■クレーム解釈: テレビジョン番組リスト、平成19年(ワ)第27187号 特許権侵害差止等請求事件


平成21年7月15日 東京地方裁判所
原告: スターサイトテレキャストインコーポレイテッド
被告: 株式会社東芝
請求項1: タイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含んでいる複数のテレビジョン番組リストを電子メモリに記憶するステップ,時間とチャンネルのグリッドガイド形式で前記の複数のテレビジョン番組リストのチャンネルの中の幾つかをモニタースクリーン上に表示するステップ,このモニタースクリーン上でカーソルを移動してグリッドガイド形式で表示されたチャンネルの一つに目印を付けるステップ,そしてグリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目印を付けたチャンネルを表示するステップを備え,前記の単一チャンネル形式はその目印を付けたチャンネルに対応するチャンネルのテレビジョン番組リストを順次配列した行を含んでいることを特徴としたテレビジョン番組リストのデータベースを閲覧する方法。

コメント: 分割出願の権利行使の際に、原告の主張するクレームの用語の解釈が、原出願のときと異なっていてもOK(禁反言にならない)と判断された例。 請求棄却(構成要件非充足、進歩性欠如)。 ☆☆

裁判所: 「被告は,原出願の拒絶査定に対する審判手続及び原出願審決に対する審決取消訴訟手続では,原告が,「テレビジョン番組リスト」の用語を「個々の番組単位における番組情報」の意味では使用しておらず,各手続における特許庁の主張及び裁判所の判決においても,「テレビジョン番組リスト」とは,テレビジョン番組のタイトルのリスト,すなわち,テレビジョン番組のタイトルが並んだものと解されているから,本件発明における「テレビジョン番組リスト」の文言についても,「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」を意味すると解すべきであり,分割出願に係る本件特許権による権利行使の際に,同用語の意義を違えて主張することは,信義則に基づく禁反言法理から許されないと主張する。

しかしながら,分割出願制度は,一つの出願において二つ以上の異なる発明の特許出願をした出願人に対し,出願を分割する方法により,各発明につき,それぞれ元の出願の時に遡って出願がされたものとみなして特許を受けさせるものであるから,原出願で特許出願された発明と,分割出願で特許出願された発明は,本来,内容を異にするものであり,分割出願された発明の「特許請求の範囲」に記載された文言の解釈が,原出願の手続における文言の解釈と必ずしも一致する必要はないというべきである。したがって,本件特許の「テレビジョン番組リスト」の文言の解釈において,仮に,原出願の拒絶査定に対する審判手続及び原出願審決に対する審決取消訴訟手続において使用された「テレビジョン番組リスト」の文言の意味とは異なる解釈をしたとしても,禁反言法理から許されないとはいえず,被告の上記主張は採用できない。」


平成21年7月15日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成19年(ワ)第27187号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成21年4月22日
判決
アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス《以下省略》
原告スターサイトテレキャストインコーポレイテッド
同訴訟代理人弁護士片山英二
同本多広和
同岡本尚美
同牧恵美子
同補佐人弁理士加藤志麻子
東京都港区《以下省略》
被告株式会社東芝
同訴訟代理人弁護士内田公志
同鮫島正洋
同木村貴司
同岩永利彦
同松島淳也

◆主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を14日と定める。

事実及び理由
◆第1 請求
1 被告は,別表1記載のレコーダー及び別表2記載のテレビを製造,販売してはならない。
2 被告は,前項記載のレコーダー及びテレビを廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,26億3212万円及びこれに対する平成19年10月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 仮執行宣言

◆第2 事案の概要
本件は,テレビジョン番組リストのユーザーインタフェースに関する特許権を有する原告が,被告に対し,被告が製造,販売した別表1記載の各製品(以下「イ号物件」といい,イ号物件を用いて実施される方法を「イ号方法」という。)及び別表2記載の各製品(以下「ロ号物件」といい,ロ号物件を用いて実施される方法を「ロ号方法」という。なお,イ号物件及びロ号物件を併せて「被告製品」という。)は,上記特許権に係る発明の技術的範囲に属し,上記特許権を侵害すると主張して,被告製品の製造,販売の差止め及び廃棄を求めるとともに,特許法102条3項に基づく損害賠償として,26億3212万円及びこれに対する本訴状送達日の翌日である平成19年10月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

▼1 争いのない事実等(争いのない事実以外は,証拠を項目の末尾に記載する。)
(1)原告の特許権(甲2)
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」といい,本件特許に係る発明を「本件発明」という。)を有している。
特許番号 第3600149号
発明の名称 テレビジョン番組リストのユーザーインタフェース
出願日 平成12年10月20日
分割の表示 特願平3-516691の分割
原出願日 平成3年9月10日
優先日 平成2年9月10日
優先権主張国 米国
登録日 平成16年9月24日
特許請求の範囲
請求項1(請求項1に係る発明を「本件発明1」という。)
「タイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含んでいる複数のテレビジョン番組リストを電子メモリに記憶するステップ,時間とチャンネルのグリッドガイド形式で前記の複数のテレビジョン番組リストのチャンネルの中の幾つかをモニタースクリーン上に表示するステップ,このモニタースクリーン上でカーソルを移動してグリッドガイド形式で表示されたチャンネルの一つに目印を付けるステップ,そしてグリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目印を付けたチャンネルを表示するステップを備え,前記の単一チャンネル形式はその目印を付けたチャンネルに対応するチャンネルのテレビジョン番組リストを順次配列した行を含んでいることを特徴としたテレビジョン番組リストのデータベースを閲覧する方法。」
請求項6(請求項6に係る発明を「本件発明2」という。)
「タイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含んでいる複数のテレビジョン番組リスト,このテレビジョン番組リストの中の幾つかを表示する時間とチャンネルのグリッドガイド,このグリッドガイドに表示されたテレビジョン番組リストの一つを選択して目立たさせる可動カーソル,そして時間とチャンネルのグリッドガイドをその目立たせたテレビジョン番組リストのチャンネルの単一チャンネルガイドに変える手段を備えていることを特徴とする電子番組ガイド。」
請求項8(請求項8に係る発明を「本件発明3」という。)
「テレビジョン番組リストを複数のセル内に表示している時間とチャンネルのグリッドガイド形式で表示モニターに,RAMに記憶したテレビジョン番組リストを表示させる信号を発生し,その表示されたテレビジョン番組リストの一つを目立たさせる信号を発生し,そして,グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目立たされたテレビジョン番組リストを表示する信号を発生するようプログラムされていることを特徴としたマイクロプロセッサ。」
請求項16(請求項16に係る発明を「本件発明4」という。)
「複数のテレビジョン番組リストに対応し,テレビジョン番組リスト毎にタイトル,チャンネルそして開始時間を含んでいるデータファイルをメモリに記憶するステップ,メモリに記憶されている複数のテレビジョン番組リストをディスプレイモニターに表示するステップ,記録するためビデオ記録媒体をVCRまたはその他の記録装置内に装填するステップ,表示された複数のテレビジョン番組リストの中の一つを記録するために選択するステップ,そして記録するために選択されたテレビジョン番組リストが示している番組をVCRまたはその他の記録装置に記録する…ために前記の記録するために選択されたテレビジョン番組リストのデータを前記のデータファイルからVCRまたはその他の記録装置に転送するステップを備えることを特徴とするVCRまたはその他の記録装置を使用して,ビデオ記録媒体にテレビジョン番組を記録する方法。」
請求項30(請求項30に係る発明を「本件発明5」という。)
「タイトル,チャンネルそして開始時間をテレビジョン番組リスト毎に含んでいる複数のテレビジョン番組リストのデータファィルを記憶しているRAMから前記の複数のテレビジョン番組リストを取り出してディスプレイモニターに表示する信号を発生し,この表示された複数のテレビジョン番組リストの中の一つを記録するためその一つのテレビジョン番組リストを特定する信号を発生し,そしてこの記録するために選択されたテレビジョン番組リストに対応するデータをデータファイルからVCRまたはその他の記録装置に転送するための信号を発生するようプログラムされ,前記の記録するために選択されたテレビジョン番組リストが示している番組を記録させるようにすることを特徴としたマイクロプロセッサ。」

(2)構成要件の分説
ア 本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
A タイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含んでいる複数のテレビジョン番組リストを電子メモリに記憶するステップ,B 時間とチャンネルのグリッドガイド形式で前記の複数のテレビジョン番組リストのチャンネルの中の幾つかをモニタースクリーン上に表示するステップ,C このモニタースクリーン上でカーソルを移動してグリッドガイド形式で表示されたチャンネルの一つに目印を付けるステップ,そしてD グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目印を付けたチャンネルを表示するステップE を備え,前記の単一チャンネル形式はその目印を付けたチャンネルに対応するチャンネルのテレビジョン番組リストを順次配列した行を含んでいるF ことを特徴としたテレビジョン番組リストのデータベースを閲覧する方法。
イ 本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
G タイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含んでいる複数のテレビジョン番組リスト,H このテレビジョン番組リストの中の幾つかを表示する時間とチャンネルのグリッドガイド,I このグリッドガイドに表示されたテレビジョン番組リストの一つを選択して目立たさせる可動カーソル,そしてJ 時間とチャンネルのグリッドガイドをその目立たせたテレビジョン番組リストのチャンネルの単一チャンネルガイドに変える手段K を備えていることを特徴とする電子番組ガイド。
ウ 本件発明3を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
L テレビジョン番組リストを複数のセル内に表示している時間とチャンネルのグリッドガイド形式で表示モニターに,RAMに記憶したテレビジョン番組リストを表示させる信号を発生し,M その表示されたテレビジョン番組リストの一つを目立たさせる信号を発生し,そしてN グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目立たされたテレビジョン番組リストを表示する信号を発生O するようプログラムされていることを特徴としたマイクロプロセッサ。
エ 本件発明4を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
P 複数のテレビジョン番組リストに対応し,テレビジョン番組リスト毎にタイトル,チャンネルそして開始時間を含んでいるデータファイルをメモリに記憶するステップ,Q メモリに記憶されている複数のテレビジョン番組リストをディスプレイモニターに表示するステップ,R 記録するためビデオ記録媒体をVCRまたはその他の記録装置内に装填するステップ,S 表示された複数のテレビジョン番組リストの中の一つを記録するために選択するステップ,そしてT 記録するために選択されたテレビジョン番組リストが示している番組をVCRまたはその他の記録装置に記録するために前記の記録するために選択されたテレビジョン番組リストのデータを前記のデータファイルからVCRまたはその他の記録装置に転送するステップU を備えることを特徴とするVCRまたはその他の記録装置を使用して,ビデオ記録媒体にテレビジョン番組を記録する方法。
オ 本件発明5を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
V タイトル,チャンネルそして開始時間をテレビジョン番組リスト毎に含んでいる複数のテレビジョン番組リストのデータファィルを記憶しているRAMから前記の複数のテレビジョン番組リストを取り出してディスプレイモニターに表示する信号を発生し,W この表示された複数のテレビジョン番組リストの中の一つを記録するためその一つのテレビジョン番組リストを特定する信号を発生し,そしてX この記録するために選択されたテレビジョン番組リストに対応するデータをデータファイルからVCRまたはその他の記録装置に転送するための信号を発生するようY プログラムされ,前記の記録するために選択されたテレビジョン番組リストが示している番組を記録させるようにすることを特徴としたマイクロプロセッサ。
カ なお,本件発明において,「グリッドガイド形式」とは,格子状のテレビジョン番組表(形式)をいう。

(3)被告の行為被告は,被告製品であるイ号物件及びロ号物件を,別表1及び2発売日欄記載の各発売日より製造し,販売している。

(4)被告製品の構成(甲5の1ないし24,甲6の1ないし35)
ア 被告製品が受信するのは,タイトル,放送時間のほか,「チャンネル」ではなく,「放送局コード」を含んでいる複数のテレビジョン番組情報である。
イ 被告製品は,格子状の番組表形式に表示されたテレビジョン番組情報ごとに移動可能な枠を移動させ,テレビジョン番組情報の一つを目立たせることによって,対応する「テレビジョン番組情報にかかる欄」に目印を付けている。

(5)本件発明と被告製品との対比等ロ号方法は,本件発明4の要件Uを充足する。

(6)特許出願の経緯等
ア 原出願(乙6の1ないし7,乙8)
(ア)原告は,平成3年9月10日,「テレビジョンスケジュールシステムのユーザーインタフェース」に関する発明(以下「原出願発明」という。)について,アメリカ合衆国において平成2年9月10日に行った特許出願(以下「原外国出願」という。)に基づく優先権を主張して,特許の出願(特願平3-516691,以下「原出願」という。)をした。
(イ)特許庁は,平成12年6月16日,原出願を拒絶査定し,原告は,同年9月25日,これに対する審判を請求(不服2000-15237)したが,特許庁は,平成14年5月31日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「原出願審決」という。)をした。
原告は,平成14年,東京高等裁判所に対し,上記審決に対する審決取消訴訟(同年(行ケ)第529号)を提起したが,同裁判所は,平成16年9月30日,請求棄却の判決をした。

イ 本件特許(甲1,2,乙14,16,17)
(ア)原告は,平成12年10月20日,原出願の分割出願として,本件特許の出願(特願2000-321391)をした。
(イ)原告は,本件特許の出願手続において,特許請求の範囲のうち,請求項1の要件Cに該当する部分について,当初は,「スクリーン上でカーソルを移動して,グリッドガイド形式で表示されたタイトルの一つに目印を付け,そして」と記載し,目印を付ける対象を「タイトル」としていたが,平成15年9月24日,手続補正書及び同日付け意見書を提出し,請求項の表現を読みやすく訂正するとの理由により,「このモニタースクリーン上でカーソルを移動してグリッドガイド形式で表示されたチャンネルの一つに目印を付けるステップ,そして」と補正し,目印を付ける対象を「チャンネル」とした。
(ウ)本件特許は,平成16年9月24日,特許権の設定登録がされた。

▼2 争点
(1)被告製品の構成
(1)-1 イ号方法及びイ号物件の構成
(1)-2 ロ号方法及びロ号物件の構成
(2) 侵害論
(2)-1 請求項における用語の解釈
(2)-2 本件発明1の侵害の有無(イ号方法及びイ号物件)
(2)-3 本件発明2の侵害の有無(イ号方法及びイ号物件)
(2)-4 本件発明3の侵害の有無(イ号方法及びイ号物件)
(2)-5 本件発明4の侵害の有無(ロ号方法及びロ号物件)
(2)-6 本件発明5の侵害の有無(ロ号方法及びロ号物件)
(3) 無効論
(3)-1 本件発明1の無効理由の有無
(3)-2 本件発明2の無効理由の有無
(3)-3 本件発明3の無効理由の有無
(3)-4 本件発明4の無効理由の有無
(3)-5 本件発明5の無効理由の有無
(4) 損害論

▼3 争点に対する当事者の主張


◆第3 当裁判所の判断
▼1 争点(2)侵害論,(2)-1請求項における用語の解釈について
本件発明の技術的範囲を確定し,イ号方法及びイ号物件並びにロ号方法及びロ号物件の本件発明の構成要件充足性を検討する前提として,まず,本件発明の「特許請求の範囲」記載の用語の解釈について,検討する。
(1) テレビジョン番組リスト
ア 本件発明1ないし3
(ア) 本件発明1に関する「特許請求の範囲」の記載によると,本件発明1の要件Aには「タイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含んでいる複数のテレビジョン番組リストを電子メモリに記憶する」と記載され,「複数」の「テレビジョン番組リスト」の「それぞれ」が「タイトル,放送時間そしてチャンネル」という個々の番組を特定するための番組情報を含むものであり,また,「テレビジョン番組リスト」そのものが電子メモリに記憶される対象として規定されていること,本件発明1の要件Bには,「時間とチャンネルのグリッドガイド形式で…複数のテレビジョン番組リストのチャンネルの中の幾つかをモニタースクリーン上に表示する」と記載され,要件Eには「…単一チャンネル形式はその目印を付けたチャンネルに対応するチャンネルのテレビジョン番組リストを順次配列した行を含んでいる」と記載されており,「テレビジョン番組リスト」は,それ自体が,「複数」,「順次配列」し得るようなものと認められ,グリッドガイド形式又は単一チャンネル形式という表示形式で表示される対象として規定されていることからすると,本件発明1において,「テレビジョン番組リスト」とは,「個々の番組単位の番組情報」を意味すると解するのが相当である。
(イ) 本件発明2に関する「特許請求の範囲」の記載によると,本件発明2の要件Gには「タイトル,放送時間そしてチャンネルをそれぞれが含んでいる複数のテレビジョン番組リスト」と記載され,「複数」の「テレビジョン番組リスト」の「それぞれ」が「タイトル,放送時間そしてチャンネル」という番組情報を含むものとして規定されていること,要件Hの「このテレビジョン番組リストの中の幾つかを表示する時間とチャンネルのグリッドガイド」との記載は,複数の「テレビジョン番組リスト」が,グリッドガイド形式で表示される対象となることを表わしていると解されること,要件Iの「表示されたテレビジョン番組リストの一つを選択して目立たさせる」との記載及び要件Jの「その目立たせたテレビジョン番組リスト」との記載からすると,「テレビジョン番組リスト」は,表示された中から,個別に選択され,また,選択されたことを示すために目立たさせられるものとして規定されていること,そして,選択され,目立たさせられるためには,個別に特定されていることが必要であること等を考慮すると,本件発明2において,「テレビジョン番組リスト」とは,「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」を意味すると解するのが相当である。
(ウ) 本件発明3に関する「特許請求の範囲」の記載によると,本件発明3の要件Lには「テレビジョン番組リストを複数のセル内に表示している時間とチャンネルのグリッドガイド形式で表示モニターに,RAMに記憶したテレビジョン番組リストを表示させる信号を発生し」と記載され,「テレビジョン番組リスト」が,グリッドガイド形式の「複数のセル内」に表示されるものであり,また「テレビジョン番組リスト」そのものがRAMに記憶される対象として規定されていること,要件Nの「単一チャンネル形式でその目立たされたテレビジョン番組リストを表示する」との記載は,「テレビジョン番組リスト」が,単一チャンネル形式の画面表示において表示される対象となることを表わしていること,要件Mには,「その表示されたテレビジョン番組リストの一つを目立たさせる信号」と記載され,「テレビジョン番組リスト」が,個別に目立たさせられる対象となるものとして規定されていること,個別に目立たさせられるためには,それぞれが特定されていることが必要であること等を考慮すると,本件発明3において,「テレビジョン番組リスト」とは,「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」を意味すると解するのが相当である。
(エ) 以上のとおり,本件発明1ないし3においては,「テレビジョン番組リスト」は,「個々の番組単位の番組情報」あるいは「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」を意味すると解するのが相当である。
イ 本件発明4及び5
(ア) 本件発明4に関する「特許請求の範囲」の記載によると,本件発明4の要件Pの「複数のテレビジョン番組リストに対応し,テレビジョン番組リスト毎にタイトル,チャンネルそして開始時間を含んでいるデータファイル」との記載及び要件Tの「記録するために選択されたテレビジョン番組リストのデータ」との記載があり,これらの記載からすると,「テレビジョン番組リスト」は,それ自体が「複数」あり,「テレビジョン番組リスト」,「毎」に「タイトル,チャンネルそして開始時間」という番組情報(データ)を含むものとして規定されていること,要件Qの「メモリに記憶されている複数のテレビジョン番組リストをディスプレイモニターに表示する」,要件Sの「表示された複数のテレビジョン番組リストの中の一つを記録するために選択する」,要件Tの「記録するために選択されたテレビジョン番組リストが示している番組を…記録するために選択されたテレビジョン番組リストのデータを前記のデータファイルからVCRまたはその他の記録装置に転送する」との各記載からすると,「テレビジョン番組リスト」は,その複数がメモリに記憶されるものであるとともに,ディスプレイモニターに表示され,また,表示された中から記録するためにその一つが個別に選択される対象となるものであり,さらに,そのデータが記録装置等に転送されるものとして規定されていること,個別に選択されるためには,それぞれが特定されていることが必要であること等を考慮すると,本件発明4において,「テレビジョン番組リスト」とは,「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」を意味すると解するのが相当である。
(イ) 本件発明5に関する「特許請求の範囲」の記載によると,本件発明5の要件Vの「タイトル,チャンネルそして開始時間をテレビジョン番組リスト毎に含んでいる複数のテレビジョン番組リスト」との記載,要件Wの「この表示された複数のテレビジョン番組リスト」との記載があり,これらの記載からすると,「複数」の「テレビジョン番組リスト」は,それぞれが「タイトル,チャンネルそして開始時間」という番組情報を含むものとして規定されていること,要件Vの「記憶しているRAMから前記の複数のテレビジョン番組リストを取り出してディスプレイモニターに表示する信号を発生」との記載,要件Wの「この表示された複数のテレビジョン番組リストの中の一つを記録するためその一つのテレビジョン番組リストを特定する信号を発生」との記載,要件Xの「この記録するために選択されたテレビジョン番組リストに対応するデータをデータファイルからVCRまたはその他の記憶装置に転送するための信号を発生」との記載,要件Yの「前記の記録するために選択されたテレビジョン番組リストが示している番組を記録させる」との記載からすると,「テレビジョン番組リスト」は,記憶されたRAMからその複数が取り出され,ディスプレイモニターに表示され,表示された中から記録するためにその一つが特定され選択される対象として規定されていること等を考慮すると,本件発明5においては,「テレビジョン番組リスト」とは,「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」を意味すると解するのが相当である。
(ウ) 以上のとおり,本件発明4及び5においては,「テレビジョン番組リスト」は,「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」を意味すると解するのが相当である。
ウ 「テレビジョン番組リスト」の解釈に関して,本件明細書の記載及び図面を検討すると,本件明細書には,「テレビジョン番組リスト」の文言は,本件明細書の「発明の詳細な説明」のうち,「発明が解決しようとする課題」(段落【0008】)及び「課題を解決するための手段」(段落【0009】)の欄以外には記載されていないが,これに類似する文言である「番組リスト」,「TVリスト」,「リスト」については,次のとおりの記載がある。
(ア) 本件明細書の段落【0031】には,「図7は…単一チャンネルの番組リスト58のスクリーン22を示す。リスト58は,そのチャンネルの一連の番組リストの行60とチャンネル情報フィールド62を含む。」と記載され,この説明に対応する【図7】では,番組リストの行60として,「11:30 A 判事(パート2)」等の,個々の番組単位の開始時間,タイトル等の番組情報の記載された各行が示されている。
(イ) 本件明細書の段落【0022】の「TV表示部のテキストスペースの制限により,可能な限りTVリストの多数の行を表示するのが好ましい」との記載では,「TVリスト」は,「多数」の「行」に表示されるものであることが示されている。
(ウ) 本件明細書の段落【0019】では,「各スケジュール更新後,スケジュールシステムは,リンクされたタイトル(図24)でのタイトルに合致するいかなるタイトルの発生に対しても新規のリストを調査する。もしタイトルが合致すれば,それは自動的に記録のために標識が付けられる。」と記載され,番組のスケジュール情報が更新されると,番組リンクアイコン46が付された番組のタイトル情報と更新後の「新規のリスト」との突き合わせがされ,合致した場合には後者に自動的に記録のために標識が付けられるとされており,上記「リスト」は,情報を含むものとして,調査され,場合によっては自動的に記録のために標識が付けられる対象となるものとされている。
(エ) 本件明細書の段落【0024】には,「選択した番組の番組ノートは,要求に応じてグリッドガイド上に重ねて表示される。…番組ノート52は,ガイドの3または4のリストに重ねられるか隠してしまう。
ガイドの隠蔽を最小にするために,自動移動ノートが使用される。番組ノートは,スクリーンの上半分か下半分に重ねられ,必要に応じて,選択されたリストのタイトルをマスクを回避できるようになっている。」と記載され,これに対応する【図6】では,番組ノート52が,番組情報(タイトル)を表示した行を数行隠しているものの,選択された「ゴールデン ガールズ」という番組情報(タイトル)を隠さないよう,スクリーンの下半分に位置している様子が示されている。
(オ) 本件明細書の段落【0073】の「リスト情報やケーブルチャンネル割当データといった他の支持情報が…一日数回または連続的にVBIに送信される」との記載,段落【0074】の「VBI信号がCPU228によって処理された後,リストデータは,スケジュールメモリ232へ記憶される」との記載及び段落【0076】の「TV内容確認要求に関して,スケジュールメモリ232に記憶されているリストが呼び出され,CPU228で処理され,ビデオ表示発生器224へ出力される。」との記載によると,「リスト」の用語は,上記各段落では,情報を含むものとして,VBIに送信され,CPU228によって処理された後,スケジュールメモリ232に記憶される対象となるものである。
エ 以上のとおり,本件明細書の各記載及び図面によると,本件明細書における「番組リスト」(ただし,段落【0031】については「番組リストの行60」の「番組リスト」を示す。),「TVリスト」,「リスト」の文言は,個々の番組の番組情報を含み,画面上は行の中に表示され,あるいは,マイクロプロセッサにより処理されたりメモリに記憶されるものとして使用されているから,これらの文言は,「個々の番組単位の番組情報」を意味していると解するのが相当である。そして,上記のような本件明細書の記載及び図面を考慮すると,本件特許の「特許請求の範囲」に記載された「テレビジョン番組リスト」の文言の解釈については,これを「テレビジョン番組を特定するための個々の番組単位の番組情報」と解することが,本件明細書の記載等とも整合しているというべきである。
オ 被告は,「テレビジョン番組リスト」とは,「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」を意味すると主張し,「テレビジョン番組リスト」を文言解釈すると,「テレビ」の「番組」に関する「リスト」(「表のように項目を並べたもの」であり「情報」ではない。)であること,本件発明の「特許請求の範囲」の記載からしても,「テレビジョン番組リスト」を「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」と解釈し,本件発明1の要件Aについて,タイトルの並びに加えて放送時間,チャンネルを軸とした表形式で表せば,それぞれ「タイトル,放送時間,そしてチャンネル」を含んでいるリストとして観念し得るし,そのデジタル情報をRAMに記憶することも可能であると主張する。
しかしながら,上記のとおり,本件発明1の他の要件(要件B,E)の記載によると,「テレビジョン番組リスト」は,それ自体が,複数,グリッドガイド形式又は単一チャンネル形式という表示形式で表示される対象として規定されているから,「個別の番組情報」として解されており,これを「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」(番組表)として解釈することはできないというべきである。したがって,被告の上記主張は採用できない。
カ 被告は,本件明細書の段落【0011】及び【0031】の「番組リスト」,段落【0022】の「TVリスト」,段落【0065】,【0019】,【0024】の「リスト」という各文言の意味を考慮すると,いずれも「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」と解されるから,本件発明の「特許請求の範囲」の「テレビジョン番組リスト」の文言についても,同様に解されると主張する。そして,確かに,本件明細書の段落【0011】の記載によると,「番組リスト」は,「半時間長の三つのコラム28,及び十二の行30」から「構成され」,長さにより,隣接する時間帯の「二つかそれ以上のコラム28を重複して使用している」ものであるから,「番組リスト」は,縦横に並べられた複数のコラムと行から構成され,時間が長い番組については,複数のコラムを重複して使用しているような「番組表」を意味すると解することもできる。また,段落【0031】では,「単一チャンネルの番組リスト58」について,「リスト58は,そのチャンネルの一連の番組リストの行60とチャンネル情報フィールド62を含む。」と記載され,これに対応する【図7】においても,「リスト58」は,一連の番組情報を示す行とチャンネルが並べられた同図全体を指しているから,「リスト58」は,同段落においては「番組表」の意味で使用されているといえる。さらに,段落【0065】では,ユーザーがチャンネルを興味に合わせて除去する等してカスタム化し「リストをコンパクトにできる」とし,表形式のような「リスト」を簡略化することを記載しているから,同段落の「リスト」は「並んだもの」を意味していると解される。
しかしながら,本件明細書の「番組リスト」,「TVリスト」,「リスト」の各文言が,上記各段落においては「番組表」を意味すると解され得るとしても,上記ウのとおり,本件明細書の他の段落においては「番組情報」を意味すると解されることや,「特許請求の範囲」に記載された「テレビジョン番組リスト」の文言の解釈との関係において,同文言を「番組表」と解釈すると,複数の「テレビジョン番組リスト」のそれぞれが個々の番組を特定するための番組情報を含むものとされていたり(本件発明1,2,4,5),「テレビジョン番組リスト」が,個別に選択され,目立たさせられる対象となるものとして規定されていること(本件発明2ないし5)等と整合性のある解釈をすることはできないから,本件明細書に被告の主張するような記載があるとしても,「特許請求の範囲」における「テレビジョン番組リスト」の文言を「番組表」と解することはできないと言わざるを得ない。したがって,被告の主張を採用することはできない。

キ 被告は,原出願の拒絶査定に対する審判手続及び原出願審決に対する審決取消訴訟手続では,原告が,「テレビジョン番組リスト」の用語を「個々の番組単位における番組情報」の意味では使用しておらず,各手続における特許庁の主張及び裁判所の判決においても,「テレビジョン番組リスト」とは,テレビジョン番組のタイトルのリスト,すなわち,テレビジョン番組のタイトルが並んだものと解されているから,本件発明における「テレビジョン番組リスト」の文言についても,「テレビジョン番組のタイトルが並んだもの」を意味すると解すべきであり,分割出願に係る本件特許権による権利行使の際に,同用語の意義を違えて主張することは,信義則に基づく禁反言法理から許されないと主張する。

しかしながら,分割出願制度は,一つの出願において二つ以上の異なる発明の特許出願をした出願人に対し,出願を分割する方法により,各発明につき,それぞれ元の出願の時に遡って出願がされたものとみなして特許を受けさせるものであるから,原出願で特許出願された発明と,分割出願で特許出願された発明は,本来,内容を異にするものであり,分割出願された発明の「特許請求の範囲」に記載された文言の解釈が,原出願の手続における文言の解釈と必ずしも一致する必要はないというべきである。したがって,本件特許の「テレビジョン番組リスト」の文言の解釈において,仮に,原出願の拒絶査定に対する審判手続及び原出願審決に対する審決取消訴訟手続において使用された「テレビジョン番組リスト」の文言の意味とは異なる解釈をしたとしても,禁反言法理から許されないとはいえず,被告の上記主張は採用できない。

なお,被告は,本件特許の登録後に関連で再分割出願された2つの特許出願の経過についても主張するが,本件特許とは異なる特許出願における「特許請求の範囲」に記載された文言の解釈に係る主張であり,上記と同様の理由により,これを採用することはできない。

(2) グリッドガイド形式
ア 本件発明において,本件発明1の要件B,C,D,本件発明2の要件H,I,J,本件発明3の要件L,Nの「グリッドガイド形式」とは,格子状のテレビジョン番組表(形式)をいうことについては,当事者間に争いがないところ(前記第2,3(2)-1,イ),「格子状」とは,技術常識からして,必ずしも縦横が常に明瞭に区切られた状態である必要はなく,縦横の位置の目安が分かる程度の状態であれば足りると解されるから,番組表においては,時間とチャンネルを軸としてテレビジョン番組リストという情報(要素)が格子状に配列されていればよいと解される。
イ 被告は,「格子状」とは,「碁盤の目のように,縦横が常に明瞭に区切られた状態」,すなわち,時間とチャンネルの軸で常に明瞭に区切られている状態をいうと主張するが,上記の説示から明らかなように,このような限定解釈をする必要性及び合理性はなく,被告の主張を採用することはできない。
(3) チャンネルの一つに目印を付ける
ア 本件特許の「特許請求の範囲」の記載によると,本件発明1の要件Cでは「チャンネルの一つに目印を付ける」と記載され,目印を付ける対象を「チャンネル」と規定しているのに対し,他の本件発明である本件発明2の要件Iでは「テレビジョン番組リストの一つを選択して目立たさせる」,本件発明3の要件Mでは「テレビジョン番組リストの一つを目立たさせる」,本件発明4の要件Sでは「テレビジョン番組リストの中の一つを記録するために選択する」,本件発明5の要件Wでは「その一つのテレビジョン番組リストを特定する」とそれぞれ記載され,いずれも選択し,目立たさせ,あるいは特定する対象として「テレビジョン番組リスト」を規定しており,本件発明1の要件Cのみがあえて他の本件発明とは異なる規定- 100 -となっている。また,本件明細書の記載によると,段落【0027】には,「チューナが同調するチャンネルがグリッド24に表示されると,56で示されるように,そのチャンネルはハイライトされる」と記載され,対応する【図1】では,タイトル「若さと不安」と表示されたセルに実線及び破線の下線が引かれているのとは別に,チャンネル56の「2」が,ハッチング(網掛け)されている。そして,前記第2,1の争いのない事実等(以下,単に「争いがない事実等」と表記する。)(6)イのとおり,原告は,本件特許の出願手続において,請求項1の要件Cに該当する部分について,当初は,目印を付ける対象を「タイトル」と記載していたのを,平成15年9月24日,手続補正書及び同日付け意見書を提出し,請求項の表現を読みやすく訂正するとの理由により,目印を付ける対象を「チャンネル」に変更したものである。
そうすると,「チャンネルの一つの目印を付ける」とは,チャンネル軸に表示されているチャンネルの一つに目印を付けることを意味していると解するのが相当である。
イ 原告は,「チャンネルの一つに目印を付ける」とは,「単一チャンネル形式での表示に変換する契機となるチャンネル情報を選択する」ことであり,そのような情報を選択できれば,具体的態様については,特段の限定はないと解すべきであると主張する。そして,本件明細書の段落【0033】の記載及び【図2】,【図7】から,「モニター画面上の,テレビジョン番組リストを表示する部分を選択することによって,単一チャンネル形式表示に対応するチャンネル情報を選択する」方法が開示されていること,特許請求の範囲相互間での一部の表現が異なることをもって,一方の発明について,他方の発明における,その一部の異なった表現による実施態様を排除しているとか,そのような実施態様を含まない形で限定解釈しなければ信義則に反するということはないこと,本件特許の出願の経緯に- 101 -照らしても,補正の前後において,請求項1の発明の内容には実質的な変更がないこと等を主張する。
しかしながら,上記アのとおり,本件明細書の段落【0027】の記載及びこれに対応する【図1】からすると,「チャンネルの一つに目印を付ける」ことは,「チャンネル」が「ハイライトされる」(【図1】上は「チャンネル2」がハッチングされている。)ことにより表わされており,他方,「タイトルの一つに目印を付ける」ことは,タイトルが表示されたセル26をカーソル32が選択する(【図1】上は「若さと不安」というタイトルが表示されたセルに実線及び破線の下線が引かれている。)ことにより表わされていると解されるから,「チャンネルの一つに目印を付ける」ことと「タイトルの一つに目印を付ける」ことは,画面表示においては,異なる事項を指しているものと解される。また,利用者の観点からも,タイトルが表示されたセルをカーソルで選択することは,あくまで「タイトルの一つに目印を付け」て番組を選択することであり,「チャンネルの一つに目印を付ける」ことと認識しているものではないことからすると,「チャンネルの一つに目印を付ける」ことと「タイトルの一つに目印を付ける」こととは,別の技術的事項を表わしており,タイトルの表示に目印を付けるという態様は,チャンネル情報を選択する態様には含まれないと解するのが相当である。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(4) カーソル
ア 本件発明1の要件Dの「グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目印を付けたチャンネルを表示する」との記載,本件発明2の要件Jの「時間とチャンネルのグリッドガイドをその目立たせたテレビジョン番組リストのチャンネルの単一チャンネルガイドに変える」との記載及び本件発明3の要件Nの「グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネ- 102 -ル形式でその目立たされたテレビジョン番組リストを表示する」との記載のとおり,本件発明1ないし3は,グリッドガイド形式で表示された複数のテレビジョン番組リストを,単一チャンネル形式に切り替えることにより,テレビジョン番組リストをより見やすい形で表示することを技術的特徴としているところ,「カーソル」は,本件発明1の要件Cの「モニタースクリーン上でカーソルを移動してグリッドガイド形式で表示されたチャンネルの一つに目印を付ける」,本件発明2の要件Iの「このグリッドガイドに表示されたテレビジョン番組リストの一つを選択して目立たさせる可動カーソル」との各記載のとおり,上記グリッドガイド形式から単一チャンネル形式に切り替えるための契機となる情報の選択手段としての役割を果たしているにすぎないから,本件発明における「カーソル」とは,「表示装置の画面上の次の操作位置を指示するために用いられる可動で可視な標識」と解するのが相当である。
イ 被告は,本件発明における「カーソル」は,本件明細書の段落【0013】から【0015】に記載された①セル全体に広がり,かつ,②現在の基礎位置をはっきりとハイライトしているという2つの要素を具備するカーソルに限定して解釈すべきであると主張するが,本件発明1ないし3において,グリッドガイド形式で表示された複数のテレビジョン番組リストを,単一チャンネル形式に切り替えるという解決すべき課題との関係では,当該切替えの契機となる情報の選択手段としての「カーソル」について,被告の主張するような特定の形状のものに限定する合理的な理由はないというべきである。したがって,被告の主張を採用することはできない。
(5) 電子番組ガイド
ア 本件発明2の要件Jの「時間とチャンネルのグリッドガイドをその目立たせたテレビジョン番組リストのチャンネルの単一チャンネルガイドに変える手段」の記載からすると,本件発明2には,特定の機能を実現するた- 103 -めの手段が記載されているといえる。また,本件発明2の他の要件は,いずれも画面に表示されている要件Gの「テレビジョン番組リスト」,要件Hの「グリッドガイド」及び要件Iの「可動カーソル」をそれぞれ構成要素としているが,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,全体としてシステムの発明として記載されていることが明らかであるから,本件発明2は「システムの発明」であると解するのが相当である。
イ 被告は,本件発明2は,「システム」の発明ではなく,電子番組ガイドという表示態様に関する何らかの工夫に関する「表示物」の発明であると主張し,本件発明2の四つの要件GないしJのうち,三つの要件GないしIは,システムの発明としての記載になっていないことを理由として述べるが,そもそも請求項の分説は,対象製品が発明の技術的範囲に属するか否かを判断するために用いる便宜上の区分であることや,システムの発明において,必ずしも,すべての分説ないし構成要件が特定の機能を実現するための手段として記載されている必要はないと解されることからすると,被告の上記主張を採用することはできない。
また,被告は,「電子番組ガイド」に類似する文言として,本件明細書における「TVガイド」(段落【0006】,【0021】,【0025】)及び「ガイド」に関する記載を検討し,いずれも何らかの「表示物」として用いられているから,「電子番組ガイド」も「表示物」であると主張するが,上記のとおり,本件明細書における発明の詳細な説明では,本件発明2が,全体としてシステムの発明として記載されていることからすると,被告の上記主張を採用することはできない。

▼2 争点(2)侵害論,(2)-2本件発明1の侵害の有無(イ号方法及びイ号
物件)について
(1) 以上の用語の解釈に基づいて,イ号方法の本件発明1の充足性について検討する。
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ア 争いのない事実等(4)アのとおり,イ号方法は,タイトル,放送時間のほか,「チャンネル」ではなく,「放送局コード」を含む複数のテレビジョン番組情報を受信するという構成を有するイ号物件を用いて実施される方法であるところ,「チャンネル」は,地域により異なり,任意のチャンネルに対して任意の放送局を割り当てることができるのに対して,「放送局コード」は,地域によって異ならないものであるから,「チャンネル」と「放送局コード」は,技術的な概念として相違しており,「チャンネル」の概念に「放送局コード」の概念は含まれないと解される。
イ また,争いのない事実等(4)イのとおり,イ号方法は,「チャンネルの一つに目印を付ける」のではなく,テレビジョン番組情報の一つを目立たせることによって,対応する「テレビジョン番組情報にかかる欄」に目印を付けるという構成を有するイ号物件を用いて実施される方法であるところ,上記のとおり,「チャンネルの一つに目印を付ける」ことは,番組情報である「タイトルの一つに目印を付ける」こととは相違するものである。
ウ そうすると,イ号方法は,「チャンネル」と「放送局コード」の概念が異なるため,要件Aを充足しておらず,また,「チャンネルの一つに目印を付け」ていないので,要件C,D,Eを充足していない。
(2) したがって,その余の構成要件充足性を判断するまでもなく,イ号方法は,本件発明1の構成要件を充足していない。

▼3 争点(2)侵害論,(2)-3本件発明2の侵害の有無(イ号方法及びイ号
物件)について
(1) 前記の用語の解釈に基づいて,イ号物件の本件発明2の充足性について検討すると,争いのない事実等(4)アのとおり,イ号物件は,タイトル,放送時間のほか,「チャンネル」ではなく,「放送局コード」を含む複数のテレビジョン番組情報を受信する構成であり,「放送局コード」は,「チャ- 105 -ンネル」の概念とは相違するから,イ号物件は,要件Gを充足していない。
(2) したがって,その余の構成要件充足性を判断するまでもなく,イ号物件は,本件発明2の構成要件を充足していない。

▼4 争点(2)侵害論,(2)-4本件発明3の侵害の有無(イ号方法及びイ号物件)について
(1) 前記の用語の解釈に基づいて,イ号物件の本件発明3の充足性について検討する。
ア イ号物件のマイクロプロセッサは,「テレビジョン番組情報」である「テレビジョン番組リスト」を「格子状の表示形式」である「グリッドガイド形式」で表示モニターに表示させる信号を発生させている。また,イ号物件は,テレビジョン番組情報を「HDD」に記憶しているが,HDDに記憶するためには,当該情報をいったんRAMにも格納して取り扱わなくてはならないことは技術常識であるから,「RAMに記憶したテレビジョン番組リスト」を表示させているといえる。したがって,イ号物件のマイクロプロセッサは,構成要件Lを充足している。
イ 争いのない事実等(4)イのとおり,イ号物件のマイクロプロセッサは,グリッドガイド形式で表示された「テレビジョン番組情報」である「テレビジョン番組リスト」の一つを目立たせる信号を発生しているから,構成要件Mを充足している。
ウ イ号物件のマイクロプロセッサは,グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式で,当該目立たされた「テレビジョン番組情報」である「テレビジョン番組リスト」を表示する信号を発生するから,構成要件Nを充足している。
エ 「プログラムされているマイクロプロセッサ」が,プログラムが内蔵されているマイクロプロセッサだけではなく,外部のROMやHDD等に記憶されているプログラムによりプログラムされているマイクロプロセッサ- 106 -も含むことは,技術常識といえるから,イ号物件のマイクロプロセッサは,構成要件Oを充足している
(2) したがって,イ号物件は,本件発明3の構成要件LないしOのすべての構成要件を充足している。

▼5 争点(2)侵害論,(2)-5本件発明4の侵害の有無(ロ号方法及びロ号
物件)について
(1) 前記の用語の解釈に基づいて,ロ号方法の本件発明4の充足性について検討する。
ア 争いのない事実等(4)アのとおり,ロ号方法は,タイトル,放送時間のほか,「チャンネル」ではなく,「放送局コード」を含む複数のテレビジョン番組情報を受信するという構成を有するロ号物件を用いて実施される方法であるところ,「チャンネル」は,地域により異なり,任意のチャンネルに対して任意の放送局を割り当てることができるのに対して,「放送局コード」は地域によって異ならないものであるから,「チャンネル」と「放送局コード」は,技術的な概念として相違しており,「チャンネル」の概念に「放送局コード」の概念は含まれないと解される。
イ そうすると,ロ号方法は,「チャンネル」と「放送局コード」の概念が異なるため,要件Pを充足していない。
(2) したがって,その余の構成要件充足性を判断するまでもなく,ロ号方法は,本件発明4の構成要件を充足していない。

▼6 争点(2)侵害論,(2)-6本件発明5の侵害の有無(ロ号方法及びロ号
物件)について
(1) 前記の用語の解釈に基づいて,ロ号物件の本件発明5の充足性について検討すると,争いのない事実等(4)アのとおり,ロ号物件の「テレビジョン番組リスト」(「テレビジョン番組情報」)には,「チャンネル」は含まれず,「チャンネル」の概念とは相違する「放送局コード」が含まれてい- 107 -るから,ロ号物件は,要件Vを充足していない。
(2) したがって,その余の構成要件充足性を判断するまでもなく,ロ号物件は,本件発明5の構成要件を充足していない。

▼7 争点(3)無効論,(3)-3 本件発明3の無効理由の有無について
(1) 進歩性欠如について
ア 本件特許の優先権主張の日前である平成元年8月23日に頒布された特開平1-209399号公報(乙29文献)には,以下のとおりの記載がある。
(ア) 「本発明は,情報処理システムに係り,特に,定められたスケジュールに従って,提供される情報を処理する情報処理システムに関する」(1頁右3行から5行)
(イ) 「本発明の目的は,…予め定められたスケジュールに従って提供される提供情報の処理における,操作性の改善と処理の信頼性の向上を図った情報処理システムを提供することにある。」(2頁左上10行から14行)
「本件発明によれば,…提供される情報の内容と,その情報が提供されるスケジュールとが処理装置で処理可能な形態で予め提供されるようにし,この情報の中から処理の対象としたい提供情報の内容を選択することにより,そのスケジュールが処理装置に登録されるようにする。」(2頁左上16行から右上1行)
(ウ) 実施例
① 「本発明が適用されたVTRにおけるテレビ放送の録画予約処理システムは,第1図に示すように,VTR制御部3,予約制御部4,操作パネル5及びフロッピーディスク(以下FDという)装置6を有するVTR装置2と,ディスプレイ装置1とにより構成され,操作パネル5は,カーソル移動キー16,モード切替スイッチ17,設定スイ- 108 -ッチ18及びテンキー19等を備えて構成されている。」(2頁左下19行から右下6行)
② 「VTR制御部3は,VTRの基本機能である録画,再生機能,1週間分の番組の録画予約機能を含んでおり,録画開始,終了の日時と,そのチャンネル情報とは,予約制御部4からセットされるものとする。
予約制御部4は,1週間分のテレビ放送のスケジュールが記録されたFDの内容をFD装置6から読出して,その内容をRGB信号ケーブル7’を介してディスプレイ装置1に表示する。」(2頁右下14行から3頁左上2行)
③ 「FD装置6にセットされるFDは,予め提供される1週間分の放送スケジュールを記録しており,このFDに記録されている放送スケジュールの内容を示すデータの論理フォーマットが第2図に示されている。1日分のデータは,日付フィールド8,曜日フィールド8’に続き,各チャンネル毎に時間フィールドと番組フィールドとにより記録されている。1チャンネル分のフォーマットは,第2図の例では,まず,チャンネルフィールド9-1により1CHの番組であることが示された後,このフィールドに引続いて,時間フィールド10-1と番組フィールド11-1との対のフィールドが,1日分の番組の数だけ設けられて,番組スケジュールを示すように構成されている。次に,第2チャンネルの1日分のスケジュールが,チャンネルフィールド9-2に引続き,時間フィールド10-2と番組フィールド11-2との組が1日分の番組の数だけ設けられて示される。FD内には,番組を提供している全てのチャンネルについて,その一週間分の番組が順次前述と同様にフォーマットされたスケジュールとして記録されている。」(3頁左上9行から右上9行)
④ 「前述のフォーマットにおいて,時間フィールド10-1,10-- 109 -2には,対応する番組フィールド11-1,11-2で示される番組の開始及び終了時刻が記録されており,番組フィールド11-1,11-2には,一般的には番組名称と,必要に応じてその番組の概要が記録されている。」(3頁右上10行から15行)
⑤ 「第3図には,このようにして表示された画面の一例が示されており,FD内の日付フィールド8,曜日フィールド8’の情報は,日付エリア12に,チャンネルフィールド9-1,9-2の情報は,チャンネルエリア13-1,13-2に夫々表示され,番組フィールド11-1,11-2の情報は,時間フィールド10-1,10-2を表示する時間エリア14に対応した番組エリア15に夫々表示される。
第3図に示す例では,19時~23時における第1チャンネルと第2チャンネルの番組表が表示されている。」(3頁左下15行から右下4行)
⑥ 「録画予約を行おうとする操作者は,この表示画面の中に所望する番組を見付け出すと,カーソル移動キー16を操作して,カーソルを所望の番組に移動させる。カーソルは,その番組を表示しているエリア全体の色を変える等により,その番組を選択していることを示すものであり,第3図では,カーソルは斜線であらわされていて,ニュースAが選択された状態を示している。」(3頁右下5行から12行)
⑦ 「前述の実施例は,1画面に2つのチャンネルの番組表を表示できるようにしたが,表示されるチャンネル数は,さらに多くてもよい。
また,例えば,1個のチャンネルのみとして,表示できる時間帯を多くしてもよい。」(4頁左上2行から6行)
⑧ 「前述の実施例は,番組のスケジュールがフロッピーディスク等の記録媒体により提供されるとしたが,番組の情報が通信手段を介して直接VTRに提供されるようにしてもよい。」(4頁左上7行から1- 110 -0行)
⑨ 「前述の実施例は,本発明をVTR装置の録画予約を行うシステムに適用したものであるが,本発明は,予め定められたスケジュールに従って,提供される情報を処理するどのような情報処理システムにも適用することができる。」(4頁左上17行から右上1行)
⑩ また,図3には,番組スケジュールに含まれる番組の情報(時間,チャンネル,番組名など)を,縦軸に時間,横軸にチャンネルを配する複数のチャンネルの番組表形式で,ディスプレイ装置1に表示している一例が記載されている。
イ 乙29発明乙29文献には,上記のとおりの記載があり,上記ア②,⑤,⑩等の記載から,乙29発明の予約制御部4は,番組の情報を複数の番組エリア内に表示しており,縦軸に時間を,横軸にチャンネルをそれぞれ配する複数チャンネルの番組表形式で,ディスプレイ装置1に,FDに記憶した番組スケジュールに含まれる番組の情報を表示させるRGB信号を発生しているといえる。
また,乙29文献の上記ア②及び⑥等の記載から,乙29発明の予約制御部4は,表示された番組の情報の一つを選択していることを示すために,その番組を表示している番組エリア全体の色を変えるRGB信号を発生しているといえる。
さらに,乙29文献の上記⑦の記載から,乙29発明の予約制御部4が,1画面に複数のチャンネルの番組表を表示するRGB信号を発生する構成に代えて,1個のチャンネルのみの番組表を表示するRGB信号を発生する構成が示唆されているといえる。
なお,乙29発明では,FDに格納された番組のスケジュールが,ディスプレイ装置1に表示されることになるところ,このようにFDに記憶さ- 111 -れているデータをモニターに表示する際に,FDから読み出したデータをいったんRAMに格納してからモニター表示に適した信号に変換して表示する構成は,常套手段にすぎないから,乙29発明は,当該テレビジョン番組に係る情報を,「RAMに記憶」しているということができる。
したがって,乙29文献の記載からすると,同文献に記載された乙29発明は,以下のとおりのものと認められる。
「チャンネル,時間,番組名称等を含んでいる番組情報を,複数の番組エリア内に表示し,縦軸に時間を,横軸にチャンネルをそれぞれ配する複数チャンネルの番組表形式で,ディスプレイ装置1に,RAMに記憶した番組情報を表示させるRGB信号を発生し,その表示された番組情報の一つを選択していることを示すために,その番組を表示している番組エリア全体の色を変えるRGB信号を発生する予約制御部4であって,1画面に複数のチャンネルの番組表形式で表示する信号を発生する構成に代えて,1個のチャンネルのみの番組表形式を表示する信号を発生する構成が示唆されている予約制御部4」
ウ 本件発明3と乙29発明の対比
(ア) 本件発明3は,争いのない事実等で判示したとおりであり,これと乙29発明を対比すると,乙29発明の「チャンネル,時間,番組名称等を含んでいる番組情報」は本件発明3の「テレビジョン番組リスト」に,乙29発明の「番組エリア」は本件発明3の「セル」に,乙29発明の「縦軸に時間を,横軸にチャンネルをそれぞれ配する複数チャンネルの番組表形式」は本件発明3の「時間とチャンネルを軸とするグリッドガイド形式」に,乙29発明の「ディスプレイ装置1」は本件発明3の「表示モニター」に,乙29発明の「RGB信号」は本件発明3の「信号」に,乙29発明の「選択していることを示すため,その番組を表示している番組エリア全体の色を変える」は本件発明3の「目立た- 112 -せる」に,乙29発明の「1個のチャンネルのみの番組表形式」は本件発明3の「単一チャンネル形式」に,それぞれ相当することは明らかである。
また,乙29発明の「予約制御部4」と,本件発明3の「マイクロプロセッサ」とは,いずれも,制御手段である点で共通しているといえる。
(イ) したがって,本件発明3と乙29発明とは,「テレビジョン番組リストを複数のセル内に表示する時間とチャンネルを軸とするグリッドガイド形式で表示モニターに,RAMに記憶したテレビジョン番組リストを表示させる信号を発生し,その表示されたテレビジョン番組リストの一つを目立たさせる信号を発生することを特徴とする制御手段」である点で共通し,以下の点で相違する。
① 相違点1本件発明3は,信号を発生させるよう制御する制御手段として,プログラムされたマイクロプロセッサを用いているのに対し,乙29発明では,信号を発生させるよう制御する制御手段として,予約制御部4とのみ記載されており,どのような内部構成を備えているかが明確に開示されていない点
② 相違点2本件発明3は,グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目立たされたテレビジョン番組リストを表示する信号を発生しているのに対し,乙29発明は,グリッドガイド形式でテレビジョン番組リストを表示する信号を発生する構成の代わりに,単一チャンネル形式でテレビジョン番組リストを表示する信号を発生する構成を備えているかが明確に開示されていない点
(ウ) 原告は,本件発明3と乙29発明の相違点を,「本件発明3においては,『表示されたテレビジョン番組リストの一つを目立たさせる信- 113 -号を発生し,そしてグリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目立たされたテレビジョン番組リストを表示する信号を発生』するのに対し,乙29発明Cにおいてはこの点について記載がない」と主張する。しかしながら,上記ア(ウ)に認定した乙29文献の記載によると,同文献には,グリッドガイド形式で表示されるモニター画面上で,所望する番組を見付け出すと,カーソルを所望の番組に移動させ,カーソルは,その番組を表示しているエリア全体の色を変えるなどして,その番組を選択していることを示すことが開示されているから,乙29発明は,「表示されたテレビジョン番組リストの一つを目立たさせる」構成を有しているというべきである。したがって,原告の主張を採用することはできない。
エ 相違点1の検討乙29発明の属する情報処理システムの技術分野において,制御のための信号を発生させる制御手段として,制御のための信号を発生するようプログラムされたマイクロプロセッサを用いることは慣用技術にすぎないから,乙29発明の予約制御部4として,プログラムされたマイクロプロセッサを用いる構成を採用することも,当業者が容易に想到し得るものである。
したがって,相違点1に係る本件発明3の構成は,当業者が容易に想到できるといえる。
オ 相違点2の検討
(ア)①a 本件特許の優先権の主張日前である平成元年12月11日に頒布された特開平1-306962号公報(乙30文献)には,以下のとおりの記載がある。
「本発明は,…スケジュールの事柄に対して,その日時の管理を行うことのできるスケジュール管理装置に関する。」(1頁左下2- 114 -行から同頁右下1行)
「時間の単位を細かくすると表示装置自体を大きくする必要があり,…携帯しづらくなってくる。」(2頁左上10行から14行)
「本発明は,…スケジュールの時刻を例えば時間単位で表示しているにも限らず,それより小さい単位で認識できるスケジュール管理装置を提供するものである。」(2頁右上2行から5行)
「カレンダー機能は,モード選択キー16のカレンダーキー165を操作すれば,例えば第6図(a)のように1988年1月のカレンダー表示が表示装置2に行われる。」(3頁左下13行から17行)
「また,第6図(a)のカレンダー表示において,11日はカーソル位置を示し,その日を他の日より目立たせている。このカーソルの位置は,カーソル移動キー13にて上下左右に自在に移動させることができる。」(3頁左下20行から同頁右下5行)
「以上のようなスケジュールモードとは異なり,カレンダー表示状態より,カレンダーキー165の操作により例えば第5図に示すようなスケジュール表示が行われる。例えば第6図(a)の表示状態において,カレンダーキー165を操作すると,カーソルで指示されている11日から1週間のスケジュール内容を第5図(a)に示すように表示する。図に示されるように,日にちと曜日(頭文字)及びその日のスケジュール内容を先頭より決められた文字数を表示する」(4頁右上7行から16行)
b 以上の記載から,乙30文献には,以下のような発明(乙30発明)が記載されているといえる。
「スケジュール情報を表示する情報処理を行う装置であって,縦軸に週を配し,横軸に曜日を配して,各日を表形式で表示し,カー- 115 -ソルで特定の日を選択してその日を目立たせるようにし,カレンダーキーの操作により,その目立たされた日を含む1週間のスケジュール情報を表示する装置」
② 本件特許の優先権の主張日前である昭和62年3月17日に頒布された特開昭62-60377号公報(乙31文献)には,以下のとおりの記載がある。
「本発明は,テレビ番組情報の表示機能を備えたテレビジョン受像機に関する」(1頁右下2行から3行)
「次に番組メモリ16に記憶した番組表をCRT表示部3に表示する場合の動作について説明する。上記番組表の表示は,キーボード2のキー操作により指定するが,表示させる番組表としては,第10図に示すように,
① 今後放送される全ての番組表。
② 指定した日の1日分の番組表。
③ 指定ジャンル(種類)の今後放送される番組の一覧表。
④ 指定チャンネルの今後放送される番組の一覧表。
⑤ 指定曜日(間近の曜日)の1日分の番組表
⑥ 今,放送中の番組表。
を指定することができる。上記①~⑥の番組表を表示させる場合,例えば第10図に示すように,①については「番組表」キーのみの単独操作D,②については「日付」の入力と「番組表」キーの組合わせ操作E,③については番組の「種類」指定と「番組表」キーの組合わせ操作F,④については「チャンネル」の指定と「番組表」キーの組合わせ操作G,⑤については「曜日」指定と「番組表」キーの組合わせ操作H,⑥については「放送中」キーの単独操作Iにより指定する。
キーボード2により上記番組表の表示指定操作が行われると,ビデオ- 116 -テックス制御装置25は,第11図~第16図に示す処理を実行する。」(6頁左下14行から右下19行)
(イ) 乙29発明と乙30発明の組合せ
① 上記イ認定のとおり,乙29発明は,スケジュールを表示する情報処理システムに係る発明であり,また,上記(ア)①認定のとおり,乙30発明もスケジュールを表示する情報処理を行う装置であることから,乙29発明と乙30発明とは,共通の技術分野に属しているといえる。
原告は,乙29発明の技術分野は「テレビ番組の録画予約システム」であり,乙30発明とは技術分野を異にすると主張するが,上記のとおり,乙29発明は,実施例では,VTRにおけるテレビ放送の録画予約処理システムが記載されているものの,当該特許請求の範囲の記載から見て,スケジュール管理情報処理システムに係る発明であることは明らかというべきであるから,原告の上記主張を採用することはできない。
② また,上記イ認定のとおり,乙29発明は,スケジュールを表示する情報処理システムに係る発明であって,番組スケジュールを表示する際に,1画面に複数チャンネルの番組表形式で表示する構成及び1個のチャンネルのみの番組表形式を表示する構成が開示されており,さらに,1個のチャンネルのみの番組表形式を表示することで表示する時間帯を多くする作用が得られること,すなわち,表示するスケジュール情報の範囲を絞り込むことにより,限られた表示画面を有効に利用して,より詳細なスケジュール情報を表示可能とすることが,乙29文献に開示されているといえる。
そして,上記(ア)①認定のとおり,乙30発明も,スケジュール情報を表示する情報処理を行う装置の発明であって,複数の週を含む- 117 -表形式でスケジュール情報を表示している際に,特定の日を選択して目立たせるよう表示した上で,その目立たせた特定の日を含んだ1週間のスケジュール情報を表示することにより,限られた画面を有効に利用して,より詳細なスケジュール情報を表示可能とすることが開示されているといえる。
③ そうすると,乙29発明と乙30発明は,いずれもスケジュール情報を表示する際に表形式で表示する機能を提供している点で,機能を共通にするものであり,また,いずれにも,限られた表示画面を有効に利用して詳細なスケジュール情報を表示する課題が示唆されており,当該課題において共通するものである。
原告は,乙29発明と乙30発明について,極端に抽象化,上位概念化した課題が共通することをもって組み合わせるのは不適切であると主張するが,上記のとおり,乙29発明と乙30発明は,限られた表示画面を有効に利用して詳細なスケジュール情報を表形式で表示するという限定的,具体的な課題において共通するといえるから,原告の上記主張は採用できない。
④ 以上によれば,乙29発明と乙30発明とを組み合わせることは容易であるといえる。
(ウ) 上記(ア)①に認定したとおり,乙30発明には,1か月分のカレンダーの特定の日をカーソルで選択すると当該特定の日が含まれる1週間のスケジュールが表示されるという技術が開示されているが,これを上位概念化すると,「縦軸と横軸からなる表示形式を,一方の軸の特定の項目に着目して,特定の項目だけを表示する表示形式に切り替える」ことを可能とする実現手段が記載されているといえる。そして,これを乙29発明に適用すると,「時間軸とチャンネル軸からなるグリッドガイド表示形式を,一方のチャンネル軸に着目して,特定のチャンネ- 118 -ルだけを表示する単一チャンネル形式の表示形式に切り替える」ことになる。
(エ) また,上記(ア)②に認定したとおり,乙31文献には,キー操作により,複数チャンネルの番組表をグリッドガイド形式で表示したり,指定されたチャンネルの番組表を単一チャンネル形式で表示したりする技術が開示されているから,グリッドガイド形式から単一チャンネル形式への番組表の表示形式を変更する発想は,本件発明の優先権主張日前から,周知技術であったといえる(そもそも乙29発明自体にも,前記イのとおり,「1画面に複数のチャンネルの番組表形式で表示する信号を発生する構成に代えて,1個のチャンネルのみの番組表形式を表示する信号を発生する構成」が示唆されていると認められる。)。
なお,原告は,乙31発明には,キー操作前後の表示画面が技術的に何らリンクしておらず,複数のチャンネルの番組表から単一のチャンネルの番組表へ切り替えることが記載されていないと主張するが,上記認定の乙31文献の記載からすると,乙31発明では,キー操作により表示画面を変えること,表示画面として①~⑥の番組表を表示させることができることが開示されているから,複数のチャンネルの番組表①から単一のチャンネルの番組表④に切り替えることも,乙31発明に開示されているということができる。したがって,上記原告の主張は採用できない。
(オ) そうすると,相違点2のうち「グリッドガイド形式の代わりに単一チャンネル形式でその目立たされたテレビジョン番組情報を表示する」ことは,乙29発明,乙30発明及び乙31文献に記載された周知の技術に基づいて,当業者が容易に想到し得るというべきである。
カ 効果の検討そして,本件発明3により得られる効果についても,乙29発明及び乙- 119 -30発明並びに乙31文献に記載の周知技術等から当業者が容易に想到し得る範囲内のものにすぎない。
(2) したがって,本件発明3は,乙29発明及び乙30発明並びに乙31文献に記載の周知技術等に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,進歩性欠如(特許法29条2項違反)の無効理由を有する。

▼8 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告は,本件特許権に基づき,イ号物件及びロ号物件に対して権利行使することができないといわざるを得ない。

◆第4 結論
以上により,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所 民事第29部 清水節裁判長裁判官菊池絵理裁判官岩崎慎裁判官
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