■先発品が含有していない添加物である濃グリセリンを含有する後発品に対して、延長された製剤特許権の効力は及ばないと判断された事例


<判決紹介>

・平成27年(ワ)第12414号 特許権侵害差止請求事件
・平成28330日判決言渡
・東京地方裁判所民事第29部 嶋末和秀、鈴木千帆、笹本哲朗
・原告:デビオファーム・インターナショナル・エス・アー
・被告:東和薬品株式会社
・特許3547755


コメント:
新薬 vs ジェネリックの侵害訴訟。
東和薬品は
前回前々回に続き3連勝です。
今回はお待ちかねの延長された特許権の効力が判断されました。

ヤクルト社の先発品はエルプラット点滴静注液50,100,200mg(一般名:オキサリプラチン)。
東和薬品の後発品はオキサリプラチン点滴静注50,100,200mg「トーワ」。
(被告以外の会社も後発品を販売中。)

東和薬品の後発品は、先発品が含有していない濃グリセリン50,100,200mg)を含有しており、その場合でも延長された特許権の効力が及ぶかどうかが争点となりました。


本件特許のクレーム1は下記の通り。

「【請求項1
A
濃度が1ないし5mg/ml
B pH
4.5ないし6
C
オキサリプラティヌムの水溶液からなり,
D
医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,
E
該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,
F
腸管外経路投与用の
G
オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。」



当事者の主張は下記の通り。

「第3 争点に関する当事者の主張
・・・
2
争点2(被告各製品は本件各処分の対象となった物又はその均等物ない し実質的に同一と評価される物か)について
【原告の主張】
1) 被告各製品が本件各処分の対象となった物に当たることについて
ア 本件各処分は,オキサリプラチンを有効成分として承認申請がされ,その結果として得られた製造販売承認であるところ,被告各製品は,いずれもオキサリプラチンを唯一の有効成分としているから,本件各処分の対象となった物に当たる。
イ 被告各製品の「用途」が本件各処分の対象となった物の「用途」と同一のものとなっていることは,被告も認めているところであるから,本件各延長登録に係る本件特許権の効力は,被告各製品に及ぶ。
2) 被告各製品が少なくとも本件各延長登録の理由となった本件各処分の対象となった物の均等物に当たることについて
仮に,上記(1)アの主張が認められないとしても,被告各製品に含まれる濃グリセリンはあくまで添加物であるうえ,被告各製品は,本件各処分の対象となった物(エルプラット50,エルプラット100又はエルプラット200)と生物学的同等性を有することを前提に,本件各処分で用いられた臨床成績をそのまま利用して承認を得たものであるから,被告各製品は,少なくとも本件各処分の対象となった物の均等物に当たる。

【被告の主張】
1) 被告各製品が本件各処分の対象となった物に当たらないことについて被告各製品には濃グリセリンが含まれているところ,本件各処分の対象となった物(エルプラット50,エルプラット100又はエルプラット200)は,「成分」として「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないものとされている(甲111ないし113)。
したがって,被告各製品は,本件各処分の対象となった物とは,「成分」において異なる以上(なお,「成分」が薬効を発揮する成分〔有効成分〕に限定されるものではないことは,いうまでもない。),本件各処分の対象となった物に当たらないことは,明らかである。
2) 被告各製品が本件各処分の対象となった物の均等物や実質的に同一と評価される物にも当たらないことについて
そもそも,本件明細書の記載によれば,本件発明は,オキサリプラチンと水のみからなる製剤であることをその本質的部分とするというべきところ(甲2243行~33行〕参照),被告各製品は,濃グリセリンを含むのであるから,本件発明とは,その本質的部分において相違している。また,被告各製品が濃グリセリンを含むのは,注射用水にオキサリプラチンのみを溶解させた水溶液の場合,オキサリプラチンの分解により類縁物質や2量体が生成することがあることから,それらの分解を抑制するために,炭素数3個のポリオール(グリセリン)を添加することが有用であることを見出したことによる。被告は,それらの知見に基づいて特許出願をし,特許第5314790号を得た(乙4)。被告各製品は,同特許に係る発明の実施品であり,被告各製品が「成分」として濃グリセリンを含むのは,本件発明とは異なる目的のためである。被告各製品は,濃グリセリンを含むことにより,本件発明が有しない効果を奏するものであって,本件発明の均等物でないばかりか,本件各処分の対象となった物の均等物や実質的に同一と評価される物にも当たらない。」



裁判所の判断は下記の通り。

「第4 当裁判所の判断
本件事案に鑑み,争点2から判断する。
1
争点2(被告各製品は本件各処分の対象となった物又はその均等物ないし実質的に同一と評価される物か)について
1) 本件各処分の対象となった物について
ア 特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨
・・・
イ 特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力
・・・

もっとも,特許権者が研究開発に要した費用を回収することができるようにするとともに,研究開発のためのインセンティブを高めるという目的で,特許期間の延長を認めることとした特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨に鑑みると,侵害訴訟における対象物件が政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」の範囲をわずかでも外れれば,存続期間が延長された特許権の効力がもはや及ばないと解するべきではなく,当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」と相違する点がある対象物件であっても,当該対象物件についての製造販売等の準備が開始された時点(当該対象物件の製造販売等に政令処分が必要な場合は,当該政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点と解される。)において,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして,その相違が周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないと認められるなど,当該対象物件が当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」の均等物ないし実質的に同一と評価される物(以下「実質同一物」ということがある。)についての実施行為にまで及ぶと解するのが合理的であり,特許権の本来の存続期間の満了を待って特許発明を実施しようとしていた第三者は,そのことを予期すべきであるといえる。なお,上記のように解すると,政令処分を受けることによって禁止が解除される特許発明の実施の範囲よりも,存続期間が延長された特許権の効力が及ぶ特許発明の実施の範囲が広いことになるが,上述した意味での均等物や実質同一物についての実施行為の範囲にとどまる限り,第三者の利益が不当に害されることはないというべきである。

ウ 政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合について
・・・
したがって,医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)及び分量」によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当である。ただし,延長登録制度の立法趣旨に照らして,「当該用途に使用される物」の均等物や「当該用途に使用される物」の実質同一物が含まれることは,前示のとおりである(なお,平成26年知財高判は,「分量」については,「延長された特許権の効力を制限する要素となると解することはできない」旨判示しているが,その趣旨は,「分量」は,「成分」とともに,「物」を特定するための事項ではあるものの,「分量」のみが異なっている場合には,「用法,用量」などとあいまって,政令処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で均等物ないし実質同一物として,延長された特許権の効力が及ぶことが通常であることを注意的に述べたものと理解するのが相当と思われる。)。

エ 本件各処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」について
・・・
・・・エルプラット・・・いずれも「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないものとされている・・・。
そうすると,「物」に係るものとしての「分量」及び「用途」に係るものとしての「効能,効果,用法,用量」の点をひとまず措くとすれば,本件各処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」とは,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まない製剤(ただし,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがある。)であると認められる。

2) 被告各製品は本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」といえるかについて
前記前提事実,上記(1)エの認定事実,及び弁論の全趣旨によれば,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の「成分」は,いずれも「オキサリプラチン」と「注射用水」のみ(ただし,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがある。)であるのに対し,被告各製品の「成分」は,いずれも「オキサリプラチン」と「水」以外に,添加物として「濃グリセリン」を含むものであり,その使用目的は,「安定剤」であることが認められる(被告製品3における添加物(濃グリセリン)」の使用目的は,被告製品1及び同2と同じであると推認される。)。
そうすると,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」と被告各製品とは,その「成分」において異なるものというほかはない。したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」とはいえない
・・・

3)被告各製品は本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するといえるかについて
ア考え方
上記(2)のとおり,被告各製品が本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」とはいえないとしても,前記(1)イで説示したところによれば,被告各製品と本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」との相違が,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,本件発明の種類や対象に照らして,周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではない場合には,その「当該用途に使用される物」の均等物,あるいはその「当該用途に使用される物」の実質同一物と認めるのが相当である。

医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る特許発明において,「当該用途に使用される物」との均等物,あるいは「当該用途に使用される物」の実質同一物かどうかを判断するに当たっては,例えば,次のように考えることができる。当該特許発明が新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など,医薬品の有効成分(薬効を発揮する成分)のみを特徴的部分とする発明である場合には,延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で,有効成分以外の成分のみが異なるだけで,生物学的同等性が認められる物については,当該成分の相違は,当該特許発明との関係で,周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等に当たり,新たな効果を奏しないことが多いから,「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たるとみるべきときが少なくないと考えられる。他方,当該特許発明が製剤に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明である場合には,延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で,有効成分以外の成分が異なっていれば,生物学的同等性が認められる物であっても,当該成分の相違は,当該特許発明との関係で,単なる周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等に当たるといえず,新たな効果を奏することがあるから,「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たらないとみるべきときが一定程度存在するものと考えられる

イ 本件発明の種類及び対象
そこで,本件発明の種類や対象について検討するに,本件明細書には,従来技術,発明の目的及び課題の解決に関し,次の記載がある。
・・・
また,原告は,特許庁審査官から,平成15711日付け拒絶理由通知書(乙121)を受け,これに対し,本件意見書を提出したが,同意見書(2頁)には次の記載がある。
[2]本願発明の説明
本願発明の目的は,本願明細書(3)頁20行~(4)頁24行に記載のとおり,(1)オキサリプラティヌム水溶液を安定な製剤で得ること,かつ(2)該製剤のpH4.56であることであり,さらに(3)該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まないことである。・・・」

本件明細書及び本件意見書の上記記載に加え,前記前提事実,証拠(甲2,乙579121ないし12313)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関するものであって,医薬品の成分全体に関する発明であるところ,オキサリプラティヌム(オキサリプラチン)は,本件特許の優先日前の公知物質であって,これを有効成分として制癌剤に用いることも,同優先日前に公知であったことが認められるから,本件発明は,新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など,医薬品の有効成分のみを特徴的部分とする発明ではなく,製剤に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であると認められる。

  検討
上記のとおり,本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する発明であり,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であって,原告は,その実施として,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないとするエルプラット点滴静注液(製剤)について本件各処分を受けたものである。これに対し,前記前提事実,上記(1)エ及び(2)の各認定事実,証拠(乙4)並びに弁論の全趣旨によれば,被告各製品は,「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」のほか,有効成分以外の成分として,「オキサリプラチン」と等量の「濃グリセリン」を含有するもので,オキサリプラチンを水に溶解したもの(以下,「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」以外の成分の有無を問わず,「オキサリプラチン水溶液」という。)にグリセリンを加えたのは,オキサリプラチン水溶液の保存中に,オキサリプラチンの分解が徐々に進行し,類縁物質であるジアクオDACHプラチンやその二量体であるジアクオDACHプラチン二量体を主とした種々の不純物が生成するため,オキサリプラチンの自然分解自体を抑制するということを目的としたものであることが認められる。これを,本件発明との関係でみると,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,オキサリプラチン水溶液にオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを加えることが,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たると認めるに足りる証拠はなく,むしろ,オキサリプラチン水溶液に添加したグリセリンによりオキサリプラチンの自然分解を抑制するという点で新たな効果を奏しているとみることができる(なお,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」については,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがあることは,前示のとおりである。また,オキサリプラチン水溶液に添加されたシュウ酸がオキサリプラチンの自然分解を抑制することは知られているが,シュウ酸は人体に有害な物質である。)。

そうすると,被告各製品は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする本件発明との関係では,本件各処分の対象となった物とは有効成分以外の成分が異なる物であり,当該成分の相違は,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,本件発明との関係では,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たるとはいえず,新たな効果を奏するものというべきである。
したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するということはできない。

この点,原告は,被告各製品に含まれる「濃グリセリン」があくまで「添加物」であるとか,被告各製品は,本件各処分の対象となった物(エルプラット50,エルプラット100及びエルプラット200)と生物学的同等性を有することを前提に,本件各処分で用いられた臨床成績をそのまま利用して承認を得たものであるなどと主張する。しかし,被告各製品が,エルプラット点滴静注液と有効成分である「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有するとされており,「濃グリセリン」それ自体が「添加物」であるとしても,上記のとおり,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する本件発明が,医薬品の有効成分のみを特徴的部分とする発明ではなく,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であって,そのような本件発明との関係では,上述した有効成分以外の成分の相違は,単なる周知技術・慣用技術の付加等には当たらず,新たな効果を奏するものというべきであることからすれば,有効成分である「オキサリプラチン」が共通し,生物学的同等性を有するとされていることをもって,直ちに均等物ないし実質同一物と認めることはできないのであって,原告の上記主張は,採用することができない

4)小括
以上によれば,被告各製品は,本件各処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」ではなく,その均等物ないし実質同一物に該当するものということもできない。したがって,存続期間が延長された本件特許権の効力は,被告による被告各製品の生産等には及ばないものというべきである。

2
 結論
以上の次第で,本件各請求は,その余の争点につき検討するまでもなく,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。」



というわけで、東和薬品の後発品に対して延長された製剤特許権の効力は及ばないと判断され、請求棄却。 ☆☆☆☆


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Author: 徳重大輔

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