■スーパーオキサイドアニオン分解剤 平成22(行ケ)10256 審決取消請求事件


コメント: 下流の用途が公知なとき、上流のメカニズム用途発明は新規性があるか、が問われた事例。
本件では、「甲1には,白金微粉末がスーパーオキサイドアニオンを分解する作用が明示的形式的に記載されていないものの,従来技術(甲1)の下においても,・・・スーパーオキサイドアニオンが分解されるという属性に基づく方法が利用されたものと合理的に理解される(甲24参照)」、「・・・従来技術と同一又は重複する方法(用途)にすぎない」として新規性が否定された。 ☆☆☆☆


平成22(行ケ)10256 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
平成230323日 知的財産高等裁判所
判決
                   
               

        
 特許庁が無効2009-800033号事件について平成22年6月30日にした審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。

 特許庁における手続の経緯
被告は,特許第4058072号(発明の名称「スーパーオキサイドアニオン分解剤」。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
原告は,平成21年2月18日付けで,特許庁に対し,本件特許を無効とすることを求めて審判を請求した(無効2009-800033号)。特許庁は,平成22年6月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下,単に「審決」という。)をし,その審決の謄本は,同年7月8日,原告に送達された。

 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(以下,請求項1に記載された発明を「本件特許発明」という。なお,構成の各分説及びその符号は,審判におけるものである。)。
【請求項1】
 ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,ポリアクリル酸,シクロデキストリン,アミノペクチン,又はメチルセルロースの存在下で
 金属塩還元反応法により調整され,
 顕微鏡下で観察した場合に粒径が6nm 以下の白金の微粉末からなる
 スーパーオキサイドアニオン分解剤。

 審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は,本件特許発明は,甲1(特開2002-212102号公報)及び甲2(特開2001-122723号公報)記載の発明と同一ではなく,また,甲1,2及び甲3(高分子論文集 Vol.57No.6pp346-355(2000)「高分子保護貨幣金属ナノクラスターの調製と機能」)の記載及び本件優先日当時の当業者の技術常識を考慮しても,当業者が容易に想到できたものとは認められないから,本件特許を無効とすることはできないとするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,甲1,2の記載を次のとおり認定し,本件特許発明と甲1との相違点を構成とし,本件特許発明と甲2との相違点を構成Aないしとした。

(1) 甲1の記載
・・・得られた金属微粒子(コロイド)(PtPd コロイド)の性質として,(c)過酸化水素水の分解反応を触媒すること,及び,上記(b)の白金微粉末の性質として,(d)上記(1―5)に記載されるような各種病気(判決注・リュウマチ,胆嚢・ポリープ,低血圧,腎臓病,肝臓病,アトピー,生理不順,肥満,糖尿病,食欲不振,高血圧,リンパ球ガン,子宮ガン,肝臓ガン,C肝炎,膠原病,神経痛,腸閉塞,腎盂炎,腎不全,肺気腫,胃酸過多,腕のしびれ,慢性鼻炎,口内炎,脳梗塞,血栓症,自律神経失調症,生理痛,直腸ガン,胃潰瘍等)の症状改善に効果がある

(2) 甲2の記載還元処理と,ろ過処理とを順に行なうことによって製造されたナノサイズの白金コロイドを分散させた化粧品が記載され,該白金コロイドが,過酸化水素分解作用を有すること,及び,上記化粧品が,各種症状を改善した。

第3  取消事由に関する原告の主張
  取消事由1(甲1と対比して構成Dにおいて相違するとした認定判断の誤り)
・・・。
  取消事由2(構成Dは,甲1,2から認識できる範囲内の効果である点を看過した誤り)
本件特許発明の構成Dは,甲1,2から読み取れる範囲内の効果であるから,構成Dを相違点とした審決の認定は誤りである。
当業者であれば,本件優先日当時の技術常識を参酌することで,甲1,2記載の過酸化水素の分解に関する記載から,スーパーオキサイドアニオンについても分解されていることを自明のこととして認識できた。すなわち,・・・。

第4  被告の反論
  取消事由1(甲1と対比して構成Dにおいて相違するとした認定判断の誤り)に対し
・・・。
  取消事由2((構成Dは,甲1,2から認識できる範囲内の効果である点を看過した誤り)に対し
・・・,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,スーパーオキサイドアニオンは反応性を高める余分な電子(不対電子)がついた状態の分子(ラジカル)であり極めて高い化学反応性を有している。不対電子を持たない(ラジカルではない)過酸化水素とは,その点で異なる。スーパーオキサイドアニオンと過酸化水素は,異なる反応性を有する化学物質であると認識されていたのであるから,甲1,2記載の過酸化水素の分解に関する記載から,スーパーオキサイドアニオンについても分解されていることを自明のこととして,当業者が認識することはない。
・・・さらに,ある物質が過酸化水素に対し触媒的な分解作用を発揮するからといって,スーパーオキサイドアニオンに対しても触媒的な分解作用を発揮するとは限らない。二酸化マンガンのように,過酸化水素の分解を触媒するが,スーパーオキサイドアニオンに触媒的な分解作用を発揮しないものがある一方,カテキンのように,スーパーオキサイドアニオンに対して分解活性を示すが,過酸化水素には分解活性を示さないものが存在する。 
したがって,甲1,2に記載された白金微粒子が過酸化水素に対し触媒的な分解作用を発揮することをもって,当該白金微粒子がスーパーオキサイドアニオンの分解も促進するであろうことを当業者が当然に予測できるものではない。

第5 当裁判所の判断
当裁判所は,下記の事実関係を総合すれば,本件特許発明における白金微粉末を「スーパーオキサイドアニオン分解剤」としての用途に用いるという技術は,甲1において記載,開示されていた,白金微粉末を用いた方法(用途)と実質的に何ら相違はなく新規な方法(用途)とはいえず,白金微粉末に備わった上記の性質を,構成Dとして付加したにすぎず,本件特許発明は,甲1の記載と実質的には同一のものであって,新規性を欠くことになるから,これと異なる審決の認定,判断には誤りがあると解する。その理由は,以下のとおりである。

 争いない事実及び認定事実
(1) 本件特許発明の記載
 本件特許発明の特許請求の範囲(請求項1)
第2の2記載のとおりである。すなわち,本件特許発明の特許請求の範囲(請求項1)構成AないしC所定の「白金の微粉末」からなる構成D所定の「スーパーオキサイドアニオン分解剤」である。
 本件補正明細書の記載
特許請求の範囲の構成Dの意義・趣旨は必ずしも一義的に明白でないため,本件補正明細書の記載をみることとする。
本件補正明細書には,以下の記載がある(甲22)。

・・・。

(2) 甲1の記載
これに対して,甲1の記載内容は,第2の3の(1)のとおりである。
すなわち,・・・得られた金属微粒子(コロイド)(PtPd コロイド)の性質として,(c)過酸化水素水の分解反応を触媒すること,及び,上記(b)の白金微粉末の性質として,(d)上記(1―5)に記載されるような各種病気(判決注・リュウマチ,胆嚢・ポリープ,低血圧,腎臓病,肝臓病,アトピー,生理不順,肥満,糖尿病,食欲不振,高血圧,リンパ球ガン,子宮ガン,肝臓ガン,C肝炎,膠原病,神経痛,腸閉塞,腎盂炎,腎不全,肺気腫,胃酸過多,腕のしびれ,慢性鼻炎,口内炎,脳梗塞,血栓症,自律神経失調症,生理痛,直腸ガン,胃潰瘍等)の症状改善に効果がある

第3 取消事由に関する原告の主張
 取消事由1(甲1と対比して構成Dにおいて相違するとした認定判断の誤り)
・・・。

 取消事由2(構成Dは,甲1,2から認識できる範囲内の効果である点を看過した誤り)
本件特許発明の構成Dは,甲1,2から読み取れる範囲内の効果であるから,構成Dを相違点とした審決の認定は誤りである。
当業者であれば,本件優先日当時の技術常識を参酌することで,甲1,2記載の過酸化水素の分解に関する記載から,スーパーオキサイドアニオンについても分解されていることを自明のこととして認識できた。すなわち,甲1には,白金コロイドが電子を供与する電子供与体であること(段落【0016】),過酸化水素分解活性を示すこと(段落【0027】)が開示されている。また,・・・。

 判断
前記事実を前提として,本件特許発明の新規性の有無について検討する。

(1) 一般に,公知の物は,特許法29条1項各号に該当するから,特許の要件を欠くことになる。しかし,その例外として,①その物についての非公知の性質(属性)が発見,実証又は機序の解明等がされるなどし,②その性質(属性)を利用する方法(用途)が非公知又は非公然実施であり,③その性質(属性)を利用する方法(用途)が,産業上利用することができ,技術思想の創作としての高度なものと評価されるような場合には,単に同法2条3項2号の「方法の発明」として特許が成立し得るのみならず,同項1号の「物の発明」としても,特許が成立する余地がある点において,異論はない(特許法29条1項,2項,2条1項)。もっとも,物に関する「方法の発明」の実施は,当該方法の使用にのみ限られるのに対して,「物の発明」の実施は,その物の生産,使用,譲渡等,輸出若しくは輸入,譲渡の申出行為に及ぶ点において,広範かつ強力といえる点で相違する。このような点にかんがみるならば,物の性質の発見,実証,機序の解明等に基づく新たな利用方法に基づいて,「物の発明」としての用途発明を肯定すべきか否かを判断するに当たっては,個々の発明ごとに,発明者が公開した方法(用途)の新規とされる内容,意義及び有用性,発明として保護した場合の第三者に与える影響,公益との調和等を個々的具体的に検討して,物に係る方法(用途)の発見等が,技術思想の創作として高度のものと評価されるか否かの観点から判断することが不可欠となる。
以上に照らして,本件特許発明の新規性の有無について検討する。

(2) 前記1のとおり,本件補正明細書には,以下の記載がある。すなわち,①「背景技術」として,スーパーオキサイドアニオン等の活性酸素種(ラジカル)が生体内で生体制御に関与していると言われていること,活性酸素が関与する疾病として,ガン,糖尿病,アトピー性皮膚炎,アルツハイマー,網膜色素変性症等が挙げられ,ヒトの病気の90%には何らかのかたちで過剰状態の活性酸素が関与していると言われていること,②本件特許発明の「解決課題」として,生体内で生成する活性酸素のうちO2-(スーパーオキサイドアニオン)等を効率よく消失させ,生体内におけるこれらの活性酸素の過剰状態を解消するための手段を提供することを目的としていること,③本件特許発明の「課題解決手段」として,白金微粉末等の微粉末は,生体内においてスーパーオキサイドアニオンを分解できること,④実施例及び実験結果を示した上,白金微粉末等の微粉末それ自体を,医薬又は化粧料として使用できるほか,健康食品の製造や医薬又は化粧料などの製造に使用することもできるとしていること,⑤本件特許発明の「産業上の利用可能性」として,本件発明のスーパーオキサイドアニオン分解剤を,生体に投与することにより,生体内の過剰なスーパーオキサイドアニオンを分解することができること等が記載されている。

他方,甲1には,前記のとおり,構成AないしCを充足する白金微粉末として,(a)コロイド中の白金粒子が,単一粒子かつ10nm 以下で,その単一粒子が鎖状になった凝集粒子が150nm オーダー以下で分散している白金コロイド溶液であって,たとえば,金属塩還元法(特に,特願平11-259356号に記載の方法)により製造されるもの等があること,白金微粉末を体内に取りいれる方法が示されていること,白金微粉末の上記方法は,各種病気の症状改善に効果があること等が記載,開示されている

(3) 本件特許発明の構成AないしC記載の白金の微粉末は,甲1の白金微粉末を含んでいるから,公知の物質であるといえる(この点,当事者間に争いはない。なお,本件特許発明記載の白金の微粉末は,甲1を示すまでもなく,物質として公知である。)。
そして,本件補正明細書の記載によれば,①スーパーオキサイドアニオン等の活性酸素種が関与する疾病として,ガン,糖尿病,アトピー性皮膚炎,アルツハイマー,網膜色素変性症等が存在すること,②構成AないしCに該当する白金微粉末には,スーパーオキサイドアニオンを分解できる属性を有することが確認されたことが記載されている。また,特許請求の範囲の記載によれば,本件特許発明は,構成AないしCに該当する白金微粉末を,「医薬品」「健康食品」又は「化粧品」の用途に使用するための「物の発明」として特許請求されたのではなく,「スーパーオキサイドアニオン分解剤」の用途に使用するための「物の発明」として特許請求されている。

他方,甲1には,構成AないしCに該当する白金微粉末は,ガン,糖尿病,アトピー性皮膚炎などの予防又は治療に有効であると期待されていること,そのような効果を期待して,水溶液として,体内に投与する方法が示されていることが記載され,同記載によれば,そのような使用方法は,公知であることが認められる。そうすると,甲1には,白金微粉末がスーパーオキサイドアニオンを分解する作用が明示的形式的に記載されていないものの,従来技術(甲1)の下においても,白金微粉末を上記のような方法で用いれば,スーパーオキサイドアニオンが分解されることは明らかであり,白金微粉末によりスーパーオキサイドアニオンが分解されるという属性に基づく方法が利用されたものと合理的に理解される(甲24参照)。

以上によれば,本件特許発明における白金微粉末を「スーパーオキサイドアニオン分解剤」としての用途に用いるという技術は,甲1において記載,開示されていた,白金微粉末を用いた方法(用途)と実質的に何ら相違はなく,新規な方法(用途)とはいえないのであって,せいぜい,白金微粉末に備わった上記の性質を,構成Dとして付加したにすぎないといえる。すなわち,構成Dは,白金微粉末の使用方法として,従来技術において行われていた方法(用途)とは相違する新規の高度な創作的な方法(用途)の提示とはいえない

これに対し,被告は,本件発明は,白金微粉末における,新たに発見した属性に基づいて,同微粉末を「剤」として用いるものである以上,新規性を有すると主張する。しかし,確かに,一般論としては,既知の物質であったとしても,その属性を発見し,新たな方法(用途)を示すことにより物の発明が成立する余地がある点は否定されないが,本件においては,新規の方法(用途)として主張する技術構成は,従来技術と同一又は重複する方法(用途)にすぎないから,被告の上記主張は,採用の限りでない。本願審査の段階において,還元水としての用途については,削除されたものと認められる(甲21参照)が,そのような限定が付加されたとしても,従来技術を含む以上,本件特許発明の新規性が肯定されるものとはいえない。

 結論
以上のとおりであり,本件特許発明は,甲1の記載と実質的には同一のものであり,新規性を欠くことになるから,これと異なる認定,判断をした審決には誤りがある。原告の取消事由に係る主張には理由がある。その他,被告は,縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
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