■2019-10-

■<リツキシマブBSの特許侵害訴訟> 請求項1の「最中」を狭く解釈した上で、サポート要件を満たさないと判断した事例


<判決紹介>
・平成29()44053号 特許権侵害差止請求事件
・令和元年529日判決言渡
・東京地方裁判所民事第29部 山田真紀 西山芳樹 山田真紀
・原告:ジェネンテック  インコーポレイテッド
・原告補助参加人:全薬工業株式会社、中外製薬株式会社
・被告:サンド株式会社、協和発酵キリン株式会社
・特許6226216、特許6241794、特許6253842
・発明の名称:抗CD20抗体の投与を含むB細胞リンパ腫の併用療法


■コメント
リツキシマブのバイオシミラーに対する特許侵害訴訟の紹介です。少し前の判決です。

特許6226216、特許6241794、特許6253842(特許権者:バイオジェン)の専用実施権を有する原告(ジェネンテック)が、被告(サンド、協和発酵キリン)のリツキシマブBS点滴静注100mgKHK」、500mgKHKが本件特許発明の技術的範囲に属し、製造販売等が専用実施権を侵害すると主張して、製造等の差し止め、及び損害賠償金の支払いを求めた事案です。

先発品はリツキサン(リツキシマブ)です。


各本件特許の請求項1は以下のとおりです(構成要件の分説ずみ)。リツキシマブと他剤との併用に特徴があります。

▼特許6226216(本件特許1
【請求項1】
1A 
リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,
1B 
治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOPによる化学療法の最中に投与される,
1C 
上記医薬組成物。

▼特許6241794(本件特許2
【請求項1】
2A 
リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法と組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,
2B 
治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ前記化学療法の間に投与され,かつ,前記化学療法が,CVPである,
2C 
上記医薬組成物。

▼特許6253842(本件特許3
【請求項1】
3A 
リツキシマブを含み,中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,
3B 
治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与され,
3C 
前記医薬組成物と,前記シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソンとが,前記CHOPによる化学療法の各サイクルの1日目に前記患者に投与される,
3D 
医薬組成物。


被告製剤の概要は以下のとおりです。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
  被告製剤
  被告製剤は,リツキサン製剤のバイオ後続品(バイオシミラー)として,被告サンドが製造販売承認を受けた医薬品であり,有効成分としてリツキシマブを含有している。

  被告製剤の添付文書の用法・用量欄には,CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫に用いる場合として,「通常,成人には,リツキシマブ(遺伝子組換え)[リツキシマブ後続1]として1回量375mg/㎡を1週間間隔で点滴静注する。最大投与回数は8回とする。他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,併用する抗悪性腫瘍剤の投与間隔に合わせて,1サイクルあたり1回投与する。」と記載されているほか,用法・用量に関連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」と記載されている。

そして,被告製剤の添付文書の臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,「進行期ろ胞性リンパ腫患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(GP13-301試験)」として,未治療の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品,シクロホスファミド水和物,ビンクリスチン硫酸塩及びプレドニソン又はプレドニゾロンを併用するR-CVPレジメンによって投与されたことが記載されている。
また,先行バイオ医薬品の臨床成績として,①「国内臨床第Ⅱ相試験(IDEC-C2B8-6試験)における成績」,②「国外臨床第Ⅲ相試験(PRIMA試験)における成績」,③「国外臨床第Ⅲ相試験(EORTC20981試験)における成績」が記載されており,①国内臨床第Ⅱ相試験(IDEC-C2B8-6試験)においては,未治療の低悪性度(低グレード)又はろ胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に,先行バイオ医薬品,シクロホスファミド水和物,ドキソルビシン塩酸塩,ビンクリスチン硫酸塩及びプレドニゾロンを併用するR-CHOPレジメンによる寛解導入療法が実施されたこと,②国外臨床第Ⅲ相試験(PRIMA試験)においては,未治療のろ胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に,先行バイオ医薬品,シクロホスファミド水和物,ドキソルビシン塩酸塩,ビンクリスチン硫酸塩及びプレドニソンを併用するR-CHOPレジメンによる寛解導入療法,先行バイオ医薬品,シクロホスファミド水和物,ビンクリスチン硫酸塩及びプレドニソンを併用するR-CVPレジメンによる寛解導入療法等が実施されたこと,③国外臨床第Ⅲ相試験(EORTC20981試験)においては,再発又は難治性のろ胞性非ホジキンリンパ腫の患者に,R-CHOPレジメンによる寛解導入療法が実施されたことなどが記載されている(甲16)。

  被告製剤は,構成要件1A1C2A2C2E3A3Dを充足する。
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争点は下記のとおりです。
このうち、裁判所が判断したのは、(3)ウ、(4)ア、(8)イです。つまり、本件特許1及び3サポート要件と、本件特許2CVPの充足性(技術的範囲)です。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
争点
(1) 
被告製剤は,文言上,本件発明1の技術的範囲に属し,その製造販売等は本件発明1の実施に当たるか(争点1
 
  被告製剤は「プレドニソン」(構成要件1B)を充足するか(争点1-1
 
  被告製剤は「最中」(構成要件1B)を充足するか(争点1-2
(2) 
被告製剤は,本件発明1と均等なものとして,その技術的範囲に属するか
(争点2
(3) 
本件特許1は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点3
 
  本件発明1は乙1文献等により進歩性を欠くか(争点3-1
 
  本件発明1は乙33文献等により進歩性を欠くか(争点3-2
 
  本件特許1は特許法3661号に違反しているか(争点3-3
 
  本件特許1は特許法3662号に違反しているか(争点3-4
 
  分割要件違反により本件発明1は新規性を欠くか(争点3-5
(4) 
被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属し,その製造販売等は本件発明2の実施に当たるか(争点4
 
  被告製剤は「CVP」(構成要件2B)を充足するか(争点4-1
    被告製剤は「間に」(構成要件2B)を充足するか(争点4-2
 
  被告製剤は構成要件2Dを充足するか(争点4-3
(5) 
本件特許2は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点5
 
  本件発明2は乙1文献等により進歩性を欠くか(争点5-1
 
  本件発明2は乙33文献等により進歩性を欠くか(争点5-2
 
  本件特許2は特許法3661号に違反しているか(争点5-3
 
  分割要件違反により本件発明2は新規性を欠くか(争点5-4
(6) 
被告製剤は,文言上,本件発明3の技術的範囲に属し,その製造販売等は本件発明3の実施に当たるか(争点6
 
  被告製剤は「プレドニソン」(構成要件3B及び3C)を充足するか(争点6-1
 
  被告製剤は「最中」(構成要件3B),「各サイクルの1日目」(構成要件3C)を充足するか(争点6-2
(7) 
被告製剤は,本件発明3と均等なものとして,その技術的範囲に属するか(争点7
(8) 
本件特許3は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点8
 
  本件発明3は乙9文献等により進歩性を欠くか(争点8-1
 
  本件特許3は特許法3661号に違反しているか(争点8-2
    分割要件違反により本件発明3は新規性を欠くか(争点8-3
(9) 
被告らに共同不法行為が成立するか(争点9
(10) 
損害の発生の有無及びその額(争点10
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本件特許1及び3のサポート要件に関しては、裁判所は、請求項1に記載の「最中」を狭く解釈した上で、サポート要件を満たさないと判断しました。
概要を以下に記載します。

・本件特許1の請求項1に記載の「最中」は、分割出願時は「同時」(休薬期間中の投与を含む)だった。
・甲38(休薬期間中の投与が記載)に対する新規性/進歩性欠如の拒絶理由が通知され、それを回避するために「同時」は「最中」に補正された。
・このことから裁判所は、「最中」は投薬スケジュールのうち、休薬期間中を含まず、「投薬期間中」を意味すると解するのが相当と判断した。
・本願特許明細書に、リツキシマブをCHOP療法の各薬剤の「投薬期間中」に投与することに関する記載は無い。
・このことから裁判所は、本件特許1及び3はサポート要件を満たさないと判断した。


裁判所の判断は以下のとおりです。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
事案に鑑み,本件特許1及び3が,それぞれ,特許法3661号に違反しているか(争点3-3,争点8-2)について,まず判断する。
(1) 
特許法3661号適合性
特許請求の範囲の記載が特許法3661号に適合するか否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決することができると認識し得る範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決することができると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。

(2) 
本件特許1及び3の特許請求の範囲の記載
構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」については,次のように解するのが相当である。
  構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」の意義
前記第22(4)のとおり,CHOPないしCHOP療法は,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン及びプレドニソン又はプレドニゾロンを併用する化学療法であり,一般に,各薬剤の投薬期間及び休薬期間を組み合わせた所定の投薬スケジュールを繰り返すことによって実施されるものと認められるところ,次のとおり,構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間のうち,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中を意味するものと解するのが相当である。一般に,「最中」に「物事のまっさかり。また,動作が進行中でまだ終わってないとき。」(乙37)という字義があることからすると,「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法が進行中でまだ終わっていない段階,すなわち,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間を意味するものとも解し得る。
しかしながら,前記1⑶のとおり,構成要件1Bの「最中」という文言は,本件特許1の分割出願時に「同時」という文言であったところ,「同時」はCHOP療法の各薬剤とリツキシマブを交互に投与する態様,すなわち,休薬期間中の投与を含むものであり,その態様は甲38文献に記載されており,新規性及び進歩性を欠くなどとして拒絶理由を通知され,拒絶理由を回避するために補正によって導入された文言であり,出願人であるバイオジェンによる本件意見書において,「最中」とすることにより,本件発明1は甲38文献で開示されているものとは異なる発明となることが示されている。

すなわち,前記1(2)アのとおり,甲38文献に記載されているCzuczmanらによる臨床試験は,非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に対して,21日間(3週間)の投薬スケジュールを6サイクル行うCHOP療法を実施しながら,リツキサン375mg/㎡を合計6回投与したものであり,①CHOP療法の各サイクルは,いずれも,1日目にシクロホスファミド,ドキソルビシン及びビンクリスチンを投与し,1日目から5日目までプレドニソンを投与するというスケジュールであり,各サイクル開始後6日目から21日目までは休薬期間であること,②リツキサンの6回の投与のうち3回目及び4回目の投与(注入3および4)は,それぞれ,CHOP療法の3回目及び5回目のサイクルが開始される2日前,すなわち,2回目及び4回目のサイクル開始後20日目に行われたことが示され,上記の3回目及び4回目のリツキサンの投与は,いずれも,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中に行われたものであるといえるところ,甲38文献に記載された発明は,前記1⑶のとおり,本件意見書において,「(CHOP)による化学療法の最中に投与される」に含まれないことが示されている。
そうであれば,本件特許1の出願過程において,Czuczmanらによる臨床試験における3回目及び4回目のリツキサンの投与のように,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間にリツキシマブを投与するものであっても,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中に投与するものは,「(CHOP)による化学療法の最中」から除外されたものと解するのが相当である。
したがって,構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間のうち,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中を意味すると解するのが相当である。

  被告らの主張について
被告らは,「最中」の一般的な字義及び本件明細書1の記載等によれば,構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOPによる化学療法が進行中でまだ終わっていない段階,すなわち,CHOPによる化学療法のコースを開始してから6コース繰り返して全て終了するまでという意味に解するのが自然である旨主張しており,被告らが主張する「コース」はCHOP療法の各薬剤の投薬期間及び休薬期間の組合せに係る所定の投薬スケジュールを意味するものと解される。しかしながら,前記のとおり,本件特許1の出願経過に照らせば,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間にリツキシマブを投与するものであっても,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中に投与するものは,「(CHOP)による化学療法の最中」から除外されたものと解するのが相当であるから,被告らの主張は採用することができない。

(3) 
本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載
  本件明細書1及び3の【0015】,【0017
本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載は,前記1(1)のとおりであり,発明を実施するための形態として,「本発明の併用療法は,治療法が同時に行われ,すなわち抗CD20抗体は,同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進んでいるが,薬剤は全く同時に投与されるわけではない)で投与される。本発明の抗CD20抗体はまた,他の治療法の前または後に投与されてよい。」(【0015】),「また本発明には,化学療法の前,その最中,または後に,治療上有効量のキメラ抗CD20抗体を患者に投与することを含んでなる,B細胞リンパ腫の治療法が含まれる。そのような化学療法は,少なくとも,CHOPICE,ミトザントロン,シタラビン,DVPATRA,イダルビシン,ヘルツァー(hoelzer)化学療法,ララ(LaLa)化学療法,ABVDCEOP2-CdAFLAGIDA(以後のG-CSF治療有りまたは無し),VADMPC-WeeklyABCMMOPP,およびDHAPよりなる群から選択される。」(【0017】)と記載されている。
しかしながら,上記において,抗CD20抗体ないしキメラ抗CD20抗体として示されるリツキシマブの投与時期について,【0015】では,「他の治療法の前または後」と「同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進んでいるが,薬剤は全く同時に投与されるわけではない)」が併記されるにとどまり,また,【0017】では,「化学療法の前…または後」と「その最中」が併記されるにとどまっており,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る説明はされていないから,これらの記載をもって,リツキシマブをCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するという本件発明1の用途を認識することは困難であり,もとより,リツキシマブを含む医薬組成物と化学療法に用いられる各薬剤を化学療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を認識することもできない。
・・・

  小括(争点3-3,争点8-2
以上のとおり,本件明細書1及び3の発明の詳細な説明に,本件発明1及び3の用途を記載又は示唆するものはなく,本件全証拠によっても,本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載及び本件原出願日当時の技術常識に基づき,リツキシマブを含む医薬組成物を本件発明1及び3の用途に使用することにより新たに有効な治療法を提供するという発明の課題を解決することができると認識し得ると認めることはできない。
よって,本件発明1及び3に係る特許請求の範囲の記載は,特許法3661号に適合しておらず,本件特許1及び3は,同号に違反する。
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本件特許2CVP療法の充足性に関しては、裁判所は、明細書にCVPの説明がないことから原出願日当時の技術常識(文献)に基づいて解釈した上で、被告製剤はCVPの構成要件を充足しないと判断しました。
概要を以下に記載します。

CVP療法は、シクロホスファミド、ビンクリスチン、及びプレドニゾロン又はプレドニソンを併用する化学療法である。
・原告は、(i)投与量、投与方法及び投与時期を限定する旨の記載はないから、それらによる限定はされないものと解すべき、(iiCVP療法及びCOP療法が意味するところは一義的ではなかった、(iii)シクロホスファミドを1日目に投与するものをCVP療法として記載する文献(甲91等)があった、(iv)被告製剤のR-CVP療法は上記3剤とリツキシマブを組み合わせたものであるため構成要件2Bの「CVP」を充足すると主張した。
・裁判所は、明細書にCVP療法の具体的な説明がないため、「CVP」の解釈を原出願日当時の技術常識で判断した。
・原出願日前の文献(甲74等)には、CVP療法は「シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与」することが記載されていた。甲28等にそれとは異なる記載があったが、裁判所は、多様な化学療法が研究される中で、一般的な認識とは異なる記載がされたものとみるのが相当と判断した。
・被告製剤の【臨床成績】欄には、「R-CVPレジメン」によって投与されたこと等が記載されている。
R-CVPレジメンは、リツキシマブを1日目に投与するとともに、シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目、プレドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメンである。
・裁判所は、被告製剤は、添付文書に記載されたR-CVPレジメンがシクロホスファミドを1日目にのみ投与するものであり、1日目から5日目まで投与するものでない点で、構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえないと判断した。


裁判所の判断は以下のとおりです。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
争点4-1(被告製剤は「CVP」(構成要件2B)を充足するか)について
(1) 
CVP」の意義
  構成要件2Bは「前記化学療法が,CVPである」というものであり,前記第22(4)のとおり,CVPないしCVP療法は,シクロホスファミド,ビンクリスチン及びプレドニゾロン又はプレドニソンを併用する化学療法であると認められる。
そして,証拠(乙15147)によれば,使用薬剤の組合せが同一であっても,投与量,投与方法,投与時期等が異なる場合には,異なる化学療法として区別して認識されることがあると認められるところ,次のとおり,本件原出願日前に発行されていた文献には,CVP療法と使用薬剤の組合せが同一の化学療法として,COPないしCOP療法という名称の化学療法も記載されていたから,CVP療法とCOP療法が,各薬剤の投与量,投与方法,投与時期等によって,異なる化学療法として区別して認識されていたかについて検討する。

  後掲各証拠及び弁論の全趣旨に照らせば,CVP療法又はCOP療法について,次の各事実が認められる。
(ア)シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニソンの3剤を併用する化学療法は,昭和44年(1969年)に発行されたHoogstratenらの文献(甲73)によって初めて報告された。その後発行された文献(甲75,乙175)において,Hoogstratenらの文献に記載された化学療法はCOP療法として記載されている。
(イ)昭和56年(1981年)9月に発行された田中公ら「進行したNon-Hodgkins LymphomaにおけるCVP療法-白血化例も含めて-」癌と化学療法,Vol.8,No.9,pp.1441-1449(乙113,以下「乙113文献」という。)には,CVP療法について,後記(オ)②のとおり記載されているほか,「Bagleyらや,著者らのCVP療法は細胞周期を考慮してCyclophosphamide5日間投与する点がCOP療法やCHOP療法と異なるところである。」と記載されている。
・・・

  そこで,検討すると,前記イ(イ),(オ)のとおり,本件原出願日当時,各薬剤の投与量及び投与方法については若干の相違がみられるものの,CVP療法は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであるのに対し,COP療法は,シクロホスファミドを1日目に投与するものであるなどとして,シクロホスファミドの投与時期によって両者は区別されることが多く(乙8889134ないし136138178191ないし194),乙113文献にも,CVP療法は,シクロホスファミドを5日間投与する点でCOP療法と異なることが示されていたほか,CVP療法又はCOP療法のいずれか一方について,各薬剤の投与時期をもって上記のとおり両者を区別することに整合する内容が多く示されていた(CVP療法について,甲7477,乙31014ないし161970ないし72,114,142,144,146,153ないし156,181COP療法について,甲82,乙132133137149151。)。

これらのことに加えて,前記イ(ア),(ウ)のとおり,シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニソンの3剤を併用する化学療法は,昭和44年(1969年)に初めて報告され,その後発行された文献でCOP療法とされていたところ,乙70文献には,CVP療法は,COP療法を基本とし,投与法,投与量等を変更した化学療法として発表されるようになった化学療法であり,COP療法と比べて有効率の向上が顕著であったとして,CVP療法について,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するなどする投与スケジュールが示されている。そうすると,前記イ(オ)のとおり,他方で,シクロホスファミドを1日目に投与する化学療法をCVP療法として記載する文献(甲2857ないし607281)や,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与する化学療法をCOP療法として記載する文献(甲768082)もみられたものの,これらは,多様な化学療法が研究される中で,一般的な認識とは異なる記載がされたものとみるのが相当であって,本件原出願日当時,CVP療法とCOP療法は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するのがCVP療法であるのに対し,1日目にのみ投与するのがCOP療法であるとして,シクロホスファミドの投与時期によって区別されており,そのようにして区別されることは技術常識であったと認めるのが相当である。
このような本件原出願日当時の技術常識に照らせば,構成要件2Bの「CVP」は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであり,シクロホスファミドを1日目にのみ投与するものは含まないものと認めるのが相当である。

(2) 
原告らの主張について
  原告らは,構成要件2Bの「CVP」は,シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニゾロン又はプレドニソンを併用する化学療法であり,本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書2に,リツキシマブと併用される化学療法に使用される薬剤の投与量,投与方法及び投与時期を限定する旨の記載はないから,それらによる限定はされないものと解すべきであると主張する。
しかしながら,前記のとおり,使用薬剤の組合せが同一であっても,投与量,投与方法及び投与時期等が異なる場合には,異なる化学療法として区別して認識されることがあると認められるところ,CVP」については,本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書2に具体的な説明がされていない以上,技術常識を踏まえて,その意義,内容を解釈し得ることは当然である。
そして,CVP療法について,シクロホスファミドの投与時期によって,使用薬剤の組合せが同一のCOP療法と区別して認識されていたと認められることは前記のとおりであるから,「CVP」の解釈においては,このような本件原出願日当時の技術常識を考慮するのが相当である。

  また,原告らは,本件原出願日当時,CVP療法は,COP療法とも呼ばれ,各薬剤の投与量,投与方法及び投与時期は一義的,硬直的に定められておらず,研究機関等によって異なっていたから,前記のような技術常識を認めることはできないとし,そのことを裏付ける事情として,①甲71文献によれば,CVP療法は,COP療法とも呼ばれ,シクロホスファミドを1日目に投与することを基本とするものであり,研究機関や国によって各薬剤の投与量や投与方法が異なっていたところ,1970年代以降に様々な検討がされ,1990年代になっても,各薬剤の投与量,投与方法,投与時期について多様な検討がされていたこと,②本件原出願日前に発行された文献(甲2857ないし60727680ないし82)に,シクロホスファミドを1日目にのみ投与する化学療法をCVP療法と記載するものや,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与する化学療法をCOP療法と記載するものがあったことに加えて,各薬剤の投与量及び投与時期が異なる化学療法を「COP1」等と記載する文献(甲78)や,投与量の異なる化学療法をCVPと記載する文献(甲79)もあったことにも照らせば,CVP療法及びCOP療法が意味するところは一義的ではなかったこと,③本件原出願日前に発行された文献(甲86ないし90,乙1213137158ないし161)に,CVP療法及びCOP療法について,「COPまたはCVP」,「CVP/COP」などとして,並列的,互換的に記載するものがあったこと,④本件原出願日前に実施された大規模な実験について,シクロホスファミドを1日目にのみ投与するものをCVP療法として記載する文献(甲91ないし93)があることなどを主張する。 しかしながら,以下のとおり,原告らが指摘する文献の記載等を踏まえても,前記の技術常識を否定することはできない。

(ア)①甲71文献について
前記(1)イ(エ)のとおり,甲71文献には,CVP療法の基本プロトコールとして,CPA1日目に投与することなどが記載され,CVP療法の概要として,「米国のNationalCancerInstituteNCI)ではCPAの投与量や投与方法が異なるレジメンとして用いられていたが(300400mg/m2day15に内服),基本はECOGの治療研究で行うCPAday1に点滴静注する方法として広まっている」と記載されているものの,甲71文献は本件原出願日の約15年後の平成2611月に発行された文献であり,前記(1)イ(イ),(ウ),(オ)のとおりの本件原出願日前の文献の記載に照らせば,甲71文献の上記各記載は,平成26年当時のCVP療法に関するものとみるのが自然であって,本件原出願日当時の当業者の認識を示すものとは認め難い。
また,前記(1)イ(エ)のとおり,甲71文献には,CVP療法の概要として,COP療法とも呼ばれていた旨記載されているものの,この点については,同(ア),(ウ)のとおり,シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニソンの3剤を併用する化学療法は,昭和44年(1969年)に初めて報告され,その後発行された文献でCOP療法とされていたところ,その後,投与量等を変えながらCVP療法等として発表されるようになったという研究経過と矛盾するものではなく,CVP療法とCOP療法が区別されていなかったことを基礎付ける記載であるとは認められない。
(イ)②甲2857ないし60727678ないし82について
前記のとおり,本件原出願日前に発行された多数の文献の記載に照らせば,原告らが指摘する文献の多くは,多様な化学療法が研究される中で,一般的な認識とは異なる記載がされたものとみるのが相当であって,CVP療法は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであるのに対し,COP療法は,1日目にのみ投与するものであるとして,シクロホスファミドの投与時期によって区別されていたと認めるのが相当である。
・・・

(ウ)③甲86ないし90,乙1213137158ないし161について原告らが指摘する文献には,「COPまたはCVP」,「CVP/COP」などとして,CVP療法とCOP療法が併記されているものの,それらが互換的又は一体的なものであると積極的に記載するものはなく,CVP療法とCOP療法が区別されていなかったことを基礎付ける記載であるとはいい難い。
(エ)④甲91ないし93について
原告らが指摘する文献は,いずれも本件原出願日後に発行されたものであり,本件原出願日前に実施された実験に係る記載があるものの,それらが本件原出願日当時の当業者の認識を示すものと認めることはできない。
(オ)小括
以上のとおりであるから,原告らが指摘する文献の記載等を踏まえたとしても,前記の技術常識を否定することはできない。

(3) 
被告製剤
被告製剤についてみると,前記第22(5)ウのとおり,被告製剤の添付文書には,用法・用量欄に「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合」が記載され,用法・用量に関連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」と記載されている。また,臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,未治療の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品がR-CVPレジメンによって投与されたことが記載されているほか,先行バイオ医薬品の臨床成績として,国外臨床第Ⅲ相試験(PRIMA試験)において,ろ胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に,R-CVPレジメンによる寛解導入療法等が実施されたことが記載されている。
そして,証拠(甲1235)及び弁論の全趣旨によれば,被告製剤の添付文書に記載されているR-CVPレジメンは,リツキシマブを1日目に投与するとともに,シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目,プレドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメンであると認められる。
そうすると,被告製剤は,添付文書に記載されたR-CVPレジメンがシクロホスファミドを1日目にのみ投与するものであり,1日目から5日目まで投与するものでない点で,構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえない。

小括
以上のとおり,本件特許1及び3は特許法3661号に違反しており,いずれも特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,同法104条の31項により,本件特許1及び3に係る専用実施権者である原告による権利行使は認められない。
また,被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属するとはいえないから,被告製剤の製造販売等が本件専用実施権2を侵害するとはいえない。

結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
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CVP
療法について、原告は「一義的ではなかった」と主張していますが、これは明確性の問題が生じ得るのでリスクのある主張だったと思います。

添付文書に記載されていた「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」はイ号製品の用途を特定する上で、併用療法特許の特許権者に有利に働きそうですね。
先発品のリツキサンにも同趣旨の記載があります。あと、細かいところはちょっとずつ違いますが、アバスチン、ハーセプチン、オプジーボでも似たような記載があるようです。


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■<炭酸ランタンOD錠後発品の特許侵害訴訟> 文書提出命令の申立てが却下された事例


<判決紹介>
・平成30年(ワ)第28391 特許権侵害差止請求事件
・令和元年612日判決言渡
・東京地方裁判所民事第40 佐藤達文 三井大有 今野智紀
・原告:バイエル薬品株式会社
・被告:コーアイセイ株式会社、日本ケミファ株式会社、扶桑薬品工業株式会社、日本ジェネリック株式会社、コーアバイオテックベイ株式会社
・特許6093829
・発明の名称:ランタン化合物を含む医薬組成物


■コメント
少し前の判決です。
特許6093829の特許権者である原告(バイエル薬品)が、被告ら(コーアイセイ等)が炭酸ランタンOD錠(後発品)を製造・販売等する行為が原告の特許権を侵害すると主張し、製造等の差し止め及び廃棄を求めた事案です。

先発品はホスレノールOD錠(一般名:炭酸ランタン水和物)です。


本件特許の訂正後の請求項6は以下の通りです(構成要件に分説ずみ)。

「【訂正後請求項6
A  
唾液又は少量の水により,口腔内で崩壊させて経口投与することを特徴とする口腔内崩壊錠であって,
B  
崩壊剤及び医薬組成物中の含有率が7090質量%で炭酸ランタ ン又はその薬学的に許容される塩を含有し,
前記崩壊剤が,クロスポビドンであり,前記クロスポビドンの医薬組成物中の含有率が5.612質量%であり,但し,崩壊剤がGRANFILLER-D(登録商標)から成る錠剤は除く,
D  
医薬組成物。」


後発品の添付文書には、添加剤が以下のように記載されています。

「(ウ) 添加物
軽質無水ケイ酸,ステアリン酸マグネシウム,タルク,その他3成分

原告は、上記「その他3成分」が構成要件Cのクロスポビドンを含むことを立証するために、文書提出命令の申立てをしましたが、裁判所は却下しました。
さらに、裁判所は、後発品がクロスポビドンを含有すること等の証拠がないとして、後発品は本件訂正発明の技術的範囲に属さないと判断しました。


裁判所の判断は以下の通りです。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
6 原告の書類提出命令申立てとその却下決定
原告は,平成31221日,被告コーアイセイを相手方として,本件各製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に含まれることを立証するため,本件製剤1に関する平成30215日付け医薬品製造販売承認書に記載されている「成分及び分量又は本質」に係る部分について,特許法1051項に基づく書類提出命令の申立てをした。
当裁判所は,同年411日,同条2項に基づくインカメラ手続を行い被告 コーアイセイから対象書類の提示を受けた上,同書類には本件製剤1にクロスポビドンが含まれるかどうかや,クロスポビドンの医薬組成物中の含有率等に関する情報が記載されているが,本件製剤1の組成物又は含有率は本件訂正発明に規定するものと異なっている一方,同情報は被告コーアイセイにとって秘密性の高い重要な技術的情報であると認められるから,被告コーアイセイには 書類の提出を拒むことについて正当な理由があるなどと判断して,同申立てを却下した。
・・・

当裁判所の判断
争点1(本件各製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に属するか)について
本件訂正発明の構成要件Cは,「前記崩壊剤が,クロスポビドンであり,前記クロスポビドンの医薬組成物中の含有率が5.612質量%であり,但し,崩壊剤がGRANFILLER-D(登録商標)から成る錠剤は除く,」というものであるところ,原告は,本件各製剤が構成要件Cを充足すると主張する。
しかし,本件各製剤が,①崩壊剤としてクロスポビドンを含有すること,②その医薬組成物中の含有率が5.612質量%であること,③同崩壊剤がGRANFILLER-D(登録商標)から成る錠剤でないことについては,これを認めるに足りる証拠がない。

原告は,本件各製剤は原告製剤の後発医薬品であることや,原告による本件製剤1の分析によっても,本件製剤1がクロスポビドンの含有を否定するデータは得られていないことなども指摘するが,本件各製剤が原告製剤の後発医薬品であるとしても,そのことから直ちに本件各製剤が構成要件Cを充足するということはできず,また,本件製剤1がクロスポビドンの含有を否定するデータは得られていないことは,むしろ,同製剤が構成要件Cに規定された含有率のクロスポビドンを含有すると認めるに足りる客観的な証拠が存在しないことを示すものである。
したがって,本件各製剤が本件訂正発明等の技術的範囲に属すると認めることはできない。

よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないので,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
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■<ゾニサミドの維持審決取消訴訟> 既存薬と共通のメカニズムを有することが知られていても、作用が同程度である証拠がないため、動機付けられないと判断された事例


<判決紹介>
・平成30年(行ケ)第10098 審決取消請求事件
・平成31325日判決言渡
・知的財産高等裁判所第1 高部眞規子 杉浦正樹 片瀬亮
・原告:テバ・ホールディングス合同会社
・被告:大日本住友製薬株式会社
・特許3364481
・発明の名称:神経変性疾患治療薬


■コメント
少し前の判決の紹介です。
最近ブログを更新できてなかったのですが、台風で時間ができたので判決紹介記事を書きました。
本日から3つ判決をアップしていきます。

本件は、特許無効審判の維持審決の取消訴訟です。
後発品メーカー vs 新薬メーカーです。
先発品はトレリーフ(ゾニサミド)で、後発品は現時点でありません。


経緯は以下のとおりです。

・平成101221日:特許出願
・平成141025日:特許登録
・平成29830日:無効審判請求
・平成30613日:維持審決
・平成30720日:取消訴訟提起
・平成31325日:判決 いまココ


無効審判は過去のブログ記事で紹介しています。

・トレリーフ(ゾニサミド)用途特許に対する無効審判、結果は特許維持

https//biopatentblog.blog.fc2.com/blog-entry-211.html


本件特許の請求項1は以下のとおりです。

「【請求項1
ゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩を有効成分とする神経変性疾患治療薬。」


本件発明と甲1一致点・相違点は以下のとおりです。

「ア  引用発明
ゾニサミドを有効成分とする抗てんかん薬であって,ゾニサミドの投与量が20mg/kg,50mg/kgであり,雄のwistarラットの線条体のドパミンの細胞外濃度が上昇する作用を示す,抗てんかん薬。

  本件発明1と引用発明との一致点及び相違点
(ア)  一致点
ゾニサミドまたはそのアルカリ金属塩を有効成分とする医薬。
(イ)  相違点
医薬について,本件発明1では「神経変性疾患」を治療対象とするのに対して,引用発明では「てんかん」を治療対象としている点。」


裁判所の判断は以下のとおりです。ゾニサミドの治療対象をパーキンソン病等の神経変性疾患とすることの動機付けがないとして、進歩性ありと判断しました。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
当裁判所の判断
・・・

2  本件発明1と引用発明との対比
本件発明1と引用発明との一致点及び相違点が前記第232)イのとおりであることは,当事者間に争いがない。
なお,引用例には,ゾニサミドが抗てんかん薬であることが開示されており(前記(1)ア),本件発明1と引用発明との一致点及び相違点が上記のとおりであることによれば,本件発明1と対比すべき引用発明は,「ゾニサミドを有効成分とする抗てんかん薬」と認定するのが相当である。
3)引用発明において,相違点に係る本件発明1の構成を採用する動機付けの有無
  引用例における示唆
前記(1)によれば,引用例は,抗てんかん薬であるゾニサミドについて,ドパミン作動系に対する作用機序を解明することを目的として((1)ア),健常動物を用いた実験を行い((1)イ),線条体におけるドパミン,ドパミン前駆体,ドパミン代謝物の挙動を測定することにより((1)ウ~オ),ゾニサミドによるドパミン合成促進を検討するとともに,ゾニサミドのMAO活性阻害作用によるドパミン分解阻害を検討し,ゾニサミドの用量と薬理作用,副作用との関係を考察するもの((1)カ),ということができる。
そうすると,引用例は,ゾニサミド2050mg/kgを短期投与すると,線条体ドパミン量が増加すること,MAO-B活性の阻害によりドパミン分解が阻害されることを示唆するものではあるが((1)カ),その示唆は,あくまでも,健常動物を用いた実験に基づくものということができる。

  3文献
(ア)  3文献に開示された事項
3文献は,抗てんかん薬であるカルバマゼピン及びゾニサミドの作用機序解明を目的として,両剤のmonoamineMA)遊離,代謝,再取り込みに対する効果について,雄性Wistar系ラットを用いて検討したものである。(要約)そして,甲3文献には,治療用量(20及び50mg/kg/day)のゾニサミドの投与により線条体ドパミン濃度は有意に増加するが,過剰用量(100mg/kg/day)のゾニサミドの投与により線条体ドパミンが減少したことが実験結果とともに示されている。(図1-a,図6
また,甲3文献には,ゾニサミドが,モノアミン酸化酵素(MAO-A)とモノアミン酸化酵素(MAO-B)の両方の酵素活性を阻害し,MAO-Aに比べるとMAO-Bの阻害は強いものの,MAO活性の阻害は軽度であることが実験結果とともに示されている。(349頁右欄2行~8行,図9
そして,甲3文献には,実験結果から,ゾニサミドのMAO-Bに対するIC50660μMであり,このMAO-B阻害作用により,細胞外DOPAC濃度の低下は説明し得るが,これが細胞外DA濃度増加の主要機序とは考え難く,過剰用量の投与によるMAの細胞外濃度減少にも直接的な関与は少ないなどと考察された上で,治療濃度のゾニサミドによるMA系機能増強作用が抗てんかん作用の一部を説明し得るものと考えられるなどと要約されている。(要約,考察(350頁右欄下から5行~351頁左欄3行))。

(イ)  3文献における示唆
前記(ア)によれば,甲3文献は,ゾニサミド20又は50mg/kg/日を投与すると,線条体ドパミン量が増加すること,ゾニサミドのMAO-Bに対するIC50660μMであることを示すものであるが,これらの実験結果は,あくまでも,健常動物を用いた実験に基づくものということができる。

  技術常識
(ア)  健常動物と疾患モデル動物の相違
29(亀井千晃ほか「新薬開発における動物実験の問題点」岡実動研報第41417頁(昭和61年))には,薬理実験を行う際の問題点について「薬物は疾患時に用いるのに,動物実験を行う場合には正常動物を用いているというギャップがある。これらの欠点を補う為,最近では数多くの疾患モデル動物が作成され,薬物の評価判定に用いられている。」と記載されている(17頁)。甲30(「医薬品の開発」鹿取信ほか編「標準薬理学第5版」3537頁(株式会社医学書院,平成9年発行))には,「医薬品は病気のヒトに用いられるのに,薬効管理,安全性試験は,主に正常な動物が用いられるという点が問題である。最近は…いろいろな方法でヒトの病気に近い状態を起こした疾患モデル動物が用いられている。」と記載されている(37頁)。

そして,甲8(久野貞子「Parkinson病の治療,現状と新しい流れ」神経精神薬理Vol.14No.12773781頁(星和書店,平成4年発行))には,「Parkinson病患者では大部分(80%以上)の黒質線条体ドーパミン神経は消失しているが…」と記載され(776頁),健常動物とパーキンソン病疾患モデル動物とでは,黒質線条体内のドパミン神経の量に大幅な相違があることが示されている。また,甲31G.GERHARDTほか「Dopaminergic Neuroto xicity of 1-Methyl-4- Phenyl-1,2,3,6-TetrahydropyridineMPTP in the Mouse An in vivo Electrochemical StudyTHE JOURNAL OF PHARMACOLOGY AND EXPERIMENTAL THERAPEUTICS Vol.235, No.1259265頁(昭和60年))には,健常マウスとパーキンソン病疾患モデルマウスとの間では,KCl(塩化カリウム)によるドパミン量の増加量に大きな相違があることが示されている(図5)。さらに,甲32David S. Rothblatほか「Regional Differences in Striatal Dopamine Uptake and Release Associated with Recovery from MPTP-Induced Parkinsonism An In Vivo Electrochemical StudyJournal of Neurochemistry Vol.72, No.2724733頁(平成11年))には,健常ネコでは,KClによるドパミン増加量は大きかったのに対し,パーキンソン病疾患モデルネコでは,増加がほとんど生じなかったことが示されている(表3)。

加えて,甲7Stacey A. Jones-Humbleほか「THE NOVEL ANTICONVULSANT LAMOTRIGINE PREVENTS DOPAMINE DEPLETION IN C57 BLACK MICE IN THE MPTP ANIMAL MODEL OF PARKINSONS DISEASELife Sciences Vol.54,No.4,245252頁(平成6年))では,パーキンソン病疾患モデル動物を用いた実験結果を基にして,ラモトリジンの臨床的有用性をパーキンソン病の治療にも広げられる可能性があることを示唆するとの結論を得るに至っている(245251頁)。
一方で,健常動物における線条体ドパミン量の挙動が,パーキンソン病疾患モデル動物における線条体ドパミン量の挙動と相関することを示す証拠は見当たらない。そうすると,当業者は,本件優先日当時,健常動物で得られた線条体ドパミン量の挙動は,パーキンソン病疾患モデル動物における線条体ドパミン量の挙動を必ずしも示すものではないとの技術常識を有していたというべきである。

(イ)  線条体ドパミン量の増加とパーキンソン病治療薬の関係
パーキンソン病の病因
当業者は,本件優先日当時,パーキンソン病の病因の一つが線条体ドパミンの枯渇であるとの技術常識を有していたと認められる(甲4(水柿道直「パーキンソン病と薬剤」社団法人日本薬剤師会編「病気と薬剤改訂第4版」(株式会社薬事日報社,平成8年発行))の306頁,甲5(「特集・パーキンソン病の治療」医薬ジャーナルVol.31No.12(医薬ジャーナル社,平成7年発行))の30頁,甲6(田中千賀子ほか編「NEW薬理学改訂第3版」(株式会社南江堂,平成9年発行))の289頁)。

線条体ドパミン量を増加させる薬物(ハロペリドール)
ハロペリドールは,線条体ドパミン量を増加させる薬物と認められる(甲23Bita Moghaddamほか「Acute Effects of Typical and Atypical Antipsychotic Drugs on the Release of Dopamine from Prefrontal Cortex, Nucleus Accumbens, and Striatum of the Rat An In Vivo Microdialysis StudyJournal of Neurochemistry Vol.54,No.517551760頁(平成2年))の図1)。
しかし,ハロペリドールは,薬物性パーキンソニズムを引き起こし,パーキンソン病患者への使用は禁忌とされていたものである(乙3(「薬の副作用事典」(株式会社産業調査会事典出版センター,平成2年発行))の11841185頁)。そして,本件優先日当時,ハロペリドールとゾニサミドが異なる作用機序で線条体ドパミン量を増加させること,更に線条体ドパミン量を増加させる作業機序によってはパーキンソン病の治療効果に差異が生じることを当業者が認識していたことを示す具体的な証拠はない。
そうすると,当業者は,本件優先日当時,具体的な作用機序の差異を意識することなく,線条体ドパミン量を増加させる薬物には,パーキンソン病患者への使用が禁忌とされるものがあることを認識していたというべきである。

線条体ドパミン量を増加させる抗てんかん薬(カルバマゼピン)
3文献には,抗てんかん薬であるカルバマゼピンには線条体ドパミン量の増加作用がある旨記載されている(図1-a,図6)。
しかし,本件優先日後の平成13年時点においても,パーキンソン病に対するゾニサミドの有効な作用が抗痙攣作用のメカニズムと関連しているのではないかと推告されている抗痙攣薬は他にない。」とされており(甲13Miho Murataほか「Zonisamide has beneficial effects on Parkinsons disease patientsNeuroscience Research 41(平成13年))の399頁),本件優先日当時,カルバマゼピンがパーキンソン病に対して治療効果を奏するか否かは不明であると理解されていたものと認められる。
そうすると,当業者は,本件優先日当時,線条体ドパミン量を増加させる抗てんかん薬とパーキンソン病治療薬の関係は不明であると認識していたというべきである。

ゾニサミドが有する線条体ドパミン量の増加作用
引用例及び甲3文献における前記示唆から,本件優先日当時,抗てんかん薬であるゾニサミドの投与が,健常動物以外であっても,線条体ドパミン量を僅かでも増加させる可能性があることまでは否定できない。また,当業者は,本件優先日当時,パーキンソン病の病因の一つが線条体ドパミンの枯渇であるとの技術常識を有していたものである。
しかし,当業者は,本件優先日当時,具体的な作用機序の差異を意識することなく,線条体ドパミン量を増加させる薬物には,パーキンソン病患者への使用が禁忌とされるものがあること,線条体ドパミン量を増加させる抗てんかん薬とパーキンソン病治療薬との関係は不明であること,を認識していたというべきである。
そうすると,当業者は,本件優先日当時,健常動物以外において線条体ドパミン量を増加させる可能性を否定できない抗てんかん薬であるゾニサミドであっても,線条体ドパミン量の増加作用の観点からは,パーキンソン病に対して治療効果を奏する可能性は低いとの技術常識を有していたというべきである。

(ウ)  MAO-B活性の阻害とパーキンソン病治療薬の関係
パーキンソン病の病因
当業者は,本件優先日当時,パーキンソン病治療薬の薬理作用の一つとしてドパミンを分解するMAO-B活性を阻害するものが存在するとの技術常識を有していたと認められる(甲6295頁,甲8の表1)。
b  MAO-B
活性を阻害する抗てんかん薬(ラモトリジン)
7には,抗てんかん薬であるラモトリジン(LTG)がMAO-B活性を阻害する作用がある旨記載されている(245250頁)。さらに,甲7によれば,本件優先日当時,ラモトリジンのパーキンソン病疾患モデル動物に対する投与試験の結果を検討することで,ラモトリジンをパーキンソン病の治療薬として使用できる可能性が示唆されていたということができる(250251頁)。
しかし,上記示唆は,「LTGで得られる保護がすべてMAO-Bに対する作用によるものとは考えられない。」,「新規抗てんかん薬であるLTGは,C57BLマウスにおけるMPTP誘発性ドパミン枯渇に対して保護作用をもつ。さらに,LTGがドパミンの取り込みやMAOを阻害するであろう濃度よりも低い濃度で脳内に存在するような用量でも,LTGには神経保護効果が認められる。」という検討の上で導かれたものである(甲7250251頁)。したがって,上記示唆は,ラモトリジンがMAO-B阻害作用を有することのみから,パーキンソン病の治療薬として使用できる可能性があると指摘するものではないというべきである。そうすると,当業者は,本件優先日当時,抗てんかん薬であって,MAO-B阻害作用を有するラモトリジンであっても,MAO-B阻害作用を有することから,直ちにパーキンソン病に対して治療効果を奏するものではないことを認識していたというべきである。

c  MAO-B
活性を阻害するパーキンソン病治療薬(セレギリン)
本件優先日当時,セレギリン(商品名デプレニル)がパーキンソン病治療薬として知られており(甲8の表1),セレギリンがMAO-B活性を阻害することも知られていたものである(甲44Richard E. Heikkilaほか「PREVENTION OF MPTP-INDUCED NEUROTOXICITY BY AGN-1133 AND AGN-1135, SELECTIVE INHIBITORS OF MONOAMINE OXIDASE-BEuropean Journal of Pharmacology 116313317頁(昭和60年))の表1)。
そして,セレギリンのMAO-Bに対するIC50値は11nMである(甲44の表1)。そうすると,当業者は,MAO-B阻害作用を有する薬物を投与するパーキンソン病治療においては,セレギリンと同程度,すなわち,IC50値が11nM以下にMAO-B活性を阻害する程度の薬理作用を有する薬物が必要であると認識していたものである。
しかし,ゾニサミドのMAO-Bに対するIC50値は660μMである(甲3350頁)。また,引用例の「考察」の欄には,ゾニサミドの「MAO活性阻害は,DAの細胞外濃度と細胞内濃度の上昇にあたって,重要な機序ではないことが示された。」と記載されている。さらに,甲3文献には,ゾニサミドのMAO-B阻害作用について「細胞外DA濃度増加の主要機序とは考え難」くと記載されている(351頁)。
そうすると,当業者は,本件優先日当時,ゾニサミドのMAO-B阻害作用がセレルギンよりも顕著に弱く,また,それがパーキンソン病の治療に有用なドパミン量の増加に果たす程度も低いことを認識していたというべきである。
したがって,当業者は,ゾニサミドが,MAO-B阻害作用の観点から,他のパーキンソン病治療薬と同程度の薬理効果を奏する可能性が低いことを認識していたというべきである。

ゾニサミドが有するMAO-B阻害作用
引用例及び甲3文献における前記示唆から,本件優先日当時,抗てんかん薬であるゾニサミドの投与が,健常動物以外であっても,MAO-B阻害作用を僅かでも有する可能性があることまでは否定できない。また,当業者は,本件優先日当時,パーキンソン病の治療薬の薬理作用の一つとしてドパミンを分解するMAO-B活性を阻害するものが存在するとの技術常識を有していたものである。
しかし,当業者は,本件優先日当時,抗てんかん薬であって,MAO-B阻害作用を有するラモトリジンであっても,MAO-B阻害作用を有することから,直ちにパーキンソン病に対して治療効果を奏するものではないこと,当業者は,ゾニサミドが,MAO-B阻害作用の観点から,他のパーキンソン病治療薬と同程度の効果を奏する可能性が低いこと,を認識していたというべきである。
そうすると,当業者は,本件優先日当時,健常動物以外において,MAO-B阻害作用を有する可能性を否定できない抗てんかん薬であるゾニサミドであっても,MAO-B阻害作用の観点からは,パーキンソン病に対して治療効果を奏する可能性は低いとの技術常識を有していたというべきである。

  引用発明において,相違点に係る本件発明1の構成を採用する動機付け
(ア)  引用例及び甲3文献は,いずれも,ゾニサミドが,健常動物において,線条体ドパミン量の増加作用を有すること,MAO-B阻害作用を有することを示唆するにとどまるものである。
そして,前記ウ(ア)のとおり,本件優先日当時の当業者は,健常動物で得られた線条体ドパミン量の挙動が,パーキンソン病疾患モデル動物における線条体ドパミン量の挙動を必ずしも示すものではないとの技術常識を有していたものである。
そうすると,当業者は,引用例及び甲3文献から上記示唆を受けても,そもそもパーキンソン病疾患を有する患者において,ゾニサミドが線条体ドパミン量を増加させたり,ゾニサミドがMAO-B活性を阻害したりするとは理解しないから,ゾニサミドがパーキンソン病の治療薬になる可能性を認識し得ないというべきである。

(イ)  また,引用例及び甲3文献における前記示唆から,健常動物以外であっても,ゾニサミドの投与が線条体ドパミン量の増加作用及びMAO-B阻害作用を僅かでも有する可能性があることまでは否定できない。
しかし,前記ウ(イ)及び(ウ)のとおり,本件優先日当時の当業者は,抗てんかん薬であるゾニサミドについて,線条体ドパミン量の増加作用の観点からも,MAO-B阻害作用の観点からも,パーキンソン病に対して治療効果を奏する可能性は低いとの技術常識を有していたというべきである。
そうすると,このような技術常識を有する当業者は,引用例及び甲3文献から,ゾニサミドがパーキンソン病の治療薬になると合理的に期待し得ないというべきである。

(ウ)  よって,当業者は,引用発明において,相違点に係る本件発明1の構成を採用することを動機付けられることはないというべきである。

  原告の主張について
(ア)  原告は,パーキンソン病の分野において,健常動物での試験結果が,患者や適切な疾患モデル動物での試験結果と異なるとしても,健常動物に対して薬物を投与して何らかの薬理作用が確認されたのであれば,その薬理作用から治療可能な疾患への治療薬としての評価を行おうとの動機付けが生じる旨主張する。
しかし,前記ウ(ア)のとおり,当業者は,本件優先日当時,健常動物で得られた線条体ドパミン量の挙動は,パーキンソン病疾患モデル動物における線条体ドパミン量の挙動を必ずしも示すものではないとの技術常識を有していたというべきである。
また,ゾニサミドの投与による線条体ドパミン量の挙動を健常動物に対する実験により確認した引用例1及び甲3文献は,抗てんかん薬であるゾニサミドの作用機序解明を目的とするものである。引用例1及び甲3文献は,ゾニサミドの薬理作用を解明することで,てんかん以外の疾患についても,ゾニサミドが治療薬として用いることができるか否かについて評価を行おうとするものではなく,これに関する示唆もない。
したがって,当業者は,引用例1及び甲3文献から,ゾニサミドの健常動物に対するドパミン増加作用やMAO-B阻害作用を理解したとしても,そのことのみでは,パーキンソン病に対するゾニサミドの評価を行おうとの動機付けは生じないというべきである。

(イ)  原告は,線条体ドパミン量を増加させる薬物であれば,その程度を問わず,パーキンソン病の症状を改善できる,MAO-B阻害作用を有する薬物であれば,その程度を問わず,パーキンソン病の症状を改善できるという,技術常識B及びCが確立していた旨主張する。
しかし,パーキンソン病の治療において,線条体ドパミン量をどの程度増加させればその症状を改善できるか,また,MAO-B活性をどの程度阻害させればその症状を改善できるかについて,これを裏付けるような証拠はない。46及び8には,線条体ドパミン量の増加作用及びMAO-B阻害作用とパーキンソン病の治療との関係について,一般的な記載があるにとどまり,これらの記載から,当業者が,少しでもこれらの作用を有する薬物であれば,パーキンソン病に対する治療効果が奏せられると理解できるものではない。

そして,ゾニサミドが,既存のパーキンソン病治療薬であるレボドパと同程度の線条体ドパミン量の増加作用を有することを認めるに足りる証拠はなく,本件優先日当時,ゾニサミドが,既存のパーキンソン病治療薬であるセレルギンと比較してMAO-B阻害作用が顕著に劣ることは明らかであったものである。
したがって,原告主張に係る技術常識B及びCは認めることができず,また,当業者は,既存のパーキンソン病治療薬であるレボドパやセレルギンと同様の機序から,ゾニサミドがパーキンソン病の症状を改善できると考え,これをパーキンソン病治療薬として使用することを動機付けられるものとはいえない。

(ウ)  原告は,甲13に基づき,当業者に及ばない村田博士であっても,引用例の記載から,ゾニサミドをパーキンソン病治療薬に提供することを動機付けられている旨主張する。
しかし,村田博士ら作成に係る報告書(甲13)は,ゾニサミドがパーキンソン病に対して有効な作用を示したことを前提に,引用例記載の実験結果を引用して,その作用機序を考察しているにすぎない。同報告書は,村田博士が,引用例の記載から,ゾニサミドをパーキンソン病治療薬に提供することを動機付けられたことを示すものではないことは明らかであり,原告の前記主張は失当というほかない。

(エ)  原告は,本件明細書の実施例は,各種てんかん薬のMAO-B阻害作用の相違を考慮してしないから実験系に不備があり,同実施例の実験結果に基づいて,ゾニサミドがその他のてんかん薬と比較して顕著な効果を有するとはいえない旨主張する。
しかし,そもそも,ゾニサミドの治療対象をパーキンソン病等の神経変性疾患とすることを動機付けられないのであるから,ゾニサミドのパーキンソン病治療に対する効果について,その他のてんかん薬と比較して顕著なものを求める原告の主張は失当である。

そして,MPTP投与によるドパミン枯渇マウスがパーキンソン病の疾患モデル動物として適当であることは当事者間に争いがないところ,本件明細書の試験例2には,かかるマウスに対し,ゾニサミドを投与すれば,溶媒を投与する場合と比較して,線条体のドパミン含有量の減少を抑制できたことが示されている。したがって,本件明細書には,ゾニサミドがパーキンソン病の治療薬としての用途を有することが示されているというべきである。

(オ)  原告は,被告は審判段階で技術常識Bや技術常識Cを否定していなかったから,これを争うことは許されないなどと主張し,また,被告がドパミン増加作用を有するハロペリドールがパーキンソン病の患者に対して禁忌であったことを主張することは,審理範囲を逸脱するなどと主張する。
しかし,被告は,審判段階で技術常識B及びCを認めていたものではない(甲58)。また,審決が判断した本件発明の進歩性について,引用発明から本件発明1に至る動機付けがないことを基礎付ける事実を新たに主張することは,審決取消訴訟の審理範囲を逸脱するものとはいえない。原告の上記主張は採用し得ない。

  小括
以上によれば,引用発明において,相違点に係る本件発明1の構成を採用することの阻害要因について検討するまでもなく,本件発明1は,引用発明並びに甲3文献に記載された事項及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない,というべきである。
よって,取消事由1は理由がない。
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最後の方に「溶媒を投与する場合と比較して」と記載されていますが、この判決の流れを考えると、こっちの比較は溶媒でいいのでしょうか。
実施可能要件/サポート要件違反も検討の余地があるかもしれませんね。(試験例2のデータは検討していません。)


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