■臭気中和化および液体吸収性廃棄物袋: 平成22年(行ケ)第10351号審決取消請求事件


コメント: 引例に周知技術を適用する場合でも、理由が大事ということを判示した例。 ☆☆


平成23年9月28日判決言渡
平成22年(行ケ)第10351号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年7月27日
判決
原告ザプロクターアンドギャンブルカンパニー
訴訟代理人弁護士吉武賢次
同宮嶋学
同高田泰彦
同柏延之
訴訟代理人弁理士勝沼宏仁
同中村行孝
同小島一真
被告特許庁長官
指定代理人中川眞一
同岡本昌直
同黒瀬雅一
同小林和男
◆主文
1特許庁が不服2009-10504号事件について平成22年7月5日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
◆第1 請求
主文同旨
◆第2 争いのない事実
▼1 特許庁における手続の経緯
原 告は,平成11年11月16日,発明の名称を「臭気中和化および液体吸収性廃棄物袋」とする発明について,特許出願(特願2000-582314。パリ条 約による優先権主張1998年11月16日,米国,甲1,以下「本願」という。)をし,平成20年10月28日付けで拒絶の理由が通知され(甲5),平成 21年2月2日付けで手続補正書を提出したが(甲2),同月23日付けで拒絶査定を受け(甲4),これに対し,同年6月1日付けで,不服の審判(不服 2009-10504号事件)を請求した(甲14)。特許庁は,平成22年7月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」とい う。)をし,その謄本は,同年7月16日,原告代理人に送達された。

▼2 特許請求の範囲
平成21年2月2日付け補正後の本願の特許請求の範囲における請求項1の記載は,次のとおりである(甲2,以下,この発明を「本願発明」という。以下,本願の特許請求の範囲,明細書及び図面を併せて「本願明細書」という。)。
「【請求項1】 A)飲食物廃棄物の処分のための容器であって,
B)飲食物廃棄物を受け入れるための開口を規定し,
かつ
C-1)内表面および外表面を有する液体不透過性壁と,
C-2)前記液体不透過性壁の前記内表面に隣接して配置された吸収材と,
C-3)前記吸収材に隣接して配置された液体透過性ライナーとを備え,
D)前記容器は前記吸収材上に被着された効果的な量の臭気中和組成物を持つ,
飲食物廃棄物の処分のための容器。
(判決注 構成要件の分説及び記号は,原告の主張に合わせて,記載した。)

▼3 審決の理由
(1) 別 紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本件優先日前に日本国内において頒布された刊行物である実願昭62-152931号(実開平 1-58507号)のマイクロフィルム(甲6。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知の事項に基づいて当業者 が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断した。
(2) 上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点,容易想到性判断の概要は,以下のとおりである。
ア 引用発明の内容「生ゴミを収納するためのゴミ入れ袋であって,生ゴミを受け入れるための開口を有し,かつ内面と外面を有するプラスチック袋と,前記プラス チック袋の前記内面に被覆された吸水性ポリマー層とを備え,前記ゴミ入れ袋は前記吸水性ポリマー層に練り込まれた抗菌性ゼオライトを有する,生ゴミを収納 するためのゴミ入れ袋。」
イ 一致点「飲食物廃棄物の処分のための容器であって,飲食物廃棄物を受け入れるための開口を規定し,かつ内表面および外表面を有する液体不透過性壁と,前記 液体不透過性壁の前記内表面に隣接して配置された吸収材と,前記容器は前記吸収材に保持された効果的な量の臭気中和組成物を持つ,飲食物廃棄物の処分のた めの容器。」の点。
ウ 相違点
() 相違点1
本願発明は,吸収材に隣接して配置された液体透過性ライナーを備えているのに対し,引用発明は,液体透過性ライナーを備えていない点。
() 相違点2
容器は吸収材に保持された効果的な量の臭気中和組成物を持つ点について,本願発明は,臭気中和組成物が吸収材上に被着されているのに対し,引用発明は,臭気中和組成物である抗菌性ゼオライトが,吸収材に練り込まれている点。
エ 容易想到性の判断
() 相 違点1に係る容易想到性の判断「液体不透過性壁の内表面に隣接して吸収材が配置されたシート状部材において,その吸収材に隣接して液透過性のライナーを配 置することは,従来周知の事項である(例えば,周知例1:実願昭56-194196号(実開昭58-101737号)のマイクロフィルム(甲7)の第2 ページ第3~9行,第4ページ第9~11行,周知例2:特開平9-315507号公報(甲8),周知例3:実願昭63-153557号(実開平 2-74398号)のマイクロフィルム(甲9)の第1ページ第5~15行,第2ページ第6~9行,第3ページ第3~9行,周知例4:特開平 9-295680号公報(甲10)の段落【0011】,周知例5:特開平2-57583号公報(甲11)を参照のこと。)。
してみると,引用例における吸収剤である吸水性ポリマー層に隣接して,液透過性のライナーを配置することは,当業者が容易になし得たことである。」
() 相 違点2に係る容易想到性の判断「吸収材にゼオライト等の臭気中和組成物を保持させるのに,その組成物を吸収材上に被着させて行うことは,従来周知の事項で ある(例えば,周知例6:特開平9-239903号公報(甲12)の段落【0001】~【0004】,周知例7:請求人が本件明細書段落【0038】で提 示する欧州特許出願公開第0811390号明細書(甲13。乙4はその仮訳)を参照のこと。)。
してみると,引用発明の抗菌性ゼオライトを吸収材上に被着することは,当業者が容易になし得たことである。」

◆第3 当事者の主張
・・・。

▼2 被告の反論
・・・。

◆第4 当裁判所の判断
当裁判所は,以下のとおり,審決は,本願発明が出願前公知の発明に基づいて容易に発明をすることができたとする理由を示しておらず,また,仮に何らかの理由を示したと読むことができたとしても,その理由には誤りがあると判断する。

▼1 相違点1についての容易想到性判断の誤り(取消事由1)について
審決は,周知例1ないし5を例示して,本願発明の引用発明との相違点1に係る構成(「液体不透過性壁の内表面に隣接して吸収材が配置されたシート状部材において,その吸収材に隣接して液透過性のライナーを配置すること」)は,従来周知の事項であり,容易であるとの結論を示しているが,そのような結論に至った合理的な理由を示していない。
(1) 本願明細書と刊行物1の各記載
本願明細書及び刊行物1には,それぞれ,以下の記載がある。
・・・。

 (2) 判断
当事者間に争いない事実及び(1)で認定した事実に基づいて,相違点1に係る構成の容易想到性の有無について,判断する。
ア 審決において,特許法29条2項が定める要件の充足性の有無,すなわち,当業者が,先行技術に基づいて,出願に係る発明を容易に想到することができたか否 かを判断するに当たっては,客観的であり,かつ判断が適切であったかを事後に検証することが可能な手法でされることが求められる。そのため,通常は,先行 技術たる特定の発明(主たる引用発明)から出発して,先行技術たる別の発明等(従たる引用発明ないし文献に記載された周知の技術等)を適用することによっ て,出願に係る発明の主たる引用発明に対する特徴点(主たる引用発明と相違する構成)
に到達することが容易であったか否かを基準としてされる例が多い。
他 方,審決が判断の基礎とした出願に係る発明の「特徴点」は,審決が選択,採用した特定の発明(主たる引用発明)と対比して,どのような技術的な相違がある かを検討した結果として導かれるものであって,絶対的なものではない。発明の「特徴点」は,そのような相対的な性質を有するものであるが,発明は,課題を 解決するためにされるものであるから,当該発明の「特徴点」を把握するに当たっては,当該発明が目的とした解決課題及び解決方法という観点から,当該発明 と主たる引用発明との相違に着目して,的確に把握することは,必要不可欠といえる。
そ の上で,容易想到であるか否かを判断するに当たり,「『主たる引用発明』に『従たる引用発明』や『文献に記載された周知の技術』等を適用することによっ て,前記相違点に係る構成に到達することが容易であった」との立証命題が成立するか否かを検証することが必要となるが,その前提として,従たる引用発明等 の内容についても,適切に把握することが不可欠となる。
もっとも,「従たる引用発明等」は,出願前に公知でありさえすれば足りるのであって,周知であることまでが求められるものではない。しかし,実務上,特定の技術が周知であるとすることにより,「主 たる引用発明に,特定の技術を適用して,前記相違点に係る構成に到達することが容易である」との立証命題についての検証を省く事例も散見される。特定の技 術が「周知である」ということは,上記の立証命題の成否に関する判断過程において,特定の文献に記載,開示された技術内容を上位概念化したり,抽象化した りすることを許容することを意味するものではなく,また,特定の文献に開示された周知技術の示す具体的な解決課題及び解決方法を捨象して結論を導くこと を,当然に許容することを意味するものでもない。
本 件についてこれをみると,審決は,「主たる引用発明」に「従たる引用発明等」を適用することによって,容易想到性を判断したものではなく,「特定の引用発 明」のみを基礎として,これに特定の技術事項が周知であることによって,本願発明と引用発明との相違点に係る構成は,容易に想到することができるとの結論 を導いたものである。
そこで,本件において,このような審決の理由づけをしたことの適否について,上記の観点をも踏まえた上で検討する。

イ 本願明細書に関する上記記載によれば,本願発明は,飲食物の食べ残しや廃棄物の処分に用いられる容器に関するもので,内表面および外表面を有する液体不透 過性壁から構成され,容器の中には,吸収材が入れられ,吸収材には,効果的な量の臭気中和組成物がその上に被着されているものである。そして,「液体透過 性ライナー」を吸収剤に隣接して配置するとの構成が採用されている。また,好適な液体透過性ライナーとしては,多孔質発泡体,網状化発泡体,開孔プラス チックフィルム,または天然繊維(たとえば,木材あるいは綿繊維),合成繊維(たとえば,ポリエステルあるいはポリプロピレン繊維)もしくは天然繊維と合 成繊維の組み合わせの織製もしくは不織ウェブのような広範囲の材料から製造され得るとの記載がある。上記構成を採用した目的は,飲食物の廃棄物および食べ 残しを中に入れる過程で容器の中に手を入れる消費者は,液状の廃棄物でほとんど,あるいは完全に飽和された吸収材との偶発的で,望ましくない接触を回避で きる旨が記載されている。
こ れに対して,審決の認定した引用発明の内容は,「生ゴミを収納するためのゴミ入れ袋であって,生ゴミを受け入れるための開口を有し,かつ内面と外面を有す るプラスチック袋と,前記プラスチック袋の前記内面に被覆された吸水性ポリマー層とを備え,前記ゴミ入れ袋は前記吸水性ポリマー層に練り込まれた抗菌性ゼ オライトを有する,生ゴミを収納するためのゴミ入れ袋。」である。
引 用発明においては,「吸水性ポリマー層」が吸水材として用いられ,プラスチック袋の内面に「被覆」されたものであること,及び刊行物1の第1図を参照すれ ば,「吸水性ポリマー層」は,プラスチック袋と一体化されていることから,その被覆された形状は,安定的に維持されていると理解するのが合理的である。そ して,吸収性ポリマー層には,抗菌性ゼオライトを「練り込んだ」と記載されていることに照らすならば,被覆された層は,溶剤に溶かしたり熱溶融したりする などして,流動性を持たせた吸水ポリマーにゼオライトを練り込んだものが被覆されることによって,プラスチック袋の基材と一体化されて,積層されていると 理解される。被覆された層の一体化された形状は,「吸水性ポリマー層」が吸水した場合であってもなお,その形状が保持されるものと理解するのが合理的であ る。
そうであるすると,引用発明において,「消費者が,液状の廃棄物でほとんど,あるいは完全に飽和された吸収材との偶発的で,望ましくない接触をすること」を回避する目的のために,さらに「液体透過性ライナー」を「吸収剤」に隣接して配置するとの構成を採用する動機はない。
したがって,本願発明の相違点1に係る構成は,引用発明から,容易に想到することができるとした審決の判断には,誤りがある。

ウ この点について,審決は,「液体不透過性壁の内表面に隣接して吸収材が配置されたシート状部材において,その吸収材に隣接して液透過性のライナーを配置す ること(周知事項1)」は,周知例1~5により周知事項であると認定した上で,「してみると,引用例における吸収剤である吸水性ポリマー層に隣接して,液 透過性のライナーを配置することは,当業者が容易になし得たことである。」と記載するが,その理由は示されておらず,審決のこの記載には,以下のとおり理由不備ないし判断の誤りがある。
確かに,周知例1ないし5には,液透過性のライナーが,吸収材に隣接して配置された技術が記載されている。
し かし,そのような技術事項が記載されているからといって,本件において,「引用発明を起点として,上記の技術事項を適用することにより,本願発明の相違点 1に係る構成に到達することが容易である」との立証命題について,引用発明の内容,本願発明の特徴,相違点の技術的意義,すなわち「液透過性のライナー が,吸収材に隣接して配置された技術」の有する機能,目的ないし解決課題,解決方法等を捨象して,「その吸収材に隣接して液透過性のライナーを配置する」 技術一般について,一様に周知であるとして,当然に上記命題が成り立つとの結論を導くことは,妥当を欠く。
な お,周知例には,吸収材の材料として,吸取紙または不織布(周知例1),高吸水性高分子材料(周知例2,3,4),吸収性ポリマーを含む紙や発泡合成樹脂 (周知例5)が使用されていることに照らすならば,これを吸収材として有するシート状材料において,「液体透過性のライナー」は,これら粉状,粒状の材料 を基材である液体不透過性シートの上に移動したり,脱落したりすることを防ぐ目的で用いられる技術としては,周知であると解することもできないではない。
しかし,仮に,そのように理解したとしても,引用発明に,上記の意味に理解した周知技術を適用して,本願発明の相違点1に係る構成に至ることの動機付けはなく,容易であるとの結論を導くことはできない。す なわち,引用発明は,「吸水性ポリマー層」が吸水材として用いられ,プラスチック袋の内面に「被覆」されたものであること,「吸水性ポリマー層」はプラス チック袋と一体化されていること等から,その被覆された形状及び態様は,安定的に維持されている(少なくとも安定的に維持されることを目的として形成され ている)と解されること,引用発明の吸収材は,基材シート上に配置された吸収材の形状等をさらに維持しなければならない課題はないと解されることに照らす ならば,吸収材の形状等を維持する等の目的のために,刊行物1に記載も示唆もない「液透過性のライナー」を,あえて配置する動機付けは存在しない。
結局,周知事項1を適用することが容易であるとした審決の理由は,理由不備ないし判断の誤りがある。
エ そうすると,本願発明における相違点1に係る構成について,引用発明を起点として,周知事項1を適用することにより当業者が容易になし得たということはできず,相違点1に関する審決の容易想到性に関する判断は誤りである。

▼2 相違点2についての容易想到性判断の誤り(取消事由2)について
審 決は,本願発明の引用発明との相違点2に係る構成について,「吸収材にゼオライト等の臭気中和組成物を保持させるのに,その組成物を吸収材上に被着させて 行うこと」は,周知例6,7により周知事項であると認定した上で,「してみると,引用発明の抗菌性ゼオライトを吸収材上に被着することは,当業者が容易に なし得たことである。」と述べるのみであって,その理由を示していない。
しかし,審決のこの点の判断には,以下のとおりの誤りがある。
(1) 本願明細書と刊行物1の各記載本願明細書と刊行物1の各記載は,1の(1)記載のとおりである。
(2) 判断  2 つの材料を併用して両者の機能を併せ持った複合材料とするに当たっては,様々な態様が考えられ,混合,被着のいずれも,想定される態様といえるから,「吸 収材にゼオライト等の臭気中和組成物を保持させるのに,その組成物を吸収材上に被着させて行うこと」が,周知の事項であるとした審決の認定に,誤りはな い。
しかし,刊行物1には,臭気中和組成物である抗菌性ゼオライトは吸収材に練り込まれていることが記載され,「練り込むこと」に解決課題があること及び「練り込むこと」に代えて,他の態様を選択することを示唆する何らの記載もない。
そ こで,引用発明において,抗菌性ゼオライトを吸収性ポリマーに「練り込むこと」に代えて,吸収性ポリマー層の上に「被着」する態様を選択したことを想定す ると,当業者であれば,かえって,吸収材表面から抗菌性ゼオライトの粉体が脱落するとの問題が発生するものと理解する(甲12)。そうだとすると,引用発 明の「練り込むこと」に代えて,問題の生じる可能性のある態様を選択することは,特段の事情のない限り,回避されるべき手段であると解するのが相当である。審決は,何らの理由を示すこともなく,当然に容易であるとの結論を導いた点において,誤りがある。
そうすると,本願発明における相違点2に係る構成について,引用発明を起点として,周知事項2を適用することにより当業者が容易になし得たものということはできず,相違点2に関する審決の容易想到性に関する判断は誤りである。

▼3 結論
以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告主張の取消事由1及び2は理由がある。よって,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所 第3部裁判長裁判官飯村敏明 裁判官池下朗 裁判官武宮英子
別紙 図1(本願明細書の【図4】)
図2(刊行物1の第1図)
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