■ニカルジピン事件


<判決紹介>

コメント:
ちょっと古いけど、ニカルジピン事件。 結晶特許発明の技術的範囲を検討する上で参考になる事例。 裁判所は、作用効果を考慮した上で、控訴人製剤は技術的範囲に属すると判断した。☆☆☆☆


平成14()1567号 損害賠償請求控訴事件、大阪高等裁判所
控訴人: 大正薬品工業株式会社、日清キョーリン製薬株式会社
被控訴人: 山之内製薬株式会社
特許: 特許第1272484
請求項1
無定形26‐ジメチル‐4‐(3'‐ニトロフエニル)‐14‐ジヒドロピリジン‐35‐ジカルボン酸‐3‐メチルエステル‐5‐β‐(N‐ベンジル‐N‐メチルアミノ)エチルエステル(ニカルジピン)またはその塩を含有することを特徴とするニカルジピン含有持続性製剤用組成物

裁判所の判断:
「第4 当裁判所の判断
 1
争点(1)(本件発明の技術的範囲は,①無定形塩酸ニカルジピンの含有量,②無定形塩酸ニカルジピンの生成方法の観点からの限定を受けるか。)について
 
当裁判所も,製剤中の無定形塩酸ニカルジピンの含有量が極微量で本件発明の作用効果を生じないことが明らかであるような場合を除いて,当該製剤は本件発明の技術的範囲に含まれ,無定形塩酸ニカルジピンの含有量や生成方法の観点からの限定を受けることはないものと判断する
・・・。

 
(当審における控訴人らの主張についての判断)
 (1)
控訴人らは,ニカルジピンの無定形化比率と腸内溶解度の改善効果ひいては持続性効果とは比例関係にあるから,無定形物の含有量が低い場合には持続性効果も低く,無定形塩酸ニカルジピンの含有量が,含有塩酸ニカルジピンが結晶形ばかりである既知の通常製剤と比較して,実用的に意味のある持続性効果が付加されていると認め得る量でなければ,本件発明の技術的範囲に属しないと主張する。
 
しかし,引用に係る原判決「事実及び理由」第41(1)(2)(5)のとおり,本件明細書中には,製剤の全ニカルジピン中の無定形物の含有割合等について何らの限定を加えているような記載は見当たらず,かつ,本件発明が無定形塩酸ニカルジピンに腸管粘膜からの吸収性に富み優れた持続性効果を有することを見出した点に特徴があることからすると,控訴人製剤が無定形塩酸ニカルジピンを含有していると認定された場合(もとより,当裁判所も無定形物の必要量が無制限と解するわけでないことは,引用に係る原判決222行目ないし5行目で判示したとおりである。),それにもかかわらず控訴人製剤において,腸管粘膜からの吸収性に富み優れた持続性効果を有するといった効果を奏しないような特段の事情が認定できない限り,控訴人製剤は本件発明の技術的範囲に属するというべきである。そして,控訴人製剤についてかかる特段の事情の存在を窺わせるような証拠はなく,かえって,乙48及び弁論の全趣旨によると,控訴人製剤は,乙48の実施例1の製法に基づいて製造されたもので,「胃液および腸液における溶解性が適宜に調節されて,充分な初期効果と持続効果」を有するものであると認められるから,控訴人製剤に無定形塩酸ニカルジピンが含有されていた場合,控訴人製剤は本件発明の技術的範囲に属するというべきである。

 (2)
控訴人らは,本件明細書には,すべての塩酸ニカルジピンが無定形である場合しか記載がなく,本件発明の作用効果を生じないことが明らかである下限量の認定ができなければ,無定形物の必要量が無制限であると解してはならず,全部無定形物であるか,それと均等と認められる範囲以外の部分については,発明が完成するに至っていなかったと解すべきであると主張する。
 
しかし,本件明細書の実施例1ないし5では,いずれもニカルジピン塩酸塩原末及び賦形剤の混合物を振動ボールミルを用いて相当時間処理したところ,「ニカルジピン塩酸塩結晶は無定形化していた。」との記載があるが,これらの記載をもって,本件発明が塩酸ニカルジピンにつき無定形のものを100%含む場合に限定する趣旨と直ちに解することはできず,ほかに本件明細書中に,本件発明が塩酸ニカルジピンにつき無定形のものを100%含む場合に限定することを明示又は示唆するような記載は見当たらない。
 
そして,無定形塩酸ニカルジピンが含まれていれば,「添加物を配合することなく優れた持続性効果を有」し,「長時間にわたり安定したニカルジピンの有効血中濃度を維持できる」という本件発明の作用効果を奏するものと予測できるのであり,そうである以上,あえて下限量を画する必要はないというべきである。 また,本件発明が全部無定形物であるか,それと均等と認められる範囲を除いては未完成であるとする控訴人らの主張も独自の見解にすぎない。
 
したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。

 (3)
さらに,控訴人らは,控訴人製剤が,本件発明の実施品である被控訴人製品と同一の作用効果を奏しているのは,控訴人製剤が本件発明の要件を充足しているからではなく,三重被覆製剤技術という独自の製剤技術によってもたらされたものであり,あるいは,控訴人製剤のように溶解補助剤CMECを添加すれば,塩酸ニカルジピンを無定形化した場合と同程度以上の溶解度上昇効果を苦もなく達成できると主張し,乙4864にもこれらに沿った記載がある。
 
しかし,仮に三重被覆製剤技術やCMECの添加によって控訴人ら主張のような効果を挙げられるとしても,同時に控訴人製剤に無定形塩酸ニカルジピンが含有されていると認定された場合には,控訴人製剤は前記(1)のとおり本件発明の技術的範囲に属することとなり,控訴人ら主張の三重被覆製剤技術やCMECの添加は,単なる付加にすぎないというべきであるから,控訴人らの上記主張を採用することはできない。」




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