■数値限定を含むクレームのサポート要件(数値範囲の効果)と、明確性要件(条件)が判断された事例

 
<判決紹介>
・平成29年(行ケ)第10178号 審決取消請求事件
・平成30627日判決言渡
・知的財産高等裁判所第4 大鷹一郎 古河謙一 関根澄子
・原告:トライスター テクノロジーズ
・被告:エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
・特許5339723
・発明の名称:経口投与用組成物のマーキング方法


■コメント
無効審判の特許維持審決の取消訴訟です。
本件特許の請求項1は以下のとおりです。

「【請求項1
経口投与用組成物へのマーキング方法であって,
変色誘起酸化物を経口投与用組成物に分散させる工程と,
前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように,波長が200nm1100nmであり,平均出力が0.1W50Wであるレーザー光を,前記経口投与用組成物の表面に走査させる工程と,
を含み,
前記変色誘起酸化物が,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種であり,
前記走査工程が,80mm/sec8000mm/secで実行される,
マーキング方法。」


争点は、進歩性、サポート要件、明確性要件です。


▼進歩性について
本件発明1と甲1発明の一致点・相違点は以下のとおりです。

「(一致点)
「経口投与用組成物へのマーキング方法であって,
レーザー光の走査により変色する物質を経口投与用組成物に分散させる工程と,
レーザー光の走査により変色する物質を変色させるように,平均出力が0.1W50Wであるレーザー光を,前記経口投与用組成物の表面に走査させる工程と,
を含み,
前記走査工程が,80mm/sec8000mm/secで実行される,マーキング方法。」である点。

(相違点1
前記レーザー光の走査による変色の機序について,本件発明1は,「酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種」である「変色誘起酸化物」の「粒子を凝集させて」変色させるものであるのに対し,甲1発明アは,「官能基と金属化合物または酸とを含有し,レーザの放射により脱離反応を起こす」ことで対比可能な色の,生理的に受容可能である反応物を生成するものである点。
(相違点2
レーザー光の波長について,本件発明1は,「200nm1100nm」と特定するのに対し,甲1発明アは,そのような特定事項を有しない点。」


裁判所は、相違点1に基づき進歩性があると判断し、相違点2については判断しませんでした。


▼サポート要件について
原告は、明細書の発明の詳細な説明に、請求項1の波長(200nm1100nm),平均出力(0.1W50W)及び走査工程の走査速度(80mm/sec8000mm/sec)の全ての数値範囲において「前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させる」という所定の効果を奏することについての記載がないことを主張しましたが、裁判所は必要ないと判断しました。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
1  サポート要件の適合性について
  本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1に関し,「医薬品や食品のような経口投与用組成物等の品質を損なわずに優れた識別性を有する経口投与用組成物を得ることができ,かつ,生産性にも優れたマーキング方法を開発するという課題」を解決するための手段として,「本発明」は,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面に,所定のレーザー光を走査することにより,変色誘起酸化物を凝集させることに起因した変色が生じるようにした構成を採用したことの記載があることは,前記11)イ認定のとおりである。

 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,①実施例1ないし16において,表1のレーザー装置及び照射条件(波長355nm,平均出力8W),表3のレーザー装置及び照射条件(波長266nm,平均出力3W)又は表4のレーザー装置及び照射条件(波長532nm,平均出力12W)で,酸化チタン,黄色三二酸化鉄又は三二酸化鉄錠剤を配合した,フィルムコート錠等に対し,文字又は中心線をマーキングしたこと(【0038】~【0056,1,3及び表4),②表1のレーザー装置及び照射条件かつ走査速度1000mm/secで,実施例13のフィルム錠にレーザー照射を行い,レーザー照射前後の二酸化チタンの粒子の状態を透過型電子顕微鏡(TEM)により観測した結果,レーザー照射後に二酸化チタンの粒子が凝集していることが確認されたこと(【0057】~【0059】,図3,図4),③レーザー波長に関し,レーザーは,その波長が2001100nmを有するものを用いることができ,好ましくは10601064nm527532nm351355nm263266nm又は210~216nmの波長であり,より好ましくは527~532nm,351355nm又は263266nmの波長であること(【0022】),④レーザー出力に関し,レーザーを走査する際の平均出力は,対象とする経口投与用組成物の表面がほとんど食刻されない範囲で使用することができ,例えば,その平均出力は,0.1W50Wであり,好ましくは1W35Wであり,より好ましくは5W25Wであるが,単位時間あたりのレーザー照射エネルギーが強すぎると,アブレーションにより錠剤表面で食刻が発生し,変色部分まで剥がれてしまい,また,出力が弱いと変色が十分ではないこと(【0023】),⑤レーザーの走査速度(スキャニング速度)に関し,スキャニング速度は,特に限定されるものではないが,20mm/sec20000mm/secであり,また,スキャニング速度は,高いほどマークの識別性に影響を与えることなく生産性を上げることができることから,例えば,レーザー出力5Wでは,スキャニング速度は,80mm/sec10000mm/sec,好ましくは90mm/sec10000mm/sec,より好ましくは100mm/sec10000mm/secであり,レーザー出力が8Wの場合には,スキャニング速度は,250mm/sec20000mm/sec,好ましくは500mm/sec15000mm/sec,より好ましくは1000mm/sec10000mm/secであること(【0024】),⑥単位面積当たりのエネルギーに関し,単位面積当たりのレーザーのエネルギーは,マーキングの可否及び経口投与用組成物の食刻の有無の観点から,39021000mJ/cm2であり,好ましくは40020000mJ/cm2,より好ましくは45018000mJ/cm2であり,また,390mJ/cm2より低い場合には,マークを施すことができないのに対し,21000mJ/cm2より大きい場合には,食刻が生じるため,好ましくないこと(【0025】)の記載がある。

 
上記①ないし⑥の記載を総合すると,本件明細書に接した当業者は,請求項1記載の波長(200nm1100nm),平均出力(0.1W50W)及び走査工程の走査速度(80mm/sec~8000mm/sec)の各数値範囲内で,波長,平均出力及び走査速度を適宜設定したレーザー光で,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面を走査することにより,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させてマーキングを行い,「医薬品や食品のような経口投与用組成物等の品質を損なわずに優れた識別性を有する経口投与用組成物を得ることができ,かつ,生産性にも優れたマーキング方法を開発する」という本件発明1の課題を解決できることを認識できるものと認められる。

 
したがって,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえるから,請求項1の記載は,サポート要件に適合するものと認められる。同様に,請求項2ないし22の記載も,サポート要件に適合するものと認められる。

2  原告の主張について
 
原告は,①本件明細書の発明の詳細な説明には,請求項1及び11記載の波長(200nm1100nm),平均出力(0.1W50W)及び走査工程の走査速度(80mm/sec8000mm/sec)の全ての数値範囲において「前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させる」という所定の効果を奏することについての記載がないし,また,甲10(日本酸化チタン工業会作成の講演資料のウェブページ)の9頁には,180nm270nm700nm1000nmの「サブミクロンサイズ酸化チタン=顔料級酸化チタン」の写真について,「上記の写真は,TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて撮影したものであり,実際の粒子の凝集状態を示すものではない。」との記載があることに照らすと,TEM写真から酸化チタンが凝集しているかどうかを判別することができないのが技術常識であることがうかがえるから,実際に「凝集」しているかどうか,本件明細書の記載からは不明である,②請求項2及び12は,発明特定事項として請求項1及び11をそれぞれ引用しているところ,本件明細書には,「単位面積当たりのエネルギー」が「390~21000mJ/cm2」の数値範囲で「凝集」を生じたことについての実施例の裏付けがないため,上記数値範囲で「前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように」(請求項1及び11の構成)マーキングができたか不明であるなどとして,本件発明1ないし22は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものといえないから,請求項1ないし22の記載がサポート要件に違反するものではないとした本件審決の判断には誤りがある旨主張する。

しかしながら,上記①の点については,前記(1)イの①ないし⑥の本件明細書の発明の詳細な説明の記載を総合すると,本件発明1においては,請求項1記載の波長(200nm1100nm),平均出力(0.1W50W)及び走査工程の走査速度(80mm/sec8000mm/sec)の各上限値及び各下限値に臨界的意義があるのではなく,本件発明1は,上記の各数値範囲内で波長,平均出力及び走査速度を適宜設定したレーザー光で,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面を走査することにより,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させてマーキングを行うことを課題の解決原理とする発明であるものと認められるから,原告が主張するような全ての数値範囲において「前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させる」という所定の効果を奏することについての記載が必要とされるものではない。また,表1のレーザー装置及び照射条件かつ走査速度1000mm/secで,レーザー照射前後の酸化チタンの粒子の状態を透過型電子顕微鏡(TEM)により観測した結果,レーザー照射後に酸化チタンの粒子が凝集していることが確認されたことの記載があることは,前記(1)イの②のとおりである。さらに,原告が指摘する甲109頁に記載された酸化チタンの写真は,どのような状態の酸化チタンを撮影したものであるかなど撮影の対象物の詳細が特定されていないことに照らすと,酸化チタンの粒子の凝集状態をTEM写真で確認できないことの根拠にはなるものではないし,甲109頁の「実際の粒子の凝集状態を示すものではない」との記載は,単に写真の内容を説明しているものであり,TEMを用いて撮影された写真では酸化チタンの凝集を判断できないことを説明したものとはいえない。加えて,甲3には,「TiO2顔料」に関し,「このような凝集物は裸眼で見ることができず,溶融加工組成物の断面を高光学倍率で観察すると,そのいくつかは観察可能であるが,大部分は,電子顕微鏡の倍率下でのみ検出可能である。」(訳文53行~5行)との記載があり,高光学倍率の電子顕微鏡であれば凝集の観察ができることが示されていること(前記13)イ(ウ))),実施例11においては,TEMを用いて「TiO2の凝集」を確認したことの記載があること(前記13)イ(カ))に鑑みると,TEM写真から酸化チタンが凝集しているかどうかを判別することができないことが技術常識であるということはできない。

 
次に,上記②の点については,前記(1)イの⑥の本件明細書の発明の詳細な説明の記載(【0025】)に照らすと,「単位面積当たりのエネルギー」が「39021000mJ/cm2」の数値範囲でマーキングを実行することにより,変色誘起酸化物を凝集させることに起因した変色を生じさせることができることを理解することができる。
 
したがって,原告の上記主張(取消事由2)は理由がない。
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▼明確性要件について
原告は、レーザー光の走査工程の「条件が任意」だと発明の外縁を定義できないため不明確と主張しましたが、裁判所は認めませんでした。(理由は十分に説明されていない印象です。)


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
取消事由3(明確性要件の判断の誤り)について
1  明確性要件の適合性について
 
請求項1の記載から,本件発明1は,経口投与用組成物へのマーキング方法の発明であって,当該マーキング方法は,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種である変色誘起酸化物を経口投与用組成物に分散させる分散工程と,波長200nm1100nm,平均出力0.1W50Wの各数値範囲内のレーザー光を,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように,経口投与用組成物の表面に走査させる走査工程とを含み,当該走査工程が80mm/sec8000mm/secで実行される内容のものであることを明確に理解することができる。また,請求項11の記載から,本件発明11は,マークを施された経口投与用組成物の製造方法の発明であって,当該製造方法は,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種である変色誘起酸化物を経口投与用組成物に分散させる分散工程と,波長200nm1100nm,平均出力0.1W50Wの各数値範囲内のレーザー光を,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように,経口投与用組成物の表面に走査させる走査工程とを含み,当該走査工程が80mm/sec8000mm/secで実行される内容のものであることを明確に理解することができる。
 
一方,本件明細書の発明の詳細な説明には,「変色誘起酸化物」の用語について,「本発明に用いる用語「変色誘起酸化物」とは,レーザー光の照射を受けて,その粒子が凝集するため,変色を誘起する酸化物をいう」(【0015】)との記載があるところ,この「変色誘起酸化物」の用語の説明は,本件発明1及び11における「変色誘起酸化物」の内容と整合するものといえる。
 
したがって,請求項1及び11の記載は,明確性要件に適合するものと認められる。同様に,請求項1を直接又は間接的に引用し,本件発明1の発明特定事項を含む請求項2ないし10の記載,及び請求項11を直接又は間接的に引用し,本件発明11の発明特定事項を含む請求項12ないし22の記載から,本件発明2ないし1012ないし22の内容を明確に把握することができるから,請求項2ないし1012ないし22の記載は,明確性要件に適合するものと認められる。

2  原告の主張について
 
原告は,本件審決は,本件発明1及び11(請求項1及び11)は,レーザー光の走査工程におけるエネルギー密度,レーザー光の繰り返し率,レーザースポット径,経口投与用組成物の種類,変色誘起酸化物の分散の濃度及び状態などの条件はマーキングする際の任意の条件であって,これらを特定しないことで発明が不明確になるというものではないから,請求項1ないし22の記載は,明確性要件に違反するものではない旨判断したが,上記条件を「マーキングする際の任意の条件」とすれば,変色誘起酸化物が受けるエネルギー量を特定することができず,その結果,請求項1記載の波長,平均出力及び走査工程の走査速度の数値範囲においても,「前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色」する場合としない場合が生じることとなり,本件発明1の外縁を定義することができないから,本件審決の上記判断は誤りである旨主張する。
 
しかしながら,請求項1ないし22の記載から本件発明1ないし22の内容を明確に把握することができることは,前記(1)認定のとおりであり,本件審決が指摘する上記条件が,「マーキングする際の任意の条件」として位置づけられ,発明特定事項として規定されていないからといって,発明の外縁が不明確になるものとは認められないから,原告の上記主張(取消事由3)は理由がない。

結論
 
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
 
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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