■動機付けがあるとしても、顕著な効果により進歩性ありと判断された事例(シュープレス用ベルト)


<判決紹介>

コメント:
動機付けがあるとしても、顕著な効果により進歩性ありと判断された事例。 無効審決取消。 ☆☆☆

本件発明1と引用発明1の相違点は、前者の硬化剤が「ジメチルチオトルエンジアミン(以下、A)」であるのに対し、後者は「33-ジクロロ-44-ジアミノジフェニールメタン(以下、B)」である点。

審決は、「引用発明1Bを引用発明2Aに変えることには強い動機付けがあり、本件発明1の効果は単に確認した結果に過ぎない」という主旨の判断をした。

一方で裁判所は、「強く動機付けられるとまでいうことはできない」、「動機付けられることがあるとしても・・・予測することができない顕著な効果を奏するものであるからことに照らせば、・・・進歩性があると認められる」と判断した。


平成24年(行ケ)10004号 審決取消請求事件
平成241113日判決言渡、知的財産高等裁判所
原告: ヤマウチ株式会社
被告: イチカワ株式会社
特許: 特許第3698984
請求項1
 
補強基材と熱硬化性ポリウレタンとが一体化してなり,前記補強基材が前記ポリウレタン中に埋設され,
 
外周面および内周面が前記ポリウレタンで構成されたシュープレス用ベルトにおいて,
 
外周面を構成するポリウレタンは,末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと,ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と,を含む組成物から形成されている,
 
シュープレス用ベルト。


審決の理由:
「・・・引用発明1においては,「33-ジクロロ-44-ジアミノジフェニールメタン」,言い換えればMOCA44メチレン‐ビス‐(2‐クロロアニリン))が,熱硬化性ウレタン樹脂のための硬化剤として使用されているが,甲第2号証には,引用発明2,すなわち「熱硬化性ポリウレタンの硬化剤であって,少なくとも,35-ジメチルチオ-26-トルエンジアミン又は35-ジメチルチオ-24-トルエンジアミンを有効成分としているETHACURE300」がMOCA代替の新硬化剤」として紹介され,しかも,引用発明2は,発ガン性が指摘されていたMOCAに代わる新しい硬化剤として開発されたものであると記載されており,本件特許の出願当時において,その取り扱う対象が,身体健康上,悪い影響を与えるものよりは与えないものを採用することが,優先的に考慮されるべき事柄であったと認められることを考え合わせると,甲第2号証は,熱硬化性ポリウレタンの硬化剤としてMOCAに代えて引用発明2を用いることを強く動機づける刊行物といえ,引用発明1において,その硬化剤であるMOCAに代えて引用発明2を用いることは,格別な創作力を発揮することなくなし得るものである。そうである以上,仮に,本件発明1に予測できない効果が認められるとしても,その効果は,単に確認したにすぎないものといわざるを得ず,相違点Aは,容易に想到し得るものである。 」


原告の主張:
「・・・しかし,だからといって,MOCAは使用が禁止されていたわけではないため,証拠を示すまでもなく,「この出願当時において,その取り扱う対象が,身体健康上,悪い影響を与えるものよりは与えないものを採用することが,まずは,優先的に考慮されるべき事柄であったと認められる」ということにはならない。
・・・当業者にとっては,「身体健康上,悪い影響を与えるものよりも与えないものを採用すること」は,シュープレス用ベルトの耐クラック性その他の性能を差し置いてでも,まずは,優先的に考慮されるべき事柄であったとはいえない。

イ 審決は,甲第2号証は、熱硬化性ポリウレタンの硬化剤としてMOCAに代えて引用発明2を用いることを強く動機づける刊行物といえると認定している。
  
しかし,甲第2号証には、シュープレス用ベルトの技術分野については記載も示唆もされていないのであるから,甲第2号証に記載の事項が,シュープレス用ベルトの技術分野にも共通する事項であるとは直ちに認めることはできないし,仮に,技術分野が共通するといえたとしても,それだけでは当該技術分野において、引用発明1のシュープレス用ベルトの第二樹脂層の硬化剤である「MOCA」を引用発明2の「ETHACURE300」に変更する動機付けとしては十分とはいえない。」


被告の反論:
「・・・。
(2)
動機付けについて
ア 甲1と甲2の記載,及び,ETHACURE300が,熱硬化性ウレタン樹脂に用いられる硬化剤としてMOCAの代替の硬化剤であったことが本件発明の出願時において周知であったことからすれば,当業者であれば,甲1と甲2を結びつけることは容易に想到できること
(
) 1と甲2の記載からすれば,当業者であれば,甲1と甲2を結びつけることは容易に想到できること
a
原告は,シュープレス用ベルトの技術分野において,身体健康上,悪い影響を与えるもの(MOCA)よりも与えないものを採用することが,優先的に考慮されるべき事柄であったかどうかを問題にしているが,そもそも,甲2は,ポリウレタン等の熱硬化性樹脂の硬化剤であるMOCA及びETHACURE300についての文献であり,かつ,その当時,ポリウレタン等の熱硬化性樹脂がシュープレス用ベルトに用いられることは主流であり,かつその事実は周知といえるほどに知られていた。そして,引用発明1においてはMOCAが熱硬化性ウレタン樹脂のための硬化剤として使用されているが,甲2においては,ETHACURE300が熱硬化性ポリウレタンにおける「MOCA代替の新硬化剤」として紹介されている。 したがって,甲1及び2の記載からすれば,甲1と甲2を結びつける動機付けは十分にあり,当業者であれば,甲1と甲2を結びつけることは容易に想到できる。
b
原告は,甲2には,シュープレス用ベルトの技術分野について記載も示唆もされていないと主張する。
しかし,甲2は,ポリウレタン等の熱硬化性樹脂の硬化剤であるMOCA及びETHACURE300についての文献であり,かつ,本件出願当時において,ポリウレタン等の熱硬化性樹脂がシュープレス用ベルトに用いられることは主流であり,かつその事実は周知といえるほどに知られていたから,甲2は,ポリウレタン等の熱硬化性樹脂の硬化剤の技術分野に関する文献であって,シュープレス用ベルトをも包含する技術分野に関する文献であるといえる。そして,甲2には,ポリウレタン等の熱硬化性樹脂の硬化剤として,MOCAに替えて,ETHACURE300を用いることが直接的に記載されている。・・・。

イ シュープレス用ベルトの技術分野において,身体健康上,悪い影響を与えるものよりは与えないものを採用するこが優先的に考慮されるべき事柄であったこと () シュープレス用ベルトの技術分野において,身体健康上,悪い影響を与えるもの(MOCA)よりも与えないものを採用することが,優先的に考慮されるべき事柄であったことは,本件発明の出願時,証拠を示すまでもなく当業者には自明ないし当然であった。
すなわち,シュープレス用ベルトはポリウレタン製のものが主流であるところ,労働安全衛生法,製造物責任法,その他環境汚染防止に関連する法令は,・・・。
(
) シュープレス用ベルトの技術分野において,身体健康上,悪い影響を与えるもの(MOCA)よりも与えないものを採用することが,優先的に考慮されるべき事柄であったことは,種々の文献(甲2,乙615)からも明らかである。・・・。

(3)
効果について
前記12のとおり,原告は,本件発明1の認定を誤り,したがって,本件発明1と引用発明1との相違点の認定も誤っている。原告は,かかる誤った主張を前提に,効果に関する主張をしており,前提自体が誤りであるから,かかる主張は失当である。」


裁判所の判断:
「・・・。
 (
以上によれば,甲第2号証に接した当業者が安全性の点からMOCAに代えてETHACURE300を用いることを動機付けられることがあるとしても,ETHACURE300をシュープレス用ベルトの硬化剤として使用した場合に,安全性以外の点(例えば耐久性)についてどのような効果を奏するかは不明である上,安全性の点からみても他にも選択肢は多数あり,その中から特にETHACURE300を選択する理由はなく,かえって,他の代替品を選択する可能性が高いといえるため,ETHACURE300の使用を強く動機付けられるとまでいうことはできない。
(
なお,顕著な効果については,被告は,原告の主張の誤りを指摘するのみで,具体的な反論をしていない。
  上記アないしウのとおり,甲第2号証に接した当業者が,安全性の点からMOCAに代えてETHACURE300を使用することを動機付けられることがあるとしても,本件発明1が,ベルトの外周面を構成するポリウレタンにクラックが発生することを防止できるという,当業者といえども予測することができない顕著な効果を奏するものであることに照らせば,本件発明1は,当業者が容易に想到するものであるとはいえず,進歩性があると認められるから,これを無効とすることはできない。

(3)
被告の主張について
被告は,シュープレス用ベルトの技術分野において,身体健康上,悪い影響を与えるものよりも与えないものを採用することが,優先的に考慮されるべき事柄であったことは,本件特許出願時,当業者には自明ないし当然であり,熱硬化性ウレタン樹脂に用いられる硬化剤として,ETHACURE300が,引用発明1において使用されているMOCAの代替の硬化剤であったことは,甲第2号証に記載されているほか,本件特許出願時において周知であったから,甲第2号証に接した当業者であれば,引用発明1において,MOCAに代えてETHACURE300を使用することは,容易に想到できると主張する。
しかし,前示のとおり,本件発明1は,当業者といえども予測することができない顕著な効果を奏するものであるから,甲第2号証に上記のような記載があることを考慮してもなお,当業者が容易に想到するものであるとはいえない。」



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