■クレームの用途を狭く解釈することにより、甲文献に対して新規性ありと判断した事例

 
<判決紹介>
・平成29(行ケ)10114  審決取消請求事件
・平成30718日判決言渡
・知的財産高等裁判所第4 大鷹一郎 古河謙一 関根澄子
・原告:日新製薬株式会社、日本ケミファ株式会社
・被告:オリオン コーポレーション、ホスピーラ インコーポレーテッド
・特許4606581
・発明の名称:ICU鎮静のためのデクスメデトミジンの用途


■コメント
無効審判の特許維持審決に対する審決取消訴訟です。
本件特許の請求項1は以下の通り。

「【請求項1
 
集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用であって,該患者が覚醒され,見当識が保たれる使用。」


関連する医薬品としては、プレセデックス静注液(デクスメデトミジン塩酸塩)が、ファイザー、丸石製薬からα2作動性鎮静剤として販売されています。後発品はありません。
効能又は効果は、「集中治療における人工呼吸中及び離脱後の鎮静」、「局所麻酔下における非挿管での手術及び処置時の鎮静」です。


争点は、新規性(甲3又は5)、進歩性(甲3又は5、周知技術)、原文新規事項、明確性要件です。


▼甲3に基づく新規性について
裁判所は、請求項1の「鎮静」について、集中治療を受けている重篤患者の実際の鎮静に加えて、(呼吸、循環、代謝その他の全身管理が集中的に行われる)集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在、理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静を意味するものであり、この両方の鎮静が必要であると認定しました。
その上で、甲3にはその両方の鎮痛の用途の記載が無いとして、原告の新規性欠如の主張を認めることはできないと判断しました。
判決の抜粋は以下の通りです。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
当裁判所の判断
取消事由1(甲3に基づく新規性判断の誤り)について
・・・

  前記アの記載事項によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1の従来技術,課題,内容,効果等に関し,次のような開示があることが認められる。
(ア)危機的な病状の段階から回復する患者(重篤患者)のICU滞在中における最も共通した不快な記憶は,「不安,苦痛,疲労,衰弱,乾き,様々なカテーテルの存在,および理学療法などの少数派の処置」であり,ICU鎮静のねらいは,「患者が,興奮することなく,快適であり,くつろいでいて,また静脈ライン(ivline)またはほかのカテーテルの設置といったような不快感を与える処置に耐えることを保証すること」であり(【0002】),鎮静は,「苦痛および不安などの患者の安心感に影響を及ぼす状態の処置」をも含んでいる(【0003】)。
・・・
(イ)「本出願人」は,α2-アゴニストであるデクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩が,患者を安心させるためにICUにおいて患者に投与するのに理想的な鎮静剤であり,特に患者を鎮静させるためにICUにおいて患者に投与される本質的に唯一の活性薬剤または唯一の活性薬剤であり得ることを発見し(【0024】),「本発明」をした。
デクスメデトミジンの投与によって達成されるICUにおける鎮静の性質は,独特なものであり,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩によって鎮静化された患者は,治療が容易にできるよう覚醒され,見当識が保たれており,患者は呼び覚まされ,質問に応答することができ,気づいているけれども,不安そうではなく,気管チューブをよく許容している(【0027】)。

2)本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」の意義についてアまず,本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」の用語の意義を規定した記載はない。
次に,本件明細書を参酌すると,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」の用語の意義を規定した記載はないが,①「ICU状況における鎮静」の用語は,ICU(集中治療室)における「患者の実際の鎮静」に加えて,「苦痛および不安などの患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療も含む」こと(【0001】),②危機的な病状の段階から回復する患者(重篤患者)のICU滞在中における最も共通した不快な記憶は,「不安,苦痛,疲労,衰弱,乾き,様々なカテーテルの存在,および理学療法などの少数派の処置」であり,ICU鎮静のねらいは,「患者が,興奮することなく,快適であり,くつろいでいて,また静脈ライン(ivline)またはほかのカテーテルの設置といったような不快感を与える処置に耐えることを保証すること」であり(【0002】),集中治療を受けている重篤患者の鎮静は,「苦痛および不安などの患者の安心感に影響を及ぼす状態の処置」をも含んでいること(【0003】),③α2-アゴニストであるデクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩が,「患者を安心させるためにICUにおいて患者に投与するのに理想的な鎮静剤」であること(【0024】),ICUにおける鎮静の性質は,独特なものであり,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩によって鎮静化された患者は,治療が容易にできるよう覚醒され,見当識が保たれており,患者は呼び覚まされ,質問に応答することができ,気づいているけれども,「不安そうではなく,気管チューブをよく許容している」こと(【0027】),⑤実施例はデクスメデトミジンが,「鎮静化と患者の快適化の独自の性質を提供するので,ICUにおいて患者を鎮静化するための理想的な薬剤であることを示す」こと(【0035】),⑥「集中治療室」の用語は,「集中治療を提供するようないかなる環境をも包含する」こと(【0026】)の記載がある。上記⑥に関連し,一般に,「ICU」とは,「内科系・外科系を問わず,呼吸・循環・代謝・その他の全身管理を集中的に行うことにより,治療効果を期待し得る急性重症患者を収容する部門」を意味する(甲48)。

そして,請求項1の文言及び本件明細書の上記記載事項等を総合すると,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」は,集中治療を受けている重篤患者の実際の鎮静に加えて,(呼吸,循環,代謝その他の全身管理が集中的に行われる)集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在,理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静を意味するものであり,この両方の鎮静が必要であるものと認められる。
本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」の用語に関する本件審決の認定は,これと同旨をいうものと認められるから,誤りはない。

 これに対し原告らは,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」にいう「鎮静」は,通常の医学用語としての鎮静(「意識のぼんやりとした状態であるが,適当に人の命令に答えたりできる状態」。甲75)のほか,「α2アゴニストとしての活性に導かれるすべての可能性のある用途」(【0018】,【0025】)を含む,鎮痛,不安緩解(抗不安),交換神経遮断作用まで幅広く含むα2アゴニストとしての全ての作用を対象とした用語であり,α2アゴニストの作用と同義であるから,集中治療を受けている患者にデクスメデトミジンを投与することによりα2アゴニストのいずれかの作用(例えば,鎮痛)をもたらせば,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」に該当すると解釈すべきである旨主張する。

しかしながら,原告らが根拠として挙げる本件明細書の段落(【0018】,【0025】)の記載は,「ICUにおいて患者を鎮静させる方法は,そのα2-アゴニストとしての活性に導かれるすべての可能性のある用途を含むデクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の可能性のあるICU用途,たとえば,低血圧剤,抗不安薬,鎮痛薬,鎮静薬などとしての用途はすべて包含する。」というものであって,「ICUにおいて患者を鎮静させる方法」が「デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩」を使用することにあること,「デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩」の可能性のあるICU用途には,「α2-アゴニストとしての活性に導かれるすべての可能性のある用途,例えば,低血圧剤,抗不安薬,鎮痛薬,鎮静薬などとしての用途はすべて包含する」ことを述べたものにすぎず,上記記載から,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」にいう「鎮静」が,α2アゴニストの作用と同義であると解釈することはもとより,集中治療を受けている患者にデクスメデトミジンを投与することによりα2アゴニストのいずれかの作用(例えば,鎮痛)をもたらせば,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」に該当すると解釈することもできない。

また,集中治療を受けている患者にデクスメデトミジンを投与することによりα2アゴニストのいずれかの作用(例えば,鎮痛)をもたらせば,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」に該当すると解釈することは,ICU滞在中における最も共通した不快な記憶は,「不安,苦痛,疲労,衰弱,乾き,様々なカテーテルの存在,および理学療法などの少数派の処置」であり,ICU鎮静のねらいは,「患者が,興奮することなく,快適であり,くつろいでいて,また静脈ライン(ivline)またはほかのカテーテルの設置といったような不快感を与える処置に耐えることを保証すること」であること(【0002】),鎮静は,「苦痛および不安などの患者の安心感に影響を及ぼす状態の処置」をも含んでいること(【0003】)などの本件明細書の他の記載事項と整合しない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
・・・

3)甲3の記載事項について
・・・

前記アの記載事項によれば,甲3には,①心筋虚血のリスクが高い患者において,周術期のストレス反応を軽減するなら,心筋虚血の発生を減じ,周術期の合併症発生率や死亡率を低下させることができる可能性があり,一方,α2-アドレナリン受容体作動薬は,周術期のストレス反応を減弱させるのに有効であるが,交感神経遮断作用が,血圧低下や徐脈など潜在的に有害な臨床作用も来し,このような血行動態的変化に血管疾患患者や重症心筋疾患患者には耐えられない可能性があるため,従来,α2-アドレナリン受容体作動薬であるデクスメデトミジンは,健常ボランティアと健康な外科患者に対してのみ投与されてきたこと,②甲3の臨床研究は,高い冠動脈疾患リスクを有する外科患者へのデクスメデトミジンの周術期投与の実施可能性と影響の予備的評価を行うため,24人の血管外科患者を対象として,麻酔開始の1時間前から手術後48時間まで,プラセボ群と3つの異なる注入用量のデクスメデトミジン群(低用量群(血漿濃度目標0.15ng/ml),中用量群(同0.30ng/ml)及び高用量群(同0.45ng/ml)に分けて,デクスメデトミジンの持続注入を行い,血圧,心拍数,心筋の酵素等を測定し,その臨床データを解析した研究であること,③研究の結論として,血漿濃度目標0.45ng/mlまでのデクスメデトミジン投与は,血管手術を受ける外科患者の周術期の血行動態管理に有益なようであるが,血圧と心拍数をサポートするためより多くの手術中の薬理学的介入を必要としたことの開示があることが認められる。

4)本件発明1と甲3に記載された発明との同一性について
原告らは,甲3記載の血管外科患者は,「集中治療を受けている重篤患者」に該当し,上記血管外科患者に対するデクスメデトミジンの投与は,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」の用途に使用するものであるから,甲3には,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用」が記載されている旨主張するので,以下において判断する。

(ア)原告らは,①甲3記載の血管外科患者は,血管手術を受けた外科患者であって,全身麻酔を受けている以上,術後は集中治療室で麻酔からの離脱を確認することは当然であるから,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者」である,②甲3記載の血管外科患者は,本件発明1の実施例(被験者が冠動脈バイパス手術の患者等)と同様の患者であるから,「重篤患者」であり,十分な看護体制がされた状態にあり,実際,術後にカテーテルなどを設置し,酸素濃度,血圧,心電図などを測定しており,常時看護されていること(622頁左欄下から3行~右欄下から5行)からすると,「集中治療室」で集中治療を受けているといえるから,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者」に該当する旨主張する。

a
そこで検討するに,甲3には,研究の対象とされた24人の血管外科患者が,その外科手術後に,集中治療室(ICU)に収容されたことや,集中治療を受けたことを明示した記載はない。
次に,甲3の表1「被験患者の人口統計学的特徴および臨床的特徴(24名)」(別紙2)は,24人の血管外科患者をプラセボ群,低用量群,中用量群及び高用量群に区分した上で,各群ごとの患者の心臓病歴,外科手術の区分(大動脈手術,頚動脈手術及び末梢血管手術の3種類),手術時間等の特徴について記載したものである。
1の外科手術の区分をみると,プラセボ群では,「大動脈手術3,頚動脈手術1,末梢血管手術2」,低用量群では,「大動脈手術3,頚動脈手術0,末梢血管手術3」,中用量群では,「大動脈手術1,頚動脈手術2,末梢血管手術3」,高用量群では,「大動脈手術2,頚動脈手術3,末梢血管手術1」との記載がある。このうち,「大動脈手術」を受けた患者については,一般に,「大動脈手術」には,開胸手術や開腹手術といった侵襲性の高い手術が含まれることに照らすと,術後の集中治療を要する患者であった可能性が高く,「集中治療を受けている重篤患者」に該当するものと認められる。

一方,「頚動脈手術」を受けた患者及び「末梢血管手術」を受けた患者については,表1には,各患者の冠動脈疾患やそのリスクの程度についての記載や患者が受けた外科手術の具体的な内容についての記載がないことに照らすと,「集中治療を受けている重篤患者」に該当するものと直ちに認めることはできない。
この点について,原告らは,甲3記載の血管外科患者は,血管手術を受けた外科患者であって,全身麻酔を受けている以上,術後は集中治療室で麻酔からの離脱を確認することは当然であるから,「集中治療を受けている重篤患者」に該当する旨主張するが,全身麻酔からの離脱を確認するために「集中治療室」に収容されているからといって,呼吸・循環・代謝・その他の全身管理を集中的に行われていることが認められない以上,集中治療を受けているということはできない。また,原告らが挙げる甲3の記載事項(622頁左欄下から3行~右欄下から5行。前記(3)ア(オ))から,24人の血管外科患者は,臨床研究のデータ収集等のため,常時観察・看護されていたことは認められるものの,「頚動脈手術」を受けた患者及び「末梢血管手術」を受けた患者について,呼吸,循環,代謝その他の全身管理が集中的に行われていたものとまでは認められず,集中治療を受けていたものと認めることはできない。

b
以上によれば,甲3記載の血管外科患者が「集中治療を受けている重篤患者」に該当するとの原告らの主張は,「大動脈手術」を受けた患者については理由があるが,その余の手術を受けた患者については理由がない。

(イ)原告らは,甲3記載の「手術後の該患者」(血管外科患者)の「鎮痛」は,α2アゴニストの作用の一つであるから,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」に該当し,また,仮に本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」には,「ICU状況における苦痛および不安などの患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての「鎮静」が必要であるとしても,「デクスメデトミジンの交感神経遮断作用」は,交感神経を遮断して「ストレス反応」を抑え,これにより落ち着いた状態になり,不安の解消をもたらす作用であるから,上記「鎮静」に該当し,甲3記載の血管外科患者に対するデクスメデトミジンの投与は,「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」の用途の使用に当たる旨主張する。

a
そこで検討するに,甲3には,甲3記載の血管外科患者について,その手術後に,実際の鎮静と(呼吸,循環,代謝その他の全身管理が集中的に行われる)集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在,
理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静のいずれもが確認されたことについての記載はない。また,甲3には,甲3記載の血管外科患者に対するデクスメデトミジンの投与が上記両方の鎮静の用途に使用するものであったことについての記載もない。
したがって,甲3には,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」についての開示がない。

b
前記12)イ記載の「鎮痛」に関する認定事実及び甲3記載の「デクスメデトミジンの交感神経遮断作用」は,手術のストレスにより交感神経系が刺激され,内分泌反応を引き起こして血圧や心拍数を増加させることを抑制するために,交感神経を遮断する作用であること(前記(3)ア(イ))に照らすと,原告らのいう甲3記載の「手術後の該患者」(血管外科患者)の「鎮痛」や「デクスメデトミジンの交感神経遮断作用」は,いずれも集中治療の状況下での様々なカテーテルの存在,理学療法などの処置によって生じる苦痛および不安などの「患者の安心感に影響を及ぼす状態の治療」としての鎮静に該当しない。

c
 以上によれば,甲3記載の血管外科患者に対するデクスメデトミジンの投与が,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」の用途の使用に当たるとの原告らの主張は,採用することができない。

(ウ)前記(ア)及び(イ)によれば,甲3には「集中治療を受けている重篤患者」についての開示はあるものの(前記(ア)),「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」についての開示がないから(前記(イ)),甲3に本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用」が記載されているとの原告らの主張は,理由がない。
イそうすると,甲3記載の血管外科患者に対するデクスメデトミジンの投与は,本件発明1の「集中治療を受けている重篤患者の鎮静に使用する医薬品の製造における,デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の使用」ではない点で,本件発明1と相違するから,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1と同一の発明であると認めることはできない。

5)小括
以上によれば,本件発明1は,甲3に記載された発明と同一であるとは認められず,同様に,本件発明2ないし12は,甲3に記載された発明と同一であると認められないから,原告ら主張の取消事由1は理由がない。
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▼甲3及び周知技術に基づく新規性について
裁判所は、新規性の判断で述べた理由により、甲3に「集中治療を受けている重篤患者の鎮静」についての開示がないため、原告の一致点・相違点に関する前提に誤りがあるとし、原告の進歩性欠如の主張を認めませんでした。


※甲5に関する判断は省略。


▼原文新規事項について
原告は、クレーム3の「12ng/mlプラズマ濃度」は、PCT明細書に記載がないため原文新規事項であることを主張しました。原告の主張によると、PCT明細書のクレーム3では、「0.12ng/mlプラズマ濃度」と記載されていたものが、国内移行時の明細書で「12ng/mlプラズマ濃度」となったようです。また、PCT明細書には、「12ng/mlプラズマ濃度」の直接の記載はないようです。
裁判所は、以下の通り、原文新規事項ではないと判断しました。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
5
取消事由5(原文新規事項に関する判断の誤り)について
1)原告らは,本件審決は,本件特許の請求項3の「12ng/mlプラズマ濃度」の記載について,本件国際出願明細書には,「12ng/mlプラズマ濃度」との文言の記載はないが,「0.12ng/mlプラズマ濃度」との記載があり,「12ng/mlプラズマ濃度」の数値範囲は,「0.12ng/mlプラズマ濃度」の数値範囲の約半分ほどの範囲を占める部分であり,当該範囲は,他の数値範囲からは予測できない特段の意味を有する数値範囲でもなく,新たな技術的事項を導入するものでもないから,本件発明3及び請求項3を発明特定事項として引用する本件発明4ないし12は,本件国際出願明細書に記載した事項の範囲内にあり,原文新規事項に該当しない旨判断したが,①「12ng/ml」のプラズマ濃度におけるデクスメデトミジンの作用は,「0.11ng/ml」のプラズマ濃度におけるデクスメデトミジンの作用とは,明らかに異質なものであり(甲9x9y10),「1ng/mlプラズマ濃度」を数値範囲の境界値として本件特許の請求項3に記載することは,新たな技術的事項を導入するものであるから,原文新規事項に該当する,②本件国際出願明細書と本件国内書面によれば,国際出願時の請求項3で「0.12ng/mlプラズマ濃度」とされていたものが,本件国内書面の請求項3で「12ng/mlプラズマ濃度」となったようであるが,既に特許登録されている請求項3を「0.12ng/mlプラズマ濃度」に訂正する手段はないから,原文新規事項に該当するというほかないとして,本件審決の上記判断は誤りである旨主張する。

そこで検討するに,本件国内書面(甲772)には,プラズマ濃度に関し,「デクスメデトミジンの投与量の範囲は,標的プラズマ濃度として記載することができる。ICUにおける患者の人々に鎮静を提供することを期待されるプラズマ濃度範囲は,鎮静の目的レベルおよび患者の全体的な状態に依存して0.12ng/mlの間で変わる。これらのプラズマ濃度は,瞬時投与(bolusdose)および規則的な維持注入(steadymaintenanceinfusion)による継続投与を用いて静脈内投与によってなされることができる。たとえば,ヒトにおいて前記プラズマ濃度範囲に到達するための瞬時の投与量範囲は,約10分間またはそれよりゆっくり投与されるため,約0.12.0μg/kg,好ましくは約0.52μg/kg,より好ましくは1.0μg/kgであり,ついで,約0.12.0μg/kg/h,好ましくは約0.20.7μg/kg/h,より好ましくは0.40.7μg/kg/hが維持投与される。デクスメデトミジンまたはその薬学的に許容し得る塩の投与期間は,目的の使用持続期間に依存している。」(【0028】)との記載がある。上記記載によれば,【0028】には,ICUにおける患者の人々に鎮静を提供することを期待されるプラズマ濃度範囲は,「鎮静の目的レベルおよび患者の全体的な状態に依存して0.12ng/mlの間で変わる」ことが開示されていることが認められるが,一方で,本件国内書面の発明の詳細な説明及び図面には,【0028】以外に,「0.12ng/mlプラズマ濃度」に関して言及した記載はない。また,この点については,本件国際出願明細書も,本件国内書面と同様であることが認められる。そして,本件特許の請求項3の「12ng/mlプラズマ濃度」は,【0028】記載の「0.1~2ng/ml」の数値範囲内にあるから,ICUにおける患者の人々に鎮静を提供することを期待されるプラズマ濃度範囲にあることは明らかである。

そうすると,本件特許の請求項3の「12ng/mlプラズマ濃度」の記載が,本件国際出願明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において新たな技術的事項の導入に当たるということはできない。

2)この点に関し,原告らは,甲9x9y10を根拠として挙げて,デクスメデトミジンのプラズマ濃度が「12ng/ml」に達すると,患者は深く眠ってしまって覚醒できなくなるが,プラズマ濃度が「0.11ng/ml」であれば,音声指示によって容易に目を覚ますことが可能であるから,「12ng/ml」のプラズマ濃度におけるデクスメデトミジンの作用は,「0.11ng/ml」のプラズマ濃度におけるデクスメデトミジンの作用とは,明らかに異質なものである旨主張(上記①の主張)する。

しかし,原文新規事項に該当するかどうかは,本件国際出願明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において新たな技術的事項の導入に当たるかどうかを判断すべきであるところ,甲9x9y10は,本件国際出願明細書とは別の文献であり,しかも,原告らが根拠として挙げる上記各文献の具体的な記載内容が,本件優先日当時技術常識であったとまで認められないから,原告らの上記①の主張は,採用することができない。

また,原告らは,本件特許の請求項3の「12ng/mlプラズマ濃度」の記載が原文新規事項に該当することの根拠として,請求項3の「12ng/mlプラズマ濃度」の記載を「0.12ng/mlプラズマ濃度」に訂正する手段がないことを挙げるが(上記②の主張),そのように訂正する手段があるかどうかの問題と請求項3の「12ng/mlプラズマ濃度」の記載が原文新規事項に該当するかどうかの問題とは別個の問題であるというべきであるから,原告らの上記②の主張は失当である。

3)以上によれば,本件発明3及び請求項3を発明特定事項として引用する本件発明4ないし12は,本件国際出願明細書に記載した事項の範囲内にあり,原文新規事項に該当しないとした本件審決の判断に誤りがあるとの原告らの上記主張(取消事由5)は,理由がない。

・・・

結論
 
以上のとおり,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
 
したがって,原告らの請求は棄却されるべきものである。
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※明確性要件に関する判断は省略。



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徳重大輔


Author: 徳重大輔

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