題とすべきは,「先発医薬品が処分を受けるために特許発明の実施ができなかったことにより得られた成果に全面的に依拠して,安全性の確保等法令で定めた試験等を自ら行うことなく,承認を得ているかどうか」であり,技術的範囲の通常の理解に照らして検討するのは誤りである,そして,一審被告各製品のように,添加剤を異にする後発医薬品であっても,先発医薬品が処分を受けるために特許発明の実施ができなかったことにより得られた安全性の確認等の成果に全面的に依拠して,自らは安全性の確保等に関して法令で定めた試験等を行うことなく,承認を得て製造,販売しているものであれば,当然に実質同一物等に該当すると解釈すべきである旨主張する(その論拠として,後発医薬品としての一審被告各製品の位置付けや,後発医薬品において使用される添加剤に関し厳格な規制が存することなどを挙げる。)。 

 しかしながら,一審原告の主張は,要するに,医薬品の承認制度の面から,後発医薬品として承認されたものは全て実質同一物等に当たる(先発医薬品に係る特許発明の効力が及ぶ)と断じるに等しく,法68条の2の制度趣旨や解釈論を無視するものであって,採用することはできない。・・・。 

 しかるに,一審原告の主張は,当該特許発明の内容に関わらず,いわば医薬品としての有効成分や治療効果のみに着目して延長された特許権の効力範囲を論ずるものであり,これは前記のとおりの法68条の2の制度趣旨や解釈論に反することが明らかであって,採用することはできないというべきである。」


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徳重大輔


Author: 徳重大輔

バイオ、医薬、特許関連のブログです。
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SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書はバイオ医薬(特に抗体医薬)、調査は無効資料調査が特に得意です。

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