■本願と先行文献の患者が重複しているから新規性なしとの判断が否定された事例


<判決紹介>
・平成27年(ケ)第10241号 審決取消請求事件
・平成281128日判決言渡
・知的財産高等裁判所第2部 清水節 中村恭 森岡礼子
・原告:旭化成ファーマ株式会社
・被告:特許庁長官
・特願2011-530844


■コメント
特願2011-530844の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟です。争点は、新規性・進歩性の有無です。
裁判所は、審決がした新規性欠如の判断には誤りがあるが、進歩性欠如の判断には誤りがないと判断しました(請求棄却)。

本願の請求項1は下記の通りです。

「【請求項1】
1回当たり200単位のPTH1-34又はその塩が週1回投与されることを特徴とする,PTH1-34)又はその塩を有効成分として含有する,骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とする,骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤;
1)年齢が65歳以上である
2)既存の骨折がある
3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」


審決は、本願と甲1の一致点、相違点、新規性(無し)について以下のように判断しました。

3 審決の理由の要旨
1) 引用発明の認定
1(オステオポロシス・インターナショナル(Osteoporosis International),199994p.296-306)には,次の発明(引用発明)が記載されていると認められる。
hPTH1-34)の200単位を毎週皮下注射する,hPTH1-34)を有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤であって,厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45から95歳の被検者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の患者に投与される,骨粗鬆症治療剤。」

2) 本願発明と引用発明との一致点及び相違点
ア 一致点
1回当たり200単位のPTH1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする,PTH1-34)又はその塩を有効成分として含有する,骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,特定の骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とする,骨粗鬆症治療ないし予防剤。」
イ 相違点
(ア) 相違点1
「特定の骨粗鬆症患者」が,引用発明では,「厚生労働省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45から95歳の被検者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の患者」であるのに対し,本願発明では「下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者
1)年齢が65歳以上である
2)既存の骨折がある
3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」である点。
(イ) 相違点2
「骨粗鬆症治療ないし予防剤」について,本願発明では,さらに,「骨折抑制のための」という事項が追加されている点。

3) 判断
ア 新規性について
本願発明と引用発明の間に相違点は見出せない
(ア) 相違点1について
 
引用発明の骨粗鬆症治療剤の投与対象となったH群の被検者の72人中に,本願発明にいう「下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者
1)年齢が65歳以上である
2)既存の骨折がある
3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。」が,少なからず存在する蓋然性が高い。
この点で,両者は重複しているとするのが相当である
(イ) 相違点2について
骨粗鬆症とは,「骨量が減少し,緻密である骨の構造が変化するため,骨が脆くなり骨折しやすくなった病態」で,「骨密度測定を行い,骨量減少の程度を把握する。治療後も定期的に測定し,効果を判定する」疾患として,本願優先日前から周知の疾患である。してみると,骨粗鬆症治療剤が,骨を強くし,骨折しにくくするための治療剤であることは,本願優先日当時,当業者にとって自明の事柄であったといえるし,引用発明の骨粗鬆症治療剤のように,骨密度の有意な増加が見られたとされる骨粗鬆症治療剤においてはなおのこと,骨折しにくくするための治療剤であることは,自明の事柄であったといえる。
してみれば,引用発明にいう「骨粗鬆症治療剤」と本願発明にいう「骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤」の間に,実質的な差異はない。また,引用発明の骨粗鬆症治療剤の投与対象となったH群の被検者では椎体骨折が発生しなかったのであるから,この点からも,両者の間に実質的な差異はない。」


さらに、原告の主張に対して、被告は以下のように反論しました。

2 取消事由2について
本願発明の「1回当たり200単位」で「週1回投与」という用法・用量は,甲1に記載されたH群の用法・用量そのものであり,本願発明において刷新されたものではない。
1に記載の患者が3条件充足患者として表現されていなくても,3条件充足患者に該当する患者がH群の患者の中に少しでも存在するといえれば,相違点1における本願発明の新規性は否定される。
そして,H群の被検者72人中ほぼ4349人の被験者が,3条件充足患者であるから,本願発明の新規性は否定される。
すなわち,H群の被験者72人中71人が3条件充足患者の条件(3)を満たす。H群の中で骨折を有する被験者は4349人であるが,その大半は,実際には65歳以上の高齢者である。なぜなら,高齢者ほど骨粗鬆症の病歴が長くなり,病歴が長くなれば,骨折する機会が増えるのは自明の理であるからであり,また,骨粗鬆症は,骨密度の低下と骨質の劣化により骨強度が低下する疾患であるところ,加齢や閉経に伴い骨密度は低下し,骨強度は,骨密度と骨質により規定されるため,そのどちらが低下しても骨強度は低下し,骨折リスクは高まるとされるものだからである。そうすると,結局,H群の被験者72人中ほぼ4349人の被験者が,3条件充足患者であると解するほかはない。
したがって,本願発明の患者と引用発明の患者は重複しており,相違しないというほかなく,審決における相違点1の判断に誤りはない。」


これに対して裁判所は、以下の通り、審決の新規性判断に誤りがあると判断しました。

3 取消事由2について
審決は,前記第232)イ(ア),同(3)ア(ア)のとおり,相違点1について,引用発明でいう「厚生労働省(裁判所注:厚生省の誤記と認める。)による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45から95歳の被検者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の患者」の中には,本願発明にいう「下記(1)~(3)の全ての条件」を満たす骨粗鬆症患者が少なからず存在する蓋然性が高い点で,両者は重複しているとするのが相当であるとし,本願発明と引用発明の間に相違点は見出せないと判断する。
しかしながら,前記の引用発明の患者,すなわち,甲1H群の患者中に,前記の本願発明にいう患者が少なからず存在する蓋然性があるとしても,前記21)認定の甲1の記載事項から,H群の患者中,前記の本願発明の患者とそれ以外の患者を識別し,前記の本願発明の患者のみを取り出して甲1200単位の投与の結果のみを読み取ることはできない。
確かに,前記の甲1H群の患者中に前記の本願発明にいう患者が全て含まれていれば,論理的には,甲1発明は,部分的には,本願発明と一致する(本願発明を全て含む。)ことになるが,前記のとおり,1に,前記の本願発明の患者を識別するに足りる記載がなく,前記の本願発明にいう患者のみを取り出して甲1200
単位の投与の結果のみを読み取ることができず,そのため,甲1のH群の患者中,前記の本願発明にいう患者のみの甲1200単位の投与の結果から,本願発明と同じ内容の発明の認定ができるか否かは,定かではない以上,相違点1において,甲1発明と本願発明とが同じ内容の発明である(本願発明が甲1発明に含まれる。)ということはできない。したがって,相違点1に係る新規性についての審決の判断には誤りがあり,原告が主張する取消事由2には理由がある。
ただし,審決は,本願発明の進歩性についても判断しており,本願発明が甲1発明に対して新規性を有していたとしても,進歩性を有していなければ,結局のところ,本願発明は特許を受けることができないという審決の結論に誤りはないことになるから,後記のとおり,進歩性判断を検討する。」


なお、以下の通り、裁判所は進歩性欠如の判断については誤りがないと判断しました。

取消事由5について
・・・以上によれば,本願発明は,骨粗鬆症患者のうち,より重篤な病態で,骨折のリスクがより増大している者を対象に,甲1と同じ用量・頻度で同じ薬剤を投与するものであり,その対象者の各条件が,それぞれ各条件を満たす者の群と満たさない者の群とにおける投与結果を比較して,投薬の有効性を分析した結果,定められた条件であるといえないのであって,結局,甲1発明に基づいて,甲1200単位投与の対象者を,本願発明の対象者とすることにつき,当業者の格別の創意を要したものとはいえない。」
・・・
3) まとめ
以上によれば,本願発明は,当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものといえるのであって,この点に係る審決の判断に誤りはない。

取消事由4について
1  効果の顕著性について
・・・この点,前記51)エのとおり,本願明細書(甲3)記載の実施例1及び2においては,いずれも前記(1)~(3)の全ての条件を満たす原発性骨粗鬆症患者の群と,前記各条件のいずれか又は全てを満たさない原発性骨粗鬆症患者の群とを投与対象とした場合の比較の結果は記載されていない。また,本願明細書のその余の記載中にも,前記結果は記載されていない。
・・・そうすると,甲1には,甲 1 200単位投与につき,骨折抑制効果があることを直接認めるに足りる記載がなく,本願明細書には,これを直接認め得る記載があるとしても,その効果が,前記(1)~(3)の全ての条件を満たす原発性骨粗鬆症患者に限って生じ,前記各条件のいずれか又は全てを満たさない原発性骨粗鬆症患者には生じないことを,本願明細書から読み取ることはできないのであって,本願明細書から,甲1発明に対する本願発明の奏する効果の顕著性を認めることはできない。
・・・
2  原告の主張について
・・・しかしながら,進歩性を検討するに当たり,効果の顕著性は,公知の引用発明とされた甲1発明との対比において検討されるべきことは,前記(1)アのとおりであって,プラセボ群との対比における効果を,進歩性を検討するに当たっての顕著な効果とみることはできない。
・・・

6 結論
・・・そすると,審決は,進歩性を否定した点において誤っておらず,取消事由2には理由があり,また,同3のうち相違点2に係る部分にも理由があるとしても,審決の「本件審判の請求は,成り立たない。」との結論に影響を及ぼすものではないから,原告の請求は棄却すべきものといえる。」



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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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