■<リツキシマブBSの特許侵害訴訟> 請求項1の「最中」を狭く解釈した上で、サポート要件を満たさないと判断した事例


<判決紹介>
・平成29()44053号 特許権侵害差止請求事件
・令和元年529日判決言渡
・東京地方裁判所民事第29部 山田真紀 西山芳樹 山田真紀
・原告:ジェネンテック  インコーポレイテッド
・原告補助参加人:全薬工業株式会社、中外製薬株式会社
・被告:サンド株式会社、協和発酵キリン株式会社
・特許6226216、特許6241794、特許6253842
・発明の名称:抗CD20抗体の投与を含むB細胞リンパ腫の併用療法


■コメント
リツキシマブのバイオシミラーに対する特許侵害訴訟の紹介です。少し前の判決です。

特許6226216、特許6241794、特許6253842(特許権者:バイオジェン)の専用実施権を有する原告(ジェネンテック)が、被告(サンド、協和発酵キリン)のリツキシマブBS点滴静注100mgKHK」、500mgKHKが本件特許発明の技術的範囲に属し、製造販売等が専用実施権を侵害すると主張して、製造等の差し止め、及び損害賠償金の支払いを求めた事案です。

先発品はリツキサン(リツキシマブ)です。


各本件特許の請求項1は以下のとおりです(構成要件の分説ずみ)。リツキシマブと他剤との併用に特徴があります。

▼特許6226216(本件特許1
【請求項1】
1A 
リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,
1B 
治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOPによる化学療法の最中に投与される,
1C 
上記医薬組成物。

▼特許6241794(本件特許2
【請求項1】
2A 
リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法と組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,
2B 
治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ前記化学療法の間に投与され,かつ,前記化学療法が,CVPである,
2C 
上記医薬組成物。

▼特許6253842(本件特許3
【請求項1】
3A 
リツキシマブを含み,中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,
3B 
治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与され,
3C 
前記医薬組成物と,前記シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソンとが,前記CHOPによる化学療法の各サイクルの1日目に前記患者に投与される,
3D 
医薬組成物。


被告製剤の概要は以下のとおりです。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
  被告製剤
  被告製剤は,リツキサン製剤のバイオ後続品(バイオシミラー)として,被告サンドが製造販売承認を受けた医薬品であり,有効成分としてリツキシマブを含有している。

  被告製剤の添付文書の用法・用量欄には,CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫に用いる場合として,「通常,成人には,リツキシマブ(遺伝子組換え)[リツキシマブ後続1]として1回量375mg/㎡を1週間間隔で点滴静注する。最大投与回数は8回とする。他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,併用する抗悪性腫瘍剤の投与間隔に合わせて,1サイクルあたり1回投与する。」と記載されているほか,用法・用量に関連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」と記載されている。

そして,被告製剤の添付文書の臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,「進行期ろ胞性リンパ腫患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(GP13-301試験)」として,未治療の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品,シクロホスファミド水和物,ビンクリスチン硫酸塩及びプレドニソン又はプレドニゾロンを併用するR-CVPレジメンによって投与されたことが記載されている。
また,先行バイオ医薬品の臨床成績として,①「国内臨床第Ⅱ相試験(IDEC-C2B8-6試験)における成績」,②「国外臨床第Ⅲ相試験(PRIMA試験)における成績」,③「国外臨床第Ⅲ相試験(EORTC20981試験)における成績」が記載されており,①国内臨床第Ⅱ相試験(IDEC-C2B8-6試験)においては,未治療の低悪性度(低グレード)又はろ胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に,先行バイオ医薬品,シクロホスファミド水和物,ドキソルビシン塩酸塩,ビンクリスチン硫酸塩及びプレドニゾロンを併用するR-CHOPレジメンによる寛解導入療法が実施されたこと,②国外臨床第Ⅲ相試験(PRIMA試験)においては,未治療のろ胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に,先行バイオ医薬品,シクロホスファミド水和物,ドキソルビシン塩酸塩,ビンクリスチン硫酸塩及びプレドニソンを併用するR-CHOPレジメンによる寛解導入療法,先行バイオ医薬品,シクロホスファミド水和物,ビンクリスチン硫酸塩及びプレドニソンを併用するR-CVPレジメンによる寛解導入療法等が実施されたこと,③国外臨床第Ⅲ相試験(EORTC20981試験)においては,再発又は難治性のろ胞性非ホジキンリンパ腫の患者に,R-CHOPレジメンによる寛解導入療法が実施されたことなどが記載されている(甲16)。

  被告製剤は,構成要件1A1C2A2C2E3A3Dを充足する。
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争点は下記のとおりです。
このうち、裁判所が判断したのは、(3)ウ、(4)ア、(8)イです。つまり、本件特許1及び3サポート要件と、本件特許2CVPの充足性(技術的範囲)です。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
争点
(1) 
被告製剤は,文言上,本件発明1の技術的範囲に属し,その製造販売等は本件発明1の実施に当たるか(争点1
 
  被告製剤は「プレドニソン」(構成要件1B)を充足するか(争点1-1
 
  被告製剤は「最中」(構成要件1B)を充足するか(争点1-2
(2) 
被告製剤は,本件発明1と均等なものとして,その技術的範囲に属するか
(争点2
(3) 
本件特許1は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点3
 
  本件発明1は乙1文献等により進歩性を欠くか(争点3-1
 
  本件発明1は乙33文献等により進歩性を欠くか(争点3-2
 
  本件特許1は特許法3661号に違反しているか(争点3-3
 
  本件特許1は特許法3662号に違反しているか(争点3-4
 
  分割要件違反により本件発明1は新規性を欠くか(争点3-5
(4) 
被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属し,その製造販売等は本件発明2の実施に当たるか(争点4
 
  被告製剤は「CVP」(構成要件2B)を充足するか(争点4-1
    被告製剤は「間に」(構成要件2B)を充足するか(争点4-2
 
  被告製剤は構成要件2Dを充足するか(争点4-3
(5) 
本件特許2は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点5
 
  本件発明2は乙1文献等により進歩性を欠くか(争点5-1
 
  本件発明2は乙33文献等により進歩性を欠くか(争点5-2
 
  本件特許2は特許法3661号に違反しているか(争点5-3
 
  分割要件違反により本件発明2は新規性を欠くか(争点5-4
(6) 
被告製剤は,文言上,本件発明3の技術的範囲に属し,その製造販売等は本件発明3の実施に当たるか(争点6
 
  被告製剤は「プレドニソン」(構成要件3B及び3C)を充足するか(争点6-1
 
  被告製剤は「最中」(構成要件3B),「各サイクルの1日目」(構成要件3C)を充足するか(争点6-2
(7) 
被告製剤は,本件発明3と均等なものとして,その技術的範囲に属するか(争点7
(8) 
本件特許3は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点8
 
  本件発明3は乙9文献等により進歩性を欠くか(争点8-1
 
  本件特許3は特許法3661号に違反しているか(争点8-2
    分割要件違反により本件発明3は新規性を欠くか(争点8-3
(9) 
被告らに共同不法行為が成立するか(争点9
(10) 
損害の発生の有無及びその額(争点10
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本件特許1及び3のサポート要件に関しては、裁判所は、請求項1に記載の「最中」を狭く解釈した上で、サポート要件を満たさないと判断しました。
概要を以下に記載します。

・本件特許1の請求項1に記載の「最中」は、分割出願時は「同時」(休薬期間中の投与を含む)だった。
・甲38(休薬期間中の投与が記載)に対する新規性/進歩性欠如の拒絶理由が通知され、それを回避するために「同時」は「最中」に補正された。
・このことから裁判所は、「最中」は投薬スケジュールのうち、休薬期間中を含まず、「投薬期間中」を意味すると解するのが相当と判断した。
・本願特許明細書に、リツキシマブをCHOP療法の各薬剤の「投薬期間中」に投与することに関する記載は無い。
・このことから裁判所は、本件特許1及び3はサポート要件を満たさないと判断した。


裁判所の判断は以下のとおりです。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
事案に鑑み,本件特許1及び3が,それぞれ,特許法3661号に違反しているか(争点3-3,争点8-2)について,まず判断する。
(1) 
特許法3661号適合性
特許請求の範囲の記載が特許法3661号に適合するか否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決することができると認識し得る範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決することができると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。

(2) 
本件特許1及び3の特許請求の範囲の記載
構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」については,次のように解するのが相当である。
  構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」の意義
前記第22(4)のとおり,CHOPないしCHOP療法は,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン及びプレドニソン又はプレドニゾロンを併用する化学療法であり,一般に,各薬剤の投薬期間及び休薬期間を組み合わせた所定の投薬スケジュールを繰り返すことによって実施されるものと認められるところ,次のとおり,構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間のうち,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中を意味するものと解するのが相当である。一般に,「最中」に「物事のまっさかり。また,動作が進行中でまだ終わってないとき。」(乙37)という字義があることからすると,「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法が進行中でまだ終わっていない段階,すなわち,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間を意味するものとも解し得る。
しかしながら,前記1⑶のとおり,構成要件1Bの「最中」という文言は,本件特許1の分割出願時に「同時」という文言であったところ,「同時」はCHOP療法の各薬剤とリツキシマブを交互に投与する態様,すなわち,休薬期間中の投与を含むものであり,その態様は甲38文献に記載されており,新規性及び進歩性を欠くなどとして拒絶理由を通知され,拒絶理由を回避するために補正によって導入された文言であり,出願人であるバイオジェンによる本件意見書において,「最中」とすることにより,本件発明1は甲38文献で開示されているものとは異なる発明となることが示されている。

すなわち,前記1(2)アのとおり,甲38文献に記載されているCzuczmanらによる臨床試験は,非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に対して,21日間(3週間)の投薬スケジュールを6サイクル行うCHOP療法を実施しながら,リツキサン375mg/㎡を合計6回投与したものであり,①CHOP療法の各サイクルは,いずれも,1日目にシクロホスファミド,ドキソルビシン及びビンクリスチンを投与し,1日目から5日目までプレドニソンを投与するというスケジュールであり,各サイクル開始後6日目から21日目までは休薬期間であること,②リツキサンの6回の投与のうち3回目及び4回目の投与(注入3および4)は,それぞれ,CHOP療法の3回目及び5回目のサイクルが開始される2日前,すなわち,2回目及び4回目のサイクル開始後20日目に行われたことが示され,上記の3回目及び4回目のリツキサンの投与は,いずれも,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中に行われたものであるといえるところ,甲38文献に記載された発明は,前記1⑶のとおり,本件意見書において,「(CHOP)による化学療法の最中に投与される」に含まれないことが示されている。
そうであれば,本件特許1の出願過程において,Czuczmanらによる臨床試験における3回目及び4回目のリツキサンの投与のように,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間にリツキシマブを投与するものであっても,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中に投与するものは,「(CHOP)による化学療法の最中」から除外されたものと解するのが相当である。
したがって,構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間のうち,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中を意味すると解するのが相当である。

  被告らの主張について
被告らは,「最中」の一般的な字義及び本件明細書1の記載等によれば,構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOPによる化学療法が進行中でまだ終わっていない段階,すなわち,CHOPによる化学療法のコースを開始してから6コース繰り返して全て終了するまでという意味に解するのが自然である旨主張しており,被告らが主張する「コース」はCHOP療法の各薬剤の投薬期間及び休薬期間の組合せに係る所定の投薬スケジュールを意味するものと解される。しかしながら,前記のとおり,本件特許1の出願経過に照らせば,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間にリツキシマブを投与するものであっても,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中に投与するものは,「(CHOP)による化学療法の最中」から除外されたものと解するのが相当であるから,被告らの主張は採用することができない。

(3) 
本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載
  本件明細書1及び3の【0015】,【0017
本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載は,前記1(1)のとおりであり,発明を実施するための形態として,「本発明の併用療法は,治療法が同時に行われ,すなわち抗CD20抗体は,同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進んでいるが,薬剤は全く同時に投与されるわけではない)で投与される。本発明の抗CD20抗体はまた,他の治療法の前または後に投与されてよい。」(【0015】),「また本発明には,化学療法の前,その最中,または後に,治療上有効量のキメラ抗CD20抗体を患者に投与することを含んでなる,B細胞リンパ腫の治療法が含まれる。そのような化学療法は,少なくとも,CHOPICE,ミトザントロン,シタラビン,DVPATRA,イダルビシン,ヘルツァー(hoelzer)化学療法,ララ(LaLa)化学療法,ABVDCEOP2-CdAFLAGIDA(以後のG-CSF治療有りまたは無し),VADMPC-WeeklyABCMMOPP,およびDHAPよりなる群から選択される。」(【0017】)と記載されている。
しかしながら,上記において,抗CD20抗体ないしキメラ抗CD20抗体として示されるリツキシマブの投与時期について,【0015】では,「他の治療法の前または後」と「同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進んでいるが,薬剤は全く同時に投与されるわけではない)」が併記されるにとどまり,また,【0017】では,「化学療法の前…または後」と「その最中」が併記されるにとどまっており,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る説明はされていないから,これらの記載をもって,リツキシマブをCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するという本件発明1の用途を認識することは困難であり,もとより,リツキシマブを含む医薬組成物と化学療法に用いられる各薬剤を化学療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を認識することもできない。
・・・

  小括(争点3-3,争点8-2
以上のとおり,本件明細書1及び3の発明の詳細な説明に,本件発明1及び3の用途を記載又は示唆するものはなく,本件全証拠によっても,本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載及び本件原出願日当時の技術常識に基づき,リツキシマブを含む医薬組成物を本件発明1及び3の用途に使用することにより新たに有効な治療法を提供するという発明の課題を解決することができると認識し得ると認めることはできない。
よって,本件発明1及び3に係る特許請求の範囲の記載は,特許法3661号に適合しておらず,本件特許1及び3は,同号に違反する。
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本件特許2CVP療法の充足性に関しては、裁判所は、明細書にCVPの説明がないことから原出願日当時の技術常識(文献)に基づいて解釈した上で、被告製剤はCVPの構成要件を充足しないと判断しました。
概要を以下に記載します。

CVP療法は、シクロホスファミド、ビンクリスチン、及びプレドニゾロン又はプレドニソンを併用する化学療法である。
・原告は、(i)投与量、投与方法及び投与時期を限定する旨の記載はないから、それらによる限定はされないものと解すべき、(iiCVP療法及びCOP療法が意味するところは一義的ではなかった、(iii)シクロホスファミドを1日目に投与するものをCVP療法として記載する文献(甲91等)があった、(iv)被告製剤のR-CVP療法は上記3剤とリツキシマブを組み合わせたものであるため構成要件2Bの「CVP」を充足すると主張した。
・裁判所は、明細書にCVP療法の具体的な説明がないため、「CVP」の解釈を原出願日当時の技術常識で判断した。
・原出願日前の文献(甲74等)には、CVP療法は「シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与」することが記載されていた。甲28等にそれとは異なる記載があったが、裁判所は、多様な化学療法が研究される中で、一般的な認識とは異なる記載がされたものとみるのが相当と判断した。
・被告製剤の【臨床成績】欄には、「R-CVPレジメン」によって投与されたこと等が記載されている。
R-CVPレジメンは、リツキシマブを1日目に投与するとともに、シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目、プレドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメンである。
・裁判所は、被告製剤は、添付文書に記載されたR-CVPレジメンがシクロホスファミドを1日目にのみ投与するものであり、1日目から5日目まで投与するものでない点で、構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえないと判断した。


裁判所の判断は以下のとおりです。


判決-------------------------------------------------------------------------------------------
争点4-1(被告製剤は「CVP」(構成要件2B)を充足するか)について
(1) 
CVP」の意義
  構成要件2Bは「前記化学療法が,CVPである」というものであり,前記第22(4)のとおり,CVPないしCVP療法は,シクロホスファミド,ビンクリスチン及びプレドニゾロン又はプレドニソンを併用する化学療法であると認められる。
そして,証拠(乙15147)によれば,使用薬剤の組合せが同一であっても,投与量,投与方法,投与時期等が異なる場合には,異なる化学療法として区別して認識されることがあると認められるところ,次のとおり,本件原出願日前に発行されていた文献には,CVP療法と使用薬剤の組合せが同一の化学療法として,COPないしCOP療法という名称の化学療法も記載されていたから,CVP療法とCOP療法が,各薬剤の投与量,投与方法,投与時期等によって,異なる化学療法として区別して認識されていたかについて検討する。

  後掲各証拠及び弁論の全趣旨に照らせば,CVP療法又はCOP療法について,次の各事実が認められる。
(ア)シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニソンの3剤を併用する化学療法は,昭和44年(1969年)に発行されたHoogstratenらの文献(甲73)によって初めて報告された。その後発行された文献(甲75,乙175)において,Hoogstratenらの文献に記載された化学療法はCOP療法として記載されている。
(イ)昭和56年(1981年)9月に発行された田中公ら「進行したNon-Hodgkins LymphomaにおけるCVP療法-白血化例も含めて-」癌と化学療法,Vol.8,No.9,pp.1441-1449(乙113,以下「乙113文献」という。)には,CVP療法について,後記(オ)②のとおり記載されているほか,「Bagleyらや,著者らのCVP療法は細胞周期を考慮してCyclophosphamide5日間投与する点がCOP療法やCHOP療法と異なるところである。」と記載されている。
・・・

  そこで,検討すると,前記イ(イ),(オ)のとおり,本件原出願日当時,各薬剤の投与量及び投与方法については若干の相違がみられるものの,CVP療法は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであるのに対し,COP療法は,シクロホスファミドを1日目に投与するものであるなどとして,シクロホスファミドの投与時期によって両者は区別されることが多く(乙8889134ないし136138178191ないし194),乙113文献にも,CVP療法は,シクロホスファミドを5日間投与する点でCOP療法と異なることが示されていたほか,CVP療法又はCOP療法のいずれか一方について,各薬剤の投与時期をもって上記のとおり両者を区別することに整合する内容が多く示されていた(CVP療法について,甲7477,乙31014ないし161970ないし72,114,142,144,146,153ないし156,181COP療法について,甲82,乙132133137149151。)。

これらのことに加えて,前記イ(ア),(ウ)のとおり,シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニソンの3剤を併用する化学療法は,昭和44年(1969年)に初めて報告され,その後発行された文献でCOP療法とされていたところ,乙70文献には,CVP療法は,COP療法を基本とし,投与法,投与量等を変更した化学療法として発表されるようになった化学療法であり,COP療法と比べて有効率の向上が顕著であったとして,CVP療法について,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するなどする投与スケジュールが示されている。そうすると,前記イ(オ)のとおり,他方で,シクロホスファミドを1日目に投与する化学療法をCVP療法として記載する文献(甲2857ないし607281)や,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与する化学療法をCOP療法として記載する文献(甲768082)もみられたものの,これらは,多様な化学療法が研究される中で,一般的な認識とは異なる記載がされたものとみるのが相当であって,本件原出願日当時,CVP療法とCOP療法は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するのがCVP療法であるのに対し,1日目にのみ投与するのがCOP療法であるとして,シクロホスファミドの投与時期によって区別されており,そのようにして区別されることは技術常識であったと認めるのが相当である。
このような本件原出願日当時の技術常識に照らせば,構成要件2Bの「CVP」は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであり,シクロホスファミドを1日目にのみ投与するものは含まないものと認めるのが相当である。

(2) 
原告らの主張について
  原告らは,構成要件2Bの「CVP」は,シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニゾロン又はプレドニソンを併用する化学療法であり,本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書2に,リツキシマブと併用される化学療法に使用される薬剤の投与量,投与方法及び投与時期を限定する旨の記載はないから,それらによる限定はされないものと解すべきであると主張する。
しかしながら,前記のとおり,使用薬剤の組合せが同一であっても,投与量,投与方法及び投与時期等が異なる場合には,異なる化学療法として区別して認識されることがあると認められるところ,CVP」については,本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書2に具体的な説明がされていない以上,技術常識を踏まえて,その意義,内容を解釈し得ることは当然である。
そして,CVP療法について,シクロホスファミドの投与時期によって,使用薬剤の組合せが同一のCOP療法と区別して認識されていたと認められることは前記のとおりであるから,「CVP」の解釈においては,このような本件原出願日当時の技術常識を考慮するのが相当である。

  また,原告らは,本件原出願日当時,CVP療法は,COP療法とも呼ばれ,各薬剤の投与量,投与方法及び投与時期は一義的,硬直的に定められておらず,研究機関等によって異なっていたから,前記のような技術常識を認めることはできないとし,そのことを裏付ける事情として,①甲71文献によれば,CVP療法は,COP療法とも呼ばれ,シクロホスファミドを1日目に投与することを基本とするものであり,研究機関や国によって各薬剤の投与量や投与方法が異なっていたところ,1970年代以降に様々な検討がされ,1990年代になっても,各薬剤の投与量,投与方法,投与時期について多様な検討がされていたこと,②本件原出願日前に発行された文献(甲2857ないし60727680ないし82)に,シクロホスファミドを1日目にのみ投与する化学療法をCVP療法と記載するものや,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与する化学療法をCOP療法と記載するものがあったことに加えて,各薬剤の投与量及び投与時期が異なる化学療法を「COP1」等と記載する文献(甲78)や,投与量の異なる化学療法をCVPと記載する文献(甲79)もあったことにも照らせば,CVP療法及びCOP療法が意味するところは一義的ではなかったこと,③本件原出願日前に発行された文献(甲86ないし90,乙1213137158ないし161)に,CVP療法及びCOP療法について,「COPまたはCVP」,「CVP/COP」などとして,並列的,互換的に記載するものがあったこと,④本件原出願日前に実施された大規模な実験について,シクロホスファミドを1日目にのみ投与するものをCVP療法として記載する文献(甲91ないし93)があることなどを主張する。 しかしながら,以下のとおり,原告らが指摘する文献の記載等を踏まえても,前記の技術常識を否定することはできない。

(ア)①甲71文献について
前記(1)イ(エ)のとおり,甲71文献には,CVP療法の基本プロトコールとして,CPA1日目に投与することなどが記載され,CVP療法の概要として,「米国のNationalCancerInstituteNCI)ではCPAの投与量や投与方法が異なるレジメンとして用いられていたが(300400mg/m2day15に内服),基本はECOGの治療研究で行うCPAday1に点滴静注する方法として広まっている」と記載されているものの,甲71文献は本件原出願日の約15年後の平成2611月に発行された文献であり,前記(1)イ(イ),(ウ),(オ)のとおりの本件原出願日前の文献の記載に照らせば,甲71文献の上記各記載は,平成26年当時のCVP療法に関するものとみるのが自然であって,本件原出願日当時の当業者の認識を示すものとは認め難い。
また,前記(1)イ(エ)のとおり,甲71文献には,CVP療法の概要として,COP療法とも呼ばれていた旨記載されているものの,この点については,同(ア),(ウ)のとおり,シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニソンの3剤を併用する化学療法は,昭和44年(1969年)に初めて報告され,その後発行された文献でCOP療法とされていたところ,その後,投与量等を変えながらCVP療法等として発表されるようになったという研究経過と矛盾するものではなく,CVP療法とCOP療法が区別されていなかったことを基礎付ける記載であるとは認められない。
(イ)②甲2857ないし60727678ないし82について
前記のとおり,本件原出願日前に発行された多数の文献の記載に照らせば,原告らが指摘する文献の多くは,多様な化学療法が研究される中で,一般的な認識とは異なる記載がされたものとみるのが相当であって,CVP療法は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであるのに対し,COP療法は,1日目にのみ投与するものであるとして,シクロホスファミドの投与時期によって区別されていたと認めるのが相当である。
・・・

(ウ)③甲86ないし90,乙1213137158ないし161について原告らが指摘する文献には,「COPまたはCVP」,「CVP/COP」などとして,CVP療法とCOP療法が併記されているものの,それらが互換的又は一体的なものであると積極的に記載するものはなく,CVP療法とCOP療法が区別されていなかったことを基礎付ける記載であるとはいい難い。
(エ)④甲91ないし93について
原告らが指摘する文献は,いずれも本件原出願日後に発行されたものであり,本件原出願日前に実施された実験に係る記載があるものの,それらが本件原出願日当時の当業者の認識を示すものと認めることはできない。
(オ)小括
以上のとおりであるから,原告らが指摘する文献の記載等を踏まえたとしても,前記の技術常識を否定することはできない。

(3) 
被告製剤
被告製剤についてみると,前記第22(5)ウのとおり,被告製剤の添付文書には,用法・用量欄に「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合」が記載され,用法・用量に関連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」と記載されている。また,臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,未治療の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品がR-CVPレジメンによって投与されたことが記載されているほか,先行バイオ医薬品の臨床成績として,国外臨床第Ⅲ相試験(PRIMA試験)において,ろ胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に,R-CVPレジメンによる寛解導入療法等が実施されたことが記載されている。
そして,証拠(甲1235)及び弁論の全趣旨によれば,被告製剤の添付文書に記載されているR-CVPレジメンは,リツキシマブを1日目に投与するとともに,シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目,プレドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメンであると認められる。
そうすると,被告製剤は,添付文書に記載されたR-CVPレジメンがシクロホスファミドを1日目にのみ投与するものであり,1日目から5日目まで投与するものでない点で,構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえない。

小括
以上のとおり,本件特許1及び3は特許法3661号に違反しており,いずれも特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,同法104条の31項により,本件特許1及び3に係る専用実施権者である原告による権利行使は認められない。
また,被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属するとはいえないから,被告製剤の製造販売等が本件専用実施権2を侵害するとはいえない。

結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
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CVP
療法について、原告は「一義的ではなかった」と主張していますが、これは明確性の問題が生じ得るのでリスクのある主張だったと思います。

添付文書に記載されていた「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」はイ号製品の用途を特定する上で、併用療法特許の特許権者に有利に働きそうですね。
先発品のリツキサンにも同趣旨の記載があります。あと、細かいところはちょっとずつ違いますが、アバスチン、ハーセプチン、オプジーボでも似たような記載があるようです。



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