■直接的に明記されてなくても医薬用途発明が開示されていると判断された事例


<判決紹介>
平成26年(行ケ)第10024号 審決取消請求事件


コメント1
医薬用途発明の引例適格と、引例の組合わせの動機付けが争点になった事例。
前回は動機付け無しと判断された事例を紹介しましたが、今回はありと判断された事例です。 拒絶審決維持。 ☆☆


■抜粋
・平成26(行ケ)10024号 審決取消請求事件
・平成261224日判決言渡、知的財産高等裁判所第4
原告: ユーローセルティーク エス. エイ.
被告: 特許庁長官
本願: 特願2006-501821
請求項1:
単純疱疹感染又は帯状疱疹感染によって引き起こされる皮膚障害,水疱及び痒みの治療用医薬製剤であって,
該製剤が,薬学的に許容されるリポソームと併せて薬学的に有効な量のヨウ素またはヨウ素を元素の形で含有する少なくとも一つのヨウ素複合体を含有する,前記医薬製剤。
本願と引例1の一致点:
「単純疱疹感染によって引き起こされる症状の治療用医薬製剤であって,該製剤が薬学的に有効な量のヨウ素を含有するヨウ素複合体を含有する医薬製剤」である点。
本願と引例1の相違点:
本願発明では製剤がヨウ素複合体と併せて薬学的に許容されるリポソームの含有されるものであるのに対し,引用発明では製剤がリポソームの含有されない10%水性溶液またはゲルである点(相違点1),及び,本願発明では治療対象の症状が皮膚障害,水疱及び痒みとされるのに対し,引用発明ではそれらの症状のうち皮膚障害が示されていない点(相違点2)。


コメント2
(1)医薬用途発明の引例適格について
引例1には「水疱及び痒み」の治療が直接的に明記されていなかったが、引例1には、

「①外性器HSV感染症の患者に対するポビドンヨードの具体的な適用方法」
「②その適用効果の調査が48時間間隔で行われ,訪問調査のたびに「痒み,苦痛,排尿困難」の重症度を0から3+の尺度で段階づけて調査したこと」
「③試験を中止した1人を除く,対象患者9人全員について,訪問調査のたびに全ての症候の段階的な軽減が見られ,「無症候」となり,外性器HSV感染症の治癒が完了し,また,対象患者2人に見られた子宮頸部の壊死及び潰瘍障害が劇的に改善したこと」

が記載されていたことなどから、裁判所は、

「・・・。これらの記載によれば,本願の優先権主張日当時,有痛性の「小水疱」あるいは「水疱」は,HSV感染によって引き起こされる典型的な症状であり,また,その前駆症状として痒みを伴うことがあることは,技術常識であったことが認められる。
上記技術常識に鑑みると,引用例1に接した当業者は,引用例1の上記記載(前記ア②及び③)から,HSV感染によって引き起こされる典型的な症状である有痛性の「小水疱」あるいは「水疱」及び「痒み」についても,対象患者にポビドンヨードを有効成分とする製剤を適用したことにより,「無症候」となり,外性器HSV感染症の治癒が完了したものと理解するものと認められる。
そうすると,引用例1には,「ヘルペスウイルスの陰部疱疹感染によって引き起こされる,水疱及び痒みの治療用医薬製剤」が開示されているものと認められる。」

として、医薬用途発明が開示されていると判断した。

また原告は、引例1

「これらの10人の患者は,外性器のHSV感染症に対するポビドンヨードの効果を評価するための予備試験群である。…このような小さい標本から有効な結論を引き出すことはまったくできない。」

との記載から、医薬用途発明が開示されていないと主張したが、その箇所に続き、

「これらの知見は,有望であり,ウイルス培養対照を用いたより大きい集団でのさらなる試験を明らかに正当化する。公知の副作用または理論的な副作用がないこと,この製剤の広範な利用可能性,自宅での自己治療の容易さ,および潜在的な二次皮膚病原体に対するポビドンヨードの同時有効性はすべて,その使用に対する追加の利点であり,臨床試験に広げれば,この療法の有効性が確認されるはずである。」

との記載があることなどから、裁判所は、

「予備試験の結果を臨床試験の結果と同等の評価をすることができないというにとどまり,予備試験に現れたポビドンヨード10%溶液及びポビドンヨードのゲルの適用による外性器HSV感染症の症状に対する治療効果を何ら否定するものではないというべきである。

として、医薬用途発明が開示されていると判断した。


(2)引例1、2の組合わせの動機付けについて
引例1にはリポソーム含有の記載が無く、引例2にはその記載がある。 原告は、引例12の目的ないし解決課題が異なるから、組み合わせる動機付けがないと主張したが、

「引用例1の目的ないし解決課題は,ポビドンヨードの溶液ないしゲルを用いたHSV感染症の治療であって,当該症状の治癒の過程で新たに生じ得る「望ましくない組織(瘢痕組織)」の形成やその回避を目的ないし解決課題とするものではないのに対し,引用例2の目的ないし解決課題は,「望ましくない組織(瘢痕組織)の形成の回避」であり,引用例1のと引用例2では,目的ないし解決課題が異なるから,引用発明に引用例2に記載された発明を組み合わせる動機付けは存在しない」

裁判所は、

「・・・。これによれば,引用例2から,抗感染剤および抗炎症剤(特にポビドンヨードなどの防腐剤)用の担体としてリポソームを使用することにより,その有効成分の遅延放出が可能になり,かつ細胞表面との相互作用により所望の作用位置において長期的かつ局所的な活性が提供されること,リポソームを担体として使用した「リポソームPVPヨード」は,水性PVPヨードと比較して,長期細胞毒性実験における許容度が高いことを理解できる。 一方で,引用例1には,引用例1の予備試験では,対象患者に「就寝時」に,ゲルを膣に挿入器具で挿入するとともに,外部病変部に綿棒3本を使用するように指示され,「毎朝」,ポビドンヨード溶液で灌水するとともに,外部病変部に綿棒を再び使用するように指示されていること(前記1(1)ウ),治癒の完了までに,再発の場合には28日間を要し,初感染の場合には714日間を要したことが記載されていること(同エ)に照らすと,引用発明の医薬製剤においても,有効成分であるポビドンヨードの遅延放出が可能になり,かつ細胞表面との相互作用により所望の作用位置において長期的かつ局所的な活性が提供されることが望ましいことは,当業者にとって自明であるといえる。

と判断し、さらに、

「そうすると,引用例1及び引用例2に接した当業者においては,引用発明である医薬製剤に含有される薬理学的に有効な量のヨウ素を含有するヨウ素複合体について,有効成分の長期的かつ局所的な活性を得るために,引用例2に記載されたリポソーム粒状担体と組み合わせて含有する製剤とすることの動機付けがあるものと認められるから,相違点1に係る本願発明の構成を容易に想到することができたものと認められる。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
原告は,この点に関し,上記のとおり,引用例1と引用例2では,目的ないし解決課題が異なることを挙げて,引用発明に引用例2を組み合わせる動機付けがない旨主張する。
しかしながら,原告が主張するように引用例1の目的がポビドンヨードの溶液ないしゲルを用いたHSV感染症の治療にあり,引用例2の目的が「望ましくない組織(瘢痕組織)の形成の回避」にあり,両者が直接目的とするところが異なるとしても,そのことは引用発明に引用例2に記載されたリポソーム粒状担体の構成を組み合わせる動機付けを否定する根拠にはならないというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。」

として動機付けがあると判断した。



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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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