■<知財高裁/炭酸ランタンOD錠の審取訴訟> 明細書に本願の課題が複数記載されていた場合に、そのうち1つの課題を解決できない実施例があることを根拠にサポート要件違反と判断された事例


<判決紹介>

・平成31年(行ケ)第10003号 審決取消請求事件

・令和元年1111日判決言渡

・知的財産高等裁判所第3部 鶴岡稔彦 高橋彩 鶴岡稔彦

・原告:バイエル薬品株式会社

・被告:コーアイセイ株式会社

・特許6093829

・発明の名称:ランタン化合物を含む医薬組成物

 

■コメント

炭酸ランタンOD錠に関する特許の、無効審判の審決取消訴訟の紹介です。

後発品メーカー vs 新薬メーカーです。

 

経緯は以下のとおりです。

 

・平成27102日:バイエルが特許出願

・平成29217日:特許登録(特許6093829)

・平成2984日:コーアイセイが無効審判請求(無効2017-800104)

・平成291030日:訂正

・平成3083日:訂正

・平成301212日:一部無効審決(請求項62845無効)

・平成31111日:バイエルが審決取消訴訟提起

・令和元年1111日:判決 ← いまココ

 
この特許に関しては、別途、バイエルがコーアイセイの後発品に対し侵害訴訟を提起していましたが、東京地裁はバイエルの請求を棄却しました。概要は下記ブログで紹介しています。

https://biopatentblog.blog.fc2.com/blog-entry-238.html

 

本件特許の請求項6は以下の通りです。

 

「【請求項6】(訂正)

唾液又は少量の水により,口腔内で崩壊させて経口投与することを特徴とする口腔内崩壊錠であって,崩壊剤及び医薬組成物中の含有率が7090質量%で炭酸ランタン又はその薬学的に許容される塩を含有し,前記崩壊剤が,クロスポビドンであり,前記クロスポビドンの医薬組成物中の含有率が5.612質量%であり,但し,崩壊剤がGRANFILLER-D(登録商標)から成る錠剤は除く,医薬組成物。」

 

 

明細書に本願の課題(及び効果)が複数(崩壊性、摩損度等)記載されていたのですが、そのうち1つ(摩損度)の課題を解決できない実施例(実施例4)があることを根拠にサポート要件違反と判断されました。

裁判所の判断は以下の通りです。

 

 

判決------------------------------------------------------------------------------------

事案の概要

・・・

本件審決の理由の要旨

本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,本件取消事由の主張と関連する無効理由4(サポート要件違反)の本件発明628から45までに係る部分の要旨は次のとおりである。

本件発明628から45は,「速やかな崩壊性,高い硬度及び低い摩損度を両立した,唾液又は少量の水により,口腔内で崩壊させて経口投与する口腔内崩壊錠を提供すること」などを,発明が解決しようとする課題とするものであると認められる。

上記課題の「低い摩損度」について,明細書の記載から,錠剤の摩損度試験法(日局参考情報)に従った試験を行うとき,摩損度が0.5パーセント未満であり,かつ,「明らかなひび・割れ・欠け」の認められる比率が実用上無視できる程度に低ければ,「低い摩損度」を有するものといえるところ,本件明細書の実施例4(以下,本件明細書の実施例及び比較例を,単に「実施例4」などという。)の口腔内崩壊錠は,その摩損度が0.4パーセントであって,合格基準内である「0.5パーセント未満」ではあるものの,「明らかなひび・割れ・欠けの個数/試験数」が7/12試験であり,実施例4の口腔内崩壊錠の「明らかなひび・割れ・欠け」の認められる比率が実用上無視できる程度に低いとはいえず,実施例4の口腔内崩壊錠は,「低い摩損度」を有するとはいえないものである。 

したがって,本件発明628から45は,当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らし当該発明の上記課題を解決できると認識できる範囲にないものを包含しているから,無効理由4により無効にすべきものである。

・・・

 

当裁判所の判断

本件発明について

・・・

 

取消事由1(サポート要件違反についての判断の誤り)について

  特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

 

  本件発明の課題

前記1⑵にみたところに照らすと,本件発明の課題のひとつは,高い原薬含有率で,速やかな崩壊性,高い硬度及び低い摩損度を両立した炭酸ランタンの口腔内崩壊錠を提供することであると認められる。

本件の取消事由1において問題とされているのはかかる課題についてであるので,以下,この課題に係るサポート要件違反の有無を検討する(以下,この課題を「本件課題」という。)。

 

  本件明細書等の記載

上記の速やかな崩壊性,高い硬度及び低い摩損度の両立という本件課題について,本件明細書並びに日本薬局方の技術情報の解説及び参考情報(乙12)には,次の記載が認められる。

・・・

 

  サポート要件適合性について

原告が本件発明の実施例であると主張する実施例4においては,錠剤硬度117N,摩損度0.4パーセント(7/12)(ただし,括弧内は明らかなひび・割れ・欠けの個数/試験数),崩壊時間39秒(日局(補助盤なし)),7秒(日局(補助盤あり)),40秒(口腔内(静的))であったことが記載されている。

他方,本件明細書の実施例の摩損度の評価は,錠剤の摩損度試験法(日局参考情報)に従って行われるとされているところ(【0062】),日本薬局方参考情報(乙1)によれば,錠剤の摩損度試験法においては,明らかにひび,割れ,欠けが見られる錠剤があるときはその試料は不適合であるとされている。

そうすると,「明らかなひび・割れ・欠け」の個数が12錠中7錠であり,摩損度が0.4%とする実施例4の摩損度の評価の記載を,日本薬局方参考情報における錠剤の摩損度試験法で「明らかなひび・割れ・欠け」が見られる錠剤があるときはその試料は不適合であるとされていることとの関係で一義的に整合するように理解することができない。そして,本件明細書には「明らかなひび・割れ・欠け」の個数が12錠中7錠である実施例4の場合に,どのような方法で摩損度を測定した結果0.4%という数値を得たのかに関する説明はなく,この点についての当業者の技術常識を示す的確な証拠もない。

 

以上によれば,当業者は,本件明細書の実施例4の記載から,当該実施例において低い摩損度を含む本件課題が実現されていることを理解することができないし,本件明細書のその余の部分にも,本件発明が,「高い原薬含有率で,速やかな崩壊性,高い硬度及び低い摩損度を両立した炭酸ランタンの口腔内崩壊錠を提供する」という本件課題を解決できることを示唆する記載はなく,この点に関する技術常識を示す的確な証拠もない。

したがって,本件発明について,本件明細書に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができないから,本件発明がサポート要件に適合するものということはできない。

 

  原告の主張について

  原告は,「明らかなひび・割れ・欠け」は,摩損度とは異なる概念であり,本件発明の課題には含まれない,また,仮に含まれるとしても,本件発明の課題は,「速やかな崩壊性,高い硬度及び低い摩損度の両立」であるから,本件発明はこれを解決するものであると主張する。

前記⑶ア及びイにみたとおり,本件明細書においては,発明を実施するための形態,実施例の箇所において,それぞれ速やかな崩壊性,高い硬度,低い摩損度の具体的な評価方法について記載している。特に,摩損度について,発明を実施するための形態において,「『低い』摩損度とは,例えば,錠剤の摩損度試験法(日局参考情報)に従い,試験を行うとき,0.5%未満(明らかなひび・割れ・欠けなし)である。」(【0050】)とされ,また,実施例において,「摩損度は,錠剤の摩損度試験法(日局参考情報)に従い,試験を行った。摩損度の目標品質は,通常の錠剤と変わらない取り扱いを目指し,0.5%未満(明らかなひび・割れ・欠けなし)とした。」(【0062】)と記載されている。

 

そして,本件明細書は,かかる評価方法に従って,崩壊性や硬度について,比較例や実施例を評価しており,摩損度については,明らかなひび,割れ,欠けの個数も含めて評価している(【0068】,【0072】,【0076】)。

また,摩損度について,本件明細書が引用する日本薬局方の参考情報は,「試験後の錠剤試料に明らかにひび,割れ,あるいは欠けの見られる錠剤があるとき,その試料は不適合である。もし結果が判断しにくいとき,あるいは質量減少が目標値より大きいときは,更に試験を二回繰り返し,三回の試験結果の平均値を求める。多くの製品において,最大平均質量減少(三回の試験の)が1.0%以下であることが望ましい。」(乙1)として,摩損度試験の評価の際に,明らかなひび,割れ,欠けがある場合にそもそも試料が不適合であるとしてかかる概念も含めて評価の対象とするものである。

そして,前記⑶に引用した本件明細書の記載のほかに,本件明細書中において,本件課題の具体的な評価方法としても,個別の実施例の記載についても,本件発明の課題解決をどのように評価するかについての基準や考え方は窺われない。

以上によれば,本件課題である「速やかな崩壊性,高い硬度及び低い摩損度の両立」が解決されたといえるためには,「低い摩損度」概念の中に「明らかなひび・割れ・欠け」がないことも含んだ上で,「速やかな崩壊性」,「高い硬度」及び「低い摩損度」を実現することが必要であると解される。

 

  原告は,本件発明の課題が達成されているかどうかは市販品として問題のない口腔内崩壊錠が提供されているかどうかという観点から判断されるものであるなどと主張する。

しかしながら,本件明細書には,原告の主張する「市販品として問題のない口腔内崩壊錠が提供されているかどうか」について何らの記載もなく,本件明細書における摩損度試験法に関する明示的な記載に反してこのような評価をすべき根拠は見当たらない。

 

  原告は,実施例4の摩損度及び「明らかなひび・割れ・欠け」の記載に接すると,当業者であれば,日本薬局方の参考情報(乙1)が想定する摩損度が1パーセントを明らかに超えるようなレベルの「明らかなひび・割れ・欠け」があるとまではいえないものがカウントされていると理解できるなどと主張する。

しかしながら,そもそも,本件明細書は,摩損度試験について,日本薬局方の参考情報(乙1)に従うとした上で,それと同様の表現をした「明らかなひび・割れ・欠け」の有無を問題としているのであって,本件明細書と日本薬局方の「明らかなひび・割れ・欠け」が異なる概念であることは何ら読み取れない。

 

  原告は,本件特許出願時において,打錠圧を上げることによって「明らかなひび・割れ・欠け」の解消が可能であることや,予圧をすることによって「明らかなひび・割れ・欠け」の解消が可能であることが技術常識であったとして,このような技術常識に照らせば,本件発明は本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることを主張する。

しかしながら,本件課題は,「高い原薬含有率で,速やかな崩壊性,高い硬度及び低い摩損度を両立した炭酸ランタンの口腔内崩壊錠を提供する」というものであるところ,甲4144546974(枝番を含む。)には,本件発明の口腔内崩壊錠について,打錠圧を上げ,あるいは,予圧をすることによって,「速やかな崩壊性,高い硬度及び低い摩損度を両立」することができることを示すものではない。本件発明の構成について,打錠圧を上げ,あるいは,予圧をすることによって本件課題を解決することができるとの技術常識があるとは認められない。

そして,かかる技術常識が存在しない以上,それを裏付ける実験データ(甲4553)を考慮することはできない。

なお,本件明細書には,「適切な硬度が得られる打錠圧で所定の質量の錠剤を製造する。」(【0059】)と記載されているものの,「ひび・割れ・欠け」の解消との関係で,打錠圧の調整をすべきことについては記載がなく,当業者に対し,課題解決への示唆があるとも認められない。

 

  以上のとおりであるから,原告の主張はいずれも採用できない。

 

  結論

以上の次第で,原告の主張する取消事由1については理由がない。

・・・

 

結論

以上によれば,原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法があるとは認められない。

よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。

------------------------------------------------------------------------------------------

 

 

問題の実施例4の結果は、以下の表3に記載されています

 

 20191208_biopatentblog.jpg

 

実施例4をみると、摩損度が0.4で、「明らかなひび・割れ・欠け」の7/12は括弧書きになっているので、ここだけを見るとひび等は参考値のように読めないこともないです。

しかし、実施例には以下の記載があり、明らかなひび等が無いことが、摩損度効果ありと判断するための必須事項のように読めます。また、同じように解釈できそうな記載が他にもいくつかあるようです。

 

「【0062】摩損度は、錠剤の摩損度試験法(日局参考情報)に従い、試験を行った。摩損度の目標品質は、通常の錠剤と変わらない取り扱いを目指し、0.5%未満(明らかなひび・割れ・欠けなし)とした。」

 

さらに、日本薬局方に「明らかにひび,割れ,欠けが見られる錠剤があるときはその試料は不適合」と記載されていたのも追い打ちをかけてますね。

 

本願のように、効果が無いと解釈される余地がある実施例が得られた場合、出願時、無効理由のリスクを回避するためにどのような明細書の書き方ができたでしょうか。以下に例を4つ挙げてみます。

(1)ひび等は参考値であって、摩損度の評価に含まれないことを明細書で詳しく説明する。

(2)摩損度を課題の欄から削除し、他の欄でも必須の効果として記載しない。

(3)ひび等の評価結果を明細書に記載しない(摩損度は残す)。

(4)実施例4を明細書に記載しない。


(1)は日本薬局方で指摘される余地があるのでリスクは残りますね。(2)~(4)はクレーム、実施例、比較例の整合性が崩れる懸念があります。上手く整合性がとれて、先行技術との差別化やサポートも問題ないならよいですが、そうでなければ実験データの追加や、ストーリーの変更を要検討ということになると思います。




判決文はこちら
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Author: 徳重大輔

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