■薬理データといえるか: hVEGF拮抗剤、平成23年(行ケ)第10179号審決取消請求事件


<判決紹介>

平成24628日判決言渡 知的財産高等裁判所
原告: ジェネンテック,インコーポレイテッド
被告: 特許庁長官
本願: 平成8年特許願第529682
請求項1: 加齢性黄斑変性の治療のための医薬の調製におけるhVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤の使用。

コメント: ルセンティス(ラニビズマブ)をカバーする、アミノ酸配列限定のない広めの特許出願。 本願実施例に記載されている内容が、治療作用を裏付ける薬理データと同視できる程度の内容といえるかどうか、が争点となった。 裁判所の判断はNO → 実施可能要件及びサポート要件違反。 拒絶審決維持。 ☆☆

なお、本願の審査段階の拒絶理由通知で引用された引用文献1及び2はけっこう強力。原告は意見書において「…新生血管形成の発達に有意に影響するたった一つの因子がどれであるかは当業者であっても理解しかねる技術常識でありました。」という点を説明したが、進歩性と記載要件がトレードオフの関係になっている。

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原告: 「血管内皮細胞の移動(遊走)はhVEGFによる走行性活性,血管内皮細胞の増殖はhVEGFによるマイトジェン活性(細胞増殖活性),血管内皮細胞による血管新生はhVEGFによる血管新生活性にそれぞれよるものであるから,hVEGFによる走行性活性,マイトジェン活性,及び/または血管新生活性をhVEGF拮抗剤で阻害すれば,内皮細胞による脈絡膜新血管新生が阻害され,加齢性黄斑変性を治療できることは,本願明細書の上記記載から当業者には十分に理解できる。
…治療作用を裏付ける薬理データと同視できる程度の記載としては,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,マイトジェン活性,及び/または血管新生活性を阻害できたという実験データで十分である。」

被告: 「血管内皮細胞の増殖や血管新生に関する試験結果から,機能や効果について評価するに当たっては,以下の点を考慮すべきである。すなわち,
①ある血管内皮細胞における機能や作用に関する結果が,由来を異にする血管内皮細胞においても同様のものとなるとは必ずしもいえないこと,
in vivo の方法は生体内での出来事に近い現象がみられるという利点がある一方,血管内皮細胞以外の細胞の影響を考慮しなければならないこと,
③血管新生に関与する細胞増殖因子としては複数のものがあるとともに,その中には,in vitroin vivo とで血管新生に関して反対の作用を示すものがあるため,血管新生に関与する細胞増殖因子であれば脈絡膜における血管新生が促進されるわけではないことを考慮すべきである。
以下,このような観点を踏まえて反論する。」

裁判所: 「上記の記載に照らすならば,脈絡膜での血管新生がVEGFにより促進されるとの事項は,本願の優先権主張日当時に知られていたとはいえず,また,同事項が技術常識として確立していたともいえない。すなわち,甲9では,VEGFが血管新生を促進する因子であることは示されているものの,血管新生にVEGFのみが関与している点は明らかでなく,結局,どの増殖因子が原因であるかは不明であることから,甲9から,hVEGF拮抗剤でVEGFの作用を抑制しさえすれば,脈絡膜における血管新生が抑制できることを合理的に理解することはできない。
…本願明細書には,脈絡膜の血管新生によって特徴付けられる加齢性黄斑変性の重篤性の緩和においてVEGF拮抗剤が特に有用であると思われるとの記載がある。しかし,同記載は,本件特許の出願時に知られていた血管新生を促進する3種の因子の1つであるVEGFの拮抗剤を,加齢性黄斑変性の治療に利用する可能性があるということを超えては,意味を有しない。前記のとおり,本願明細書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識を総合しても,脈絡膜における血管新生にVEGFが関与していることが何らの説明もされていない以上,同記載部分をもって,VEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性の治療に有効であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載であると解することはできない。
…したがって,「発明の詳細な説明」において,本願明細書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識を総合することにより,hVEGF拮抗剤が,VEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性の治療に有効であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分な情報が記載されたものと解することはできない。
…したがって,本願明細書に,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,増殖活性,及び/または血管新生活性を阻害できたとことに関する実施例が記載されていても,同実施例から,hVEGF拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用が裏付けられたとはいえず,原告の主張は採用できない。」
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1-
平成24年6月28日判決言渡
平成23年(行ケ)第10179号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年2月28日
判決
原告ジェネンテック,インコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士実広信哉
同渡部崇
同堀江健太郎
被告特許庁長官
指定代理人荒木英則
同川上美秀
同唐木以知良
同芦葉松美

◆主文
  原告の請求を棄却する。
  訴訟費用は原告の負担とする。

▼3  この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由

◆第1  請求
特許庁が,不服2007-23530号事件について,平成23年1月24日にした審決を取り消す。

◆第2  当事者間に争いのない事実

▼1  特許庁における手続の経緯等
原告は,発明の名称を「血管内皮増殖因子拮抗剤」とする発明について,平成8年3月28日に特許出願(平成8年特許願第529682号。パリ条約による優先

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権主張外国庁受理1995年3月30日,米国。以下「本願」という。)をし,平成18年10月24日付けで誤訳訂正書の提出により補正(以下「本件補正」という。)をしたが,平成19年5月16日付けで拒絶査定を受け,同年8月27日,これに対する不服の審判を請求した(不服2007-23530号事件)。特許庁は,平成23年1月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年2月8日,原告に送達された。

▼2  特許請求の範囲
本件補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(甲3。以下,この発明を「本願発明」という。また,本件補正後の本願の特許請求の範囲,発明の詳細な説明及び図面を総称して,「本願明細書」(甲1,3)ということがある。
【請求項1】加齢性黄斑変性の治療のための医薬の調製におけるhVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤の使用。

▼3  審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。その判断の概要は,以下のとおりである。
(1)
hVEGF拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用を裏付ける薬理データといえるものは,本願明細書の発明の詳細な説明には何ら記載されておらず,hVEGF拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用に関し,その有用性を裏付ける薬理データと同視すべき程度の記載もない
(2)
審判請求人(原告)は,平成18年10月24日付けの意見書において,添付した参考文献3及び4の記載をもとに,A4.6.1抗hVEGF抗体のアフィニティー成熟形態であるラニビズマブが加齢性黄斑変性の治療に有用であることが明らかになっている旨を主張する。しかし,参考文献3及び4は,いずれも本願優先日から10年以上経過した2006年に発行されたものであるとともに,具体的に試験を行った時期が,いずれも本願出願よりも後であって,本願出願時にこれらの事実が明らかにされていたと解することができず,本願発明において,hVEGF拮抗

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3-

剤についてその医薬用途の有用性を裏付ける薬理データと同視すべき程度の記載の有無の検討に際し参酌することができない。
(3)
そうすると,当業者が,本願発明においてhVEGF拮抗剤を用いて調製されることとなる医薬が,加齢性黄斑変性の治療において有用性があるか否かを知ることができないから,本願明細書の発明の詳細な説明は,本願発明においてhVEGF拮抗剤を用いて調製されることとなる医薬を当業者が容易に実施し得る程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえず,平成14年法律第24号改正前の特許法36条4項(以下,旧特許法という。)に規定する要件を満たさない。
また,本願発明においてhVEGF拮抗剤を用いて調製されることとなる医薬は,本願明細書の発明の詳細な説明に実質的に開示されていると当業者がいえないのであるから,発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

◆第3  当事者の主張

▼1  取消事由に係る原告の主張
審決には,本願発明(「加齢性黄斑変性の治療のための医薬の調製におけるhVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤の使用。」)について,hVEGF拮抗剤を用いて調製されることとなる医薬が実際に加齢性黄斑変性の治療において有用性があることを裏付ける薬理データと同視すべき程度の記載が本願明細書の発明の詳細な説明になされていないと認定し,本願発明は旧特許法36条4項及び同条6項1号に規定する要件を満たしていないと判断した誤りがあり,審決の結論に影響を及ぼすから,審決は取り消されるべきである。すなわち,
(1)
審決は,本願の発明の詳細な説明の記載に関して,「hVEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性の治療に有用であることが具体的に確認されているわけではなく,単なる推測による期待が示されているに過ぎないから,これらの記載によっては,hVEGF拮抗剤についてその医薬用途の有用性を裏付ける薬理データと同視すべき程度の記載がなされたものとはいえない。」と判断した。


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しかし,以下のとおり,審決の判断は誤りである。
本願明細書(甲1)の5頁7ないし15行,7頁11ないし15行,13頁11ないし15行,23頁3行ないし24頁1行の各記載(なお,「年齢関連性角膜白斑変質」は,本件補正で「加齢性黄班変性」に誤訳訂正された。)には,hVEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性の治療に有効である旨が示されている。本願明細書の23頁26行ないし24頁1行においては,加齢性黄斑変性が脈絡膜新血管新生によって特徴づけられることが記載され,「脈絡膜新血管新生は予後の劇的な悪化を伴うので,本発明のVEGF拮抗剤は,AMDの重篤性の緩和において特に有用」と記載されている。当業者は,上記各記載により,本願発明のhVEGF拮抗剤が脈絡膜新血管新生を阻害することによって,加齢性黄斑変性を治療することを理解することができるといえる。
また,加齢性黄斑変性の原因となる脈絡膜新血管新生においては,血管内皮細胞が脈絡膜に移動し,そこで増殖して血管を新生するというプロセスが生じていることは,分子生物学分野での技術常識であり(甲9の12,13頁),本願明細書の実施例6にも「内皮細胞の移動と増殖は,・・・脈管形成を伴う」(甲1の33頁14,15行)と記載されている。
そして,血管内皮細胞の移動(遊走)はhVEGFによる走行性活性,血管内皮細胞の増殖はhVEGFによるマイトジェン活性(細胞増殖活性),血管内皮細胞による血管新生はhVEGFによる血管新生活性にそれぞれよるものであるから,hVEGFによる走行性活性,マイトジェン活性,及び/または血管新生活性をhVEGF拮抗剤で阻害すれば,内皮細胞による脈絡膜新血管新生が阻害され,加齢性黄斑変性を治療できることは,本願明細書の上記記載から当業者には十分に理解できる。
したがって,本願明細書の上記各記載に接した当業者は,hVEGF拮抗剤による加齢性黄斑変性の治療メカニズムを十分に理解することができるから,hVEGF拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用を裏付ける薬理データと同視できる程

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度の記載としては,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,マイトジェン活性,及び/または血管新生活性を阻害できたという実験データで十分である。
(2)
審決は,本願明細書の実施例1,2,4ないし6を摘示し,これらについて,hVEGF拮抗剤についてその医薬用途の有用性を裏付ける薬理データと同視すべき程度の記載がされたものとはいえない旨判断した。
しかし,審決の判断は誤りである。
上記(1) のとおり,hVEGF拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用を裏付ける薬理データと同視できる程度の記載としては,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,マイトジェン活性,及び/または血管新生活性を阻害できたという実験データで十分である。そして,以下の本願明細書の実施例1,2,4ないし6が当該実験データに相当する。
  本願明細書の実施例1には,本願発明に係るhVEGF拮抗剤である抗hVEGFモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマA4.6.1B2.6.2を実際に調製し,以降の実施例で実際に使用していることが記載されている。
また,本願明細書の実施例2には,「E.hVEGF マイトジェン活性の阻害」の項目において,A4.6.1ハイブリドーマにより生産されたモノクローナル抗体が,hVEGFによるマイトジェン活性を完全に阻害することを実際に確認したことが記載されている。
すなわち,実施例2では,ウシ副腎皮質毛細血管内皮(ACE) 細胞を所定の密度で接種し,そこに所定の濃度のhVEGFを添加しており,添加の際に,A4.6.1ハイブリドーマにより生産されたモノクローナル抗体,又は本願発明とは無関係である抗HGF抗体を存在させ,5日間培養した後にACE 細胞数を計測している。図2には,A4.6.1ハイブリドーマにより生産されたモノクローナル抗体(VEGFA4.6.1
が,本願発明とは無関係である抗HGF抗体(VEGF+抗HGF と比較して,hVEGFの不存在下でのACE細胞数(コントロール)まで,ACE細胞数を減少させていることが示されている。これにより,hVEGFによるACE 細胞の増殖のための活性

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(マイトジェン活性)が,A4.6.1ハイブリドーマにより生産されたモノクローナル抗体により完全に阻害されたことが示されている。
上記(1) のとおり,加齢性黄斑変性の原因となる脈絡膜新血管新生においては,血管内皮細胞が脈絡膜に移動し,そこで増殖して血管を新生するプロセスが生じているから,当業者は,血管内皮細胞の増殖にはhVEGFによるマイトジェン活性(細胞増殖活性)が必要であるという事実,及び,本願発明に係るhVEGF拮抗剤がhVEGFによるマイトジェン活性を阻害するという実施例2の実験データに鑑み,本願発明に係るhVEGF拮抗剤により,内皮細胞による脈絡膜新血管新生を阻害し,加齢性黄斑変性を治療できることを十分に理解する。
したがって,A4.6.1ハイブリドーマにより生産されたモノクローナル抗体が,hVEGFによるマイトジェン活性を完全に阻害したことを確認した実施例2の実験データは,本願発明に係るhVEGF拮抗剤がhVEGFによるマイトジェン活性を阻害することにより,hVEGF拮抗剤について加齢性黄斑変性を治療できるという医薬用途の有用性を裏付ける薬理データと同視すべき程度の記載といえる。
  本願明細書の実施例4には,「hVEGF 拮抗剤による腫瘍成長の阻害」をアッセイすることにより,A4.6.1抗hVEGFモノクローナル抗体で処置を始めたマウスにおいて,本願発明に係るhVEGF拮抗剤により,腫瘍成長の割合を実質的に減少できたことが示されている。
また,本願明細書の実施例5には,「培地内の腫瘍細胞成長への抗hVEGF 抗体の直接的な影響の解析」をすることにより,A4.6.1抗hVEGF抗体は,腫瘍細胞の成長にいかなる重大な影響も有さず,A4.6.1抗hVEGF抗体は細胞毒性ではないことが示され,観察された抗体の抗腫瘍効果は,VEGF介在性血管新生の阻害によるものであることが裏付けられる。
すなわち,実施例4では,ヌードマウスに,所定の量のヒトグリオーマ細胞,ヒト横紋筋肉腫細胞系,又は平滑筋肉腫細胞系に由来する腫瘍細胞を皮下注射し,腫瘍成長の確立後,各種の量のA4.6.1抗hVEGFモノクローナル抗体を皮下注射し,

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腫瘍のサイズ(mm)又は重さ(g)を測定している。図4及び図5には,A4.6.1抗hVEGFモノクローナル抗体で処置されたマウスの腫瘍(A4.6.1  100μg又はA4.6.1 25μg)が,本願発明とは無関係である抗gp120抗体 5B6 100μg)又は抗体を含まない媒体のみ(PBS と比較して,有意に小さい腫瘍サイズ又は重さであることが示されている。図6には,A4.6.1抗hVEGFモノクローナル抗体で処置されたマウスの腫瘍(VEGF  Ab)の重さが,コントロールの約75%減少したことが示されている。図7には,各種の量のA4.6.1抗hVEGFモノクローナル抗体で処置されたマウスの腫瘍(VEGF Ab 10400μg)の重さが,本願発明とは無関係である抗gp120抗体(GP120 Ab 400μg)又は抗体を含まない媒体のみ(PBS と比較して,有意に減少したことが示されている。これらの結果から,A4.6.1抗hVEGFモノクローナル抗体に抗腫瘍効果のあることが理解される。
また,実施例5では,ヒトグリオブラストーマ細胞又は横紋筋肉腫細胞を所定量で接種し,A4.6.1抗hVEGF抗体を各種の濃度で添加して,五日後に細胞数を数えている。図8及び図9には,A4.6.1抗hVEGF抗体が腫瘍細胞数に影響していないことが示されている。この結果から,A4.6.1抗hVEGF抗体が腫瘍細胞に対して細胞毒性はないことが理解され,また,実施例4で観察された抗腫瘍効果が,VEGF介在性血管新生の阻害によるものであることが理解される。
したがって,A4.6.1ハイブリドーマにより生産されたモノクローナル抗体が細胞毒性はなく,VEGF介在性血管新生の阻害によって腫瘍成長の割合を実質的に減少できたことを実験で確認した実施例4及び実施例5には,本願発明に係るhVEGF拮抗剤がhVEGFによる血管新生活性を阻害することにより,hVEGF拮抗剤について加齢性黄斑変性を治療できるという医薬用途の有用性を裏付ける記載があるといえる。
  本願明細書の実施例6には,A4.6.1抗hVEGF抗体が血管新生を伴う慢性関節炎骨液の内皮細胞移動を誘発する能力を阻害する一方,血管新生を伴わない変形関節炎骨液の内皮細胞移動を誘発する能力は阻害しなかったことが記載されてい

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る。
すなわち,実施例6では,へそ血管内皮細胞を所定量でミクロチェンバー内のゲラチンコートフィルターに付着させ,約2時間後,チェンバーを逆さにし,慢性関節リュウマチ骨液または変形関節症骨液と,A4.6.1抗hVEGF抗体をウェル内に加え,2~4時間後に移動した細胞数を染色して数えている。図10には,「骨液」の欄がA4.6.1抗hVEGF抗体を含まない各骨液のみの移動細胞数を示し,下部の「コントロール」の欄が骨液と媒体のみ(PBS)又は本願発明とは無関係なFGF(bFGF)での移動細胞数を示し,「骨液+mAB VEGF」の欄が骨液とA4.6.1抗hVEGF抗体の存在下での移動細胞数を示し,「抑制%」の欄が「100-(『骨液+mAB VEGF』/『骨液』×100)」の数値を示す。この結果,「慢性関節リュウマチ骨液の平均抑制パーセンテイジ」が53.4±4.2 であるのに対し,「変形関節症骨液の平均パーセンテイジ」が13.6±3.9であることが示されている。
慢性関節リュウマチで脈管形成(血管形成)が生じている一方で,変形関節症では脈管形成が生じていないことに鑑みると,内皮細胞の走行性がA4.6.1抗hVEGF抗体の存在下で阻害されていることが示されているといえる。
したがって,A4.6.1抗hVEGF抗体が,血管新生の際に必須に生ずる内皮細胞移動を誘発する能力を阻害することを実験で確認した実施例6には,本願発明に係るhVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性を阻害することにより,hVEGF拮抗剤について加齢性黄斑変性を治療できるという医薬用途の有用性を裏付ける記載がなされているものといえる。
(3)
以上のとおり,本願発明が,旧特許法36条4項及び同条6項1号に規定する要件を満たさないとした審決の判断は誤りである。

▼2  被告の反論
以下のとおり,審決には,取り消されるべき判断の誤りはない。
(1)
原告は,本願明細書の上記各記載に接した当業者は,hVEGF拮抗剤による加齢性黄斑変性の治療メカニズムを十分に理解することができるから,hVEG

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F拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用を裏付ける記載としては,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,マイトジェン活性,及び/または血管新生活性を阻害できたという実験データで十分である旨主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
本願明細書(甲1)の5頁7ないし15行,7頁11ないし15行,13頁11ないし15行,23頁3行ないし24頁1行の各記載には,本願発明のhVEGF拮抗剤によるマイトジェン活性又は血管新生活性の阻害,hVEGF拮抗剤による加齢性黄斑変性治療の可能性が推測されることについては記載されているものの,これらの活性が奏される条件や,脈絡膜新血管新生が阻害されることや加齢性黄斑変性の治療作用に相当することが明らかでなく,そのように推測できる根拠も示されていないから,本願発明のhVEGF拮抗剤が,脈絡膜新血管新生を阻害することによって加齢性黄斑変性の治療を導くことが示されたとはいえない。
また,甲9及び本願明細書の実施例6の記載によっても,加齢性黄斑変性の原因となる脈絡膜新血管新生において,血管内皮細胞が脈絡膜に移動し,そこで増殖して血管を新生するというプロセスが生じていることが,技術常識とはいえない。
したがって,本願明細書の記載から,hVEGFによる走行性活性,マイトジェン活性,及び/または血管新生活性をhVEGF拮抗剤で阻害すれば,内皮細胞による脈絡膜新血管新生が阻害され,加齢性黄斑変性を治療できることが,当業者に理解できるとはいえない。
(2)
原告は,hVEGF拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用を裏付ける記載としては,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,マイトジェン活性,及び/または血管新生活性を阻害できたとする実験データがあることで足りるとして,本願明細書の実施例1,2,4ないし6の記載が当該実験データに相当すると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
  血管内皮細胞の増殖や血管新生に関する試験結果から,機能や効果について

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評価するに当たっては,以下の点を考慮すべきである。すなわち,①ある血管内皮細胞における機能や作用に関する結果が,由来を異にする血管内皮細胞においても同様のものとなるとは必ずしもいえないこと,②in vivo の方法は生体内での出来事に近い現象がみられるという利点がある一方,血管内皮細胞以外の細胞の影響を考慮しなければならないこと,③血管新生に関与する細胞増殖因子としては複数のものがあるとともに,その中には,in vitroin vivo とで血管新生に関して反対の作用を示すものがあるため,血管新生に関与する細胞増殖因子であれば脈絡膜における血管新生が促進されるわけではないことを考慮すべきである。以下,このような観点を踏まえて反論する。
  本願明細書の実施例1は抗hVEGFモノクローナル抗体の調製に関するものであり,実施例2のE項は,マルチウェルプレートで培養されたウシ副腎皮質毛細血管内皮細胞を用い,上記抗体がhVEGFによるマイトジェン活性を完全に阻害することの確認に関するものである。
実施例2のE項は脈絡膜の血管内皮細胞を対象とする試験ではないから,この試験データのみに基づいて,加齢性黄斑変性の原因となる脈絡膜新血管新生においては,血管内皮細胞が脈絡膜に移動し,そこで増殖して血管を新生するというプロセスが生じていると結論づけることはできない。
また,上記アの観点を考慮すると,実施例2のE項で用いられたウシ副腎皮質毛細血管内皮細胞での血管新生と,脈絡膜の血管内皮細胞における血管新生との関係について検討されておらず,脈絡膜の血管内皮細胞を用いた場合においても同様の結果を示すことが明らかにされたとはいえないし,VEGFが脈絡膜において血管新生を促進していることや抗体が脈絡膜における血管新生を阻害することも確認されていない。
したがって,実施例2のE項で,ウシ副腎皮質毛細血管内皮細胞に関し,hVEGF拮抗剤を適用したことにより新たな血管形成が阻害されたことだけでは,脈絡膜の血管内皮細胞においても同様の機能や作用を示すとはいえず,実施例2のE項

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の試験結果が本願発明の医薬用途を裏付ける薬理データと同視すべき程度の記載に当たるともいえない。
  本願明細書の実施例4は,抗体で処置を始めたマウスにおいて,本願発明に係るhVEGF拮抗剤により,腫瘍成長の割合を実質的に減少できたことを確認したもの,実施例5は,抗体が腫瘍細胞の成長にいかなる重大な影響も有さず,細胞毒性ではないことを示したものであり,観察された抗体の抗腫瘍効果は,VEGF介在性血管新生の阻害によるものである旨が記載されている。
実施例5は細胞毒性の有無を検討したものであって血管新生に関する試験ではなく,実施例4は血管新生に関するものと解されるが,脈絡膜の血管内皮細胞を対象とする試験ではない。試験方法はin vivo の方法によるが,脈絡膜とは異なる,ヒトグリオーマ細胞,ヒト横紋筋肉腫細胞系及び平滑筋肉腫細胞系を用いて,皮下において血管新生の有無を確認したものであるから,このような実施例における試験データのみに基づいて,本願発明に係るhVEGF拮抗剤が脈絡膜の血管新生に対しても阻害活性を有するとはいえない。
また,上記アの観点を考慮すると,実施例4及び実施例5で用いられたグリオーマ等の細胞での血管新生と,脈絡膜の血管内皮細胞における血管新生との関係について検討されていない。さらに,実施例4のような筋肉や脂肪といった種々の組織が存在するマウスの皮下での試験結果は,他の細胞による影響を考慮しなければならないところ,網膜等の眼組織の一部である脈絡膜における血管新生に関し,上記考慮がなされた上で試験が行われたとも考えられず,VEGFが脈絡膜において血管新生を促進していることや抗体が脈絡膜における血管新生を阻害することも確認されていない。
したがって,実施例4及び実施例5の試験結果に基づき,マウスの皮下に移植されたグリオーマ等の細胞に関し,hVEGF拮抗剤を適用したことにより新たな血管形成が阻害されたといえるとしても,そのことだけでは脈絡膜の血管内皮細胞においても同様の機能や作用を示すとはいえず,当該試験結果が本願発明の医薬用途

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を裏付ける薬理データと同視すべき程度の記載に当たるともいえない。
  本願明細書の実施例6は,48穴マルチウェルミクロチェンバーに付着させたへそ血管内皮細胞を用い,抗体が血管新生を伴う慢性関節炎骨液の内皮細胞移動を誘発する能力を阻害する一方,血管新生を伴わない変形関節炎骨液の内皮細胞移動を誘発する能力は阻害しなかったことを示すものである。
実験データは脈絡膜の血管内皮細胞を用いた試験により得られたものではないから,実施例6における試験データのみから直ちに,hVEGF拮抗剤の血管内皮細胞に対する移動を誘発する能力を阻害する活性が,脈絡膜新血管新生の阻害活性と同一の機能,効果を奏すると結論づけることはできない。
また,上記アの観点を考慮すると,実施例6で用いられたへそ血管内皮細胞での血管新生と,脈絡膜の血管内皮細胞における血管新生との関係についての検討はなく,脈絡膜の血管内皮細胞を用いた場合においても同様の結果を示すことが明らかにされたとはいえないし,VEGFが脈絡膜において血管新生を促進していることや抗体が脈絡膜における血管新生を阻害することも確認されていない。
したがって,実施例6で,へそ血管内皮細胞に関し,hVEGF拮抗剤を適用したことにより血管内皮細胞に対する移動を誘発する能力が阻害されたとしても,そのことだけでは脈絡膜の血管内皮細胞においても同様の機能や作用を示すとはいえず,実施例6の試験結果が本願発明の医薬用途を裏付ける記載に当たるともいえない。
(3)
なお,本願の審査段階の拒絶理由通知において,引用文献1(乙1〔乙2はその訳文〕,原告出願に係る国際公開94/10202号)及び引用文献2(乙3)が,進歩性なしの拒絶理由として引用された。このうち,引用文献1の記載内容は,加齢性黄班変性に関する一行記載がない点を除き,実施例の記載を含む発明の詳細な説明及び図面の記載が本願明細書とほぼ同じである。これに対して,原告は,拒絶理由通知に対する意見書(甲4)を提出し,「本願発明の優先日前の技術常識では,網膜と脈絡膜の新生血管形成は,VEGFだけではなく,・・・数多く

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の刺激因子及び阻害因子によって影響されると解されておりました・・・血管新生のシステムが複雑なことと,これらの因子の間で複数の相互作用が存在することを考慮すると,新生血管形成の発達に有意に影響するたった一つの因子がどれであるかは当業者であっても理解しかねる技術常識でありました。・・・引用文献2では,AMDの罹患における血管新生刺激因子としてVEGFが作用しているようであると推察しておりますが,この観察にもかかわらず,引用文献2ではAMDの治療におけるVEGF拮抗剤の使用は記載も示唆もしておりません。・・・本願の優先日前の技術常識では,VEGFが加齢性黄斑変性(AMD)に関与していることは,まだ明らかになっていなかったことにご注意下さい。・・・」と主張した。
すなわち,原告は,乙3にVEGFが加齢性黄斑変性の罹患における血管新生促進物質として作用していることの示唆が記載され,乙1にhVEGFアンタゴニストがhVEGFの細胞分裂活性,脈管形成活性又は他の生物学的活性を阻止する性質を有し,望ましくない過度の血管新生を特徴とする疾病又は疾患の治療に有用であることが記載されているにもかかわらず,本願の優先権主張日前の技術常識では,VEGFが加齢性黄斑変性に関与していることは,まだ明らかになっておらず,乙3には加齢性黄斑変性の治療におけるVEGF拮抗剤の使用は記載も示唆もないと主張した。
以上の経緯によれば,原告も,VEGF拮抗剤が新生血管形成を阻害しただけでは,AMDの治療に有用であるとはいえず,本願明細書程度の記載では,裏付けるデータがなく,VEGF拮抗剤についてAMDを治療できるという医薬用途の有用性を裏付ける薬理データと同視すべき程度の記載に当たらないと解していたことが推認される。

◆第4  当裁判所の判断
原告は,本願発明(「加齢性黄斑変性の治療のための医薬の調製におけるhVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤の使用。」)について,hVEGF拮抗剤を用いて調製される医薬が加齢性黄斑変性の治療に有用であることを裏付ける記載が

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14-

本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていない旨を認定し,本願発明は旧特許法36条4項及び同条6項1号に規定する要件を満たしていないとした審決の判断には誤りがあるから取り消されるべきである旨主張する。
しかし,当裁判所は,旧特許法36条4項に規定する要件を充足していないとした審決の判断に誤りはないから,原告の取消事由に係る主張は採用できないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

▼1  認定事実
(1)
本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,上記第2の2のとおりである。
(2)
本願明細書(甲1,なお甲3は誤訳訂正書である。)には,以下の記載がある。
  「発明の分野
本発明は,血管内皮増殖因子(VEGF)拮抗剤,拮抗剤を含む治療成分,診断と治療目的のための拮抗剤の使用方法に関するものである。」(甲1の3頁3ないし5行)
  「発明の背景
血管系の二つの主な細胞構成成分は内皮細胞と平滑筋細胞である。内皮細胞は全ての血管の内側表面の裏張りを形成し,血管と組織の間の非血栓形成の界面を構成する。加えて,内皮細胞は新しい毛細血管と血管の発達に関し重要な成分である。それゆえ,内皮細胞は腫瘍成長,転移そして様々な非腫瘍性の病気または障害に関連した,血管新生または新生血管形成の間増殖する。
様々な生来見出されるポリペプチドが報告によれば,内皮細胞の増殖を誘導する。これらのポリペプチドの中には,塩基性と酸性の繊維芽細胞増殖因子(FGF)・・・,血小板由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF) ・・・,血管内皮増殖因子(VFGF)・・・がある。
VEGF
はウシの下垂体小胞または小胞細胞・・・によって調製された培地内で最初に同定された。・・・
ヒトVEGFはウシVEGF  cDNAをハイブリダイゼーションプローブとして用いた,ヒト細胞から調製したcDNAライブラリーの最初のスクリーニングにより得られた。それによって同定された

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ヒトのcDNAは,ウシVEGF95%以上のホモロジーをもつ165アミノ酸からなるタンパク質をコードし,そのタンパク質はヒトVEGFとしてみなされた。ヒトVEGFのマイトジェン活性はヒトVEGF  cDNAを哺乳動物宿主細胞内で発現させることによって確認された。ヒトVEGF  cDNAをトランスフェクトした細胞によって調製された培地は毛細血管内皮細胞の増殖を促進したが,コントロールでの細胞によるものはしなかった。・・・ VEGFは血管内皮細胞の増殖を刺激するだけでなく,血管透過と血管新生も誘導する。血管新生は,以前から存在する内皮由来の新しい血管の形成を含め,腫瘍成長と転移,慢性関節リウマチ,乾癬,アテローム性動脈硬化,糖尿病,網膜症,後水晶体繊維増殖症,新生血管緑内障,加齢性黄斑変性,血管腫,移植角膜組織と他の組織の免疫拒絶そして慢性炎症を含む様々な病気と障害の重要な因子である。
腫瘍成長の場合には,血管新生は過形成から腫瘍にとって,また成長中の固い腫瘍への栄養分の供給にとって,きわめて重大のように思われる。・・・血管新生は宿主の血管層と接触することを許し,それは腫瘍細胞の転移のルートを供給するかもしれない。腫瘍転移における血管新生の役割に対する証拠は,例えば,侵害的なヒト乳がんの組織学的部門における毛管の数と量の間の相関関係を示す研究や,実際に存在する離れた転移により提供される。・・・
血管内皮細胞成長と血管新生の役割,そして多くの病気と障害のそれらの過程の役割の点からみて,VEGFの生物学的影響の一つかそれ以上を減退させるか阻害する手段を持つことが望ましい。」(甲1の3頁6行ないし5頁5行,甲3)
  「発明の要約
本発明はVEGFの拮抗剤を提供し,それらは,(a)hVEGFhVEGF受容体,hVEGFと結合したhVEGF を含む複合体と,特異的に結合することができる抗体とそれらの変異体,(b)hVEGF受容体とそれらの変異体,(c)hVEGF変異体を含む。拮抗剤はhVEGF のマイトジェン活性,血管新生活性,そして他の生物学的活性を阻害し,それゆえ,例として腫瘍,そして特に固い悪性の腫瘍,慢性関節リウマチ,乾癬,アテローム性動脈硬化,糖尿病,そして他の網膜症,後水晶体繊維増殖症,加齢性黄斑変性,新生血管緑内障,血管腫,甲状腺過形成(グレーヴズ病を含む),角膜組織と他の組織の移植そして慢性炎症を含む,望ましくない極端な新生血管形成に

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よって特徴づけられる病気または障害の治療に役に立つ。拮抗剤はまた,脳腫瘍と関連した水腫,悪性腫瘍と関連した腹水,メグズ症候群,肺炎,ネフローゼ,心膜滲出(心膜炎と関連したようなもの)そして胸膜滲出のような望ましくない極端な血管浸透性によって特徴づけられる病気または障害の治療に役に立つ。
他の面では,VEGF拮抗剤は(a)hVEGFエピトープ,例えば,血栓形成または血栓崩壊に含まれるタンパク質または腫瘍細胞表面抗原のエピトープ,(b)hVEGFhVEGF 受容体,そしてhVEGF 受容体と結合したhVEGF を含む複合体,などに結合することができる多特異的モノクローナル抗体である。」(甲1の5頁6ないし23行,甲3)
  「詳細な説明
・・・『hVEGF なる用語は165アミノ酸のヒト血管内皮細胞増殖因子と,同種の121189206 アミノ酸の血管内皮細胞増殖因子をいい,・・・
本発明は,hVEGF の生物学的活性の一つかそれ以上,例えばマイトジェン活性または血管新生活性を阻害することができるhVEGFの拮抗剤を提供する。hVEGFの拮抗剤は,細胞の受容体へのhVEGFの結合を妨げたり,hVEGFによって活性化される細胞の能力を奪ったりあるいは殺したり,細胞の受容体へのhVEGF の結合後血管内皮細胞の活性を妨げたりする作用をする。・・・」(甲1の7頁5ないし15行)
  「拮抗剤モノクローナル抗体
・・・モノクローナ炉抗体(判決注  モノクローナル抗体の誤記と認める。)は典型的には,例えば,実施例2 で記述するように,in vitroでの細胞生存あるいは増殖アッセイによって測定したところによれば,hVEGF のマイトジェンまたは血管新生活性を少なくとも約50% ,好ましくは80% 以上,最も好ましくは90% 以上阻害するであろう。・・・」(甲1の9頁24行ないし13頁15行)
  「治療用途
治療的応用のために,本発明の拮抗剤は,哺乳類,好ましくはヒトに,丸薬としての静脈内または長時間連続注入,筋肉内,腹膜内,脳脊髄内,皮下,関節内,滑膜内,包膜内,経口,吸入経路によってヒトに投与される形態を含む製薬的に許容される形態で投与される。また,

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拮抗剤は,腫瘍内,腫瘍周辺,病巣内,又は病巣周辺経路によって投与し,局所的及び全身治療効果を発揮するようにしてもよい。腹膜内経路は,卵巣腫瘍の治療において特に有効であると思われる。・・・ hVEGF 拮抗剤は,種々の腫瘍及び非-腫瘍疾患及び病気の治療において有用である。治療の影響を受けやすい腫瘍及び関連する状況は,乳癌,肺癌,胃癌,食道癌,結腸直腸癌,肝臓癌,卵巣癌,きょう膜腫(thecomas),男性胚腫,頸部癌,子宮内膜癌,子宮内膜過形成,子宮内膜症,線維肉腫,絨毛癌,頭及び首癌,咽頭癌,喉頭癌,胚芽腫,カポジ肉腫,黒色腫,皮膚癌,血管腫,海綿状血管腫,血管芽腫,膵臓癌,網膜芽腫,星状細胞腫,謬芽腫,神経線維腫,稀突起謬腫,髄芽腫,神経芽腫,横紋筋肉腫,骨原性肉腫,平滑筋肉腫,尿路癌,甲状肉腫,ウィルムス腫瘍(Wilm's  turmor),腎細胞癌,前立腺癌,母班症を伴う異常血管増殖,(脳腫瘍を伴うような)水腫,及びメグズ症候群(Meigs syndrome)を含む。
治療の影響を受けやすい非-腫瘍状態は,関節リウマチ,乾癬,アテローム硬化症,糖尿病性または他の網膜炎,水晶体後線維増殖症,血管新生緑内障,年齢関連黄班変性,(グレーブ病(Grave's  disease)を含む)甲状過形成,角膜又は他の組織移植,脈絡膜炎,肺炎,ネフローゼ症候群,子燗前症,腹水,(心膜炎を伴うような)心膜滲出,及び胸膜滲出を含む。
年齢に関連する黄班変性(AMD) は,老齢者における厳しい視覚上の損傷の主要な原因である。
ADM
(判決注  AMDの誤記と認める。)の滲出形態は,脈絡膜新血管新生及び網膜色素上皮細胞剥離に特徴づけられる。脈絡膜新血管新生は予後の劇的な悪化を伴うので,本発明のVEGF拮抗剤は,AMD の重篤性の緩和において特に有用であると思われる。」(甲1の21頁8行ないし24頁1行)
  「実施例1  hVEGFモノクローナル抗体の調製
・・・Balb/cマウスを,・・・KLHとコンジュケートした・・・hVEGFを用いた腹膜内の注射で,二週間ごとに四回免疫化し,細胞融合の前にKLHとコンジュケートした同量のhVEGF を用いて,四日間増殖させた。
免疫化したマウス由来の脾臓細胞を,P3X63Ag8U.1 ミエローマ細胞・・・と,・・・ポリエチレングリコール(PEG) を用いて,融合させた。・・・ハイブリドーマはHAT 培地で選択した。


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  ・・・それから抗hVEGF 抗体を生産すると決まったハイブリドーマ細胞を限界希釈によってサブクローニングし,それらのクローンのうち二つをA4.6.1B2.6.2と名づけて,後の研究のために選択した。」(甲1の25頁下から2行ないし26頁21行)
  「実施例2  hVEGFモノクローナル抗体の特徴付け A. 抗原特異性
・・・A4.6.1B2.6.2ハイブリドーマにより生産されたモノクローナル抗体は,hVEGF とは結合するが,他の成長因子タンパク質との結合は検出できないことが確認された。
B.
エピトープマッピング
・・・A4.6.1B2.6.2ハイブリドーマにより生産されたモノクローナル抗体は,hVEGF内の異なるエピトープに結合することが示された。
C.
イソタイプ化
・・・A4.6.1B2.6.2ハイブリドーマにより生産された抗hVEGFモノクローナル抗体のイソタイプをIgG1となるように決定した。
D.
結合アフィニティ
・・・A4.6.1ハイブリドーマにより生産された抗hVEGFモノクローナル抗体のアフィニティは,1.2×10l/モルと計算された。B2.6.2 ハイブリドーマにより生産された抗hVEGFモノクローナル抗体のアフィニティは,2.5×10l/モルと計算された。
E. hVEGF
マイトジェン活性の阻害
ウシ副腎皮質毛細血管内皮(ACE) 細胞・・・を・・・マルチウェルプレートに・・・接種し,
・・hVEGF を,様々な濃度のA4.6.1B2.6.2ハイブリドーマにより生産された抗hVEGF モノクローナル抗体,または不適切な抗HGF モノクローナル抗体の存在下あるいは不存在下で,各ウェルに加えた。五日間培養後,各ウェルの細胞をコールターカウンターで数えた。コントロールとして,ACE細胞を加えたhVEGFの不存在下で培養した。
2 で示すように,両方の抗hVEGF モノクローナル抗体が,ウシACE 細胞の成長と生存を助長するという加えたhVEGF の活性を阻害した。A4.6.1ハイブリドーマにより生産されたモノクローナル抗体は,hVEGF のマイトジェン活性を完全に阻害し(およそ90% 以上の阻害),その一

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方で,B2.6.2ハイブリドーマにより生産されたモノクローナル抗体は,hVEGF のマイトジェン活性を部分的に阻害しただけだった。
F. hVEGF
結合の阻害
・・・図3 ・・・で示されているように,A4.6.1B2.6.2ハイブリドーマにより生産された抗hVEGF モノクローナル抗体は,ウシACE 細胞とのhVEGF の結合を阻害した。・・・上述した細胞増殖アッセイで得られた結果と首尾一貫して,A4.6.1ハイブリドーマにより生産されたモノクローナル抗体は,B2.6.2ハイブリドーマにより生産されたモノクローナル抗体より,hVEGF の結合を強く阻害した。
3 ・・・で示されているように,A4.6.1ハイブリドーマにより生産されたモノクローナル抗体は,抗体に対するhVEGFのモル比が1:250で,ウシACE細胞へのhVEGFの結合を完全に阻害した。
G.
他のVEGFイソフォームとの交差反応性
・・・A4.6.1ハイブリドーマにより生産された抗hVEGF モノクローナル抗体は,121189アミノ酸から成るhVEGF の両方と交差反応することが示された。」(甲1の26頁22行ないし30頁24行)
  「実施例4  hVEGF拮抗剤による腫瘍成長の阻害
培地で成長している様々なヒト腫瘍細胞の,ELISAによるhVEGFの生産をアッセイした。卵巣,肺,大腸,胃,乳,脳の腫瘍細胞系に,hVEGFの生産が見られた。hVEGF を生産するこれらの細胞系,NEG55(G55ともいう) (・・・ヒトグリオーマ細胞・・・)A-673(・・・ヒト横紋筋肉腫細胞系,・・・) そしてSK-LMS-1(・・・平滑筋肉腫細胞系,・・・)を以下の研究に用いた。
6
から10 週齢のメスのベージュヌードマウス・・・を,・・・腫瘍細胞と共に皮下注射した。
腫瘍成長の確立後さまざまな時間で,いろいろな量のA4.6.1hVEGFモノクローナル抗体,関係のない抗gp120モノクローナル抗体,PBSを一週間に一度か二度皮下注射した。腫瘍サイズを毎週測り,本研究の最後に腫瘍を切り取り測量した。
・・・図4は,NEG55 細胞の接種後一週間から25μgまたは100μg A4.6.1hVEGF モノク

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ローナル抗体で処置を始めたマウスが,関係ない抗体やPBS で処理したマウスと比較して,腫瘍成長の割合が実質的に減少していることを示す。図5は,NEG55 細胞の接種後五週間後,A4.6.1hVEGF モノクローナル抗体で処置をされたマウス内の腫瘍のサイズが,関係ない抗体やPBS で処置されたマウス内の腫瘍のサイズより,約50% (25μgの量の抗体で処置されたマウスの場合)から85% (100μgの量の抗体で処理されたマウスの場合) 小さかったことを示す。
・・・SK-LMS-1細胞を接種後五週間では,A4.6.1hVEGF モノクローナル抗体で処置をされたマウス内の平均的な腫瘍のサイズは,関係ない抗体やPBS で処置されたマウス内の腫瘍のサイズより,約75% 小さかった。
・・・A673細胞の接種後四週間後,A4.6.1hVEGF モノクローナル抗体で処置をされたマウス内の平均的な腫瘍のサイズは,関係ない抗体やPBS で処置されたマウス内の腫瘍のサイズより,約60%  (10μgの量の抗体で処置されたマウスの場合)から90%以上 (50-400μgの量の抗体で処理されたマウスの場合)小さかった。」(甲1の31頁19行ないし32頁25行)
  「実施例5  培地内の腫瘍細胞成長への抗hVEGF抗体の直接的な影響の解析 NEG55 ヒトグリオブラストーマ細胞またはA673横紋筋肉腫細胞を,・・・培地に・・・接種した。それからA4.6.1hVEGF 抗体を・・・細胞培地に加えた。五日後,ウェル内で成長している細胞を,トリプシンにさらして分離させ,コールターカウンターで数えた。
・・・A4.6.1hVEGF 抗体は,培地内のNEG55 またはA673細胞の成長にいかなる重大な影響も持たなかった。これらの結果は,A4.6.1hVEGF 抗体は細胞毒性ではないことを示し,観察された抗体の抗腫瘍効果は,VEGF介在性血管新生の阻害のためであると,強く示唆される。」(甲1の32頁26行ないし33頁10行)
  「実施例6  内皮細胞走行性に対する抗hVEGF細胞の影響
内皮細胞と,単球・リンパ球を含めた他の細胞の走行性は,慢性関節リュウマチの病因に重要な役割を演じる。内皮細胞の移動と増殖は,骨膜リュウマチで起こる脈管形成を伴う。血管化の組織(パンヌス)は,関節軟骨を侵し破壊する。hVEGF がこのプロセスを妨げるかを決定するため,A4.6.1hVEGF 抗体の,慢性関節リュウマチをもつ患者由来の骨液に刺激される,内皮細胞の走行性への影響をアッセイした。コントロールとして,A4.6.1hVEGF 抗体の,変形

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関節症(慢性関節リュウマチでは起こるが,変形関節症では起こらない脈管形成) をもつ患者由来の骨液に刺激される,内皮細胞の走行性への影響もアッセイした。
内皮細胞走行性を,確立された方法によって修飾されたボイデンチェンバーを用いてアッセイした。・・・ヒトへそ血管内皮細胞を,・・・培地の中で・・・ゲラチンコートフィルター
・・に付着させた。約二時間後,チェンバーを逆さにし,試料(慢性関節リュウマチ骨液,変形関節症骨液,基本的なFGF(bFGF)(1μg/mlの最終濃度となるように)またはPBS) と,A4.6.1hVEGF 抗体(10μg/ml の最終濃度になるように) を,ウェル内に加えた。2-4 時間後,移動した細胞を染色し数えた。
・・・抗hVEGF 抗体は,重要なことに慢性関節炎骨液の内皮細胞移動を誘発する能力を阻害し(平均53.40%の阻害),変形関節炎骨液の能力は阻害しなかった (平均1364%の阻害)。」(甲1の33頁11行ないし34頁9行)
(3)
他方,平成7年1月20日に発行された「血管新生の生物学」実験医学,第13巻,第2号には,以下の記載がある(甲9)。
  「血管新生とは,既存の血管から新しく毛細血管が作られる現象で,糖尿病網膜症をはじめ,悪性腫瘍の増殖や血管閉塞後の回復などさまざまな病態にかかわっている。血管新生には4つのステップがあるが,今日では培養血管内皮細胞を用いることで,それぞれのステップについてin vitroでの解析が可能となった。その結果同定された血管新生の制御機構のうち,細胞増殖因子に焦点をあて,血管新生のメカニズムについて概説した。」(11頁上欄3ないし7行)
  「1.血管新生とは
人間を含め,個体が成長し生きていくためにそれぞれの臓器や組織に酸素や栄養を供給することは,各組織を構成する細胞にとって必要不可欠である。酸素や栄養分の運搬は血球成分と血漿からなる血液によって行われるが,この血液の流れる道が血管である。血管はその大きさや構成細胞によっていくつかの種類に分類されるが,共通していることは血液と接する内側が血管内皮細胞によって覆われていることで,血管内皮細胞の増殖や機能の制御機構を調べることが,血管新生研究の大きなパートを占める。


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  血管内皮細胞は,通常増殖をしない,つまり静止期の状態にある。しかし,胎児期に未熟な血管叢が形成されるvasculogenesis,既存の血管から新しく毛細血管が作られるangiogenesis,また血管内皮細胞が脱落したあとの再生時には血管内皮細胞の増殖が認められ,さらに一側腎摘出後の代償性腎成長のような臓器再生における血流増加の必要性に応じる場合にも血管内皮細胞は増殖する。血管新生とは,通常angiogenesisのことをさし,正常の個体では性周期に応じて変化する卵巣や子宮など特殊な場合でしか観察されない。病的状態におけるangiogenesisは次に示すような場合にみられる。1番目は,血管新生そのものが病的状態を作り出すもので,重症糖尿病網膜症(増殖糖尿病網膜症)や未熟児網膜症などでは過度の血管新生が原因で失明をきたすし,尋常性乾鮮では真皮における異常な血管新生が表皮の増殖や脱落の原因となる。
血管腫は内皮細胞の異常増殖による腫瘍である。2番目は血管新生そのものが原因ではないものの,それによって病態が進行するもので,代表的なものに悪性腫瘍がある。癌化した細胞は接触阻止がかからず(まわりの細胞の圧迫によって増殖のブレーキがかからず)限りなく増殖する(不死化している)が,これには当然酸素や栄養の補給が必要であり,癌細胞そのものが血管新生物質を分泌したり,癌組織の酸素不足により血管新生物質が作られたりすることで,腫瘍組織内に新たに毛細血管を生じる。また,ある種の過形成は癌組織へと移行することが知られているが,癌化する過形成は強力な血管新生作用をもっており,血管新生と癌の発生とに密接な関係のあることも報告されている。3番目は病的状態からの回復期に認められる血管新生で,手術後や外傷後の創傷治癒過程,あるいは心筋梗塞など血管が閉塞し,そのあとに側副血行路が作られる場合があげられる。これらは血管新生がダメージを受けた組織の治癒を促進する。従って,1番目と2番目の場合には血管新生を抑制することが,また3番目のケースでは血管新生を促進することが病的状態の治療にたいへん重要である。」(11頁左欄1行ないし12頁左欄15行)
  「2.血管新生のプロセス
血管新生が起きるためには,次の4つのステップが必要である。すなわち,
①プロテアーゼによる血管の基底膜の消化
②血管内皮細胞の遊走

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③血管内皮細胞の増殖
④血管内皮細胞の分化による管腔形成と新しい基底膜の形成
である。・・・」(12頁左欄16ないし24行)
  「ただし,大きな血管由来の血管内皮細胞と比べ,毛細血管由来の内皮細胞はPDGF
・・receptorをもっており,さらに腫瘍組織由来の毛細血管内皮細胞はendosialinという特殊な糖鎖を発現しているなど,一口に血管内皮細胞といってもその性格に差がみられ,どのタイプの血管内皮細胞を用いるかでデータの解釈に違いが出てくる可能性がある。一方これらin vitroのアッセイ法に対し,ニワトリ卵漿尿膜やウサギ角膜にサンプルを接触させ,そのまわりに生じる血管新生を観察するin vivo の方法もある。さらに最近では目的の遺伝子を過剰発現させた,あるいは破壊した癌細胞をヌードマウスに移植し,その組織における血管新生を調べる手法もよく用いられる。in vitroの方法はシンプルでデータの解釈が容易なのに比べ,in vivo の方法は血管内皮細胞以外の細胞の影響を考慮しなければならず,データの解釈は複雑であるがより生体内での出来事に近いという利点がある。」(12頁右欄5ないし22行)
  「3.血管新生を調節する因子
血管新生はさまざまなポリペプチドや低分子量の生理活性物質によって調節されているが,なかでも最も重要な役割を果たしているものの中に,細胞増殖因子と呼ばれるポリペプチド群がある。これらのうちで,FGF・・・は最も古くから知られている強力な血管新生促進因子で,・・・中でもFGF-1であるaFGF・・・とFGF-2であるbFGF・・・の研究が最も進んでいる。この2つのFGFはその名のごとく線維芽細胞の増殖を促進するとともに,血管内皮細胞,血管平滑筋細胞をはじめ,前立腺や腎尿細管の上皮細胞などの増殖をも促進する細胞特異性に乏しい増殖因子である。FGFは,血管内皮細胞に対して増殖を促進するばかりでなく,plasminogen activatorcollagenase活性を促進させ,さらに遊走能やコラーゲンゲル内での管腔形成を刺激することから,典型的な血管新生促進因子であるといえる。またFGFは,ニワトリ卵やウサギ角膜を用いたin vivo のアッセイでも血管新生を促進することが認められている。・・・血管新生のさまざまなステップにおけるFGFの作用メカニズムには解明されるべき問題点が山積みされている。

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  VEGF・・・は,血管内皮細胞に特異的に作用する増殖因子で,その構造の類似点からPDGFファミリーの一員と考えられている。VEGFもFGFと同様に,血管内皮細胞の増殖およびプロテアーゼ産生を促進することが知られている。・・・この因子の面白いところは,その発現が細胞の虚血によって制御されていることである。従って,動脈が閉塞し,あるいは癌細胞が急速に増殖して組織の酸素分圧が低下するとVEGFは分泌され,血管新生を起こすことで組織の血流を増加させる方向へと進む。またVEGFを発現させた細胞はそれ自身が癌化することなく腫瘍様組織をヌードマウスに形成し,VEGFレセプターを発現できない血管内皮細胞の存在下では腫瘍の増殖は著しく抑制されることから,VEGFは腫瘍組織の増大に血管新生を介して大きな役割を果たしていることが考えられる。
HGF・・・はその名の示すように,はじめは肝実質細胞の増殖因子,肝再生因子として発見された。・・・HGFは血管内皮細胞にも作用して,in vitroで血管内皮細胞の増殖,遊走,浸潤,血管様構造の形成を促進し,in vivo でも血管新生を引き起こす。従って,HGFはFGFやVEGFとならんで血管新生因子の1つであると考えられる。・・・HGFのもつさまざまな機能と1つ1つのシグナル伝達物質との関連は不明であり,今後の展開を待つところである.
一方TGF-β・・・は,in vitroでは血管内皮細胞の増殖や遊走を抑制し,plasminogen activator inhibitor 産生を促進してplasminogen activator 活性を低下させることから,典型的な血管新生抑制因子と考えられる。・・・従ってこれらFGF,VEGF,HGFとTGF-βが血管新生に与える影響をまとめると図1のようになる。
ただしTGF-βの場合,in vivo では予想に反して血管新生は促進される。TGF-βにはマクロファージを動員する作用があり,このマクロファージの産生するTNF-α・・・などを介して血管新生が起こっている可能性がある。」(12頁右欄23行ないし14頁左欄34行)
  「おわりに
血管新生は生命の維持やさまざまな病態において,きわめて重要な現象である。近年の分子生物学,細胞生物学の著しい発展によって,血管新生のメカニズムにおいても分子レベルで

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解明されつつあるが,どのような病態でどの増殖因子が血管新生にかかわっているのか,また,in vivoin vitro での血管新生の差や,増殖因子のレセプターのシグナル伝達経路の問題など,まだまだ不明の点は多い。一般に増殖因子は細胞特異性に乏しくその分布も広範なことから,増殖因子の作用をブロックしたり,あるいは不足の増殖因子を補充することで治療に役立てるには,まだまだ道のりは遠い。今後のこの分野のさらなる発展に期待したい。」(14頁左欄35行ないし右欄7行)
  「FGF,VEGF,HGFは血管内皮細胞の増殖,遊走を促進し・・・血管新生を促進する方向へと作用する。」(13頁図1の説明文1ないし5行)

▼2  判断
上記1認定の事実に基づき判断する。
(1)
本願発明の特許請求の範囲の記載(請求項1)は,「加齢性黄斑変性の治療のための医薬の調製におけるhVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤の使用。」である。他方,本願明細書には,hVEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性に対し治療効果を有することを直接的に示す実施例等に基づく説明は一切存在しない(当事者間に争いがない)。
そこで,旧特許法36条4項の要件充足性の有無,すなわち,本願明細書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識を総合して,当業者において,本願発明を実施できる程度に明確かつ十分な記載ないし開示があると評価できるか否かについて,検討する。
  本願明細書には,年齢に関連する黄班変性(AMD) の滲出形態が,脈絡膜新血管新生及び網膜色素上皮細胞剥離に特徴づけられること,脈絡膜新血管新生は予後の劇的な悪化を伴うので,本願発明のVEGF拮抗剤は,AMDの重篤性の緩和において特に有用であると思われること(上記1(2) )が記載され,また,hVEGF拮抗剤の1種である抗hVEGFモノクローナル抗体が,血管内皮細胞の増殖活性を阻害し,腫瘍成長を阻害し,血管内皮細胞走行性を阻害することについての試験結果が示されている(同ク,ケ,サ)。


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  ところで,甲9は,本願の優先権主張日前の平成7年1月に公表された文献であって,血管新生のメカニズムや細胞増殖因子との関係等についての概要が説明されている(上記1(3) )。同文献には,病的状態に関連する血管新生は,「重症糖尿病網膜症,未熟児網膜症,尋常性乾鮮等の病的状態を作り出す血管新生」,「悪性腫瘍における血管新生のように,病的状態の進行に関与する血管新生」,及び「病的状態からの回復期に認められる血管新生」の3つのカテゴリーに分類して論じられること(同イ),血管新生は様々な物質によって調節されているが,血管新生を促進する重要な因子として,①VEGFばかりでなく,②FGF及び③HGF等のポリペプチドが存在すること,また,VEGFはその発現が細胞の虚血によって制御されており,動脈が閉塞し,あるいは癌細胞が急速に増殖して組織の酸素分圧が低下した場合にVEGFが分泌され,血管新生を引き起こすこと(同オ),さらに,血管新生のメカニズムは解明されつつあるが,どのような病態でどの増殖因子が血管新生にかかわっているのかについては不明な点が多いこと(同カ)が記載され,同記載内容は,本願の優先権主張日である平成7年3月30日当時には技術常識となっていたといえる。
加齢性黄斑変性の原因である脈絡膜での血管新生は,甲9記載の病的状態を作り出す血管新生のカテゴリーに属するものであるが,上記のとおり,甲9には,血管新生を促進する因子としては,FGFのみではなくVEGFやHGFが知られていたこと,血管新生のメカニズムは解明されつつあるものの,どのような病態でどの増殖因子が血管新生に関与しているかは不明な点が多い点が記載されている。
上記の記載に照らすならば,脈絡膜での血管新生がVEGFにより促進されるとの事項は,本願の優先権主張日当時に知られていたとはいえず,また,同事項が技術常識として確立していたともいえない。すなわち,甲9では,VEGFが血管新生を促進する因子であることは示されているものの,血管新生にVEGFのみが関与している点は明らかでなく,結局,どの増殖因子が原因であるかは不明であることから,甲9から,hVEGF拮抗剤でVEGFの作用を抑制しさえすれば,脈絡

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膜における血管新生が抑制できることを合理的に理解することはできない。
以上に照らすならば,本願発明(「加齢性黄斑変性の治療のための医薬の調製におけるhVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤の使用。」)の内容が,本願明細書における実施例その他の説明により,「hVEGF(ヒト血管内皮増殖因子)拮抗剤」を使用することによって,加齢性黄斑変性に対する治療効果があることを,実施例等その他合理的な根拠に基づいた説明がされることが必要となる。
しかし,前記のとおり,本願明細書には,hVEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性に対し治療効果を有することを示した実施例等に基づく説明等は一切存在しないから,本願明細書の記載が,本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものということができない。
したがって,旧特許法36条4項に規定する要件を満たしていないと判断した審決に誤りはない。

(2)
これに対し,原告は,本願明細書には,hVEGF拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用を裏付ける程度の記載がされていると主張する。しかし,原告の同主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,
  原告は,本願明細書には,加齢性黄斑変性が脈絡膜新血管新生によって特徴づけられることが明確に記載され,「脈絡膜新血管新生は予後の劇的な悪化を伴うので,本発明のVEGF拮抗剤は,AMD の重篤性の緩和において特に有用であると思われる」などと記載されていることから,当業者であれば,hVEGF拮抗剤が脈絡膜の血管新生を阻害することによって加齢性黄斑変性の治療に使用できることが理解できる旨を主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
前記のとおり,脈絡膜における血管新生にVEGFが関与していることは,本願の優先権主張日当時における技術常識として確立した事項ではなく,また,本願明細書には,この点を明らかにする試験結果等は何ら示されていない(上記(1) )。
この点,本願明細書には,脈絡膜の血管新生によって特徴付けられる加齢性黄斑

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変性の重篤性の緩和においてVEGF拮抗剤が特に有用であると思われるとの記載がある。しかし,同記載は,本件特許の出願時に知られていた血管新生を促進する3種の因子の1つであるVEGFの拮抗剤を,加齢性黄斑変性の治療に利用する可能性があるということを超えては,意味を有しない。前記のとおり,本願明細書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識を総合しても,脈絡膜における血管新生にVEGFが関与していることが何らの説明もされていない以上,同記載部分をもって,VEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性の治療に有効であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載であると解することはできない。
したがって,本願明細書の「脈絡膜新血管新生は予後の劇的な悪化を伴うので,本発明のVEGF拮抗剤は,AMD の重篤性の緩和において特に有用であると思われる」との記載部分により,当業者であれば,hVEGF拮抗剤が脈絡膜の血管新生を阻害することによって加齢性黄斑変性の治療に使用できると理解するとの原告の主張は,採用できない。
  原告は,本願明細書に,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,増殖活性,及び/または血管新生活性を阻害できたとする実験結果が示されていること,脈絡膜の血管新生では,血管内皮細胞が脈絡膜に移動し,そこで増殖して血管を新生するというプロセスが生じていることは,分子生物学分野での技術常識であること(甲9),血管内皮細胞の移動(遊走)はVEGFによる走行性活性,血管内皮細胞の増殖はVEGFによる細胞増殖活性,血管内皮細胞による血管新生はVEGFによる血管新生活性によるものであることに照らすならば,当業者であれば,本願明細書により,hVEGFによる走行性活性,増殖活性及び/又は血管新生活性をhVEGF拮抗剤で阻害すれば,内皮細胞による脈絡膜新血管新生が阻害され,加齢性黄斑変性を治療できることは,十分に理解できると主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
前記のとおり,脈絡膜における血管新生にVEGFが関与していることは,本願の優先権主張日当時における技術常識として確立した事項ではなく,また,本願明

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細書には,この点を明らかにする試験結果等は何ら示されていない(上記(1) )。
したがって,「発明の詳細な説明」において,本願明細書の記載及び本願の優先権主張日当時の技術常識を総合することにより,hVEGF拮抗剤が,VEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性の治療に有効であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分な情報が記載されたものと解することはできない。
したがって,原告の上記主張は前提を欠くものである。
  原告は,本願明細書の実施例1ないし6は,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,増殖活性,及び/または血管新生活性を阻害できたことを明確にする実験結果であり,同記載をもって,VEGF拮抗剤が加齢性黄斑変性の治療に有効であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものと理解できると主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
実施例2E(上記1(1) )には,ウェルに接種された血管内皮細胞がhVEGFの存在下で増殖する活性を抗hVEGFモノクローナル抗体が抑制することが示されている。しかし,同実験で使用された血管内皮細胞はウシ副腎皮質の毛細血管内皮細胞であって,脈絡膜の血管内皮細胞とは異なるから,同実験が,脈絡膜における血管新生の抑制を示すものとはいえない。
実施例4(上記1(2) )には,腫瘍細胞が移植されたマウスにおける腫瘍の成長を抗hVEGFモノクローナル抗体が抑制することが示され,実施例5(上記1
(2)
)には,ウェルに接種された腫瘍細胞に抗hVEGFモノクローナル抗体を加えて培養しても,腫瘍細胞の成長は抑制されなかったことが示されている。しかし,これらの実験は腫瘍細胞であってヒトグリオーマ,ヒト横紋筋肉腫及び平滑筋肉腫を使用したものである。これら腫瘍細胞おける血管新生が抗hVEGFモノクローナル抗体によって抑制されていることが示されているとはいえるが,脈絡膜における血管新生の抑制が示されているとはいえない。
実施例6(上記1(2) )には,関節リウマチの骨液及び変形性関節症の骨液の

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ヒトへそ血管内皮細胞の走行性に対する影響を,抗hVEGFモノクローナル抗体の有無で確認し,関節リウマチの骨液に抗hVEGF抗体を加えた場合,ヒトへそ血管内皮細胞の走行性が抑制されたことが示されている。しかし,同実験で使用された血管内皮細胞はヒトへそ血管内皮細胞であって,脈絡膜の血管内皮細胞ではないから,同実験が,脈絡膜における血管新生の抑制を示すものとはいえない。
以上のとおり,本願明細書の実施例は,これらの実験で使用された血管内皮細胞の増殖活性若しくは走行活性,又は腫瘍細胞の血管新生にVEGFが関与することが示されるとはいえるものの,VEGFの脈絡膜における血管新生に対する作用を示すものではない。上記実施例により,脈絡膜における血管新生とVEGFの関係を示したとはいえない。
したがって,本願明細書に,hVEGF拮抗剤がhVEGFによる走行性活性,増殖活性,及び/または血管新生活性を阻害できたとことに関する実施例が記載されていても,同実施例から,hVEGF拮抗剤の加齢性黄斑変性に対する治療作用が裏付けられたとはいえず,原告の主張は採用できない。

▼3  小括
以上のとおり,旧特許法36条4項に規定する要件を充足していないとした審決の判断には誤りはないから,その余の審決の当否を判断するまでもなく,原告の取消事由に係る主張は採用できない。原告は,他に縷々主張するが,いずれも理由がない。

◆第5  結論
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部

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裁判長裁判官 飯村敏明裁判官 池下朗裁判官 武宮英子
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