■拒絶理由を通知せずに拒絶審決をしたことが手続違背の違法と判断された事例

 
<判決紹介>
・平成28年(行ケ)第10218  審決取消請求事件
・平成30130日判決言渡
・知的財産高等裁判所第1 清水節 中島基至 岡田慎吾
・原告:イデラ ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
・被告:特許庁長官
・特願2008-535681
・発明の名称:トール様受容体に基づく免疫反応を調整する免疫調節ヌクレオチド(IRO)化合物


■コメント
拒絶審決の審決取消訴訟です。
本願の請求項1は以下の通り。


「【請求項1
免疫調節オリゴヌクレオチド(IRO)化合物であって,前記化合物が,構造:
5
-Nm-N3N2N1CGN1N2N3-Nm-3
式中:
CG
CpGCpG*またはCpG*から選択されるオリゴヌクレオチドモチーフであり,Cはシトシンヌクレオシドであり,C*は2-デオキシチミジン,1-2-デオキシ-β-D-リボフラノシル)-2-オキソ-7-デアザ-8-メチル-プリン,2-ジデオキシ-5-ハロシトシン,2-ジデオキシ-5-ニトロシトシン,アラビノシチジン,2-デオキシ-2-置換アラビノシチジン,2-O-置換アラビノシチジン,2-デオキシ-5-ヒドロキシシチジン,2-デオキシ-N4-アルキル-シチジンまたは2-デオキシ-4-チオウリジンから選択されるピリミジンヌクレオシド誘導体であり,Gはグアニンヌクレオシドであり,およびG*は2-デオキシ-7-デアザグアノシン,2-デオキシ-6-チオグアノシン,アラビノグアノシン,2-デオキシ-2’置換-アラビノグアノシン,2-O-置換-アラビノグアノシンまたは2-デオキシイノシンから選択されるプリンヌクレオシド誘導体であり;
N2N1
GA#またはGU#であり,ここでG#,A#およびU#はそれぞれ,2-OMe-グアノシン,アデノシンおよびウリジンであり;
N3
および/またはN1N3は,それぞれの出現において,独立して,i)ヌクレオシド,またはii2’アルキル化リボヌクレオシド,2’アルコキシ化リボヌクレオシド,2’アルキル化アラビノシドまたは2’アルコキシ化アラビノシドから選択されるヌクレオシド誘導体であり;
Nm
およびNmは,それぞれの出現において,独立して,ヌクレオチドであり;
ただし,化合物は3以上の連続したグアニンヌクレオチドを含有せず;
および,そこにおいてm030の数である,前記化合物。」(以下,上記構造を有する免疫調節オリゴヌクレオチド(IRO)化合物を「本願IRO化合物」といい,本願IRO化合物の構造である「5-Nm-N3N2N1CGN1N2N3-Nm-3’」のうち「N2N1CG」部分を「N2N1CGモチーフ」という。)」


裁判所の判断は以下の通り。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
5当裁判所の判断
・・・
(3)
取消事由1(手続違背
・・・
  前記イ()aによれば,本件拒絶理由通知は,TLR9に対してアンタゴニスト作用を有する12種類化合物のみの問題を検討するにとどまり,TLR7及び8に対してアンタゴニスト作用を有するIRO5に固有の問題を検討した上で拒絶理由を通知するものではないから,実質的にはTLR7及び8に対する拒絶理由を示すものではないことが認められる。のみならず,TLR7及び8については,本件反転作用を裏付ける実施例はない上,そもそも認識するアゴニストの対象が,TLR9とは異なり,一本鎖RNAウイルスであると認められるのであるから,TLR7及び8の拒絶理由には,TLR9の拒絶理由とは異なる固有の理由が存在することは明らかであるにもかかわらず,本件拒絶理由通知は,これを通知していないことが認められる。
そして,前記イ()によれば,原告は,本件拒絶理由を受けて,その理由を解消するために,TLR1ないし6に係る発明部分を削除しているのであり,このような経緯に鑑みると,原告は,TLR7及び8についても拒絶理由を実質的に通知されていた場合には,TLR7及び8に係る発明部分についても,TLR1ないし6に係る発明部分と併せて補正によって削除した可能性が高いものと認められる。
のみならず,前記イ()bによれば,請求項8,13,16及び17に係る各発明に対する本件拒絶理由通知は,文言上,少なくとも,TLR7ないし9については,アンタゴニスト作用及びその治療効果を有することが確認されたことをいうものと理解するのが自然であるから,このような記載に接した原告が,少なくともTLR7ないし9については,アンタゴニスト作用を有することが確認されたため,実施可能要件及びサポート要件違反はないものと理解したのもやむを得ないところである。現に,原告は,前記イ()によれば,本件拒絶理由通知を踏まえ,請求項9及び14においては,TLR1ないし6を削除して,TLR7ないし9に限定する補正をしている事実が認められるのであるから,このような事実からも,上記の原告の理解が十分に裏付けられるといえる。そうすると,TLR7ないし9についてもアンタゴニスト作用を有するものであるとすることはできないとして,本願発明が実施可能要件及びサポート要件に適合しないとした審決の判断は,実質的にみれば,上記の経過に照らし,原告にとっては,不意打ちというほかなく,不当であるというほかない。

これらの事情の下においては,本件拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定の理由とは異なる拒絶理由について,TLR9に係る発明に対してはこれを通知したものの,TLR7及び8に係る各発明に対しては実質的にこれを通知しなかったため,原告が補正により特許要件を欠くTLR7及び8に係る各発明を削除する可能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充足するTLR9に係る発明についてまで本件拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れる機会を失ったものと認められる。
したがって,審決には,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手続違背の違法があるというべきであり,当該手続違背の違法は,審決の結論に影響を及ぼすというべきであるから,取消事由1は,理由があるものと認められる。

  これに対し,被告は,前記イ()aのとおり,サポート要件違反と実施可能要件違反をいう請求項1に係る本件拒絶理由は,旧請求項3及び4,7なしい17についても存在する旨通知されているのであるから,審決が本件拒絶理由とは異なる新たな拒絶理由に基づき実施可能要件及びサポート要件に適合しないと判断したとする原告の主張は,前提を欠くものであるなどと主張する。
しかしながら,上記ウで説示したとおり,本件拒絶査定不服審判において,本件拒絶理由通知では,TLR9に関する拒絶理由のみを通知し,実質的にはTLR7及び8に関する拒絶理由を通知しなかったため,原告はTLR7及び8に係る各発明を削除するなどの補正をする機会を失うことになり,実施可能要件及びサポート要件をいずれも充足するTLR9に係る発明まで最終的に特許を受けることができないことになったものと認められる。このような結果は,原告にとって,不意打ちとなるため,原告に過酷というほかなく,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の趣旨に照らし,相当ではないというべきである。
かえって,被告は,本件訴訟に至っては,そもそもTLR7及び8が認識するものと,TLR9が認識するものが異なるという技術常識に基づけば,TLR9に対して本願IRO化合物がアンタゴニスト作用を奏するとする原告の作用機序の説明が,TLR7及び8には妥当し得ないことは明らかであるなどとして,現にTLR7及び8に固有の拒絶理由を具体的に主張しているのであるから(準備書面(第1回)13頁),実質的にみても,上記のように,本件拒絶査定不服審判においてTLR7及び8に固有の拒絶理由を通知することが,審判合議体にとって困難なものであったとは認められない。
したがって,被告の主張は,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の意義を正解しないものに帰し,採用することができない。

なお付言するに,本願IRO化合物が治療効果を有するかどうかの点につき,本件拒絶理由では,TLR7ないし9によって媒介される疾患以外の疾患については治療効果を示すことが確認できないとしているところ,原告は,本件拒絶査定不服審判においては,TLR7ないし9によって媒介される疾患については治療効果を示すことが確認されたものと理解した上,本件拒絶理由を踏まえてTLR1ないし6を削除する補正をし,さらに,その後の意見書において,この点に係る拒絶理由が解消されたとまで述べているのであるから,審決においてTLR7ないし9によって媒介される疾患についても治療的に処置することができるといえる根拠がない
と判断するのであれば,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の法意に照らすと,本件拒絶査定不服審判において,この点についても改めて拒絶理由を通知することが相当であったものと認められる。
 
第6  結論
以上によれば,取消事由2及び3は理由がないが,取消事由1は理由があるから,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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