■オキサリプラチン特許侵害訴訟3。クレームの緩衝剤は添加したものに限られると判断された事例。


<判決紹介>
・平成28年(ワ)第15355号 特許権侵害に基づく損害賠償請求事件
・平成281031日判決言渡
・東京地方裁判所民事第29部 嶋末和秀、鈴木千帆、天野研司
・原告:株式会社ヤクルト本社、デビオファーム・インターナショナル・エス・アー
・被告:日本化薬株式会社
・特許4430229


■コメント
新薬 vs ジェネリックの侵害訴訟。
特許4430229の特許権又は専用実施権を有する原告が、被告のオキサリプラチン点滴静注液が特許権又は専用実施権の侵害に当たるとして損害賠償を求めた事案です。

先発品はエルプラット点滴静注液50mg等(一般名: オキサリプラチン)。
後発品(被告製品)はオキサリプラチン点滴静注液50mg「NK」等。
(被告以外の会社も後発品を販売中。)

本件特許のクレーム1は以下の通りで、緩衝剤としてのシュウ酸の含有量に特徴があります。

「【請求項1
1A
オキサリプラチン
1B
:有効安定化量の緩衝剤および
1C
:製薬上許容可能な担体を包含する
1D
:安定オキサリプラチン溶液組成物であって,
1E
:製薬上許容可能な担体が水であり,
1F
緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
1G
’:1)緩衝剤の量が,以下の:
   (a5x10 -5 M1x10 -2 M
   (b5x10 -5 M5x10 -3 M
   (c5x10 -5 M2x10 -3 M
   (d1x10 -4 M2x10 -3 M,または
   (e1x10-4M5x10-4M
   の範囲のモル濃度である,組成物。」



一方、被告製品は「シュウ酸」を外部から添加せずに作られています。 但し、オキサリプラチンは溶媒中で分解して解離シュウ酸を生じさせます(被告製品中の解離シュウ酸の濃度は、請求項1の範囲に含まれます)。

原告は、「解離シュウ酸」が請求項1の緩衝剤に含まれるので、被告製品は1F等を充足すると主張しました。

これに対して裁判所は、明細書の記載内容と、クレームの用語を考慮して、「緩衝剤」は外部から添加される物に限る(解離シュウ酸は含まれない)、被告製品は1F等を充足しないと判断しました。



同じように本件特許の緩衝剤の解釈が争点になった訴訟として以下があります。

・平成27年(ワ)第28849号特許権侵害差止請求事件(判決文リンク
  (原告:デビオ、被告:サンド、東京地裁民事第29部 嶋末和秀、鈴木千帆、天野研司)
・平成27年(ワ)第12416号特許権侵害差止請求事件(サイト内リンク
  (原告:デビオ、被告:日本化薬、東京地裁民事第46部 長谷川浩二 萩原孝基 中嶋邦人)

本判決(29部)と12416判決(46部)とでは裁判所が異なる判断をしています。12416判決では、緩衝剤は解離シュウ酸を含むと判断されました。本判決と28849判決とは同じ感じです。
「緩衝剤」の「剤」は普通は添加するものに使用される用語だと思いますし、それを積極的に覆す記載が明細書になさそうですので、今回の結果はしょうがないのかなぁという印象です。



裁判所の判断は以下の通り。

「第3 当裁判所の判断
1
争点1(被告各製品は本件発明1の技術的範囲に属するか)について」
1) 争点1-1(被告各製品は構成要件1B1F及び1Gを充足するか)について
・・・

(オ) 他の請求項及び実施例の記載
さらに,本件明細書の他の記載部分について検討する。
本件明細書の特許請求の範囲の請求項10ないし同14記載の発明は,いずれも,緩衝剤を溶液に添加(付加,混合)することによってオキサリプラチン溶液の安定化を図る方法に関する発明である。
また,本件明細書に実施例として記載されている実施例1ないし同17は,いずれもシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムを外部から添加しているところ…
…そうすると,本件明細書には,専ら,「緩衝剤」を外部から添加する実施例のみが開示されているというべきである。

(カ) 特許請求の範囲の文言
加えて,特許請求の範囲の文言の形式面をみると,請求項1は,「緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,」と規定しており,「シュウ酸」と「そのアルカリ金属塩」とを別の概念として区別していることが見てとれる。
ところで,緩衝剤として,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩を添加した場合,これらは溶液中で解離してシュウ酸イオンを生ずると考えられるから,仮に,請求項1の上記規定における「シュウ酸」がシュウ酸イオンを包含する概念であるとすれば,シュウ酸のアルカリ金属塩を添加した場合は,緩衝剤として,シュウ酸を使用したとも,シュウ酸のアルカリ金属塩を使用したともいい得ることになる。しかし,これでは,請求項1において,「シュウ酸」と「そのアルカリ金属塩」とが別の概念であることを前提として,「緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,」と規定した意味がなくなってしまう。そうすると,請求項1があえて「緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,」と規定したのは,「シュウ酸」又は「そのアルカリ金属塩」が緩衝剤として添加されることが前提とされているからとみるのが合理的である。このことに加え,一般に,「緩衝剤」という用語は,「緩衝液をつくるために用いられる試薬の総称。」を意味し(甲14),「剤」という用語は,「各種の薬を調合すること。また,その薬。」を意味するとされていること(乙27)をも併せ考えれば,請求項1の「緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,」との規定は,緩衝剤が「包含」されたオキサリプラチン溶液における,緩衝剤の由来(添加,すなわち外部から付加されたということ)を示すものと理解するのが相当というべきである。

(キ) まとめ
以上のとおり,本件明細書が,「オキサリプラチンの従来既知の水性組成物」を従来技術として開示し,これよりも,本件発明1の組成物は「生成される不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体が少ないことを意味する。」と記載していること,解離シュウ酸は,オキサリプラチンが溶液中で分解することにより,ジアクオDACHプラチンと対になって生成されるものであること,本件発明1の発明特定事項として構成要件1Gが限定する緩衝剤のモル濃度の範囲に関する具体的な技術的裏付けを伴う数値の例として,本件明細書は,添加されたシュウ酸又はシュウ酸ナトリウムの数値のみを記載し,解離シュウ酸のモル濃度を何ら記載していないこと,本件明細書には,専ら,「緩衝剤」を外部から添加する実施例のみが開示されていると解されること,請求項1は,「シュウ酸」と「そのアルカリ金属塩」とを区別して記載し,さらには「緩衝『剤』」という用語を用いていることなどをすべて整合的に説明しようとすれば,本件発明1における「緩衝剤」は,外部から添加されるものに限られるものと解釈せざるを得ない。
・・・

他方で,仮に,本件発明1を上記のように解することなく,原告らが主張するように,解離シュウ酸であってもジアクオDACHプラチン及びジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止し又は遅延させているとみなすというのであれば,本件発明1は,本件優先日時点において公知のオキサリプラチン溶液が生来的に有している性質(すなわち,オキサリプラチン溶液が可逆反応しており,シュウ酸イオンが平衡に関係している物質であるという,当業者には自明ともいうべき事象)を単に記述するとともに,当該溶液中の解離シュウ酸濃度として,ごく通常の値を含む範囲を特定したものにすぎず,新規性及び進歩性を見いだし難い発明というべきである。すなわち,本件優先日時点において,例えば,濃度が5mg/mLのオキサリプラチン水溶液が公知であった(乙11)。そして,当該水溶液中のオキサリプラチンが分解して解離シュウ酸が生成されることは,その生来的な性質であり(本件明細書の段落【0013】ないし同【0016】参照),シュウ酸が平衡に関係している物質であることも同様であるところ,種々の条件下である程度の期間保存された濃度5mg/mLのオキサリプラチン水溶液中には,解離シュウ酸が存在し,その量が,5x10-5M以上となることが多いことが,乙133試験,甲20試験(「5x10-5M」として,有効数字を1桁とする以上,「4.86x10-5M」又は「4.94x10-5M」も,「5x10-5M」とみて差し支えない〔乙12参照〕。),乙32試験及び乙37試験の各結果から,さらには,本件特許権に係る原告デビオファームの延長登録出願の願書(乙33)の記載から認められる(なお,上記認定は,上記各試験が乙11実施例の追試として妥当であるか否かはともかく,少なくとも,公知の組成物である濃度5mg/mLのオキサリプラチン水溶液において,解離シュウ酸のモル濃度が5x10-5M以上となることは,ごく通常のことであると認めるのが相当であることを指摘したものである。)。そうすると,公知の組成物であるオキサリプラチン水溶液中に存在し,同水溶液の平衡に関係している物質であるシュウ酸イオン(解離シュウ酸)に,「平衡に関係している」という理由で「緩衝剤」という名を付け,上記のとおり通常存在しうる程度のモル濃度を数値範囲として規定したにとどまる発明は,公知の組成物と実質的に同一の物にすぎない新規性を欠く発明か,少なくとも当業者にとって自明の事項を発明特定事項として加えたにすぎない進歩性を欠く発明というほかはない。
したがって,本件発明にいう「緩衝剤」には,オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸イオン(解離シュウ酸)は含まれないと解するのが相当である。
・・・

(イ)原告らは,本件明細書の段落【0022】に,「緩衝剤という用語は,本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する」(判決注:下線を付した。)と記載されているところ,…
原告らの主張は,要するに,本件明細書の段落【0022】の「あらゆる」との語に拘泥し,同段落に記載された「緩衝剤」の意義を極めて形式的に把握して繰り返し主張するにすぎず,既に上記において詳細に検討した本件明細書の他の記載部分や本件優先日当時の技術常識から把握できる本件発明1の技術的思想に目を瞑っているものであって,到底採用することはできない(なお,当然ではあるが,明細書で定義される用語の正確な意義を理解するために明細書の他の部分や技術常識を参酌し,その結果,明細書の定義による用語の意義を極めて形式的に把握した場合よりも発明の技術的範囲が狭く解されることとなったとしても,これが特許法701項及び2項に反するということはないし,特許法施行規則24,様式29の備考8の趣旨に反するというものでもない。)。
・・・

2)争点1の小括
以上に検討したところによれば,被告各製品は,構成要件1B1F及び1Gをいずれも充足しないから,構成要件1Dの充足性(争点1-2)を検討するまでもなく,被告各製品は,本件発明1の技術的範囲に属しない(なお,付言するに,本件訂正発明1の技術的範囲にも属しないことが明らかである。)。」



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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書は抗体関連、調査は無効資料調査が好きです。

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