■モメタゾン水性懸濁液特許の維持審決、顕著な効果の判断に誤りがあるとして取消し


<判決紹介>
・平成27(行ケ)10054号 審決取消請求事件
・平成28330日判決言渡
・知的財産高等裁判所第2部 清水節、片岡早苗、新谷貴昭
・原告:東和薬品株式会社
・被告:メルク・シャープ・アンド・ドーム・コーポレーション
・特許3480736


■コメント
ジェネリック vs 新薬の特許維持審決取消訴訟。
東和薬品は前回に続き2連勝です。

先発品はナゾネックス点鼻液50μg56/112噴霧用(モメタゾンフランカルボン酸エステル水和物)で、後発品はなし。
2014
3月に無効審判請求 → 20152月に維持審決 → 取消訴訟を提起していました。
今回判断されたのは、本件特許発明に顕著な効果があるといえるかどうか。

本件特許の請求項1は下記の通り。

「【請求項1
モメタゾンフロエート水性懸濁液を含有する薬剤であって,11鼻腔内に投与される,アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療のための薬剤。」



審決は本件発明の構成については容易想到であると判断していましたが、その効果が顕著で当業者が予測困難なものであったとして、本件発明の進歩性を肯定していました。

審決が認定した甲1発明(Wang文献)、一致点、相違点、顕著な効果は下記の通り。

・甲1発明の認定
コルチコステロイドの1種であるモメタゾンフロエートを含有し,鼻腔内吸入により投与される,アレルギー性鼻炎のための候補薬。

・一致点
モメタゾンフロエートを含有し、アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎を対象とする点。

・相違点
相違点1:本件発明1は「水性懸濁液」であるのに対し、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
相違点2:本件発明1は「11回投与」されるのに対し、甲1発明では投与回数が特定されていない点。
相違点3:本件発明1は「治療のための薬剤」であるのに対し、甲1発明は「候補薬」である点。

・効果の顕著性
「本件発明の効果は、本件特許明細書の記載から、「アレルギー性鼻炎に対して、11のモメタゾンフロエート投与で、効果的に処置でき(本件効果1)、かつ、モメタゾンフロエートの血流中への全身的な吸収が実質的に存在しないことにより、所望しない全身性副作用を防げること(本件効果2)」であると認められる。」

なお、甲2(特表平05-506667)には、「フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液を製造した。」などの記載があります。



これに対して、原告は以下の主張をしました。

3 原告の主張
1
取消事由1(本件効果1についての判断誤り)
・・・

2
取消事由2(本件効果2についての判断誤り)
(1)
本件効果2についての認定の誤り
・・・
(2)
本件効果2についての評価の誤り
  審決には,技術水準を看過して本件効果2の予測可能性を判断した誤りがある。
 
審決が認めているように,全身性副作用を小さくするという意味において,本件効果2と甲1に記載された効果とは同質であるから,当業者が本件効果2としての全身性副作用を予測できたか否かについての判断は,本件効果2の「程度」が当業者の予測を超えるほどの格別顕著なものであるか否かという観点からなされなければならない。
 
そして,「程度」とは,物事の高低,強弱,優劣などがどのくらいかという度合をいうものであり,あくまでも相対的な概念であるから,その評価には,少なくとも,いずれかの量的尺度における何らかの比較対象が必要であり,そのような対象を置くことなしに判断することは不可能である。したがって,本件効果2の程度を判断するためには,モメタゾンフロエート以前の従来のアレルギー性鼻炎の治療のための抗炎症コルチコステロイドの鼻腔内投与において,全身性副作用がどの程度であったか,あるいは,モメタゾンフロエートの鼻腔内投与についてどの程度の副作用が従来予測されていたかという点を斟酌することが必要である。
 
しかしながら,甲1には,「モメタゾンフロエート(SCH32088)は,局所的抗炎症活性を有しその一方で視床下部-下垂体-副腎(HPA)機能を抑制する潜在能力は最小限にしか示さない,合成のコルチコステロイドである。」(473頁左欄38行)という,HPA機能の抑制が最小限である旨の記載があるし,モメタゾンフロエートが鼻腔内吸入でアレルギー性鼻炎を治療するための有望な新薬候補であるとの明示的記載もなされており,これらの記載は,モメタゾンフロエートの鼻腔投与について,目的とする治療効果が期待でき,かつ,全身性副作用がないことも期待できるものであることを示すものであるから,皮膚に投与した場合に限定して解釈される理由はない。
 
仮に,甲1の記載が「皮膚に適用した際の全身性副作用が最小限であること」と理解されるのであれば,甲1には,アレルギー性鼻炎に対して有効な量のモメタゾンフロエートを鼻腔内に投与した場合における全身性副作用の程度に関する具体的な記載は存在しないということになるから,本件効果2の程度の評価に必要な量的尺度における比較対象としては,甲1の記載に依拠することはできないはずであり,従来のアレルギー性鼻炎の治療のための抗炎症コルチコステロイドの鼻腔内投与において,全身性副作用はどの程度であったかという比較を可能にする具体的な基準が,別途必要であり,そのような基準を本件優先日前の技術水準に求めることが不可欠である。
 
それにもかかわらず,審決は,甲25における技術水準の記載を一切考慮していない。そして,審決の他の箇所においても,技術水準を示す何らの証拠も参酌することなく,本件効果2について,当業者の予測可能性を否定した。
 
審決は,鼻腔粘膜に適用された際の全身性副作用の大きさの予測困難性を指摘するだけであるが,それだけでは,本件効果2の程度が,甲1発明等に示された技術水準からみて,当業者の予測を超えるほどの格別顕著なものであるか否かとの結論を導き出すことはできない。

・・・
 
一方,モメタゾンフロエートは,局所的な皮膚への使用に対して認可されていた抗炎症性コルチコステロイドであり,視床下部-下垂体-副腎(HPA)機能を抑制する潜在能力を最小限にしか示さないことが知られていたから,特にモメタゾンフロエートに限って,鼻腔内投与で全身性副作用の起こることが予測されていたという事情もない。
 
したがって,これらに示された技術水準と比較する限り,本件効果2は,「所望しない全身性副作用を防げること」という点において,技術水準と差異はないから,当業者の予測可能な範囲を超えるほどの格別顕著な効果というにはほど遠く,当業者が予測し得る範囲のものである。また,「モメタゾンフロエートの血流中への全身的な吸収が実質的に存在しない」という点についても,同様である。よって,本件効果2が当業者の予測可能な範囲を超えるほどの格別顕著な効果であるということはできず,審決の判断は誤りである。

・・・
 
また,本件発明に係る薬剤の具体的組成は,甲2の実施例15に記載された組成そのものであるから,本件効果2は,甲2発明が既に有していた効果そのものであって,本件発明により初めて達成された効果ではなく,甲2発明が有していた効果を追認したものにすぎない。したがって,本件効果2は,当業者の予測可能な範囲を超えるほどの格別顕著な効果ということはできない。」



裁判所の判断は以下の通り。

当裁判所の判断
・・・
取消事由1及び2について
 
本件発明の構成が,公知技術である引用発明に他の公知技術や周知技術等を適用することにより容易に想到できるものであるとしても,本件発明の有する効果が,当該引用発明等の有する効果と比較して,当業者が技術常識に基づいて従来の技術水準を参酌した上で予測することができる範囲を超えた顕著なものである場合は,本件発明がその限度で従来の公知技術から想到できない有利な効果を開示したものであるから,当業者がそのような本件発明を想到することは困難であるといえる。したがって,引用発明と比較した本件発明の有利な効果が,当業者の技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものと認められる場合は,本件発明の容易想到性が否定され,その結果,進歩性が肯定されるべきである。
 
そして,当業者が予測できない顕著な効果といえるためには,従来の公知技術や周知技術に基づいて相違点に係る構成を想到した場合に,本件発明の有する効果が,予測される効果よりも格別優れたものであるか,あるいは,予測することが困難な新規な効果である必要があるから,本件発明の有する効果と,公知技術を開示する甲1発明,甲2発明に加え,周知技術を開示する甲3発明~甲5発明の有する効果についても検討する。この場合,本件発明における有利な効果として認められるためには,当該効果が明細書に記載されているか,あるいは,当業者が,明細書の記載に当業者が技術常識を当てはめれば読み取ることができるものであることが必要である。なぜなら,特許発明は,従来技術を踏まえて解決すべき課題とその解決手段を明細書に記載し,これを一般に開示することにより,特許権としての排他的独占権を取得するものである以上,明細書に開示も示唆もされず一般に公開されないような新たな効果や異質な効果が後日に示され,仮に,従来技術に対して有利な効果であるとしても,これを斟酌すべきものではないからである。このような観点から,以下,検討を進める。

(1)
本件発明について
・・・
  以上のとおり,本件明細書には,モメタゾンフロエート水性懸濁液が,バイオアベイラビリティの点で経口溶液よりも優れていることは記載されているものの,水性懸濁液では鼻腔スプレーでの投与と経口投与との差はなく,また,溶液では鼻腔スプレーでの投与と経口投与との差は示されず,さらに,治療効果や副作用については,他の部位への投与や他の投与方法の記載はなく,他の部位への投与や他の投与方法と比して,どの程度優れているかについて,明示的な記載はない。
・・・

  以上によれば,甲1発明の効果として,次のことが記載されているといえる。
 
すなわち,モメタゾンフロエートが,皮膚に対して局所的抗炎症活性を有することを前提に,喘息及びアレルギー性鼻炎の経口吸入及び鼻腔内吸入の治療効果が見込まれることが記載されており,経口吸入のみならず,鼻腔内吸入の方法を用い,アレルギー性鼻炎に対し,プラセボと対比して,一定の抗炎症活性を有するという治療効果を読み取ることができるが,その治療効果の程度は不明である。
・・・

ア  
アレルギー性鼻炎に対する治療効果
 
上記のとおり,本件明細書には,本件発明に関し,水性懸濁液の投与とこれ以外の他の形態(例えば,溶液)で投与した場合との対比や,11回の鼻腔内投与とこの投与回数及び形態を変えた場合との対比はなされておらず,単にプラセボとの対比による効果の有無しか記載がない。そして,本件優先日当時の技術常識を踏まえると,水に難溶性の薬物の水性懸濁液は,他の溶媒を用いた溶液よりも,粘膜から吸収されにくいということはできるが,それだけでは,治療効果の具体的な違いは把握できないし,また,他の形態で投与した場合や異なる投与回数の場合の治療効果がどの程度であったかを読み取ることも,困難である。
 
他方,甲1発明及び甲2発明においても,アレルギー性鼻炎に対する一定の治療効果が期待されることは上記のとおりである。
 
そうすると,本件明細書の記載からは,甲1発明や甲2発明よりも,本件発明1が,治療効果の点で優れているかどうかを理解することは困難といわざるを得ない。

  全身的な吸収及び代謝
 
本件明細書には,本件発明に関し,経口溶液と比して,鼻腔スプレー懸濁液の方が,モメタゾンフロエートの全身的な吸収が低く,モメタゾンフロエート自体が血漿中で定量限界以下しか存在しないという効果があることが記載されているが,経口懸濁液と同程度の効果があることの記載しかない。そして,技術常識を踏まえても,他の形態で投与した場合(例えば,溶液の形態での鼻腔内投与)や異なる投与回数の場合の全身的な吸収及び代謝がどの程度であったかを推認することは困難である。
 
他方,甲1発明において,腹腔内投与及び経口投与後のモメタゾンフロエートの血漿中の量は高くなく,比較的短期間で消失することは理解できるが,鼻腔内投与の場合における全身的な吸収及び代謝の程度は全く不明といわざるを得ない。甲2発明は,水性懸濁液を鼻腔内に使用した発明であるが,本件優先日において,少なくとも,鼻腔内投与の場合にモメタゾンフロエートの全身的な吸収や代謝後の残存が常に高いという技術常識はない。
 
そうすると,本件明細書の記載からは,1発明や甲2発明よりも,本件発明1が,全身的な吸収及び代謝の点で優れているかどうかを理解することはできないといわざるを得ない

  全身性副作用
 
本件明細書には,本件発明に関し,プラセボとの対比において,HPA機能抑制に起因する全身性副作用がないことが記載されているだけで,他の形態(例えば,溶液)で投与した場合との対比や,投与回数を変えた場合との対比はなされていない。そして,当事者の技術常識を踏まえても,他の形態で投与した場合や異なる投与回数の場合の副作用がどの程度であったかを読み取ることは困難である。
 
他方,前記(2)及び(3)のとおり,甲1発明及び甲2発明において,モメタゾンフロエートは,経口吸入及び鼻腔内吸入をしても,実用可能な程度の副作用しかないといえるし,本件優先日において,少なくとも,モメタゾンフロエートの全身的な吸収が必ず高いという技術常識はない。
 
そうすると,本件明細書の記載からは,1発明や甲2発明よりも,本件発明が,全身性副作用の点で優れているかどうかを理解することはできないといわざるを得ない

  以上によれば,本件発明には,薬としての一定の治療効果を有し,実用可能な程度の副作用しかないことは認められるとしても,本件発明の当該効果が,甲1発明及び甲2発明の効果とは相違する効果であるということはできないし,また,本件明細書上,それらの効果とどの程度異なるのかを読み取ることができない以上,これをもって,当業者が引用発明から予測する範囲を超えた顕著な効果ということもできない。よって,この点に関する審決の判断には誤りがある。

  審決は,甲1及び甲2には,11回の投与の記載がなく,治療効果の程度についての記載もなく,本件発明の治療効果を予測できないと判断した。しかしながら,甲1発明及び甲2発明において,一定の治療効果が認められながらその程度についての記載がない以上,当該効果が本件発明の効果よりも明らかに劣るものと認められない限り,本件発明の効果が顕著なものであるとはいえないはずである。審決は,甲1及び甲2の治療効果の程度についての認定をせずに,本件発明の効果がこれを格別上回ると判断したものであって,論理的に誤りがあるといわざるを得ない

 
また,審決は,皮膚に適用した場合の全身性副作用について開示する甲1から,鼻腔粘膜に投与された際の全身性副作用の大きさを予測できないと判断したが,本件発明の効果と甲1発明の効果を同質であると認めた以上,甲1発明において,鼻腔粘膜に投与した際の全身性副作用の方が,皮膚に投与した際と比して常に優れたものといえない限り,本件発明の効果が顕著なものとはいえないはずであり,この点についても,審決に論理的な誤りがあるといわざるを得ない。

 
さらに,審決は,本件発明について,甲1発明で示された最小限の全身性副作用よりも低いレベルの全身性副作用しかないから,顕著な効果があると判断したが,この審決の判断には,前記(1)イのとおり,モメタゾンフロエートの全身性吸収及び代謝後の残存量の問題と全身性副作用の有無の問題を同一視した点において誤りがある。その上,皮膚へ投与する甲1発明と鼻腔に投与する本件発明において,投与される組織の相違による吸収性の違いがあるからといって,甲1発明の全身性副作用が実用化できない程度に強いとは当然にはいえないはずであり,この点について効果の顕著性を認めた審決の判断にも,論理的な誤りがある。しかも,水性懸濁液のモメタゾンフロエートの全身性吸収の低さ及び代謝後の残存量の少なさは,本件発明と同様,水性懸濁液の鼻腔内投与を行う甲2発明が有するはずであり,甲2発明の副作用の程度が開示されていないとはいえ,審決が,甲1発明と甲2発明を組み合わせて薬として実用化可能な本件発明の構成を想到できたとする以上,この組合せと比して本件発明の効果が顕著なものであるか否かについて検討する必要がある。しかしながら,審決では,甲1発明との対比しかなされておらず,検討が不十分であったといわざるを得ない
・・・

結語
 
以上のとおり,審決の顕著な効果の判断の誤りがある。
 
なお,当裁判所は,本件訴訟において,相違点に係る構成の容易想到性について,審理,判断するものではないところ,本件特許のような,十分な治療効果を有しながら副作用がわずか(又は生じない)とされる実用可能な「薬剤」の特許発明に関しては,その特許無効審判においても,治療効果の維持と副作用の減少(又は不発生)の両立という観点から審理,判断されることが望ましく,例えば,複数ある相違点のうち個々の相違点に限っては想到できるとしても,これらを総合した全体の構成が当該薬剤としての効果等を維持できるものであるか否かが重要であるから,本件審判手続においても,これらの点を念頭に置き,本件訴訟で主張,立証されたものを含め,相違点に係る構成について改めて慎重に審理,判断すべきものといえる。

結論
 
以上によれば,原告の請求は理由がある。
 
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。」


ということで維持審決取消し。
  



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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書は抗体関連、調査は無効資料調査が好きです。

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