■2018-10-

■<ハーセプチン用法特許の審決取消訴訟> 実施例に書いた定性的効果(未来形)に基づいて実験データを提出したが、定性的効果を超えて参酌することはできないと判断された事例


<判決紹介>
・平成29年(行ケ)第10106 審決取消請求事件
・平成301022日判決言渡
・知的財産高等裁判所第2 森義之 森岡礼子 古庄研
・原告:セルトリオン・インコーポレイテッド
・同補助参加人:ファイザー株式会社
・被告:ジェネンテック,インコーポレイテッド
・特許5623681
・発明の名称:抗-ErbB2抗体による治療


■コメント
最近、ハーセプチンの特許に関して、2件の判決が出ました。
知財高裁は、2件とも無効審判の維持審決を取り消しました。
1
つは特許5818545に関するもので、前回のブログ記事で紹介しています。

(2018-10-25)ハーセプチン用法用量特許、知財高裁は進歩性なしと判断(シミュレーションの件)


今回は特許5623681の判決を紹介します。
無効審判の方は、下記のブログ記事で紹介しています。

(2017-08-25)ハーセプチン用法特許の無効審判事例 ~後出しデータの参酌の可否~


8
25日のブログのタイトルの通り、後出しデータの参酌の可否が注目の論点です。
結論としては、特許庁(審判官)は参酌し、知財高裁(裁判官)は参酌しませんでした。
このケースで参酌するのは審判請求人(原告)に厳しいなと思っていたので、知財高裁の判断には納得感があります。

本件特許の請求項1は以下の通りです。

「【請求項1
  ErbB2
タンパク質が発現した乳腫瘍であると診断されたヒトの患者を治療するための,治療的有効量のヒト化4D5ErbB2抗体を含有してなる医薬であって,該治療がa該医薬によって患者を治療する,b外科的に腫瘍を除去する,及びc該医薬又は化学療法剤によって患者を治療するという工程を順次行うことを含む治療である,医薬。」


裁判所の判断は以下の通りです。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
当裁判所の判断
  1 
本件特許発明について
・・・

3
取消事由3(甲1を主引例とする進歩性判断の誤り)について
事案に鑑み,取消事由3から検討する。
1 1発明の認定
 
前記21)アの甲1の記載によると,甲1には,次の甲1発明が記載されていると認められる。
HER2が過剰発現した乳腫瘍であると診断されたヒトの患者を治療するための,治療的有効量のヒト化4D5HER2抗体を含有してなる医薬であって,その治療が(a)その医薬,又は,その医薬及び治療的有効量のパクリタキセル,アントラサイクリン,シクロホスファミド,ドキソルビシン,エピルビシン等の化学療法剤によって患者を治療するという工程を含む治療である,医薬。」

2 本件特許発明1と甲1発明との相違点の認定
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると,下記アの点で一致し,下記イの相違点1で相違する。
一致点
ErbB2タンパク質が発現した乳腫瘍であると診断されたヒトの患者を治療するための,治療的有効量のヒト化4D5ErbB2抗体を含有してなる医薬」である点
相違点1
その医薬を,本件特許発明1では,(a)その医薬によって患者を治療する,(b)外科的に腫瘍を除去する,及び(c)その医薬又は化学療法剤によって患者を治療するという工程を順次行うことを含む治療に適用するのに対し,甲1発明では,このような工程を順次行うことを含む治療に適用することが特定されていない点。

3 相違点1の容易想到性について
ア(ア) 1発明の医薬は,治療的有効量の抗HER2抗体を含有する医薬であるが,前記21)オによると,本件優先日当時,①抗HER2抗体は,HER2蛋白の細胞外領域に対し結合することにより,HER2蛋白を過剰発現する乳がん細胞の増殖を抑制するとともに,抗体依存性細胞障害(ADCC)を示すこと,②HER2蛋白の過剰発現は,転移性乳がんに限らず,初期乳がんの25%~30%で観察されること,③HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有する転移性乳がん患者の臨床試験では,パクリタキセルを含む特定の化学療法剤の単独投与群に比べて,その化学療法剤と抗HER2抗体の併用投与群の方が病勢進行の期間(無増悪期間)が長期化し,全奏効率(ORR)が向上し,反応期間の中央値が長期化し,1年間の生存率が高まるなど,抗腫瘍効果が増強されることが観察されたこと,④抗HER2抗体の臨床試験では,単剤投与においても,化学療法剤との併用投与においても,HER2蛋白をより強く発現している症例の方が抗腫瘍効果,無増悪期間ともに優れている傾向にあったことは,いずれも技術常識であったものと認められる。
 
また,前記23)エによると,本件優先日当時,乳がんの治療薬の開発においては,転移性乳がんの患者に対する抗がん効果を踏まえて,手術可能乳がんの患者に対する抗がん効果を確認することになることは,技術常識であったものと認められる。
 
そして,これらに,本件優先日前に頒布された刊行物であり,「乳がんのための術前補助療法の将来的方向」を表題とする甲2には,抗HER2抗体とドキソルビシン,シクロホスファミドを転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介した直後に,「一次化学療法と組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がんの患者で評価されるべきものである」と記載されている(前記21)イ(ア)(カ))ことを総合すると,甲1に接した当業者は,HER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がんの治療のために,治療的有効量の抗HER2抗体を含有する医薬である甲1発明の医薬を適用することを容易に想到するものと認められる。
(イ) 前記21)オ,(2)エによると,本件優先日当時,①乳がんにおいて,乳房温存の成否は一般に女性のQOL(生活の質)に大きな影響を与えるところ,術前補助療法は,手術をより容易とし,乳房温存も高率に可能とすることが示されていたこと,②手術可能乳がんにおいて,術前化学療法,次いで外科的に腫瘍を除去し,更に術後補助化学療法を行うことは,一般的治療法として行われていること,③HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有する転移性乳がん患者の臨床試験では,パクリタキセルを含む特定の化学療法剤の単独投与群に比べて,その化学療法剤と抗HER2抗体の併用投与群の方が病勢進行の期間(無増悪期間)が長期化し,全奏効率(ORR)が向上し,反応期間の中央値が長期化し,1年間の生存率が高まるなど,抗腫瘍効果が増強されることが観察されたことは,技術常識であったと認められる。また,本件優先日前に頒布された刊行物である甲3には,HER2過剰発現の転移性乳がん患者に対する抗HER2抗体とパクリタキセルなどの化学療法剤の併用投与が化学療法剤の単独投与に比べて全寛解率,進行までの中央値時間とも優れた効果を発揮したことを紹介した上で,「転移性状況や術後補助状況で成功することが分かっている新規の化学療法戦略はまた,術前処置においても潜在的に適用されうる」と記載されている(前記21)ウ(オ)(カ))。
そして,これらに,本件優先日前に頒布された刊行物であり,「乳がんのための術前補助療法の将来的方向」を表題とする甲2には,抗HER2抗体とドキソルビシン,シクロホスファミドを転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介した直後に,「一次化学療法と組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がんの患者で評価されるべきものである」と記載されている(前記21)イ(ア)(カ))ことを総合すると,甲1に接した当業者が,HER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がんの治療のために,手術前に甲1発明の医薬を化学療法剤と併用投与し,手術を行い,更に手術後に甲1発明の医薬を化学療法剤と併用投与することは,容易に想到し得たものと認められる。

イ(ア) 被告は,本件優先日当時,トラスツズマブの生体内における作用機序は未だ研究対象であり,化学療法についても投与計画について検討が続けられており,いずれの文献にも,乳がんの治療において,抗体を術前投与するという記載は全く存在していなかったから,未だ承認されたばかりの新規の抗体を,その奏効が確認されつつあった化学療法剤の術前投与に代えて,又は加えて,投与してみることは,当業者であればこそ考えないなどと主張する。
 
しかし,前記アのとおり,抗HER2抗体である甲1発明の医薬を手術前に化学療法剤と併用投与することは,当業者が容易に想到し得たものである。
 
また,前記21)オのとおり,抗HER2抗体には心毒性があり,投与により心室機能不全及びうっ血性心不全が起こり得るものと認められるが,甲1発明の医薬は転移性乳がんの患者を対象とした医薬製剤として承認されているものであり,手術可能乳がんの患者に対する適用をためらわせるほどに安全性に問題があるものとは認められない。
(イ) 被告は,甲2について,論文全体を通じて,最適な治療レジメンにおいては,まず化学療法が行われ,他の治療法は時間的に後で実施されると明確に述べているなどと主張するが,甲2は,「乳がんのための術前補助療法の将来的方向」という表題の論文であり,抗HER2抗体とドキソルビシン,シクロホスファミドを転移性乳がん患者に対し併用投与する臨床試験を紹介した直後に「一次化学療法と組み合わせたこれらの新たな戦略の役割は,早期乳がんの患者で評価されるべきものである」と記載されているのであるから,早期乳がんの患者に対して抗HER2抗体と化学療法を組み合わせて術前に処方することが示唆されているということができ,前記アのとおり,甲2の記載は抗HER2抗体である甲1発明の医薬を手術前に化学療法剤と併用投与することを動機付けるものということができる。
(ウ) 被告は,転移リスクの高いがん(既に転移したがん)の細胞は,原発部位に留まるがんの細胞とは性質が異なるなどと主張する。
しかし,前記23)ウのとおり,本件優先日当時,がんにおいて,転移巣の組織像は基本的には原発巣と同一であると考えられていたところ,被告は,HER2蛋白を過剰発現した転移性乳がんの細胞とHER2蛋白を過剰発現した手術可能乳がんの細胞とのいかなる性質の違いが,どのような理由によりHER2蛋白の細胞外領域に対し結合する抗HER2抗体(標的化治療薬)をHER2蛋白を過剰発現した手術可能乳がんの細胞に適用することの支障となり得るのかを具体的に主張しておらず,HER2蛋白を過剰発現した転移性乳がんの細胞とHER2蛋白を過剰発現した手術可能乳がんの細胞との性質の違いが,HER2蛋白の細胞外領域に対し結合する抗HER2抗体(標的化治療薬)をHER2蛋白を過剰発現した手術可能乳がんの細胞に適用することの支障となることを示す証拠も見当たらない。
 
したがって,被告の上記主張は,前記アの判断を左右するものとは認められない。

4 本件特許発明1の効果について
前記1のとおり,本件訂正明細書には,本件特許発明1の効果として,臨床試験の結果などは示されておらず,「上記の治療方法に従って治療された患者は,全体的に改善された生存者,及び/又は腫瘍の進行時間(TTP)の延長を示すであろう。」(【0119】)との記載があるにとどまる。

ところで,前記21)(2)の各刊行物の記載からすると,乳がんにおいて,生存率及び腫瘍の進行時間(TTP)は,抗がん剤の効果を図る一般的な指標であると認められるところ,上記の本件訂正明細書の記載は,生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長がいかなる対象(例えば,手術のみを行った場合か,手術と術後化学療法を行った場合か,術前化学療法と手術と術後化学療法を行った場合か,術前化学療法と手術と抗HER2抗体の術後投与を行った場合か,手術可能乳がんに対し抗HER2抗体投与のみを行った場合か)と比較して達成されるものであるのかという比較対象や,生存率の改善や腫瘍の進行時間(TTP)の延長がいかなる程度達成されるのかという有効性の程度については,何ら記載されていない。また,本件訂正明細書の記載から,その比較対象や有効性の程度を当業者が推論できるものとも認められない。
そうすると,本件特許発明1の効果は,本件特許発明1の医薬がこれを投与しない場合と比較して生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果を有することにとどまるものとするのが相当である。

そして,前記21)アのとおり,甲1には,HER2蛋白を過剰発現する腫瘍を有する転移性乳がん患者に対し,甲1発明の医薬を特定の化学療法剤(①パクリタキセル,②アントラサイクリン〔ドキソルビシン又はエピルビシン〕及びシクロホスファミド)と併用投与すると,その化学療法剤を単独投与された患者に比べ,病勢進行の期間が著しく長期化し,1年間の生存率が高まることが記載されているから,当業者は,甲1発明の医薬が,HER2蛋白を過剰発現する転移性乳がん患者に対し,生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果を有することを理解することができ,この甲1発明の医薬を本件特許発明1の工程によりHER2蛋白を過剰発現する手術可能乳がんに適用した場合に,これを投与しない場合と比較して生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果を有することは,当業者が予測可能なものである。

被告は,本件訂正明細書の発明の効果の定性的な記載に基づき,具体的な実験データを参照することは妥当であるから,甲1719〔審判乙13〕に基づき本件特許発明1には顕著な効果があるなどと主張する。
 
しかし,前記アのとおり,本件訂正明細書の記載及びこれから推論できる本件特許発明1の効果は,本件特許発明1の医薬がこれを投与しない場合と比較して生存率の改善及び腫瘍の進行時間(TTP)の延長という定性的効果を有することにとどまる。そこで,本件優先日後の刊行物である甲1719〔審判乙13〕の実験データを,本件訂正明細書の記載の範囲で,上記定性的効果を示すという限度において参酌するとしても,前記アのとおり,上記定性的効果は当業者が予測可能なものであるから,顕著な効果を示すものということはできない。他方,甲1719〔審判乙1,3〕の実験データを,上記定性的効果を超えて参酌することは,本件訂正明細書の記載の範囲を超えるものであるから,これを本件特許発明1の効果として参酌することはできない。その余の本件優先日後の刊行物である甲1820,21〔審判乙2,4,5〕についても,同様である。
 
したがって,本件優先日後の刊行物である甲1721〔審判乙15〕については,その具体的内容を検討するまでもなく,本件特許発明1に顕著な効果があることを示すものということはできない。

5 本件特許発明1についての小括
以上によると,本件特許発明1は,甲1発明及び甲14に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると認められる。
・・・
4
結論
以上によると,取消事由3は理由があるから,その余の取消事由を考慮するまでもなく,審決にはその結論に影響を及ぼす違法がある。よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
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■ハーセプチン用法用量特許、知財高裁は進歩性なしと判断(シミュレーションの件)


<判決紹介>
・平成29(行ケ)10165 審決取消請求事件(以下「甲事件」という。)
・平成29(行ケ)10192号審決取消請求事件(以下「乙事件」という。)
・平成301011日判決言渡
・知的財産高等裁判所第1 高部眞規子 杉浦正樹 片瀬亮
・甲事件原告:ファイザー・ホールディングズ合同会社
・乙事件原告:セルトリオン・インコーポレイテッド
・被告:ジェネンテック,インコーポレイテッド
・特許5818545
・発明の名称:抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ


■コメント
ハーセプチンの用法用量特許の審決取消訴訟を紹介します。
前に無効審判で維持審決が出てて、その取消訴訟です。
無効審判の解説記事はこちらです。

2017-08-17)用法用量特許の実施可能要件が明細書に記載のないコンピュータシミュレーションにより認められた審決例


コンピュータシミュレーションで実施可能要件が認められるか、という点が面白い論点だったのですが、今回の判決では進歩性がないと判断されて、実施可能要件は判断されませんでした。
進歩性の判断の中で、

「本件明細書の表2及び図3に開示されたデータを解析することによって得られたパラメータは,仮にそのパラメータが正しくても,せいぜい,本件抗体を4/2/1投与計画で投与した場合におけるパラメータにすぎず,このパラメータをもって,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合の薬物動態をシミュレーションすることは適切ではないというべきである(C准教授の意見書1113頁(甲54))」

と述べられており、そもそもコンピュータシミュレーションの結果が適切じゃないと判断されてしまっています。


進歩性の判断では、請求項6が先に判断され、それに付随して請求項1等の判断がされています。
請求項16は以下の通りです。

「【請求項1
i)抗ErbB2抗体huMab4D5-8を含有し,8mg/kgの初期投与量と6mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに3週間の間隔をおいて静脈投与することにより,HER2の過剰発現によって特徴付けられる乳癌を治療するための医薬組成物が入っている容器,及び(ii)前記容器に付随するパッケージ挿入物を具備するパッケージ。

【請求項6
ErbB2抗体huMab4D5-8を含有し,8mg/kgの初期投与量と6mg/kgの複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに3週間の間隔をおいて静脈投与することにより,HER2の過剰発現によって特徴付けられる乳癌を治療するための医薬組成物。」


本件特許の明細書に8/6/3投与の具体的な実験データがないので、特許を維持するのは難しかったと思います。
裁判所の判断は以下の通りです。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
4 当裁判所の判断
1
本件発明6について
・・・

4)本件発明6の進歩性
ア構成について
(ア)当業者が,相違点2に係る本件発明6の構成,すなわち,引用発明2-1に係る4/2/1投与計画による本件抗体の投与を,本件発明6に係る8/6/3投与計画による本件抗体の投与とすることを,容易に想到することができたか否かについて検討する。

(イ)前記のとおり,当業者は,本件優先日当時,乳がんの治療薬を含む一般的な医薬品において,投与量を多くすれば,投与間隔を長くできる可能性があり,医薬品の開発の際には,投与量と投与間隔を調整して,効能と副作用を観察すること,抗がん剤治療において,投与間隔を長くすることは,患者にとって通院の負担や投薬時の苦痛が減ることになり,費用効率,利便性の観点から望ましいということを技術常識として有していたものである。
そして,引用例2には,本件抗体の薬物動態を観察するに当たり,本件抗体が週110500mgの短持続期間の静脈注入が行われた旨記載されている。ここで,週110500mgの投与は,患者の体重が60kgの場合は0.1678.33mg/kg70kgの場合は0.1437.14mg/kgに相当する。そうすると,引用例2には,本件抗体を週18mg/kg程度までの投与量で投与できることは,示唆されているといえる。
また,引用例2には,本件抗体の臨床試験において,本件抗体の毎週の投与と化学療法剤の3週間ごとの投与を組み合わせるという治療方法が記載されている。さらに,引用例2には,本件抗体の薬物動態として,本件抗体は投与量依存的な薬物動態を示し,投与量レベルを上昇させれば,半減期が長期化する旨記載されている。
そうすると,上記のとおりの技術常識を有する当業者は,引用発明2-1のとおり本件抗体を4/2/1投与計画によって投与するだけではなく,本件抗体の投与量と投与間隔を,その効能と副作用を観察しながら調整しつつ,本件抗体の投与期間について,費用効率,利便性の観点から,併用される化学療法剤の投与期間に併せて3週間とすることや,本件抗体の投与量について,8mg/kg程度までの範囲内で適宜増大させることは容易に試みるというべきである。そして,当業者がこのように通常の創作能力を発揮すれば,本件抗体を8/6/3投与計画によって投与するに至るのは容易である。

(ウ)被告の主張について
被告は,本件優先日前には,4/2/1投与計画のみが臨床的に用いられ,本件抗体の半減期も1週間程度と考えられていたから,8/6/3投与計画のように投与間隔について半減期を大きく超える3週間にすることなどは,技術の最適化とはいえないと主張する。
しかし,引用例2には,本件抗体を週18mg/kg程度までの投与量で投与できることが示唆され,また,本件抗体の投与量レベルを上昇させれば,半減期が長期化する旨記載されている。さらに,丙3231には,投与間隔が半減期に比べて長い場合を前提とした留意事項が記載されている。そして,前記のとおりの技術常識を有する当業者が通常の創作能力を発揮すれば,4/2/1投与計画による本件抗体の投与を,8/6/3投与計画による本件抗体の投与とすることは容易に想到し得るものである。なお,A博士の宣誓書(乙8)には,がん専門臨床医は未試験の投与レジメンを実験することは患者の生命をリスクにさらすことになるから,本件抗体を8/6/3投与計画で投与することを動機付けられないなどと記載されているが,臨床医が薬剤の新たな用法用量を臨床的に試みる動機付けがないことをもって,薬剤の新たな用法用量の開発を試みる動機付けを否定するものにはならない。
(エ)よって,当業者は,引用例2の記載及び技術常識に基づき,相違点2に係る本件発明6の構成を容易に想到することができたというべきである。

効果について
・・・

(エ)被告の主張について
a
被告は,本件明細書の表2及び図3に開示されているデータをシミュレーションすることにより,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合の治療効果を確認することができると主張する。
そこで検討するに,本件明細書の表2及び図3に開示されているデータは,いずれも本件抗体を4/2/1投与計画で投与した場合におけるトラフ血清濃度の推移を開示するものである。そして,B博士の宣誓供述書(甲32)は,本件抗体の薬物動態を解析ソフト「BerkeleyMadonnaTM」を用いて解析するものであるところ,同宣誓供述書には,本件明細書の表2及び図3に開示されたデータから,本件抗体の薬物動態に関するパラメータを得ることができ,このパラメータを8/6/3投与計画でシミュレーションすれば,「効果があるとして同定されている濃度を優に上回り,かつ臨床試験において患者の治療が成功した時に得られるものと同様のハーセプチン血漿中濃度(トラフ濃度は,4/2/1投与計画から得られるものより若干低いが,最小目標である10μg/mlをかなり上回る)が容易に維持され」た旨記載されている。

しかし,引用例2に,本件抗体は投与量依存的な薬物動態を示し,投与量レベルを上昇させれば半減期が長期化する旨記載されていることからすれば,本件抗体を4/2/1投与計画で投与した場合と,8/6/3投与計画で投与した場合の薬物動態は異なるものと認められる。そうすると,本件明細書の表2及び図3に開示されたデータを解析することによって得られたパラメータは,仮にそのパラメータが正しくても,せいぜい,本件抗体を4/2/1投与計画で投与した場合におけるパラメータにすぎず,このパラメータをもって,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合の薬物動態をシミュレーションすることは適切ではないというべきである(C准教授の意見書1113頁(甲54))。したがって,本件明細書の表2及び図3に開示されているデータの解析に基づき,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合におけるトラフ血清濃度は,4/2/1投与計画から得られるものより若干低いものにとどまるとするグラス博士の宣誓供述書の記載は直ちに採用できない。

また,本件抗体は,投与量レベルを上昇させれば,半減期が長期化するものと認められるものの,どの程度半減期が長期化するかについては,本件明細書には記載がなく,本件優先日当時にも,それは判明していなかったものである。本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合におけるトラフ血清濃度が17μg/mlをどの程度上回るかについては不明であるというほかない。
よって,本件明細書の表2及び図3に開示されているデータからは,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合の治療効果が,4/2/1投与計画と同等の治療効果を有することを確認できないというべきである。
・・・

3
結論
以上のとおり,原告ら主張の取消事由3は理由があるから,原告らの請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
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プロフィール

徳重大輔


Author: 徳重大輔

バイオ、医薬、特許関連のブログです。
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SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書はバイオ医薬(特に抗体医薬)、調査は無効資料調査が特に得意です。

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