■2018-12-

■2018年を振り返って。 判決・執筆・仕事・趣味など。

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2018年ももう終わりですね。
今年もブログを見てくださった皆様ありがとうございました。
今回は、2018年を振り返ってみたいと思います。
まずは2018年の注目判決から。


2018年の注目判決
今年は医薬分野の大合議判決が1件ありました。

7月22日:(ロスバスタチンCa物質特許の知財高裁大合議判決)甲2の置換基が2000万通り以上の選択肢の1つで、且つ積極的あるいは優先的に選択すべき事情がないので引用発明と認定できないと判断された事例

個人的に興味深かったのは以下の判決です。

7月23日:機能限定抗体特許の侵害訴訟において、被告製品が機能を有していても、技術的範囲に含まれないと判断された事例
7月25日:クレームの用途を狭く解釈することにより、甲文献に対して新規性ありと判断した事例
10月26日:<ハーセプチン用法特許の審決取消訴訟> 実施例に書いた定性的効果(未来形)に基づいて実験データを提出したが、定性的効果を超えて参酌することはできないと判断された事例
12月28日:引例(ウェブページ)の「製品の特徴」の欄に「止血剤」の一行記載があったが、「止血剤」の用途は進歩性ありと判断された事例



2018年の注目バイオトピック
バイオ関係だとこういうのがありました。今年もいろいろありましたね。

・本庶佑氏のノーベル医学生理学賞受賞(PD-1の発見、オプジーボの開発)
・ハーセプチンのバイオシミラーの日本発売
・二重特異性抗体の医薬品の日本発売(血友病A治療薬ヘムライブラ、抗悪性腫瘍剤ビーリンサイト)
siRNAの医薬品の米国承認(ATTR-FAP治療薬Onpattro
iPS細胞由来細胞によるパーキンソン病の治験
・中国でゲノム編集ベビー誕生騒動


■執筆
PHARM TECH JAPAN
(出版社:じほう)で医薬特許調査の連載をはじめました。7月号から掲載していて、今も継続中です。
連載なんて初めてだったので、毎月原稿を書けるのか心配でしたがなんとかなりました。
あと数ヶ月がんばります。

来年7月には、第3回バイオ医薬EXPOでバイオ医薬特許の講演をする予定です。


■事務所(SK)のお仕事
今年も適度に仕事をしました。明細書作成、拒絶応答、特許調査、鑑定、コメント、審判、訴訟など。


■趣味
今年もバスケが楽しい1年でした。シュートフォームが少し変わって、最近確率が上がった気がします。
NBA
は最近あまり見れてないけど、クリッパーズの元主力メンバーが各チーム(ロケッツ、76ers、ピストンズ、マブス)に行って活躍してるのを見るのは楽しい。


■その他
人生初の特許出願の発明者(共同)になりました。
まさか自分が発明者になるときがくるとは思っていませんでした。
しかもバイオ系ではなく、ピアノペダルの補助装置に関する発明です。
そのうちこのブログでも紹介したいと思います。

また、今年は数年ぶりに実家のある鹿児島に帰りました。
両親と軽い旅行に行ったり、買い物したりして過ごしました。あと、学生時代よく遊んでいた友人と10年以上ぶりに会ってご飯に行きました。来年も帰れるといいな。


■抱負
来年はもうちょっと仕事と勉強をがんばろうかなぁと思います。


ではみなさん良いお年を。


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■クレームの「測定」を狭く解釈した上で、被告方法は技術的範囲に含まれないと判断した事例


<判決紹介>
・平成29()28884  特許権侵害差止等請求事件
・平成301128日判決言渡
・東京地方裁判所民事第29部 山田真紀 伊藤清隆 西山芳樹
・原告:ベー・エル・アー・ハー・エム・エス・ゲーエムベーハー
・被告:ラジオメーター株式会社
・特許5215250
・発明の名称:敗血症及び敗血症様全身性感染の検出のための方法及び物質


コメント
敗血症の検出方法に関する特許の侵害訴訟をご紹介します。
本件特許の請求項1は以下の通りです。

「【請求項1】 患者の血清中でプロカルシトニン3-116を測定することを含む,敗血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法。」


請求項1には「プロカルシトニン3-116を測定すること」との記載があります。
一方で、被告の方法は、「全血及び血漿検体中のプロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116が区別されることなく測定」されています。

この場合の被告方法が、請求項1の技術的範囲に含まれるかが争点になりました。

裁判所は、請求項1の「測定」を狭く解釈した上で、被告方法は技術的範囲に含まれない、と判断しました。

裁判所の判断は以下の通りです。


判決----------------------------------------------------------------------------------------
4 当裁判所の判断
本件発明について
・・・
  本件発明の概要
前記第22⑵イ認定の本件特許の特許請求の範囲,前記⑴認定の本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に照らせば,本件発明の概要は次のとおりであると認められる。
 
  本件発明は,敗血症等において,プロカルシトニン又はその部分ペプチドの発生に関係する診断及び治療の可能性に関する(【0001】)。
  従来技術として,敗血症の危険を有する患者及び敗血症の典型的な症候が見られる患者の血清又は血漿中のプロカルシトニン及びそこから得られる部分ペプチドの測定が,早期検出にとって有益な診断手段であることが知られていたが,敗血症のケースで形成されるプロカルシトニンが甲状腺のC細胞において形成されるプロカルシトニン1-116と異なるかどうかは明らかでなかった(【0002】,【0006】,【0008】)。
  本件発明は,敗血症等の患者の血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンが,プロカルシトニン1-116ではなく,プロカルシトニン3-116であることが実験的に確認されたことを踏まえ,そこから導かれる新規な敗血症等の検出方法を提供することを目的とするものである(【0001】,【0009】,【0010】)。

争点1(被告方法は本件発明の技術的範囲に属するか)について     「プロカルシトニン3-116を測定すること」の意義
  構成要件Aは「患者の血清中でプロカルシトニン3-116を測定することを含む」というものであるところ,一般に,「測定」に,長さ,重さ,速さといった種々の量を器具や装置を用いてはかるという字義があることからすると,「プロカルシトニン3-116を測定すること」は,プロカルシトニン3-116の濃度等の量を明らかにすることを意味すると解するのが文言上自然である。
また,前記1⑵認定のとおり,本件発明は,敗血症等の患者の血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンがプロカルシトニン1-116ではなく,プロカルシトニン3-116であることが確認されたことを踏まえて新規な敗血症等の検出方法を提供することを目的とするものであり,このような本件発明の目的に照らせば,本件発明は,患者の血清中においてプロカルシトニン3-116が比較的高濃度で検出されるか否かを見ることを可能とすることが求められているということができる。
以上から,構成要件Aの「プロカルシトニン3-116を測定すること」は,プロカルシトニン3-116の濃度等の量を明らかにすることを意味すると解するのが相当である。

  この点につき,原告は,「プロカルシトニン3-116を測定すること」は,プロカルシトニン3-116を敗血症等の検出に必要な精度で測定ないし検出することができれば,プロカルシトニン3-116だけを特異的,選択的に測定することに限られず,プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116及びその他のプロカルシトニン由来の部分ペプチドとを区別することなく測定することも含むと主張しており,その意味するところは明確でないが,血清中のプロカルシトニン3-116を検出しさえすれば足りるものである旨の主張であるとすれば,それはプロカルシトニン3-116の存在を明らかにすることで足り,その量を明らかにすることは必要ではないことをいうものであって,前記アでみた「測定」の文言の解釈に反するものであり,採用することができない。
また,血清中のプロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116等とを区別することなく測定することがプロカルシトニン3-116を測定することに該当すると主張するものであると解しても,そのような測定方法では,血清中にプロカルシトニン3-116が存在するかも明らかにならず,もとより,血清中のプロカルシトニン3-116の量も確認できないから,これを「プロカルシトニン3-116を測定すること」に該当するというのは文言上困難である。

  被告方法
前記第22⑸ア認定のとおり,被告装置及び被告キットを使用すると,患者の検体中において,プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116とを区別することなく,いずれをも含み得るプロカルシトニンの濃度を測定することができ,その測定結果に基づき敗血症の鑑別診断等が行われていると認められるものの,本件全証拠によっても,被告装置及び被告キットを使用して敗血症等を検出する過程で,プロカルシトニン3-116の量が明らかにされているとは認められず,更にいえば,プロカルシトニン3-116の存在自体も明らかになっているとはいえない。
したがって,被告方法は,構成要件Aの「プロカルシトニン3-116を測定する」を充足するとはいえない。

  小括
よって,被告方法は,本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。

結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
----------------------------------------------------------------------------------------------


■引例(ウェブページ)の「製品の特徴」の欄に「止血剤」の一行記載があったが、「止血剤」の用途は進歩性ありと判断された事例


<判決紹介>
・平成29年(行ケ)第10158 審決取消請求事件
・平成301030日判決言渡
・知的財産高等裁判所第1 高部眞規子 杉浦正樹 片瀬亮
・原告:スリー・ディー・マトリックス インク
・被告:マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
・被告:バーシテック リミテッド
・特許5204646
・発明の名称:止血および他の生理学的活性を促進するための組成物および方法


コメント
止血剤に関する特許の維持審決の審決取消訴訟をご紹介します。
これまでの経緯は以下の通りです。

2013/02/22:特許登録(マサチューセッツ・・・)
2016/07/13:無効審判請求(スリー・ディー・マトリックス インク)
2017/03/21:維持審決
2017/07/27:訴訟提起
2018/10/30:判決 ← いまココ



本件特許の請求項1は以下の通りです。

「【請求項1】 必要部位において,出血を抑制するための処方物であって,該処方物は,自己集合性ペプチドを含み,ここで,該自己集合性ペプチドが,アミノ酸配列RADARADARADARADA(配列番号1)に示す1つの反復サブユニットもしくは複数の反復サブユニットからなるか,またはその混合物からなり,該自己集合性ペプチドのみが,該処方物における自己集合性ペプチドである,処方物。」



引例1に物(処方物)が記載されていて、引例3に「止血剤」が記載されている状況で、引例1の物を止血剤の用途に用いることに進歩性があるかが争点になっています(引例13はともに3DMジャパン社のウェブページで、「止血剤」はウェブページ上の一行記載です)。

ただ、ちょっと興味深い観点から検討されています。

裁判所は、本件発明1の処方物、引例13について、以下のように判断しました。



判決-------------------------------------------------------------------------------------------
4 当裁判所の判断
・・・
3  容易想到性
  動機付け
引用例1ないし3は,いずれも,3DMジャパン社が,本件製品について説明する一連のウェブページである。また,引用例1に開示された引用発明は,本件製品の成分に関するものであって,引用例2及び3により利用可能となった事項は,本件製品の概要,用途等に関するものであり,本件製品が止血剤として利用できることである。したがって,当業者には,引用例2及び3により利用可能となった事項を,引用例1に開示された引用発明に適用する動機付けがある
  引用例1と引用例2及び3との組合せ
(ア)  引用発明に引用例2及び3により利用可能となった事項を適用することにより,相違点に係る本件発明1の構成に至るかについて検討する。
(イ)  本件発明1の構成
  特許請求の範囲【請求項1】の記載によれば,本件発明1は,出血を抑制するための処方物であって,同処方物の成分として自己集合性ペプチドを含み,同自己集合性ペプチドがRADA16のみで構成される旨特定されている。
止血作用を有する成分として,RADA16のみで構成される自己集合性ペプチドしか特定されていないから,本件発明1に係る処方物は,RADA16のみを有効成分とする止血剤と解するのが自然である。
・・・

本件明細書では,本件発明1に係る処方物について,自己集合性ペプチドのみが出血を抑制するために機能する旨説明されている。
以上のとおり,特許請求の範囲の記載によれば,本件発明1に係る処方物は,RADA16のみを有効成分とする止血剤と解するのが自然であって,本件明細書においても,本件発明1に係る処方物について,自己集合性ペプチドのみが出血を抑制するために機能する旨説明されている。
よって,本件発明1に係る処方物は,RADA16のみが有効成分となって出血を抑制する処方物ということができる。

(ウ)  引用例1ないし3の記載
当業者には,引用例1に開示された引用発明である「Ac-RADARADARADARADA-CONH2を含む1%水溶液,3%水溶液又は3%ゲル」に,引用例2及び3により利用可能となった事項を適用する動機付けがある。
そして,引用例3には,本件製品の特徴として「メディカル分野,化粧品分野■骨充填剤■再生医療における細胞培養用scaffold■美容形成(しわとり)注入剤止血剤■じょくそう用製剤■化粧品」と記載されている。
そうすると,当業者は,引用発明並びに引用例2及び3により利用可能となった事項に基づいて,「Ac-RADARADARADARADA-CONH2を含む1%水溶液,3%水溶液又は3%ゲル」を,何らかの方法により用いれば止血作用が発揮されることを理解することができる
・・・

(オ)  周知技術の参酌
前記のとおり,当業者は,引用例1ないし3の記載に基づいて,「Ac-RADARADARADARADA-CONH2を含む1%水溶液,3%水溶液又は3%ゲル」を,何らかの方法により用いれば止血作用が発揮されることを理解することができる。
そこで,優先日当時の周知技術を参酌することにより,当業者が,上記理解にとどまらず,更に,「Ac-RADARADARADARADA-CONH2を含む1%水溶液,3%水溶液又は3%ゲル」において,RADA16のみが有効成分になって,止血作用を有することまで理解できるかについて検討する
-------------------------------------------------------------------------------------------------



以上の通り、裁判所は、「引用例2及び3により利用可能となった事項を,引用例1に開示された引用発明に適用する動機付けがある」と判断し、引例3の物に関して、「何らかの方法により用いれば止血作用が発揮されることを理解することができる」ことは認めています。
しかし、ここまで引例3における止血用途の示唆を認めていながら、RADA16「のみが有効成分」になることが理解できないため、進歩性を否定するには足りないと判断しています。(請求項1には「のみが有効成分」の記載はありません。)

そして、この後はゲル生成と止血剤との関連性について、検討しています。



判決-------------------------------------------------------------------------------------------
ゲル生成による止血剤に関する周知技術
引用例1には,RADA16が「ゲル化をもたらす成分」であることが開示されているところ,優先日当時,ゲル生成によって出血部位を塞ぐことによって機能する止血剤が多数存在したことが認められる(甲203208210213
しかし,以下のとおり,これらのゲル生成によって出血部位を塞ぐことによって機能する止血剤は,①複数の成分が組み合わさることにより出血部位を塞ぐゲルになるもの(下記c),②一つの成分が出血部位で血液成分との相互作用により出血部位を塞ぐゲルになるもの(下記d),③一つの成分が出血部位で共有結合することにより出血部位を塞ぐゲルになるもの(下記e)があるほか,当該成分のみで出血部位を塞ぐゲルになるか否か不明なもの(下記f)がある。
・・・

ゲル生成による止血剤に関する周知技術の参酌
a  前記cないしfによれば,優先日当時,①複数の成分を組み合わせることにより出血部位を塞ぐゲルを生成する止血剤(前記c),②出血部位における血液成分との相互作用により出血部位を塞ぐゲルを生成する止血剤(前記d),③出血部位における共有結合により出血部位を塞ぐゲルを生成する止血剤(前記e)が,それぞれ存在することが周知であったと認められる。

b  複数の成分を組み合わせることにより出血部位を塞ぐゲルを生成する止血剤の参酌
複数の成分を組み合わせることにより出血部位を塞ぐゲルを生成する止血剤が存在することを参酌しても,当業者は,
RADA16を,他の成分と組み合わせることなく,RADA16のみが有効成分になって止血作用を有することまで理解できるものではない。
c)出血部位における血液成分との相互作用により出血部位を塞ぐゲルを生成する止血剤の参酌
血液成分との相互作用により出血部位を塞ぐゲルを生成する止血剤においては,出血部位を塞ぐゲルの生成に当たり,血液成分との相互作用が不可欠なものである。そうすると,そのような止血剤が存在することを参酌しても,当業者は,血液成分との相互作用なしに,RADA16のみが有効成分となって出血を抑制できると理解できるものではない。

(d) 出血部位における共有結合により出血部位を塞ぐゲルを生成する止血剤の参酌

引用例1には,RADA16がゲルを生成する機序について「AAの疎水結合,RDのイオン結合」と記載されている。当業者は,RADA16が互いにイオン結合及び疎水結合するから,ゲル化すると理解するものである。
そして,イオン結合及び疎水結合によるゲルは物理的絡み合いによってゲル化する物理ゲルであり,共有結合によるゲルは化学反応によって架橋されることによってゲル化する化学ゲルであるところ,高分子ゲルの性質は,ゲルを構成する高分子網目の構造(物理ゲルか化学ゲルか)に大きく依存するものであるから(乙23915頁),当業者は,当然に,高分子ゲルの性質が共有結合とイオン結合及び疎水結合において大きく相違するとの技術常識を有している。
そうすると,共有結合により出血部位を塞ぐゲルを生成する止血剤が存在することを参酌しても,高分子ゲルの性質が共有結合とイオン結合及び疎水結合において大きく相違するとの技術常識を有する当業者は,イオン結合及び疎水結合によりゲル化するRADA16において,RADA16のみが有効成分になって止血作用を有することまで理解することはできない。

e  以上によれば,ゲル生成による止血剤に関する周知技術を参酌しても,当業者は,引用発明に係る止血剤について,「Ac-RADARADARADARADA-CONH2を含む1%水溶液,3%水溶液又は3%ゲル」において,RADA16のみが有効成分になって,止血作用を有することまで理解できるものではない。
よって,当業者は,優先日当時における周知技術を参酌しても,引用発明並びに引用例2及び3により利用可能となった事項から,本件発明1を容易に発明をすることができないというべきである。
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以上の通り、裁判所は、「ゲル生成によって出血部位を塞ぐことによって機能する止血剤が多数存在したこと」は認めています。
しかし、引例1のゲルと、周知技術として挙げられたゲルとはメカニズムが違うという観点から、RADA16のみが有効成分になって止血作用を有するとは理解できないと判断しました。
多数存在したということは、ゲルという物自体の重要性も示唆していると思いますし、さらに、引例3の「止血剤」の記載を考慮すると、RADA16のみが有効成分になって止血剤とする動機付けがあると考えることも一応できそうですが、厳しいですね。

次に、原告の主張について、検討しています。



判決-------------------------------------------------------------------------------------------
(ア)  原告は,引用発明をそのまま止血に用いる試験さえすれば,本件製品に止血効果があることを確認できる旨主張するものと解される。
しかし,前記イ(ウ)bのとおり,当業者は,引用例1ないし3の記載に基づいても,RADA16が何らかの方法により止血作用を発揮するということを理解できるにとどまる。そのようなRADA16の使用方法として,そのまま出血部位に適用することは,たとえそれが単純なものであったとしても,創作能力の発現が必要というべきであって,容易に想到できるものではない
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気になるのは「創作能力の発現」でしょうか。特許実務では「通常の創作能力の発揮」は進歩性がないという表現がよく使われますが(審査基準にもそういう表現があります)、ここでは「創作能力の発現」に進歩性があるかのような記載になっています。

また裁判所は、ゲル化成分と止血作用の関連性に関する原告の主張について、以下のように判断しました。



判決---------------------------------------------------------------------------------------------
(ウ)  原告は,「ゲル化をもたらす成分を出血部位に適用し,同成分をゲル化させることにより出血を抑制すること」は,優先日当時の周知技術であると主張する。まず,ゲル化をもたらす成分を出血部位に適用し,その余の成分との組合せや血液成分との相互作用により,当該ゲル化をもたらす成分をゲル化させることにより出血を抑制する止血剤が存在することは,優先日当時の周知技術であったものである(前記イ(オ)cd)。しかし,RADA16のみが有効成分になって,止血作用を有することまで理解できるか否かについて判断するに当たり,当該周知技術から,他の成分との組合せや血液成分との相互作用を捨象して,上位概念化した周知技術を認定することはできない。
 
また,ゲル化をもたらす一つの成分を出血部位に適用し,他の成分と組み合わせたり,血液成分と相互作用をさせたりすることなく,当該一つの成分をゲル化させることにより出血を抑制する止血剤が存在するものの,それが出血部位を塞ぐゲルになるのは,当該成分が共有結合をするからである(前記イ(オ)e)。そして,高分子ゲルの性質が共有結合とイオン結合及び疎水結合において大きく相違することは技術常識であったから(前記イ(オ)g⒟),かかる止血剤の存在から,そのゲル化の生成過程を捨象して,「ゲル化をもたらす成分」をゲル化させることにより出血を抑制できると常にいえるものではない。
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最後に、顕著な効果について以下のように判断した後、容易に発明をすることができたものということはできないと判断しました。



判決-------------------------------------------------------------------------------------------
(オ)  顕著な効果
原告は,本件発明1には顕著な効果がない旨主張するものと解されるが,そもそも本件発明1の構成は容易に想到できるものではないから,同主張は失当である。また,本件発明1に係る処方物は,RADA16のみが有効成分となって出血を抑制するものであって,顕著な効果があることを否定する証拠もない。

(4) 
小括
以上のとおり,本件発明1は,引用発明並びに引用例2及び3により利用可能となった事項に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
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■アムロジピン+酸化鉄+被覆層を有しない製剤特許の進歩性が維持された事例


<判決紹介>
・平成29(行ケ)10160  審決取消請求事件
・平成301011日判決言渡
・知的財産高等裁判所第3 鶴岡稔彦 高橋彩 間明宏充
・原告:エルメッドエーザイ株式会社
・被告:大日本住友製薬株式会社
・特許5689192
・発明の名称:光安定性の向上した組成物


コメント
ジェネリック vs 新薬の審決取消訴訟を紹介します。
本件特許は、ベシル酸アムロジピンの製剤特許です。

エルメッドエーザイが請求した無効審判において、維持審決(2017620日)が出ていました。
これに対してエルメッドエーザイが訴訟を提起していましたが、今回、裁判所は請求を棄却しました。


本件特許の請求項1は以下の通りです。

「【請求項1】 (aベシル酸アムロジピン,(b酸化鉄,(c)炭酸カルシウム及び結晶セルロースからなる群より選ばれる少なくとも一つの賦形剤,並びに(d)デンプンを含有し,デンプンの含有量が30重量%以下であり,かつ被覆層を有しない経口固形組成物(但し,マンニトールを含まない組成物である)。」


エルメッドエーザイの後発品である
アムロジピンOD錠2.5/5/10mg「EMEC」は、上記(a)~(d)を含有し、被服層を有せず、マンニトールを含まないようです。


取消事由1(甲1に基づく進歩性)に関する裁判所の判断は以下の通りです。阻害要因が考慮されたのが大きいですね。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
当裁判所の判断
・・・
取消事由1(甲1記載の発明に基づく容易想到性判断の誤り)について
・・・
3 本件訂正発明1の容易想到性について
ア本件訂正発明1と甲1発明との対比
1発明の錠剤は,経口投与されるものであるから,経口固形組成物に該当する。
したがって,本件訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおりと認めるのが相当である。
<一致点>
ベシル酸アムロジピンと結晶セルロースを含有する経口固形組成物であって,マンニトールを含有しない点。
<相違点1
本件訂正発明1は,酸化鉄を含有するのに対し,甲1発明は,酸化鉄を含有しない点。
<相違点2
本件訂正発明1は,デンプンを含有するのに対し,甲1発明は,デンプンを含有せず,カルボキシメチルスターチナトリウムを含有する点。
<相違点3
本件訂正発明1は,デンプンの含有量が30重量%以下であるのに対し,甲1発明は,そのような限定を有していない点。
<相違点4
本件訂正発明1は,被覆層を有しない経口固形組成物であるのに対し,甲1発明は,被覆層(フィルムコート部分)を有する点。

相違点1について
医薬品において,着色剤は,視覚的に医薬品の外観を変化させて,識別性を高めることなどを主目的として使用される添加物であるところ,酸化鉄は,医薬品の着色剤としてもよく知られた物質であるから,これを着色剤として医薬品に含有させることは,本件特許の出願日当時の周知慣用技術であったと認めるのが相当である(甲2の段落【0007】,甲48,乙6の表2)。
したがって,医薬品である甲1発明に係る組成物に酸化鉄を含有させること自体は,当業者が容易に想到できるものというべきである。

相違点2及び3について
(ア) デンプン及びカルボキシメチルスターチナトリウムが,いずれも医薬品において,賦形剤,結合剤及び崩壊剤などとして一般的に用いられる添加物であることは,本件特許の出願日当時の技術常識であったと認めるのが相当である(甲468,乙13)。
(イ) また,「新・薬剤学総論(改訂第3版)」(1987(昭和62)年4月発行。甲4)には,デンプンを錠剤,丸剤などにおける結合剤として用いる場合の常用濃度は410%であること,崩壊剤として用いる場合は製剤の1030%とすることが記載されており,「Remington's Pharmaceutical Sciences 18」(1990(平成2)年発行。甲8)には,デンプンを崩壊剤として用いる場合,その添加量は5%が推奨され,より早い崩壊が望まれる場合には15%に増量してもよいこと記載がされている。
そうすると,医薬品である経口固形組成物にデンプンを30重量%以下の含有量で配合することは,本件特許の出願日当時の技術常識であったと認められる。
(ウ) 以上によれば,医薬品である甲1発明に係る組成物につき,カルボキシメチルスターチナトリウムに代えて,デンプンを30重量%以下の含有量で配合することは,当業者が容易に想到できるものというべきである。

相違点4について
(ア) 2に記載されているとおり,酸化鉄は,光に対して不安定な薬物の安定性を高める成分であることが知られているとしても,甲1発明につき,相違点4に係る構成を備えるものとすることは,当業者が容易に想到できたものとはいえない。その理由は次のとおりである。
(イ) 1には,ベシル酸アムロジピンの固体状態における安定性に関し,「室内散光下の保存において,含量の低下はほとんど認められなかったものの,光曝表面は黄色に着色し,わずかに分解物が生成した。」との記載とともに,固体状態における安定性と題する表において,室内散光(500ルクス)の条件下で無色透明のガラスシャーレに6か月間保存したところ,残存率は98.3101.0%,光曝表面がわずかに黄色化し,わずかに分解物Iのスポットが認められたことが記載されている(甲111及び12頁)。
これに対し,甲1では割愛されている20038月付けのノルバスク錠に係る医薬品インタビューフォームの15頁には,製剤の安定性に関し,光に対する苛酷試験につき,室内散光(500ルクス)の条件下で無色透明のガラスシャーレに6か月間保存したところ,外観に変化はなく,含量は2.5mg錠では98.599.9%,5mg錠では97.6~101.5%,分解物のスポットは認められなかったと記載されている(甲33)。一方,当該医薬品インタビューフォームの16頁には,製剤の分割後の安定性に関し,白色蛍光灯(1000ルクス・24時間/日)の条件下で無色透明のガラスシャーレに60日保存したところ,分割面がわずかに淡黄色に着色し,含量は103.5103.9%,分解物のスポットは認められなかったと記載されている(甲133)。

(ウ) 錠剤のフィルムコーティングに関し,「製剤学(改訂第3版)」(1997(平成9)年41日発行。乙15)には,錠剤のコーティングの目的は,①外観の改善と商品価値の向上,②苦みや悪臭などのマスキング,③主薬の安定化,④腸溶化や徐放化による薬剤の吸収部位の調節,⑤薬剤からの消化管粘膜の保護,⑥薬効の発現の調節などにあるとの記載がある。
また,「経口投与製剤の処方設計」(平成10415日発行。乙14)には,光によって外観変化,含量低下,類縁物質の増加が認められる場合には,フィルムコーティングあるいは遮光包装が考えられるが,開封後の保証まで考慮すると製剤処方で耐候性の機能を付与することが望ましいとの記載がある。
上記各事項が市販の書籍に記載されていることや当該各書籍の発行時期に鑑みれば,これらの事項は本件特許の出願日当時における当業者の技術常識であったと認められる。

(エ) そうすると,甲1及び甲33(刊行物に接した当業者が把握する事項を認定する際には,当該刊行物全体の記載内容を参酌すべきである。)の記載に接した当業者は,上記(1)ウのアムロジピンに関する周知事項及び上記(ウ)の技術常識に鑑みれば,アムロジピン原体は,光により着色し,外観変化と分解物の生成を生じ得るものであるところ,甲1記載のノルバスク錠では,フィルムコーティングを施すことで,光に起因する着色による外観変化と分解物生成を防止していることが理解できる。また,ノルバスク錠の分割後の安定性に関し,分割面がわずかに淡黄色に着色したとの記載は,フィルムコーティング錠を分割すると,分割面にはフィルムコーティングが存在しないため,その部分のみが着色してしまうことを示すものと理解するというべきである。
さらに,上記(1)ウにおいて認定したとおり,アムロジピンが苦みを有する成分であることは,本件特許の出願日当時における周知の事項であったから,上記(ウ)の技術常識を踏まえると,甲1記載のノルバスク錠が備えるフィルムコーティングは,苦みをマスキングする役割も果たしていることが理解できる。
加えて,フィルムコーティングを除去すると,薬剤の溶出挙動が変化する可能性があることは明らかである(なお,特開2003-104888号公報(甲24)の段落【0004】には,「ジヒドロピリジン誘導体は,光に対する安定性が低く,水性溶媒への溶解度が非常に低いために経口投与の場合には消化管液中で薬物が製剤から溶出するような工夫が必要である。」との記載がある。)。

(オ) 原告が主張するとおり,医薬品の服用性,取扱いやすさや,生産性,コストといった観点からより良い剤形を模索することは,当業者であれば当然に検討すべき技術的事項であって(甲91719,乙14),実際にも,本件特許の出願日当時において,我が国で少なくとも22品目について口腔内崩壊錠の医薬品が販売されていたとの事情が認められる(甲84)。
しかし,上記(イ)~(エ)において検討したところによれば,甲1発明のベシル酸アムロジピンを含有するフィルムコート錠を,敢えてフィルムコートを有しない経口固形組成物に変更することには,光による変色・分解物の発生のおそれ,苦み,薬剤の溶出挙動の変化等の観点から阻害要因があるというべきである。

原告の主張について
原告は,甲1には,ベシル酸アムロジピンが光に不安定である旨が明記されている上に,アムロジピンの光に対する不安定性についての課題は,本件特許の出願日当時の周知事項であったから,甲1に接した当業者は,アムロジピンの光に対する安定化という課題を当然に把握,認識でき,甲1発明〔原告〕に2記載の光に対する解決手段として酸化鉄を用いる発明を組み合わせる動機付けがあるのは明らかであると主張する。
1の記載から,ベシル酸アムロジピンの原体は,光によって変色したり,分解物が生成したりするものであることが理解できるのは,原告が主張するとおりである。しかし,甲1発明では,フィルムコーティング錠とすることで,光による変色と分解物の生成とを抑制していると理解できることは,上記エ(エ)において説示したとおりである。そして,1発明のフィルムコーティングは,変色及び分解物生成の抑制のほか,苦みのマスキングにも資するものであると理解されることから,甲1発明につき,フィルムコーティングを除去した構成に変更することには阻害要因があることも,上記エにおいて説示したとおりである。
したがって,甲2に,光に不安定な薬物の安定化の手段として,酸化鉄を包含する着色剤を混合するとの発明が記載されていると認められるものの,当該事実は上記エの判断を左右するものとはいえない。

小括
以上によれば,本件訂正発明1は,甲1及び甲2に記載された発明並びに本件特許の出願日当時の技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
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取消事由2(甲15に基づく進歩性)に関する裁判所の判断は下記の通りです。
15にベシル酸アムロジピンの一行記載がありましたが、列挙された多数の化合物の中から特にベシル酸アムロジピンを選択する動機付けがないと判断されました。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
  取消事由2(甲15記載の発明に基づく容易想到性判断の誤り)について
・・・
(3)
本件訂正発明1の容易想到性について
本件訂正発明1と甲15発明との対比
甲15発明におけるトウモロコシデンプンはデンプンの一種であり,D-マンニトールはマンニトールに該当する。また,甲15発明の錠剤は,経口固形組成物に該当するが,フィルムコーティングなどの被覆層を備えたものではない。
したがって,本件訂正発明1(賦形剤として結晶セルロースを選択した場合。)と甲15発明との一致点及び相違点は,次のとおりと認めるのが相当である。
<
一致点>
活性成分と,酸化鉄,結晶セルロース,デンプンを含有し,デンプンの含有量が30重量%以下であり,かつ,被覆層を有しない経口固形組成物。
<
相違点7>
本件訂正発明1は,活性成分としてベシル酸アムロジピンを含有するのに対し,甲15発明は,ベシル酸アムロジピンを含有せず,塩酸マニジピンを含有する点。
<
相違点8>
甲15発明は,活性成分,乳糖,トウモロコシデンプン,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース及び酸化鉄を含み,マンニトールを含まない整粒物Aと,活性成分を含まず,マンニトール,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及び酸化鉄を含む整粒物Bとを含有し,経口固形組成物としては,マンニトールを含むのに対し,本件訂正発明1は,複数の整粒物で構成するものとされておらず,経口固形組成物としては,マンニトールを含有せず,乳糖,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースについての限定がない点。

相違点7について
(
) 甲15は,活性成分,糖アルコール等及びセルロース類を含有する群1と,糖アルコール等及びセルロース類を含有する群2とを組み合わせ,更に群1及び群2の一方又は両方に溶出補助剤を含有する,速やかな崩壊性,溶出調節性及び製造性等に優れる速崩壊性固形製剤を主題とする特許公報である。
(
) そして,甲15において,ベシル酸アムロジピンは,段落【0005】の「本発明で用いられる活性成分としては,
・・・
血圧降下剤についての記載である「血圧降下剤としては,例えば塩酸デラプリル,カプトプリル,ペリンドプリ
ルエルブミンなどのアンジオテンシン変換酵素阻害薬,塩酸ヒドララジンなどの血管拡張薬,塩酸ラベタロールなどのα,β遮断薬,塩酸ニカルジピン,ニルバジピン,ニフェジピン,塩酸ベニジピン,塩酸ジルチアゼム,ニソルジピン,ニトレンジピン,塩酸バルニジピン,塩酸エホニジピン,ベシル酸アムロジピン,フェロジピン,シルニジピン,アラニジピン,塩酸マニジピンなどのCa拮抗薬,ロサルタン,エプロサルタン,カンデサルタン,バルサルタン,テルミサルタン,イルベサルタン,オルメサルタン,タソサルタン,カンデサルタンシレキセチルなどのアンジオテンシンII受容体拮抗薬,メチルドパなどの交感神経中枢抑制薬などが挙げられる。」との記載の中に挙げられている。しかし,これは,当該段落に列挙されている適応症も薬効も異なる100を超える多種多様な活性成分の一つとして紹介されているものにすぎず,甲15のその他の記載を参酌しても,これらの多数の活性成分の中から特にベシル酸アムロジピンに着目する動機付けとなり得る事情は見受けられない。

(
) また,甲15の段落【0008】及び【0009】によれば,酸化鉄は,発明の効果に関係がない任意成分の例として挙げられた賦形剤,酸味料,着色剤等の10種類の添加剤のうち,着色剤として例示された5種類の物質のうちの一つにすぎない。
(
) そうすると,甲15に接した当業者において,甲15発明の組成物につき,多種多様な組合せがあり得る任意の添加剤としての酸化鉄は変更しない一方で,活性成分として,甲15の段落【0005】に挙げられた多数の化合物の中から,特にベシル酸アムロジピンを選択するとの動機付けがあるとは認め難い。
() 以上によれば,甲15発明の塩酸マニジピンをベシル酸アムロジピンに変更することが,当業者において容易に想到できたとまでいうことはできない。

  相違点8について
上記(1)のとおり,甲15記載の発明は,活性成分と糖及び/又は糖アルコールとセルロース類を含有する群1と,糖及び/又は糖アルコールとセルロース類を含有する群2とを含有させ,群1及び群2の一方又は両方に溶出補助剤を含有させることにより,低い乾式の圧縮圧でも実用上問題ない硬度を有し,かつ速やかな崩壊性,溶出調節性及び製造性に優れる等の医薬として優れた性質を有する速崩壊性固形製剤を提供するものであるところ,甲15発明における整粒物Bは,糖及び/又は糖アルコールとセルロース類を含有する群2に対応する。
そして,甲15の【請求項12】には,「糖アルコールがD-マンニトール,エリスリトール,キシリトール,マルチトールおよびソルビトールから選ばれる」と記載されているところ,この記載に接した当業者は,糖アルコールとして,マンニトールだけでなく,エリスリトール,キシリトール,マルチトール及びソルビトールが同様に使用可能であると理解できるから,甲15発明における整粒物Bについて,D-マンニトールをエリスリトール,キシリトール,マルチトール又はソルビトールのいずれかに置き換えることは,当業者が容易になし得るものというべきである。
しかし,甲15記載の発明においては,群1と群2とを含有させ,群1及び群2の一方又は両方に溶出補助剤を含有させることが,十分な硬度を有し,崩壊性,溶出調節性,製造性に優れる医薬を得るという課題を解決するための手段とされている。そうすると,甲15発明から,活性成分を含む整粒物Aと,活性成分を含まない整粒物Bとを含有させるとともに,その一方又は両方に溶出補助剤を含有させるとの構成を捨象することは,課題解決のために必要不可欠な構成を失わせることになる。
したがって,甲15発明から当該構成を捨象して本件発明1の経口医薬組成物とすることには阻害要因があるというべきである。
以上によれば,当業者が,相違点8に係る構成を容易に想到できたということはできない。
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また、分割要件、サポート要件、先願要件(取消事由345)についても判断されています。
特に、請求項1の「但し,マンニトールを含まない」に着目して検討されていますので、除くクレームを考える上での参考になります。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
取消事由3(分割要件適合性についての判断の誤り)について
1 原告は,本件当初明細書の実施例及び比較例の全てにマンニトールが等しく添加されている上に,被告が,本件原出願の審査過程において,進歩性欠如の拒絶理由に対して行った効果の顕著性に関する主張に鑑みれば,本件原出願に係る発明には,当該発明を構成する組成物の成分からマンニトールを積極的に除外しようという技術思想が含まれていなかったことが明らかであると主張する。

2 そこで検討するに,本件当初明細書の実施例及び比較例では,いずれもマンニトールを含む組成物のみが用いられていることは当事者間に争いがない。しかし,本件当初明細書において,マンニトールは任意成分である賦形剤として記載されており,ソルビトール,マルチトール,還元澱粉糖化物,キシリトール,還元パラチノース及びエリスリトールなどの代替し得る成分も併せて記載されていることからすると(甲26の段落【0021】及び【0022】),本件当初明細書の記載において,マンニトールを含有しない組成物が排除されているとはいえない。
また,原告は,本件原出願の審査過程における,効果の顕著性に関する被告の主張を問題とするが,分割出願に係る発明が原出願の当初の明細書等に記載された事項の範囲内であるか否かは,当該明細書及び出願時の技術常識等に基づいて客観的に判断するのが相当であるから,原告の主張はその前提において失当である。
仮に,この点を措くとしても,本件原出願の審査過程において被告が提出した平成20619日付けの意見書(甲31)には,「変色と酸化体生成量」と題する表において,保存条件10日の下で,
①マンニトールを賦形剤とし,酸化鉄を含有する場合,変色に関し,光照射面が「ほとんど変化なし(微黄色)」,酸化体生成量は0.85%,
②乳糖を賦形剤とし,酸化鉄を含有する場合,変色に関し,光照射面が「明らかな変化(黄色)」,酸化体生成量は0.76%,
③マンニトールを賦形剤とし,酸化鉄を含有しない場合,変色に関し,光照射面が「著しい変化(微黄色)」,酸化体生成量は1.07%,
との実験結果が記載されている(6頁。なお,甲26の比較例1,乙19参照。)。これは,賦形剤としてマンニトールを用いる場合と,乳糖を用いる場合とでは,酸化体の生成はいずれも抑制されるものの,着色防止については賦形剤としてマンニトールを用いる場合の方が優れた結果であったことを示すものといえるが,本件原出願に係る発明の課題である光による不安定化(変色,分解)の防止という観点からいえば,酸化鉄と乳糖の組合せも,少なくとも分解の防止という点では所期の成果を挙げているとみることも十分に可能である。そうすると,当該意見書に,「ベシル酸アムロジピンの場合,…酸化鉄+乳糖では着色を抑制できなかった。」(3頁)とか,「変色については,乳糖処方では外観上明らかな変化が見られ,医薬品の品質保持としては不十分な結果であった。」(7頁)との記載がされていることを考慮しても,当該意見書の全体の記載をみれば,マンニトールを含有しない組成物を完全に排除しているとまではいい難い。
したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
3 以上によれば,原告主張の取消事由3は理由がない。

5
取消事由4(サポート要件適合性についての判断の誤り)について
1 原告は,本件明細書の記載に接した当業者が,マンニトールが添加されていない場合においても,アムロジピンに酸化鉄を配合することで,光安定化したアムロジピン含有経口固形組成物が得られることを認識できるとは到底いえないから,本件特許はサポート要件に適合しないと主張する。

2 そこで検討するに,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。

3 本件についてみると,本件訂正発明の課題は,アムロジピン又はその塩の光による変色及び分解を簡便に防止し,光安定化した経口固形組成物を提供することである(本件明細書の段落【0007】)ところ,上記第22のとおり,本件訂正発明はマンニトールを含有しない組成物に限定されている。確かに,マンニトールは,本件明細書において,服用性の観点から口腔内崩壊型製剤に添加することが好ましいとされた水溶性賦形剤である,水溶性糖アルコール,糖類,甘味を有するアミノ酸類(【0022】)のうちの,水溶性糖アルコールの一つとして,ソルビトール,マルチトール,還元澱粉糖化物,キシリトール,還元パラチノース及びエリスリトールなどとともに挙げられたもので,その中でも,特に好ましいものとされている(【0023】)。その一方で,本件明細書には,課題を解決するための手段として,アムロジピン又はその塩に酸化鉄を配合することにより,被覆層を必要とすることなく非常に簡便に光安定化された経口医薬組成物が得られる旨が記載されているところ(【0012】),光安定化効果に対するマンニトールの作用については何ら記載がなく,かえって,マンニトールは実質的に本件訂正発明の効果に影響を与えない添加剤として位置付けられている(【0027】)。また,ベシル酸アムロジピンに酸化鉄を配合することによる薬物の光安定化効果に,マンニトールが何らかの影響を与えるとの技術常識を認めるに足りる的確な証拠もない。
そうすると,本件明細書に接した当業者は,本件明細書の実施例の全てにおいて,マンニトールを含む組成物のみが示されているとしても(【0033】表1),それは服用性向上のために含有されているものにすぎず,ベシル酸アムロジピンに酸化鉄を配合した組成物であれば,マンニトールを含まない組成物であっても光安定化効果が発揮されると理解すると認めるのが相当である。また,炭酸カルシウム,結晶セルロース及びデンプンについても,本件明細書には任意成分である賦形剤として記載されているところ(【0024】,【0027】),当該各物質が,ベシル酸アムロジピンと酸化鉄とを含有する組成物における光安定化効果に対し,何らかの影響を与えるものであるとの技術常識が存在することを認めるに足りる証拠も見当たらない。したがって,ベシル酸アムロジピン及び酸化鉄とともに,炭酸カルシウム,結晶セルロース及びデンプンを含む本件訂正発明も,当業者が発明の課題を解決できると認識可能な範囲内のものであるといえるから,上記原告の主張は採用することができない。

4 また,原告は,取消事由3と同様に,本件原出願の審査過程における被告の主張を問題とするが,本件出願と本件原出願とは別個のものであるから,本件原出願の審査過程における被告の主張が本件特許のサポート要件適合性を左右するとはいえない。
5)以上によれば,原告主張の取消事由4は理由がない。

6
取消事由5(先願要件適合性についての判断の誤り)について
1 原告は,本件原出願の請求項1に係る発明におけるマンニトールを,結晶セルロース等及び所定量のデンプンに置換することは,不活性な添加剤を単に置換するもので,単なる周知慣用技術の転換にすぎない上に,本件訂正発明と本件原出願に係る発明の効果は同一であるから,両発明は同一のものであって,本件出願は,本件原出願の請求項1に係る発明との関係で,先願要件に適合しないと主張する。

2 そこで検討するに,本件原出願の特許請求の範囲の請求項1の記載については当事者間に争いがない。
そして,本件訂正発明1と本件原出願の請求項1に係る発明とは,次の点において相違すると認められる。
<相違点A
本件訂正発明1は,マンニトールを含有しないのに対し,本件原出願に係る発明は,マンニトールを含有する点
<相違点B
本件訂正発明1は,炭酸カルシウム及び結晶セルロースからなる群より選ばれる少なくとも一つの賦形剤と,デンプンとを含有し,デンプンの含有量が30重量%以下であるのに対し,本件原出願に係る発明は,そのような限定がない点
<相違点C
本件訂正発明1は,酸化鉄の含有量の制限がないのに対し,本件原出願に係る発明は,ベシル酸アムロジピン1質量部に対して酸化鉄を0.058質量部含有する医薬組成物を除いている点。
したがって,本件原出願の請求項1に係る発明と本件訂正発明とが同一であるとはいえない。

3)原告の主張について
原告は,本件原出願の請求項1に係る発明におけるマンニトールを,結晶セルロース等及び所定量のデンプンに置換することは,不活性な添加剤を単に置換するもので,単なる周知慣用技術の転換にすぎないと主張する。
しかし,マンニトール,炭酸カルシウム,結晶セルロース及びデンプンが医薬品の賦形剤として周知慣用されているものであるとしても,上記各物質の具体的な構造,特性及び用途等は異なっているから(例えば,甲4では,結晶セルロース及びデンプンは,結合剤及び崩壊剤,炭酸カルシウムは崩壊剤として挙げられている。),添加剤として使用される際にも,所望の目的に合致するようにされるものというべきである。
そして,本件原出願の請求項1に係る発明及び本件訂正発明に係る経口固体組成物において,マンニトールと,結晶セルロース,炭酸カルシウム及びデンプンとが,その特性や含有目的と無関係に等しく置換可能であると認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。
そうすると,個々の各成分が賦形剤として周知慣用されているからといって,本件原出願の請求項1に係る発明におけるマンニトールを,炭酸カルシウム及び結晶セルロースからなる群より選ばれる少なくとも一つの賦形剤,並びに所定量のデンプンに置換することが,周知慣用技術の転換にすぎないとまでいうことはできない。
したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。
4 以上によれば,原告主張の取消事由5は理由がない。

6  結論
よって,審決に取り消すべき違法があると認めることはできないから,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
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■引用発明の認定に誤りがあるとして、進歩性なしの異議の決定が取り消された事例


<判決紹介>
・平成29(行ケ)10117  特許取消決定取消請求事件
・平成30116日判決言渡
・知的財産高等裁判所第3 鶴岡稔彦 寺田利彦 間明宏充
・原告:アルフレッサファーマ株式会社
・被告:特許庁長官
・特許5845033
・発明の名称:マイコプラズマ・ニューモニエ検出用イムノクロマトグラフィー試験デバイスおよびキット


コメント
イムノクロマトグラフィー試験デバイスに関する特許に対する取消決定の取消訴訟をご紹介します。
これまでの経緯は以下の通りです。

2015/11/27:特許登録(アルフレッサファーマ)
2016/07/13:異議申立(個人×4
2017/04/18:取消決定(進歩性なし)
2017/05/26:訴訟提起
2018/11/06:判決 ← いまココ


本件特許の請求項1は以下の通りです。

「【請求項1
A A-1 イムノクロマトグラフィー試験デバイス及び検出キットにおける抗体として,
A-2 マイコプラズマ・ニューモニエ由来のP1タンパク質抗原に対して特異的なモノクローナル抗体を含む,
A-3 検体からマイコプラズマ・ニューモニエ感染検出用のイムノクロマトグラフィー試験デバイスであって,
B 第一のモノクローナル抗体および第一のモノクローナル抗体とは異なる第二のモノクローナル抗体,ならびに
C 膜担体を備え,
D 該第一のモノクローナル抗体が,該膜担体に固定されて検出部位を構成し,
E 該第二のモノクローナル抗体が,(E-1)標識物質で標識されており,かつ
E-2 該検出部位とは離れた位置に,該膜担体中を移動可能に配置され,
F F-1 該検体であって,濃縮処理物を除く該検体中に(F-2)マイコプラズマ・ニューモニエ抗原が存在する場合に,該マイコプラズマ・ニューモニエ抗原と該標識物質で標識された該第二のモノクローナル抗体とを標識担持部材において結合させて,複合体を形成させる手段と,
G 該複合体を,該膜担体を介して展開させ,該検出部位において固定された該第一のモノクローナル抗体と結合させ,集積させることで発色させる手段と,を有する,
H マイコプラズマ・ニューモニエ感染検出用のイムノクロマトグラフィー試験デバイス。」


裁判所は、引用発明の認定に誤りがあるとして、進歩性なしの異議の決定を取り消しました。
裁判所の判断は以下の通りです。


判決---------------------------------------------------------------------------------------------
第4
  当裁判所の判断 
・・・ 
3  取消事由1(引用発明の認定及び一致点と相違点の認定の誤り)について
1)原告の主張は,要するに,本件特許発明は,P1タンパク質に対する特異的なモノクローナル抗体に着目することで,イムノクロマトグラフィー法によって,初めて臨床検体からのマイコプラズマ・ニューモニエ抗原の特異的な検出を実現した発明であるところ,引用例1は,そもそも,P1タンパク質とは全く異なるタンパク質(CARDS)とそのポリクローナル抗体に着目した発明の特許公報である上に,引用例1においては,CARDSに特異的なポリクローナル抗体を用いた場合ですら,臨床検体からのマイコプラズマ・ニューモニエの検出には成功しておらず,かつ,そもそもP1タンパク質に特異的な抗体については,臨床検体はもちろん,精製rP1タンパク質を用いた検出実験すら行われていないにもかかわらず,本件取消決定は,P1タンパク質とCARDSタンパク質の差異や,臨床検体と非臨床検体との差異,さらにはモノクローナル抗体とポリクローナル抗体との差異をいずれも看過したまま,引用発明1を,P1タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を用いて,患者サンプル(臨床検体)からマイコプラズマ・ニューモニエを検出することができる発明であると認定した,というものである。

2 よってまず,引用例1から本件取消決定が認定した引用発明1を認定することができるかどうかについて検討する。
特許法2913号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明(本件特許発明)を容易に発明することができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。また,本件特許発明は物の発明であるから,進歩性を検討するに当たって,刊行物に記載された物の発明との対比を行うことになるが,ここで,刊行物に物の発明が記載されているといえるためには,刊行物の記載及び本件特許の出願時(以下「本件出願時」という。)の技術常識に基づいて,当業者がその物を作れることが必要である。

 
かかる観点から本件について検討すると,引用例1の記載及び本件出願時の技術常識を考慮しても,引用発明1のデバイスを当業者が作れるように記載されているとはいえない。理由は以下のとおりである。ア本件取消決定は,引用発明1P1タンパク質に対するモノクローナル抗体を用いて,患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出を行うラテラルフローデバイスに関する発明として認定しているところ,ラテラルフローデバイスは,イムノクロマトグラフィー法に基づく検出デバイスであり,イムノクロマトグラフィー法による抗原検出においては,抗体と抗原がサンドイッチ複合体を形成する必要があると認められ(甲810,弁論の全趣旨),また,モノクローナル抗体の場合には,抗原を挟み込む二つの抗体が同じものでは不都合であり,少なくとも,二つの異なる抗体を用いることが必要であると認められる(この点は特に当事者に争いがない。)。

その一方で,異なる二つのモノクローナル抗体でありさえすれば,抗体と抗原がサンドイッチ複合体を形成するとの本件出願時の技術常識も見当たらず,また,サンドイッチ複合体を形成しさえすれば,必ず患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出できると直ちにいうこともできない。
たとえば,引用例2199頁図1には,捕獲抗体として特異性の異なる二つのポリクローナル抗体を用い,ペルオキシダーゼ標識モノクローナル抗体(検出抗体)を変えてマイコプラズマ・ニューモニエ抗原の捕獲アッセイを行った試験の結果を表す二つのグラフが示されている。捕獲抗体が抗Mp-IgG(右)の場合,試験されたペルオキシダーゼ標識抗体では,いずれも,標識抗体100ng450nmにおける吸光度が2を超え,標識抗体1μgにおいて,450nmにおける吸光度が3を超えている。これに対し,捕獲抗体が抗P1-IgG(左)の場合には,標識抗体がP1.25又はM74では,1μg450nmにおける吸光度が3を超えていても,標識抗体がM57では,1μgでも吸光度が1に満たない。このように,同じ捕獲抗体を用いた場合であっても,検出抗体によって検出感度が異なり,サンドイッチ複合体の形成に基づく検出は,抗体の組合せによって,検出感度が大きく異なる場合があると理解されるから,モノクローナル抗体を用いてサンドイッチ複合体の形成に基づく検出を行う場合には,適切な抗体を組み合わせて用いる必要があると認められる。

本件取消決定が認定した引用発明1のラテラルフローデバイスも,サンドイッチ複合体の形成に基づく抗原の検出デバイスであるから,P1タンパク質に対するモノクローナル抗体を用いて,患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出するラテラルフローデバイスを作るためには,第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体として適切な組合せのモノクローナル抗体を用いる必要があると認められる。

そこで,第1のモノクローナル抗体と第2のモノクローナル抗体の組合せに関して引用例1の記載を検討するに,引用例1には,ラテラルフローデバイスに用いる二つの抗体について,具体的なモノクローナル抗体の組合せを示す記載は見当たらない。また,本件出願時において,ラテラルフローデバイス等のサンドイッチ複合体を形成できる具体的なモノクローナル抗体の組合せが周知であったことを示す証拠もない(引用例2199頁図1の左側のグラフに示されている実験において,P1.25M74は,それぞれ,抗P1-IgG又は抗Mp-IgGを捕獲抗体とした場合に,抗原を検出可能としていることから,当該捕獲抗体と抗原とからなるサンドイッチ複合体を形成するものと考えられるが,引用例2に記載されていることをもって,直ちにこれらの抗体が周知であるということはできないし,そもそも,当該捕獲抗体はいずれもポリクローナル抗体であるから,異なる二つのモノクローナル抗体の組合せが明らかにされているとはいえない。ほかにサンドイッチ複合体を形成できる具体的なモノクローナル抗体の組合せを明らかにする証拠はない。)。

次に,引用例1に記載された具体的なイムノクロマトグラフィー(ICT)デバイスについての唯一の実施例である実施例4は,抗rCARDS抗体を用いたもので,P1タンパク質に対する抗体を用いたものではない。また,引用例1におけるP1タンパク質に対する抗体に関する具体的な記載は,実施例3のみであるが,実施例3における抗原の検出は,サンドイッチ複合体の形成とは異なる,市販の二次抗体である抗ウサギ又は抗マウス抗体を用いた方法によるものである。したがって,これらの実施例の記載から,サンドイッチ複合体を形成可能なモノクローナル抗体を知ることはできない。
さらに,引用例1には,P1タンパク質に対するモノクローナル抗体として,マウスのモノクローナル抗真正P1タンパク質抗体H136E7(【0012】)とrP1に対するモノクローナル抗体(【0096】)に関する記載があるが,P1タンパク質に対する具体的なモノクローナルは,H136E7が記載されているにとどまり,rP1に対するモノクローナル抗体については,その当該モノクローナル抗体を生産する細胞株も,モノクローナル抗体のアミノ酸配列等の情報も,H136E7とのサンドイッチ複合体の形成の有無に関する手掛かりとなる情報も記載されていない。このような引用例1の記載に基づいて,ラテラルフローデバイスを作るためには,モノクローナル抗体として一つはH136E7を用いるとしても,もう一つ,H136E7とサンドイッチ複合体を形成可能な別のモノクローナル抗体を用いる必要があるが,引用例1には,そのようなモノクローナル抗体の構造について手掛かりとなる記載がなく,何らかの方法でモノクローナル抗体を入手し,それらのモノクローナル抗体が,H136E7とサンドイッチ複合体を形成可能であるかを調べ,試行錯誤によって,H136E7と組み合わせて患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出するラテラルフローデバイスを構成できるモノクローナル抗体を見つけ出す必要がある。

以上を踏まえれば,たとえ様々なモノクローナル抗体を得る技術自体は周知技術であるとしても,本件取消決定が認定した引用発明1のラテラルフローデバイスは,引用例1の記載及び本件出願時の技術常識から,直ちに作ることができるものとはいえない。
したがって,引用例1に引用発明が記載されている(あるいは,記載されているに等しい)ということはできない。

  患者サンプル(臨床検体)からの検出という点についても検討する。患者サンプルからの患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出については,引用例1の実施例7に記載があるが,この方法は,CARDSを検出抗原とした抗原捕捉EIAに基づくものであって,P1タンパク質をサンドイッチ複合体の形成に基づいて検出する引用発明1のデバイスとは,抗原も検出手法も異なる。それだけではなく,以下のように,検体から感染が検出されているかどうかも定かではない。
すなわち,引用例1の実施例7では,患者からの検体で試験したところ,M・ニューモニエ感染の9検体内の1検体と,非M・ニューモニエ感染の18検体が,それぞれバックグラウンドを超えるEIAシグナルを示したとの記載がある。ここで,引用例1には,抗原捕捉EIAとのみ記載されており,具体的な検出系については記載されていないが,仮に,通常のサンドイッチ複合体の形成に基づく検出系であるとすると,抗原の存在によりシグナルが増大するので,実施例7の試験結果は,感染・非感染と,シグナルの増大とが正しく対応していないことになる。

この点に関し,被告は,競合法であれば,サンプル中の抗原が多くなるとシグナルが小さくなる検出法であるから,非M・ニューモニエ感染の18検体では抗原が存在しないためシグナルが大きくなり,M・ニューモニエ感染の9検体では抗原が多いためシグナルが小さくなることが予測されるところ,実施例7の記載は,これとほぼ一致しており,したがって,実施例7は,感染・非感染を検出できたことを示すものとして解釈すべきである旨を主張している。

しかし,仮に,実施例7の試験が競合法によるものであるとすると,競合法は,標識抗体を用いるサンドイッチ法などの標識抗体を用いる検出方法とは異なり,標識抗原を用いる必要があるが,引用例1には,標識抗原を製造したことや,標識抗原を入手したことについての記載が全くない。そして,そもそも,引用例1には,実施例7がどのような検出系により検出を行ったのかについても記載されていない。したがって,試験結果との整合性のみから,競合法に基づくと断定することはできない。
以上の点からみて,引用例1の実施例7の記載は,患者サンプル(臨床検体)からのマイコプラズマ・ニューモニエの検出が可能であったことを示すものとはいえない。
かかる観点からも,引用例1に引用発明が記載されている(あるいは,記載されているに等しい)ということはできない。

3)小括
以上によれば,本件取消決定は,進歩性についての判断を行うに際し,引用発明の認定を誤った結果,第1の抗体及び第2の抗体としてモノクローナル抗体を用いる点と,患者サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエの検出を行う点についての相違点を看過し,なおかつ,これらの相違点に関する
結論
よって,本件取消決定を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
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■フェブキソスタットC晶、G晶の結晶特許、知財高裁も進歩性なしと判断


<判決紹介>
・平成29(行ケ)10147号審決取消請求事件
・平成301120日判決言渡
・知的財産高等裁判所第1 高部眞規子 杉浦正樹 片瀬亮
・原告:帝人株式会社
・被告:日本ケミファ株式会社
・特許3547707
・発明の名称:2-3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体およびその製造方法


コメント
ジェネリック vs 新薬の審決取消訴訟を紹介します。
本件特許は、フェブキソスタットの結晶特許(A晶~D晶、G晶)です。

日本ケミファが請求した無効審判において、本件特許の請求項135681014A晶、C晶、G晶)に対して、進歩性欠如で無効審決(201765日)が出ていました。

これに対して帝人が訴訟を提起していましたが、今回、裁判所は帝人の請求を棄却しました。
(なお、日本ケミファは請求項16への請求を取り下げたため、今回の訴訟は請求項35681014C晶、G晶)が対象となっています。)


本件特許の請求項3C晶)は以下の通りです。

「【請求項3   反射角度2θで表して,ほぼ6.62°,10.82°,13.36°,15.52°,16.74°,17.40°,18.00°,18.70°,20.16°,20.62°,21.90°,23.50°,24.78°,25.18°,34.08°,36.72°,および38.04°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す,2-3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体。」

本件特許明細書に記載の安定性試験の結果は以下の通りです。

[実施例10]
安定性試験
A
晶、B晶、C晶、D晶、およびG晶の安定性試験を以下の条件で行った。
保存条件140℃/75%相対湿度、密栓状態、3ヶ月および6ヶ月保存
保存条件240℃/75%相対湿度、開栓状態、1ヶ月および3ヶ月保存
その結果、B晶およびD晶は、保存条件13ヶ月時点および保存条件21ヶ月時点でG晶への変化が粉末X線回折および赤外分光分析により確認できた。この転移後のG晶は、保存条件16ヶ月および保存条件23ヶ月時点ではG晶の晶形を保持していることが確認された。
一方、A晶、C晶、およびG晶は保存条件16ヶ月時点および保存条件23ヶ月時点では他の結晶多形体への転移は確認できなかった。
なお、試験全期間を通して、各結晶多形体の総不純物量は、試験開始前と比較して増減が認められなかった。」


裁判所の判断は以下の通りです。


判決----------------------------------------------------------------------------------------------
事案の概要
・・・
本件審決の理由の要旨
・・・
 
  本件発明3と引用発明2-1との一致点・相違点
 
(ア)  一致点
  2-
3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶である点。
 
(イ)  相違点
  a 
相違点9
 
本件発明3が,「反射角度2θ で表して,ほぼ6.62°,10.82°,13.36°,15.52°,16.74°,17.40°,18.00°,18.70°,20.16°,20.62°,21.90°,23.50°,24.78°,25.18°,34.08°,36.72°,および38.04°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す」としているのに対し,引用発明2-1では,X線粉末回折パターンについての特定がされていない点。
  b 
相違点10
 
本件発明3が,「結晶多形体」としているのに対し,引用発明2-1では,そのように特定されていない点。

当裁判所の判断
・・・
 
  相違点9及び11について
 
  引用例2の実施例77には,本件化合物の再結晶を行う際の溶媒にエタノールを用いることが記載されているが(前記2⑴イ),詳細な再結晶条件は不明である。
 
  しかし,前記(⑶イ(ア))のとおり,結晶多形は,同じ化学組成をもちながら結晶構造が異なり,別の結晶形を示す現象又はその現象を示すものをいい,多くの医薬品で結晶多形の存在が確認されているところ,結晶多形体は,固有の融点,溶解度をもち,再結晶条件を変化させることで結晶多形体の存在を確認することができる。
 
ここで,引用例1にはアセトンより再結晶させて得られる融点が201202℃の本件化合物の結晶が,引用例2にはエタノールより再結晶させて得られる融点が238239℃(分解)の本件化合物の結晶が,引用例3にはエタノール/=91より再結晶させて得られる融点が207209℃の本件化合物の結晶がそれぞれ記載されており(前記2⑴),これらによって,同じ化学組成であるにも関わらず,再結晶条件の違いにより,融点が顕著に異なる3つの結晶が得られている。
 
したがって,本件優先日当時の技術常識を有する当業者であれば,引用例13の記載から,本件化合物に結晶多形が存在することを認識し得たといえる。

 
  また,結晶多形が存在する医薬品においては,結晶多形体ごとに種々の物性の違いがあるため,バイオアベイラビリティ(生体内での有用性),結晶状態における安定性及び製剤特性などの種々の要因を考慮して,最適な結晶形を選択するという技術課題が存在している。特に,安定性や製剤化に優れる多形結晶体の再結晶による調製が各種行われてきた。その際,再結晶に用いる溶媒や冷却温度,冷却速度,撹拌の有無等といった再結晶条件を変えることで異なる結晶多形体が得られること,及びこれらの結晶多形体を同定,分離する各種の方法は周知であったところ,標準試料がない場合であっても,それぞれの結晶多形体が示す固有の特徴的なX線回折パターンを,測定した試料間で相互に比較することにより個々の結晶多形体の判定を行うことが可能であった(以上につき,前記⑶イ(ア))。
 
このため,結晶多形が存在する医薬品においては,本件優先日当時の当業者の技術常識として,上記技術課題を解決するべく,再結晶条件につき検討を加えることでバイオアベイラビリティ(生体内での有用性),結晶状態における安定性及び製剤特性等の種々の要因を考慮して最適と思われる結晶形を探求し,これを得ようとすることは,当業者が当然に行うことということができる。
 
そして,上記のとおり,本件化合物は,引用例13の記載により結晶多形の存在を認識し得る。
 
そうすると,引用発明1-12-1及び3の結晶について,当業者には,再結晶条件につき検討を加えることで,安定性や製剤化に優れる結晶多形体を得ることについての動機付けがあるということができる。
 
さらに,本件優先日当時,結晶多形の存在はX線回折法,赤外吸収スペクトル法等により知ることができたのであるから(前記⑶イ(ア)),他の結晶多形体と識別するために,X線回折法パターンのピーク又は赤外吸収スペクトルの特徴的吸収で特定することにより,得られた結晶多形体を特定することも,格別の創意工夫を要するものではなかったということができる。

 
  再結晶溶媒としてエタノールを用いた場合である甲72の実験-②と甲27の実験群-1を見ると,両者は,エタノールを再結晶溶媒として用い,室温で放冷した点では共通するが,エタノールの使用量及び撹拌の有無で相違しており,前者ではC晶が,後者ではA晶又はA晶+エタノール和物晶が生成したことが示されている。また,甲45のエタノールを溶媒とする実験は,本件化合物2g及び溶媒20ml10倍容)を使用し,冷却条件(撹拌の有無)を変更したものであるが,いずれもエタノール和物晶が生成したことが示されている。
 
そして,結晶の析出については,飽和に近い熱溶液を放置し,室温に冷やして結晶を得る方法が一般的とされ,冷却とともに適宜撹拌を行うものであるから(前記⑶イ(イ)),上記甲7227及び45の各実験は,いずれも本件優先日当時の技術常識に従って設定された範囲の再結晶条件で再結晶が行われたものといえる。したがって,本件化合物につき,溶媒としてエタノールを用い,本件優先日当時の技術常識に従って設定された再結晶条件で再結晶させた場合には,本件化合物とエタノールの使用量,撹拌の有無,冷却条件により異なる結晶多形体が生成されるものの,おおむね安定形であるC晶(甲72),準安定形であるA晶(甲27),エタノール和物晶(甲27,甲45)の3種にとどまり,多数の結晶多形体が得られることはないことが理解される。そうすると,安定形であるC晶を得るための再結晶条件の選定に格別の困難を伴うとは考えられない。

 
  したがって,引用発明2-1の本件化合物のエタノールを溶媒とする再結晶において,本件優先日当時の技術常識に基づいて再結晶条件を選定し,安定性に優れる結晶多形体,例えばC晶を得ることは,当業者が容易になし得たものというべきである。
 
また,C晶を単離し,他の結晶多形体と識別するために,X線回折法パターンのピーク又は赤外吸収スペクトルの特徴的吸収で特定することについては,上記ウのとおり,本件優先日当時の技術常識であり,当業者にとって格別の創意工夫を要するものではない。
 
  以上より,相違点9及び11に係る本件発明3及び8の構成は,引用発明2-1に基づき容易に想到し得るものと認められる。

 
  相違点10及び12について
 
多形とは,同じ化学組成を持ちながら結晶構造が異なり,別の結晶形を示す現象又はその現象を示すものをいうから(前記⑶イ(ア)),結晶多形体は結晶である。他方,引用発明2-1も結晶である。したがって,相違点10及び12は実質的な相違点ではない。

 
  本件発明3及び8の効果について
 
固体医薬品の大部分は結晶であり,多くの医薬品で結晶多形の存在が見出されていること,結晶多形を有する医薬品においては,結晶多形体ごとに種々の物性の違いがあるため,バイオアベイラビリティ(生体内での有用性),結晶状態における安定性及び製剤特性などの種々の要因を考慮して,最適な結晶形が選択されていることは,本件優先日当時の技術常識である(前記⑶イ(ア))。換言すれば,本件化合物を医薬品として用いようとする以上,医薬の承認のために必要な安定性を有することを追求することは当然のことであり,特別な課題とはいえない。
 
また,本件優先日当時の技術常識を前提とした場合,本件各発明に係る結晶形により,従来の結晶よりも格段に優れた効果が示されたことをうかがわせる記載は,本件明細書には見当たらない。
 
したがって,本件発明3及び8について,当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものということはできない。

 
  原告の主張について
 
原告は,引用例13から,本件化合物に結晶多形が存在することを認識し得ないなどとし,本件発明3及び8につき,相違点912に係る構成は容易に想到し得ず,また,顕著な効果を奏する旨を主張する。
 
しかし,引用例13に記載される結晶は,純粋な固体有機物を得る分離精製法である再結晶により調製されたものであるから,相当量の不純物を含むものとは解されない。また,3つの結晶の融点が大きく異なっていること,各々の融点が12℃程度の狭い範囲のピークとなっていること,結晶多形体がそれぞれ異なる溶解性を備え,再結晶により分離されることに鑑みると,当業者には,本件化合物には結晶多形が存在する蓋然性が高く,引用例13で得られた結晶も単一の結晶形が得られている蓋然性が高いと理解されるものと解される。
 
その他原告がるる指摘する事情を考慮しても,本件優先日当時の当業者の技術常識(前記⑶イ)を踏まえると,この点に関する原告の主張は採用できない。

 
  小括
 
以上より,本件発明3及び8は,引用発明2-1及び引用例13,甲14及び15記載の各発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,この点に関する本件審決の認定・判断に誤りはない。この点に関する原告の主張はいずれも採用できず,取消事由1-3は理由がない。

取消事由2(本件発明5及び10についての容易想到性判断の誤り)について
・・・

結論
 
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
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■結晶化条件の組み合わせに基づく非容易想到性、顕著な効果を主張したが認められなかった事例


<判決紹介>
・平成29年(行ケ)第10196号 審決取消請求事件
・平成30年11月21日判決言渡
・知的財産高等裁判所第4部 大鷹一郎 古河謙一 関根澄子
・原告:メルク・シャープ・アンド・ドーム・コーポレーション
・原告:メルク  シャープ  エンド  ドーム  リミテッド
・被告:特許庁長官
・特願2014-518879
・発明の名称:ジペプチジルペプチダーゼ―IV阻害剤の新規結晶形


コメント
拒絶審決の審決取消訴訟をご紹介します。
請求項1は以下の通りです。請求項1の化1は、DPP-4阻害薬であるオマリグリプチン(販売名:マリゼブ)と同じ構造です。

「【請求項1】 
  10.3±0.1  2θ,12.7±0.1  2θ,14.6±0.1  2θ,16.1±0.1  2θ,17.8±0.1  2θ,19.2±0.1 2θ,22.2±0.1  2θ,24.1±0.1  2θおよび26.9±0.1  2θからなる群より選択される少なくとも4つのピークを粉末X線回折パターンに有することを特徴とする,化合物Iの結晶質(2R,3S,5R)-2-(2,5-ジフルオロフェニル)-5-[2-(メチルスルホニル)-2,6-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピラゾール-5(4H)-イル]テトラヒドロ-2H-ピラン-3-アミン(形I)。
【化1】
20181212_biopatentblog.jpg


原告のMSDは、
・審決の引用発明の認定の誤り、
・動機付けの不存在、
・本願の結晶化条件(結晶化原料(非晶質遊離塩)、結晶化溶媒(酢酸エチル)及び温度(13℃以上)を含む)の選択(特定の組み合わせ)に多大な試行錯誤を要すること、
の観点から審決がした容易相当性の判断に誤りがあり、また、本願発明の予想外の顕著な効果の判断についても審決に誤りがあると主張しました。


一方で、裁判所はいずれの主張も認めませんでした。
裁判所の判断は下記の通りです。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
第4  当裁判所の判断 
1  相違点の容易想到性の判断の誤りについて
・・・

イ  医薬化合物の結晶化に係る技術常識 
前記アの記載事項を総合すると,本願の優先日(平成23年6月29日)当時,①結晶性製品は一般に取扱い及び製剤化が容易であるため,医薬品原薬の多くは最終工程において結晶状態として製造され,また,医薬品においては,結晶多形が安定性,溶解性,バイオアベイラビリティに影響を及ぼし得ることから,医薬品開発においては,医薬品原薬を恒常的に安定製造するための結晶化条件の最適化の検討が必要であるとともに,結晶多形の最適化ための結晶多形の探索ないし多形スクリーニングが必要であること,②結晶多形の存在及びその分析のために,X線粉末回折が通常用いられること,③酢酸エチルは,結晶化溶媒として,安全性が高く,最も普通に使用される溶媒の一つであることは,技術常識であったものと認められる。

(4)  相違点の容易想到性の有無について 
ア  刊行物1には,実施例1の最終生成物の化合物Pを含む医薬組成物は,ジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素の阻害剤として,糖尿病,特に2型糖尿病のようなジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素が関与する疾患の治療又は予防に有用であることの記載(前記(2)ア(イ)ないし(エ),(サ))があるから,実施例1の最終生成物の化合物Pは医薬化合物であるものと認められる。
前記(3)イ認定の本願の優先日当時の技術常識に照らすと,刊行物1に接した当業者においては,医薬化合物である実施例1の最終生成物の化合物P(引用発明)について,医薬品原薬を恒常的に安定製造するための結晶化条件の最適化の検討を行うとともに,結晶多形の最適化のための結晶多形の探索ないし多形スクリーニングを行う動機付けがあるものと認められる。
そして,室温で安定な結晶は,冷蔵保存の必要がないため医薬品化合物として望ましいことは自明であるから,結晶多形の探索ないし多形スクリーニングに際し,結晶化温度を室温を含む温度範囲,結晶化溶媒を最も普通に使用される溶媒の一つである酢酸エチルとし,X線粉末回折を用いて結晶多形の存在及びその分析を行い,得られた結晶の中から室温での安定性が優れた結晶を選ぶことは,当業者が通常行うことであるものと認められる。
一方,本願明細書の「酢酸エチル中の化合物Iの非晶質遊離塩基の直接結晶化によって,形Iを生成した。」(【0069】),「13℃より上で最も安定な相として形Iを有する。」(【0070】)との記載に照らすと,本願明細書には,結晶化温度を室温を含む13℃より上の温度,結晶化溶媒を酢酸エチルとして,「化合物I」(化合物P)の結晶化を行うことにより,形Iの結晶質が得られることの開示があるものと認められる。
そうすると,当業者は,通常なし得る試行錯誤の範囲で,刊行物1の実施例1の最終生成物の化合物Pについて上記結晶多形の探索ないし多形スクリーニングを行うことにより,室温での安定性が優れた結晶として形Iの結晶質を得ることができたものと認められる。
以上によれば,刊行物1に接した当業者は,刊行物1及び上記技術常識に基づいて,引用発明について相違点に係る本願発明の構成(化合物Pの形Iの結晶質の構成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

イ(ア)  これに対し,原告らは,刊行物1の実施例1の最終生成物の「淡褐色の固体」が非晶質の物質であることを前提として,刊行物1には,結晶多形の存在の示唆は一切ないから,刊行物1に接した当業者において,結晶多形を得ることについての動機付けは存在せず,ましてや特定の結晶形である形Iを選択すべき動機付けは存在しない旨主張する。
しかしながら,刊行物1の実施例1の「淡褐色の固体」(化合物P)は,結晶(結晶質)と認めるのが相当であることは,前記(2)イで説示したとおりである。
また,前記アのとおり,刊行物1に接した当業者においては,医薬化合物である実施例1の最終生成物の化合物Pについて,医薬品原薬を恒常的に安定製造するための結晶化条件の最適化の検討を行うとともに,結晶多形の最適化のための結晶多形の探索ないし多形スクリーニングを行う動機付けがあるというべきであり,このことは,実施例1の最終生成物の化合物Pが結晶(結晶質)であるか,非晶質であるかによって左右されるものではないというべきである。
さらに,結晶多形の探索においては,溶媒の種類,結晶化方法,温度等の異なる結晶条件を設定することにより,ある程度,多形の存在を明らかにすることができるが,現実には試行錯誤を繰り返すことにより,多形が検索されるものであること(前記(3)ア(ク)d)に照らすと,あらかじめ特定の結晶形を選択すべき動機付けがなければ検索できないというものではない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

(イ)  また,原告らは,本願発明は,結晶化する原料として非晶質遊離塩基を採用し,再結晶溶媒として酢酸エチルを用いて,13℃以上の温度で,結晶化して得られた無水の結晶形であり,このような本願発明における結晶化原料,結晶化溶媒及び温度を含む結晶化条件の特定の組合せは,実際に多数の試行錯誤を繰り返して初めて得られるものであるが,刊行物1には,本願発明における結晶化条件の特定の組合せについての記載も示唆もないから,刊行物1に接した当業者は,通常なし得る範囲の試行錯誤により,本願発明の形Iの結晶質を得ることはできない旨主張する。
しかしながら,前記ア認定のとおり,結晶多形の探索ないし多形スクリーニングに際し,結晶化温度を室温を含む温度範囲,結晶化溶媒を一般に使用される溶媒の一つである酢酸エチルとし,X線粉末回折を用いて結晶多形の存在及びその分析を行い,得られた結晶の中から室温での安定性が優れた結晶を選ぶことは,当業者が通常行うことであって,本願発明における結晶化条件の特定の組合せを採用することは格別のこととはいえないから,原告らの上記主張は理由がない。
ウ以上のとおり,本件審決における相違点の容易想到性の判断に誤りはない。

2  予想できない顕著な効果についての判断の誤りについて 
原告らは,①本願発明の形Iの結晶質の「13℃より上で最も安定な相」として存在するという特性は,形Iの結晶質を得て初めて判明するものであり,刊行物1から予測できない特性であり,この特性を有するのであれば晶析の際に溶媒を冷却することは控えるべきであり,このことは,結晶化プロセスにおいては重要な情報であって,当業者の予測できない有利な効果であること,②本願発明の形Iの結晶質は,上記特性により,他の結晶形に比べて吸湿性に優れるという「物理化学的特性」(すなわち,吸湿しにくい)を有し,医薬組成物の調製の際の取扱いにおいて利点を有し,このことは,本願明細書記載の熱重量分析(図2,7及び12)における形Iの結晶質の重量損失が最も少ないことが示しており,また,本願明細書に本願発明の顕著な効果について具体的な記載はなくとも,当業者であれば,安定な結晶形である形Iの結晶質が,応力に対して結晶形が転移しにくいこと(粉砕,圧縮工程等における安定性),取扱いの容易さ(製剤化における結晶形の移送性),乾燥(乾燥温度で転移しない)など非晶質形態に対して顕著な効果を有していることを認識できること,③刊行物1の実施例1の最終生成物が非晶質であることを考慮すると,本願発明の形Iの結晶質は,通常の結晶質から予測し得る範囲を超える顕著な効果を有するというべきであるから,本願発明の作用効果は格別顕著なものとはいえないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,刊行物1の実施例1の「淡褐色の固体」(化合物P)は,結晶(結晶質)と認めるのが相当であることは,前記1(2)イで説示したとおりであるから,これが非晶質であることを前提とする原告らの主張は,その前提において誤りがある。

次に,本願発明の形Iの結晶質が「13℃より上で最も安定な相」として存在するという特性を有するとしても,そのことは,室温を含む13℃以上の温度で安定であることを意味するものにすぎず,格別顕著なものとはいえない。また,本願明細書には,本願発明の形Iの結晶質が「13℃より上で最も安定な相」として存在するという特性により,「処理および結晶化の容易さ,取り扱い,応力に対する安定性,計量分配の利点を有し医薬剤形の製造に好適という効果」(【0007】)を奏するとの記載はなく,これらが形Iの効果であることを認識することは困難である。
さらに,仮に本願発明の形Iの結晶質が他の結晶形に比べて「吸湿性が低い」としても,それをもって,予測し得る範囲を超える顕著な効果であるということはできない。
したがって,原告らの上記主張は,理由がない。
このほか,原告らは,縷々主張するが,本願発明の形Iの結晶質が予想できない顕著な効果を有することの根拠となるものではない。

3  結論
前記1及び2によれば,本願発明は,刊行物1及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとした本件審決の判断に誤りはないから,原告ら主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告らの請求は棄却されるべきものである。
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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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