■用法用量特許の実施可能要件が明細書に記載のないコンピュータシミュレーションにより認められた審決例

 
<審決紹介>
・無効2016-800071
・審決日:201775
・合議体:審判長 特許庁審判官 福井美穂、審判官 大久保元浩、審判官 關政立
・請求人:セルトリオン・インコーポレイテッド
・参加人:ファイザー・ホールディングズ合同会社
・被請求人:ジェネンテック,インコーポレイテッド
・特許5818545
・発明の名称:抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ


■コメント
今回紹介するのは、ハーセプチンの用法用量をカバーする特許に対する無効審判です。
争点は、進歩性と実施可能要件です。

本件特許の請求項1は下記の通りです。主な特徴は青色の部分です。

「【請求項1】
iErbB2抗体huMab4D5-8を含有し、8mg/kgの初期投与量と6mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに3週間の間隔をおいて静脈投与することにより、HER2の過剰発現によって特徴付けられる乳癌を治療するための医薬組成物が入っている容器、及び(ii)前記容器に付随するパッケージ挿入物を具備するパッケージ。」

※以下、請求項1の投与方法を8/6/3投与と略します。


▼進歩性について
請求人のセルトリオン社は、無効理由を主張するに当たり、甲123を提出しました。
1WO99/31140)には、ハーセプチンを4mg/kg投与後、次週から毎週2mg/kgの条件で投与した結果、治療効果があったことが記載されています。
本件特許が8/6/3投与なのに対し、甲14/2/1投与です。
その他の甲文献に8/6/3投与の直接的な記載はないようです。

一方で、本件特許明細書には8/6/3投与の実験
データの記載はありません。未来形/現在形の記載はあります。4/2/1投与の実験データ(後述の表2及び図3含む)はあります。

これに対して、審判官は以下の判断をしました。

「 甲1-2発明では、MAb4D5-8を、4mg/kgの初期投与量と2mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに1週間の間隔をおいて投与する用法・用量、即ち4/2/1投与計画、が用いられるところ、当該4/2/1投与計画に代えて8/6/3投与計画を用いることについては、甲第1号証中には記載も示唆もされていない。また、抗体の投与量に関し、甲第1号証には、病気の種類及び重症度に応じ約1μg/kgないし15mg/kg(例えば0.1-20mg/kg)の抗体が一又は複数の別個の投与又は連続注入で最初に投与され得ることや、典型的な一日の投与量が約1μg/kgから100mg/kgあるいはそれ以上の範囲であることや、数日間又はそれ以上の繰り返し投与の場合、状態によっては病気の徴候の望ましい抑制が生じるまで処置を維持され得る旨の記載がみられるものの(1f)、かかる記載を含む甲第1号証の全体をみても、甲1-2発明の4/2/1投与計画に代えて、初期投与量/維持投与量/投与間隔の組合せ方において全く異なる8/6/3投与計画を採用することを具体的に想起させる記載を、甲第1号証中に見出すことはできない。

 また、甲第1号証は、甲1-2発明の4/2/1投与計画を現実に長期間、例えば本件特許明細書の実施例2及びその結果を示す図3において示される36週間程度、にわたり採用し実行することで、投与されたMAb4D5-8がヒト患者内で経時的にどのような血中動態変化を示すのか、について、例えば本件特許明細書の表2及び図3で挙げられているような具体的な血中動態プロファイル情報を示すものですらない。

 してみると、そのような現実のMAb4D5-8の経時的血中動態プロファイルデータを有さない、甲第1号証に記載された4/2/1投与計画に係る試験結果のみに基づいて、甲1-2発明のように投与間隔を1週間としなくとも、初期投与量を8mg/kg、維持投与量を6mgとすることで、より少ない投与頻度(投与間隔:3週間)でも、36週間程度の長期の投与期間にわたりMAb4D5-8の有効血中濃度が維持されて治療効果が持続的にもたらされ、かつ重篤な副作用も生じない、ということを推測することは、当業者といえども容易になし得なかったというほかはない。


(ii-2) また、以下のア~オに述べるとおり、甲第2~6号証のいずれを併せ参酌しても、MAb4D5-8を、甲1-2発明の4/2/1投与計画に代えて8/6/3投与計画を用いて投与すること、並びに、そのようにしても、4/2/1投与計画より投与頻度が少ないにもかかわらず投与期間にわたりMAb4D5-8の血中有効濃度が維持されて治療効果が持続的にもたらされ、かつ重篤な副作用は生じないであろう、ということを当業者が推測するに足る根拠となる記載乃至示唆を見出すことはできない。


2等に対する判断や、請求人の主張に対する判断も示されましたが、ここでは省略します。
結果、進歩性はあると判断されました


▼実施可能要件について
請求人のセルトリオン社は、8/6/3投与の薬理試験結果が明細書に記載されていないことに基づいて、実施可能要件違反の無効理由を主張しました。

これに対して、被請求人のジェネンテック社は、優先日前に決定されたハーセプチンの半減期が不正確であったこと、4/2/1投与の実験データ(表2及び図3)をもとにシミュレーションを行うことで8/6/3投与でも治療結果(目標トラフ濃度の維持)が得られることは当業者は理解できること、について反論しました。

請求人の主張に対して、審判官は以下の判断をしました。

「(i)主張1)、2)は、要するに、以下の<1>、<2:
1>特許明細書等には、8/6/3投与計画を実際に行った薬理試験結果が記載されていない[11-3)~1-4];
2>本件特許特許出願の前後にわたり、MAb4D5-8の半減期は5.8日~約1週間程度と考えられており(甲第14号証によれば、特許明細書等の図3と同じデータに基づいてでさえ6.0日程度とみられていた)、このような短い半減期と認識されていたMAb4D5-88/6/3投与計画という3週間の投与期間を採用した場合には(その半減期の短さ故に)治療期間にわたり目標トラフ濃度を維持し得るとは考えられなかった[11-1)~1-2)、22-1)~2-4];
という点に基づくものと解される。
 
ii)しかしながら、上の4-2-1.4-2-2.で既に検討したとおり、8/6/3投与計画を実際に行った薬理試験結果がなくとも、表2及び図3のデータに基づいて、MAb4D5-82-コンパートメントモデルにフィットする血中動態を示すこと、及び、そのことに基づいて8/6/3投与計画を実行した場合のMAb4D5-8の経時血中動態のシミュレーションを行うことで、治療期間にわたり目標トラフ濃度が維持できることは、当業者であれば理解し得たといえる。
 よって、8/6/3投与計画を実行した現実の薬理試験結果の提供がないからといって、本件発明について特許明細書の発明の詳細な説明がいわゆる実施可能要件を満たしていない、ということにはならないから、上の<1>に基づく請求人の主張はいずれも採用できない。
 
 また、請求人が引用する甲第2号証や甲第10111316号証における、半減期が1週間程度である旨の見解は、いずれも、治療期間が8週間程度の短期間に限った場合、或いは、MAb4D5-8の血中動態が1-コンパートメントモデルに従うものであることを前提とした推測の域を出るものではない。例えば、甲第15号証では、8週以降の32週までにわたるようなより長期の治療期間においてはもっと長時間の半減期が考えられ、この点1-コンパートメントモデルを前提とした場合には説明できないことも併せて示唆されているのである。
 これらの記載を併せみれば、本件特許出願の出願日までにおいて、MAb4D5-8の半減期が1週間程度であることは、被請求人を含め、当業者にとり技術常識として定着していたとはいえず、むしろ、被請求人が述べるとおり、本件特許出願時においては、MAb4D5-8のような抗体の「in vivo特性に関する知識は、特にその薬物動態及び薬力学特性に関して、時間の経過により変化し」、また、「抗ErbB2抗体huMab4D5-8の薬物動態を予測するための技術知識は十分でなかった」(答弁書第7/42頁第56行、910行)、とみるのが相当である。
 そして、この認識は、MAb4D5-8の薬物動態の詳細な解析のため、表2のピーク/トラフ血清濃度の経時変化データ、及び図336週という比較的長期の治療期間にわたるトラフ血清濃度の経時変化データをあわせ、周知の薬物動態モデル(1-コンパートメントモデル/2-コンパートメントモデル)へのフィッティング解析にかけたところ、MAb4D5-8の血中動態は1-コンパートメントモデルでなくむしろ2-コンパートメントモデルに良くフィットし、かかるフィッティング解析結果に基づいたシミュレーションを行えば、8/6/3投与計画を実行した場合でも上記長期の治療期間にわたり目標トラフ血清濃度は十分に維持されると推測できることが見い出された、という、上述の乙第9号証等に基づく被請求人の見解、並びにそれらを踏まえた上の4-2-1.4-2-2.の検討結果とも、何ら矛盾するものではない。
 したがって、上記<2>の点を踏まえた請求人の主張もまた、本件特許出願時の技術背景等を適切に把握した上でのものとはいえず、いずれも採用できない。」


ということで、実施可能要件を満たしていると判断されました

実験データが無くてもシミュレーションで推測
できればOKっていうのはすごい判断だなという印象です。しかも、明細書にシミュレーションで推測できるっていう記載はないようです。はたして知財高裁はこの判断を支持するのでしょうか。

・・・あとは、甲1等の実験データをもとにいろんな条件でシミュレーションして、8/6/3投与による治療効果が予測されるっていう結果を導いて進歩性を否定するっていうのはどうかなって思ったり。



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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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SK特許業務法人に勤務しています。明細書作成、特許調査、その他一通りやってます。明細書は抗体関連、調査は無効資料調査が好きです。

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